ARMORED CORE LAST RAVEN ~Unsung Overture~   作:唯名瞬

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第4話「Angel」

 <CR-MT77M>2機と<CR-MT98G>1機で編成されたアライアンスのMT分隊は基地の司令部からの撤退命令を聞いて機体を基地の方向に向けた。丁度、襲撃部隊のMT1機を撃破して次の目標に向かおうとしていたところだった。

 <CR-MT98G>に搭乗していた分隊長は幾つもの黒煙が上がっている基地の姿を見て小さく舌打ちをする。結局守り切ることが出来なかった。自分の家を守れなかったのは軍人として恥だ。今出来るのは脱出した基地司令を含む仲間の護衛、そして次の反攻への準備だ。部下に撤退の指示を出す。

 

 その時、レーダーが自機右側面に反応をひとつ捉えた。熱源の大きさからACと判断出来る。直後にロックオンされた事を知らせる警告音。

 分隊長は部下に攻撃指示を送ると、すぐさま敵の反応のあった方向に向けてグレネード弾を撃ち、部下の<CR-MT77M>からはミサイルが放たれた。数秒後、着弾。火球が咲く。

 だが、手応えを感じない。警告音もまだ鳴り止まない。自機に前方から炎を裂くように青い光が飛んでくる。高出力のレーザーだ。

 それは自機の左斜め前方にいた部下の機体を捉えていた。”カカシ”と揶揄されている位にMTの中でも機動性が低い<CR-MT77M>は碌な回避行動も取れずレーザーの直撃を受けた。青白い光が機体を包み込むと同時に炎を上げて機体が爆発を起こす。

 爆発の衝撃に煽られたのかすぐ隣にいたもう1機の<CR-MT77M>がバランスを崩して転倒しかけて動きが止まる。

 「逃げろ」と指示を出すが、次に分隊長が見たのは急接近してきた白いACがレーザーブレードで部下の機体を薙ぎ払う姿だった。

 分隊長は機体の向きを変えて逃れようとするが、白いACは既に正面に回り込んでいた。カメラアイが鋭く青色に輝いている。恐怖に駆られた分隊長はグレネードを再度発射しようとするが、トリガーから反応が無い。弾はまだ装填準備で撃つことは出来ないからだ。

 モニターにはレーザーブレードを発振する白いACの姿が大きく映される。<CR-MT98G>のコクピットに光刃が突き刺さり、機体は爆散。3つの火球が森に咲いた。

 右腕には<WH04HL-KRSW>。左腕には<WL-MOONLIGHT>が装備された中量二脚型のAC。炎に照らされてその白い機体を紅く煌めかせていた。

 

 炎の向こうからマシンガンを装備した武装組織の重量二脚型ACが白いACに向かっていく。白いACはコア<CR-C84O/UL>の後部ハッチを展開。オーバードブーストを発動させ、武装組織のACへ急接近した。パイロットは近づけさせまいとマシンガンを白いAC向かって発砲するが、白いACの肩のハードポイントに取り付けられた追加装甲に数発当たっただけで直撃には至らない。

 白いACは速度を落とさずそのまま武装組織のACの後ろに回り込んで無防備になっているACの背中に向けてレーザーライフルを発射した。青い炎がAC全体を包む。コアが軽量級だったのが災いしたのだろう、コアの背面部の装甲がレーザーの熱で溶解しかけていた。

 それでもよろよろとまだ動こうとするACに白いACはもう一撃レーザーライフルを発射する。今度はジェネレータまでレーザーが届いたのか、コアから爆発が起こり、ACの上半身が粉々に吹き飛ぶ。

 爆発を確認すると、再び向きを変えて白いACはブーストを吹かし、基地に向かった。途中、損傷したアライアンスの中量二脚型ACが単機で攻撃を仕掛けようとするが、レーザーブレードの一撃であっさり返り討ちにあってしまった。

 

「なんだ? でかい爆発があったな。アイツか? 撃破したのか?」

 

