ARMORED CORE LAST RAVEN ~Unsung Overture~   作:唯名瞬

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第33話「Hide and Seek」

 ガル・パークの郊外から5キロ程離れた地点に<ヴェスペロ>と<ダークチャーム>が揃って待機している。

 日は落ちて既に夜の帳が下りていた。空は薄く雲で覆われて月明かりが微かにあるくらいだ。

 

 『どうやらアグリゲートは武装組織と言ってはいるけど、寄せ集めで出来た集団みたい。色々な組織の所属機が並んでいる』

 

 そう言ってルシーナは<ヴェスペロ>のモニターに画像を転送した。ブリーフィングで見た画像よりも明瞭に見えるMTの肩や胴には様々なエンブレムが付けられている。

 いずれもつい最近まで壊滅に近い損害を負って活動が見られなかった組織だ。以前交戦したことのある組織のエンブレムを付けたMTも確認出来た。だが、日の出をモチーフにしたエンブレムを付けた機体は見受けられなかった。そこはひと安心する。

 

 「──つまりは、負け犬たちの寄り合いって事なのか」

 

 ヴィラスは小さく口ごもった声で言い放った。一見すればそうとしか捉えられなかった。更に言えば、せっかく生き永らえた命を無駄にしているようなものだ。

 

 「けど──」

 

 逆に言えばそれだけ自分たちの存在意義に執念を持っているという事なのかもしれない。それこそ彼らが持っていたであろう信念や理想とやらがまだ果てていない。

 ──嫌な言葉だ。

 再び頭の中で反復してきた言葉を打ち消そうと頭を振った。

 

 『もうすぐの様だね』

 

 今度はコープス・フールから映像が転送される。街の前に1台の装甲車が停まったところだ。映像はどうやら民間の報道機関が流しているニュース映像。

 

 『交渉人が乗っているのね。まあ、これは時間稼ぎなんだろうけどさ』

 

 映像のカメラがズームアウトされて、遠くにACらしきシルエットが映ると、今度はそちらにフォーカスした。<サンダイルフェザー>と<ピンチベック>であるとなんとか認識できる。その周辺にMTと装甲車が並んでいる。現場の物々しさはモニター越しでもハッキリと判った。

 

 『貧乏くじ引いたねー。えーっと……名前……』

 「ヴィラスだ」

 『そうそう、ヴィラス君。今回の任務。プリンシバルの言う通り、不届き者を成敗するだけならアライアンスだけでも良かった。わざわざ私たちを雇ってこんなパーツ貸してもらった上にガレージまで好きに使っても良いなんて、ちょっと好待遇過ぎじゃない?』

 「パーツの実戦テストも兼ねているんだろう。それに面倒事はこちらに任せて、残りを持っていこうという魂胆はブリーフィングから分かっていた」

 『本音剥き出しの行動を取ったら流石に体面上不味いから私たちを雇ったんだろうね。それに何かあった時は責任をこっちにおっ被せられるってとこかな』

 「成功すればアライアンスの手柄。失敗すれば批判は出るだろうけど、作戦行動を逸脱したレイヴンの独断行動だと言い訳と責任の押し付けができる」

 

 アラーム音が鳴る。作戦開始の時刻。

 

 『そうだね。ま、お互いヘマしない様に頑張ろう、ヴィラス君。グットラック』

 

 自分たちは汚れ役だ。レイヴンだからこそ、それは付いて回る問題だ。今回の作戦は民間人を巻き込む可能性が高い。だが、依頼を受託した以上、拒否はもう出来ない。やるしかないと腹を括る。

 ゆっくりと機体を動かす。交渉人らがいる正反対の方向から侵入して敵に知られずに爆弾の解除を行う。本来であればACでやる事ではないようなミッション。肩の力が入り過ぎない様にヴィラスは努めた。

 メイン武装も互いに元々装備していた実弾タイプからEN型の方に換えている。これも発砲の音が気付かれにくい様にするための自分たちなりの考えだ。

 街への侵入は成功。今のところは察知されている様子はない。配備されている敵機はアライアンス側の方へ集中させている。

 

 『ステルスがあると言っても当然ながら肉眼による目視ではハッキリと見えてしまうから目立つ様な動きはしないで。つまり、ブーストを使ったジャンプは厳禁ということ』

 

 ルシーナから念を押すような声。

 

