ARMORED CORE LAST RAVEN ~Unsung Overture~ 作:唯名瞬
正面から来る1機の<CR-MT85M>へロックオン。
右背部ミサイルランチャー<CR-WB69M>からミサイルを放つ。真っ直ぐな軌道で飛ぶミサイルはしっかりとMTの胴体へと命中。それでもまだ動く機体にブースト機動で接近して左腕のレーザーブレード<CR-WL69LB>を振るい、機体を両断した。
これで5機目。だが、コクピットに座るフライボーイには一息つく暇はない。撃破した機体の向こうから更にMT<CR-MT85B>が数機迫ってきているのが判る。
機体をバックステップさせながら細かいブースト機動で複数飛んできたバズーカ弾を回避。次弾装填で動きが少し鈍った1機にロックオンしてミサイルを発射。ミサイルはMTの右肩に命中。大きく姿勢を崩した機体に後方からライフル弾が撃ち込まれ、MTはそのまま沈黙。そしてすぐ近くで火球が咲く。
自機の両脇から<MT09E-OWL>2機が追い越していく。その内の1機はシルビアの機体だ。射線からして彼女の攻撃だろう。「グットキル」とフライボーイが呼びかけると彼女は機体を僅かに揺らして応えてくれた。
レーダーディスプレイを見やると敵機を示す輝点はまだ増える。「どれだけいるんだ……」と思わず口から漏れてしまった。ミサイルランチャーの弾数はまだ余裕があるが、右腕のグレネードライフルの弾数はそれ程多くないので無駄撃ちは出来ない。使いどころを間違えば状況は一気に不利な方向へと陥る。
義手と義足を振ってみる。両方の稼働は感触として問題ない。この程度の戦闘機動であればまだ耐えてくれる筈だ。
報告にあったACの姿はまだ見えないが、こちらに来るのは時間の問題だろう。これらをどうやって凌ぐか。機体の詳細情報はまだないので一刻も早く欲しかった。それで戦い方も多少なりとも変わってくる。
「敵ACの情報はまだか」
『すまない。まだ詳細は不明だが、二脚と四脚という事が今しがた判った』
フライボーイの問いにロドリゴから応答。モニターにはフライボーイ機の前方で左腕だけ塗装されていない<MT09ROE-OWL>がバーテックスのMTを撃破しているのが見える。
『だが、もうすぐこちらに向かって来るはずだ。最終防衛ラインにいた部隊からの通信が全て途絶えたからな……』
そう苦々しく呟きながらもロドリゴがまた1機MTを葬る。すかさずもう1機を敵機からの射撃を躱しながらロケット弾で撃破。速いなとフライボーイは感心する。一連の流れるような戦闘機動は元々軍属であり、そこで身に付けたものだろうと感づいた。
ロドリゴ機の前方に輝点が3つ。フライボーイはフットペダルを踏み込んで機体を加速。バーテックスのエンブレムを付けた<MT09E-OWL>を3機視認。僅かにECMカウンター数値が上昇するが許容範囲内。やはり向こうでも運用していたかと思いながらもロックオン。トリガーを引く。グレネード弾が1機のMTに直撃して爆散。近い位置で立っていた2機にも炸裂した爆風に煽られて転倒。立ち上がろうともがく機体へ順にレーザーブレードを突き刺してとどめを刺した。
『助かったよ。フライボーイ』と安堵した声のロドリゴ。
「先程より少し動きが鈍っていたぞ。万全じゃないな? その機体」
『我々の台所事情は先に話した通りだ。出来るだけの整備はしているが、どの機体もどこかしらにガタはきている。だが、それは言い訳にはならん』
「ひとつ聞きたいが、そこまでして君たちの組織はなぜ戦う?」
『……犯した罪を清算する為だ。企業の……そして俺たち自身のな』
フライボーイの問いにロドリゴはそう答えた。この男も何かを抱えていたのだろうと察した。それがどういう意味かを聞くよりもレーダー上に新たな反応に身体が動く。輝点は2つ。恐らくACだ。
「来たか……」
機影を確認。1機はフレーム構成が以前と少し差異があるが、猟犬のエンブレムを付けた見覚えのある機体。トップ30位圏内に食い込んだこともある腕利きのレイヴン”ヴェルンハント”の<グレートデン>だった。もう1機は種子をモチーフにしたエンブレムを付けたオリーブ色の四脚型だが、頭部コンピュータは登録データベースから中位ランク帯にいたレイヴン”セミリタ”の駆るAC<ハルシネーション>という事を告げて来た。
セミリタというレイヴンはともかく、上位ランクにいたヴェルンハントとこんなところで出くわすとは中々不運だなとフライボーイは内心自嘲気味に笑う。だが、ここを切り抜けられれば生き残れる。逃げるという選択肢はフライボーイの頭の中ではもう消えていた。