 クリフはサブモニターに映る爆発の様子を見ながら驚いていた。だが気を取り直し、機体の頭頂部に備えた大型カメラで基地周辺を探る。カメラは基地から南東に5キロ程先にある少し地面が盛り上がった丘の様な場所を見つけた。あそこからならもう少し詳しく見ることが出来るはずだ。

 

「こんなチャンスが巡ってくるとは……じっくりと見物させて貰おうじゃねぇか」

 

 この機体の走破力なら数分あればいけるだろう。クリフは機体を山の斜面を滑るように動かして目標地点へ目指した。

 

 白いACは基地の前にいた<CR-MT98G>2機を左腕のレーザーブレードで薙ぎ払うと、基地の中へ突入した。基地の中の施設は殆ど破壊されていて、基地としての機能はほぼ皆無といっていい。

 すると、崩壊した建物の陰から四脚型ACが飛び出してきた。右腕に装備されたアサルトライフルから弾が白いACに向かって放たれる。だが、白いACは最小限な動きでアサルトライフルの弾をスライド機動で回避。すかさずレーザーライフルを一射した。

 白いACとほぼ一直線上に対峙していた四脚型ACは左腕に備えられたシールドを構えてコクピットへの直撃を免れる事は出来たが、次の瞬間、四脚型ACのパイロットの目の前に映ったのは、レーザーブレードを構える白いACの姿であった。

 レーザーブレードのレーザー発振部分から青白い光が伸びると、それは四脚型ACのコアに向かって飛んできた。四脚型ACはブーストを駆使してなんとか左へ避けようとしたが、最後まで避けきれず、右腕を切断される。切られた右腕はアサルトライフルを持ちながら宙を舞い、地面へ鈍い音を立てて落下した。

 焦ったパイロットは、バランスが崩れた体勢をなんとか持ち直そうとコアに装備されたイクシードオービットを起動させながら距離を取ろうとしたが、動きを察知した白いACは咄嗟に後退をしてレーザーライフルを放ち、イクシードオービットの一基を破壊する。爆散したオービットの破片を浴び、もう片方のオービットは動作停止に陥った。

 右背部のチェインガンを展開して再度反撃に転じようとする四脚型ACへ白いACは一気に肉薄して、レーザーブレードを発振させた。<WL-MOONLIGHT>独特の青白い光刃を四脚型ACのコア目掛けて左腕で薙ぎ払った。

 その一瞬後にはその光刃の青い光と同じ色の光がコクピットの中を満たし、パイロットは光に包まれてその肉体を消滅させた。残されたのは胴体の真ん中から上が無くなってしまったAC”であったもの”。動く力を失ったそれは下半身から崩れ落ち、小さな爆発が起きた。

 

 次の瞬間、建物の後ろに隠れていたアライアンスの逆関節型ACが不意打ちを狙って、建物の上から飛び出す。同時に腕自体が武器であるリニアガンを放つ。しかし弾は攻撃を察知して回避運動を取っている白いACの前に1発。後ろに1発は地面に落ちて機体には命中しなかった。不意打ちが失敗したと悟ったアライアンスACは武器をミサイルに切り替えて発射。

 白いACは素早く後退して間髪いれず飛んできたミサイルを躱すとオーバードブーストを発動させてアライアンスACに急接近。レーザーブレードでコアを切りつけて、すかさず切断面に向けてレーザーライフルを放った。

 至近距離で放たれたレーザーはアライアンスACのコアを貫通すると、後ろにあった燃料タンクに直撃。直後に大爆発を起こして基地を炎で包み込んだ。

 

 

    *     *     *

 

 基地中心部から爆風と巨大な炎が上がっているのがモニターに映されている。火炎の熱がこちらまで届いてきたのか、自機の温度が僅かながら上がってきている。なるべく傷つける事無くこの基地を頂く筈だったが、ここまで基地の損傷が増えれば占領する意味が最早無くなってきた。

 

 (――壊滅か……)

 

 これでは任務は失敗。報酬はお預けだ。サバスはレーダーに唯一残っていた反応を見て唇を噛締めた。

 