 「了解だ。爆弾に接近したら頼むよ」

 『ええ、解除コードは受け取ってあるから接近次第打ち込むわ。それにしてもこの爆弾も奪われたモノとはね……』

 「だから解除コードがすぐに分かったのか。ソイツの後始末も押し付けられるなんてな」

 

 フットペダルを軽く踏み、ビルの間を縫って動く。天候が幸いにも機体の影を隠すに適した状態。そして機体カラーも紺色という事も相まって割とすんなりといく事にヴィラスは内心驚いた。

 端的に言えば10メートルの大きさにもなる合金の塊が動いている筈なのに静かに事が進むのは意外で、ACでもこんな事が出来てしまうのかという可能性が発見できた事にほんの少しだけ興奮を覚えた。

 マップをモニターに出して場所を確認する。人質は街の南側にある市民ホール。東側にある大型のショッピングモール。そして中心部にあるクレスト支社ビル。まず向かうは市民ホール。

 <ダークチャーム>は1ブロック隣の通りを同時に動いている。二手に分かれる事も考えたが、ロストテクノロジーを再現させたパーツに全幅の信頼を寄せられるほど楽天家ではない。不慮の事態に備えて互いにフォローし合う事にした。

 レーダーディスプレイの端に輝点が3つ。市民ホール付近。敵機の配置は偵察機からの情報で既に分かっている。相手側のレーダーレンジから少し離れた場所で一度動きを止めた。

 

 「どうする?」

 『早速、この三角定規の出番かな』

 「敵機情報は……」

 

 モニターに表示されている敵機情報だと恐らく<MT08-OSTRICH>。向こうからだとまだレーダーレンジ外のはず。

 

 「もう4ブロックまで進めたら加速。その3秒後に発動させようか」

 『いや、私が先に向かって発動しながら両サイドの2機を潰そう。ヴィラス君はその後に発動させて突撃できるかな。正面にいる1機潰して爆弾解除を任せる』

 「それでいくのか」

 『機体の特性だと<ヴェスペロ>の跳躍力の方が高台にある爆弾に行きやすいだろ? 私の<ダークチャーム>は狙撃で相手を黙らせる』

 「自信ありだな」

 『実のところ接近戦はダメダメなんだ。その分射撃は頑張るけどね。じゃあ行こうか』

 

 <ダークチャーム>の動くのがビルの隙間から見えた。ヴィラスもそれを追って機体を動かす。

 4ブロック目に突入。『先に行くよ』とコープス・フールがいうと速度を上げながらステルスを発動。肩部のステルスの先端が開く。ジャミングを発生させているのか、淡い紫の光が微かに見えた。

 <ダークチャーム>がEN型スナイパーライフル<WH11RS-GARUM>を構えると2つの方向に1発ずつ発射。レーダー上から輝点が消える。

 

 『OKだ』

 

 その言葉と同時にヴィラスはフットペダルを強めに踏んで機体を加速。同時にステルスを起動。一気に駆け抜ける。

 正面にいる<MT08-OSTRICH>が射程距離に入ったが、相対しているにも関わらず、何もしてこない。本当に見えていないかのようだ。トリガーを引く。右腕のレーザーライフル<WR05L-SHADE>を近距離で発射。コクピットに命中してぐらつくMTを踏み台にして<ヴェスペロ>は跳躍。一気に市民ホールの屋上まで到達。

 設置されている爆弾を発見。1つだけだが施設破壊用の大型爆弾。これならこの施設を崩壊させるくらいは容易だ。

 

 「ルシーナ。解除コードを」

 『ええ、送信したわ』

 直後に頭部コンピュータから起爆装置の解除の報せ。成功だ。そのまま重心移動で隣接している建物の上へ静かに着地。

 『ナイス、ヴィラス君』とコープス・フールの嬉しそうな声。手を叩いているのだろう、パンパンという乾いた音もヘルメットに入ってきた。

 

 「上手くいったな」

 『ステルスの効果はあったね。多分、MTに接近したヴィラス君の方が実感したんじゃない?』

 「真正面から睨みあいだったのに何もしてこなかったな。本当にコクピットからだと見えていないみたいだ」

 『この調子でいこう。次は距離が近いショッピングモールかな』

 「役立つことは分かった。欲を言えば発動時間がもう少しだけあれば良かったが……」

 『それは今後に期待するとしよう。あと重量も』

 

