ARMORED CORE LAST RAVEN ~Unsung Overture~   作:唯名瞬

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第23話「Regret」

 納得いかないという気持ちを押し殺した様な表情。それが自分を見下ろしている。

 マホガニーのデスクに座るディーネル大佐は正面に立つジェランの顔を見て率直にそう思った。

 気持ちは分からなくもない。

 確かにアライアンス全体ではあの作戦はほぼ成功に近い。だが、ジェランに課せられたミッションは失敗であったというのは否めない。それはジェラン自身が痛感しているのはその表情ではっきりと見て取れた。

 

 「──俺の責任だ」

 

 暫くの沈黙を置いて開いた口から出たのは自責の言葉。自信を喪失した者特有のか細い声だ。この男もただの人間になる時があるのかという意外さをディーネル大佐は感じ取った。同時に失望めいたものも湧き上がる。

 

 「敵ACを討てず、部下を3名も失ってしまった。そして機体はあのザマだ。責任は取る──」

 「それ以上はいい」

 

 更に言葉を出そうとするジェランを遮ってディーネル大佐は声を出す。

 

 「今回の作戦の結果についてはデブリーフィングで全て聞いた通りだ。君はここで意味のない反省の弁を延々と私に聞かせる気か?」

 

 大佐の言葉にジェランはハッとした顔した後、口を閉ざして一歩下がる。

 

 「別に君が向かったルートだけではない。Bルート及びJルートでも同様にバーテックスのACと交戦の末、特務部隊所属機が損傷または撃破されている。確かに損害が少なければベストではあったが、本来の目標である本隊の合流はしっかりと完遂されており、バーテックスの戦力を損耗させるという目的も一定の成果を得られた。問題はない」

 「だが……」

 「こういう事はいずれ起きると覚悟はしている。君もそうだろう。損失した機体及びパイロットの補充の手続きは現在進めている。これ以上私からは言えることは無いよ」

 「……」

 

 開きかけた口から言葉を飲み込もうとするジェランの表情の変化を見て、大佐は先程感じた失望の意味が少し分かった気がした。ジェランは軍人になり切ろうとしているのだ。立場として弁えているのは良いとしても、レイヴンとしての本質も無理に引っ込めておくことは無い。慣れない立ち振る舞いを付け焼刃の様にしていてもそれが良い結果には繋がらない。

 

 「君としては確かに納得いかないだろう。軍人としてもレイヴンとしてもあの結果は確かに消化不良な幕引きだ」

 「あの機体に乗るレイヴンに敗れた事で俺がここに居るきっかけになったようなものだ。俺の中にあった未練に対してケリをつけておきたかったという気持ちがあったと思う」

 「そうか。その言葉は最初に聞いておきたかった。見栄を張る時は結構顔に出るものだな、君も」

 

 そう言って大佐は端末の画面に目を通す。そこにはジェランが交戦したレイヴンの情報が表示されていた。

 

 「レイヴンネーム『ヴィラス』。搭乗機名は<ヴェスペロ>。約1年前にレイヴンに登録。ミラージュ領のアリーナに所属し、瞬く間に総合ランキングを中位クラスまでに上り詰めた新進気鋭のレイヴン……か。流石にそこから先は上位陣の壁に阻まれていたようだが、腕は悪くない方だろう」

 「これから上がっていく可能性のあったレイヴンだってことか」

 

 ジェランの眉間が引きつるのが見えた。自分よりも若いレイヴンに敗れたという事を今知ったらしいと大佐は察する。

 

 「世間の評価はそうらしいな。実際、この半年間を生き抜いている。それだけで十分評価に値するよ。実はこのレイヴンにも君と面会した同じ頃に特務部隊への勧誘のメールを出してみたが、筆不精なのか、単に興味が無かったのか……返事は返ってこなかった」

 「もし、奴が来ていたらどうしていた?」

 「君と同様、特務部隊のいち隊員として迎え入れるだけだよ。そしてアライアンスの為に戦ってもらう。その質問に意味はあるのかね?」

 「……いや、無かったな。ただ頭に浮かんだ言葉がそのまま口に出てしまった」

 

 大佐の視線から逃れる様にジェランは応対用のソファに座り込む。少しの間の沈黙はそのレイヴンに対する何か感情めいたものが伺えた。それは恐らく怒りや妬みなどといった負の感情であろうと大佐は想像つく。

 

 「君のやるべき事は」と大佐は一呼吸置いた。「任務を遂行し、無事に帰還し、アライアンスの勝利に貢献する。単純なことだ。そこはレイヴン時代と変わりない。もし、隊長の責務に荷が重いと感じているのならそう申告したまえ」

 

