ARMORED CORE LAST RAVEN ~Unsung Overture~   作:唯名瞬

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第37話「Etzam Nar」

 ポイント・レーア。

 

 サークシティとアライアンス本部の中間地点から少し外れた空白地帯。

 <ヴェスペロ>を載せた<クランウェル>そこへ向かって飛んでいた。無論、任務である。

 ポイント・レーアと呼ばれたエリアはミラージュ領とクレスト領。そしてナービス領の3つの隙間にあり、昔から資源の乏しさから企業からは戦略的価値はあまりないとされていた場所であった。それ故に政治的な干渉を持たないモノが作られた。

 ミッションポイントはレイヴンズアーク共用ガレージJ19・エリア。

 依頼主はレイヴンズアーク。

 その地に置かれていた共用ガレージを今後の為に復旧させたいというのがアークの考えらしい。

 だが、障壁がある。ポイント・レーアは現在、幾つかの武装組織がガレージ周辺で勢力争いをしていた。ガレージとしての機能は大半が喪失しているが、小規模組織の拠点としての利用価値は十分にある。彼らの狙いの1つでもあった。

 今回のミッションは武力衝突が起きるタイミングを狙って彼らの戦力を壊滅状態に追いやり、ガレージを奪還してアークの勢力圏を確保するという狙いだと聞かされた。

 

 「地道にやっていく路線に切り替えたか」

 

 セントラル・アークの調査無期限延期が決定してからアーク自体の動きは仲介活動に徹していたが、ここ数日は放棄した関連施設の調査または奪還依頼をレイヴンに対して再び出し始めていた。

 

 『ガレージの復旧を進めてレイヴンの受け入れ態勢を広げていきたいみたい様ね。依頼内容からそんな感じは察したけど』

 「そっちの方が確実だと判断したんだろうな。今はガレージの数も少ない」

 

 セントラル・アークの調査は中途半端な形で終わってしまったが、あの有様では復興は当分無理であることはすぐに分かったのだから出来るところから始めていこうという考えはよく分かる。少しばかり遅い気もするが、現実を見られたのだと好意的に捉えておく。

 悪い事ではない。ガレージを含む施設の再建が進めばレイヴンの活動はやり易くなる。パーツの調達も以前のようにとまでいかないが、少なくとも今よりはスムーズに出来て、負荷も少なくなるだろう。それに関しての改善をヴィラスは微かに期待を寄せた。

 ミッションポイントまであと僅か。機体の最終チェックは既に終えて問題ない。

 

 『作戦地点に到着した。降下準備は良いか』

 

 <クランウェル>パイロットの声が耳に入る。今日は久々に有人機だ。

 「OKだ」とヴィラスが返すとパイロットから『グッドラック』という言葉と共に固定フックが外れる。その言葉の妙な心地良さを感じながらヴィラスと<ヴェスペロ>は降下。

 着地に成功。機体の簡易チェック。全系統異常無し。

 辺りを見渡す。MTの残骸が幾つか転がっているが、周辺にレーダー反応は無い。

 

 『戦闘が起きているって情報なのに……もう終結しているって事?』

 

 ルシーナの怪訝そうな声。この周辺で武力衝突が起きているという情報だが、その気配は全くなく、静かであった。

 

 「あっちか……」

 

 ヴィラスは機体を別方向へ向けると、モニター正面に数本の細い黒煙が空へ伸びているのが遠くに見えた。マップデータではあの辺りにガレージがある。

 戦況というのは一刻ごとに変動するものだ。戦闘エリアが変わった可能性がある。ヴィラスはフットペダルを踏み、機体を飛ばした。

 ガレージに到着。だが、ここも敵機の姿は無い。代わりに機体の残骸が転がっている。残骸から煙がまだ上がっている事から戦闘が終わってまだ時間は経っていない。残骸の数は降下地点周辺より多く、ACの残骸も少数ある。ここでの戦闘が激しかったというのを伺わせていた。

 ヴィラスは周辺を探る。動く気配のある機体は皆無。残骸を見てみると、どの機体も原型を留めない位の激しい損傷を受けている。

 ──この損傷具合はもしや。

 

 『熱源反応を感知。大きさからACよ。数は……1』

 

 ルシーナの言う通り、レーダーディスプレイに輝点が1つ。自機正面方向から向かって来る。識別はレッド。

 

 機影がモニターに映る。その機体は──

 

 「そんな……」

 

