ARMORED CORE LAST RAVEN ~Unsung Overture~   作:唯名瞬

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第41話「Distrust」

 「逃げられたか……」

 

 焦燥でうなだれる部下を前に鳥大老は口を一文字に結び、小さく首を捻るだけであった。

 

 「申し訳ありません、大人。見張りの隙を突かれました。連中、我々の知らぬ間に逃亡手段を隠れて用意していたらしく……」

 「アライアンスから逃げた時もそうしていたんだろうな。従順になったと思わせといて、隙あらば、か。意外と抜け目が無いな、あの女狐」

 

 三枝博士を含むキサラギ派の研究員たちが姿を消した。更に言えば、バーテックスが連れて来た旧ナービスの研究員の一部も彼らに付いていったらしい。

 三枝博士に宛がった部屋。無造作に資料が乱雑した部屋であるが、サークシティで得た研究資料だけがさっぱりと消えている。他の研究員の部屋も同様であった。必要最低限のものだけを持ち去って消えた。

 その鮮やかさには敵ながらあっぱれと思わず口元が緩む。研究員よりも”ニンジャ”がお似合いかもしれないとかつて聞いた三枝博士のルーツの話を思い出した。

 

 「お前にしては判断を誤ったか? ジャック」

 

 ドアの方に視線を向けると知った顔が覗く。隣にいた部下の背筋が思わず伸びたのを視界の端で感じ取った。

 

 「来てもらった事は間違いでは無かった。我々が準備すべき事、やるべき事のヒントを指し示してくれたのは事実だ」

 

 三枝博士らキサラギ派の研究者を受け入れるという最終判断を下したのはジャック・Oであった。

 サークシティ地下に招き入れた時の研究者たちの表情。新しい玩具を与えられた子供の様な無邪気さと共に危うさを孕んでいたのを鳥大老は覚えている。嫌な予感はしていたが、それは的中した。

 部屋の中にゆっくりと入ってきたジャック・O。鳥大老は部下に出て行くように促す。これで二人きりになった。

 

 「──それでも、連中がこのようなアクションを取るのが意外と早かったのは確かにイレギュラーだったと認めざるを得ない」

 

 その言葉とは裏腹に焦りや怒りといった負の感情の色は表に出てきていない。並みの人間であればそういった感情はどうしても出てくるはずだが、ジャック・Oは決して綺麗ではない博士の部屋を無表情に一瞥するだけだった。

 床のそこかしこに散らばった資料。それを底の厚いブーツで無頓着に踏みつけながらジャック・Oは部屋の奥にあった椅子に座る。

 

 「監視の目は緩めていなかった筈だが、してやられたな」

 「さて、どこへ逃げたのやら……」

 

 溜息交じりに鳥大老は呟く。この状況、鳥大老の心境は穏やかでは無かった。末端の兵士が脱走したとは訳が違う。彼女らが抱えているモノはバーテックスにとっても重要なモノである。

 

 「少なくともアライアンスの本部ではないな」

 「何故そう言い切れる? 連中はここの実情をある程度知ったのだぞ」

 「これを見ろ」

 

 ジャック・Oはジャケットの裏ポケットから数枚の紙を鳥大老に差し出す。

 

 「情報部がここ数日、彼女らが外部と通信していたことを突き止めた」

 

 差し出された紙を受け取り、それを眺める鳥大老の双眸が細くなる。

 

 「こいつらか……」

 

 三枝博士らとやり取りをしていたのは別働のキサラギ派とそれに合流した旧ナービスの新資源研究グループ。一部が暗号化されて詳細な内容は分からないが、その内容は何となく察した。どうやら彼女たちにとって理想の環境を用意して待っているらしい。もはや相手が何処の企業であったかなんてどうでもよい事であるようだ。

 

 「全く、節操のない連中だ。己の本能に忠実過ぎる。ある意味、獣と変わらないな。食欲か性欲が知識欲に置き換わっただけに過ぎない。女狐どころかこいつは蝙蝠女だな」

 「現状、アライアンスに戻ったとしても前以上の厳しい監視下に置かれて何も出来ないだろう。彼女らが欲しているのは何の気兼ねも無く旧世代の遺産を自由に弄り、研究が出来る保障のある環境だ。それがあれば何処に所属しようがプライドなど一切なく居付くつもりだろう」