 その言葉にジェランは大きく深呼吸をしてソファに身を預けた。

 

 「大丈夫だ、大佐。少しナーバスになっていたようだ。あの戦闘の結果の原因を自分の身体の変化による違和感だとか余計なところに転嫁しようとしていた。結局のところ俺自身の技術やメンタルを含む問題だ。そこは割り切る」

 

 ディーネル大佐を見据えてジェランは言い放った。多少はすっきりしたのか、その表情は先程より晴れている様に大佐は伺えた。

 

 「そうであれば良い。まあ、強化手術後の初の実戦参加だ。多少の無理はあっただろう。身体はしっかりと慣らしておきたまえ。あの手術には結構金も掛かっている。安易に君を喪うわけにもいかない」

 

 大佐はそう言い放った時、自身の端末に通知が入る。

 

 「新型を載せた輸送機が到着した。ジェラン、君も見ていくか?」

 「新型? ACか」

 「そうだ」と大佐は頷く。「君が手術を受けている間に本部から新型機を送るという話があった。戦力の補充だよ」

 「ACなら見ておきたい」

 

 ディーネル大佐は立ち上がると、「君ならそう言うと思ったよ」と言ってジェランの肩を叩く。部屋を出て行く大佐にジェランも後についていく。

 格納庫に着くと、新型機は丁度、待機ブースに降ろされている最中であった。搬入された機体は3機。既に組み上がってはいるが、まだ機体の各部品には保護シートが掛けられており、いかにも工場から出たばかりという感じであった。

 機体タイプは軽量二脚型、重量二脚型、四脚型。

 

 「全機の特長としては先の紛争末期からアライアンス結成後に開発されたパーツを中心に組まれている。判り易いのは各機体の頭部だな。軽量級には<H20-FIREFLY>。重量級には<YH18-SCARAB>。四脚型には<YH16-DYNASTES>。いずれもミラージュ製の新型だ。既存のパーツも合わせてチューンされていると聞く」

 

 機体を見上げながらディーネル大佐は説明をする。各機体のフレームパーツと武器には新型が使われている。その中にはジェランが知らないパーツがいくつか見られた。

 

 「性能は良いんだろうな?」

 「粗悪品を造っていたわけではあるまい。スペック表を見る限り、性能は確かなものだ。実働テストの結果も良好だな」

 「それだけでは判断できない。スペック表など参考程度にしかならないだろう」

 「それは私も同意見だ。そしてその為の我々だ。これを実際に運用するのはACパイロットであり、レイヴンでもある」

 

 固定作業が終わり、新型機は整備ブースへと降りていく。それを見た大佐とジェランはエレベータに向かい、整備ブースのある地下へ向かう。

 

 「3機の内、1機を君に預けようと思う。君の乗機が損傷しているから丁度いいだろう」

 「俺に新型のテストをやれというのか?」

 「新型パーツのデータ取りや実戦テストはレイヴンが請ける任務でも多々ある事だ。それだと思えばいい」

 

 ジェランの反応を楽しむかのようにディーネル大佐は小さく笑いながら答える。だが、それはジェランにとってあまり面白い話では無かった。

 

 「その手の依頼はあまり実入りが無かった記憶しかない」

 「既存パーツのアップデート程度では少ないだろう。私がルーキーだった頃は企業間の開発競争が激しかったおかげでリスクが少ないかつ良い収入を得られるおいしい依頼だった。お土産代わりに貰える時もあったしな」

 

 機体に掛けられていた保護シートが全て取り払われた。すべてが露わになった機体はまだ無塗装の状態で、頭部カメラアイの無機質な視線が2人を見下ろしている。

 

 「重量二脚型を俺が預かろう。一番慣れているタイプだ」

 

 物言わぬ巨人の視線を睨み返しながらジェランは答えた。

 

 「──受領書をあとで寄こそう。君のサインが入ったものを整備班へ渡してくれ。それであの機体は正式に君の物になる。好きに使いたまえ」

 「俺の裁量で弄れるのか」

 「あの機体はACだ。状況によってパーツの入れ替えは問題ない。まあ、極力新型を使うようにしてくれれば文句は無い筈だろう。これも任務の内だ。良質なデータを得られれば、開発部も喜ぶ」

 「新型を好きに使える。これもアライアンスの特権というモノだろう。そうだな、開発部の連中も満足させてやれるデータくらいは持ってこさせよう」

 

 機体を眺めながらジェランは言い放つ。無表情ではあったが、その言葉には本来持っていたであろう自信が伺えたように聞こえた。

 

 

    *     *     *

 

 (やってしまったな……)

 

