ARMORED CORE LAST RAVEN ~Unsung Overture~   作:唯名瞬

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第47話「Artifact」

 輸送機のカーゴの中で<エクリッシ>と<ブリュンヒルド>は修理を受けていた。

 先程の戦闘で負った損傷は両機体ともにそれ程深刻ではなく、直ぐに終わるという報告は受けていた為、待機スペースでジェランは紙コップに入った味の薄いコーヒーを飲みながら修理の様子を眺めていた。

 

 「隊長」

 

 向かいで同様にコーヒーを飲むシグリッドからであった。

 

 「先の作戦の終盤に乱入してきた機体ですが、あれは……」

 「俺にも分からない」

 

 ジェランはそう答えると、シグリッドは「そうですか」と紙コップをダストボックスに投げ捨てながらの薄いリアクション。

 恐らく、その質問の答えを知りたがっていたわけではないのだろう。とにかく先の戦闘について何か話すきっかけが欲しかったのだとジェランは察していた。

 

 「ただ、言えるのは今の俺たちにとっては敵となりえる存在だ。恐らくは<レッドバタフライ>と同カテゴリーにあたるものだろう」

 「旧世代の遺産ですか。確かに雰囲気は似ていましたね。もう少しコンタクトしたかったのですが、何故……」

 

 厚めの唇を指でなぞりながらシグリッドは眉間に皺を寄せる。バーテックスが現れたタイミングでの撤退命令は少し引っ掛かるところがあった様だ。戦略的に考えれば、これから行う作戦に備えての命令であったとも言えるが、そこはジェランも多少となりとも納得のいかない部分もある。

 

 「上の判断には逆らえないが、何かしらの意図はあった。それは俺も感じている。この作戦が終えたらディーネル大佐にそれとなく聞いてみるとするか。旧世代の遺産との付き合いも特務部隊の任務だからな。なるべくクリアな状態にしておきたい」

 「お願いします。旧世代の遺産絡みの任務に関わる可能性についてはこの部隊に就いた時、最初に聞かされていましたが、やはりデリケートになるものですね」

 「そうだろう。あれらの技術体系にそう易々と触れる事なんて出来ない。──シグリッド、お前は前の紛争時は何処にいた?」

 「主にミラージュ領ですね。あの紛争でナービス領が賑わうほど、裏ではクレストなどとの緊張が高くなる。ほぼ毎日、境界線の上で覗き見の果てに撃ち合いに斬り合い。昼夜問わずに、です」

 「ナービス領での任務は?」

 「ミラージュからキサラギがナービス領内に建てた施設へ対する攻撃の依頼で1回だけ」

 「ナービスとはあまり関わらなかったか」

 「ええ、実は新資源と呼ばれていたものについての知識はタブロイド紙で得た情報くらいしか持っていなかった。隊長はそうでは無さそうですね。──だからこそ、実感しましたよ。旧世代の遺産の脅威というものが。戦い甲斐というものはあるにはあるが、あれは……」

 

 シグリッドの言葉には狼狽が感じられた。実力の高いパイロットだ。強い自信を持って常に戦っている。それ故に今の心理状況では次の作戦に影響を及ぼしかねない。そう感じたジェランはシグリッドにも少しは知っておいた方が良いかもしれないと老婆心が出てくる。

 

 「紛争が少し膠着したころから俺はナービス領で行う任務の依頼も受けるようになった。当然ナービスからの依頼も受けたし、他の企業から新資源絡みの依頼も受けた。それらの任務に共通していたのは依頼主の連中に畏れの感情が透けて見えた事だ」

 

 「畏れ……」とシグリッドは首を少し傾げる。

 

 「制御が出来ないと知っていたのだろう。匙加減ひとつ間違えれば、何が起きるか分からない。だから畏れていた。そしてその感情は今も薄れていない」

 「そんなものと我々は向き合っている事を強く意識しろ、ということですね」

 

 「そうだ」とジェランは頷く。自分が言いたいことを理解してくれたようだ。

 

