ARMORED CORE LAST RAVEN ~Unsung Overture~   作:唯名瞬

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第27話「Assault」

 輸送機に揺られて数時間。ヴィラスはカーゴの待機スペースでハンガーに固定された<ヴェスペロ>を見つめていた。

 既に機体のチェックは済ませている。フレームパーツは腕部を<CR-A92XS>。脚部を<CR-LH80S2>に換えて中量二脚型の構成にした。

 先の戦闘から1日での出撃。こんな事は珍しくも無い。だが、同じ戦場で今度は敵対していた勢力からの依頼というのはヴィラスにとっては初めてだった。

 バーテックスはしっかりと見ていたと言えばいいのか。このミッションの人選など他のレイヴンでも良さそうだが、わざわざ自分を名指しで依頼をしてきた。彼らにどんな意図があるかは分からないが、先の戦闘で彼らから一定の評価をされたのだという事でヴィラスは一応プラスに捉えておくことにした。

 ただ、あの地を踏むのには少し躊躇いはあった。かつて師事した人物が率いていた組織のいた場所。レイヴンであればそんな事は関係なしに動くのであろう。引き摺るつもりは無いが、やはり心理的に難しいところがある。そこは未熟さがあることを自覚しなければならない。

 構成員の一部は逃げ延びる事が出来たと聞くが、殆どが非戦闘員だ。もう戦う事は無いし、そんな事は考えなくていい。後は市井で生き続けてくれればいいとヴィラスは思う。

 輸送機のパイロットから目的地到着までもう少しだと連絡が入り、ヴィラスは<ヴェスペロ>のコクピットに向かう。

 機体を通常モードで起動。今度はバーテックスが依頼主だ。この依頼を受けた以上、余計な思考はもういらない。前の事は忘れろ。ここは割り切ることだとヴィラスは自分に言い聞かせた。

 連続した小さな衝撃が機体を揺らす。輸送機が着陸した。カーゴのハッチが開く。ヴィラスは<ヴェスペロ>をカーゴから出すと、知っている風景がモニターに遠くに映る。

 

 『バーテックスから基地まで来るようにとの事よ。彼らの戦力と一緒にミッションポイントに向かうみたい』

 

 ルシーナから通信。ヴィラスは機体を基地へ向けると、フットペダルを踏み込んだ。

 基地まで機体を飛ばすと、ハンガー付近にサンドブラウンのカラーリングがされた<CR-MT85>系列機が6機並んでいる。これが共同でミッションにあたる戦力らしい。だが、バーテックスとは違うエンブレムを付けている。

 

 『レイヴン。これより作戦地点に向かってもらう。作戦内容は事前にお伝えしたとおり、メイシュウシティへ強襲、敵勢力の殲滅をお願いする。戦力も現在確認できるのはMTが十数機のみ。こちらにいるのはあなたに帯同する僚機。コールサインはアルファ1から6。いずれも優秀なパイロットたちだ。任務遂行の難度はそれ程高くないだろう』

 

 バーテックスから通信が入ってきた。ブリーフィングで聞いたのと同じ女性の声。シェインと名乗っていたのをヴィラスは思い出す。落ち着いているというよりも冷淡さがある。戦力としての期待ではなく、任務遂行にあたっての補佐役にはこれで十分だろうと暗に言っている様だ。

 MTをよく見ると必要最低限の修理と整備がされているだけに見える。もしかしたら先日の戦闘に参加した機体だろう。今度はこのミッションに駆り出されるのか。バーテックスも人使いが荒い、いやこれは捨て駒同然の扱いだと感じた。

 MTが一斉に動き出す。ヴィラスもフットペダルを踏み、機体を動かした。

 

 

 ミッションポイントに辿り着くまで皆、無言であった。彼らと関わりのないヴィラスはともかく、MTのパイロット同士でも言葉を発することなく、ただ機体を動かしている様にも見えた。

 ルシーナが彼らはユーグ解放戦線のパイロットであることを知らせてくれた。彼らはやはり捨て駒だと察する。バーテックスからすれば元々恭順しなかった組織。別に喪失してもいいという認識だろう。彼らはどんな心理でこのミッションに挑むのだろうか。

 ふと、ヴィラスは思いついた。彼らは元々ロドリゴの組織と対立していたらしい。ロドリゴたちについて彼らは何か知っているかもしれない。

 