 後悔。それが今、車の外で両手を上げて立っているクリフの心の中に出ている言葉であった。

 視線の先にはライフルを構えている複数の兵士の姿。銃口はしっかりとクリフとフライボーイの胸を捉えている。

 着いた先の街で既に輸送機が発ってしまったという情報を知り、次に来るのを待たずに南下するという判断をしたが、それが良くなかった。夜間の走行で街道からいつの間にか外れてしまい、気が付けばMTと装甲車に囲まれてこの有様になってしまった。

 どこの武装組織かは分からないが、バーテックスでは無いというのは分かる。暗がりのなか装甲車のヘッドライトの灯りで微かに浮かぶMTのエンブレムはバーテックスのものではない。

 隣にいるフライボーイを横目で見てみる。クリフと同様の恰好をしているが、その表情には焦りや怯え、などといったものはなく、泰然自若にただ手を上げているだけの様に見えた。そこは流石にレイヴンだなとクリフは思う。

 

 「抵抗するような素振りさえしなければ命までは取らんよ。ただ、ここを通ったのは運が悪かったな」

 

 2人の視界の奥からパイロットスーツに身を包んだ男が現れた。短く刈り上げた赤茶の髪に浅黒い肌。小柄であるが、パイロットスーツ越しでも判る位に鍛え上げられた体躯をしている。単なるチンピラといった輩ではない。恐らく元軍人あたりだろう。

 

 「我々のテリトリーに入ってきたんだ。話は聞かせてもらわなければならない」

 

 警戒感の強い声。此処は彼らの勢力圏だったのかと気が付く。ただ勝手に決まっているだけではあるが。

 この男がリーダーなのだろう。この様子であれば、しっかりと話せばすぐに解放されるかもしれない。立ち回りさえ間違えなければ大丈夫だという安心感はあった。

 

 「お前たちは何者だ? 見ところただの民間人……ってことは無さそうだが」

 

 一歩進んで男が聞いてきた。察しが良いなと内心思いながら、その顔にクリフはどこかで見た様な気がしたが、すぐには思い出せない。まずは質問に答える事にした。考えるのはその後だ。

 

 「クリフ・オーランド。リサーチャーをやっている。あー……で、隣のヤツは……」

 「私はジョニー・バーダー。彼のアシスタントをしている」

 

 フライボーイはさらりとそう言い放った。適当にやり過ごさせようとしたクリフだったが、その言葉に一瞬だけあっけに取られてしまった。

 後ろにいた兵士たちが少しざわつく。リサーチャーという言葉は彼らにとっては少々デリケートなものだろう。中には銃口を向けたまま近づいてきた者もいる。そんな彼らを男は手を振って落ち着かせた。

 

 「リサーチャーか、正直で結構。だが、ここらをうろつかれると厄介な人種ではあるな。ここで何していた?」

 

 男の声が低くなる。腰のホルスターに手を当てているのが見えた。背筋に冷たいものが走る。

 

 「依頼を終えた帰り道でね。道に迷ってここに入ってしまった。本当だ」

 

 ホルスターに当てている手は離れていない。その返答だけでは警戒は解いてはくれないという事か。

 

 「依頼?」

 「あるレイヴンについての調査さ」フライボーイが口を開く。「そのレイヴンの動向について色々と調べていたんだ。まあ、ある程度は答えが出てきてくれたので、首尾は上々といったところかもしれないね」

 

 淡々と答えるフライボーイ。次の瞬間、男がホルスターから銃を抜いてフライボーイに銃口を向けた。マズい、とクリフの心臓が大きく跳ね上がる。

 

 「君には聞いていないぞ、アシスタント君。態度には少し気を付けた方がいい。トリガーには今、指が掛かっている」

 「すまない。こういう時の対応の仕方が分からなくてね。今度はあなたから尋ねて来た時にだけ返答するとしよう」

 「フン……」

 

 手を上げながら頭を下げるフライボーイを見て、男は2人を交互に見据えて頷く。銃口まだ向けられている。何を考えているんだとクリフは内心怯えた。だが、次に男が開いた言葉は意外なものであった。

 

 「良い度胸をしている。こんな状態でも怯えが無い。──そのアシスタント君の肝の強さに免じて許そう。リサーチャー。君に調べ物をしてもらいたい」

 

 最悪の状況を考えてしまっていて、その言葉の意味を飲み込むのに少し時間が掛かったが、これは調査依頼だとクリフは理解した。

 

 「……分かった。受けよう。受けさせてもらう。で、調査対象は何だい?」

 

 上擦った声でクリフは答える。「ノー」という返答をすれば男は手に持っている銃を間違いなく撃つだろうという確信はクリフにはあった。

 