* * *
既に残骸と化したMTへ機体に持たせたパルスライフルを数発打ち込む。
跡形もなく吹き飛んだ残骸を見てヴェルンハントは舌打ちをした。
無駄撃ちであることは分かっているが、行き場のない苛立ちを無性にぶつけたい衝動がトリガーを引かせてしまっていた。
苛立ちの原因は幾つもある。まずは自身の僚機として付いたレイヴンのセミリタだ。時折通信機からやけにボソボソと、そして時折切迫した口調をした女の声が入ってくる。それは誰に向けてではなく単なる独り言の様だった。どうやらラリっているらしい。
そしてそんな奴のお目付け役で自分を指名した上の連中だ。この任務にわざわざ出す必要があるとも思えない。これくらいなら自分一人でもいい。僚機にMT5、6機もあれば事足りるだろう。薬をキメながら戦っているふざけた奴など碌なことにならない。戦える駒がアライアンスと比べて少ないとは言え、駒のチョイスは考えるべきだろうとヴェルンハントは思っていた。
他にもあるが、キリがない。ただ、宛がわれる任務の殆どが自分の実力不相応な低レベルのモノだ。そんな気はしていた。ジャック・Oをはじめとする幹部連中から軽んじられていると感じてしまう。今回も貧乏くじを引いた。
1年前に受けたあの任務からだろう。コイロス浄水施設の防衛任務だ。襲撃してきたAC1機に返り討ちに遭い、相棒であったレイヴンの”トラッシャー”を喪ってから何事も上手くいっていない気がする。任務もアリーナもだ。それが彼らからの評価を下げているのかもしれない。それでもランク相応の実力は持っていると自負している。この任務で少しでも彼らの認識を改めさせなければならない。
前方から敵MTが2機接近。動きからして手慣れの者だ。前衛の部隊と相手して単なる素人集団ではないのは分かっている。だが、MT相手に後れを取らせないし、油断する事はしない。既に冷静だ。右腕に持つ<YWH14PU-ROC4>を2機に向けて発砲。出力の高いパルスレーザーがMTの胴体を焼き、貫く。
『芋虫が大地を食い破っている……私は忘れ物をしていない……怒鳴らないでくれ。ああ、早く貫くんだ、友よ。赤く染まり出したぞ……』
ヘルメットに声が入ってくる。セミリタのだ。訳の分からない言葉を発しながらも別方向にいたMTを撃破している。実力はまあまあだろうとヴェルンハントは値踏みした。これでラリっていなければもっとマシだっただろう。
モニターに再び数機のMTの機影を捉えた。ACも1機いる。中量二脚型AC。スターター機からある程度弄っただけだろうが、この手慣れの集団でACを任された者だろうから腕はそれなりにある筈。
狙うべき対象はまずこのACか。望遠で敵ACの詳細を確認する。右腕のグレネードライフルさえ気を付ければいい。そう判断した。
「コイツを狩るぞ」とセミリタに声を掛けるが、セミリタの独り言がヴェルンハントの耳朶を打つ。
『……私もこの廃墟に歓迎されているのか。正直者の友人! 素敵なサプライズだな! その花束は燃えている……! ああ、踊ろうじゃないか……』
相変わらず訳の分からない独り言をブツブツと喋っているだけ。連携は期待するだけ無駄だと悟った。
フットペダルを強く踏み込んでブースターの速度を上げて突っ込む。己の価値を取り戻す為に。
* * *
正面から飛んできたパルスレーザーをサイドステップで躱すが、すかさず飛んできたミサイルはコア搭載機能での迎撃が間に合わず、被弾。狙いは結構正確だ。
更に間髪入れずに散弾。これもサイドステップで逃れようとするが、全て躱すまでには至らなかった。どうやら<ハルシネーション>の左背部に備えられたスラッグガンからによるものだ。こちらはヴェルンハントと比べてややアバウトだという印象を受けた。
『私を罵ったか……二重の顔め……! 這いずってでもお前の喉元を食い千切る……』
「……なんだこいつは」とフライボーイはオープン回線に入ってきた女の声に気色悪さを覚えた。誰に対して放っている言葉ではない。どうやら自分たちとは別に独自の視覚を持っている様だと何となく察した。
2機とはミッション、アリーナ共に交戦も共闘も無い。<グレートデン>はアリーナでの試合の映像を何度か見ている。上位クラスというだけあって高く評価しているが、だからといって不安はない。勝手知った相手ではないのは向こうも一緒。機体性能に差があるのは否めないが、MTと連携してそれはカバー出来る。
