ARMORED CORE LAST RAVEN ~Unsung Overture~   作:唯名瞬

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第28話「Meet Again」

 「おいおいおい……マジかよ……」

 

 まさか、三度目の遭遇になるとは思ってもみなかった。バッグから取り出した双眼鏡で戦況を眺めていたクリフの声は震えていた。

 レンズ越しに映っているACは間違いなく<十字架の天使>だ。

 

 「二度あることは三度あるって言うけどよ……勘弁してくれよな」

 「ACか。見たところ火力の高そうな装備をした機体だな」

 

 同じく双眼鏡でケインズも眺めている。ケインズの方は純粋にあの機体の構成や動きを見ているだけの様だ。

 瓦礫の合間に装甲車を停めて様子を窺っていた。出来れば街から早いところ去りたいが、下手に動けば敵機から狙われる可能性がある。タイミングを見計らって動こうという判断に落ち着いた。最初にコンタクトした調査チームからの通信は未だに途絶している。

 

 「連中はACも用意していたのか……? しかしアレは──」

 

 ケインズから借りた双眼鏡でチトセも眺めていた。手には端末で何かを操作している。何でもいいので情報を引き出そうとしている様だ。そこは情報部の人間らしいとクリフは見ていて思った。

 

 「コイツは雇われなのか、それともここにいた奴らと何か関わりがあるのか……」

 「さあてね……これも調べる必要はありそうだ」

 

 双眼鏡を持つ手を必死で動かして機体の動きを追いかけようとするが、高速で動くACに視線で追うのは難しい。遠くで響く音が頼りだ。次第に音が遠くなっていくのが判る。

 

 「今の内だな。動かすぞ」

 

 ケインズがそう言ってアクセルを踏み、車が動き出す。まだ戦闘を眺めていたクリフは慌ててシートにしがみつく。

 

 「出来るだけ街の出口まで近づこう。ACの行動範囲は広いからな。いつ巻き込まれるか分かったもんじゃねぇ」

 「その言葉には同意ね。リサーチャー、悪いけど戦闘状況の監視のフォローを頼む」

 「ああ、そうしよう──」

 

 死んでたまるかという言葉を飲み込み、クリフはもう一度窓の外を見やった。

 

 

    *     *     *

 

 <十字架の天使>の右背部からミサイルランチャーがせり上がり、5発のマイクロミサイルが一斉に発射される。それを右へ機体を跳ばせて回避行動するも、全ては回避しきれずに脚部に被弾。決して小さくない振動がコクピットを揺さぶる。

 以前戦った時はレーザーライフル(WH04HL-KRSW)レーザーブレード(WL-MOONLIGHT)のみであったが、今回は見慣れないレーザーライフルにマイクロミサイルランチャー、それに腕部も変更されていた。

 ブースターで飛び上がらせて、機体を後退。その時、今度はパルスレーザーが飛んでくる。どうやらパルスキャノンも備えている様だ。防御スクリーンが大きく弾ける音と共に装甲が焼ける音が響く。

 それでも構わず、ロックオンサイトに敵機を捉えて2発のミサイルを発射。それを<十字架の天使>はコアのミサイル迎撃装置を起動させながら回避。だが、ヴィラスは間髪入れずに再度ミサイルを4発発射。最初のミサイルはおとり。回避しきったところに本命を撃つ。

 <十字架の天使>に食らいついたミサイルはブースト機動で2発躱されるも、残りがコア付近に命中。僅かに身じろぎした機体に向けてバズーカを発射。同時に<十字架の天使>も体勢を崩しながら左背部のキャノンからパルスレーザーを再び発射。<十字架の天使>は右肩を、<ヴェスペロ>はコアと左肩を命中。

 背後にあった建物の残骸に打ち付けて、<ヴェスペロ>の動きが一瞬止まる。まずい、とヴィラスはコントロールスティックを傾けて機体を立て直す。直後に高出力レーザーが頭上を通過した。これは偶然だ。立て直しをした時に姿勢を落とした状態だったからこその結果。もし少しでも遅れていれば頭部に直撃していただろう。

 フットペダルを蹴飛ばして機体を横へ跳ばす。直後にパルスレーザーが地面を焼いた。そのままフットペダルを踏み込んで加速。機体状況に加え、火力でも分が悪い。ここは距離を取ることにした。

