ARMORED CORE LAST RAVEN ~Unsung Overture~ 作:唯名瞬
敵愾心が隠しきれていない。
それが愛機<ヴェスペロ>の右真横で待機しているACのパイロットへ抱いたヴィラスの率直な感想であった。
モニターの右端にはブルーとライトグリーンのツートンカラーの四脚型AC。左肩には『コミック調に描かれた大槍を構えるイッカク』のエンブレム。
機体名は<スウォンジー>。特務部隊所属レイヴンのミニオーグの乗機だ。2機は大型輸送機のカーゴの中で揺れている。
それと<CR-MT85BP>と<MT09E-OWL>がそれぞれ3機ずつ、別の大型輸送機の腹に収まって共にミッションポイントへ向かっている。
今回の依頼主はアライアンス特務部隊。ミッションポイントは旧ナービスの研究施設。
依頼内容は研究施設を不法占拠している武装勢力の殲滅。──そういう事になっている。
だが、ブリーフィングでこの任務については他言に無用という言葉が説明の最後に付け加えられたことからこの任務は単なる殲滅任務ではないのは察した。
任務遂行にあたっては特務部隊と共同で遂行するのだが、このミニオーグというレイヴンは自分とは馬が合わないなというのがヴィラスは最初のコンタクトで感じ取られた。コミュニケーションの取り方がいちいち刺々しいと言えばいいのか、友好的に接するという事を始めから考えていない様であった。
ヴィラスも自分自身にもそういったところがあるのを自覚していたので腹は立てられない。このレイヴンの立ち振る舞いに自分ももう少し愛想は覚えておくべきなのだろうなと、ある意味で反面教師ともいえた。
『うちの隊長を退けた事があるんだってな?』
「それは本人から聞いたのか?」
『そうじゃねぇが、任務報告書を見させてもらったんだよ』
ミニオーグの言う隊長とはジェランの事だ。ヴィラスはジェランと二度交戦している。だが、一度目はジャウザーによる介入があり、二度目はアライアンス側の作戦完遂による戦略的撤退。いずれも退けたとは言い難い。ミニオーグが見たのは恐らく二度目の事だろう。
「どこを見てそう判断したかは知らないが、俺は退けたとは思っていない」
お互いにそう思っている筈だとヴィラスは考えている。戦場にいる以上はどこかではっきりとした決着は付けたい。
『ケッ』と忌々しそうに、そしてハッキリと聞こえるような舌打ちがヘルメットに響く。『殊勝な言い草だなぁ。流石、54,000コームの賞金を掛けられたレイヴン様』
何が気に食わなかったのか。皮肉を込めたような声がヘルメットを打つ。そしてまた自分に掛けられた賞金がまた上がっているらしいことに気が付いた。
日に日に減っていくAC乗りの存在は勢力争いにおける状況を大きく左右させる。上がった賞金額はこの世界の現状を反映していた。
『ミッションポイントまで、あと5分で到着。降下準備を』
輸送機のオペレーターから通信が入り、ヴィラスは<ヴェスペロ>をハッチの前まで動かした。<スウォンジー>も同様に動き出す。
『──俺はこんなものじゃねぇ。コイツとは違う……やってやるんだ』
ミニオーグの呟きが聞こえた。どうやら勝手に対抗心を向けられていたらしい。
『降下ポイントに到着。ハッチ解放』
カーゴ内にけたたましいサイレンと共にカーゴのハッチがゆっくりと開き、外の気流が勢いよく入り込んできた。それを受けて装甲が震える音がコクピット内に響く。
『ハッチ解放完了。各機、健闘を祈る』
<ヴェスペロ>と<スウォンジー>は床を小さく蹴って降下。別の輸送機からもMTが順次降下を開始するのが見えた。
着地と同時に機体のチェックプログラムが走る。機体の各系統に異常無し。少し離れた場所に降下した<スウォンジー>も問題は無さそうであった。
今回のミッションは修理を終えた二脚型の<LH07-DINGO2>に変更。それ以外のフレーム構成は前回のままにした。左腕の装備は新たに調達したライフル<CR-YWH05R3>を初めて使用する。
『施設周辺及び施設内に展開されている敵機の殲滅をお願い。敵戦力については分かり次第、随時更新していくから動きにも注意をして』
ルシーナからの通信。同時にメインシステムが戦闘モードへ切り替わり、火器管制のロックとコア機能が全解除される。ミッション開始。