 「ここでやれる事は無くなったって事か」

 「いや、我々の干渉が強くなるのを察して先に手を打った。それは分かっている」

 「もう少し優しく接してやるべきだったな」と鳥大老は口元を緩める。「お前は女の扱いは上手くない」

 「ACと違って素直でないからな」と色素の薄い髪をかき上げたジャック・O。「所詮は戦う事しか能のない不器用な男だ。嗤ってくれ」

 

 互いに自嘲気味に唇を吊り上げた。

 

 「行くあてが既にあったからこそ、あの様な行動に移したという事か」

 「そう言う事だ。それともうひとつ、面白いモノがある」

 

 手に持っていた紙の最後の1枚を見るようにジャック・Oは促した。

 

 「これは……前に聞いた例の白いACか」

 「連中が通信し出した頃からこのACらしき機体が再び目撃されたという情報もエージェントから出てきている。偶然にしては少々出来過ぎている。そう思わないか」

 「<UNE-009>……しぶといな。まさか、この機体も奴らと関わりがあるという事か」

 

 紙には<十字架の天使>という通称もあった白いACと思しき不鮮明な画像。

 

 「可能性はある」ジャック・Oは小さく頷く。「エージェントらには調査を進めておくように伝えておいた。状況によっては我々とぶつかるかもしれん」

 「やる事が増えそうで、楽しくなってきたな」

 

 鳥大老の口角が自然と上がる。この後に出てくるであろうジャック・Oの言葉を予想出来たからだ。

 

 「キサラギ派を含むこの集団をこのまま放っておくのはあまり良くない。対処が必要だ。人選は君に委ねる。情報部と連携して奴らの始末を頼む」

 「そういう事なら任せておけ。なんならこの白いACも潰して良いのか?」

 「<UNE-009>に関しては交戦を避けろなどとは言わない。この機体も然る後に退場してもらうつもりだったのだからな」

 

 撃破に関しては何も制限はしない。この<UNE-009>と呼ばれた機体をどうすべきか。それは鳥大老に委ねるつもりだ。鳥大老も納得したように大きく頷く。

 

 「どれ程の力があるか楽しみにしておくさ」

 

 やるべき事が分かればそれでいい。自身の本分である戦闘が出来れば十分だ。幹部、それも実質ナンバー2という立場としては適切ではないかもしれないが、やはりレイヴンはACに乗って戦ってこそ、その存在を明確に出来る。

 

 「所詮は破壊者。対話は不要だ」

 

 生かすなという事か。そう鳥大老は捉えた。元々この機体は敵という認識であった。加減するつもりはもとよりない。

 

 「来たるべき戦いの準備運動にしては悪く無い筈だろう。そろそろ頃合だ。ある程度さっぱりとさせておかなければな」

 「準備運動……か」

 

 再び無感動の仮面を被ったのを悟る。本来の目的はアライアンスへの総攻撃であるが、ジャック・Oにとってこれは前哨戦ですらないらしい。

 鳥大老は時折思う。この男は本当にやろうとしているのは何であろうか。

 アライアンスに旧世代の遺産。その全てを呑み込んで向かう先。レイヴンによって築かれる新たな社会とは一体何か。何度かそれとなく聞いても返って来るのは靄の如く曖昧な言葉。

 真意は見せてくれない。たとえ強い老酒を飲ませてもこの仮面は容易に引き剝がせられないだろう。

 強固な意志がその仮面を食い込ませている。外させるにはジャック・Oを納得させられる強さが必要。鳥大老自身もトップランカーであったが、条件は満たせていないらしい。

 パイロットの実力とはまた別のモノも要求しているということか。

 もう少し分かりやすい答えが欲しいが、鳥大老は今の状況を整理する方を優先だと考えて一旦割り切ることにする。

 

 「サークシティ地下の事はどうする?」

 「残ったスタッフでどうにかする。幸い、旧ナービスの研究員が少数ここに残ってくれた。彼らに頑張ってもらおう。君はそこへ気にし過ぎることは無い。それよりも次の動きに対して集中してくれればいい。号令は出す」

 「そうであれば良い。だが、見張りはしっかりつけておけよ。早速動く。吉報を期待して待っていろ」

 「そのつもりだ」

 

 互いにラフに敬礼。部屋から去る鳥大老を見送ったジャック・Oは立ち上がると、ゆっくりと部屋をもう一度見渡す。

 

 「遺産の力……確かに魅力的だ。滅するには惜しいというのが大半の人間の感性だろう」

 