 ヴィラスは思わず言葉が零れる。ルシーナも息を吞み込んでいた。それはいる筈の無い機体。紛れもない亡霊。

 紅い中量二脚型ACが崩壊したガレージの上に佇んでいた。機体左肩には星の軌道を象ったエンブレム。そこには己の強さを示すメッセージが刻まれている。

 

 ──I don't know defeat I don't know fall therefore I'm No.1(私は敗北を知らない 私は転落を知らない 故に私がNo.1だ)──

 

 女帝と呼ばれたレイヴン、イツァム・ナー。その愛機<プロトエグゾス>。

 何故こんな所に。という疑問よりもここの惨状は恐らくこのACがもたらしたものだという直感。そしてもう逃げられないと悟る。

 ヴィラスは機体をバックステップさせる。それが戦闘開始の合図だった。

 <プロトエグゾス>は右腕のマシンガン<CR-WH79M2>を<ヴェスペロ>に向けて放つ。ヴィラスはそれを躱しながらロックオンサイトに機影を捉えようとする。

 だが、<プロトエグゾス>は<ヴェスペロ>の上を取る様な動きでそれを回避。死角に入られた瞬間に両腕の武器を発射。左腕に持ったレーザーマシンガン<WH10M-SILKY>から連続して放たれるレーザーと合わさって防御スクリーンが弾ける音が響く。

 <ヴェスペロ>、オーバードブーストを起動。そのままインサイドトリガーを引いてECMメーカーを射出。これで弾幕から逃れられたと思いきや、ダメージ警告が続く。

 <プロトエグゾス>は既に反転して<ヴェスペロ>を捕捉していた。コア<CR-C98E2>のイクシードオービットが展開されている。ECMを展開しても面での攻撃でこちらへ攻撃を当ててきている。トップクラスには小手先のやり方は通用しないという事か。

 ──どうやって戦う? 

 亡霊とはいえ、中身がイツァム・ナーそのものであれば勝ち目は低い。ヴィラスが知っているイツァム・ナーはアリーナでの試合を数回見た程度。それでも圧倒的な機動力とトップアタックからのラッシュで相手を寄せ付けない強さであった事は記憶している。頭の中でそれを思い出しながら機動の先を読まなければいけない。そうヴィラスは感じた。

 フットペダルを踏み込んで、ブースト機動で後退。背部のミサイルランチャー<WB01M-MYMPHE>に切り替えるとエクステンションをオン。ロックオンサイトに捉えて発射。連動ミサイルランチャー<CR-E84RM2>のミサイルと共に7発放たれる。

 上空にいた<プロトエグゾス>は細かなブースト機動で回避行動をしながら右腕のマシンガンで弾幕を張ってミサイルを打ち落とした。その弾丸はそのまま正確に<ヴェスペロ>に向けられる。ヴィラスはコントロールスティックを捌きながらそれを躱すが、反撃が出来ない。動きは向こうの方が速かった。

 ECMカウンターの数値が急上昇。レーダーディスプレイにノイズ。機影を見失う。

 すかさず機体を右方向へ切り替える。こちらにいるという直感であったが、それは正しかった。ロックオン警告。正面に見据えた<プロトエグゾス>の右背部と肩部からミサイル。直進と挟み込むような軌道のミサイルが同時に向かって来る。

 コアのミサイル迎撃装置が作動。左腕のマシンガン<WL06M-FAIRY>を構えながら前進。迎撃装置のレーザーがミサイルを落とし、残りもマシンガンで落とす。まだECMの影響が残っているが、構わず右腕のリニアライフル<CR-WR93RL>を自機の上を取ろうとしている敵機へ発射。しかしそれは掠めていくだけで直撃には至らない。

 再びオーバードブーストを起動して距離を離す。近距離戦はやはり分が悪いが、今の<ヴェスペロ>に搭載している武器の有効レンジはほぼ近~中距離のもの。決定打を与えるには飛び込まなければいけない。

 <プロトエグゾス>が跳躍。既にそれは読んでいる。マシンガンを放ちながら後退。動きを引き付けたところでリニアライフルを発射。1発、2発と細かい機動をする<プロトエグゾス>の脇を掠めていくが、3発目でようやく命中。だが、決定打ではない。防御スクリーンに弾がぶつかる甲高い音が響くだけ。

 

「お前は何者だ」

 