<ヴェスペロ>の隣に立った<スウォンジー>がブースターを吹かして一跳びしていく。見慣れないパーツで大半が構成された機体は新型だろう。相当な自信をもっているのか、ブースターを強く吹かして飛んでいく。
『またか……いい加減にしてくれ……』
<ヴェスペロ>の横についていた<CR-MT85BP>のパイロットがそう漏らしたのをヴィラスは聞き逃さなかった。
連携を一切考えてはいないような動きは先日共闘したクイン・クラフティーと同様だが、ミニオーグの場合はどこか危なっかしいとヴィラスは直感的に思った。
クイン・クラフティーの場合はその実力で裏打ちされた戦闘機動である程度任せられるという信頼があったが、ミニオーグはまだそれ程の実力は伴っていないらしいのはMTパイロットの小さなぼやきから何となく察した。
突出行動はあのレイヴンにはよくある事なのだろう。ミニオーグに対してのフォローは考えておく必要はありそうだが、果たしてそれに納得するのだろうか。ヴィラスは小さくなっていく<スウォンジー>を見ながらフットペダルを踏み込んだ。今日もブースターの吹き上がりがしっかりとして良い反応をしてくれる。
<ヴェスペロ>は施設に向けて一気に加速。施設からは既にサイレンが鳴り響いてきた。レーダーディスプレイの端には輝点が複数表示。
先行していた<スウォンジー>に追いつき、並走する形になる。
『獲物を横から盗ろうとか思ってんじゃねぇぞ』
ミニオーグが釘を刺す様に低い声で行ってきた。今回の任務の報酬は撃破数の歩合によるものではないし、もとよりそういう真似をするつもりは全くない。だが、自分の立ち回り方次第ではこのレイヴンを怒らせてしまうかもしれない。
敵機影が見えて来た。ブリーフィングで受けた情報が正しければ、展開されているのはクレスト製MTと<セントー>だろう。だが、ここはナービスの研究施設。他に何が出てくるかは分からない。
<スウォンジー>は加速すると、両腕にもった新型と思われるマシンガンを<セントー>の集団へ向けて放っていた。装甲の厚い<セントー>もこの弾幕には耐え切れず、1機、2機と破壊されていく。
<ヴェスペロ>も右腕に装備したライフル<WH01R-GAST>を周辺にいた数機の<セントー>と<CR-MT85M>に向けて発射。次々と敵機を撃破していく。
MTの左肩に付けられているのは旧ナービス社のエンブレム。どうやらナービスの残党部隊らしいが、敵の練度はそれほど高くない。元々、新興企業であるナービスの戦力はほぼ傭兵頼りにしている部分が多く、独自戦力自体は三大企業と比べてかなり貧弱であった。
その事は既にヴィラスも分かっている。今、<ヴェスペロ>と相対しているMTのパイロットはナービス軍の正規パイロットだと一目見て判った。機動ひとつとっても甘さがある。それは実戦慣れというよりも単純に生き残るための狡猾さなどが殆ど無い。攻撃する。回避する。援護する。戦技教本通りの動きをそのままなぞったようなこれらの挙動はあっさりとしているので与しやすい。
傭兵からの戦技教導があった筈だが、ここにいるパイロットたちは全く生かせていない。それ故にほぼ七面鳥撃ちとなる。<ヴェスペロ>の機動に翻弄されたMTがまた1機撃破。状況をようやく把握したもう1機のMTは特に回避機動する事無くそのまま真っ直ぐに後退。ヴィラスはそれに対して迷うことなくトリガーを引いて撃破。残りは少ない。
<ヴェスペロ>が放ったライフルの弾は最後に残った1機の<CR-MT85M>へも放たれるが、同じタイミングで<スウォンジー>も狙っていたらしく、両方からの弾丸を叩きつけられたMTは原形が留められないほどに破壊されたのち、爆散した。
『邪魔するんじゃねぇ! あれは俺が先に狙いを付けていた』
苛立ちを爆発させたミニオーグの声。何をそこまで彼の対抗心を焚きつけるのか。
「銃口はこちらに向けられていた。俺は反撃しただけだ」
言い争う気は無いが、流石に言われっぱなしは癪に障る。これは実戦だ。一瞬の判断の遅れが致命傷になり兼ねないのだから素直に思った事をヴィラスは口に出す。『ケッ』と再びミニオーグの舌打ちが聞こえた。