「どっちからやろうか?」
『相手はACだ。今の戦力では脅威度はどちらも変わりない。出来るだけ損傷を与えられるようにしよう。動きを大きく止められれば上等だ』
ロドリゴから応答。同時にロドリゴ機の周囲にいたMTが散開。
『──灰被りの女王。貴方の施しは最高だった。……なあ、お喋りな友よ。私は笑えるか?』
「……」
通信機のボリュームは落としておく。
フライボーイはフットペダルを踏み込んで上昇。狙いを決める。自機から近いのは<グレートデン>。
飛んでくるパルスレーザーを躱しながらロックオン。エクステンションがオンになっている事を確認してトリガーを引く。背部と肩部から合わせて5発のミサイルが発射。まっすぐな軌道で<グレートデン>のコアへと向かっていく。
<グレートデン>は回避行動。ミサイルは命中せず。続けざまにMTから放たれたロケット弾も躱しきってパルスライフルをMTに向けて発射。被弾したMTは装甲を散らしながらも逃れようとするが、側面から飛んできた光芒の直撃を受けて沈黙。フライボーイ機からは視認は難しかったが、<ハルシネーション>から放たれた高出力レーザーの様だ。
『蝶め……まだ立ち上がるか。ここが我が主の終着点なのだ。……堕ちろ』
『……煩い奴め……』
今度は<グレートデン>から2発のミサイルが自機へ挟み込むように飛んでくる。迎撃装置が起動。ミサイルを破壊するが、直後に衝撃。<グレートデン>の肩部に備えられた連動式ミサイルランチャーから放たれたものまでは対処できなかった。
衝撃に堪えながら機体を動かし、ロックオンサイトに<グレートデン>を捉えてトリガーを引く。発射されたグレネード弾は<グレートデン>に回避されるが、その後ろについていたバーテックスのMTに命中。それを見たフライボーイは僚機へ注意くらいはしておけば良いのにと思いつつ、連携面に関してはそれ程上手くはないなと察することが出来た。
バーテックスの兵力の質は高いようだが、それの動かし方については他の武装勢力とそれほど変わりは無い様に感じる。付け入る隙があるとすればそこだろう。既に複数のMTが2機のACを包囲して攻撃を仕掛けている。それに対してACは互いに援護する動きを見せることなく反撃を開始。
不意に聞き覚えのある声。いや断末魔か。<ハルシネーション>の攻撃を受けて崩れ落ちるMTはシルビア機だった。
『ああああ……その言葉に意味があるのか……老人よ。赤い空は消えることは無い。燃えるだけ。そう、燃えるだけなんだ……』
セミリタの声がそれを遮るように入ってきた。相変わらず意味不明で気味が悪い。何が見えているんだ、とフライボーイは思う。
『──私はお前から借りただけだ。これはいずれ星と共に刻まれる……』
「相当ラリっているな……この女。何をキメたらそうなる」
連携は出来なくても火力でゴリ押しはある。あまり感心は出来ないが、これもACだからこそ可能だというのは理解できる。コントロールスティックを握る力が一瞬強まるのを自覚できた。
『もうすぐだ』
ロドリゴから通信。フライボーイは飛んできた散弾を躱しながらそれに耳を傾ける。
「何がだ?」
『救援を依頼していたレイヴンがもうすぐ到着する。なけなしの32,000コームを出した甲斐があった』
「実力は? 問題ないのか?」
『この機体の左腕を吹き飛ばした。悪くは無い』
そうロドリゴが言い放った直ぐ後にレーダー自機後方に味方機。後方確認モニターには<クランウェル>に吊り下げられたACの姿が小さく映っている。フロート型だが、知っている色の機体だ。紺色。フライボーイは口元を吊り上げる。
「確かに悪くは無いな」
『知っている様だな。実は以前、名前を聞きそびれた』
「一度、共闘している。名前はヴィラス。機体名は<ヴェスペロ>……だったな」
『ヴィラス……ヴェスペロ……。そうか……その名前か』
名前を聞いたロドリゴは一瞬間をおいて、ゆっくりと言葉に出す。どこか懐かしむような声であった。
* * *
機体のチェックは既に終えている。<ヴェスペロ>のコクピットに座るヴィラスはコントロールスティックを握り、モニターを見つめた。遠くに閃光が走り、火柱と黒煙が上がる様子が映されている。
補給と修理を受けてここまで来た。独立組織から敵対勢力の殲滅の依頼を受け、それを終えた直後だった。緊急での救援依頼が入った。依頼主はレナシミエント。聞いたことは無かったが先日の戦闘で一時共闘した組織と聞いて思い出した。腕利きが多いという印象が残っている。