 「あんたらはこの辺を根城にしていたのか?」

 

 ヴィラスは声を掛けてみる。だが、返事は返ってこない。

 

 「この辺で色々とドンパチやっていたみたいだが、レナシミエントってところともやり合っていたんだろ? どうなんだ」

 

 その問いにも無言。何もしゃべるなと言われているのか、それとも話す気力も無いのかは分からない。

 ミッションポイントに到着。モニターの奥に街が見下ろすことが出来た。夜の闇に紛れて僅かながら灯りが見えるが、とても動いているようには見えない。施設が稼働していればもう少し灯りがあってもおかしくはなさそうだが、それにしては規模が小さい。

 

 『レナシミエントの関係者なのか』

 

 不意に声が入ってきた。MTのパイロット。アルファ1からだった。

 

 「大きく関わりは持っていない。知っている人間がいた……それだけだ」

 『いけ好かない連中だった。やっている事は俺たちと変わらないくせに気取っていた感じはあったよ』

 

 吐き捨てるように別のMTパイロットは言った。気取っていたというのは恐らくロドリゴの事だろうとヴィラスは察する。彼は生真面目な男であったのは覚えている。

 自分たちは世間的から見てテロリストではあったが、彼は時折そのイメージに似つかわしくない行動を取っていた事があった。民間施設への攻撃を避ける、落伍した敵機を見逃すなどだ。ロドリゴ曰く、それは自分なりの戦場のルール。彼の直属の部下もそれに影響された行動を取っていたのも見たことがある。それが組織全体で歓迎されていたとは言えないが。

 

 『レイヴン。もしお前が連中の関係者であったら悪いかもしれないが、俺たちがバーテックスに下ったのは理想よりも現実を見て選んだからだ』

 「そうか。それを否定することはしない。その選択が正しい時だってある」

 

 ヴィラスはそう返答した。彼らの言葉は理解できる。理想というものは霧のように自分の視界を奪い、目的地を失う事もある。理想に囚われて己が進む道を踏み違えるならそんなものは一度取り払う決断をしなければならない。彼らが理想を捨てたと見るか、現実を見つめ直せたと見るか、それは後で分かる事だ。

 

 『バーテックスからよ。作戦開始時間。メイシュウシティへの突撃を開始して』

 

 ルシーナからミッション開始を告げられた。システムを戦闘モードに移行。火器管制をはじめとする機体機能のロックが解除され、機体の動きが軽くなる。MTも脚部ホバーを吹かして坂道を駆け降りる。

 

 『シティ周辺に熱源反応。ガードメカ多数。<ジェリフィッシュ>よ。既に探知されている。防衛戦力はすぐに来ると思っておいて』

 「了解」

 

 ヴィラスはフットペダルを踏み抜き、ブースターを展開。一気に正面のガードメカの集団に向かう。

 

 『生き残れたら、もう少し話してもいい。連中は腕利きが多かった』

 

 もうひとりのパイロットがそう言うと<ヴェスペロ>の横に2機付く。

 

 「そうしてくれ。生き残ろう」

 

 ロックオンサイトに<ジェリフィッシュ>を捉えてトリガーを引く。<ヴェスペロ>の右腕に持たせたバズーカ<CR-WR93B3>を発射。直撃を受けた<ジェリフィッシュ>は近くの機体を巻き込んで爆散。少し遅れて周囲にいた同機もMTからの攻撃を受けて破壊された。

 

 『MTの接近を確認』

 

 更に後続のガードメカを撃破するとレーダーディスプレイに高速で接近する機影を確認。数は3。モニターには同数の<MT10-BAT>の姿を捉えた。

 武装を右背部の<WB01M-NYMPHE>に切り替えてミサイルを発射。6発のミサイルが3機のMTに食らいつく。直撃を受けた1機が炎を上げて墜落。被弾によりバランスを崩した機体へは左腕のライフル<WL02R-SPECTER>で追撃して撃破。残りの1機も反転して高度を落としたところをMTの集団が集中砲火を仕掛けて撃破した。

 

 『シティ内から多数の反応を確認。ブリーフィングで出された事前情報より多い気がするけど……』

 「いつもの事だ」

 