施設の前で展開していた敵戦力は全て殲滅。後は本丸である施設内にいる戦力だけだろう。後続のMT隊が来る前に片付いたので後は共同で各個撃破していけばいい。
頭部カメラを望遠。確認出来るだけでもMTが10機以上いるのが見える。いずれもクレスト製MT。
両腕のライフルの残弾を確認。想定内の消耗で済み、肩部の武器はまだ使っていないので任務はまだ続行できる。
『敵反応、増加。その内の1つはACクラスの熱源の大きさ。照合、急ぐわ』
やはりそれくらいの戦力はいたのかとヴィラスは機体の簡易チェックを走らせながら輝点が増えたレーダーディスプレイを見やる。
ロックオン警告音。モニター正面の一点が一瞬青白く光ると共にそこから高出力レーザーが<ヴェスペロ>へ向けて飛んで来た。ヴィラスはコントロールスティックを僅かに倒してそれを紙一重に躱す。敵は高火力の武器を持っている様だ。
『敵ACの照合完了。元アーク所属のレイヴン。ヴォルテックスの<ディスチャージャー>』
ルシーナが敵ACの情報を送ってきた。ヴォルテックスはレイヴンズアーク所属であったが、ナービス領の武力衝突が起きる直前に姿を消し、そのままアークの登録から抹消されたレイヴン。総合ランクも上位に位置していた実力者だ。
施設にいる集団から突出してこちらに接近してくる黒と赤の中量二脚型AC。右腕には<WH04HL-KRSW>。遠距離からでの攻撃であった為、辛うじて反応できたが、あの武器は一発が怖いのは分かっている。
更にもう一発レーザーが飛んで来た。これもサイドステップで躱すが、精度は先程より高い。左腕に持っているマシンガン<CR-WH79M2>と相まって正面からでは火力の面で分が悪いと判断。重量のある<ディスチャージャー>に対してこちらが機動力で引っかき回せば十分に勝機はあるとヴィラスは考えた。
だが、ヴィラスの後方で様子を伺っていたミニオーグにはそんなことはお構いなしの様であった。<ヴェスペロ>の前に<スウォンジー>を割り込ませると、右背部のリニアガン<CR-WB03LGL2>を連射。エネルギー残量を考慮したのか、<ディスチャージャー>はマシンガンを放ちながらバックステップで後退。
『コイツは俺が仕留める。テメェは周りの雑魚を片付けていろよ』
<ヴェスペロ>の進路を塞ぐような動きをしながら<スウォンジー>は攻撃を続行している。ここまで露骨にやられると腹が立つが、同時にこのレイヴンは手柄を求めているのだろうと、これまで自分に向けられた言葉から読み取ることが出来た。恐らく、特務部隊内では上手くいっていないのだろう。ミニオーグが部隊内でどの様な扱いを受けているかは知らないが、戦果をひとつでも多く挙げることで自分の評価を上げたいのだとヴィラスは感じた。
マズいと直感する。<スウォンジー>のこれまでの動きが焦りから来る短絡な動きに見えてきたからだ。ヴォルテックスからすれば良い的にされてしまうだろう。
「待て……」
『逃がすかよぉ!』
ヴィラスの呼びかけに答えることなく、後退する<ディスチャージャー>に食い下がるように<スウォンジー>は両腕のマシンガンを放つが、ヴォルテックスに巧い事引き付けられた形になった。<ディスチャージャー>の背部から放たれた小型ロケット弾が命中。被弾して動きが鈍ったところに<ディスチャージャー>がレーザーライフルとマシンガンで追撃してくる。<スウォンジー>の装甲片が吹き飛ぶのが見えた。
やはりミニオーグへのフォローは必要だ。他の敵戦力は特務部隊のMTに今は任せれば良い。あのACを相手に単独で戦うにはミニオーグにとってもヴィラスにとっても少々難しさがある。
フットペダルを踏み込む。<ディスチャージャー>の死角に回り込もうとするが、直後にロックオンアラート。
後方確認モニターを見るとグレーの<CR-MT85M>が4機。いずれも背部にミサイルランチャーを増設した重装型。
4機のMTから一斉にミサイルが放たれる。敵機との距離と弾速からオーバードブーストの起動は間に合わない。<CR-C84O/UL>のミサイル迎撃装置が自動で作動。ミサイルを迎撃しながらバックステップさせると建物の陰へスライド。建物を盾にして残りのミサイルを凌ぐ。