 『敵の増援か?』

 『自分の基地を何の考えも無く破壊する馬鹿はいるまい。向こうにいたACがやられたが、アライアンスの機体もやられたみたいだな。識別はレッド。こいつは乱入者だ』

 

 パーシガー888の問いにサバスは冷静に返した。

 突然現れた反応に一瞬驚くも、頭部に搭載された戦術コンピュータはそれが敵であることを知らせると2人は直ぐに落ち着きを戻す。

 ――戦場荒らしのハイエナか。反応は1機で、熱源の大きさから間違いなくACだ。素人相手とは言え、MTを5機、AC4機の撃破。反応が現れてから約3分弱。少なくとも運だけで生き抜いてきたような弱いAC乗りではなさそうだ。サバスは敵であろう反応を簡単にではあるが分析した。

 

 『北西へ退避をさせた味方機がやられる可能性があるな。叩いておく必要がある』

 『了解。戦場を荒らすハイエナ野郎は潰しておかないとな』

 

 自分たちがいる南方面への退避はあらかた完了するが、北西方面に残っている味方機の退避がまだ済んでいない。これ以上の味方の損失は罰金という形で返ってくる。

 

 『あのACを倒してプラマイゼロとしておくか』

 『撃破報酬はいくらだろうな。少なくとも100,000コーム位は貰わんと割に合わないぞ』

 『今のところデータベース上に該当機なしだが、さっさと潰して顔も拝ませて貰おうか。意外と大物かもしれない』

 

 炎に包まれる基地に2機のACは再び舞い戻った。

 <スカルスカーレット>と<キャットフィッシュ>の2機は敵に接近する。白い中量二脚型ACの姿を機体正面で捉えた。頭部コンピュータからの情報はデータに無い「未確認機」との回答が出た。オペレーターからもこの機体に関する情報は無く、アークのデータベースには登録されていない機体とのことだった。

 だが、4日前に武装組織を率いていたレイヴン、パーム・パームの駆る<リコンシルシェイク>を撃破したACの可能性が高いとオペレーターは告げていた。そのACの機体カラーは白だったと聞いている。だとすればこのACの可能性は大いにありだ。

 

 『パーム・パームを倒したのなら割と出来るヤツかもしれん。油断するなよ、パーシガー』

 『ああ、確実に仕留める。お前こそ後れをとるんじゃねぇぞ』

 

 敵機は<WH04HL-KRSW>と<WL-MOONLIGHT>を装備している。一発、一撃が怖い相手。だが、それを封じれば勝機はあると2人は感じた。

 <スカルスカーレット>の肩からECMメーカーを射出。ECMを展開する。レーダーに異常が出て動揺したのだろう敵機の動きに僅かだが遅れが出たのが見えた。それを2人は見逃さない。

 <スカルスカーレット>は機体を白いACの正面。<キャットフィッシュ>は右側面に位置を付けた。ロックオンマーカーが赤くなり。ロックオンが完了。<スカルスカーレット>の両腕に備えられたライフルとハンドガンが、少し遅れて<キャットフィッシュ>の両腕に備えられたバズーカがそれぞれ火を噴いた。<スカルスカーレット>のECMで相手の目を潰してからの攻撃で動きを引き付けてから<キャットフィッシュ>が止めを刺す。2人がコンビを組んでから得意とする攻撃パターンだ。

 白いACは咄嗟に機体を左に滑らせて<スカルスカーレット>の攻撃を回避。だが、ここまでは想定の範囲内。回避したところを<キャットフィッシュ>の放ったバズーカ弾が敵機を捉える――はずだったが、白いACは間髪入れずに後ろへ跳んだ。

 バズーカ弾は白いACの頭部前方スレスレの所を横切る。同時に発動時間が切れたECMメーカーが自壊した。必殺のパターンであった筈だが、初見で回避された事に2人は驚くも、その動きに感心した。

 

 『外した。いや、避けたのか。良い動きしてくれるじゃねぇかこいつ』

 『先手必勝といきたがったが、失敗か。簡単な敵ではないな』

 『もう一度ポジションを組み直すか?』

 『いや、散開してミサイルで牽制してから別パターンでもう一度だ。いくぞ』

 