 机の上に置いてあった資料の束を掴みそれらを見据える。

 

 「だが、物事には順序というものがある。それを無視すれば過ちが生まれ、時には全てを失う。科学者である貴方がそれを忘れるとはな。あの惨劇を目の当たりにしてもこの判断と行動。結局、弱者の考えを捨て切られぬ者だったか」

 

 次第に掴む力が強くなり、手に持っていた紙の束に皺が刻まれる。

 

 「──今の人類が持つにはまだ早過ぎたのだよ、三枝博士。この力は」

 

 ジャック・Oは資料を無造作に放り投げる。既にジャック・Oにとっては価値の無いものとなったそれらは羽の様に舞い、やがて静かに床へと散らばっていった。

 

 

    *     *     *

 

 程よい疲労感を引き摺りながらヴィラスは部屋に戻ると、ベッドに身を任せた。

 帰還した時間帯が夕食を摂るにはちょうど良いタイミングであった為、食堂でルシーナと共に過ごすことが出来た。

 こういう時間は大切にしておきたい。そういう気持ちがヴィラスの中で大きくなっていた。

 今日も別の戦場でレイヴンが戦死したという情報が入った。レイヴンを含むAC乗りの数は日に日に少なくなってきている。だからこそガレージにいる時はルシーナや整備班とのコミュニケーションの時間を少しでも増やしたかった。

 レイヴンに関する情報へ対して以前よりも敏感になっていた。大抵は戦死だ。知っている名前も少なくない。

 次は自分かもしれないという思い。しかしそれは恐怖というよりもレイヴンを含めたAC乗りの行く末がどうなっていくのかという杞憂に似た感情であった。

 自分を含め全てのAC乗りがいなくなったとしたら、この世界は成り立つのか。もしかしたら自分たちに置き換わる存在が出てくる可能性はあるかもしれないが、無秩序な崩壊世界か企業による更なる管理社会もあり得るとヴィラスは頭の中にある知識であったが、そんな想像が出て来た。

 携帯端末を手に取り、パイロット情報を検索する。先刻共闘したクイン・クラフティーの情報を呼び出してみた。こんな事も初めてかもしれない。共闘したレイヴンの事を知ろうというのはこれまでなかった。

 また共闘するのか、それとも相まみえるのか。今後の為にもしっかりと頭に入れておくのも生き残る為に必要な事であると考えも出てきた。情勢の変わりは己の心境も変化させる。

 

 『今度も味方としてね』

 

 別れ際の言葉が頭の中で蘇る。それが本心から出た言葉とは思っていない。レイヴンである以上、次に会うときは敵となることは多々ある事だ。

 クイン・クラフティーは5年前からアークに登録されたレイヴンであった。高機動を活かした近距離から中距離での射撃戦を得意とする。

 実力の面では1年前に新設されたナービス領のアリーナに編入。そこでは上位ランクに留まり、総合でも中位の上に位置していた。任務遂行率73%、アリーナ勝率は64%と高い。

 そしてここまで生き残り、バーテックスに籍を置くことになった。実力だってまた上がってはきている筈だ。クイン・クラフティーとはミッション、アリーナ共に交戦経験はこれまで無かった。彼女は主にどの様な戦術を取り、武器の使用傾向、得意レンジは何であるのか。これまでのアリーナ含む戦闘記録を見ておきたいと考え、ルシーナに頼んでみようと内線電話を手に取る。

 その時、デスクの上に置いてある端末から電子音。ブリーフィングシステムが新着の依頼を通知する音。ヴィラスはベッドから降りて端末のブリーフィングシステムを起動させる。

 依頼名は「共用ガレージ奪還」。依頼主はレイヴンズアーク。

 またか、とヴィラスの口から無意識に溜息が漏れる。いつものアーク関連施設の奪還依頼ではあるが、以前受けた際にそこで待ち受けていたのは武装勢力ではなく、AC<プロトエグゾス>。それもあって何かがいるかもしれないと身構えてしまう。それでも依頼は依頼だ。とりあえず、内容を確認してみることにした。

 内容はE04・エリアに置かれている共用ガレージを占拠している武装勢力の排除。敵戦力はMT多数にACが1機いるらしいということだ。ACの画像も添付されている。逆関節型AC。データベース上に無い機体。どうやらガレージに残されたパーツの寄せ集めで組まれた機体らしい。

