ARMORED CORE LAST RAVEN ~Unsung Overture~   作:唯名瞬

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第40話「Dust Man」

 『よろしく。ヴィラス』

 

 目の前にいるACのパイロットからの言葉には余裕があり、そしてどこか楽しげだ。

 モニターの先には<クランウェル>に懸架された紫のフロート型AC。自分の機体も同じ<クランウェル>に懸架されている。

 向かう先はホルボス採掘場跡。依頼主はバーテックス。

 今回は彼らと共同で採掘場跡を根城にしている武装勢力の排除。

 共同でミッション遂行にあたる僚機はMT3機とAC1機。ACはバーテックス所属レイヴンのクイン・クラフティー。乗機は<ウォッチャー>。

 このレイヴンはよく知っている。先日、ガル・パークでのミッションにおいてヴィラスと組んで行動する予定のレイヴンであった。だが、バーテックスに所属を変えたことにより、急遽コープス・フールが代わりに来てミッション遂行にあたった。

 そんなレイヴンとこんな形で会えるのはアークに所属している故の恩恵というべきだろう。総合ランクも上位に位置していたクイン・クラフティー。敵として交戦しないで済んだのをヴィラスは内心安堵していた。

 

 『コープス・フールから聞いたよ。あなた、腕は良いらしいな』

 「知り合いなのか?」

 『……何度か戦場で共に戦った。それだけだ』

 「そうだったのか」とヴィラスは頷く。レイヴン同士によるコミュニティは意外と狭い。接点の無さそうなレイヴンが実は……というのはよくある話だ。

 『彼女、狙撃の腕は良かっただろ。私も救われたことがある』

 「ああ、俺も助けてもらった」

 『──まもなく投下ポイントに到着。降下準備をお願いします』

 

 <クランウェル>のパイロットからの通信。眼下に広がる岩山。そこに一点光る人工物の輝き。かつてナービスが新資源の発掘を行っていた拠点のひとつ。ホルボス採掘場であった。

 

 『コープス・プールが言う通りの手際を期待する。足を引っ張るなよ』

 

 クイン・クラフティーの言葉の直後、フックの固定が外れる音。<ヴェスペロ>と<ウォッチャー>は降下する。それに続いて別の<クランウェル>からもMTが順次降下を開始。

 着地成功。機体の各系統に異常無し。今回のミッションは逆関節型の<LR04-GAZELLE>に換えている。

 

 『採掘所内の敵機を殲滅させて。ACもいるとの情報もあるから注意を』

 

 ルシーナからの通信。メインシステムが戦闘モードへとすぐさま切り替わる。ミッション開始。

 レーダーディスプレイに輝点が複数表示される。ブリーフィングで受けた情報からMTと<セントー>だろうと予想した。

 

 『ではお先に行かせてもらう』

 

 前にいた<ウォッチャー>がブースターを吹かして先行していく。

 高機動を重視されて構成された機体は相当な自信をもっているのか、ヴィラスへ見せつける様な余裕をもった動きは連携をそれほど考えてはいないようにも見受けられた。確かにあのレイヴンには下手な援護はかえって邪魔になりそうだ。状況によってはカバーする必要はあるかもしれないが、その前に終わってしまう可能性もある。ヴィラスはフットペダルを踏み込んだ。

 <ヴェスペロ>のブースター炎が小気味よく吹き上がり、跳躍。<ウォッチャー>の近くまで一気に近づく。

 既に交戦状態にあった。<ウォッチャー>は両腕にもったパルスライフルを<セントー>の集団へ向けて放っていた。装甲の厚い<セントー>もこの弾幕には耐え切れず、1機、2機と破壊されていく。

 <ヴェスペロ>も右腕に装備した<CR-WR98L>を周辺にいた数機の<セントー>と<CR-MT85M>に向けて発射。次々と敵機を撃破していく。<セントー>の集団を片付けた<ウォッチャー>も攻撃に参加。

 <ウォッチャー>がMT1機撃ち漏らす。その機体が<ウォッチャー>の後ろに回り込もうとホバーを駆使して機動するも、その動きは迂闊だった。MTの背中が<ヴェスペロ>からは無防備となり、ヴィラスはそちらに狙いを付ける。