 「了解」とパーシガー888が言うと<キャットフィッシュ>は<スカルスカーレット>の横に付く。今度はアウトレンジからの攻撃ポジションで敵を迎え撃つ。ファーストコンタクトで仕留めるつもりだったが、多少慎重にならざるを得ない。先行していたレイヴンはどれ位の強さを見極める暇すら与えずに散っていたのだから尚更だ。警戒するには越したことは無い。

 2機は白いACから左右に別れるように後退する。だが敵機を視界からは外さない。白いACが追従してくるのが見える。「狙い通りだ」とサバスは口元を歪めて呟いた。

 後退していく<キャットフィッシュ>はイクシードオービットで白いACの動きを牽制すると、右背部のミサイルランチャーから4発。<スカルスカーレット>右背部からは1発のミサイルが発射。それに応じて白いACは肩のインサイド射出口からデコイを射出。3発のミサイルがデコイに吸い寄せられるように飛んでいく。残りの2発も白いACのコアに装備されているミサイル迎撃装置で破壊された。

 ミサイルの射出をしたと同時に<キャットフィッシュ>は機体を急加速。白いACの後ろに回り込むような動きを見せる。<スカルスカーレット>は追従してくる白いACの動きに注意しながらライフルを構えた。正面から白いACがレーザーを2発発射。それをサイドステップで回避しながらライフルを発射。白いACはそれを横に躱して再びレーザーライフルを構える。ロックオンの警告表示。サバスはレーダーに目を見やる。<キャットフィッシュ>が所定の位置に着いたのを確認。インサイドトリガーを引き、ECMメーカーを射出。白いACは<スカルスカーレット>から離れるような動きを見せた。

 その動きを見逃さなかった<キャットフィッシュ>がミサイルを6発発射。それを察知した白いACがすかさずデコイを射出しながら機体を左方向へ滑らせる。機体を滑らせた方向にはライフルを構えた<スカルスカーレット>がライフルを発射。白いACは機体を上昇させて回避しようとするが腕部<A05-LANGUR>の右肩装甲と脚部<LH09-COUGAR2>の装甲に1発ずつ被弾。

 白いACは射程外に逃れようとするが、再び<キャットフィッシュ>から6発のミサイルが白いACに向けて突っ込んでいく。それをコアの迎撃装置で破壊するも、迎撃を抜けた3発のミサイルがコア付近に命中して動きが大きく鈍る。その隙に<キャットフィッシュ>が側面に回り込んでバズーカを発射。

 命中直前、白いACのコア後部ハッチが展開。高出力のエネルギーが放出されてオーバードブーストが起動。白いACは通常の倍以上のスピードで正面にいた<スカルスカーレット>が放つライフルとハンドガンの火線を掠めながら上を飛び越える。お互いの距離が一旦離れた。

 

 2人は敵機体の状況をみる。白いACは数発被弾しているが致命傷となる損傷は与えられていない。まだ動きに余裕はありそうだった。

 白いACはもう一度オーバードブーストを起動させると、再び凝縮されたエネルギーがコア後部から放出。猛スピードで2機のAC目掛けて飛び込む。それを視認したサバスが<スカルスカーレット>のECMメーカーを射出。2機は再び散開する。

 オーバードブーストで一気に距離を詰めた白いACは2機の間に入り込むとオーバードブーストを切り、通常ブースターの噴射に切り替えて上昇を始める。ECMは横方向への効果は高いが、縦方向へはやや劣る。ロックオン警告表示が<スカルスカーレット>のモニター上に表示された。

 <スカルスカーレット>が両腕のライフルを放つが、白いACはブースターを駆使して左右に機体を揺らして回避すると右腕のレーザーライフルを構える。構えた先には<キャットフィッシュ>の姿があった。

 レーザーが2発放たれる。<キャットフィッシュ>は機体を後退してレーザーを回避。目の前にレーザーが落ちる。だが、高出力のレーザーによって上がった衝撃波は<キャットフィッシュ>の動きを止めるのに十分な効果があった。衝撃波によって舞い上がった砂塵が一瞬、機体の視界を遮った。