『既に交戦状態に入っているとの事。ヴィラスは敵機の排除と非戦闘員の退避援護をお願い』
「今度はこの組織で似た様な任務だな」
<クランウェル>の操縦士から投下準備完了の報せ。それに応えると、懸架フックが外れる音。そして、身体が浮かび上がる感触。機体が降下する。
降下完了。機体に異常なし。フットペダルを踏み込むと<CR-LM85>の内蔵ブースターが勢いよく吹き出し、一気に時速460キロ近くまで加速するGに身体がシートに押し付けられる。
「こちらヴィラス。援護する」
戦闘中の集団に強襲。右腕のライフル<WH01R-GAST>と左腕のライフル<WL02R-SPECTER>を同時に発射。直撃を受けたサンドブラウンの<CR-MT85B>が2機、沈黙。
『やあ、ヴィラス。久しぶりだ』
「フライボーイ? そこにいるのか」
『君の依頼主から借りたACに乗っている。援軍が君だと知って安心したよ』
モニターの端に映る交戦中のスターター機似のAC。それだろうとヴィラスは判断する。
『MTはそれ程でもないかもしれないが、ACが厄介だ。上位クラスがいるぞ』
「<グレートデン>……ヴェルンハントか。2機で囲って一気に倒──」
ロックオン警告。ミサイルが飛来。<ヴェスペロ>のオーバードブーストを起動。ミサイルを回避。<グレートデン>からだった。
<グレートデン>がオーバードブーストでこちらへ追従してくる。狙いを変えてきたか。
『そのエンブレムは……ヴィラスか』
ヴェルンハントの声だ。まさか上位クラスのレイヴンに名前を覚えられている事に内心驚く。
『アライアンスは知らないが、バーテックスはお前の首に42,000コームを掛けた』
その言葉と共に飛んできたパルスレーザーを回避。いつの間にかフライボーイたちから離れてしまっている。
『戦術部隊のTATARAを斃したレイヴンにしては少々安い首だが、バーテックスの為だ。ここで出会った以上は死んでもらおうか』
ブーストで一気に距離を詰めてくる。それに一瞬気圧され、トリガーを引かずに機体を後退させてしまった。殺気を含ませたその声が警告音と混じり、耳を打つ。
インサイドトリガーを引いてECMメーカーを射出するが、警告音は鳴り止まない。理由は直ぐに分かった。<グレートデン>の装備が対ECM防御に優れているお陰だろう。中途半端にばら撒いても無意味。良くない判断であった。
パルスレーザーと併せて<グレートデン>の左腕に装備されたマシンガン<WL06M-FAIRY>から弾丸が放たれる。防御スクリーンが弾ける音が焦燥感を募らせた。
『ヴィラス、すまない。私の方はセミリタに絡まれて援護が難しい。こいつを片付けてから向か……』
『──邪魔をするな5番目。全能もどきと組もうが、からくり人形に入っても無駄だ……野犬の匂いは雪でも消せないぞ』
フライボーイから通信。同時にセミリタの声が割り込んでくる。互いに援護が難しそうだ。そして向こうは機体性能。こちらは腕の差で分が悪い。
まずは距離を取ることにする。オーバードブーストを起動。<C03-HELIOS>の高出力ブースターが唸りを上げて放出。射線から逃れる──が、すぐさまロックオン警告。
<グレートデン>もオーバードブーストを起動して追いかけてきた。出力はこちらが上だが、<C04-ATLAS>の巡航型オーバードブーストは持続力がある。<ヴェスペロ>が射程外に逃れても、オーバードブーストで追いかけるだけのパワーは充分に残っていた。
<グレートデン>をロックオンサイトに捉え直して両腕のライフルを発射。側面に回ろうとする<グレートデン>の肩を掠めて直撃とはいかないが、メイン武装を右背部のミサイルランチャー<WB01M-NYMPHE>に切り替えてミサイルを発射。放たれた3発のミサイルは咄嗟に射出されたミサイルデコイに吸い寄せられるが、効果があったのは1発だけ。残りはしっかりと敵機のコア付近に命中。よろけたところに左腕のライフルで追撃。
<グレートデン>は崩れた体勢を無理やり修正させて両腕の武器を発射。それに対応しようしている間に距離を取られ、ミサイルが放たれる。デュアルミサイル独特の挟み込むような軌道に加えて連動で放たれたミサイルが回避を困難にさせるが、それでもヴィラスは機体を横にスライドさせてギリギリの所で回避に成功。
『援護するぞ、レイヴン』
聞き覚えのある声、後ろから左腕が無塗装の<MT09ROE-OWL>を先頭に3機のMT。一斉にロケットを発射。命中はしなかったが、敵機からの第二撃を免れた。距離をもう一度取る。