 だが、クイン・クラフティーはそれに気が付いていたのだろう。機体を反転、敵機に向けてパルスレーザーを放ち、撃破。

 

 『心配は無用。ちゃんと見えていた』

 

 あっさりと言い放つクイン・クラフティー。やはり下手に援護するよりは任せられるところは任せてしまった方が良いのかもしれないとヴィラスは思った。

 次の目標へと機体を動かした時、モニター正面に大きなブースター炎と共に接近する機影が見えた。

 ACか、とヴィラスは察して武器を背部のミサイルランチャー<CR-WBW89M>に切り替えるとエクステンションを起動。ロックオンサイトに捉えて発射。肩部の<CR-E84RM2>と共に8発のミサイルが放たれる。

 敵ACはそれをブースト機動で縫う様な動きで回避。<ヴェスペロ>の頭上をパスしていくとそこからパルスレーザーを放ってきた。

 

 『バーテックスの情報部とやらも存外馬鹿には出来ねぇな。こんなに早く来るとはよ』

 

 オープン回線に入ってきた飄々としたしわがれ声。モニターにはAC<陣雲>とパイロットの長月波門の情報が表示される。ダークイエローの軽量二脚型ACが倉庫の屋根に降り立った。左肩には「血濡れの鎧兜を被った髑髏」のエンブレム。

 そこへ<ウォッチャー>がパルスライフルを放つが、<陣雲>はそれを跳躍で躱すと、左腕のパルスライフルで反撃。コア<RAKAN>のオーバードブーストを発動させて離れていく。

 

 『喧嘩っ早ぇなぁ。べっぴんちゃん』

 

 反転した<陣雲>が再び跳躍。ふわりと浮かんだような動きを見せた瞬間、肩部のブースターを起動させて<ウォッチャー>へ一気に降下して強襲して蹴りを浴びせた。コアに蹴りをもろに受けた<ウォッチャー>は吹き飛ばされる。そこへ両腕のハンドガンとパルスライフルで追撃しようとするが、<ヴェスペロ>がレーザーライフルを放ち、それを阻止する。

 <陣雲>はレーザーを回避してブーストで後退。機動力はかなり高い。

 

 『ジジイに無茶させてくれるなぁ』

 

 軽快なステップを踏みながら<陣雲>はまた接近してきた。武器は両腕に持ったハンドガンとパルスライフルだけ。長期戦に持ち込めばとヴィラスは考えた。後方から追ってきた味方のMTと連携すれば問題ないだろう。

 

 『──お手伝いよろしく頼むぜぇ』

 『熱源反応が増えた。数は3。ACクラス!』

 

 波門の言葉にルシーナが即時反応。同時にレーダーに3つの輝点がヴィラスたちを囲むように表示される。

 採掘場の地下へ繋がる3つのゲートが開き、そこから白い機体が滑る様な動きで出てきた。

 

 「……新型?」

 

 レーザーライフルを放つも、白いACも高い機動力でそれを回避していく。この機体は二脚型だが、フロート型と同様の動きをしているのに気が付く。

 白いACの両腕から一斉にパルスレーザーが放たれる。それを躱していくも、味方のMT1機が捕捉され、パルスレーザーがMTの装甲をあっという間に焼いていく。

 動きが止まったMTに<陣雲>が乗り掛かってMTの頭部へ右腕のハンドガンを連射。頭部から胴体を弾丸が貫き、MTは機能を停止する。

 

 『ほい、一丁上がり』

 

 MTの残骸を器用に踏みつけながら跳ぶ<陣雲>。こちらを煽っている。こういう戦い方をするパイロットなのか。

 

 『……やってくれる』

 

 クイン・クラフティーの少し苛立った声。右背部のミサイルランチャー<WB05M-SATYROS>を展開して<陣雲>に向けて肩部の連動ミサイルと共に発射するが、それも容易に躱されて後退される。入れ替わるように白いACが2機前に出てパルスレーザーを放ってきた。

 戦力は事前情報以上であった。こんな機体まで隠していたのかと驚く。何処から引っ張ってきた。

 

 『敵機の照合が完了。旧キサラギの試作AC<RUSYANA>よ』

 