 <ヴェスペロ>のブースター出力を最大にして一気にシティの入口へと向かう。6機のMTもそれに追従した。

 入り口を突破すると正面から<CR-MT98G>が2機迫って来る。<ヴェスペロ>は横へスライド。少し遅れてグレネード弾が飛んできた。<ヴェスペロ>から遅れて来たMTが<CR-MT98G>へ発砲。動きが止まった隙イ<ヴェスペロ>は跳躍して2機に向けてバズーカを発射。1機撃破。残りも左背部のロケット砲<WB07RO-ORTHOS>で破壊。

 着地した瞬間、軽い衝撃。軽度の損傷。だが、機体温度が急上昇。別方向から来た<CR-MT98G>の左腕に持ったナパーム投擲銃によるものだ。後続で来た機体からも放たれ、機体に直撃。排熱が間に合わない。オーバーヒートの警告音。ラジエーターが緊急排熱を開始。ジェネレーターのエネルギーを使用するので機体の動きに制限が掛かる。

 機体をバックステップさせながらロケット弾で追撃を阻止。機体の冷却とエネルギーの回復を待つ。以前にも交戦したことがあるが、苦戦した記憶があり、ヴィラスの顔を強張らせた。

 

 『さらに敵機。機種は<CR-MT85>。他にも狙撃型のMTがいるみたいだから注意して。遠距離からの攻撃にも警戒を』

 

 ルシーナが敵機の更新情報を送ってきた。レーダー上に増援の反応。数は5。機体温度、エネルギー残量は適正値まで戻っている。

 

 『後ろから来る旧式はこちらに任せておけ。レイヴン、新型の撃破を優先に頼む』

 

 アルファ1からの通信に「了解だ」と告げ、ヴィラスは<ヴェスペロ>を瓦礫となった建物から跳躍させてミサイルを発射。MTが回避行動を取る瞬間、ブースターを全開にして接近。MTからは山なりの軌道でナパーム弾が飛んでくる。スピードを緩めず、着弾点に入らない様に機体を制御。

 MTは姿勢を落とすと、肩にあたる部分に設置されたグレネードランチャーが発射される。だが、それは見越していたヴィラスは砲弾を飛び越して、そこからバズーカとライフルを発射。砲撃の反動で動けない機体に連続で直撃。もう1機にも同じようにバズーカ弾を浴びせて沈黙させ、後退する機体にはロケット弾を命中させて撃破した。

 再び、3機編成の<MT10-BAT>。パルスレーザーとプラズマが放たれるが、それをサイドステップで回避。メイン武装をミサイルに切り替えて、エクステンションをONにする。連動のマイクロミサイル<FUNI>と共に放たれたミサイルは3機の<MT10-BAT>に直撃した。

 ロックオン警告。頭部レーダー範囲外。どこからかとブーストで動くと、自機の真横に合った建屋の壁が崩れる。更にもう一発飛んできたらしい。

 頭部の戦術コンピュータが着弾点から弾道を計算して、攻撃地点を割り出す。その方向に機体を向けると、オーバードブーストを起動。レーダーが自機正面に2つの反応を示している。ロックオン警告が出た数瞬後、弾丸が機体の横を掠めていった。モニターには小高いビルの上で<CR-MT83RS>がライフルを構えているのが見える。

 オーバードブーストを切ってロックオン。ミサイルを発射。ミサイルが直撃したMTはビルから落下して地面に叩きつけられる。残り1機。

 残された<CR-MT83RS>はビルから降りて後退。それを見てヴィラスは<ヴェスペロ>を加速させて距離を詰める。MTはライフルの発射モードを切り替えて連射。コア付近と左肩部に被弾するが、バズーカとライフルで反撃。2つの弾丸はMTの装甲を容易く貫くと、機体は爆散した。

 敵機の反応はまだ残っている。ヴィラスは反応がある方へ機体を向けた。

 

 

 『敵機の全滅を確認』

 

 残りの敵機も掃討完了。全てMT。ルシーナの言う通り、事前情報よりも多かったが、対処出来る数であった。機体のチェック。防御スクリーンの消耗度や装甲の損傷度。弾薬の残りも想定内に納まっている。

 

 「向こうの連中はどうだ?」

 『3機撃破されたわ。いずれも生存者は無し』

 「そうか」

 

 ヴィラスは味方機の方へ頭部カメラを向けた。モニターに小破した<CR-MT85>が3機、<ヴェスペロ>の方へ向かって来るのが見える。

 

 『生き残ったか、レイヴン』

 

 アルファ1からだ。彼は生き延びることが出来た。残ったのはアルファ2と6だけ。

 