 返答が来るとは思っていない。それでもそんな言葉が思わず出てきてしまう。

 代わりに返ってきたのは弾丸とレーザーの弾幕。──亡霊と会話なんて出来やしないか。ヴィラスは口元を歪めながらオーバードブーストを起動させる。

 <プロトエグゾス>の足元を抜けて後ろを取ろうとするが、敵もすぐさま反転して<ヴェスペロ>へロックオンしてきた。ECMメーカーを射出してそれを遅らせると、機体を反転。着地した瞬間を狙って左背部のロケットランチャー<WB23RO-CACUS>を発射。3発のロケット弾が並んで<プロトエグゾス>に向かって飛んでいく。

<プロトエグゾス>はそれをブースト機動での切り返しで回避。なかなか捕まえられない。

 だが、その動きにヴィラスは既視感を覚えた。右に短くステップ、そこから一気に左へとブーストを使ってのスライド機動。

 高機動戦闘を主とするレイヴンであれば普遍的な動きだが、動き出しと切り返しのタイミングはヴィラスが最も見てきたパイロットを彷彿させるものであった。

 

 「……フィーネ……」

 

 口の中で小さく漏れたその言葉。今はもういない者の後ろ姿が脳裏に浮かぶ。自身が愛機としていたACに乗り込んでいく最後に見た姿。

 動きが一瞬、緩慢になってしまった。コンマ数秒であったが、相手はトップクラスのレイヴン。それは向こうにとって十分な隙を与えてしまう致命的なものであった。

 間合いを一気に詰められると、両腕の武器とイクシードオービットの分厚い弾幕が<ヴェスペロ>に襲い掛かってきた。

 防御スクリーンが実弾とレーザーのラッシュで一気に削られていくのが装甲越しから分かる。機体ダメージの上昇を知らせる警告音とメッセージ。機体温度も上昇してオーバーヒート直前だ。

 コントロールスティックを横へ傾けてそれから逃れようとするが、それは敵も分かっていた。<ヴェスペロ>の動きに合わせて距離を維持して攻撃を続行する。

 遂に機体温度が限界値を超えてオーバーヒート。ラジエータの緊急冷却が作動。ジェネレータのエネルギーが消耗される。

 

 「……しまった」

 

 チャージングなんかすればそこで終わりだ。バックステップで距離を取ろうともがく。それでもミサイルで反撃するも、それらは<プロトエグゾス>のコアに装備されたミサイル迎撃装置と両腕のマシンガンの弾幕によって撃ち落される。

 

 『このままでは危険よ。退避を……!』

 

 ルシーナの緊迫した声がヘルメットに入って来る。同時にコアと右腕部の一部が破損したというメッセージ。状況としては非常に不味い。

 ──死ねない。そんな心の叫びがヴィラスの胸の内から飛び出してくる。

 オーバードブーストの起動スイッチに手をかける。エネルギー残量から射程外に逃れるかギリギリのところであった。一か八かの賭けであった。

 <CR-C84O/UL>の大出力ブースターが唸りを上げた。コントロールスティックを傾けて推進ベクトルを右へと全開。<ヴェスペロ>は右方向へ機体を急加速。ヴィラスはシート左側面に押し付けられるが、機体に振り回されない様に身体全体を使って踏ん張らせた。

 数発攻撃を受けるが、<プロトエグゾス>の弾幕から逃れる事に成功。その間に機体温度も正常値に戻り、エネルギーも僅かながらに残せた。

 脱出成功。機体の損傷は大きくなっていたが、コンソールパネルの表示を見てヴィラスはまだ戦えると感じた。外装はともかく、内装部のダメージはそれ程ない。ECMメーカーを射出しながら建物の陰を盾にする様に後退。仕切り直しだ。

 跳躍しながら距離を詰めて来た<プロトエグゾス>に向けてミサイルを発射。今度は8発。空中だろうが、地上だろうがその高い機動力は変わらない。<プロトエグゾス>は細かなステップとブーストでそれを躱していきながら視界外へと消えていく。

 同時にレーダー上にノイズが走り、ECMカウンター数値が上がる。先程と同パターンだ。機体を右に向けながらバックステップ。

 だが、モニター正面には機影は無い。ロックオン警告音が響く。ヴィラスは咄嗟に頭部カメラを上に向けるとそこに<プロトエグゾス>の姿。直後に敵機の右背部と肩からミサイルの束が飛び出してくるのが見えた。