 モニターに白い機体の情報が表示された。アークのデータベースにあったという事はナービス領での紛争の頃には開発されていた機体なのだろう。ただ、この機体のシルエットはあの紅い機体を彷彿させた。

 

 「気に入らないな」

 

 ヴィラスはそう呟くと<ヴェスペロ>を後退させて距離を取る。そこに白い機体<RUSYANA>の1機が引っ張られる様に追い縋ってきた。

 左腕のマシンガン<WL06M-FAIRY>を左右に振りながら発射。<RUSYANA>はそれに釣られて上に跳ぶ。それが狙いだ。レーザーライフルで狙い撃つ。コアの真ん中へ綺麗に命中。装甲片が飛び散る。

 機体の性能まではまだ完全に把握していないが、中の実力はそれ程高くは無い様だ。被弾して後退する素振りを見せた<RUSYANA>は突然パルスレーザーをばら撒くように放つ。それなら対応は簡単だとヴィラスは勝機を見出した。

 機体を跳び上がらせると更にレーザーを発射。動きが止まった<RUSYANA>に連続で直撃。そこへミサイルランチャーに切り替えて連動ミサイルと共に発射。装甲はそれ程厚くない<RUSYANA>に全弾直撃してコアが爆散する。

 

 「まず1機」

 

 見慣れない脚部の残骸を見やってヴィラスは次の標的を狙う。味方のMTは周囲にいたMTと<セントー>と交戦状態。<ウォッチャー>は<RUSYANA>2機と交戦していた。

 

 『雑魚共はこちらに任せてくれ』とクイン・クラフティー。<陣雲>はどこだと周りを見渡しながら目の前に滑り込んできた<CR-MT85M>へレーザーライフルを放って撃破。

 

 ロックオン警告。自機真上。パルスレーザーが降ってくる。それをスライド機動で回避すると<ヴェスペロ>が立っていた場所に<陣雲>が降り立った。

 

 『避けんじゃねぇよ』

 

 喉を鳴らして波門が笑っている。だがその笑い声の奥には殺気が潜んでいるのは感じ取れた。

 

 『見させてもらったぜ。おめぇ、その首に50,000コームの賞金が掛かっているらしいな』

 

 パルスライフルを放ちながら<陣雲>が近づいてくる。そして自分に掛けられた賞金が上がっていた事に気が付いた。

 

 『おいらの為にそれ、寄こせや』

 

 一瞬浮かび上がった<陣雲>の肩部のブースターが吹き上がり、距離を詰めてきた。その状態から右脚を振り上げてくる。先程<ウォッチャー>に見せてきた奇襲攻撃。

 咄嗟にバックステップで躱す。コアの先端を<陣雲>の爪先が掠めていった。

 

 「もう見たよ」

 

 レーザーライフルを構えて発射するが、<陣雲>の肩部ブースターが上方向へ吹き上がる方が早かった。

 

 『当たってやれねぇな』

 

 大きく跳び上がった<陣雲>から再び弾丸とパルスレーザーが降り注がれる。被弾しながらもブースト機動で円を描くように回避。連射力を上げているのだろう、雨の様に降り注いでくる。

 インサイドトリガーを引いてECMメーカーを射出。それでも弾幕は止まらない。<陣雲>の背部レーダーによってECMが対処されている。生半可な方法は通用しない。

 

 『残念だが、んなもんでおいらは目くらまし出来ねぇぞ。浅はかなんだよ、おめぇ』

 

 オープン回線でいちいち煽ってくるのはこの男のやり方か。煽る事でこちらを揺さぶってペースを渡さない。この手のパイロットは何度か見た記憶がある。感情的になれば向こうの思う壺。舌戦では自分に勝ち目は低いのは自覚している。ここは無視することにした。

 今度はミサイルランチャーに切り替えて発射。だが、<陣雲>の肩部からデコイが射出されてミサイルが逸らされる。これも対策済みか。

 

 『甘ぇっての』

 「まだだ」

 

 避けた先にマシンガンを放って動きを止めようとするが、<陣雲>はそれに動じることなく肩部ブースターで弾幕から逃れると反転して反撃。両腕のハンドガンとパルスライフルから放たれる弾幕が少しずつ防御スクリーンを剥ぎ取っていく。