 「ここで喋るよりもじっくりと話せる場所であらためるとしようか、リサーチャー。足が震えていては話も碌に聞けないだろう」

 

 いつの間にか銃口は下ろされていた。それを見てクリフは全身の力が一気に抜けてへたり込みそうになる。相当な緊張状態だったらしい。咄嗟にフライボーイが支えてくれなければ倒れていただろう。

 

 「落ち着いたら我々に付いてくるんだ。一応ナビゲーターも同乗させておく」

 

 男はそう言って兵士を1人呼び出してクリフの車に乗せた。ナビゲーターと言いつつも見張りも兼ねているのだろう。小柄な女性兵士だが、彼女もまた鍛え上げられた体躯をしている。手にはしっかりとライフルが握られていた。

 

 「もう大丈夫だ。運転は出来るかい?」とフライボーイ。

 「ああ……ああ……多分大丈夫だ。──いや、ちょっと待ってくれ……」

 

 クリフは両脚の太ももを数回叩いて大きく深呼吸する。

 「なんて日だ!」と大きく叫びたがったが、今はそんな気力も湧いてこず、心の中で留めておく事にした。そして胸ポケットから取り出した煙草を咥えて車に乗り込んだ。

 

 

 1時間ほど車を走らせてようやく彼らのねぐらに着いた。ルートを悟らせない為か時折大きく迂回させるような事もあったが、ナビゲーターのお蔭で迷う事はほぼ無かった。

 随分昔に閉鎖された軍事基地を利用している様だった。所々痛みが見受けられる古い構造の建屋には幾つもの補修跡がやけに目立って見えた。

 車を格納庫に移すと、既に駐機していた<MT09ROE-OWL>からリーダーの男が降りてくるのが見えた。その機体の左肩には日の出のエンブレムが付けられており、修理したからだろう、左腕の塗装が施されていない箇所がある。

 

 「先日、レイヴンとの戦闘で破壊された。最近は台所事情が厳しくてな。戦場で拾ってきたのを動かせる状態にしてくっつけた。予備パーツの節約の為に稼働が出来なくなった機体から再利用したりしてやりくりしているが、このままいけば更なる共食い整備もありうる」

 

 そう言いながら男は2人を案内する。駐機されているのはリーダー機を含めて<MT09-OWL>の系列機が11機。他にも<CR-MT85>系列機が20機に<CR-MT77M>と<MT08-OSTRICH>もそれぞれ8機置いてあった。その内1機はクリフの見覚えがある形であった。

 そして奥の整備台で寝かされているACが1機。中量二脚型だ。

 

 「動かすことは出来るが、問題は予備のパーツが全く無い。損傷すればもう動かせなくなる。虎の子の1機ってヤツだ」

 

 2人の視線がACに向いている事を察した男が説明してくれた。兵器に関してはある程度充実している様だ。

 

 「乗り手はいるのか」とフライボーイ。

 

 「いざという時は俺が乗る。ACの操縦も一応は出来るからな」

 

 格納庫を抜け、基地建屋内に入るとブリーフィングルームに通される。中には数名の兵士が座っており、彼らの目はまだクリフたちを警戒しているという感じで剣呑としていた。

 2人は促されながら部屋の中央にあるテーブルにつく。対面にはリーダーの男。兵士たちに囲まれている状態。居心地は良いとは言えない。

 

 「自己紹介がまだだったな。我々は”レナシミエント”。そして俺はここのリーダーを務めているロドリゴ・グラナドスだ。よろしくな」

 

 ロドリゴと名乗ったリーダーはそう言ってグローブを外し、右手を差し出してきた。それにクリフとフライボーイはそれぞれ握り返す。ゴツゴツとした手の感触は間違いなく長い事パイロットをしてきた者の手であると2人は確信できた。

 

 「良いタイミングというべきか、リサーチャー辺りを雇ってみようか考えていたところだった。今抱えている問題は俺たちでやるよりもそちらの方が適任だろう」

 「その問題っていうのは」

 「何から話せばいいのか。……そうだな、これを見てもらおうか」

 

 ロドリゴはテーブルの上に置いてあった端末を操作して壁際に設置されていたモニターに地図を出す。地形からしてこの基地周辺なのだろう。

 

 「ここが俺たちの基地でこの周辺を勢力圏としている。で、南にはユーグ解放戦線が。西に二月同盟がそれぞれ勢力圏争いをしていた。まあ、ここ最近は他所からちょっかいを掛けてくる連中もいるが、大体はこの2つだった」

 「今は違うっていうのかい?」とクリフ。「ここ最近の武装勢力の動向はコロコロと変わって目まぐるしいからな。状況が読み辛くてかなわないんだ」

 「今は休戦協定を結んで、互いに極力干渉しないようにしている。調査してほしいものが原因だからだ」

 「ここからが本題ってことか」

 「理由はこの地域にある」

 