 ほぼ真上からの攻撃でミサイル迎撃装置が作動しない。オーバードブーストの起動も間に合わないと悟り、ブースターを全開にして回避行動に入る。

 衝撃がコクピットを襲う。何発か直撃を受けたらしい。レーダーのノイズが更に大きくなる。ECMの所為だけではない。機体頭部レーダーに損傷のメッセージ。

 

 「どこだ?!」

 

 再び見失った機影を探るために機体を左右に振り、周りを見渡す。駄目だと分かっていても、焦りが思考を鈍らせる。トリガーに掛ける指の感触が薄れていた。

 一瞬回復したレーダーに輝点が映った。自機後方の位置。すぐさま反転。そこには<プロトエグゾス>が両腕の武器を構えて距離を詰めてきていた。

 右腕のリニアライフルを発射。<プロトエグゾス>はそれをスライドで回避。だが、その動きは知っている筈の動き。切り返しの瞬間を狙って位置を先取っての射撃。弾丸が<プロトエグゾス>に吸い込まれる様に命中。機体が揺らぐのが見えた。だが、続けての射撃は急加速した敵機の足元を掠めただけ。

 体勢を立て直した<プロトエグゾス>はイクシードオービットを展開。<ヴェスペロ>の死角へと入るように跳躍。その動きに対応しきれなった<ヴェスペロ>の右側面へ両腕とイクシードオービットからの一斉射撃。弾丸のラッシュが叩き込まれる。

 すかさずサイドステップで逃れるが、右肩装甲が破損。稼働に支障ないが、インサイドの射出は不可。

 損傷度が更に上がっているという頭部コンピュータからの通知。ブースターを全開して後退。距離を離そうとヴィラスはフットペダルを強く踏み抜く。

 <プロトエグゾス>が飛び掛かってくる。向こうの方がブースター出力は高い様だ。直ぐに距離を縮められる。ロケット弾を発射するが、横へスライドされて容易に回避される。

 ──これがトップランカーの実力か。

 中のパイロットの真偽の問いを抜きにしても圧倒的な実力差を付けられている。それが事実だ。

 諦めの感情が少しずつ胸の内から湧き上がってきた。そしてルシーナに対して申し訳ない気持ちも同時に湧いてくる。生き残ると誓ったのに、ここで終わってしまうかもしれない。

 

 「……ここまでか」

 

 更に距離を詰めて来た<プロトエグゾス>を見て、口の中で小さく出した言葉。コントロールスティックを握る力がふっと弱くなる。

 

 「……クソッ……」

 

 続けて出た悪態が僅かな抵抗。しかし、そんなものでは敵機は止まらない。──そう思った。

 

 『増援が……味方機が来るわ!』

 

 ルシーナからの言葉の意味を理解するのに少しばかり時間が掛かったが、<プロトエグゾス>が反転して回避行動に入るのを見てようやく実感できた。

 レーダーディスプレイに輝点が1つ。識別はブルー。上空から弾丸の雨が<プロトエグゾス>に向けて降り注がれる。その先に見えたのはACの影。黒と紫の軽量二脚型。

 

 「<シュバルツナーゲル>。──スタークスか」

 

 弾丸を僅かに受けながら遠ざかっていく<プロトエグゾス>と入れ替わるように<シュバルツナーゲル>が<ヴェスペロ>の前に付く。

 

 『久しぶりだね、ヴィラス』

 

 スタークスからだ。その声を聞いてヴィラスは安堵の溜息を大きく吐く。

 

 「助かった。感謝──」

 『礼は後だ。あの機体を潰す。君は戦えそうかい?』

 「損傷しているが、弾はまだある。──でも、なんでここに?」

 『君と同じ任務だ。そしたら、救援要請が来た。君のオペレーターからね』

 

 「そうだったのかと」ヴィラスは頷く。よく見ると、<シュバルツナーゲル>も所々損傷している箇所がある。

 そして、ルシーナは諦めていなかった。

 自分を生かす為に裏で救援要請を出してくれていた。コントロールスティックを握る力が再び強くなる。

 ──ありがとう。生きて帰って必ず伝えよう。そう誓った。だからあの機体を絶対に撃破しなければならない。

 

 「相手はトップランカーだ。本物かは分からないが」

 『──あいつは偽物だよ。ボクには分かる』

 

 低く唸るようなスタークスの声がヘルメットに入ってきた。

 距離を取っていた<プロトエグゾス>がこちらに向かってくる。退却する意思は感じられない。こちらが2機だろうと仕留めるつもりだ。

 