 <キャットフィッシュ>はそこから抜けるために上昇。バズーカの射程範囲に空中にいた白いACを捉えて、バズーカを放つが、白いACは再びオーバードブーストを起動して回避。バズーカ弾は白いACの右肩を掠めただけだった。

 <キャットフィッシュ>のほぼ真横についた白いACはレーザーブレードを発振して左腕を振り払う。斬撃を避けるために下降しようとした<キャットフィッシュ>の右腕を肩ごと切り落とした。さらに白いACはレーザーライフルを発射。至近距離から放たれたレーザーは<キャットフィッシュ>の頭部を吹き飛ばす。

 

 『くそっ……やりやがる!』

 

 ブースターを駆使しての回避運動でコクピットへの直撃こそは避けられたがレーザーブレードの斬撃とレーザーによる攻撃で頭部と右腕を破壊され、更に攻撃を受けた際にバランスを失った状態での着地で両足の関節が損傷した。これ以上の戦闘継続は不可能に近い。

 警告音の鳴り響くコクピットの中で悔しさのあまり、パーシガー888はコンソールに拳を叩き付けた。

 

 『パ……ガー無……か?……答しろ……』

 

 通信装置もいかれたのかノイズ交じりのサバスの声がヘルメットから聞こえてくる。

 

 『派手にやられたぜ……やってくれやがったな。この野郎……』

 

 パーシガー888はモニターをじっと見据える。コアの予備カメラから映されるのは色彩が落ちた世界と1機のAC。そのACがレーザーブレードを構えて接近してくる。

 それでもまだ負けを認めたわけではない。傷ついた機体を何とか動かし、残された左腕のバズーカを放つ。だが白いACは難なくそれを回避。<キャットフィッシュ>に肉薄するとコクピットにレーザーの光刃を突き刺した。

 

 「パーシガー……」

 

 相方が乗る機体が炎を上げ爆発する。もう生きてはいないだろう。モニターにロックオン警告表示が出る。どうやら相手は逃がすつもりは無いらしい。

 

 「敵討ちというのは柄ではないが、ここまでやられてしまっては退くという選択肢は選べんな」

 

 サバスはペダルを踏み込み、ブースターの出力を全開に上げた。急加速した<スカルスカーレット>が白いACに接近する。――ランカーレイヴンとしての矜持が自分にここまでさせるのかとサバスは内心笑う。

 正面から飛んでくるレーザーを躱してライフルの射程内に白いACを捉えると同時にトリガーを引く。しかし、白いACは機体を俊敏に横へと滑らせて攻撃を回避する。ライフルとしては相当な重量のある<WH04HL-KRSW>を持ちながら鋭い機動をする白いACにサバスは驚いた。

 

 「ただのハイエナではなかったか」

 

 レーダーを見やると北西方面にいた味方機の退避はやっと終わったようである。安堵の息が出そうになるがその余裕を与えないかのようにレーザーが飛んでくる。それを躱して白いACの懐に飛び込んだ。白いACが持つ<WH04HL-KRSW>は大きい分、接近戦での取り回しは難しい。敵との距離を詰めてライフルとハンドガンで挑むのが今は正しいと判断した。

 接近して白いACの右側面に回り込みながらライフルとハンドガンを構える。迂闊に飛び込めばレーザーブレードが来るが、敵機右側であればその危険性は少ない。両腕の火器を発射する。

 白いACはそれを躱し、機体を加速させて<スカルスカーレット>に近づく。<スカルスカーレット>もレーザーブレードを安易に使わせないように白いACの右側面へ機体を動かす。真横の位置に付き、もう一度構えた。

 

 その時、白いACがサバスの予想を超えた行動に移る。

 右腕のレーザーライフルを横に振りかぶり、<スカルスカーレット>のコア目掛けてその銃身で殴りつけた。直撃を受けた<スカルスカーレット>の機体はコア右脇の装甲を吹き飛ばされながら宙に浮く。それだけ衝撃が大きく、威力も大きかった。そして、レーザーライフルも銃身がくの字に折れ曲がっていた。

