ARMORED CORE LAST RAVEN ~Unsung Overture~ 作:唯名瞬
レクタス平原。
宵闇の空と同じ色が大地を包み始め、静寂が支配する。
地平線へ沈みゆく太陽が放つ弱々しい光に照らされた大地には5つのACの姿があった。
そして、そのACを囲むように幾多のMT、そしてACの残骸が転がっている。
つい先刻までここではアライアンスと複数の武装勢力で組まれた連合部隊との大規模な戦闘が行われていた。
レイヴンのグリーン・ホーンが率いる独立武装組織が反アライアンスを掲げる複数の武装組織と連合を組んでアライアンスの前線基地への襲撃を企てていた。
反アライアンス組織のエージェントを名乗る人物から得た情報を利用し、複数のアライアンス関連施設への同時多発攻撃。それによって起こる混乱に乗じてアライアンスの重要拠点へ強襲を仕掛けて制圧しようという計画だった。
いつかは大規模勢力を築き、そしてアライアンスと対等に戦うことの出来る力を欲したいと考えている若きレイヴン。傭兵稼業で得たコネと知識を生かし、地道ながらもその勢力を伸ばしていた。
今回の作戦もレイヴンズアークに所属していた時期に築いた独自のコミュニティーで連合を組むことに成功し、自分の名実を彼らに広めるチャンスでもあった。ランキングこそはバラバラだが、かつてアークに所属していたレイヴンも複数参加している。基地の1つや2つ奪取するのは容易い。そう彼は確信していた。
しかし、そのやり方も彼が超えようとしているレイヴン”ジャック・O”に比べればまだまだ未熟で、そして何より、戦う相手があまりにも悪すぎたのが彼、グリーン・ホーンにとって大誤算であった。連合部隊の進軍ルートであるレクタス平原で待ち構えていた敵部隊と接触してそれを思い知らされることとなる。
その相手とは、レイヴンズアークの上位ランクのレイヴンと各企業軍のエースパイロットを中心に構成された部隊で、アライアンスの部隊の中でも最高の実力と戦力を持っているとされる”アライアンス戦術部隊”であった。
アライアンスのあらゆる軍事作戦に於いて確実に成功を収めている彼らはアライアンスの力の象徴とも言える。その誇りとも言うべきか、彼らの機体に付けているアライアンスのエンブレムは青ではなく金色に輝いていた。
そんな彼ら、アライアンス戦術部隊にとってはグリーン・ホーンが率いる連合部隊など烏合の衆に過ぎなかった。戦闘開始から僅か20分足らずで彼らの戦力と比べて5倍以上の戦力を揃えていた筈の連合部隊は壊滅状態に陥ってしまう。だが、連合部隊を率いていたグリーン・ホーンは勝機が無いとみるや、早々に部下を引き連れて撤退することに成功していた。
組織を生き長らえさせる為には賢明な判断ではあったが、敗走する愛機<ホットスパー>のコクピット内で重々しく舌打ちをし、苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべるグリーン・ホーンにとってはあまりにも手痛すぎる敗北であり、己の実力不相応の行動を起こした代償はあまりにも大きすぎた。
それでも彼は諦めるという選択はしない。諦めるという事はこれまでの自分の否定であり、何も無い荒野で野垂れ死ぬ事。例え無残な敗北をしようとも”生”にしがみ付き、戦い続けなければ己の理想を手にすることは出来ない。
「──こんなんじゃこの先生き残れないな……」
グリーン・ホーンは口の中で小さくそう呟いた。
“生き残る”
今、この戦場を駆け抜けている誰もが望んでいる事。この若い鴉は生き延び、己の持つ爪を更に研ぎ澄ませて再び戻ってくることを強く誓った。
* * *
自分たちの倍以上の数の戦力を相手にした筈にも拘わらず、傷らしい傷は殆ど負っていないのは、搭乗している機体の性能もさることながら、彼らの実力の高さ所以であろう。完膚なきまでに破壊された連合部隊のACやMT等とは対照的に戦術部隊側の5機のACは健在であった。
『こちらのMT部隊の撤収が完了しました。後は我々だけです』
『──了解だ。よし、作戦は完了した。帰還するぞ』
隊長機と思われる青と白のカラーリングがされた中量二脚型ACは帰還するというサインを機体の身振りを使って送ると、他のACはそれに応えるようにブースターを吹かし、この場を去っていった。
しかしただ1機だけ、この宵闇の空と同じ紺色に染めた中量二脚型ACだけは他の隊員が立ち去っていった逆の方向へ機体を向けた。この紺色のACは戦術部隊所属機ではなく、彼らに雇われたレイヴンの機体であった。機体の左肩には「夜空に染まりゆく翼と鴉」のエンブレムが付けられている。
『……レイヴン』