 『二手に分かれるよ』

 

 スタークスがそう言うと<シュバルツナーゲル>がブースターを吹かして跳躍。どうやって攻めるかの確認もしていないが、状況を見ながらやるしかない。ヴィラスもフットペダルを踏み、<シュバルツナーゲル>と反対方向に機体を飛ばした。

 左右からの挟撃態勢。トップランカーは初見でどう対応するか。機体の挙動を見ながらヴィラスは両腕の武器を<ヴェスペロ>に構えさせる。

 モニターに僚機となった<シュバルツナーゲル>の機体情報が表示される。マシンガンとグレネードライフルのみのシンプルな武装。インサイドにはECMメーカー。肩部にエネルギー補助装置。

 

 『ECMの残数は?』

 

 スタークスからの通信。<ヴェスペロ>の機体情報もスタークスには共有されている。

 

 「右肩の射出が出来なくなっていて、4つしか出せない」

 『少し心許ないが、何とかなるかな……ボクは2つだ。タイミングを見計らって互いに射出。敵の目を潰そう』

 

 スタークスの意図は理解できた。後はそれに合わせられるかだ。

 <プロトエグゾス>は挟撃を避ける為に急速後退。そのままの態勢からミサイルが放たれる。狙いは<ヴェスペロ>。倒しやすそうな方を選んだかとヴィラスは奥歯を噛み締める。

 コアの迎撃装置がミサイルの束を落としていく。落としきれなかったミサイルはブースト機動で対処。1機を視界外へとならないようにするためだろう、その間に<プロトエグゾス>は2機を縦方向で捉えられるように回り込む動きを見せる。

 

 『ECMを射出する。55秒後に君からも射出をしてくれ』

 

 味方機からのECM反応信号。<シュバルツナーゲル>がECMメーカーを射出。ヴィラスはコンソールを操作してタイマーをセット。モニターに時間表示される。

 自機が使用しているモノより強度の高い妨害電波だ。<プロトエグゾス>の動きにブレが生じている。自機から遠ざかっていく様な動きを見せた。

 

 「叩き込む」

 『そのつもりだ』

 

 2機は間合いを詰めて右腕に持たせた武器を構えた。<シュバルツナーゲル>のマシンガンの射線が<プロトエグゾス>を追い込み、そこへ<ヴェスペロ>のリニアライフルの弾が突き刺ささり、<プロトエグゾス>が揺らぐ。

 更に追撃と言わんばかりに<シュバルツナーゲル>のグレネードライフル。直撃を受けて大きく吹き飛ばされた<プロトエグゾス>を見て、初めて効果的な攻撃を与えられたとヴィラスは感じた。

 直後にECMカウンター数値の上昇。向こうもECMを使用してきた。ロックオンマーカーが消失。ヴィラスは一旦後退を選択。

 

 『慌……る……なよ』

 

 ノイズ交じりのスタークスの声が飛ぶと、前方に立っていた<シュバルツナーゲル>がマシンガンを横薙ぎに発射。<プロトエグゾス>が飛び上がって回避するが、直後にECMカウンター数値が下降。

 マシンガンでECMメーカーを破壊した様だ。タイマーがゼロになる。インサイドトリガーを引いてECMメーカーを射出する。更に時間を置いてもう1個射出。断続的にECM障害を起こして向こうに攻撃の時間を与えさせずにこちらの攻撃時間を増やす。

 一度は距離を詰めようとしてきた<プロトエグゾス>が再び遠ざかる様な動きを見せる。攻撃チャンスはまだ続けられるが、互いのECMメーカーの残り数からあと1回だけだ。

 オーバードブーストを起動。一気に敵機へ肉薄。左腕のマシンガンで引き付けながらリニアライフルを発射。<プロトエグゾス>の装甲に一発、二発と命中。防御スクリーンが大きく弾ける音が響く。後ろから<シュバルツナーゲル>がグレネードを放って追撃。

 <プロトエグゾス>はそれを跳躍で回避すると、両腕の武器を振り回して乱射。四方八方に乱れ飛ぶ弾が2機の装甲を叩く。大したダメージにはならないが、動きが鈍るには充分な当たりであった。その隙に<プロトエグゾス>は後退してECMの効力圏から逃れた。