 ブースト機動で被弾を最小限に抑えつつ、マシンガンをばら撒くように放つ。まずやれる事は機動力を削ぐ事。機動力を失えば、装甲の薄い<陣雲>はこちらの火力であっという間に沈められる筈。

 <陣雲>の肩部ブースターが起動。今度は下方向。被弾をものともせずに急降下。虚を突かれる形となったヴィラスの反応が一瞬遅れる。今度は左脚が伸びてきて<ヴェスペロ>のコアを打つ。

 激しい衝撃。後方へブースト機動での回避を試みたが間に合わなかった。それでも咄嗟の回避とバランサーが機体の姿勢を制御していなければもっと大きく吹き飛ばされていただろう。ふらつきながらも機体はまだ立てている。視界がぼやけて見えた。

 

 『中々しつけぇなぁ。ゴキブリじゃあるめぇし、潰れとけよぉ』

 

 少し低い声を出して波門は<陣雲>を一跳びさせて近づいてきた。機体は動く。視界がまだブレているも、ヴィラスはフットペダルを踏んで<ヴェスペロ>を跳躍させる。

 <陣雲>は再び肩部ブースターを起動させた。戦い方はわかった。距離を詰めての両腕の武器でのラッシュと接近戦。距離を詰めてきた<陣雲>の両腕は構えられている。

 まだレーザーを放ってこない。ブースターの起動にもエネルギー消費がある。それをカバーする為に蹴りを使うのだろう。機体にそして自身にも負荷が大きく掛かるようなアクションをよくやると感心するも、それが分かればやれる事を思い付く。フットペダルをもう一度踏み込んで再上昇。距離を更に広げてトリガーを引いた。

 レーザーが発射態勢をとっていた<陣雲>を捉える。直撃を受けた機体は落下。地面に姿勢を崩しながら着地した。動きが止まる。

 そこへレーザーライフルとマシンガンを斉射。防御スクリーンが弾ける音と共に<陣雲>の装甲片が飛び散るのが見えた。

 

 『痛ぇじゃねか……あぁ?!』

 

<陣雲>のコアの後部ハッチが展開。オーバードブーストが起動して<ヴェスペロ>の攻撃から逃れていく。動きから<ヴェスペロ>の後方に回り込もうとしているのが分かった。

 ヴィラスもオーバードブーストの起動レバーに手を掛ける。レーダー上の<陣雲>が自機側面に来たところで起動。逆にこちらが後ろを取ってやる。

 それを察した<陣雲>はオーバードブーストを止めて反転。両腕のパルスライフルを斉射。数発被弾。<ヴェスペロ>も機体温度上昇。ヴィラスはオーバードブーストを解除。

 機体を滑らせながら反転。ロックオンサイトに<陣雲>を捉えてレーザーライフルを発射。<陣雲>はそれを肩部ブースターで上昇して回避。そこへ左腕のマシンガン放ち、射程内から逃さない。

 

 『しつけぇんだよ。若造よぅ』

 

 カラカラと笑いながら波門は機体を踊るように跳び上がらせた。この老パイロットは強化人間手術を何度も受けていたと聞いている。それで機体のブースター出力を上げている様だ。思っていたよりも高い機動力も納得できる。

 だが、それも目で追えるようになってきた。フロントステップで距離を詰めて再度発射。<陣雲>はそれも躱す。

 

 『だからよぅ、そんなのは──』

 「大体読めた」

 

 肩部ブースターで再び上昇しようとした<陣雲>の上に覆う様に<ヴェスペロ>は跳躍。左脚を伸ばす。上から右肩を踏みつけられる形になった<陣雲>の右肩部ブースターが千切れ、<陣雲>は地面に叩きつけられる。

 

 『……やりやがったな』

 

 初めて見せた焦りの色。波門は素早く左肩のブースターをパージして機体を立て直すとブーストで後退していく。

 それを見逃すほど甘くはない。ブースター出力を全開にして追撃。ミサイルランチャーに切り替える。<陣雲>の右肩は先程の蹴りで損傷して照準が定まらない。でたらめに放たれる弾丸は機体の横を掠めていくだけだ。