 ロドリゴは地図のある地点を差した。東に位置する小さな街だ。

 

 「旧キサラギ管轄の街だったメイシュウシティだ。ここにもアルバトロスという連中がその周辺を根城にしていた」

 「していた……。今は?」

 「分からん。というのが現状だ」とフライボーイの言葉にロドリゴはそう言って頭を振ってから少し俯く。「2週間前くらいか……バーテックスが現れて暫くの後だ。連中の動きが急に無くなった。何の前触れもなくな」

 「バーテックスに合流したとかじゃないだろうな。でも、合流した勢力にそいつらの名は無かった筈だし、合流したという情報も今のところ聞いていないが……」

 「最初はそういう事情で消えたものだと思っていたが、そうではないらしい。奴らの根城周辺に近づくと攻撃を仕掛けて来た。もちろん、他の勢力に対しても同様にな。そして不可解なのは彼らの戦力だ」

 

 モニターに写真が表示される。そこには飛翔する<MT10-BAT>の姿。

 

 「随分と高級なモンを使っているな。アライアンスに所属している機体以外では滅多に拝めない」

 「ああ、それも複数持っているのも確認している。動きが変わった以前に使っていたのは主に<CR-MT85>系列だった」

 「そのアルバトロスという組織ではなくなっているのかもしれないな。話を聞く限りだと私にはそう感じる」

 「確かにフラ……ジョニーの考えの可能性は大いにあるな。この組織の規模ってそんな高級機を維持できる程の金も設備も持っていないだろう。──消された。もしくは乗っ取られたなんてことも有り得る」

 「では、どこにだ?」

 「それを含めて現状を調べる……それが俺らの仕事って事だろ?」

 

 クリフはロドリゴの目を見据えて言った。それにロドリゴは小さく頷く。

 

 「何であれ、あの地域に危険要素が大いにある。これは我々にとっては死活問題だ。その要因の調査を依頼させてもらう」

 「他の組織はどうしているんだい? 静観しているのか」

 「そこまでは俺にも分からない。休戦しているからといって仲良くした訳ではないからな」

 「あちらさんも同じ事、もしくはもっと直接的な事を考えているかもしれないぞ。レイヴン雇って殴り込みとかな」

 「それはそれでアリかもしれない。そうなってしまおうとも向こうの勝手だが、我々はリスクが少ないと思った方を選んだだけだ」

 

 ロドリゴは立ち上がる。話は終わりだという事だ。クリフたちも立ち上がると後ろに居た兵士2人が両脇に近づく。

 

 「この基地の一部屋を貸す。そこで仕事してくれ」

 「端末は返してくれよ。裸一貫じゃ仕事は出来ない」

 「分かった。それは返すとしよう。ただし、君たちが持っていた武器だけは依頼が終わるまで預からせてくれ」

 

 少し申し訳なさそうな表情を浮かべてロドリゴは部屋から去っていく。それを見届けると、クリフたちも兵士に連れられて部屋を出た。

 

 

 兵舎の一角の部屋に案内され、そこで一息つく。暫くしてクリフが使っている端末を渡された。

 

 「とりあえず、仕事を始めるとしようか」

 

 端末の電源を入れると、クリフは敢えて意識して大きめの溜息を吐く。そして暫しの沈黙。

 

 「……すまねぇ……巻き込んでしまった。道が外れている事にもっと早く気が付いていれば……」

 

 ようやく出した言葉には力が無い。それをフライボーイは壁に寄り掛かって義手の動きを確かめながら聞いている。

 

 「街に留まらずに南下するのを提案したのは私だ。責めるつもりは無いよ。けど、向こうは大胆な手段で依頼をしてくれたな。こういう事ってよくあるのかい?」

 さほど気にしていないといった様子でフライボーイは義手を振って応えた。

 

 「無いよ。……いや、一度だけあったな」

 「そうなのか?」

 「依頼を終えた後に一息つこうとした俺の所へACで直接乗り込んできた奴がいた。それが唯一の事例だ」

 「私かい」と苦笑いするフライボーイ。「ま、あんな事はもう無いだろうな。リサーチャーとのコネが無かったからああいう強硬手段でいけたんだ」

 「あんな事は二度とゴメンだ。実際、チビッたんだぞ。ACの恫喝力っていうのはお前が思っている以上にあるんだ」

 「驚かす意図は無かった。本当だ。悪かったよ」

 「しかしまあ、よく思い付いたな。俺のアシスタントだなんて。お前の事をどうやって取り繕うか考えていたんだぜ」

 「この状況でならレイヴンだって言うよりは嘘でも君のアシスタントって言っておいた方が無難だし、彼らへ変に刺激を与えないだろう。で、そんな事よりも分かりそうなのかい? その怪しい連中の正体って」