紺色のACを操縦するレイヴンのヘルメットに隊長機からの通信の声が入ってくる。声の主はアライアンス戦術部隊司令を務める”エヴァンジェ”からであった。パイロットは改めて機体を向き直すと、エヴァンジェの愛機<オラクル>がその場に留まっており、彼の補佐を務める”トロット・S・スパー”の駆る四脚型AC<バリオス・クサントス>と共にいた。
「エヴァンジェ……」
『”ヴィラス”といったな。ご苦労だった……と言いたいところだが、ひとつ言っておきたいことがあってな……』
「──何だ?」
『敵ACを2、3機程度は無力化してパイロットを投降させると私は言った筈だ。だが、お前が攻撃を続行した所為でACパイロットの捕獲が出来ず仕舞いだ』
「そうか。だが敵は俺に銃口を向けていた。向こう側に反撃の意思があると判断して俺は倒しただけだ」
ヴィラスと呼ばれたレイヴンはこれが当たり前であるかのように愛想の無い口調で返した。若い男の声だ。
『貴様! 隊長に向かって!』
隊長であるエヴァンジェに対してヴィラスが明らかに無礼な態度を取っているように感じ、トロット・S・スパーは声を荒げて激昂するが、エヴァンジェはそれを「待て」と小さく声を出して制止させた。
『奴らからグリーン・ホーンの組織の情報を引き出すつもりだったのだが、お前のせいで台無しだ。もう少しスマートに出来なかったのか? 加減というものを知っておけ』
「なら、あんたがやるべきだったな。相手がこちらに敵意を向けている以上、トリガーを引かなければやられている。俺は死ぬつもりはない」
『実にレイヴンらしい答えだが、依頼主である我々の指示にはちゃんと従ってもらいたいものだな』
ヴィラスは静かに答える。相変わらず無愛想な態度は崩さないままだ。
それに対してエヴァンジェはヴィラスの態度に対して別段怒りを露わにすることなく余裕のある表情で返答するが、隣にいるトロット・S・スパーはエヴァンジェとは対照的に不愉快そうな表情をコクピットの中で浮かべていた。隊長補佐である彼からすれば、敬愛する隊長へ対する敬意が欠けている様に見えるヴィラスの振る舞いが気に入らないのだろう。
「グリーン・ホーンをむざむざと取り逃がさなければこんな事にはならなかっただろ。それにその命令は戦闘中にしてきたな? 依頼主の間抜けな追加注文の所為で下手な加減をした挙句、敵に殺されるなんていうのはごめんだ。俺には状況によって命令を拒否する権利がある」
『では、今度依頼する際はもっとシンプルな内容で依頼をさせてもらうとしよう。敵の殲滅だけであればお前に任せられるからな』
「あんたが横からごちゃごちゃと口出ししなければ良いだけだ」
『……まあ、いいだろう。次は敵として現れないことを祈っているぞ。レイヴン』
それは本心ではないだろうと、ヴィラスは思った。元々、敵になり得る者同士だったのだから共闘した事など無かったかのようにエヴァンジェは躊躇うことなく引き金を引く。彼はそれが出来る人物だ。
遠くからローター音が聞こえてくる。ヴィラスのACを回収するために来た輸送ヘリ<クランウェル>のものだった。紺色のACは<クランウェル>のフックに固定されると、自分のねぐらへ戻るために飛び去っていく。エヴァンジェとトロット・S・スパーはそれを見送った。
『隊長、いいのですか? あのレイヴンは……!』
明らかに苛立った様子のトロット・S・スパーの声がエヴァンジェのヘルメットに入ってくる。
「奴の態度か? 別に構わないさ。レイヴンなんてそんなものだろう。あんな奴はごまんといる。そんな事でいちいち腹を立てる必要も無い」
エヴァンジェはそう言ってトロット・S・スパーを宥めた。こう宥めさせなければ基地に帰還するまでの間、あのレイヴンへ対する呪詛じみた言葉を延々と聞かされることになりそうだったからだ。補佐として、レイヴンとしてもまずまずの優秀さはあるが、時折見せる精神的に稚拙な部分は自分よりも戦場を駆ける経験が少ないせいもあるのかもしれない。
「──ま、もう少し素直であれば良かったのだが」
首に掛けていたロザリオを外し、それを手の中で玩びながらエヴァンジェはモニター越しに小さくなっていく<クランウェル>の姿を見ながら呟き、口元に小さく笑みを浮かべた。
24歳という若さでアライアンス戦術部隊司令という肩書きを手に入れた天才レイヴン。
だが、天才と持て囃され続けてもそれに甘んじることも無く、常に死と隣り合わせの戦場に立ち続けて戦い抜いてきたからこそ得られた結果である。それでも飽くなき力の探求が留まることの無いのは、アーク所属時代に二度も自身を敗北させたレイヴンの存在。だが戦いの場が興行のアリーナであったからこその結果であり、もし戦場であれば一度目の敗北で死んでいたのかもしれない。