 ブーストで後退しながら<プロトエグゾス>の背部のミサイルが発射。狙いは近い位置の<ヴェスペロ>。そこへ<シュバルツナーゲル>がECMメーカーを射出してその狙いを外させる。ミサイルは<ヴェスペロ>の脇を逸れていった。

 ヴィラスは再びタイマーをセット。チャンスタイムはこれで最後。これを過ぎれば戦況はまた分からなくなるだろう。

 ブースターを全開にした<シュバルツナーゲル>が前に出ると、高く跳び上がりトップアタックを仕掛ける。

 イツァム・ナーに似た戦い方。マシンガンとイクシードオービットの弾幕が<プロトエグゾス>に降り注ぐも、<プロトエグゾス>は肩部の連動ミサイルをパージ。身軽になった機体は更に機動力が上がり、それを躱していく。ヴィラスも攻撃に加わるがロックオンサイトに捉えるのが難しくなる。タイマーの残り時間は少ない。

 <シュバルツナーゲル>は肩部のエネルギー補助装置でブースターの飛翔時間を伸ばしてトップアタックを続行。射線が<プロトエグゾス>を追いかけるが、不意にそれが細くなる。

 イクシードオービットが弾切れした様だ。肩部パーツもパージ。連戦で消耗している影響がここで出る。

 タイマーがゼロ。ヴィラスは最後のECMメーカーを射出。今度は<ヴェスペロ>が前に出てミサイルを発射。残り少ない時間であの機体にどれだけ損傷を与えられるか。

 <プロトエグゾス>が跳びあがる瞬間を狙って再度背部のミサイルを発射。肩部のものと共に放たれたミサイルは<プロトエグゾス>の脚部に数発命中。大きく揺らいだ機体はバランスを崩し、高度を落とす。

 <ヴェスペロ>は肩部の連動ミサイルランチャーをパージして跳躍するとリニアライフルを発射。動きが鈍った敵機に命中。そこへ後ろからグレネード。<プロトエグゾス>の右肩装甲が直撃を受けて吹き飛ぶ。

 

 「コイツも……しぶとい」

 

 左腕のマシンガンが弾切れしていた事に気が付いて手放すと、ハンガーからレーザーブレード<CR-WL06LB4>を装着。フロントステップを踏んで斬り掛かる。

 <プロトエグゾス>はそれをジャンプして躱すと、後ろに位置していた<シュバルツナーゲル>へ一気にブーストで加速。そのまま右脚が振り抜かれ、<シュバルツナーゲル>の頭部を吹き飛ばした。その衝撃で<シュバルツナーゲル>は転倒。動けなくなったところに両腕の武器が発射される。

 

 『……クソッ』

 

 既にECMの効力が切れていた。<シュバルツナーゲル>はブースターを無理矢理吹かして逃れようとするも、防御スクリーンが削られて装甲が吹き飛ぶ。転倒で動きが制限されて反撃がままならない。

 

 「離れろ!」

 

 リニアライフルを放って敵機を<シュバルツナーゲル>から引き離す。<シュバルツナーゲル>はその間に立ち上がるが、装甲の至る所が破壊されて動くのがやっとの状態に見えた。

 

 「大丈夫か?」

 

 ミサイルを放ちながらヴィラスはスタークスに呼びかけた。

 

 『体は無事。……ボクとしたことが……油断したよ』

 

 ノイズ交じりのスタークスの声が聞こえ、ヴィラスは安堵の溜息を吐く。

 

 「一旦退け。その状態じゃ危険だ」

 『そうしたいけどね……あの機体は彼女を……ナーを汚している。だからボクが絶対に……』

 

 2人の間で何かがあったらしい。それを聞く間もなく<プロトエグゾス>が接近。

 

 「けど距離だけは離れておいた方が良い。損傷した機体で前に出ればやられるのがオチだ」

 

 <シュバルツナーゲル>の前に立った<ヴェスペロ>はロケット弾を放つ。当たりはしなかったが、接近は遅らせた。ロケットも残り弾数は少ない。

 

 「俺が引き付ける。武器はまだ使えるだろ?」

 『……了解』

 

 <シュバルツナーゲル>が後方へステップしていくのが見えた。ECMは全て使い果たし、僚機の損傷も大きい。大きな優位性はもう無くなっている。

 それでもやらなければならない。使えるものを全部ぶつけてでもあのACは倒す。

 フットペダルを強く踏み抜いてブースターを全開。ロケット弾を放つ。スライド機動で右方向に逃れていく敵機。それはもう見た、とヴィラスはリニアライフルに切り替えて狙い撃つ。切り返すタイミングも分かっている。弾丸は<プロトエグゾス>の脚部に命中。装甲が吹き飛ぶのが見えた。