 『新型やら高級機の相手をしてもらって正解だった。そっちが引き付けてくれたからな』

 「おかげで撃破報酬はいい感じに貰えそうだよ」

 『正直、この機体状態で3人も生き残れるなんて思っていなかった。俺たちではとてもじゃないが勝ち目は少ないと思ったからな』

 

 最初に見た時の機体状況を思い出す。最低限の整備と修理だけされた機体。それで生き残れたのはパイロットの腕もあるが、運も味方してくれたからだろう。

 

 「これでバーテックスのメンバーとして受け入れてくれるんじゃないか? それで良いと俺は思う」

 『──どうかな? 理想を捨てた代償だ。不平等な自由が俺たちに与えられた。これだけで評価されたとは思わない』

 

 自嘲気味に嘆息しながらアルファ1は言い放った。信用を得るのは簡単なことではない。このミッションだけではなく、これからも同様の事を課せられるだろう。それは彼らも覚悟はしている様だ。

 

 『ヴィラス。バーテックスから通信。これより街に調査隊を入れるので、調査の間、周囲の警備をお願いするとの事よ』

 「分かった。すぐ準備する」

 『後はこれだけか。少しは希望が見えたよ』

 「ああ」

 

 カメラを望遠させると、街の入り口から複数台の装甲車の影が見えるのが確認できた。

 

 

    *     *     *

 

 装甲車の後部座席に座るクリフは窓の外を見やる。

 メイシュウシティの入り口付近にはガードメカとMTの残骸がいくつも転がっていた。ひとまずの安全は確保されているという訳だ。

 戦力の中心が高級MTとはいえ、レイヴンの駆るAC相手では敵わなかったという訳だ。それに、戦ったのはクリフも実績を知っているレイヴン。よほどのことが無い限り、後れは取らないだろうと確信はしていた。

 装甲車は街の中心部近くまでたどり着く。ここにもMTの残骸が転がっていた。

 

 「もうすぐ最初の調査ポイントだ。準備をしておいて」

 

 助手席に座っているバーテックス情報部の女性から声が掛かる。チトセ・コールレイと名乗っていた。運転席にはケインズがハンドルを握っている。

 クリフが乗っているのと合わせて6台の装甲車がメイシュウシティに入って調査を行う。クリフの他にもリサーチャーがいるらしいが、顔は合わせていない。

 装甲車はガレージらしき建物の前で停まる。特攻兵器襲来前には無かった建物だ。以前の調査で判明している。降車すると、金属の焦げた臭いが微かにする。

 

 「MTやガードメカが出てくることは多分無いだろうが、人はどうかね?」

 

 クリフは建屋の割れた窓から中を覗き込む。ヘッドマウントライトで照らす先にはコンクリートの床と壁だけで何も見当たらない。

 

 「多分ここに人はいないだろう。臭いで判る」

 

 後ろからケインズがそう言ってきた。手にはライフル。彼の任務は調査ではなく、クリフたちの護衛であった。

 「鼻が良いんだな」とクリフは煙草を口に咥える。

 

 「正確には生活臭か。人がいれば食事に排便などの人の動きに由来する臭いが絶対に出てくる。だから──」

 

 ケインズはクリフが咥えていた煙草をつまみ散り、それをクリフの上着の胸ポケットに戻した。

 

 「──今ここでは止めておけ。判らなくなる」

 

 キャップの奥からじっと見つめるケインズの目を見てクリフはそれが正しいと判断して従う事にした。

 

 「とりあえず、ここから入るとしようか」

 

 クリフは窓の縁に手を掛けるが、ケインズがそれを制して先に入り込んだ。少し間を置いてケインズが「OK」と声を出す。それに続いてクリフとチトセが入る。

 中はやはりガレージの様だった。照明が落ちた施設をライトで照らすとMT用の固定ハンガーが複数見える。そして、その脇には幾つものロボットアームらしきモノ。

 

 「こんなものも置いてあったのか」

 

 チトセが呟く。これで整備を行っていたらしい。正体は幾つかの企業軍の基地でも運用されていたオートメイトの整備用機械。アライアンスでも使われている筈だ。

 

 「上等なモンを使っているな。コイツは……クレスト製か……」

 

 「詳しいな」とチトセ。

 

 「ああ、見た事がある」

 