全弾躱せた事を確認するとヴィラスはメイン武装を右背部のミサイルランチャー<WB01M-MYMPHE>に切り替えて建物の陰から<ヴェスペロ>を飛び出させる。密集状態にあったMTに向けて素早くロックオン。肩部の連動ミサイルと共に全弾発射。発射対象は碌に設定していないので前方に位置していた2機に命中。直撃を受けたMT2機は吹き飛ぶ。それが残った敵機に大きな動揺を誘った。
後方にいた2機は散開してマシンガンとパルスレーザーをばら撒く様に発射。それを躱しながら<ヴェスペロ>は両腕のライフルで各個撃破。更に奥からもう1機<CR-MT85M>がマシンガンを構えて突進してくるが、それもライフルで撃破。
思わぬ邪魔が入ってしまった。ヴィラスは<スウォンジー>の方に機体を向けると両機は交戦中であったが、実力差が如実に出ており、<スウォンジー>は<ヴォルテックス>に防戦一方になりかけていた。
それを見たヴィラスはインサイドトリガーを引いてECMメーカーを射出すると、両腕のライフルを構えて発射。咄嗟に回避行動に入った<ディスチャージャー>に数発命中したが、防御スクリーンによって装甲への効果的なダメージは阻まれる。
だが、こちらへ注意を引き付けられた。<ディスチャージャー>は<ヴェスペロ>の方を向きながら一度後退していく。
「おい、動けるか?」
ヴィラスは<スウォンジー>の状態を確認する。一部装甲板が吹き飛んでいるが、それでも損傷は思っていたより少ないのは新型パーツの性能のお蔭か。恐らく中枢部へのダメージはそれ程負っていない筈だ。
『誰が助けろと……』
ヴィラスの呼びかけに対してミニオーグはある意味では予想していた通りの言葉が返ってくるが、それには答えずに<ディスチャージャー>へ追撃を仕掛ける。だが、<ディスチャージャー>も反撃。再び放ってきたレーザーが左肩の脇を掠めていくと、今度はロケット弾が直撃。機体が大きく揺さぶられる。
『俺が仕留めると言った。言葉通じていなかったのかよ? なぁ?!』
それに答える余裕は無い。既に<ディスチャージャー>は<ヴェスペロ>へ標的を変えてきていた。ヴィラスは右背部のミサイルランチャーを3発発射。<ディスチャージャー>のマシンガンがそれを迎撃する隙を突いて左背部のロケットランチャー<WB07RO-ORTHOS>に切り替えて発射する。動きが少し鈍った<ディスチャージャー>にロケット弾が命中。<ディスチャージャー>が再びバックステップで大きく後退していくのを見て、ヴィラスはECMメーカーを射出した。
これで少しは息が付ける。ヴィラスはミニオーグに呼びかけた。
「あの機体と1対1でやり合うのはきつい。2機掛かりで攻めた方が得策だ。連携して撃破するぞ、ミニオーグ」
『あぁ?!』
「互いに生き残れる確率が高いのがそれだ。俺は死ぬ気はない。──とどめは譲ってやる。あんたはしっかりと手柄は立てられるし、文句は無い筈だ」
今の状況を鑑みてヴィラスは率直に思ったことを口に出す。ここは撃墜競争の場ではない。互いにレイヴンだ。共闘出来るところはしておかなければ負ける。そこは分かっている筈だ。今の言葉でミニオーグが納得してくれるかは分からないが、譲歩はしている。それでも聞き入れられないのであればミニオーグもそこまでであるし、自分も決して少なくない出血を強いられるだろう。
ほんの少しの間を置いてミニオーグが小さく舌打ちをするのが聞こえた。
『……足引っ張んじゃねぇぞ』
納得したかどうかは分からないが、了承したという事だろう。ミニオーグはそれ以上何も言わずに機体を動かした。
聞いてもらえる耳はあった。ヴィラスは安堵の溜息を小さく吐く。後はどこまで上手く連携が出来るかに掛かっているが、難しい事はせずに互いの攻撃し合えるタイミングを作ればどうにかなるだろうと考えた。
その直後、自機の足元にロケット弾が落ちてきた。ヴィラスは<ヴェスペロ>を跳躍させて両腕のライフルでトップアタック。少し遅れたタイミングで<スウォンジー>が<ディスチャージャー>の側面につくと、マシンガンを斉射。防御スクリーンの弾ける音が大きく響く。
ファーストアタックは上出来。<ヴォルテックス>が大きく揺らいだ瞬間、<ヴェスペロ>はそのまま背後に回り込んでライフルを斉射。2機からの挟撃を受けた<ヴォルテックス>はどちらに狙いを付けるか動きに僅かな躊躇が見えた。その一瞬の隙を突いて<スウォンジー>がリニアガンで追撃。