 作戦開始時間は明日の0400時。僚機は無し。報酬は125,000コーム。前金で払われる。

 ACがいるとしても武装勢力の掃討にしては高い報酬。そして前払い。そこが妙に引っ掛かった。

 受諾のボタンを押下するか迷う。アークの意図は何なのか。

 前回の事を引き摺ってしまっているというのは理解している。それでも何か納得がいかないものがある。こんな依頼をなぜ自分だけにと。この依頼は不特定多数のレイヴンではなく、ヴィラス個人へ出していた。

 ヴィラスは内線電話を手に取り、ルシーナを呼び出す。この依頼が本当にレイヴンズアークからの依頼であるか確かめる必要がある。

 

 「ルシーナ。俺宛てに来たガレージ奪還の依頼だが、あれは本当にアークからか?」

 『さっき来た依頼のこと? 確かにアークからであったけど……何か不審な点があったの?』

 「依頼先が俺個人のみになっていた。ただの武装勢力掃討の依頼で、だ。アークを騙っている可能性がある。調べられるか?」

 「アークじゃない可能性があるって事? 分かった。確認してみるから少し待ってて」

 

 そう言って内線が切れる。ヴィラスは受話器を置き、デスクに向かう。

 もう一度依頼内容を再生。聞こえてくるのはアークの担当官を務める女性の声。それは変わらない。だが、依頼を伝える言葉がいつもに比べて柔らかい感じがした。これまでのアークであれば命令に近い口調で依頼内容を伝えてきた筈。そこに唯一無二のレイヴン仲介組織であるという驕りが滲み出ている様でヴィラスには耳障りであった。

 今回の依頼はそれらの鳴りを潜めて「貴方が頼りです」という感じのニュアンスを含む言葉を何度も出してきた。悪く言えばこちらに媚びるような口調。それはそれで気色は悪く感じられる。この依頼をどうしても受けて欲しいという安直な頼み方のように思えた。

 何を自分にやらせたいんだ、という疑問だけが浮かび上がってくる。

 内線が鳴る。ルシーナからだろう。ヴィラスは受話器を手に取った。

 

 『確認が出来たわ。この依頼の送信元アドレスに電子署名と証明書は全てアークからの正規のもの。これは間違いない』

 「本物か」

 

 この依頼はアークから正式に来た依頼だということだ。ひとつの疑念は晴れた。

 

 『──でも、ヴィラスの言う通りこの依頼をあなた個人宛てに送ってくるって言うのは少し腑に落ちないのは私も感じた。念の為にこの依頼の送信先についても確認はしたけど、他のレイヴンには送られた形跡がない』

 「本当に俺だけに充てられた依頼って事か」

 『そうみたい……でも、何故……』

 

 少しの沈黙。だが、ヴィラスはすぐにある可能性に思い当たった。

 

 「──亡霊AC……か」

 『この間と同じようなことが起きる可能性が……でもブリーフィングのACは──』

 「あれとは限らない。だが、ここ最近の動きからして別の亡霊ACが待ち構えている、または乱入してくる可能性はある」

 

 再び沈黙。狙いは自分自身なのかとヴィラスは思い始める。そうであればアークがなぜそのようなことを仕掛けて来たのか。

 ふと、先日自分に尋問をしてきたラシッドという男の顔を思い出す。あの時亡霊ACの事を口にした時、ラシッドの目の色が変わったのを見逃さなかった。もしかしたらクリフを追っているのも亡霊AC絡みもあるかもしれないと感じた。

 

 『──ヴィラス。私としてはこの依頼は拒否しても良い。そう思っている』

 

 ルシーナの緊張した声が受話器越しから聞こえて来た。

 

 『この依頼自体が罠の可能性。そんな感じがするの。アークが何故こんな事をしようとしているか分からないけど……』

 「確かにそうだな」

 

 ヴィラスは頷く。アークからとはいえ、この依頼には信用性が無いといえた。拒否をするという選択も出来る。レイヴンにはその権利がある。

 どうすべきか。僅かな逡巡のあと、決断を下した。

 

 「この依頼、受けよう」

 『大丈夫なの?』

 「確かに罠という可能性もあるが、そうだという確証も無い。ならば受けてもいい」

 

 『でも……』というルシーナの声を遮り、ヴィラスは「それに」と続ける。

 