 ロックオンサイトに捉えて発射。肩部のミサイルと共に放たれる。<陣雲>の肩部装甲からデコイが射出されるのが見えた。それは分かっている。その後にとる回避行動に合わせて左腕のマシンガンを構えた。

 ミサイルはデコイへ吸い込まれていくと同時に左へ跳ぶ<陣雲>。その動きに合わせて<ヴェスペロ>はマシンガンを発射。ブースト機動で逃れていく<陣雲>へ舐める様にマシンガンの射線が追いかけていく。

 ロックオン警告。自機右方向。マシンガンを放ちながら1機の<CR-MT85M>が向かってきた。

 

 「邪魔だ」

 

 ヴィラスは無視しようとしたが、MTがレーザーブレードを構えるのを見て<陣雲>への攻撃を中断。MTへレーザーライフルを発射。ホバーを全開にして躱したMTは<陣雲>の前にMTが立つ。

 

 『波門さん、一旦退いてください!』

 

 壮年の男の叫び声がヘルメットに打つ。こちら側のMTとの交戦を切り上げて援護に来たらしい。よく見ると大分損傷している。相当無茶をさせたのか。

 だが、そんな事は構っていられない。後退する素振りを見せた<陣雲>を庇う様に動いたMTへレーザーライフルを放ち、撃破する。

 

 『ヤン……! お前……』

 

 パルスレーザーを放ちながら後退する<陣雲>。破壊したMTの残骸を飛び越えて<ヴェスペロ>は追う。

 そのまま後退していくのかと思われた<陣雲>は突然オーバードブーストを起動。<ヴェスペロ>へ突進してくる。

 機体を右へスライド。<陣雲>の突き出された右脚が脇を掠めていき、そのまま通り過ぎていく。だがすぐにオーバードブーストを切ると反転。パルスレーザーを混じらせて再びオーバードブーストで突進。

 

 「……!」

 

 <陣雲>も相当無茶をさせている。これでパイロットは身体が持つのかという恐れを抱いてしまう。再び突き出してきた右脚をモニター端に捉えながら躱す。

 

 『ヤンとは20年来の付き合いでな』

 

 波門の声。<陣雲>はオーバードブーストを切って垂直にジャンプ。

 

 『おいらの将棋の相手もしてくれたし、無茶振りにも笑って応えてくれた健気で良いヤツだった』

 

 両腕のハンドガンとパルスライフルは構えられたままだ。

 

 『弔いだ。──てめぇだけでもあの世に送ってやる』

 

 飄々とした気配が消え、代わりに殺意を込めた波門の声。<陣雲>はブースターを切って急降下。弾丸とパルスレーザーが雨の様に降り注ぐ。<ヴェスペロ>それを迎え撃つ様に飛翔。近距離でレーザーをぶつける。装甲片が飛び散る<陣雲>に今度は蹴りを浴びせた。大きく吹き飛ばされた<陣雲>は倉庫に堕ちていく。

 

 『ハハッ……やってくれるじゃねぇかよ。銭袋!』

 

 関節部を軋ませながら<陣雲>は尚も立ち上がる。後部ハッチが展開。オーバードブースト。機体がガタついているのが見えた。

 まだ来るかとヴィラスはコントロールスティックを握り、構えた。正面から猛スピードで突っ込んでくる。ライフルの射程内に入ってきた。狙いを定める。

 突然、機体右部に衝撃。一瞬何が起きたか分からなかった。モニターの武器パネルからレーザーライフルが消えている。それに気を取られた隙はあまりにも大きかった。

 <ヴェスペロ>に肉薄した<陣雲>は右脚を振り抜く。ヴィラスは咄嗟に機体を捻らせて左腕を盾にするので精一杯だった。激しい衝撃。機体が大きく揺らぐ。姿勢制御プログラムが必死に機体を御して転倒を堪えさせた。

 ブーストで距離を取り、追撃を避ける。左腕の損傷を伝えるメッセージ。そしてマシンガンも脱落したらしく、武器パネルから消えていた。

 何があったとモニターに映る<陣雲>を見据える。左手に持っていた筈のパルスライフルが無くなっていた。いや、先程まで自機がいた場所付近に銃身が曲がった状態で落ちている。あれを<ヴェスペロ>に投げつけてぶつけたのだ。