 クリフは整備機械を眺めながら答える。形は少し違うが、ジノーヴィーのガレージで見たものだ。ジノーヴィーの所にあったのは整備士の補助に使われるタイプだが、ここで使われているのは完全な自立稼働型。すなわち、ここは無人で稼働が出来るという事だ。恐らく他の場所にあるガレージも同様の機器が設置されていると思われた。

 建物の2階に上がる。そこは居住区というよりも制御室を思わせた。幾つもの端末が並んでいるだけ。

 

 「端末は動くけど……見るのは無理そうか」

 

 全ての端末は生きていたが、中身のデータ類は全て消えていた。データの収集は不可能。

 

 「どこかでモニタリングをしていた可能性はあるな。ここを放棄すると判断してこうしたのだろう」

 

 チトセはそう言って忌々しげに端末を叩く。これは他の施設も同様だろう。有用な情報が拾えるかどうか怪しくなってきた。こういう事態もここを根城にしていた連中は想定していた。実際にいたかは分からないが。

 

 「紙の資料とかのアナログな情報源も見当たらないな。マジで人の居る気配が感じられねぇ」

 「探るとすれば地下だろうが、街全体を探るには時間がいる。もっとも、それがあったとしてもこの用意周到さからして既に埋めている可能性はあるが……」

 

 部屋を一回りしたクリフの溜息交じりの声にケインズは窓の外に映る街の姿を見ながらそう言った。街としては小規模ではあるが、この街全体を見るには現在の調査隊では人数も時間も足りない。

 

 「この建物には有力な情報は無さそうね。次の調査ポイントへ行きましょう」

 「そうしようぜ。他の所でちょっとくらいは拾えることを期待しようや」

 

 こうして3人は一度建物から出る事にした。外に出ると、紺色のACが丁度、目の前を通り過ぎていく。クリフは手を振ってみるが、パイロットがそれに気が付いた様子は無さそうだった。

 

 

 残りの調査ポイントに向かったが、いずれも実のある情報を得ることが出来なかった。分かったのは、この街の機能の大半は無人で稼働していて、それが出来る技術力と資金がある。そしてこれを他者に知られるのを極力嫌がっていたという事だ。

 恐らく他のポイントの調査していたチームも同様の結果だろう。クリフは自分含めてのリサーチャーを使った調査は今回のところ、上手くいっていないと察した。

 道路の片隅にあったベンチに腰を下ろすと煙草に火を点ける。調査ポイントは全て回ったのでもう文句は無いだろう、紫煙を空へ向かって吐き出した。疲労感が煙と共に飛んでいくようで気持ちが少し軽くなる。暫く夜空を眺めながら煙草を吹かす。幾千の星──中には妙に赤く輝く星──が瞬いているのが見えた。

 装甲車の方を見やると、ケインズがライフルを降ろして点検していた。

 

 「今回のところは出番が無かったようだな」

 

 ベンチから立ち、短くなった煙草を消すと、クリフは装甲車の方に向かいながら声を掛ける。

 

 「だが、死人は出なかった。──それは良いだろう」

 

 手早く点検を終わらせてライフルをケースに仕舞うとケインズはそう言い放った。

 

 「ここまで人の気配が全く無いとはね……バーテックスも想定しなかったろうな」

 「シェインが苦い顔をするのは想像できる」

 「だろうな。空振りってわけじゃねぇが、当たりは弱い」

 

 クリフは新しい煙草に火を灯し、ケインズに箱を差し出す。ケインズは1本取り出して口に咥えた。それに火を灯してやる。

 

 「思っていたより面倒くさいな、こりゃ」

 

 装甲車の向こうで決して明るくない表情で通信のやり取りをしているチトセを見てクリフはそう呟いた。

 

 「どうでもいいという訳じゃないが、俺は報酬が支払われてくれればそれでいい」

 「雇われか。バーテックスって金払いは良いのかい?」

 「規模相応だ」

 「──良いってことか」

 

 ケインズはそれに答えず、紫煙を大きく吐き出すだけだった。表情は深く被ったキャップで読みにくい。

 

 「今回の報酬は期待できそうにねぇな」

 「もう決まっている」

 「お前さんじゃねぇ、俺だよ。十分な情報が集まらなかったんだ。精査も碌に出来なさそうだしな。大見得切ったっていうのに、呆れられるよ。半分に値切られても文句は言えねぇ」

 