その敗北はこれまでの自分を否定されたにも等しかった。相手は自分よりもまだ若く、同時期にレイヴンになった者。そしてその結果に相手のレイヴン本人はさして気にかけた様子でなかったと知り、屈辱の炎を更に大きくさせた。そのレイヴンを超える為にアークを抜け、ミラージュ社専属ACパイロットとなり、更には強化人間になる為の手術を受けて、戦闘技術を磨くことに専念した。
しかし、そのレイヴンと再戦することは叶わなかった。特攻兵器襲来によって彼──または彼女──の生死は不明。結局は自分を打ち負かしたレイヴンを超えるという目標が成就せず終わってしまった事になる。ならば敵対勢力全てを倒し、自らの力を今生き残っている全てのレイヴンに見せ付ける。それが彼、エヴァンジェの存在理由になっていた。戦術部隊司令という立場もその目的の過程にしか過ぎなかった。
そんな彼がヴィラスに対して妙な感覚を覚えたのはあのレイヴンに似ている気がしたからだった。戦い方が似ている訳ではない。自身への接し方、戦場での立ち回り方というべきか。雰囲気がよく似ている。レイヴンになって数か月でランクを中位帯まで上げるという成長の早さもそっくりだった。
あのレイヴンと何か関係あるかもしれないが、そこまで深く突っ込もうとは思わなかった。赤の他人であればそれまでだ。だが、少しは手応えがありそうなレイヴンに出会えたなとエヴァンジェは思った。あのレイヴンもいつかは自分の足元に跪くだろう。
「いずれ見せてやるさ。”ドミナント”の力を……あいつらに……」
意味深げに呟いたその言葉はあまりにも小さすぎて誰にも届くことは無かった。
そして、<オラクル>と<バリオス・クサントス>も自分のねぐらである基地へと戻るため、宵闇に沈む平原から去っていった。
* * *
特攻兵器の襲来によって、レイヴンを統括していたレイヴンズアークもその機能を一度は停止したが、生き残った一部のメンバーによって活動を再開するという情報が出た。
本部は壊滅してしまったが、各地の生き残っていた支部やACガレージを通じてネットワークが復旧。僅かながらその機能を復活し始めたという。これにより拠り所が出来るという事で各地を彷徨っていた生き残りのレイヴンたちが一気に活気づく。
だが、主宰であったジャック・Oが居なくなったこの組織は特攻兵器襲来以前まで見せていた絶大な影響力は最早無いも同然であった。共用ガレージ等の所有権を巡ってのレイヴン同士の衝突も起きている状況を止める力は今のメンバーには残っておらず、辛うじて組織として体を為しているに過ぎない。生きるも滅ぶも所属していくであろうレイヴンたち次第であった。
ACガレージ・S24エリア。アークが管理していたAC用ガレージ。
現在は複数のレイヴンが共同で管理をしている。抗争により徐々に数が減っていくアーク管理のACガレージの中では未だ健在なガレージのひとつであった。
<クランウェル>に運ばれてきた紺色のACがガレージに到着した。機体を所定位置に固定すると、床が下へスライド。そのまま地下の整備ブースへと移動する。
整備ブースには他にも数機のACが整備班によって機体の整備を受けている最中だった。全高が最大で10メートル近くになるACが複数並び立つその様は巨人の住処というべきであり、まさに圧巻の一言であった。
コクピットハッチが開き、暗かったコクピットに光が差し込んでくる。視界の先にはコンクリートの天井と壁。そしてそれらを照らす照明。
ヴィラスはコクピットから出ると、照らされた光に思わず手をかざす。そして少し体を伸ばし、新鮮な空気を求めて深呼吸をした。コクピットにも空気清浄装置が備えられているが、外の雑多な空気の方が戦闘中自分の中に押し込めていた感情を肺の中の空気と共に全て押し出してくれるようで心地良かった。
ヘルメットを脱ぐと露になるライトブラウンの髪。それを撫で付けるヴィラスの横顔はまだ少年の面影を微かに残している。キャットウォークに降りると機体の状態チェックをするために整備班が集まってきた。ヴィラスは彼らに機体を預ける。ここから先は整備班の仕事だ。
ふとヴィラスは自分の乗っていた機体に目を向けた。整備士たちは機体整備の為の指示を出し合い、作業を進めている。元々は企業やアークで整備士として働いていた者たちだ。彼らの的確な動きを見れば、次の出撃も機体は何の支障も無く動けそうだと一目で判る。
「お疲れ様。ヴィラス」
横から若い女性の声に気づき、ヴィラスは振り向いた。振り向いた先には声の主である女性。背中まで掛かるプラチナブロンドの髪を後ろでまとめたポニーテールが印象的だ。彼女もまた女性というよりも、まだ少女の面影がある。