 <十字架の天使>は追撃してくるかと思ったが、高く跳び上がり、周辺の建物をレーザーライフルで破壊していく。どういう事かとヴィラスは一瞬考え込んだが、またロックオン警告。

 

 『調査チームが作戦領域から離脱を確認。他のチームも離脱出来るまではここでなんとか抑えて』

 「難しい注文……だな。くっ……」

 

 パルスレーザーが再び機体の装甲を打ち付けてきた。防御スクリーンの消耗度が一気に上がり、装甲の一部が弾け飛ぶ。跳んでくるパルスレーザーの合間を縫って左腕のライフルで反撃。何発か命中したが、防御スクリーンによって致命的なダメージは与えられていない。

 <十字架の天使>の右腕が上がる。高出力レーザーが来る──。コントロールスティックを横に倒し、機体を横へスライド。甲高い発射音と共にモニターの片隅が青白く照らされた。そして衝撃。機体が揺さぶられ、コンソールの部位損傷アイコンの左腕部が黄色の点灯。肩の装甲が損傷とコンピュータが告げてきた。

 オーバードブーストを起動。一旦射程外に逃れてからリアタックをすることを考えた。<十字架の天使>は追撃をせずに周辺をパルスレーザーで破壊してから別の方向へ飛んでいくとレーザーライフルを周囲に向けて発砲していた。

 どうやらこのACの標的はシティ内に点在する建物と調査チームらしい。それを優先的に破壊する気でいる様だ。だが、それが済めば今度は自分が標的になるのは明白だ。

 再度オーバードブーストを起動させて<十字架の天使>へ接近。接近に気が付いた<十字架の天使>はマイクロミサイルを発射して迎撃。それを肩部から射出したデコイで逸らしてライフルを連続発射。<十字架の天使>はそれをサイドステップで回避。回避しきったところへ本命のバズーカを発射。バズーカ弾は<十字架の天使>のコアを捉えたかと思われたが、ブーストで切り返されて脇を掠めただけであった。

 パルスレーザーが飛んでくる。それを左右のブースト機動で躱しながらライフルで反撃。<十字架の天使>が自機正面に相対。ジャンプすると、左腕の<WL-MOONLIGHT>から青い光刃が伸びてきた。以前交戦した時の事は覚えている。通常のより延伸されたブレードレンジ。バックステップさせながらブーストで後退。回避成功。──したと思われたが、<十字架の天使>はブレードから光波を放った。機体を横に滑らせて逃れようとするが間に合わない。コア付近に命中。激しい音が響くが、防御スクリーンによって損傷は思っていたより小さい。

 <十字架の天使>の右腕が上がる。<ヴェスペロ>は前に飛び掛かって左脚を突き出した。それがレーザーライフルに触れると射線がズレて発射を阻止。それが大きな隙が生まれた。このチャンスは逃さない。ヴィラスはトリガーを引く。バズーカを発射。<十字架の天使>は咄嗟に上半身を左に捻って肩の追加装甲に辛うじてぶつけさせた。次弾をリロードする間に<十字架の天使>は素早く後退していく。

 すかさず武装を切り替えてミサイルを発射。2発のミサイルが<十字架の天使>の腰部に命中。機体が揺らぐ。ライフルを斉射。だがそれを<十字架の天使>はオーバードブーストで回避して射程から逃れていく。

 レーダーを確認。自機後方に回られた。旋回して向きを変えようとした瞬間、ミサイルが飛来。デコイを射出してそれを逸らす。ロックオン警告はまだ止まない。右腕が上がっている。

 その瞬間、<十字架の天使>の後方からマシンガンによる弾幕が2本。<十字架の天使>はそれを横跳びで逃れた。

 アルファ1と2だ。2機は左右に別れて再度発射。それをブースト機動で<十字架の天使>はしっかりと回避していく。

 <十字架の天使>は位置を変えると2機のMTへレーザーライフルを発射。大きな火球が1つ咲いた。

 

 『アルファ2のシグナル、ロスト』

 

 レーダー上のシンボルが1つ消失。味方機はあと1機だけだ。<十字架の天使>はオーバードブーストでその場から離れた。そしてその直後、大きな爆発音。

 