 白いACは最早ライフルとして使い物にならなくなったレーザーライフルを投棄すると、コアのハンガーからハンドガン<CR-WH01HP>を取り出して構える。

 コアが損傷したことを伝えるコンピュータボイスとともに部位損傷アイコンのコア部分が黄色に染まる。同時に機体温度の上昇。コア装甲だけではなくラジエータにも損傷が出ている模様だ。

 サバスは舌打ちした。形勢が一気に悪い方へ傾いている。修正する方法を早く考えなくてはならない。

 兵装をミサイルランチャーに切り替えて1発発射する。命中させる為ではなく、一度距離を離して仕切り直しといく為の牽制目的だ。

 レーザーライフルを投棄して身軽になった白いACは向かってきたミサイルの上を軽々と飛び越えて来る。ロックオン警告表示が再び表示された。確実に命中する距離。サバスは機体を後退させると同時のタイミングでハンドガンの弾が数発放たれたのが見える。

 咄嗟にコントロールスティックを横へ倒し、サイドステップで機体を右に飛ばして攻撃を躱す。何とか回避できたかと思った直後、後方確認用モニターが真っ赤に染まる。その直後、激しい振動と衝撃がコックピットを襲ってきた。放たれた弾丸は<スカルスカーレット>の後ろにあった燃料タンクを破壊していた。爆発炎上したことにより、基地内の温度が再び上昇し始める。

 爆発の衝撃で背部レーダーが破損。頭部も損傷して、レーダーにはノイズが走っている。左腕に持っていたハンドガンは吹き飛ばされたのか、武器選択パネルに表示されていない。周りは先程の爆発で唯一無傷だった施設にも延焼して炎に包まれている。

 機体はオーバーヒートを起こしていた。損傷したラジエータが出来る限りの排熱を行っているみたいだが、殆ど無意味に近い。エネルギーゲージが低下して動きがままならない。

 

 「ここまでやってくれるとは……」

 

 サバスは思わず苦笑いした。戦況を一気に変えてしまう強敵とこんな形で対峙するとは夢にも思わなかった。自分の技量を遥かに上回る実力でねじ伏せられる。アークにいた頃にはまったく無かった事だ。相方の仇は討てず仕舞い。悔いが残る終わり方だ。それでも一死は報いたい。

 

 「……最期まで抗わらせてもらうぞ」

 

 <スカルスカーレット>は残っている右腕のライフルを構えた。全身の神経が研ぎ澄まし、敵を待つ。死期が迫っている為なのか、強敵と対峙している為か、恐ろしいほどに自分が落ち着いているのが分かる。

 数秒の沈黙の後、突然正面の炎の壁が歪み、その先から白いACが飛び出してくる。炎に照らされてその白い姿は鮮血の如く、紅く染まっていた。

 白いACが飛び出してくると同時にライフルを放つが、白いACは僅かに左に傾かせてその弾丸を躱すと、そのまま機体を右回転させながら左腕を振り払った。

 <WL-MOONLIGHT>の先端から伸びる青白い光刃は綺麗な曲線を描きながら<スカルスカーレット>のコクピットを薙ぎ払う。

 

 「これまでか……」

 

 サバスはそう呟くと同時に光に包まれた。

 

 

    *     *     *

 

 「元ランカー2人までもやられちまったよ……信じられねぇ……」

 

 クリフはモニターに釘付けになっていた。たった数分であっという間に戦況を変えてしまった白いAC。それを数キロ離れたところから見ている。その事実だけでクリフは興奮していた。

 映像で見た以上の動き。こんな幸運が舞い込んでくるとはという喜びと共に誰が乗っているのかという好奇心が抑えきれない。

 

 「まあ、機体はバッチリ撮らせてもらったんだ。正体についてはこれからじっくりと調べさせてもらうからな」

 