 

 クリフは起動した端末を操作しながらその問いに対する答えを考え出す。端末の画面にはクリフがこれまで調べ上げた調査内容のデータベースが表示されている。この中に答えがあるかは分からない。

 

 「さあてね。アイツらから貰った写真からだけでは、まだ正体なんか掴めんよ」とクリフは水筒に口を付けて肩をすくめた。「──出来るか否かはこれから決める」

 

 端末の画面にマップが表示される。そこにクリフがキー操作すると、マップが青と赤に染まっていく。

 

 「青がアライアンスの勢力圏。赤がバーテックスだ。で、俺らが今いるところがこんな感じだ」

 

 マップが現在地付近へ拡大されると、そこには様々な色が重なり合っており、奇妙な模様を描いていた。

 

 「ご覧の通り、勢力圏はごちゃごちゃのカオス状態だ。今この瞬間も流動的に変わっている。なんせ、アライアンス本部はもとより、サークシティからも離れているからな。バーテックスもそんなに茶々は入れてこない。連中の目標はアライアンス本部とはっきり目指している。一応治安維持の為にアライアンスが動いているってとこだ」

 

 クリフが指差す先はアライアンスの勢力圏がまばらに色付けられている。完全に勢力圏にしている訳では無かった。

 

 「これだけを見ると、今の状況からして素人目線だが、このアルバトロスという組織にはアライアンスが絡んでいそうな気がするというのは短絡かな。この地域を纏める為に一枚噛んでいるって感じで」

 「それも可能性としてアリだな。<MT10-BAT>なんて高級機、持つことが出来るのはアライアンス。後はバーテックス程の規模じゃなきゃ持つのはともかく、維持するのも難しい。そういう規模のデカい組織がバックに付いたっていうのは別に不自然じゃない……っと、アルバトロスの情報がヒットしたぞ」

 

 「どんな組織なんだ」とフライボーイが身を乗り出す。

 

 「典型的な反企業体制のテロ組織だ。分裂や吸収こそ繰り返してはいるが、割と古株の組織だな。規模も中々あった。ナービス領での紛争の頃は鳴りを潜めていたが、ちょこちょこと企業関連の施設への攻撃をしては逃げての繰り返しはしていた。アライアンス発足後も同じ調子でやっていた様だが、そんな事をしている場合じゃ無くなってきたんだろう。縄張り争いの方に熱を入れてきたのかもしれねぇな」

 

 端末の画面には海鳥をモチーフにしたエンブレムとそれを付けた複数のMTの写真が映し出されていた。

 

 「確かにここ最近、武装勢力同士のドンパチが増えたというのは聞いている。しかし、彼らも仲良くは出来ないもんだね」

 「似た様な主義主張を掲げても、根底に持っているモノが違えばぶつかるもんさ。それに全部の組織が純粋に反アライアンスを掲げている訳じゃないからな。みんなで仲良くアライアンス打倒なんて実質不可能に近い」

 

 端末のキーを叩きながらクリフは答える。仕事柄この半年の間に様々な組織を見てきた。アライアンス打倒を掲げる者、自分たちの居場所を守る者もいれば、この混乱に乗じて単に暴れたいだけの者もいる。

 混沌の極み。それが今の世界だ。そして、その元は前の紛争が勃発する以前、新資源の発掘が発表された辺り。そこから世界は混沌へ向かう速度が速くなったのだとクリフはそう考えていた。

 

 「ちょっと昔になるが、この組織の戦力に関するデータも出て来たぜ。見てみるかい」とクリフは端末の画面をフライボーイに見せる。「まあ、大体予想通りだ」

 

 画面に表示される画像を見てフライボーイは「なるほどね」といって頷いてみせる。

 

 「ロドリゴの言った通り、85型(CR-MT85)77型(CR-MT77)の系列機に、戦闘ヘリとガードメカがそこそこってとこだ。調達が比較的容易なクレスト製の兵器を中心に装備を固めている。ミラージュ製は一切使っていねぇ」

 「確かにそんな組織がいきなりミラージュ製なんて使いだすなんてやや不自然か、ということはやはりアライアンスか……」

 「まあ、まだ決めつけるのは早いな。道にたまたま落ちていたモノを拾ったのかもしれないし、はたまたどこかの優しい大富豪が恵んでくれたなんて事も有り得るかもしれん」

 

 そこに気の抜けた様なアラーム音が端末から響く。

 

 「MTの画像を見やすくしてみたが……確認出来ねぇか」

 