 『やられたわ……。調査チームの1つが全滅』

 

 ルシーナからの通信。近くにいた調査チームが攻撃された。調査チームは残り3。

 「アルファ1、無事か?」

 

 モニターには激しく損傷したアルファ1のMTが映されている。動く事は難しそうだった。

 

 『……すまない……何も出来なかった……』

 

 アルファ1からの応答。会話が出来ることにひとまず安心する。

 「怪我は? 脱出出来そうか?」

 『額と左腕を少し切ってしまったが問題ない。コクピットハッチが歪んでしまったみたいだが……何とかしてみよう。レイヴンはあのACを頼む……』

 「了解だ」

 

 ヴィラスは<ヴェスペロ>のオーバードブーストを起動。再び<十字架の天使>へ接近。ロケットを発射。こちらに引き付けさせる。<十字架の天使>もそれに気が付き、<ヴェスペロ>と相対する。

 ブースターで飛び上がった<十字架の天使>がパルスレーザーで迎撃。オーバードブーストを切って機体を滑らせながら建物の陰に潜り込んでそれを凌ぐ。

 <ヴェスペロ>は小さく飛び上がって、ミサイルを4発発射。これが最後のミサイルだ。空中にいた<十字架の天使>はそれをミサイル迎撃装置で破壊しながらデコイを射出して回避。

 そこでヴィラスはふと、あることに気が付く。セントラル・アークで交戦した時に使っていた強力なECMは使っていない。相性もあるのか、装備していないように見受けた。

 ミサイルランチャーをパージ。先ほどよりも身軽になった。弾薬は残り少ないが、機動力で引っかき回してワンチャンスで仕留められるか。

 エネルギー残量は回復している。オーバードブースト起動。<十字架の天使>の右側面へ回り込み、バズーカを構えた。

 だが、<十字架の天使>もそれを見越してオーバードブーストを起動させて回避。今度は<ヴェスペロ>が背後に回り込まれる。ロックオン警告。高出力レーザーが放たれた。回避が間に合わない。左腕に直撃。ライフルごと吹き飛ばされる。

 

 「クソっ」

 

 フットペダルを踏み込んで崩れかけたバランスを立て直す。その間にパルスレーザーが機体に命中。防御スクリーンが大きく乱れ、警告アラートがコクピットに鳴り響く。

 猛攻を逃れる為にもう一度オーバードブーストを起動させた。だが、パルスレーザーを受けて機体温度が上昇した状態での起動はまずかった。機体温度が更に上昇。オーバーヒートを起こし、ラジエータが緊急冷却。それにより、エネルギーが低下。チャージングのメッセージが表示され、ブースターが止まる。コンデンサ内のエネルギーを全て使い果たしてしまった。

 コンソールモニターにはチャージ完了までの時間が表示されているが、それがやけに遅く感じる。

 敵機からそれ程距離は離れていない。機体をバックステップさせて距離を取ろうとするが、それはあまり無意味だった。

 ロックオン警告。<十字架の天使>はレーザーライフルを構えて突っ込んできた。回避不可能。ここまでかとヴィラスは悟った。ルシーナが何か叫んでいるようだが、警告のアラート音が妙にうるさくて聞こえない。

 その時、<十字架の天使>はブーストで横に飛んで建物の陰に逃れるような動きを見せた。警告が解除され、コンデンサのチャージも完了した。『ヴィラス!』と、ルシーナの声に気が付き、ヴィラスはすぐさま機体を動かして距離を取る。

 

 『──所属不明機が接近。ACみたいだけど、様子がおかしいわ……』

 「増援……いや、何だ? こいつは」

 

 レーダー上に輝点がもう1つ示されていた。その方に機体を向けると1機のACの姿。黒い中量二脚型。

 機体自体はスターター機によく似たフレーム構成。ただ、腕部は右側が<CR-A71S2>だが、左側は半壊した<CR-A69S>に廃材などででっち上げたであろうシールドに似たモノを無理矢理取り付けている。そして、機体装甲の一部が剥がれて、ボロボロの佇まいだった。

 黒いACはブースト機動で<十字架の天使>に接近して右腕のライフルを放つ。予想外の展開だったのだろう、<十字架の天使>はオーバードブーストで離れていく。

 