彼女の名は"ルシーナ・フローベルガー"。ヴィラスの相方とも言える戦術オペレーターだ。元々アークのオペレーターであったが、配属初日に特攻兵器の襲来が発生。そのまま帰る場所を失い、彷徨っていたところをこのガレージに辿り着き、現在に至る。ヴィラスとの付き合いもそこからだった。
「これが今日の結果よ」
ルシーナは手に抱えていたタブレット端末の画面をヴィラスに見せた。画面には先程の任務の結果とその報酬による収支報告が記載されている。本来であればこの仕事はオペレーターではなくアークのエージェントがやるべき仕事なのだが、この状況下では人手は足りていない。なので、各ガレージではオペレーターや整備士、レイヴンも関係なく平等にやっていこうという気運が生まれていた。現にヴィラスも機体整備の手伝いを行うこともある。
「今日の戦果はMT13機、ヘリ、戦闘車両合わせて19機。そして、AC2機。その内の1機については懸賞金が付いているレイヴンね。下位クラスのレイヴンだけど、懸賞金の26,000コームは大きいわね」
そう話すルシーナの声は嬉しそうだった。パートナーが無事に生きて帰って来た事はオペレーターにとっては喜ばしい事である。ルシーナにとってヴィラスは初めてのパートナーであるのだからその喜びも大きい。アークの規定でレイヴンとはプライベートでのコンタクトは禁止されていた。だからこそ、こうして本物のレイヴンという存在を目の当たりに出来る機会は彼女にとっては新鮮だった。
ヴィラスは撃破した機体の詳細を見る。ACの内1機はレイヴンでもない素人らしき者が搭乗していたらしいが、残りの1機はルシーナの言う通り、レイヴン歴こそヴィラスより長いが、長年下位ランクに留まり続けていたお世辞にも腕が良いとは言えないレイヴン。それを記載した文字列を指でなぞり、ヴィラスは小さく溜息を吐く。
「資金は結構溜まってきたけど、パーツの購入はどうするの?」
「カタログを見て判断する。使えそうなものがあれば頼むよ」
「わかった。じゃあゆっくり休んでね」
そういってルシーナは持っていたバスケットをヴィラスに差し出した。中身はコーヒーが入ったポッドとハムサンドが入っている。任務後は小腹が空くからこういった軽食は腹を満たすには丁度良く、ヴィラスにとってはありがたいものだった。ルシーナと挨拶代わりの軽いハグをするとヴィラスは宿舎に戻った。
ガレージの宿舎にある自分の部屋に備え付けのベッドでヴィラスは横になっていた。シャワーを浴び、軽く食事を済ませた後はずっとこのままでいた。部屋の中は机と椅子。そして備え付けのベッド以外は何もない殺風景な部屋だ。控えめに動いている空調の音もこの静かな部屋の中では一際大きく聞こえる。
横になっているとは言え、ヴィラスは眠りに就く事無く、ただ天井を見つめながら先程の戦いを思い出していた。
──自機が発射したロケット弾の直撃を受けた連合部隊のACが頭部と左腕を吹き飛ばされて擱座する。もはや機体は動く事が出来ない。だが、敵ACの右腕に持たされたバズーカは自機に向けられていた。
敵ACのパイロットはまだ戦意を喪失していない。バズーカのマガジンには弾はまだ残っている。モニターにはロックオン警告が表示されていた。だから自分は迷うことなく自機の右腕に装備したリニアライフルを敵機のコクピットに向けて発射した。もしそこで戦意はもう無いと判断して攻撃を止めていれば自分がやられていただろう。
自分が対峙した他の連合部隊の機体もそうだった。グリーン・ホーンの様に退くという選択肢があれば良かったが、それを失えば最後まで戦うしかない。そうでなければ生き残ることが出来ないからだ。
投降させろと命令されても、彼らは最期まで敵意を向けていた。非情と言われようが、戦場で中途半端な情けは自分を殺す事になる。自分は死ぬ為にいるのではない。生きる為に戦場に立つ。主義主張の声だけを大にして叫ぶような連中に振り回される生き方ではなく、己の意志で動く為。そして自分は──
突然、ヴィラスの思考に割り込むようにベッド脇の壁に備えられた内線の呼び出し音が鳴り響く。ヴィラスは起き上がって、受話器を取った。内線はルシーナからだった。
『アライアンスから緊急の依頼が届いたけど、見ておく?』
「そうだな。こちらに回してくれ。確認する」
『内容は多分、先程の連合部隊残党の掃討だと思う。じゃあ、端末に送っておくね』
ルシーナがそう言うと内線が切れる。程なくして、デスクの上に置いてある情報端末にブリーフィングシステムへ新着の依頼が来たことを伝える電子音が鳴る。ヴィラスはシステムを起動して、依頼の内容を確認した。