 そう言ってクリフは機体を動かす。だが、サブモニターに映る映像を見てクリフの背筋が一気に凍り付いた。喜びに近い興奮から一変して恐怖に変わる。

 白いACの頭部がポッドのカメラの方を向いていた。ズームされた白いACの頭部<H11-QUEEN>のカメラアイが青く輝いているのが見える。

 

 「くそっ見つかっちまったか……」

 

 クリフはすぐさまポッドの自爆コマンドを起動。ポッドはそれを受けて自爆。サブモニターがブラックアウトした。基地の付近を低空で飛ばしていたのが迂闊過ぎた。

 だが、既に手遅れであった。頭頂部のカメラが白いACがクリフのMTに近づいてきているのを捉えている。当然、ACはこちらを攻撃してくることだろうが、この機体には反撃する手段となる武器は備えていない。そうでなくても元々この機種は単機でACに太刀打ちできるような機体ではない。

 

 「覗き見に夢中になり過ぎたな。俺らしくない……」

 

 コンソールのパネルを素早く操作して中のメモリースティックを取り出し、急いでコクピットハッチを開けて外に飛び出すと、クリフは全力で走り出した。

 200メートル程走り、丘を駆け降りて手頃な木の陰に身を潜める。その直後、MTが破壊されたのだろう。爆発音と衝撃が響いてきた。

 クリフは丘の上で燃え上がる炎を見つめた。先程まで乗っていたMTはもう跡形も無くなっていた。思わず溜め息が漏れる。大枚をはたいて手に入れたMTが一瞬のうちに吹き飛んでしまったのだから。通常ではないルートを利用してやっと入手できたものだったのでショックも大きい。

 

 「あぁ……やっちまったな……」

 

 思わず涙が出そうになるが、周りの木々が騒ぎ出すのに気付く。

 

 「おお!?」

 

 クリフは空を見上げると、白いACが飛んでくるのがハッキリと見える。急いで近くの木陰にもう一度隠れてその様子をクリフは眺めた。

 約30メートルの高さからブースターを吹かし、白いACはクリフのMTの残骸を見下ろしていた。その姿にクリフは目を見張った。

 そして、あのエンブレムも確認できた。「大剣を振りかざす十字架を背負った天使」

 

 ――十字架の天使。

 

 覗き見している事がばれていないのを祈りつつ、懐に収めていたカメラを取り出すとその姿を収めた。

 その後、白いACは反転するとオーバードブーストを起動して元来た方角に向けて飛び去った。機体の姿はあっという間に小さくなって見えなくなる。颯爽と飛ぶ純白の機体はまさに天使の様だなとクリフは思った。

 

 「いっちまったか……」

 

 クリフは改めて自分が助かったことを実感して安堵の息が出る。そしてポケットから1本のメモリースティックを取り出した。メモリーの中には先程の戦闘の様子が全部納められているはずだ。早く見たいという気持ちはあるが、先ずは生きて帰ることが最優先だ。

 

「帰る為の足を見つけないとな。あそこから車かバイクでも拝借するか」

 

 クリフはまだ炎が上がる基地の方へ足を向けた。

 

 

 2時間半程掛けて森の中を歩いたクリフはアルバタ基地にようやく辿り着く。既に部隊の撤収が終わったのだろう、人影は見当たらない。

 一部は小康状態になっているが、基地内は至る所でまだ火の手が上がっていた。それにあまり嗅ぎたくない匂いもしてくる。長居は出来ない。クリフは乗り物が残っている可能性が一番ある格納庫を目指して走った。

 見渡す限り、基地内の施設は最早使い物にならない位に損傷している。基地機能の復旧よりも一旦全部壊して建て直した方が早そうな気がした。

 依頼主の組織がここを襲撃する理由はもう無いだろう。使い物にならない基地なんかを攻撃しても最早意味が無い。そして何より、この基地を別の組織が先に攻撃してしまったのだから尚更だ。

 運にも恵まれていない連中だなとクリフは思った。このままでは他の武装組織も相手にしてくれないだろうから早いところ解散して別の道に進んだ方が良い。彼らに出す報告書内にもやんわりとそう忠告をしておいた方が彼らの為になるのかもしれない。