 「そこのAC。何処の誰だ。答えろ」

 共通チャンネルで黒いACに呼びかけるが、返ってきたのはノイズ音。通信機が故障しているらしい。代わりにカメラアイの明滅で発光信号を送ってきた。

 

 《シンジロ》

 

 信じろ……? 名前を聞いたつもりだが、取りあえずこちらに対して敵対の意思は無いと受け取っておく。

 黒いACは先程同様にライフルを発砲しながら<十字架の天使>に追い縋る。<十字架の天使>は黒いACを敵とみなして反撃を始めた。

 

 「ルシーナ。多分、あの機体は敵じゃない。識別を変えてくれ」

 『向こうのは変えられないけど大丈夫?』

 「攻撃してきたら適当に反撃して逃げるさ。少なくとも白いACを相手している限りは多分大丈夫だろう」

 『──今、切り替えが完了。向こうからの誤射には注意して』

 

 レーダー上のシンボルが変わったのを確認してヴィラスは機体を<十字架の天使>の方へ向けた。黒いACの詮索はひとまず後回しだ。

 だが、黒いACの動きは中々目を見張るものがある。腕の立つパイロットが乗っているのか、ボロボロの機体とは思えない機動の鋭さが見て取れた。ライフルを無駄撃ちせずに狙うタイミングを計っての発砲。その合間に右背部のミサイルで狙い撃つ。

<十字架の天使>は黒いACの方に意識が向いている。バズーカを構えてロックオン。だが、<十字架の天使>も気付いていた。<ヴェスペロ>の方へ回頭してマイクロミサイルを発射。<ヴェスペロ>は右肩から最後のデコイを射出してサイドステップ。ミサイルを回避してバズーカを発射。<十字架の天使>も機体を横にスライドさせてバズーカ弾を回避。

 だが、その側面から飛来してきたミサイルまでは避け切れない。右肩に直撃。追加装甲が吹き飛び、機体が大きく揺らぐ。そこを突いて<ヴェスペロ>はバズーカを発射。<十字架の天使>も脚部を大きく広げて踏みとどまらせると、レーザーライフルを発射。バズーカ弾は<十字架の天使>のコアに命中。レーザーは<ヴェスペロ>のバズーカを吹き飛ばした。<十字架の天使>はまだ健在。距離を取られた。

 

 「しぶとい!」

 

 ヴィラスは思わず叫ぶ。武器を壊された事より、あの機体のしぶとさ。以前交戦した時もそうだった。簡単には倒れてくれない。

 武装は左背部のロケットだけ。それが残り11発。少し厳しいかとヴィラスは考えた。最後の手段としてはマニピュレータで殴りつけ、脚部で蹴り倒すしかない。無論、そういう使い方は本来想定していないので最悪の場合、こちらの損害が酷い事になる。

 その時、黒いACが<ヴェスペロ>の前に立つと、右手に持っていたライフルを地面に置いた。<WR01R-SHADOW>。それをマニピュレータで差す。使えという事か。ヴィラスは機体にライフルを拾わせた。弾はまだ十分にある。

 黒いACはハンガーからハンドガン<WR03H-GHOST>を取り出して構えた。よく見ると黒いのは塗装ではなく機体の傷や汚れでそう見えているだけであったことに気が付く。僅かに見える地の部分は何も塗装されていない。

 

 『調査チームの1つが離脱に成功。もう1つももうじき離脱出来るとの事』

 

 向こうもあと少しといったところか。今はあのACに集中する。次こそはあの機体のパイロットに──

 フットペダルを踏み込んで<ヴェスペロ>を跳躍させる。ほぼ同じタイミングで黒いACも動きだす。

 機体の損傷は相当だが、機体中枢にはまだ深刻なダメージは無い。ブースターの出力を上げるとしっかりと加速してくれる。後はあの黒いACとどれだけ連携できるかだ。機体の動きを見る限りでは素人ではない。

 

 「俺が引き付ける。そちらはその隙にハンドガンを敵機にしっかりと撃ち込んでくれ」

 

 ヴィラスはそう呼び掛けると、黒いACは頭部をこちらに向けて発光信号。

 

 《リョウカイ》

 