 「この依頼を拒否してもまた似た様な依頼をしてくるだろう。だったらここで受けてどんなものか見てやる」

 

 それが今のヴィラスの素直な気持ちであった。この情勢は何があってもおかしくはない。依頼内容と実際の状況が大きく剥離しているのは珍しくはない事だ。

 

 「依頼内容通りであればそれに越したことは無い。もし危険だと判断したらすぐに離脱する」

 『──分かった。作戦開始まで時間はまだあるから、準備をお願い』

 「ああ、ルシーナも頼む」

 

 そう言って内線を切るとヴィラスはデスクに向かう。ディスプレイに映る「受諾」のボタンを押下した。

 これで引き返せない。端末の画面には前金が振り込まれたという通知が表示される。

 対AC戦は前提にしておいた方が良いだろうとアセンブルソフトを立ち上げて用意していたデータを見ながら考えておく。

 先刻の作戦で<ヴェスペロ>の負った損傷は決して小さくない。特に腕部は換えておいた方が良いか。脚部は修理にそれほど時間が掛からないだろうと整備班から回答を受けている。脚部はそのままにしてくか。

 ただ、頭部の方は思っていた以上に損傷をしており、こちらは修理に時間が掛かるとのことらしい。どうすべきか暫く考えた末、換える事にした。<CR-H97XS-EYE>は使い慣れているパーツだが、ベストな状態でなければ作戦行動に支障が出る。保有パーツリストを呼び出して使えるパーツを確認。

 あとは使う武器だけだ。これもパーツリストから選んで構築するとしよう。そうヴィラスは考えながら端末との睨めっこが続く。これも早いところ終わらせて作戦に備えて身体をなるべく休ませておきたいところだ。

 

 

 レイヴンズアーク共用ガレージE04・エリア。

 <クランウェル>に運ばれた<ヴェスペロ>が降り立った。

 頭部を<CR-H73E>。腕部を<CR-A92XS>。右腕の装備はライフル<WR01R-SHADOW>。肩部エクステンションを連動ミサイルランチャー<FUNI>に換えた。

 日の出前の時間帯。辺りはまだ暗い。

 

 《メインシステム 戦闘モード 起動します》

 

 機体の機能制限が全解除される。レーダーが起動するとディスプレイ上に複数の輝点が表示された。動きはまだない。

 

 『敵反応は今のところ8つ。でも、まだいるかもしれないから油断しないで』

 「了解」

 

 先制攻撃は出来る。ヴィラスはフットペダルを踏み込むと、<ヴェスペロ>を加速させて強襲を仕掛けることにした。

 ガレージ敷地内に侵入。ハンガーの一角から<MT08M-OSTRICH>が3機出て来た。ヴィラスはすぐさま狙いを付けて<ヴェスペロ>の左腕のマシンガンを発射させる。3機のMTは胴体部分に連続被弾してすぐに崩れ落ちた。

 

 『敵反応が増えた。気を付けて、事前情報よりも多い気がする』

 

 これを皮切りに他のハンガーからもMTが複数出てきた。機種は<CR-MT77M>に<CR-MT85M>他多数。ヴィラスは敵機が出てくる瞬間を狙って両腕の武器で仕留めていく。

 

 (手応えはそれ程ないな……)

 

 MTの数は多いが、反撃が思っていたより苛烈ではない。寧ろまばらで、意思統一された動きは見られない。ここにいるのは先日交戦したアグリゲートの様な急造の組織なのか。練度の低い部隊だと感じる。

 

 『ACクラスの熱源を感知。B2ハンガーからよ』

 

 レーダーに輝点が1つ増えた。ヴィラスは機体を反応が出た方へ向けて機体を加速させる。

 

 『事前情報とは違うAC……? すぐに照合するから少し待って』

 

 ハンガーから出て来たのはAC。だが、ブリーフィングで出た逆関節型ではなく、タンク型。バズーカにリニアライフル。プラズマキャノンを備えた高火力機体。

 

 『照合完了。データベース上には登録のない機体ね。恐らくここで組み立てた機体だろうけど、動きに注意して』

 

 既に敵ACは背部のプラズマキャノンを構えていた。ロックオン警告。<ヴェスペロ>は跳躍。直後にプラズマが足下を掠めていく。

 ヴィラスはオーバードブーストを起動させて、敵機の真上を取ろうとするが、敵ACもその意図は分かっていたようだ。コア<CR-C770/U>のオーバードブーストを起動させて<ヴェスペロ>から距離を離すような動きを見せてきた。