『敵MTが数機、施設方向に向かっているわ!』
ルシーナからの通信。「狙ってきたか」とMTパイロットが呟くのが聞こえた。
「俺が抑える」
オーバードブーストを起動。自分の迂闊さに思わずコンソールを殴りつけたくなる衝動に駆られる。自分の任務は敵機の排除だけじゃない。脱出の援護もあった。目の前のACに集中し過ぎてそれを忘れていた。
<CR-MT85B>が3機確認。左背部の垂直発射式ミサイルランチャー<CR-WB03MV>をセット。同時に肩部の連動ミサイルランチャー<JIKYOH>もオン。射程内に捉えて発射。8発のミサイルがMTに向けて放たれる。
放たれたミサイルは3機のMTに命中。2機は直撃を受けて爆散するが、残り1機はそれを免れてまだ動ける。右腕のバズーカがトラックに向けて放たれるのが見えた。
ガレージから出ようとしていた1台のトラックがバズーカ弾を受けて横転。
もう一撃を加えようとするMTにライフル弾を浴びせて沈黙させる。ヴィラスは被害状況を確認。直撃では無さそうだ。横転したトラックから複数の人が這い出ているのが見えた。
『レイヴン。被害が出ているぞ!』
依頼主の誰かから 責の声が入る。MTのバズーカの前では民生品のトラックは紙屑同然だ。自分の立ち回りが彼らを生かすも殺すも掛かっている。
ミサイルが飛来。自分に向けられたものだとヴィラスは判断。ブースト機動で回避。<グレートデン>がオーバードブーストで迫って来る。
施設を背にして戦うのは得策ではない。<グレートデン>の側面へ回ろうと機体を動かす。<グレートデン>もそうはさせない為に両腕の武器で弾幕を張る。直撃ではないものの、ダメージは蓄積されていく。
『動きはまずまずといったところか。そこらの三下よりかは流石に出来るな』
笑みを含めた様なヴェルンハントの声が聞こえるとともに<グレートデン>視界から消えた。いや、向きを切り返して死角に入られた。
『その首には相応の価値はあるようだが、これまでだ』
オーバードブーストの起動音。ロックオン警告が表示される。機体の旋回が間に合わない。このままでは有効射程まで詰められて一斉射撃を受けるだろうと予感した。
『ECMメーカーを射出しろ!』
聞き覚えのある声。ヴィラスはすぐさまインサイドトリガーを引いてECMメーカーを射出。直後にロックオン警告が解除され、自機の前方でパルスレーザーが通過していく。狙いがずれたのだ。<ヴェスペロ>のECMメーカーに加えてMTからの援護を合わせればECM防御が整っている機体でも効果は表れる。
「助かったよ。ロドリゴ。いや、メテオリート」
<ヴェスペロ>の横にMTが付く。人違いでなければ既に名前は知っている。
『まさかとは思ったがあの時のレイヴンが……』
次の瞬間、ロドリゴが『下がれ!』と叫ぶ。数発のミサイルが右側面から飛んでくるのが見えた。
機体を後ろへブーストで逃がす。MTも散開。ミサイルが次々と地面へ刺さっていく。咄嗟に機体を旋回させるとライフルを構え直す。
『こっちで奴を引き付ける。撃ち終えたタイミングでミサイルを全弾放て』
3機のMTが接近してくる<グレートデン>へロケットとライフルを放つ。一見するとバラバラのタイミングに見えるがブーストでの挙動を見越した偏差射撃。知っている動きだとヴィラスは思い出す。
『成長したな。ヴェスペロ』
弾は<グレードデン>に吸い込まれる様に命中。左背部のレーダーが破損して、<グレートデン>の動きが止まった。ロックオンサイトに機影を収める。ロックオン完了。
「あんたの教えのお蔭だ。メテオリート。……捉えた」
トリガーを引く。左腕のライフル弾と6発のミサイルが<グレートデン>にデコイを射出させる暇を与えずに命中。<グレートデン>は土煙を舞い上がらせながら大きく吹き飛ばされる。
「後はとどめを……」
4機が前進させようとしたその時、土煙を突き破ってミサイルの束が真っ直ぐ飛んでくるのが見えた。それはロドリゴ機を捉え、全身を突き刺して爆発。機体は部品を撒き散らして<ヴェスペロ>の横を転がっていった。
更に飛んできたパルスレーザーがロドリゴ機の隣に立っていたMTを焼き、機体は四散。その先に見えたのはコアの装甲の破片を散らしながらオーバードブーストで接近してくる<グレートデン>の姿であった。
「ルシーナ。MTの生体反応を確認しろ!」
自分でも普段出さないような荒い声を上げている事に気が付く。だが、後方確認モニターに映るバラバラになった機体はパイロットの生存の望みが絶望的である事を伝えていた。