 コミュニケーションはなんとか取れている。少し面倒だが、全く取れないよりかはマシだ。後は黒いACのパイロットを信じるしかない。

 射程内。一歩前に出てロックオン。パルスレーザーを横にスライドさせて躱しながらトリガーを引く。何発か命中したが、防御スクリーンによっていくつかは弾かれている。まだ動けるようだが、これで<ヴェスペロ>の方へ引き付けられた。機体の向きを切り返すと、しっかりとこちらを向いてきた。

 ロケットを発射。同時にミサイルが放たれる。小さく飛び上がって動きにフェイントを入れてそれを躱しながらライフルを発射。回避行動に入る<十字架の天使>へ今度は黒いACがミサイルを発射。動きが鈍った瞬間にハンドガンで追撃。こちらの意図を理解して動いてくれる黒いACのパイロットに感心した。

 <十字架の天使>はミサイルランチャーをパージ。身軽になった機体を跳び上がらせてパルスレーザーを2機に向けてばら撒くように発射。それを回避するが、<十字架の天使>はヴェスペロに向けてレーザーライフルを向けてきた。

 狙いはこちらか。消耗していて片付け易いとみなされたのか。だが、そうであれば好都合だ。ライフルで牽制しながら黒いACが良い位置で攻撃できるように機体を動かす。

 不意に<十字架の天使>がオーバードブースト。側面に回り込むような動き。ヴィラスはオーバードブーストの起動レバーに手を掛けるが、レーザーが機体左側面に飛んでくる方が早かった。衝撃でコクピットが揺さぶられ、一瞬だけ意識が飛ぶ。頭部コンピュータがコア機能に損傷を負ったことを伝えてきた。装甲が吹き飛び、防御スクリーンも限界に近い。視界が揺れる。それでもコントロールスティックを握り、機体を御する。

 

 「ぐっ……!」

 

 再び衝撃。今度は攻撃ではない。瓦礫に機体をぶつけてしまった。動きが止まる。フットペダルを踏むが、ぶつけた衝撃でブースターも損傷したらしい。上手く動かない。モニター側面に迫って来る<十字架の天使>の姿がぼやけて見える。

 だが、反対側から黒いACが<十字架の天使>に向かってブースターを全開にしながらハンドガンを放って突進。一気に距離を詰めると、左腕を突き出して体当たりを仕掛けた。

 ジャンクに近い機体とは思えないほどのスピードで衝突。互いの装甲がぶつかる音と防御スクリーンが干渉する音が重なって雷鳴の様な耳をつんざく音が響き渡り、近くに残っていた窓ガラスが全て粉々になる。

 黒いACと<十字架の天使>が互いにブースターを全開にして押し合いになった。両機とも動けない。ようやく視界が元通りになったヴィラスは機体を動かそうとするが、思うように機体がまだ動けない。脚部も損傷していたようだった。

 2機のACの押し合いは次第に出力と重量が勝っている<十字架の天使>が押し返し、ついには突き飛ばした。突き飛ばした黒いACにレーザーブレードを振るうが、咄嗟にバックステップした黒いACの左腕の肘から下を切り飛ばすだけだった。黒いACはその間にハンドガンで反撃。そしてようやく動いた<ヴェスペロ>からのライフル弾を浴びて<十字架の天使>は後退。

 

 『味方の増援よ! バーテックスからACが来るわ』

 

 ルシーナからの通信。レーダーディスプレイに味方機の反応。後方からだ。

 モニターを確認すると、青いカラーリングの逆関節型ACの姿。それが<ヴェスペロ>の頭上を飛び越えて目の前にいる2機のACへ右腕のレーザーライフルを放ち、攻撃を始めた。

 

 「待て、黒い方は敵じゃない」

 『この機体は我々の依頼に入っていない』

 

 ヴィラスの呼びかけに対して青いACのパイロットはそう言い切った。聞き覚えのある声。シェインだと気が付いた。彼女はACも乗るのか。それにこの機体は見覚えがある。以前、アライアンスの前線基地を攻撃した後に<エイミングホーク>と一緒にやって来た機体だ。

 シェイン機の射線に飛び込もうと考えたが、機体状況からしてリスクが大きい。黒いACに向けて「退避しろ」と伝える。それが伝わったのか、黒いACはブースターを全開にしてその場から離れる。

 <十字架の天使>も機体を大きく後退させると。反転してオーバードブーストを起動。撤退していった。

 