内容はルシーナの予想通りであった。依頼名は「残党部隊迎撃」。先程、戦闘した連合部隊の残党らしき部隊がレクタス平原から西へ120キロ程離れた所で動いていて、移動ルートから再びアライアンスの基地を襲う可能性があるのでそれの迎撃に向かって欲しいとの事だった。
報酬額は74,000コーム。悪くない金額だ。受託すると返信をすると、ヴィラスはそのまま端末のアセンブルソフトを起動させた。
腕部を<CR-A88FG>、脚部をフロート型の<CR-LM85>に変更。右腕は<WR07M-PIXIE3>、右背部には<WB01M-MYMPHE>、肩部エクステンションに<CR-E84RM2>、インサイドは<I04E-SQUID>を選択した。コアも損傷しているので変更すべきか迷ったが、損傷自体は軽微で、装甲板の交換で済むという報告は受けているし、インナーパーツの交換に時間が掛かるのでやめることにした。
頭部<CR-H97XS-EYE>とコア<C03-HELIOS>を基礎として、腕部と脚部。そして武装を作戦によって変えるのがヴィラスの基本的なACの運用の仕方だ。
作成したデータをガレージで作業中の整備班に送信する。装備の換装だけなので20分もあれば終わるだろう。ヴィラスは依頼メールに受諾の返事を送った。
ポッドの中のコーヒーをカップに注いで、それをゆっくりと味わうように飲む。砂糖を多めに入れたコーヒーはまだ疲労が少し残る体を起こすのには充分なほどに効いた。
* * *
<クランウェル>の懸架フックの固定が解除され、ヴィラスのACが降下する。ホバーによって浮遊するフロート型の脚部は着地時の衝撃と全くの無縁で難無く地面に降り立った。既に太陽は沈み、代わりに青白い月が平原を見下ろすように照らしていた。
ヴィラスはレーダーディスプレイに目を見やる。レーダーの端には敵を示す輝点が現れていた。依頼にあった残党部隊と思しき勢力だろう。
『敵勢力の無力化をお願い。敵部隊のデータを送るわ。アライアンスからの情報だとMT8機と未確認だけどACが1機いるとのことよ』
ヘルメットからルシーナの声が聞こえると、モニターの一角に敵戦力のデータが表示される。敵は<CR-MT85M>と<CR-MT77M>で編成された部隊だ。アライアンスからの情報では8機であるが、レーダー上には3機しか表示されていない。恐らく残りはまだレーダーの範囲外にいるのだろう。ACの情報が無いのはアライアンスがまだ機体情報の確認中で、詳細が分かっていないせいだ。
「了解。いくぞ、<ヴェスペロ>」
《メインシステム 戦闘モード 起動します》
無機質なコンピュータの合成音声が火器管制機器のロック及びコア機能の制限を解除したことを告げた。それは任務開始を意味する。ヴィラスの乗機<ヴェスペロ>の頭部<CR-H97XS-EYE>のカメラアイが翡翠色に鋭く輝いた。
<CR-LM85>の内蔵ブースターによる軽快な動きで敵部隊に接近する。それに察知したのだろう、レーダー上の輝点が自機に向けて動くのが見えた。モニターにも小さく敵影が見えてくる。
ヴィラスは武器を右背部のミサイルランチャーに切り替えて前方に捉えた3機の<CR-MT85M>をロックオンする。各機に2発ずつ発射されるように調整、マーカーが赤になった瞬間にトリガーを引く。6発のミサイルが敵機に向けて放たれた。
3機の<CR-MT85M>はミサイルを確認すると、散開して回避しようとする。だが、先頭にいた1機が回避しきれず、ミサイルが直撃。機体の動きが止まる。そこをヴィラスは見逃さない。すぐさま左背部に装備したロケット砲<WB07RO-ORTHOS>に変更。動きの止まったMTへ狙いを定め、ロケット弾を2発発射。ロケット弾は真っ直ぐにMTへ直撃、爆散する。
左右に別れた2機のMTは<ヴェスペロ>に向けて右腕に持つマシンガンを撃つ。<ヴェスペロ>はフロート型脚部の特性である高い機動性を生かしてその弾幕を掻い潜ってその内の1機に狙いを定めると、マシンガンを放った。MTの前面装甲が幾つもの穴が穿ち、ジェネレータに直撃したのか大きな爆発を起こす。
後退しようとする残りの1機に追撃を掛けようとした時、レーダー上に更に5つの反応が増える。2機の<CR-MT85M>と3機の<CR-MT77M>が自機に向かって来るのが見えた。
ヴィラスはフットペダルを踏み込み、機体を加速させると同時にインサイドのトリガーを引き、肩のインサイド射出口からECMメーカーを射出。後退する<CR-MT85M>からのロックを外すと敵機右側面に回り込み、<ヴェスペロ>の左腕に装備したレーザーブレード<CR-WL79LB2>を発動させた。エメラルド色に輝く光刃が形成されて<CR-MT85M>の胴体の中心から真っ二つに切断する。