 自嘲気味に笑みを浮かべてクリフも大きく紫煙を吐き出した。

 チトセが戻ってきた。景気の良い会話で無かったのは暗めの表情ですぐに分かる。

 

 「もう1ヶ所見て欲しいとのことだ。準備を──」

 

 その言葉を聞いて、クリフは大きく肩をすくめ、ケインズはケースに仕舞っていたライフルを出し直す。帰るのは少し先になるようだ。互いに吸っていた煙草を吐き捨てた。

 目的地は中心部から更に北に造られた複数の建物。他のチームも合流するとの事だ。車に乗り込む。

 発進寸前、クリフは道路の脇に転がっているMTの残骸を見て、ふとある事を思い付いた。

 

 「そういや、残骸って調べたチームはあるのかい? シトセさん」

 「──チトセだ。……いや、そこまではやるとは……」

 「悪かった。──施設の方に目が行き過ぎて俺もすっかり抜けていたよ。機体残骸も見ておいた方が良い。製造番号があればそれでどこに卸したとかある程度見当がつく。連中の後ろ盾が見える可能性があるってことさ」

 

 クリフは車から降りると、チトセの制止も聞かずにMTの残骸に近づく。MTには各メーカーとも機体の幾つかの箇所に製造番号が刻印されている筈だ。

 機種は<MT10-BAT>。胴体後方、腕部、脚部にそれぞれ刻印していたと記憶している。だが、墜落した時の衝撃で胴体が潰されて、全身が激しく損傷している機体だ。ライトで照らして探してみるが、黒焦げで原型が殆ど留めていない残骸。そう簡単に判別が出来る状態ではなかった。

 

 「こりゃ、ダメだ。──なぁ……これは提案だけど、施設に向かわせるのは1チームだけにして、他のチームは残骸の調査をさせてみないか? レイヴンのオペレーターに協力してもらえば、MTを撃破した地点を確認出来る。時間はそんなに掛からないと思うぜ」

 

 一度はクリフを引っ張ろうと考えていたチトセはその言葉を聞いて少しの間思案して「検討しよう」と言って車に戻り、確認を取ることにした。

 暫くしてチトセから声が掛かる。

 

 「リサーチャー。あなたの提案を受け入れるとの事だ。これからチームごとに割り振ったMTの撃破ポイントに向かい、残骸から製造番号の確認をする」

 「そりゃよかった。じゃあ行くとするか」

 

 似た様なことをしても、違う結果が出てくるのは確率としては低い。ここはやってみる価値はある。

 

 

 予想よりも時間は掛かったが、MTの残骸の確認が一通り終わった。

 今は他のチームとの結果を突き合わせている最中だが、結果は想像通りだろうとクリフは思った。

 機体は全機、無人機。そして製造番号が付いた機体が無い。

 これがクリフたちが見た結果であった。

 残骸を確認して見られる箇所は全て見たが、結局はどの機体も製造番号は確認出来なかった。そして、辛うじて覗けたコクピットの中は人の乗っていた形跡は全く無かった。原型を留めていない機体もあったが、状況が違っても結果は同じだろう。

 クリフは装甲車のドアに寄り掛かり、3本目の煙草を吸う。上を見上げると、夜空に少し雲がかかり始めていた。

 

 「全チームの結果が取れた。パイロットの搭乗形跡及び、製造番号が確認出来る機体は……無しだ」

 

 チトセが報せてきた。「やはりか」とクリフは小さく呟いて頷く。

 

 「これが他のチームが撮った機体の状態。あるべきところに刻印は無かった」

 「まあ、予想していた通りだな。やれそうなら残骸の回収もしておいた方が良い気がする」

 

 渡されたタブレット端末には機体残骸の写真。いずれも製造番号の刻印が無いパーツ、または無人のコクピットが写されている。

 

 「胡散臭さが更に上がった。ある意味面白れぇ。調べ甲斐はあるよ」

 

 写真を一通り見てクリフはタブレットを返す。ああは言ったが、実際は面白いというより怖いという感情の方が大きい。つい数時間前に命の危機に見舞われた身として尚更であった。また紫煙を大きく吐き出す。

 

 「シェインと話せるかい?」

 「なんでだ?」

 

 チトセが警戒した表情を見せる。よく見るとまだ幼さが残る顔つきをしていた。シェインは一応上司にあたる人間だと聞いている。

 