 『敵機が作戦領域から撤退。レーダーからロスト』

 

 それを聞いても反射的にフットペダルを踏もうとしたが、アラート音が新たに鳴る。コンデンサの容量が急激に落ちていき、チャージング。ジェネレータの損傷だと頭部コンピュータが伝えると、強制的に戦闘モードが解除。ジェネレータのフェイルセーフが作動して機体は歩行などの必要最低限の動作しかとれないようになった。

 黒いACへシェイン機がライフルを向けようとするが、<ヴェスペロ>がその間に入り、発射を止める。

 『何をしている』と、少し苛立った様な声。それを無視してマニピュレータでシェイン機の銃口を強引に下ろさせる。

 

 「このまま行かせてやれよ」

 

 ヴィラスは機体を黒いACの方に振り向かせた。黒いACからの発光信号。

 

 《イサンハマダイキテイル》

 

 そう伝えて黒いACは<十字架の天使>とは正反対の方向へブースターを全開にして去っていった。

 ──遺産。

 新資源の事か。ヴィラスはすぐにそれを連想した。だが、それは時折来る特攻兵器で分かっているし、先日それに関連すると思われる兵器とも交戦している。それとも、また別のものがあるという事か。それを黒いACのパイロットは知っているという事か。だが、それを聞こうにも黒いACの影はもう小さくなっていた。

 

 『逃がす気? あの機体は知り合いなの?』

 「知らない。けど、少なくとも向こうには敵意は無かった。それに、たかがボロAC1機に必死になるくらいにバーテックスは余裕もないのか?」

 

 シェインの問いにヴィラスは吐き捨てる様に言い放った。敵はもういない。追いかけるなんて無駄なことだし、もう<ヴェスペロ>はまともに動かせない。

 

 「ルシーナ。まだ残っている調査チームは?」

 『あと1つだけ。もうすぐこちらに来るわ』

 

 レーダーに反応。生きている。損害は調査チームが2つで完璧ではない。それでも任務は一定の成果を挙げたと言ってもいい。

 

 『──まあ、いいでしょう。最小限の成果は得られそうだし、あなたの働きには感謝をしなければならない』

 

 再び上げかけたレーザーライフルの銃口を完全に下ろしたシェインは静かにそう言った。

 

 「MT1機が大破。パイロットが怪我をしている。救護班を呼んでおいて欲しい」

 『既に呼んでいる。直ぐに来るから心配は無い』

 

 それを聞いてヴィラスは安心した。流石に切り捨てることまではしないか。後は重傷では無い事を祈るだけだ。

 

 『よう、ヴィラス。久しぶりだな』

 

 モニターに最後に残ったチームの装甲車が見えると同時にヘルメットにまた聞き覚えのある声が入る。クリフだった。それにどう応えようかヴィラスは迷い、頭を掻くしかなかった。

 

 

 ストレッチャーに載せられてヘリに運ばれていくアルファ1の姿をヴィラスは<ヴェスペロ>の足元から眺めた。

 機体の損傷により長距離の移動が難しいと判断して、バーテックスの基地まで<クランウェル>で運ぶことになり待機中だった。アルファ1の出血は多そうではあったが、救護班と会話をしているのを見て命に別条は無さそうだ。

 そこにクリフが割り込んで何か一言二言話してすぐに離れて行った。何をしているんだとヴィラスは首を傾げる。クリフもヴィラスの様子に気が付き、寄ってきた。

 

 「何を話していた? 知り合いなのか」

 「たった今、お知り合いになった。で、お近づきの印を渡した」

 

 「何だ、それは」とヴィラスの問いにクリフは「ちょっとした現金と粗品だよ」と言って咥えていた煙草に火を点ける。ただ、口には出さなかったが、ヴィラスは碌なものを渡していないのではないかとクリフの職業でそう予感していた。

 

 「こんな所で会えるとは思っていなかった。あんたにも、──あの機体にも」

 「ああ、俺も同じ事を言おうとしたよ。一度、お前さんが歩哨中に手を振ったんだがな、気が付かなかったか?」

 「悪いが、そこまで気が回っていなかった」

 「そりゃ、残念」とクリフは紫煙を夜空に向けて吐き出した。

 「──調査の進捗はどうなんだ?」

 「もう少し伸びそうだ。……あれを見ちまったからな。やる事がまた増える」

 