残った1機のMTが左腕のライフルを放つのが見える。だが、それもマシンガンの弾幕で吹き飛ばされて動けなくなった。
『邪魔は消えた。後はお前の首を頂いていく』
ブースター炎を揺らめかせて<グレートデン>が迫って来る。エクステンションはパージされ、左腕のマシンガンは<WH05M-SYLPH>に持ち替えられていた。機体前面装甲の大半を失って満身創痍ともいえるが、戦う意思をこのレイヴンはまだ棄てていない。
飛んでくるパルスレーザーと弾丸。機体を右へスライドさせて回避。そのまま側面へ回り、両腕のライフルを同時発射。<グレートデン>もマシンガンを放ち、<ヴェスペロ>の装甲を撃ち抜いていく。脚部の損傷を伝えるメッセージが流れてきた。
『お前の首なんだ……! 俺の価値を……!』
ヴェルンハントの唸るような声が聞こえる。執念深さを感じさせる声だ。機体もそれに引きずられるかのように動いている様に見えた。
その姿は正に傷つきながらも獲物を追う猟犬。ヴィラスは完全に気負いしてしまっている事に気が付く。上位ランクのレイヴンの矜持と底力をこの状態でも見せつけてきていた。
再び<グレートデン>からパルスレーザーとマシンガンが放たれる。ホバー機構に損傷を受けた機体の機動力はかなり落ちている。本来ならば回避出来るはずの射線から抜け出せない。防御スクリーンが弾ける音が更に大きく耳朶を打つ。
それでも黙っている訳にはいかない。左腕のライフルを放ちながら、右背部のミサイルランチャーを発射。だが、それは跳躍した<グレートデン>には当たらず、同時に射出されたデコイによってミサイルも無効化されてしまう。
『取り戻すんだ……! 俺の価値を……!』
ヴェルンハントの深く澱んだ声と共にロックオン警告が鳴り響く。頭上から食らいつくように<グレートデン>が両腕の武器を構えているのが見えた。
機体を後ろに逃がすしかヴィラスは考えられなかった。それでも回避は難しいだろう。射程距離から逃げる推進力が今の損傷した機体では足りない。敵機からの攻撃で致命的なダメージを受ける姿を想像した。
その時、モニターの右端に映る機影が見える。中量二脚型AC。フライボーイ機か。右腕に備えたグレネードライフルの銃口がこちらを向いていた。
『右へ跳べ! ヴィラス!』
フライボーイが大きく叫んだ。ヴィラスはすかさず、フットペダルを踏み込み、<ヴェスペロ>を右方向へ全力でスライドさせる。急激に掛かるGでヴィラスの身体はシートの端に押し付けられる。
その一瞬後、<グレートデン>のコア左側にグレネード弾が着弾。後方からはほぼ無防備であった機体はあっけなく吹き飛ばされる。
ヴィラスはGから来る衝撃に耐えながら機体を旋回。辛うじて着地した<グレートデン>にロックオン。左腕のライフルに加えて左背部と肩部のミサイルを全て発射。弾丸は動きの止まった<グレートデン>のコアに命中。更に右腕のライフルもマガジン内の弾を全てぶつける。
『……こんな所……で……トラ……シャ……俺……も……』
コアの装甲が完全に吹き飛び、茫然と立ち尽くす<グレートデン>にミサイルが降り注ぐ。それを耐え切れる力は機体にはもう残されておらず、<グレートデン>は突っ伏すように倒れ、コア内部から小規模な爆発を何度か起こした後、沈黙した。
『敵ACの撃破を確認。作戦領域内の敵性反応が全て消失』
ルシーナから通信が入る。それに応えようとするが、少し無茶な機動をさせた所為だろう。込み上げてくる吐き気を堪えながら小さく返事しか出来なかった。
『それと……味方部隊の隊長機と僚機の1機からの生体反応は消失していた……死亡を確認』
その言葉は覚悟をしていた。彼らとまだ話すべき事はあった筈だったが、それはもう叶わない。ルシーナからの言葉を受け止めると、コントロールスティックを握る力が一気に抜け落ちる。
『生き残れたな……ヴィラス……』
フライボーイの声だ。その声は大きく息が上がっており、かなり疲弊しているようであった。機体も左腕は吹き飛んでしまい、機体全体に弾痕が痛々しい程に刻まれている。
「大丈夫か? 酷い怪我だった筈だ。入院中だとスタークスから聞いていたが、何故こんなところにいる」
『……ああ……大丈夫だ。実際、まだリハビリ中だが、そんな身体でするもんじゃないな……これにはちょっと事情があってね……クリフっていうリサーチャーは知っているだろ? 彼とお出かけしていてね。それに絡んでこうなった』