 「仕事の話さ。契約上、調査中に不確定要素があれば依頼主と直接確認しても良いという事項がある。依頼を取り纏めているのはシェインだ」

 

 「それなら良いでしょう」とチトセは通信機を渡す。それを受け取り、クリフは早速声を掛けてみた。

 

 「よう、シェイン。ちょっと余計な手間を掛けさせたな。許可してくれて感謝するよ」

 『──クリフね。丁度、あなたと話したいと思っていたところよ』

 

 通信機越しからシェインの声が聞こえる。思っていたより穏やかであった。

 

 『こちらでも一通り確認した。思っていたより、根が深そうね。今回得られた情報は少し乏しいけど、向こうは正体を探られない様に徹底的に痕跡を消しているから、それは仕方が無いと捉えておきましょう』

 「でも、ある意味それが正体を示しているかもな。これだけのことをやれるんだ。間違いなく旧企業のどれかが裏にいる」

 『先にも言ったけど予想通りね。驚かない。ただ、レイヴンのACとこちらのMTのカメラログも見たけどどの機体も部隊章なんて付けていなかった』

 「それは織り込み済みだ。どうせそんなもんハナから付けちゃいねぇ。とりあえず、特攻兵器襲来後に消息を絶った企業軍の部隊と将校に技術者のリストを洗い出しておこうか。それでも正体を探るにはもう少し時間が掛かるぜ、これは」

 『2日だけ時間を与えるから、それまでに纏めておいて。それで報酬は満額支払いましょう。ダメなら半額。今回得られた情報量だと、それが妥当だと思わない?』

 

 そうきたか、とクリフは肩をすくめた。向こうの方が一枚上手だったとはいえ、この結果では文句は言いたくても言えない。「あいよ」と返しておく。ゴネても無理だろう。ましてや相手はバーテックス。下手うって敵に回したくない。

 通信機をチトセに返して、新しい煙草に火を点ける。これで4本目。吸うペースが速い。感情がネガティブな方へ向くと、こうなる。それは報酬の事ではなく、この奇妙な連中の事だ。

 自分の縄張りを勝手に造って抗争に目もくれない。近づく者だけ攻撃。踏み込まれれば、痕跡を極力消して消える。技術力はあるが、どういう意図があるのか、全くもって不明。ただでさえ混迷している今の情勢にどう関わっていこうとしているのか。考えると疑問が増える一方だ。

 こんな連中とにらみ合いをしていたロドリゴたちがもしこれを見たらどう反応するのだろうか。紫煙を空に吐き出しながら彼らの顔を思い浮かべる。

 その時、クリフは最初に基地に招かれた時の言葉をふと思い出す。連中が現れたのはバーテックスが蜂起した頃だというが、そんな短時間でここまでのモノが築けるのか。いくら技術力があるとはいえ、少し無理がある。それにアルバトロスは本当にここを根城としていたのか。

 煙草を吐き捨てて車内に戻ると、バッグに入れていた端末を立ち上げて、もう一度調べ直してみる。

 アルバトロスの直近の戦闘記録は前も見た通り、バーテックスの蜂起直後。交戦ポイントの座標はメイシュウシティ近郊で間違いなかった。それは以前確認しており、リサーチャーのデータベースにも載っている。

 だが、それ以前は確認していない。直近の記録で判断してしまったクリフのミスであった。もう一度確認してみると、すぐに結果が出て来た。メイシュウシティ近郊での戦闘より10日前にアライアンスの小規模な関連施設への攻撃を行っている。しかし、交戦ポイントの座標はメイシュウシティから大きく離れた所を差していた。

 その頃の主な攻撃対象はアライアンスだと思うが、輸送機を使って数時間もかかる場所。それも小規模施設を攻撃する為にわざわざメイシュウシティから移動をするとは思えない。それ以前の記録も複数あった。これも大体は同様の内容。そして交戦ポイントの座標はいずれも小規模施設から近い場所で、彼らの規模であればこちらの方が行動範囲内で収まりそうに思えた。その中にはグリーン・ホーンの組織が行った大規模攻勢作戦に参加していたという記述もある。

 それを踏まえると、ロドリゴがクリフたちに話した内容に不自然さが一気に出てくる。

 ──アルバトロスは元々メイシュウシティを拠点にしていない。

 そんな考えが頭によぎる。ただ、何の為にそんなウソを言ったのか。アルバトロスが何故こんなに離れた場所に攻撃をしてきたのか。頭の中でなかなか結び付きそうにない。分かるのはレナシミエントがメイシュウシティ、いやここに居た連中と何か因縁があったかもしれないという事だ。