再び正面に見据えた3機の<CR-MT77M>に対してミサイルに切り替えてロックオン。今度はエクステンションの連動ミサイルも同時に発射。今度は細かく発射調整はしていないが、計10発のミサイルが3機の<CR-MT77M>に向けて飛んでいく。碌に回避行動が取れなかったMTはミサイルの直撃を受けて反撃する間もなく大破した。
後はヴィラスにとっては簡単なものだった。あっという間に僚機が撃破されて浮足立った残り2機の<CR-MT85M>の動きは隙が大きくなっている。ロックが定まらず、あてずっぽうにマシンガンを乱射するMTにロケット弾を3発撃ち込み、反転して逃げようとしていたもう1機のMTにはマシンガンの弾をマガジン1個分、MTの全身に撃ち込んだ。2つの大きな火球が夜の闇に包まれた平原に赤く咲いた。
レーダー上に敵機の反応が消える。それを確認したヴィラスは小さく息を吐いた。まだACがいる筈だ。油断は出来ない。その時、ヴィラスのヘルメットにルシーナの声が飛び込んでくる。その声は少し緊張したものだった。
『待って。敵機接近。ACよ。情報がまだ来ていないけど、注意して』
それを聞いたヴィラスは「了解」と応えて、レーダーを見やる。レーダーの端に新たな輝点が1つ表示されていた。
そしてモニターにはACの影が<ヴェスペロ>に向かってやってくるのがカメラの望遠によって確認出来た。シルエットからして重量二脚型だろう。背中からブースターの炎を噴き出しながら接近してきた。
『──敵機情報を更新。元アーク所属のレイヴン、ジェランの機体<エクリッシ>よ』
「ああ、構成は少し違うが、データベースで見たことはある」
『かなり前にアークから離反したレイヴンね。何度かトップ30以内に入り込んだことのある実力者よ。向こうは先の戦闘で消耗しているかもしれないけど、重装甲の機体に火力のある武器を装備しているから気を付けて』
ルシーナが敵機体の情報を伝えてくる。モニターにはっきりと捉えた敵ACは銀と黒の塗装を施され、機体の左肩には「月に沈み込む黒い影」のエンブレムが付けられていた。
総合ランクトップ30位圏内の所謂、ランカーと呼ばれる位置にいた事のあるレイヴン。それだけ任務達成率とアリーナでの勝率が高かったという事だ。手強い相手だという事は直ぐに分かった。
だが、向こうの機体構成に比べて<ヴェスペロ>の方が機動力は大きく上回っている。オーバードブーストを入り交ぜた高機動戦闘は自分の最も得意とするところ。それで相手を翻弄してやれば勝機は見える。
前方に対峙する<エクリッシ>から何か垂直に打ち上がるのが見えた。レーダー上に飛翔体の反応。ミサイルだ。ヴィラスはフットペダルを踏み込み、機体を加速しながら左右に揺らすように動かす。自機の真後ろと右側にミサイルが落ちるのが見える。回避に成功。
そのまま加速を続けて敵機右側に回り込む。マシンガンの射程範囲内に入ってロックオン。だが、敵機も右腕に装備したアサルトライフル<CR-WR76RA>を発射。ヴィラスは発射を止めて回避行動に移る。数発の弾丸が機体を掠めていった。今の<ヴェスペロ>の機体構成は機動性重視の為、それほど装甲が厚くない。防御スクリーンが展開しているとはいえ、当たりどころが悪ければそれが致命傷となる。
接近したことにより、敵機体の全容が分かった。クレスト製の重量級コア<CR-C83UA>を中心とした重装甲の構成。右腕にはアサルトライフル<CR-WR76RA>、左腕にはショットガン<CR-WH76S>、背部には垂直発射式ミサイル<WB18M-CENTAUR>。それに対応させるために肩部エクステンションの連動ミサイル<JIKYOH>を装備したその機体はどのレンジでも対応できるように構成されている。
『アライアンスの雇ったレイヴンか……』
ヘルメットに声が入ってくる。レイヴン間で通信するためのチャンネルが開いたのだろう。声の主は<エクリッシ>のパイロットであるジェランだ。
それには何も答えずにヴィラスはコントロールスティックを傾けた。パイロットの中には話し掛けによって動揺を誘う様なことをやってくる者もいる。敵とは無駄な話をしない。かつてヴィラスが受けた教えであった。元々舌戦は得意ではないのもあるが、戦闘に集中する為に必要なことだと心掛けている。
『よくも俺の部下を……』
震える声は怒りだろう。先に撃破したMTに搭乗していたのはジェランの部下であった。