 「そうだな」とヴィラスは付け加える。やはり機動力に影響を及ぼす重さだ。これもデータを取られているのだろうと思いながら次の目標に向かう。

 次の爆弾の解除もほぼ同様だった。配置されていたMTは1機多かったが、機種は同じく<MT08-OSTRICH>。やることは市民ホールでの行動で勝手がわかったので、先程よりもスムーズに事が進んだ。

 コクピットに穴が穿ったMTを見やる。相手からしたら何の前触れもなく撃ち抜かれたようなものだろう。こういったモノがレイヤード時代に造られたのだから、あの技師の言う通り管理者が蓄えていた技術に関する情報は相当高度なモノであった事を伺わせる。

 

 『さて、残りは支社ビルだね。──ちょっと高いか』

 このガル・パークのランドマークとなっているクレスト支社のビル。アライアンスやOAEの職員が多数人質として収容されているらしい。送られている敵機の配置情報は6機。<CR-MT77M>と<MT08-OSTRICH>。内1機はAC<ドローン>。爆弾の設置場所は地上65階建てビルの中層部。人質もその辺りの階層に押し込められているとの事だ。

 

 「手近なビルを経由して一気に設置場所へ……ってところか。ただ、発動時間の間で辿り着けるかが少し微妙なところだ」

 『手短に仕留めないときつそうだね。配置が薄手な側面から攻めていこうか』

 「そうしよう。さっきと同じでいこうか」

 『突入するタイミングは私が3機目を潰した辺りで頼む』

 

 そう言い終えると、<ダークチャーム>が支社ビルへ向かっていく。ヴィラスはその背中を眺めながらゆっくりと機体を動かす。

 ふわりと小さく浮いた<ダークチャーム>がスナイパーライフルを構えて発射。輝点が1つ減る。2発目。

 だが、その瞬間、<ダークチャーム>の動きが乱れる。何があったとヴィラスは動きを緩めた。

 

 『エラー?! このタイミングで参ったね、このパーツは……』

 

 コープス・フールの動揺する声。<ダークチャーム>が後退する。ステルスが動作停止したらしい、機体の動きも鈍っている。

 

 『ジェネレータの出力低下……チャージング……オイオイ、これはマズイって』

 

 機体の動きが鈍り、とうとう動作が止まってしまった。MTのレーダーレンジ内。危険だ。

 ヴィラスはフットペダルを踏み、機体を加速。見つかる危険性もあったが、爆弾の解除を優先させた。ステルスを発動。レーザーライフルで正面に立つMTを撃破。ヴィラスはそのまま機体を跳躍させてビルの上に乗り、更に別の高いビルへと乗り移る。

 早いタイミングでの発動。見つかるかもしれないという事よりも発動中のパーツへの不信感が大きい。もう一棟のビルに乗り移って跳躍後、ブースターを起動。そうでもしなければ届かない。周辺のMTの動きが騒がしくなる。恐らくビル周辺にいた見張りには気が付かれた。下からMTと<ドローン>からの攻撃が来るが、送信完了までは距離を離せない。

 爆弾を発見。ルシーナが解除コードを送信。間に合うかという不安が脳裏をよぎる。

 

 『……OKよ。すぐに離脱して』

 

 ルシーナから解除確認の通信。同時に頭部コンピュータからも解除の報せ、ではなくメインコンピュータからエラーのアラート音。

 コンソールモニターには異常は肩部ハードポイントからで、未知のエラーを示すエラー番号の表示。

 機体を横へ逸らし、ビルへの流れ弾を避ける。アラート音は鳴り止まない。ジェネレータのエネルギーゲージが低下していくのがモニターで示されている。

 

 「──同じか」

 

 <ダークチャーム>と同様のエラー。原因はステルスか。

 コンソールでエクステンションのパージコマンドを入力するが、アラート音。コマンドが受け付けてくれない。パージ不可能。エネルギーゲージがレッドゾーンを超えた。

 

 「ふざけるな……」

 

 着地と同時にチャージングの警告音。ブースター及びレーザーライフルの使用不可。

 

 「<サンダイルフェザー>と<ピンチベック>が街に突入。交戦状態に入った。合流までは……少し時間が掛かるかも」

 