 直接聞いてみる必要がある。レナシミエントの人間に、だ。ロドリゴの副官は戦闘に参加せずに非戦闘員の撤退の指揮を執っていた。コンタクトを取る必要があるが、どこへ行ったのかを確認しなければならない。

 ついでにすぐ聞けそうな人物が思い付いた。現在この任務に就いているユーグ解放戦線のパイロットだ。彼らはレナシミエントと対立し、一時休戦もしていた。コンタクトがあったかもしれないのだ。聞けるならば今しかない。

 車に戻り、もう一度通信機を借りようとチトセに声を掛けようとした時、遠くで爆発音。

 

 「攻撃か?」

 

 ケインズは咄嗟にエンジンをかけて、車を後退させる。遠くに火柱が複数見えた。

 

 「……待って。……北の方で追加調査していたチームが攻撃された。まずは安全の確保をしろとのことだ」

 「どこからだ」

 「不明。攻撃を受けたチームからの応答がない。でも、この状況なら大方予想はつくでしょう」

 

 ケインズの問いにチトセが努めて冷静に答えるが、言葉の端には焦燥さが伺えた。

 

 「せめて、戦力くらいは分かればいいが……」

 

 急な発進で狭いシートの上で転がっていたクリフは窓の外を見やる。近くで哨戒していたMTが攻撃のあった方へ向かっていくのが見えた。

 

 「なんなんだよ……オイ……」

 

 この状況が一刻でも早く終わることを祈るしかない。紺色のACが見える。せっかく生き長らえた命をここで落としてたまるかとクリフはその機体に願いを託した。

 

 

    *     *     *

 

 大きな爆発音と火柱。その様子がモニターの片隅に映る。

 「攻撃か」とヴィラス。機体を軽くするために弾切れになっていた肩部の連動ミサイルをパージする。既に僚機のMTが1機、攻撃地点の近くに居たので向かうと通信が入っていた。

 

 『迎撃をお願い。調査チームの被害を抑えるのを優先にしてとの事よ』

 

 フットペダルを踏み込み、ブースターの出力を全開にしてヴィラスは<ヴェスペロ>を飛ばした。攻撃のあった方を向けると一瞬だけ大きなブースター炎を視認。

 

 『熱源反応の大きさからACと思われるわ。でも、1機だけね』

 

 その時、マシンガンと思しき射線が1本、地上から空に向かって伸びるのが見えた。再びブースター炎が煌めくと同時にそれに照らされて人型の機影も確認。

 

 「ルシーナの言う通り、ACだ。ここに居た連中のか?」

 『バーテックスの方はちょっと混乱しているみたいね、応答がない。こちらで機体の照合……』

 

 遠くで青い閃光が地上に落ちる。同時に火球が1つ地上で咲いた。

 

 『アルファ6が撃破された』

 

 再び青い閃光。今度は別の場所に落ちて、火柱が複数あがる。地上の施設を攻撃しているように見えた。これでは調査チームが攻撃に巻き込まれて危ない。

 オーバードブーストを起動。メイン武器をミサイルランチャーに変更。敵機を射程内に捉える。ロックオン完了。ヴィラスがトリガーを引くと4発のミサイルが発射される。

 施設への攻撃をしていた敵機も気が付いたのだろう、攻撃を中断してブースト機動で回避行動に入る。ブースター炎が八の字に似た動きを見せてミサイルをひらりと躱していった。

 ロックオン警告。機体を横にスライド。青い閃光が左肩を掠めていく。これは高出力レーザーだ。更に第二撃。機体を切り返してそれも回避する。

 敵機が急接近。左腕から青い光刃が伸びるのが見える。ロケットランチャーに切り替えながらバックステップして放つ。当たりはしなかったが、ブレードを構えていた敵機がそれに一瞬怯み、光刃の動きがブレた。コアの装甲を僅かに焼くだけに留まった。

 

 「コイツは……」

 

 炎に照らされて浮かび上がったその姿は知っていた。白いカラーリングに天使のエンブレム。セントラル・アークで交戦した機体だ。

 

 <十字架の天使>

 

 ヴィラスは小さく歯ぎしりさせながらモニターに映る白いACの姿を睨みつけた。

 

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