 クリフは首を空に向ける。<十字架の天使>が去っていった方角だ。ヴィラスも同じように首を向けた。今回も仕留めることが出来なかった事に悔しさが残る。結局あの機体の事は分からず仕舞いだ。接触回線からも声らしきものは聞こえてはこなかった。誰が乗っていたのかも、黒いACのパイロット同様に分からない。

 

 「もうすぐ迎えが来る。レイヴンは機体を動かす準備をお願い」

 

 シェインがそう言いながら2人に近づいてきた。搭乗していたACと同様の青いパイロットスーツに身を包んでいる。それを見てクリフはフン、と鼻を鳴らした。

 「分かった」とヴィラスは返事をしてコクピットへ戻っていく。それをクリフは見届けた。ボロボロになってしまったヴィラスの愛機<ヴェスペロ>。生き残ってよかったと内心胸を撫でおろす。

 

 「──気に入らない?」

 「何がだよ」

 「私がレイヴンであったのを隠していた事よ」

 「いいや、女には一つや二つ秘密があった方が面白い。──けど、残念だが隠しきれていなかったよ」

 

 「どういう事?」とシェインが聞くと、クリフはニヤリと口元を緩めて笑う。

 

 「予感はしていた。俺と初めて合った時、握手をしたよな? その時にお前さんの手のひらにパイロット特有のたこの感触があったよ。だからACに乗ってやって来てもそれ程びっくりはしなかったさ」

 

 それを聞いたシェインの口角が僅かに歪むのをクリフは見逃さなかった。

 

 「……流石はリサーチャーね」

 「お洒落な手袋でもしておくんだったな。そうすればエージェントらしさがもっと増したかもしれないぜ。<ユーアンヴェール>のパイロット”シュエット”さん?」

 

 クリフの言葉にシェインは肩をすくめて降参だと言わんばかり両手を挙げて微笑を浮かべた。

 

 「お見事。今度初対面の人と会う際はあなたの意見を参考にさせてもらうわ。それと手のケアも」

 「しかし、エージェントとパイロットの二刀流とはね……レイヴン稼業しながら副業しているのは少なからずいるが、あんたもそうだったのか」

 「どうせもう知っているんだろうけど、アークに居た頃は民間調査会社の調査員の仕事も兼任よ」

 「ホルスアイリサーチ一級調査員のシェイン・ファレム。どっちが本当の顔なんだい」

 「それはあなたの想像にお任せする。でも、どちらも私であることは変わりない」

 「パイロットの腕もかな?」

 「バーテックスに入ってからはエージェントの仕事を優先していたから、これに乗って戦闘機動をしたのは久々よ。大分鈍ったって実感した」

 

 シェインは自分が乗っていたACを指差した。青い逆関節型ACの左肩には「左目にガラスの義眼をはめたフクロウ」のエンブレム。それがシェインの正体であった。

 確か中位ランクから上位に差し掛かる位置にいたはずだとクリフは記憶している。機体構成は少し違う気がするがそれはどうでもよい事だった。それが自分の目の前にいる。

 仕事柄、レイヴンに直接コンタクトする事は偶にあるが、2種類に分けられるとクリフは思っている。他人とのコミュニケーションが好きか否か。恐らくシェインは前者の様に見えるが後者だ。コミュニケーションはあくまでもビジネス上での付き合いだけ。そして声色が再会した時より低い。本音はクリフとの会話はさっさと打ち切りたいと考えていそうだ。その逆はフライボーイか。流石に踏み込み過ぎるのはNGだが、コミュニケーションは積極的にしてくれる。そしてヴィラスの場合は後者に見えるが、実は前者な感触がある。まだ若く、コミュニケーションの取り方が下手な人間の典型的なタイプだ。

 クリフは短くなった煙草を吐き捨てて踏み消すと、もう1本咥えて火を灯す。

 

 「さっきの機体、パーツを落としていったけど調べてみるか?」

 「そうね、街から出たチームを一旦呼び戻すわ。過去の報告書を読む限りだと、何かを掴めるかは見込み無さそうだけど」

 

 シェインはそう言って通信機に話しかけると自分の機体に戻っていく。戻るのは少し先になるなとクリフはシェインの後ろ姿を見ながらそう思った。

 