 向こうもECMメーカーが切れたらしい。使ってくる様子が無い。脚部が損傷したことにより機動力が低下した。先程よりもその鋭い動きも陰りを見せている。

 

 「いける……!」

 

 接近してリニアライフルを構えると、<プロトエグゾス>は両腕の武器を構えて発射。だが、右肩の損傷が大きくなり、照準がブレている。左へのサイドステップでそれを躱す。

 その時、モニター上の右肩部のインサイド射出不可の表示が消えてインサイドのシンボルが再点灯。どうやら先程の攻撃で装甲が吹き飛んだ事により塞がっていた射出口が開いた。あと4つ射出が出来る。

 

 「スタークス、側面に回ってくれ。ECMが使えるようになった。俺の攻撃の後に撃て」

 

 ヴィラスはそう言うと、インサイドトリガーを引き、ECMメーカーを射出。同時に両背部の武器をパージしてオーバードブーストを起動。リニアライフルを放ちながら<プロトエグゾス>に肉薄。

 反撃しようにもECMで碌なロックオンが出来ず、回避行動に移った<プロトエグゾス>の後ろに回り、オーバードブーストを切ると、反転。

 レーザーブレードを発振。<プロトエグゾス>も反転しようとしたが、間に合わない。光刃はコアの装甲上部と右肩と切り裂いた。

 装甲片と部品を撒き散らして後方へ倒れかけた<プロトエグゾス>へ左側面から飛びこんでくる黒い影。

 <シュバルツナーゲル>がほぼ密着した状態でマシンガンの弾丸を<プロトエグゾス>へ叩きつけた。防御スクリーンが大きく弾ける音を辺りに木霊させて全てを撃ちこむ。弾が切れても銃身で<プロトエグゾス>を殴りつけて攻撃を止めない。その動きにスタークスの怒りが表れているようであった。

 それでもまだ、もがく様な動きを見せた<プロトエグゾス>は右脚を振り上げて<シュバルツナーゲル>のコアを蹴り上げる。

 

 『くたばれ……!』

 

 蹴りをもろに受けがらも、はっきりとスタークスは言い放つと<シュバルツナーゲル>は左腕を上げてグレネードを発射。至近距離からのグレネードは<プロトエグゾス>のコアに直撃。コアの左半分が大きく吹き飛び、直後にジェネレータが爆発してコアそのものが爆散。下半身だけが残った<プロトエグゾス>はやがて崩れ落ちる。

 モニターに映る紅いACの残骸。そして全身の力が抜け落ちていく感覚。機体のアラート音が不意に大きく聞こえて来た。

 

 「終わった……か……」

 『敵AC<プロトエグゾス>の撃破を確認。周囲に敵性反応は無し。……ええ、終わりよ』

 

 ルシーナからの通信。その声は冷静に努めているが、安堵感と興奮が隠しきれていなかった。

 トップランカーの撃破。何故かまだ実感が湧かない。ただ、疲労感だけが残るだけ。

 スタークスの言う通り、あの機体のパイロットはイツァム・ナーではないのか。確かにヴィラスの記憶しているイツァム・ナーの動きとは少し違う挙動。そしてそれは自分が知っている者の動きにも似ていた。だが、その人物も既にこの世にいない筈。

 ──どうなっている? 達成感よりも違和感が大きい。本当に亡霊と戦ったのか。それとも何か別の……

 その時、ヘルメットに小さく呻き声。スタークスだ。<シュバルツナーゲル>は倒れたままの状態。

 

 「ルシーナ。回収班はいつ来る?」

 『20分後の予定。今、スタークスのオペレーターと連絡して救護班も呼んだわ』

 

 「分かった」とヴィラスは応えて救急キットを取り出して機外へ出た。

 

 

    *     *     *

 

 コアの緊急開放レバーを引くと、大きな音を立てて<シュバルツナーゲル>のコクピットハッチがスライドする。中を覗くとスタークスがぐったりとシートに寄り掛かっていた。ヘルメットのバイザーが細かく砕けており、それが幾つか額に刺さって出血している。

 

 「大丈夫か?」

 

 ヴィラスの問いかけにスタークスが小さく頷く。

 