「クリフが? ますます分からないな」
『話せば結構長くなるからちょっと勘弁してくれ。それよりまさかこんな所でヴェルンハントとかち合うとは……』
「上位ランクのレイヴン相手はやはりきつい。確か総合ランク37位だったよな。あんたや他の機体からの援護が無ければ俺がやられていた」
『ランクは実績と信頼の指標だよ。上であるほど手強いさ。でもどんな形であれ、勝てたのは大きい』
モニターに映る<グレートデン>の残骸を見やる。コアから炎が上がり、もう動くことは無い機体。コンソールに示される損傷具合を眺めて。あらためて薄氷の勝利であったことを思い知らされる。
「セミリタは? ……ああ、あれだな」
モニターの奥で小さく映る炎にカメラを向けて拡大させる。<ハルシネーション>はコアの半分が吹き飛んで擱座していた。
『戦闘中にいきなりブツブツ何かを唱えたかと思ったら急に動きを止めてね。その隙にグレネードをぶち込んでやった。何で止まったかは分からないが、あの様子だと大方よろしくない薬をキメていたって感じだったな。戦闘中、延々と訳の分からない言葉を聞かされてこっちの耳が参りそうだったよ。コーラ……とかルビ……とか……何が見えていたんだか……』
先程より回復してきたのだろう、大きく深呼吸してフライボーイはそう言った。
『ヴェルンハントは57,000コーム。セミリタは34,000コームだったか? 彼らに掛けられた懸賞金は。あと、これも持っていくといい』
フライボーイは機体の右手に持っていたライフルを差し出す。<ハルシネーション>の右腕に装備されていたクレスト製レーザーライフル<CR-WR98L>。
『損傷は殆どない。そのまま使っても良し、結構良い値段だから売っても良し、だ。これで今回の依頼内容に相応な報酬にはなるだろう』
「いいのか?」
『生憎、この機体でうろつくことは出来ない。ここに置いておくくらいなら君が持っていった方が良いだろう』
「分かった。貰っておくよ」
ヴィラスはマニピュレータでそれを受け取る。
『今の私はレイヴンとして稼働していないからな。セミリタの懸賞金だけ持っていければ十分だ。リハビリ代に充てられる』
『味方の車両が作戦領域から離脱を確認。これで作戦は完了ね』
レーダーレンジから車両の反応が消える。それと同時に生き残ったMTも車両の後に付いていくのが見えた。
『少々被害はあったが、非戦闘員を逃がすことは出来た。戦闘要員は彼らを街へ送り届けた後、アライアンスに投降して全てを終わらせる。レイヴン、我々が生き残れたのは君のお蔭だ。感謝する』
トレーラーからの通信。彼らには戦う力はもう残っていない。これが生きる為の選択という事だ。
『ヴィラス。南から複数の輸送機の飛来を確認したわ。恐らく、バーテックスよ。こちらも撤退しましょう。フライボーイ、あなたも撤退してください。ご協力ありがとうございました』
『そうしよう。ヴィラス、また会おう。今度も味方として会えることを望むよ』
「そうだな。また共に戦場で」
フライボーイのACも車両が向かっていった方へ飛んでいく。それを見届けたヴィラスも撤退ポイントへ機体を向けた。
『ヴィラス……』
「どうした?」
『聞いていいか分からないけど……答えたくなければそれでいい。あのMTのパイロットとは知り合いだったの?』
「……ああ、そうだ」少しの沈黙の後、ヴィラスは口を開く。「かつて、俺は反企業体制を掲げる組織にいた。その時の教官だった人さ。彼に操縦の基礎を教わった」
「それは……」
「厳しい人だったし、碌な思い出は無いが、今の戦い方は彼から教わった技術が原点だ。ついでに言えば、<ヴェスペロ>は当時の俺のコードネームだった。機体名はなんでも良かったが、思い入れがある名前にしておいたんだ」」
『そうだったのね……でも、よかったの? あなたの過去を……』
「前に俺はルシーナの過去を聞いた。お互い様だよ。隠し事はなしだ」
撤退ポイントには既に迎えの<クランウェル>が到着していた。ヴィラスは<ヴェスペロ>をフックに固定させると機体が上昇する。
「さようなら。ロドリゴ」
認識票を握り、ヴィラスはモニターを見つめた。自分が向こうに行くのはまだ当分先でいたい。あの日、組織が消えゆくと分かった時に誓った。他者の都合に振り回されず、自分の意思を貫き、生き抜くと。
まだ炎が燻る戦場跡が次第に小さくなっていく。
* * *
エアコンからの風の出が相変わらず悪い車内。クリフとフライボーイは沈黙していた。