武器をミサイルに変更、エクステンションも起動させてヴィラスは<エクリッシ>との距離を保つ様に機体を動かす。<エクリッシ>からはアサルトライフルが発射されていたが、距離をある程度取っていれば射線が読めて回避しやすい。<エクリッシ>は重量二脚型で機動力は低いため、サイトに捉えるのは難しい事ではない。ミサイルの発射準備が整った。ヴィラスはトリガーを引くとミサイルランチャーとエクステンションの連動ミサイル合わせて10発のミサイルが<エクリッシ>に向けて発射された。
『こんなもので!』
<エクリッシ>のコアに備えられた4本のミサイル迎撃システムから数条のレーザーが発射。ミサイルが次々と破壊されるが、10発のミサイルを一気に迎撃は出来ない。4発のミサイルが<エクリッシ>に命中するも、防御スクリーンが張られている上に重装甲の機体には致命傷を与えることは出来なかった。
だが、ミサイルを発射したタイミングでオーバードブーストを使って機体を<エクリッシ>に近づけたヴィラスはマシンガンに切り替えて発射。ミサイルの迎撃と回避に気を取られていた<エクリッシ>の全身に弾丸を浴びせた。コアと腕部に命中するが、多少の被弾は覚悟しているのだろう。<エクリッシ>は重装甲の機体構成を生かし、攻撃を受けながらもアサルトライフルとショットガンで反撃してくる。それを見たヴィラスは機体を後退させて再度距離を取った。同時にミサイルへ兵装を切り替える。
<エクリッシ>から垂直発射式ミサイルが、<ヴェスペロ>からミサイルがほぼ同時のタイミングで発射される。ヴィラスは<ヴェスペロ>のコア<C03-HELIOS>のオーバードブーストを起動。自機に向かって来るミサイルへの回避行動に移る。<エクリッシ>は背部のミサイルランチャーと肩部エクステンションをパージ。機体を身軽にして<ヴェスペロ>へミサイルを迎撃しながら接近。
オーバードブーストを切った<ヴェスペロ>は<エクリッシ>の左側面に位置を付けた。ミサイルをロックして発射体制を整える。それを察知した<エクリッシ>はショットガンを連続発射。散弾が<ヴェスペロ>のミサイルランチャーに命中。<ヴェスペロ>の頭部コンピュータがヴィラスにミサイルランチャーが発射不能になったことを知らせる。
ヴィラスはミサイルランチャーとエクステンションをパージ。インサイドトリガーを引き、ECMメーカーを射出。<エクリッシ>からの攻撃を遅らせようとするが、<エクリッシ>はブーストで突進してECMメーカーを破壊しながらショットガンを発射。今度は右肩の装甲が吹き飛ばされた。コンソールの部位損傷アイコンの右肩部が黄色に点滅する。接近してくる<エクリッシ>の頭部<H02-WASP2>のカメラアイが赤く煌めいているのが見えた。
『部下たちの仇、取らせてもらうぞ』
憤怒の声を上げ、尚も突進してくる<エクリッシ>に対してヴィラスはロケットランチャーに切り替えて発射。ロケット弾はほぼ正面に対峙していた<エクリッシ>の右肘から下を手に持っていたアサルトライフルごと引きちぎっていった。
敵機の動きに一瞬、動揺が見えた。好機と捉えたヴィラスはもう1発放つ。今度は右脚の付け根付近に命中。防御スクリーンが張られているとはいえ、近距離でのロケット弾の炸裂は<エクリッシ>の動きを止めるのには充分だった。
ヴィラスは一気に距離を詰めて、レーザーブレードを発動。後退を掛けようとする<エクリッシ>のショットガンの銃身を切断。更に残りのロケット弾を発射。<エクリッシ>の右肩、コア、左足にと火球が咲く。その衝撃で<エクリッシ>のバランスが崩れてよろめく。
『やった!』
勝利を確信したのか、ルシーナの歓声が聞こえる。ヴィラスはマシンガンに切り替えてマガジン内の弾を全て<エクリッシ>にぶつけた。コアにマシンガンの弾を浴びせられた<エクリッシ>はそのまま尻餅をつくように倒れる。
ほぼ決着はついた。ヴィラスは<エクリッシ>のコクピットにマシンガンの銃口を向けた。
「投降するなら今のうちだ」
アライアンスからは可能であれば投降させるようにブリーフィングで依頼されていた。後はジェラン次第だ。
『……まさか、ここまでやられるとは思わなかった……』
ヴィラスの呼びかけにジェランは自嘲気味に笑って答えたようにみえた。
『──だが』
<エクリッシ>の左腕が動く。それはコア左側のハンガーから格納していた武器を取り出す動きだった。
『俺はまだ戦えるぞ!』
左腕のハードポイントにレーザーブレードらしき武器を付けた<エクリッシ>がブースターを吹かして立ち上がった。左腕を振りかぶり、<ヴェスペロ>に接近しようとする。
『ヴィラス!』
ルシーナが叫ぶが、ヴィラスは<エクリッシ>の動きを既に察知していた。同じようにレーザーブレードを発動して近づこうとする。敵機右側に回り込めば、後れは取らない。