 

 「やってくれる……」

 

 ハンガーからハンドガン<CR-WH69H>とレーザーブレード<CR-WL79LB2>を取り出す。

 

 『でも敵機も消耗している。今がチャンスよ』

 

 ルシーナの言う通り、対峙する<陣雲>の動きは止まっていた。あれだけ機体に大きな負荷を掛ける動きをしたのだから当然だろう。恐らく中のパイロットも。

 背部と肩部のミサイルランチャーをパージ。まだ弾は残っているが、無駄弾を使って消耗するよりも機体の負荷を減らし、機動力で勝負する事を選んだ。

 

 「周りの状況は?」

 『敵機は残り5。今、<ウォッチャー>がACを1機撃破』

 「了解。さっさとコイツを片付けるか」

 

 ヴィラスはフットペダルを踏み抜き、<陣雲>との距離を詰める。

 

 『おいらを片付けるだぁ? 面白れぇこと抜かすなぁ、えぇ?』

 

 <陣雲>も右脚を引き摺りながらハンドガンを構えて動き出す。あの飄々とした口調は無くなっている。

 

 『おいらは死なねぇ。その為の身体が待っている』

 

 <陣雲>の右肩の損傷は大きくなっていた。照準の定まらない弾丸が<ヴェスペロ>の脇を逸れて飛んでいく。<陣雲>の飛び道具はもうそれしか無い。

 <ヴェスペロ>は<陣雲>の右側へ回り込むような動きでハンドガンを撃つ。右脚が思う様に動かない<陣雲>へ容易に命中。機体が揺らぐのが見えた。

 

 『ヤブ医者め……身体がバテるのがちぃとばかし早ぇじゃねぇかよぅ……』

 

 直前まで見せていた急激な動きはしてこない。小さくブーストジャンプを繰り返して回避しようと試みている。

 

 「限界か」

 強化されているとはいえ、老いた肉体にあの戦闘機動を何度も出来るような体力は残っていない。そう感じられた。更に距離を詰めてハンドガンを発射。頭部が吹き飛んだ<陣雲>は反撃に出ようとするが、<ヴェスペロ>の動きに付いてこられなくなっていた。

 

 『アホ抜かせぇ……おいらは──』

 <陣雲>のコアの後部ハッチが展開──される直前、左側面からのバズーカ弾が<陣雲>に突き刺さる。

 味方の<CR-MT85B>からだった。<陣雲>の動きが完全に止まる。反撃に出る力はもう無い。

 

 『……あ、見えねぇ……灯りが……暗い……』

 

 <ヴェスペロ>はブーストを全開にして一気に肉薄。レーザーブレードを振るった。

 

 『……不滅の身体……もう少しで……』

 

 <陣雲>のコアに食い込んだ光刃は波門の肉体を焼失させていき、そのままコアを引き裂いた。

 

 『敵AC<陣雲>の撃破を確認』

 

 切断面から炎を上げて倒れた<陣雲>はそのまま爆散。辺りに破片を散らしていく。長月波門という老兵の魂と共に。

 

 「状況はどんな感じだ?」

 『敵機残り1機。<ウォッチャー>がその最後の1機を相手にしているところよ』

 

 レーダーディスプレイを見やり、<ウォッチャー>のいる方に機体を向ける。例の<RUSYANA>と火線を交えているフロート型ACの姿が小さくモニター映されている。<ウォッチャー>のパルスライフルから放たれたレーザーが<RUSYANA>のコアに連続して命中して大きく揺らぐのが見えた。

 クイン・クラフティーへの援護は状況からしてやはり必要は無いのかもしれない。ヴィラスは援護をしてくれたMTパイロットに礼の言葉を告げると機体を動かした。

 

 

    *     *     *

 

 派手にそして大量に散らばった白い破片は2機の<RUSYANA>であったもの。その中心に<ウォッチャー>が佇んでいる。

 

 『ご苦労様。意外と手間が掛かった様だな。まあ、あの老兵相手じゃ仕方なかったかもしれないけど』

 