 反転した敵ACが再びプラズマキャノンを放ってきた。それもサイドステップで回避。背部ミサイルランチャー<CR-WBW89M>に切り替えて肩部ミサイルランチャーと共に発射。

 8発のミサイルは敵ACコアの迎撃装置で幾つか堕とされるが、機動力の低い機体では躱しきれない。コア付近に被弾。機体が僅かに揺らぐその隙に距離を詰めて両腕の武器を発射。敵ACもそれを受けながら両腕の武器で反撃してくる。

 

 「……チッ」

 

 敵ACからの攻撃を躱しながら無意識に舌打ちが漏れる。クレスト製重量級コアを中心に構成された重装甲の機体へはライフルとマシンガンは思っていたよりも手応えが無い。防御スクリーンと共に弾ける軽い音はそれ程ダメージを受けている様には思えなかった。

 事前情報ではミラージュ製軽量級コア<C02-URANUS>を中心に機動力の高そうな構成で組まれた逆関節型ACの筈であったが、目の前にいるのは真逆の構成で組まれた機体。相性は良いとは言えない。だが、やりようはある。

 機体を跳躍させて真上からライフルを構えると敵ACはオーバードブーストを起動させる素振りを見せた。

 それを見てヴィラスはトリガーを引かずにフットペダルを踏む。ブースターを吹かしてそのまま敵ACの上をパスして後ろを取る。

 敵ACが挙動を変えてバズーカを構えながら旋回。だが、その旋回する速度は遅い。対応は容易であった。バズーカを向けようとした敵ACに対して<ヴェスペロ>はスライド機動で側面へ回って更に距離を詰めると、ライフル弾を敵ACの頭部へ何発も叩きつける。

 至近距離からであれば防御スクリーンの効果よりも衝撃が勝る。一際大きい音が響き、敵ACの頭部が接続部分から千切れた。動きが止まる。

 

 「これで……!」

 

 <ヴェスペロ>は跳び上がって敵ACの上に乗る。敵ACは両腕を真上にあげて藻掻く様な動きをするが、両肩の付け根を踏みつけて抑えると千切れた部分にマシンガンを突きつけて発射。弾丸は装甲を貫き、コクピットそしてジェネレータを撃ち抜く。くぐもった音が敵ACのコアから小さく響き、ヴィラスは<ヴェスペロ>をジャンプさせた。直後、敵ACのコアが爆散。

 

 『敵ACの撃破を確認。残るはMTだけよ』

 

 残ったMTが一斉に<ヴェスペロ>に向かって来た。それに対してヴィラスは<ヴェスペロ>の両腕の武器を構えさせて迎え撃つ。

 程なくしてMTも殲滅。乗っていたのは未熟なパイロットだったか。機体の動き自体はあまり良いとは言えず、割とあっさりと全機撃破が出来た。

 向こう見ずな素人集団だったのか、それは後々分かるだろう。事前情報とは少し違えどもこれで任務は完了。そう思った時だった。

 

 『──1機、猛スピードでこちらに向かって来る。大きさはACクラス。識別はレッド』

 「敵側の増援か。どうだか……」

 

 ヴィラスはコントロールスティックを握り直す。味方はもういない。今更このタイミングで来るのかという驚きはあった。もしくは横から掻っ攫おうとする火事場泥棒の可能性もある。

 だが、この状況をヴィラスは不思議と冷静に受け止められた。それはルシーナも同様であった。これは起こり得る事だと。イレギュラーな事態はこれまで何度もあった。今回も同じようにそれが起きただけだ。

 反応がある方へ機体を向ける。モニターにはオーバードブーストでこちらに向かって来るACの姿を捉えた。

 飛来してきたのは逆関節型ACだと判る。ブースター炎はヴィラスには見慣れた<C03-HELIOS>のモノ。それを中核とした高機動力を重点とした構成の機体。ブリーフィングで見た構成とはまた違う機体ではあったが、この機体は適当に組まれたACではなかった。

 薄い青と灰色のカラーリング。右腕にはマシンガン。左腕にはスナイパーライフルを持たせた逆関節型AC。<ヴェスペロ>の頭部コンピュータがそのACの名を告げて来た。

 

 <ブレインウォッシュ>

 

 かつてのランカーの一人であった”Dr.?”が駆るACであった。

 

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