だが、<ヴォルテックス>は上体を捻ってリニアガンの弾丸を右の肩部装甲で受け切ると、コア<C01-GAEA>のイクシードオービットを展開してレーザーを発射。それに2機が反応した瞬間、左腕を大きく振り回してマシンガンを四方に乱射。ヴィラスたちが思わず攻撃の手を緩めた隙に跳躍して包囲から脱出。すぐさまレーザーライフルで反撃してきた。
これが上位ランクにいたレイヴンとしての実力だろう。2機からの反撃が難しい位置を取りながらのトップアタックで形勢を変えようとしていた。
<ヴォルテックス>からの攻撃から逃れる為に<ヴェスペロ>と<スウォンジー>はブースターを全開にして距離を取ろうとするが、<ヴォルテックス>は着地してすぐさまブースト機動で射程距離を維持させてきた。容易に反転攻勢させるつもりはないようだ。
『状況……損傷……軽微……敵……排除……続行』
ヴォルテックスの声がオープン回線に入り込んできた。亡霊ACの可能性も疑っていたがしっかりと生きているらしい。だが、ヴォルテックス本人と思われる声は亡霊と思わせるような酷く掠れた声。様子がおかしいのは気のせいでは無い筈。
「なにかされたのか……」
そんなヴォルテックスの様子とは違って<ディスチャージャー>は両腕の武器を振り回して2機に目掛けてレーザーと弾丸を放ってくる。
特務部隊のMTも施設内の敵戦力と交戦を開始した。現在の状況からあのACが敵戦力で一番の脅威である。早いところ撃破して施設の戦力を無力化させなければならない。そうしなければよくない事態が起こるとヴィラスは予感してコントロールスティックを強く握りしめた。
* * *
「状況は?」
三枝博士は少し焦燥の色が窺える表情を浮かべながら格納庫にいた側近の研究員へ尋ねた。外から聞こえてくる轟音は普段聞き慣れないもの。どうしてもナーバスにはなってしまう。
アライアンスが攻めてくるという情報は事前に聞かされていた。だが、想定していたよりも早い襲来。ナービスの部隊はともかく、キサラギ派の技術者たちは壁の一枚隔てた向こう側で繰り広げられる戦闘の音ひとつひとつに身体が否応なく反応してしまう。
加えてやってきたのは最近新設された特務部隊だという。本部所属の木っ端な部隊ではなくレイヴンが所属している実戦部隊。エース揃いの戦術部隊ではないのは一応ひと安心できるが、戦力は三枝博士たちにとって未知数な部分が多いのが不安材料である。
既に基地周辺に配備していた戦力は全滅したという報せも彼らにとっては歓迎できない情報であり、増々三枝博士たちをナーバスにさせてくれた。
「ヴォルテックスの<ディスチャージャー>が現在、敵の部隊と交戦中です。敵はレイヴンも雇っている様で、現在どのレイヴンかを確認しております」
「そんな情報、今はどうでもいいです。……それにしてもこちらに寄こしてきたレイヴンというのがあれとは……」
既に耳に入っていた情報であり、こちらの聞きたい事ではない。三枝博士は思わず苛立った声を上げる。
ヴォルテックスの事はよく知っている。何故ならこのレイヴンはキサラギ社の次世代強化人間手術の被検体として利用したのだからだ。三枝博士もその手術に立ち会った人間のひとりであった。
素行は悪いが、腕は良い。実験材料としては好都合な素材をレイヴンズアークは寄こしてくれた。
だが、結果は失敗に終わった。ヴォルテックスは言語機能の障害や記憶能力の欠落などが残った廃人に一歩手前の状態。
ただ、人間としての機能の大半が失われてしまったが、パイロットとしての機能は十分残っており、強化自体は一定の成果はあった。用心棒としての役目くらいなら務まるだろうと言って半ば廃棄処分に近い形で当時協力関係を築いたばかりのナービスへ押し付けた過去があった。
自分たちがそんな身体にしてしまった事などヴォルテックスはどうせ覚えていないだろう。せいぜい足止めとして頑張ってくれるのを祈るだけだ。
「──私が聞きたいのは<レッドバタフライ>の事です。現在の状況を聞かせてください」
今考えなければならないのは視線の先にある調整中の2機の<レッドバタフライ>。調整に想定以上の時間が掛かっており、まだ動かせていない。