 クイン・クラフティーの落ち着きの払った声がヘルメットに入ってくる。その声にはまだ余裕の色が伺えた。

 <ウォッチャー>が相手をしていたのは<RUSYANA>だけではない。白い破片に混じってMTや<セントー>、ガードメカの破片も混じっていた。

 

 『腕は悪くないって聞いていたから長月波門の相手を任せたけど、それは間違いなかったか。TATARAやヴェルンハントを斃したのもこれで納得できた』

 

 <ウォッチャー>が静かに近づいてきた。目の前に転がる<RUSYANA>の頭部がホバーの風圧によって軽い音を立てて流されていく。<ウォッチャー>にはレーザーによる焦げ跡が少しあるものの、目立った損傷は見受けられない。<陣雲>に蹴りつけられて出来たコア側面のへこみが唯一大きな傷だと言っても良い。

 これが上位ランクにいたレイヴンの力。そしてここまで生き残ってきたノウハウも積み重ねて更に腕を上げている。

 <RUSYANA>の機動力は<ウォッチャー>に劣らず高かった筈。だが、機体の動きはヴィラスでも読めるくらいには程度が低いと判ったからクイン・クラフティーにとっては容易い相手だったのだろうと想像出来た。

 

 『老いぼれとは言え、いざくたばってしまうと少しは惜しくなるものね。長月波門はまあまあの腕を持つAC乗りだと聞いていたけど』

 「相当な強化をされていたよ、あのパイロット。多分だけど、先がもう長くない様にみえた」

 

 あの老兵はもがいていた。ヴィラスは交戦した時に聞こえた波門の声。飄々とした声の裏にどこか追い詰められていたような気配もどこか感じられた。

 不滅の身体。

 波門が今際に小さく言い放った言葉。それが何を意味するのだろうか。

 まだ強化を続ける気でいたのか。どんなに歳を重ねても戦場を求めるのはある意味傭兵の性であり、狂気にも感じ取られた。

 戦場に長く居続けた呪縛。そんな言葉がヴィラスの脳裏に過ぎった。

 

 『私が相手しても良かったけど、結果は変わらなかった筈。ちょっと興味はあったんだ、あのパイロット』

 

 その言葉に偽りは無いだろう。寧ろ、このレイヴンであれば自分よりも早く<陣雲>を片付けられる。そんな自信がクイン・クラフティーの言葉から微かに溢れていた。

 

 『<陣雲>の撃破は追加報酬として払っておくように伝えておこう。また会いましょう、ヴィラス』

 『今度も味方としてね』と付け加えて<ウォッチャー>は離れていく。それはヴィラスも望みたいところだった。

 『10分後に回収の<クランウェル>が到着予定。お疲れ様、ヴィラス』

 

 ルシーナからの通信に合わせる様に<ヴェスペロ>のメインシステムが通常モードに移行。

 ドッと押し寄せてくる疲労感。固いシートに身を預けるとシート脇からウォーターパックを取り出して額に当てる。パックから伝わる冷たい感触が心地良い。

 

 「それにしてもここの連中は何故あんな機体を……」

 『<RUSYANA>は量産機では無い筈よ。──まさか……旧企業が?』

 「バーテックスがそこまで調べてくれれば良いが、少なくとも道端に落ちていたって事は無いだろうな」

 

 体温が下がっていくのを感じたヴィラスは額に当てていたウォーターパックの蓋を開けて飲み干す。

 散らばった<RUSYANA>そして<陣雲>の破片。それを相互に見やる。

 ルシーナの言う通り、一介の武装組織にしては装備が不自然だ。旧企業の影がどことなく蠢いている様な気がしてならない。

 以前、クリフとそんな話をガレージでした記憶がある。企業にいた人間すべてがアライアンスに恭順した訳ではない。アライアンスだけが旧企業の恩恵を受けていない筈だ。アライアンスとは別の形で企業主義体制に変わる社会の構築を目論んでいる勢力がいたとしても不思議ではない。

 

 “遺産は生きている”

 

 カメラアイの明滅。黒いACのパイロットが残したメッセージが脳裏に蘇る。

 あの紛争はまだ終わっていない。

 そんな予感が茜色に染まる空が赤い記憶と共に重なってヴィラスの頭の奥で囁いていた。

 塵と共に消え去った筈の亡霊が再び影となって。現れ出す。

 

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