 苦戦はしないだろうが、街の入り口に固まっていたMTと改造重機の数は多い。ACとはいえ、片付けるには少々手間は掛かるかもしれない。

 混線する回線には敵のリーダらしき男が起爆できない事に荒げた声や混乱するMTパイロットの声が入ってきたが、ヴィラスにとっては最早ノイズでしかない。この状況を立て直すことに注力する。

 フットペダルを踏んで機体を動かすが、その動きは妙に緩慢だった。機体全体の動きに影響している。

 交差点から<MT08-OSTRICH>が2機飛び出してきた。右背部のミサイルランチャーで応戦して撃破。直後に後ろから<ドローン>が近づいてきているのが見えた。機体の横を弾丸が掠めていく。<ドローン>の左腕に持つスナイパーライフルからだ。

 機体をステップさせて交差点まで逃れようとするも、今度は被弾。コクピットが揺らぐ。後方確認モニターにはブースターを吹かして近づいてくる<ドローン>の姿。更に被弾。<ヴェスペロ>の動きはますます緩慢になるのが分かる。レーダーには自機前方にも輝点。MTが2機接近。囲まれる。

 被弾は免れないそう覚悟した瞬間、2機のMTにレーザーが貫き、そのまま崩れる様に倒れていく。

 

 『機体を再始動させるんだ』

 

 コープス・フールからの通信。<ドローン>がブースト機動で離れていくのが見えた。<ダークチャーム>は復活したらしい。レーダーには味方機の反応。

 ヴィラスは機体の起動キーを停止に切り替えて全ての電力を止めた。機体の動作が一切停止。コクピットが闇に包まれる。

 頭の中で3つ数えて起動キーを始動に回す。ジェネレータが再始動。モニターの光でコクピットが再び照らされて、瞬時にシステムが起動。全システム正常。アラート音は消えていた。すぐにパージコマンドを打ち込んでステルスをパージ。

 フットペダルを踏み込むと身軽になった機体が軽快に動く。前方から近づいてきたMT2機へライフルを斉射。直撃を受けたMTは崩れる様に倒れた。

 撃破を確認して機体を<ドローン>の方へ向けると、<ダークチャーム>と撃ち合いをしている。<ダークチャーム>の左腕に装備されたハンドガンの弾幕が<ドローン>の装甲を叩く。

 メイン武装を右背部のミサイルランチャーに切り替えて発射。だが、ミサイルは<ドローン>の肩部迎撃ミサイルによって全て相殺される。ミサイル対策は万全にしていたというククルカン。安易な攻撃は通じない。

<ドローン>は<CR-C98E2>のイクシードオービットを展開。オービットから放たれる弾幕が<ヴェスペロ>の動きを制限させ、動きを緩めたところに右腕のパルスライフルが狙ってくる。別方向から仕掛けてくる<ダークチャーム>にはスナイパーライフルと背部のミサイルでいなして決定打を与えさせない。

 冷静だ。というのをヴィラスは感じた。いや、冷徹というのが正解か。こちらの撃破を優先して、混乱状態にある味方の援護に向かおうなんて考えは無い様だ。雇われだろうと察する。仲間意識は全くない。傭兵らしさとは違う冷たさがある。

 フライボーイやスタークスと同じプロジェクトに参画していたと聞くが、あの機体に乗っているのが本物のククルカンであるかは別として目の前で戦っているこのAC乗りの腕は確かだ。

 <ドローン>の攻撃意識が<ダークチャーム>の方へ一瞬傾いた。その隙に敵機の背後へ回り込む。ロックオン。ライフルを構えた。外しはしない。

 

 『邪魔よ』

 

 プリンシバルの声がヘルメットに入ってきた。レーダーに味方機の反応が複数近づいてきている。遠方から複数のミサイル。それは<サンダイルフェザー>から放たれたモノであり、その後ろに味方MTを引き連れてくるのを後方確認モニターで捉える。

 援護にしては射線などを考慮していない乱暴な撃ち方であった。ミサイルは<ヴェスペロ>の近くにも着弾する。

 

 

 『そのACは私が仕留める。貴方らは周りの雑魚を片付けて』

 「それも依頼のうちか」

 『”元”上位ランカー様は美味しいとこだけ独り占めねぇ……』

 『アライアンスの成功の為よ。カメラも回っているんだから、引き立て役になりなさい』

 

 <サンダイルフェザー>はオーバードブーストで一気に<ドローン>へ肉薄。右腕に持ったマシンガンを発射した。

 

 『──あの下手くそ坊やのお世話よろしく』

 