「01はほぼ完了し、後は最終調整だけです。02の方も進捗としましては90パーセント程完了しておりますが、あともう少し掛かるかと……」
「三枝博士」ともうひとりの研究員が声を掛けてきた。「──敵戦力の情報が更新されました。……どうやらアライアンスが雇ったレイヴンは第一〇一工廠で<レッドバタフライ>を撃破したレイヴンであるとのことです」
「……!」
三枝博士の双眸が不快感を示す様に一瞬細くなると同時に手の平に爪が食い込むくらいに拳が握り締められる。
「……レイヴンなどに……」
それは小さな掠れ声であった。
アライアンスの考えそうな事だ。<レッドバタフライ>を撃破したレイヴンを呼べば自分たちが畏縮するとでも思っているのか。
──舐められている。三枝博士は怒りを覚えた。碌に調整出来ていなかった<レッドバタフライ>を2機撃破した程度で同じ手が通用すると勘違いしている。我々は世界最高の頭脳と技術力を持った集団だ。そんなふざけた態度を取らせるわけにはいかない。
同時にこれはチャンスだ。ここで特務部隊とレイヴンを退かせることが出来れば旧世代の遺産を手懐けた我々をアライアンスに受け入れさせる絶好のアピールになると三枝博士はサブモニターに小さく映る紺色のACを見て考えた。裏でコソコソとせずとも堂々とアライアンスへ帰還できる。
「貴方たちは生贄だ」
紺色のACと特務部隊へ憎悪を込めた言葉。
自分たちにとって最も邪魔な存在であるレイヴン。自分たちの力を示す最初の相手としては相応しいだろう。
──これは強者の力。それを正しく使いこなすことが出来るのは我々だけなのだ。
三枝博士はそれを確信している。だからこそ即決で行動をしなければならないと感じた。
「01の方はもう組み上がっているのですね」
「はい。ですが、先ほど言った通り、最終調整である制御プログラムの設定がまだ──」
「──起動してください。今すぐに」
三枝博士の言葉に研究員が信じられない事を聞いた様な表情になる。
「それを待っていれば先にここがやられてしまいます。2機の<RUSYANA>も同時に出して多角的に制御すれば問題は無いでしょう。──急いでください。起動シーケンスを最優先に。3番と5番と6番、これは飛ばしても構いません」
それは三枝博士の性格上あり得ない言動であった。不確定を含ませた言葉は博士が最も嫌う言葉の筈。だが、現在ここの長は三枝博士だ。そして外の状況に対してナーバスになっていたのは博士だけではない。状況を打破する為にも研究員はただ頷くしかなかった。
「……分かりました。至急、出撃準備を急がせます」
「02の調整も急がせてください。それと輸送機の発進準備も早急に進めておくように。ここで我々が死ぬなんて事は決してあってはならないのです」
三枝博士はそう言って格納庫から足早に立ち去る。研究員はそれを見届けると技術者たちに声を掛けて準備を急ぐ様に伝えた。
いつもはどの様な状況でも冷静な判断を下していた三枝博士が焦燥した表情を他人に初めて晒した。
それがどういう意味であるか。それは自分たちにこれまでにない危機が迫っているという事だ。だが、目の前にある力が自分たちの思い通りに動かすことが出来ればそれを乗り切ることが出来る。そして、その先に世界を握るチャンスを掴めるという事は確信出来た。
「まずは奴らの排除が優先。しっかりと動いてもらいましょうか。──おい、<RUSYANA>を起動状態にしてくれ」
研究員は技術者に声を掛けるとコンソールに手を掛ける。マニュアルにあった起動シーケンス通りに操作。<レッドバタフライ>のジェネレータが大きく唸る音を立てて起動した。
「いいぞ……」
やはりこの瞬間は興奮する。旧世代の遺産が自分の手で動き出す。それはあたかも猛獣を手懐ける調教師になった気分になれる。研究員は手の震えを何とか抑えながらシーケンスを続行。最後の実行ボタンを押下。
深紅の機体の頭部カメラアイがグリーンに鋭く明滅。そして一瞬の身震いの後、<レッドバタフライ>はブースターを全開にして垂直に飛び出す。それに続いて2機の<RUSYANA>が引っ張られる様に飛び出した。
轟音と共にハンガーの屋根を突き破った<レッドバタフライ>は下に居た人間の事などまるで気にする事無くハンガーの上を一回りすると、障害を排除する為に臨戦態勢を整えた。