組織とは向かう目的地が違っており、彼らと別れてから彼此1時間以上、この状態であった。
ハンドルを握るクリフの視線は時折、助手席に座るフライボーイに移る。フライボーイは義手の人工皮膚を剥がして露出した関節に器具を当てて調整の様なことをしていた。人工皮膚と分かっているが、その様はクリフには少々グロテスクに見えてしまう。
「どうだ? 腕は?」
ようやくクリフの方から口を開く。
「応急処置は出来たかな。この腕と足では長時間の戦闘機動を耐え切るのは難しいようだ。足はまだ何とかなったが、腕は肘関節がプラプラでかなわない。無理やり固定させておいたよ」
人工皮膚を戻しながらフライボーイは言った。
「本格的な実戦復帰の前に動作確認が出来たって事か。機体から降りるときにかなり苦労していたもんな」
「両方共もっと頑丈なものにしないとな。後で医師に注文しておこう。これでは出撃の度にいちいち腕と足を交換する事になる。効率が悪すぎるよ」
そしてまた沈黙。外はまだ木々で覆われた舗装もされていない山道。目的地まではまだ遠い。
「……そうだ。ロドリゴの事で思い出したよ。あの男は4年前に壊滅した反企業組織”ノーバ・ホリゾント”の主要メンバーで、実働部隊をひとつ率いていたヤツだ。あいつ含む一部のメンバーは逃げ延びていて、OAEから指名手配されていた」
クリフはポケットから携帯端末を出して、フライボーイに見せる。そこにはロドリゴの写真が添えられた手配書が表示されていた。フライボーイが画面を操作すると、同様の手配書が幾つも表示される。その中には基地の中で見た顔もあり、そしてシルビアの手配書も見つけた。
これらの手配書はもう無用になるだろう。フライボーイは端末をクリフに返した。
「……なるほど、それならばあの高い操縦技量や指揮能力に納得がいく。彼の部下もだ。まあ、ルーツはもっと前にありそうだけどね」
「多分、あの組織はノーバ・ホリゾントの残党メンバーを中心に構成された組織だろう。目的は分からないが」
「単なる反アライアンスを掲げる組織では無さそうな気はするよ。彼らの様子からもっと別なものと戦おうとしていた」
「そうなのかい?」
「ロドリゴが言っていたよ。企業が犯した罪と自分たちの罪を清算する為だって。それがどういう意味かまでは聞けなかったけどね」
「罪なんて……沢山あり過ぎて分からねぇな。企業も反企業勢力も。血を流し過ぎた。あまりにもな……」
再び沈黙。道のせいで起きる振動が唯一の物音となり、不快な振動が2人を揺らす。
「──私には暫く癒しが必要だ。身体も、そして心も……」
シートをリクライニングさせながらフライボーイはゆっくりと吐き出すように言った。
「ACに乗り込んだ時、いや、格納庫でACが視界に入った時だろう。今までにない感情が沸き上がった。自分の命などどうでもよい様な、半ばやけくそになっていたと思う」
「……確かに、あの時のお前さんは少しおかしかった。戦う事に高揚している様で死に急いでいる様でもあったよ。挙句には自分は運が良いって根拠のねえ事を抜かしやがって。ヤバい感じは出ていたよ」
「あの白いACに受けた傷はこの手足だけじゃない。私の心もぶっ壊してくれたよ。自分が持っていた死生観が滅茶苦茶になっていた。乗り捨てる直前に見た機体状況でそれに気付かされたんだ」
「機体ぶっ壊して戻って来るなんてレイヴンにとっちゃ日常茶飯事じゃねぇのかよ」
「そういうヤツはいるが、私は撤退するかを決めるデッドラインを引いているんだ。装甲の破損具合に防御スクリーンの消耗率。弾薬の残りとかをね。生き残る為のルールとして定めていた。だが、今回はそんなのお構いなしに動いていたんだ。まいったね、全く。弾薬は全て撃ち尽くして、アラートランプで赤に染まったコンソール周りに気が付いた瞬間、血の気が引いたよ」
フライボーイは自嘲気味に笑みを浮かべると、右腕を振る。ぎこちない動きで頼りの無さそうであった。
「それでも生きて帰ってこられたんだ、良い事だと捉えろよ。ちゃんと目が覚めたってことさ。ダメなヤツはそのまま引っ張られてあの世へ行く」
「そうだな。一応、踏みとどまれたんだ。今後の為にもしっかりと休ませてもらうとするよ。例のレイヴン探しもそれからでも遅くは無い」
「諦める気は無さそうだな。良かったよ」
「当然だ。またレイヴンとして帰ってきてみせるよ」
そうしている内に道は開けて街道跡に出られた。久々に見る人工物に2人はホッと一安心した。この道を辿っていけば街に着ける。そう考えると身体が少し軽くなった気がした。