 画面には補正ソフトで拡大された<MT10-BAT>の画像が表示される。最初に提示されたモノよりもディテールははっきりと見えた。

 

 「せめてエンブレムくらいは分からねぇかなってダメもとでやってみたが、この感じだと何も付けて無さそうだ」

 「何も見えないね」

 「補正を掛けた画像だから細かいのは消えているのかもしれないが、所属を示すものくらいであれば少しは形で見える筈なんだけどなぁ……アイツらにも一応シンボルがあるんだが、この機体には見当たらない」

 「はじめから付けていない。とかじゃないだろうな」フライボーイが画像を指でコツコツと叩く。「所属とかを悟られない様にそういう類のものを隠す。後ろめたい事をやっている連中の常套手段だろ」

 「確かに、最近確認されている連中の行動は外へというよりもあの街の中でコソコソと何かやっているって感じだから、そういう事を踏まえれば、この機体はアルバトロスという組織の所属機ではないかもしれないな」

 

 画面に映るMTの画像を見ながら2人は呻く。飛翔しているMTの姿が不気味に見えてくる。見慣れている筈なのにな、とクリフは思うが、正体が分からぬ者へ対する畏れの心理なのかもしれない。頭部のカメラアイの光沢だけが妙に強調されていて2人を威嚇している様にも見えてきた。

 

 「けど、やはりこれだけじゃ限界はあるな。正体はもとより、目的も分からねぇ」

 

 画面から先に目を逸らしたのはクリフだった。黙って画面と睨めっこをしても答えはこれ以上出てこないと分かっている。どうすればいいのか次の手を考える。気持ちを切り替えようと胸ポケットに手を入れるが、煙草の箱の中身が空であることに気が付いた。

 

 

 一通りの作業が終わったことを部屋の外に居た兵士に伝えるとブリーフィングルームに来るように言われた。

 ブリーフィングルームに向かうまでの間、2人の前後には銃を持った兵士がついている。逃げるつもりは全くないが、やけにピリついているなとクリフは思った。そしてこれは部外者である自分たちがいるからだというだけでは無さそうな気もする。

 ブリーフィングルームの前に着くと、中からパイロットスーツを着た兵士が数名出てくる。彼らはクリフたちに目もくれず廊下を小走りに去っていった。

 彼らが小さいながらも口にした声に「協定」という言葉が入っていた事を聞き逃さなかった。そして走り去っていく際に見えた表情は皆強張っている様に見えたのは気のせいでは無いだろう。部屋には作業用つなぎを身に着けたロドリゴの姿。その表情は部屋を出て行ったパイロットたちと同様に強張っていた。

 

 「来たか。結果を聞かせてもらおうか。リサーチャー」

 

 2人に気が付いたロドリゴは表情を緩め、テーブルに着くように促す。それでも先程までブリーフィングルームに漂っていた刺々しい空気は消しきれていない。ここでどんなやり取りが行われていたかは知らないが穏やかな事柄では無いだろう。クリフはそれとなく尋ねてみる事にした。

 

 「何かあったのか? さっき出て行ったのはMTパイロットだろ? 皆、妙に緊張していたように見えたが……」

 「すまないが……それは今、君たちには関係無い事だ」

 

 クリフの問いにロドリゴは即座に返して言い切った。この問いに答える気はないし、余計な事を聞くなという圧力が言葉から滲み出てきている。関係無い事。それは自分たちには及ばない何か重要な事を行うつもりだと察するくらいしかクリフには出来なかった。

 「そうか」と小さく呟きながらクリフは端末をテーブルに置き、モニターへ接続させた。

 

 「これが、成果か」

 

 ブリーフィングルームのモニターを眺めながらロドリゴは呟く。その口調と表情からは満足しているのか否かは対面に座る2人にはまだ読めない。

 あれから2時間程、クリフはあるだけの資料を基に調査結果を纏めてみたが、確定した情報を得るまでには至らなかった。その為、今モニターに表示させているのは現時点で得られた仮定の情報。渡すモノとしてはやや不十分ではある。

 

 「これが今やれる限界だ。なんせ情報量が少なすぎて、そちらから貰った資料とこの時間で纏められるのはこれで精一杯だった」

 

 クリフはロドリゴの顔を見据えて事実を述べる。偽りのない結果を述べなければ彼を納得させられないだろう。

 

 「情報としては不確定要素がやや多いか……」

 

 モニターを見返してロドリゴが僅かに首を振ったのが見えた。その意図をクリフは探ろうとするも、それは無用と考えて、用意していた言葉を出す。

 

 「そちらに選択肢はある。これを基に後は好きにしてもらうか。もうひとつは俺たちに任せて更に確定させた情報を得るかだ」

 