 モリ・カドルの事だ。碌なフォローもせずにこっちに来たのだから、恐らく向こうで悪戦苦闘しているに違いない。プリンシバルへの下手な援護は後が怖いと判断。ああ言っているのだからやらせておけばいい。ヴィラスは街の入口の方へ機体を向けた。

 

 

 街の入り口では未だにアライアンスとアグリゲートが交戦中。状況は流石にアライアンス優勢に傾いている。そうヴィラスは感じたが、ひとつ例外があった。

 

 『そこのAC聞こえるか?! すぐに援護しろ!』

 

 モリ・カドルの焦燥した声が耳朶を打つ。やはりかという印象だ。敵MTに囲まれて右往左往するような動きでライフルを散発的に発射する<ピンチベック>の姿があった。パニックを起こしたパイロット特有の動きだ。随伴のMTの方が明らかに良い働きをしている。

 模造機だと分かっていてもトップランカーの機体で稚拙な動きを見せられると妙な失望感が出てきて腹立たしさも起こる。早いところ片付けるのが一番だ。「周りを片付ける」と言ってヴィラスはトリガーを引いた。

 ライフルから放たれたレーザーは<ピンチベック>の周りにいたMTへ次々と命中するが、何を思ったのか<ピンチベック>は突然、急旋回させて<ヴェスペロ>の射線に割り込んできた。当然、トリガーを引き続けていたヴィラスは急には止められず、再度放たれたレーザーは<ピンチベック>のコアと肩に数発命中。防御スクリーンが弾ける音が木霊した。その隙に残りのMTから距離を取られてしまった。

 

 『レイヴン! ちゃんと援護しろよぉ!』

 

 モリ・カドルの情けない声が耳を打った。「どの口が……!」と心の中で叫ぶ。下手に動かなければ仕留められたはずだった。

 そこへ別方向から<ダークチャーム>からの狙撃によって残りのMTが撃破された。だが、<ピンチベック>は<ダークチャーム>へ向かってグレネードキャノンを発射してしまう。

 

 『危なっ!』

 「何やっている?!」

 

 グレネード弾は<ダークチャーム>の脇を掠めて背後にあったビルに直撃。大きな音を立ててビルが崩れていく。

 

 『て、敵か? やられる……やられる……』

 

 どうやらパニック状態に陥ったモリ・カドルが<ダークチャーム>を敵と誤認したらしい。もう一発ライフルが放たれたが、それは明後日の方へ飛んでいく。

 

 『味方だよ。ちゃんと見て』

 

 危うく同士討ちになるところであった。呆れた声を上げたコープス・フールは機体を<ピンチベック>の傍に着地させるとスナイパーライフルで軽く小突く。『ヒイッ』という小さな悲鳴が聞こえて来た。<ヴェスペロ>も<ピンチベック>の前に付くとマニピュレータで右腕を抑えた。これ以上余計なことをされては困る。

 

 「もう終わる。だからもう動くな」

 

 ヴィラスは機体を跳び上がらせると周囲にいる残存の敵機をミサイルで仕留める。<ダークチャーム>も同様に左手に持たせたハンドガンで敵機を片づけていく。後から突入したアライアンスのMT部隊の手際が良かったのだろう。掃討にそう時間は掛からなかった。

 

 

 アグリゲートの戦力は一掃され、街に何十台もの装甲車とトレーラーが入っていく。動きからして人質が収容されている場所へ向かっているのだろうとモニター越しにそうヴィラスは考えた。

 

 『ヴィラス君、お疲れ』

 「一応は成功だったかな?」

 『あのエラーが無ければもう少しスムーズだったけど、起爆させなかったんだ。成功と言っていいでしょ』

 

 「そうだな」と言ってモニターに映るステルスを見やる。展開状態のままパージされたステルスはオーバーヒートしていたのだろうか微かにか細い煙を昇らせていた。

 ある意味ではこのパーツのテスト運用の任務であったようなものだ。だが、このパーツの完成度は使っていた感触としては実戦で使うには厳しいものがある。使用中に機体の動作全体に影響を及ぼすエラーなんて論外だ。

 

 『御苦労様、お二人さん』

 

 プリンシバルの声。モニターは自機正面に<サンダイルフェザー>の姿を映し出している。右肩部装甲が弾丸によって少しめくり上がっているが、他は大した損傷をしていない。モニターのサブウィンドウには<サンダイルフェザー>によって撃破された<ドローン>の残骸。