 

    *     *     *

 

 メイシュウシティから西へ7キロ程離れた山中。そこは街で繰り広げられた戦闘とは無縁の静寂に包まれていた。そこに森林迷彩を施された偵察仕様の<MT08-OSTRICH>が1機、頭頂部のカメラを街に向けていた。

 そして、MTから更に離れた場所にACが2機、黒い重量二脚型ACとすみれ色の軽量二脚型AC。2機とも機体をしゃがませて待機状態にあった。

 

 「機体は去ったか」

 

 黒い重量二脚型ACのパイロットがコクピットのモニターを見つめながらそう呟いた。ジェランであった。モニターには小さい光の点。<UNE-009>とアライアンスが名付けた白いACのオーバードブーストのブースター炎であった。モニターに映されているのはMTのカメラから転送された映像。望遠を使っても最早認識出来ないくらいに小さくなっていく。

 

 『追わないのですか?』

 

 声はシグリッド。隣にいるすみれ色のACからだ。<ブリュンヒルド>という機体名である事は聞いている。

 

 「いや、今回はいい。そういう命令だったろう。あのACの去った方向さえ押さえとけばいい。これで任務は終了だ」

 

 ジェランはそう言うと、暫くの沈黙の後に『了解』と、不満そうな声で返ってきた。

 無理はないか、とジェランは思う。バーテックスの勢力圏にいるにも関わらず、新型機での戦闘参加が無いのはACパイロットとしては口惜しいものがあるのは否めない。だが、事前のブリーフィングで戦闘参加はあくまでもバーテックス側が敗れた場合に飛び込むという事になっていたのでこれは想定内だ。

 ただ、恐らくシグリッドよりもっと不満を溜めているのはミニオーグだろう。彼は今、後方で待機中の輸送機内で愛機の<スウォンジー>と共にいる。出撃直前にFCSの不調が確認されて出撃が見送りになったからだ。

 <UNE-009>の機影を見失ったカメラはメイシュウシティの街中に向けた。既に瓦礫の山であった街に幾つかのMTとガードメカの残骸が増えただけだという印象しかない。

 だが、その中にいる紺色のACだけにどうしても視線が固まってしまう。途中からではあったが、MTを何機か撃破した後、<UNE-009>と戦闘を繰り広げているのは見ていた。改めて見ると以前、ディーネル大佐が評価していた通りの腕だ。悪くは無いのは分かっていたが、こうしてみると操縦センスの良さと粗削りな部分がある事に気が付く。この時だけは純粋にACパイロットの視線で見ることが出来た。

 そして<ヴェスペロ>と交戦していた<UNE-009>だ。ディーネル大佐が時折<十字架の天使>と呼んでいたのは知っていたが、実物を見るのは初めてだった。パイロットの情報は無いが、こちらも腕が良いとジェランは感じた。だが実際に戦ったとしても、今の強化した身体と<エクリッシ>であれば後れは取らないだろうという自信はある。

 

 「戻るぞ。シグリッド」

 『出番は無し……ですか。この機体の実戦参加はお預けか』

 「この後すぐに別の任務が入る。そこで思う存分暴れればいい」

 『了解です。隊長』

 まだ少し納得していなさそうであったが、これ以上は食い下がらず、シグリッドはそう応答して<ブリュンヒルド>を後退させた。

 ジェランも<エクリッシ>を立たせると、MTに後退命令を出す。モニターはMTの接続が切れてメイシュウシティが遠くに映し出される。確かに今回は退屈な任務だ。新型の初陣としては面白くないというのは共感するが、これも任務だと割り切るしかない。

 

 「しかし──」

 

 ジェランは小さく呟く。この任務前にディーネル大佐からジェランのみに伝えた言葉を思い出す。この任務はアライアンス本部の意思というよりも外部からの意向があった様だ。こんな事は極めて珍しい事らしいと大佐が苦笑いを浮かべていた。

 何処からだという問いにディーネル大佐は何も躊躇いもなく言葉に出した。その言葉は苦い思い出と共に懐かしい響きではあったが、今のジェランにとっては単なる単語に過ぎなかった。

 

 「いまさらしゃしゃり出てくるのか。──レイヴンズアーク」

 

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