 「……ちょっと手を貸してくれないか。左腕が折れたようで、思うように動けない」

 「よし、手伝おう」

 シートの固定を外し、ヴィラスはスタークスの身体を持ち上げてコクピットから降ろす。彼女の体重は以外と軽く、すんなりといった。

 機体から降り、救急キットに入っていた布と廃材で添え木して素早く応急処置を終える。

 

 「怪我の具合はどれ程か分からないが、救護班は呼んである。早いところ処置してもらった方が良い」

 

 砕けたバイザーで切ってしまったスタークスの額に包帯を巻きながらヴィラスはそう伝えた。

 

 「ああ、そうする」

 

 2人は倒れている<シュバルツナーゲル>に寄り掛かって座り込むと、ようやく一息つくことが出来た。

 

 「あらためて礼を言う。助かった、ありがとう」

 

 ヴィラスは蓋を開けたウォーターパックを1つスタークスに差し出して、自分が持っていたものを飲む。大きく上昇していた体温が次第に下がり、先程まであった興奮も落ち着いていく。

 

 「いいんだ。ボクもこの近くで任務をしていたからね。互いに助け合いってヤツさ」

 

 そう言ってスタークスも受け取ったウォーターパックの一気に水を飲み干す。

 

 「まさかここであの機体と会うとは思わなかった」

 

 「似たような状況だったって事か」とスタークス。

 

 「スタークスの所にも出たのか?」

 「……ああ。君と同じさ。ターゲットの筈だった武装勢力は既に全滅。代わりに<ヴェールネージュ>が襲ってきたよ。亡霊かどうかは知らないが、返り討ちにしてやったけどね」

 

 自称「火星からやってきたレイヴン」ことオルトリンデの機体だ。特攻兵器襲来以降は姿を見せていなかった。

 

 「でも、あの機体は……」

 「間違いなくあの機体はナーの乗っている<プロトエグゾス>じゃない」

 

 きっぱりと言い切るスタークス。その声には怒りが込められていた。

 

 「動きは似せているが、細かい所は全く違う。それにああいう地の這う獣の様な動きではない。鳥の如くもっと高く飛ぶ」

 「確かイツァム・ナーは半年前に……」

 「そうだ。特攻兵器から街を守るために散った。ボクが彼女の最期を見届けたから……分かる……だから……許せなかった……ナーは……」

 

 スタークスの言葉に嗚咽が混じり、続かない。

 半年前の混乱期に雨の如く連日襲ってきた特攻兵器。数多くのレイヴンやAC乗りがあの圧倒的な物量の前に散った。トップランカーも例外では無い。イツァム・ナーもその中の一人であった。

 あの赤い記憶と共にフラッシュバックする、レイヴンたちの最期の瞬間。ヴィラスも何人かそれを目の当たりにしている。

 スタークスは特攻兵器襲来後、イツァム・ナーと共に戦っていたらしい。あの声と言葉は憧れであったというイツァム・ナーを目の前で喪ったその悲しみと彼女の愛機を模した亡霊ACに対する怒り。

 幽霊などといったオカルト話なんてヴィラスは信じてはいない。このACにしろ、先日交戦した<ドローン>や<レイニースワロー>も中身は別なのだろうと考えている。

 何者かは分からないが、死者を利用している。

 それを先の戦闘で直感していたヴィラスにはスタークスの抱いている怒りの感情が理解出来た。

 自分の知らないところで何か大きい事が起ころうとしている。

 4年前の大規模掃討作戦も、ナービス領の紛争も、そしてバーテックスの蜂起も自分では分かり得ない思惑が動き、巻き込まれていった。

 それでも単なる一兵卒だから、レイヴンだから仕方のないこと。そう割り切らなければならなかった。

 だが全てをそう考えるのが必ずしも正しいとは限らない。それも分かっている。

 生き残らなければ、ただ棄てられるだけ。

 遠くからローター音。迎えの<クランウェル>だろう。

 

 「暫くレイヴン稼業はお休みか……」

 「生き残れたんだ。その間に英気を養える。そう前向きに捉えておけよ」

 

 損傷した愛機を眺めて力なく呟くスタークスに努めてポジティブな言葉を出した。

 

 「もうこんな紛い物とは戦いたくない」

 「同感だ。何故こんなものが出てくるのか、俺たちは……」

 

 言葉が詰まる。脳裏にかつて対峙した亡霊とあの特攻兵器。そして──

 

 向き合わなければならない時はいつか来る。

 

 

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