 

 『貴方たちの頑張りは評価に値すると褒めておきましょう。このままこっちに来てくれてもいいのよ』

 

 『少なくともあの下手くそ坊やよりも役に立つ』と付け加えて来た。モニターの端に映る<ピンチベック>。モリ・カドルの事を指している。

 

 『全く……あんな醜態晒して。戦術部隊の恥晒しもいいとこね。まぁ、これで与えてあげたチャンスは全部駄目にしたんだから、相応の措置は取らせるけど──』

 「被害状況は?」

 『さあ? でも先程聞いたところによると、人質は皆フロアに集められた後、外側からドアを溶接されるなどして閉じ込められていたみたい。ただ、衰弱者はいても死者まではいないはずよ。建物への被害は殆ど無いし、そこは気にする事?』

 

 その事は淡々と答えて気にしている様子は無かった。口にするのは自分たちの事ばかりだとプリンシバルの言葉に気付かされる。

 

 『突入タイミングがねぇ……あのパーツもエラー起こすし、危うくビルの中にいた人質も私たちも終わるところだったんだよね』

 『そう、でも成功した。この結果で良いじゃない』

 「後から突っ込んできたあんたらじゃ、分からないだろうな」

 『それが貴方たちの任務でしょう。まあ、参考になるテスト結果も出せたと技術部門には報告してあげる』

 

 『フン……』とつまらなそうに鼻を鳴らしたプリンシバル。その時、自機後方から味方機の反応。降下してきたのはAC。重量二脚型。

 

 『よくやってくれた。プリンシバル』

 

 再び聞き覚えのある声。ジェランであった。後方確認モニターに映る機体は以前に交戦した時とはフレーム構成が大きく違っていたが、黒と銀のカラーリングに左肩の「月に沈み込む黒い影」のエンブレムは間違いなく<エクリッシ>であった。

 

 『本部の忠犬……今更何しに来たの?』

 『あの幽霊機の調査及び回収だ。ここから先は我々が引き継ぐ。お前たちは帰還だ』

 『後からしゃしゃり出てきて偉そうな口を利かないで。これから私はメディア対応もしなきゃならないの。帰還はそれから。──先にあの坊やを帰還させる。隊長のお叱りが待っているのだから』

 『勝手にしろ。だが、こちらには近づこうとはするな』

 『言われなくともそうするわ。でも、誰のおかげでこんな楽な仕事が出来るのか。──それをしっかりと自覚しておきなさい』

 

 プリンシバルはそう言い放って街の入口の方へ機体を向けて行った。

 

 『今回はこんな形で会うとはな、ヴィラス』

 

 ジェランからだ。<エクリッシ>の背後には<MT11-STARLING>が数機。

 

 「あんたらもいればもう少し楽だったかもな」

 『実戦は戦術部隊の役目だ。俺たちはそれ以外の事もこなさなければいけないのでね。レイヴンとはまた別の忙しさと責任がある』

 

 余裕を持った口調。以前交戦した時には無かった。当然かとヴィラスは思う。今は敵ではない。

 

 「あんたはそれで良かったのか。アライアンスの兵になって……」

 

 思わずヴィラスは聞いてみた。ジェランの選択。その意図を。

 

 『──あの日、お前に不覚を取らなければ……こうはならなかっただろう。だが、俺は生きる為にここにいる事を選んだ。悪くは無い。AC乗りとしてまだ戦えているからな』

 

 それがジェランの考えなのかとヴィラスは頷く事しか出来なかった。あの戦闘でもし自分が敗走していればジェランはまだ独立傭兵として戦い続けていたのだろうか。立ち回りを考えろというプリンシバルの言葉を思い出す。いつか自分もこの立場から選ぶことになるのだろうか。

 

 『組織を失ったというマイナスはあったが、その代わり新型機に強化手術というプラスを得られた。優秀な部下もついた。それでも──』

 

 ジェランの言葉がそこで一旦途切れるが、ひとつ大きな溜息を置いてから吐き出した。

 

 『お前とのケリはどんな形であろうが付けたいと思っている。その時までなるべく生きてみろ。俺の汚点は俺自身で消し去る』

 