敵は抵抗する意思を持っていた。ならば、倒すまでだ。
その時、レーダー上に味方機を示す反応が自機右側に現れる。その瞬間、<エクリッシ>の左肘が吹き飛ばされ、同時に<エクリッシ>の機体左側面に幾つもの火球が咲く。
『……っぁあ!』
ジェランの声にならない叫びが聞こえると、<エクリッシ>が横に倒れて動かなくなる。動かなくなった機体の背面にも火球が咲き、ブースターに続いて脚部の関節も破壊される。これによって機体の引き起こしも完全に出来なくなった。
ヴィラスは咄嗟に機体を止めてその様子を見届けるしかなかった。目の前には吹き飛ばされた<エクリッシ>の左前腕が転がってきた。
『これ以上はもういいでしょう。レイヴン』
ヘルメットに若い男の声が入ってきた。ヴィラスは機体を味方機の方向に向ける。
そこには「裁きの光を降らせる天使」のエンブレムを付けたライトブルーの中量二脚型ACの姿と5機の< CR-MT98G>に数台の装甲車が後ろに控えていた。声の主はライトブルーのACからであった。ヴィラスはそのACとパイロットの名前を知っている。
アライアンス戦術部隊所属のレイヴン”ジャウザー”の駆るAC<ヘブンズレイ>。戦術部隊最年少のレイヴンであるが、才能と実力のあるレイヴンであることは知られている。そして、アライアンスが掲げる理想が正義であると盲信し、それに反目する数多くのレイヴンを葬っている事も。
『このレイヴンには色々と聞かせて頂きたい事があるので、今死なれると困るのです』
<ヘブンズレイ>の右腕に装備されたレーザーマシンガン<WH10M-SILKY>の放ったレーザーが<エクリッシ>の動きを止めたのだろう。<エクリッシ>の左肘をピンポイントで撃ち抜いたのは流石といったところだが、ジャウザーは射線に近い位置にいた筈の<ヴェスペロ>へ予告もなしに攻撃をしてきた。ヴィラスが咄嗟に機体を止めていなければ<ヴェスペロ>も攻撃に巻き込まれていたのかもしれない。
『貴方は後の事を考えずに敵を攻撃してしまうタイプだと隊長殿からは聞いていたので、止めておいてよかったですよ』
「あいつは武器を構えていた。敵に戦闘継続の意思があれば俺は反撃する」
ヴィラスはそう答えると、モニターの左端を見やる。<エクリッシ>のコアのコクピットハッチがこじ開けられて、中からパイロットスーツに身を包んだジェランが複数のアライアンス兵に掴まれているところが映されていた。ヘルメットで表情こそ見えないが、唯一露出している口元は何か叫んでいるように見えた。それはヴィラスに対してなのか、乱暴に体を抑えようとしているアライアンス兵に対してかは分からない。
『……そうでしょうね。貴方たちレイヴンは節度っていうものを本当に知らない。いっその事、あのまま突っ込んでくれた方が良かったかもしれませんね』
ジャウザーの声が怒りなのか少し低くなる。その言葉の中に彼の本音が思わず出ていた。恐らく<ヴェスペロ>を巻き込んだとしてもジャウザーはその事を全く気にしないだろう。この若いレイヴンはたとえ味方であろうが、反発する素振りを見せる者に対してはそういった暴挙をやりかねない気の短い一面がある。
『──失礼。後は我々で引き取ります。撤収してください。このレイヴンの懸賞金は支払わせて頂きます。ご苦労でした』
少し改まった態度になったジャウザーはそう言って、機体を<ヴェスペロ>から背を向けた。その先には遅れてやってきた大型輸送車の姿。<エクリッシ>も回収されるのだろう。ジェランもあの機体も今後どうなるのだろうとヴィラスは考えたが、ひとつ溜息を吐いて止めた。どう考えたって良い事は無いとしか考えられなかったからだ。
ヴィラスは目の前に転がっていた<エクリッシ>の左前腕をマニピュレータで掴み上げる。そのハードポイントには先程<エクリッシ>が使いそびれたレーザーブレードが付けられていた。この形はヴィラスがまだ見たことの無いタイプだった。恐らく、先の紛争末期に開発された新型のパーツだろう。これも報酬の一部としてヴィラスはそのレーザーブレードを外して持ち帰ることにした。持ち主であるジェランにはもう必要のない物だ。
『迎えの<クランウェル>がもうすぐ到着するとのこと。これで任務は完了ね。お疲れ様、ヴィラス』
ルシーナの安堵したような声にヴィラスは「了解」と答えると、スティックから手を離した。
《作戦目標クリア システム通常モードに移行します》
頭部コンピュータが機体の火器管制機器とコア機能をロックしたことを伝えてきた。任務はこれで完了。ヴィラスは固いシートに身を預けると首に掛けている傷だらけの認識票をグッと握りしめて静かに目を閉じた。