 

 程なくしてMTやACの残骸が幾つも転がっている場所に辿り着いた。先刻の戦闘で一番激しかったアルバタ基地の中心部だった場所。ここを通り過ぎれば格納庫はあるだろう。クリフは映像で見た記憶からそう確信した。

 ふと、残骸の一部が視界に入り、立ち止まる。赤く塗装されたACの腕の一部と茶色の塗装をされたACの片足。<スカルスカーレット>と<キャットフィッシュ>のものだ。ランカーACの成れの果てがそこにあった。

 サバスもパーシガー888も決して弱くない。その2人がコンビを組んで戦っても倒せなかった白いACこと<十字架の天使>。それに搭乗しているのは一体何者か。

 

 「あれ程の実力。アイツを思い出す。”ジノーヴィー”……まさかな」

 

 ふと、クリフの脳裏にかつてのアークのランキングトップに君臨していたレイヴンの名前が浮かび上がった。<十字架の天使>のパイロットはあのジノーヴィーではないかと一瞬考えた。

 

 「でもアイツは確かベイロードシティでの戦闘で戦死したはず……だとしたら”女帝”か? いやアイツも……」

 

 そう呟きながらもこれ以上深く考える事はやめることにした。それよりも乗り物だ。クリフは視線を巡らせて格納庫を探すが、もうひとつの残骸に視線が止まる。

 

 <WH04HL-KRSW>だった。それをこの戦場で使っていたACは1機だけ。<十字架の天使>だ。無造作に転がっているそれは銃身が横へくの字に大きく折れ曲がってしまっていて、使うことはもう出来ないと一目で判る。

 クリフはその残骸に近づいた。<十字架の天使>が使っていた<WH04HL-KRSW>の製造番号を見るためだ。

 AC用のパーツは全て、各企業の工場で組み立てた際に製造番号が刻印される。そして販売時にどの製造番号のパーツを誰に対して、何時売ったかという情報が企業とレイヴンズアークのデータベースへ登録される。使用していた機体がパーツの不正使用等をしていたり、撃破されたりした際に購入した人物をこれで割り出すことが出来るようにするためだ。

 <WH04HL-KRSW>の場合はグリップの底部に刻印されている筈だったが、クリフは小さく嘆息した。そこにあるべき筈の刻印は無かった。

 パーツの不正改造やそれを使用している者が特定されるのを逃れる為に製造番号の刻印を加工して消すのはよくある事だった。<十字架の天使>が装備している武器も正規のルートから外れた所から入手していたみたいだが、クリフはこのパーツに違和感を覚えた。

 

「コイツは……どこから持ってきた?」

 

 刻印は綺麗に消えている。埋めたにしろ削り取ったにしろ出てくる筈であろう加工した形跡が全く見当たらない。むしろ、初めから刻印がされていなかったという感じだった。

 もしそうだとすれば、工場から組み立てて直ぐに持ち出した可能性があるが、今の情勢ではAC用パーツの生産が出来る工場は各企業でかなり限られており、現在はアライアンスとしてパーツの出荷情報も一元管理されている筈。勝手に持ち出すなんてことが可能なのかという当然の疑問が浮かぶ。当然、そんなことが簡単に出来る訳がない。それを実現させるにはパーツを恵んでもらう相当なコネと情報改竄をさせられる実力の両立が求められる。

 もうひとつ可能性があるとすれば独自に製造することが可能な施設を持っているかだ。そもそもそんな施設が存在するのか? もし存在するとしたらそれは何者であるのか? その様な後ろ盾が<十字架の天使>のパイロットにはあるのか?

 確信はまだ持てないが、あれはただのACではない。パイロットも同様だろう。リサーチャーとしての勘がそう叫んでいる。いや、あのACの調査を開始した時にした小さな予感が当たったのだ。

 身が震えた。今度は興奮ではない。不安によるものだった。

 クリフはそれを紛らわそうとジャケットの胸ポケットを探るが煙草が無いことに気付く。溜息を長々と吐き、顔を上げると格納庫を目指して再び走り出した。

 

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