 ロドリゴがクリフのその言葉に反応して「ほう……」と口元を歪める。

 

 「俺たちと交渉するつもりなのか?」

 

 隣に座る副官と思しき人物が少し前のめりになって言葉を出した。

 

 「俺らで今出来る分の仕事はした。さっきも言ったが、時間も提供してくれた情報も足りない。もう少し時間をくれれば、より良い情報を得られる可能性が高くなるって事さ」

 「確かに我々で用意した情報は断片的過ぎて君たちには難しい作業を強いてしまったのは否めない」

 

 テーブルの上で両手の指を絡ませながらロドリゴは思案している。その後、副官と言葉を交わすが、対面までには聞こえてこない声だった。どの様なアクションに出るかは暫く待つしかない。

 

 「どこまで出来る?」

 

 正面を見据えたロドリゴが尋ねてきた。言葉からして後者を選んだとクリフは確信した。

 

 「そちらに提供できる情報は残っているのか?」

 「残念ながらあれが全てだ。これ以上は無い」

 「じゃあ、やれる事は直接見てくる位になりそうだな」

 「どうやって行く? まさか乗り込むつもりか」

 

 「無謀だぞ」と付け加えて言ったロドリゴに対してクリフは手を横に振って否定の意思を示す。

 

 「いや、そこまではしない。格納庫にオストリッチ(MT08-OSTRICH)があるだろ。そのうち1機は偵察用だったよな。それを借りたい」

 「強行偵察のつもりか。それも難しいぞ」

 「危ない橋は渡らない。連中が向かって来る境界線ギリギリの所から覗き見をして、可能な限りの情報を拾って来る」

 「何が分かるというのだ?」副官が訝しげに聞いてきた。「それを聞かせてもらわないと判断は出来ない」

 「向こう側で動いている兵力の詳細。それと街の外観だな。少し古いが、メイシュウシティの航空写真等の外観に関する資料はこっちで手に入れておいた。そこから現状を照らし合わせて何の建造物が増えた、消えたなどを確認する。それによって連中の性質がもっと読み易くなる」

 

 身を乗り出して何かを言おうとした副官にロドリゴが肩を抑えて黙らせた。

 

 「分かった。今出来る事がそれならば継続させてもらおう。こちらで出来る事は?」

 「1機でいい、護衛を付けてくれ。流石に非武装のMT1機だけじゃ心許ない。偵察用のオストリッチに俺が乗って撮影。撮ったデータを俺の車で待機するジョニーが解析を行うってところだ」

 「アシスタントの彼が乗るのかと思ったが、違ったか……いいだろう。準備をさせておく。準備が完了したら声を掛けるよ。それまでここで休んでいてくれ」

 

 2人の顔を交互に眺めてロドリゴは出て行く。空いた部屋で2人は肩をすくめて安堵とも不安とも言えない表情を浮かべた。フライボーイに至っては首を傾げている。

 

 「……私は何をすれば良い? データの解析? どうしろっていうんだ」

 「俺の端末を預けておく。それに入っているツールを使うんだ。ああは言ったけど、実際は俺が撮った映像や写真を送るからそれをツールで動かしてくれればいいだけだ。難しい事はしない」

 「分かった。じゃあ、後で使い方をレクチャーしてくれよ。それで、上手くはいきそうなのか? この調査は。私もMTを借りて動く事は出来るぞ。なんなら役割を交代しても良いくらいだ」

 「車はともかく、MTは乗れるのか? その手足で」

 「それに関しては問題ないよ。コントロールスティックを握って、ペダルを蹴飛ばす程度はこの手足でも余裕で出来る。……戦闘機動まではどうかは分からないけどね」

 

 クリフの問いに即座に答えたフライボーイは義手と義足を交互にクリフに向けて振って見せる。その素振りには余裕がある。そこはレイヴン。MTの操縦くらいは問題ないという事だ。

 

 「向こうの監視レーダ網がどれだけあるか分からないからな、熱源の大きい機体は少ない方が良い。それにあの機体は俺も乗ったことがあるから動かし方も知っている。──それよりも少し休んでおいた方が良いな。場合によっては長丁場になるかもしれねぇし、準備が出来るまでひと眠りでもしておこうぜ」

 

 大きなあくびをしてクリフは部屋の隅にある長ソファに腰かけて横になる。それを見て「そうだな。少し眠っておこうか」とフライボーイももう1つのソファで横になる。

 長い事使い込まれた所為でクッションはあまり効かないが、それでも疲労が蓄積しきった身体には充分心地の良いものであり、2人が寝息を立てるのにそう時間は掛からなかった。

 

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