 ジェランはそう言って機体を向け直すと、<エクリッシ>が自機から離れていく。それが叶う時まで自分はレイヴンで居続けられるか分からない。

 ただ、生きている以上レイヴンとしていなければならない。そんな気持ちは強くなる。

 

 『ヴィラス君、私たちにも帰還命令が出た。一旦戻ろうか』

 

 コープス・フールの声が耳に飛び込んできてハッとなる。通信機のオンラインランプの点滅が目を刺激した。

 

 『少しボーっとしていたよ。疲れているだろうが、自分のガレージに帰るまでが任務だよ』

 「そうだな。色んな意味でこんなに神経すり減らす任務は初めてだ。早くゆっくりしたい」

 『私もそんな感じだ。今日は熱い風呂に入ろう。そうしよう』

 

 そう言いながらコープス・フールは<ダークチャーム>を基地の方へ向けてブースターを吹かした。

 

 『……やはりないか……』

 

 ボソリとそう呟くコープス・フール。「どうした」とヴィラスは尋ねると、『いや、こっちの話』と笑いながら応えてきた。

 

 『パーツ換装完了次第、迎えが到着予定よ。お疲れ様、ヴィラス。私はこれから代理オペレートがあるから今日はこれで終了ね』

 

 任務完了。うなだれるような疲弊感を引きずりながらヴィラスは<ヴェスペロ>と共にガル・パークをあとにした。

 

 

    *     *     *

 

 「終わった……みてぇだな」

 

 廃ビルの窓枠から顔を出してクリフは双眼鏡越しに街の中心部を眺めた。

 

 「戦闘の音は止んだようだね。いやーこっちまで弾が飛んでこなくて良かったよ」

 

 クリフの隣でKDも同様に双眼鏡を覗いていた。

 シェルターへ通じる道が瓦礫で塞がれて行く事が出来ないと悟った2人は近くのビルに隠れて戦闘の様子を遠くから窺う事にした。

 

 「マスコミの中継映像と生で見た限りだと戦術部隊と街の中にレイヴンが挟み撃ちで突入して連中をぶっ潰したみたいだが、よく気付かれなかったな」

 「何かやり方があったぽいけど、ちょっとここからじゃ分からなかったね。後でこっそりと監視カメラを見直そうか」

 「ああ、お前さんのハッキングのお陰で臨時収入を得られそうだし、もうちょい欲張ろうか」

 

 街の様子を見ている際にクリフたちは街の監視システムに忍び込み、監視カメラで占領した部隊の正体を探るという事を思い付いた。その際に監視カメラに映されたMTの姿をアライアンスに売り渡すこともしている。

 

 「大丈夫かな……やっている事がアレだからアライアンスの公安に目を付けられないと良いけど」

 「事件解決に一役買ったし、向こうも事後処理で忙しいだろうから、こっちに気を回す余裕は暫くねぇ筈だ。その隙にトンズラすりゃいい」

 「それもそうだね。別口座でのコームの取引だし、逃げる手段は考えてあるから良いか。ちょっと色付けて400コームゲットは大きいねぇ」

 

 手に持っていた携帯端末を眺めてKDは満足げな顔を浮かべた。

 

 「通帳の残高が一気に賑やかになったなKD。俺の部屋でそれを肴にしながら連中の調査でもするか」

 「そうしよう。暫くはこの街から出られそうにも無いし、もうひと儲けしようか」

 

 クリフは身体の節々を回しながら少ない荷物を纏めてフロアから出る。殆どの時間をここであまり寝ずに過ごしたのだから疲労は結構溜まっていた。腹も鳴る。

 

 「飯はどうするよ? 一応俺の部屋に少しあるけどお前さん、持ってきているか?」

 

 後ろからついてきているであろうKDに呼びかけるが、返事が無い。

 

 「KD、どうした?」

 

 クリフは振り向いて呼びかけるが、そこにKDの姿が無い。

 

 「テスト結果の確認で来てみれば、こんな偶然もあるとは私は運が良い」

 

 代わりに知らない男の声。雲が晴れて月明かりが差す通路の奥から出て来たのはKDとスーツ姿の男。

 

 「お前は別件で引っ張るつもりだったが、それも持っているとはな」

 

 そして男の右手に握られた銃の先はKDの頭に突きつけられていた。

 

 「渡してもらおうか。クリフ・オーランド。お前が持っているあの端末を」

 

 その言葉にクリフは背筋に悪寒が走るのを痛いほど感じた。

 

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