 「奴らの怖さは戦闘力じゃない。今尚、対処方法が見出せていない事だ。俺もこれが初めての交戦となったが、戦術部隊の交戦記録を読んでおいてよかったと思っている。これから向かう所もそうだ。<レッドバタフライ>や先程の機体とは違う脅威がいつ襲って来るかは分からない。そしてそれがACだけで対応できるかも不明確だ。──身構えておけ。知らなかったという言い訳はこれらの任務では通用しない」

 

 シグリッドは暫く黙り込んだ後、「分かりました」と姿勢を正して答えた。

 待機スペースの内線が鳴る。シグリッドがそれを受けると「分かった」といって直ぐに切る。

 

 「合流ポイントまであと20分で到着とのことです。準備をしろと」

 「そうか。では、支度をするとしよう」

 

 そう言ってジェランは残りのコーヒーを飲み干して体を伸ばす。

 

 「機体の修理は……」

 「合流ポイントに到着したといっても出撃までまだ時間はある。それまでには終わるだろう」

 

 やはり味覚が薄くなるのは寂しいものだ。温い水を飲んでいる様なものだったとジェランは空になった紙コップを丸めてダストボックスへ投げ捨てた。

 

 

 修理を終えた<エクリッシ>のコクピットにジェランは静かに佇んでいた。モニターにはシェルター式の都市で使われているものと同型のゲートが映っている。

 ナービス領の最奥。「ポイント-R」というシンプルなコードネームを付けられた地点が今回のミッションポイントだ。

 外観は旧ナービス領のベイロードシティに似ているが、その内部は全く分からない。ブリーフィングでも敵戦力の情報は一切出ていなかった。全くいない可能性もあるが、その逆もあり得る。

 

 『各隊、位置に付きました。予定通り作戦を開始します』

 

 オペレーターから通信が入る。メインシステムが戦闘モードに切り替わった。ミッションスタート。

 

 『これよりゲートロックの解除を行います。およそ25秒で完了予定』

 

 オペレーターの言葉通りにきっちり25秒後にロックが解除されてゲートが開く。

 

 「よし、これより中央ブロックへ向かう。事前情報は無いが、敵戦力は随時出てくるものと思え」

 

 <エクリッシ>の後ろに付いていたMTのパイロットからの返答を聞いて、ジェランは機体を前に進める。

 

 「久々の実戦だ。抜かるなよ、アルマンディン」

 

 ジェランは自機の左真横についてきた暗赤色のホバータンク型ACにも呼び掛ける。

 

 『はい、隊長。もう身体は回復していますので問題ありません』

 

 若い男の声。先日、バーテックスとの戦闘で負傷離脱していたアルマンディン。そして乗機の<ズレリヤヌアル>。

 この機体もフレーム構成パーツの一部に新型を取り入れたらしく、以前ジェランが見たものと少し違う。頭部をミラージュ製の試作パーツ<YH19-PILLBUG>に、脚部をクレスト製の試作パーツ<CR-YLHT08>となっていた。

 ゲートを通過すると、そこは街の様な造りをした場所。そして直ぐに目に付いたのは中心部に聳え立つタワー型の建造物。それらが何の役割をするのかは分からない。

 

 『複数の熱源反応を感知。敵戦力と思われます。注意を』

 

 レーダーディスプレイ上に複数の輝点が記される。数は10。<エクリッシ>は一歩前に出て迎撃態勢をとる。

 建物の陰から飛び出してきたのはACとよく似たシルエットを持った機体が3機。大きさも同サイズ。

 

 「<カイノス/E02>……旧式の機体」

 

 頭部コンピュータが照合したのはかつて地上回帰の頃に製造された高級MT。当然、実物は初めて見る。

 3機の<カイノス/E02>がブースト機動を駆使して右腕のレーザーライフルを放ってきた。

 

 「侮れないな」

 

 ジェランはフットペダルを踏み込んで被弾を最小限に抑えると、トリガーを引く。<エクリッシ>の右腕に装備されたバズーカ<CR-WH05BP>が発射される。バズーカ弾は1機の<カイノス/E02>の胴体を捉え、大きく揺らぐ、そこへ左腕のグレネードライフル<CR-WL95G>を発射。敵機が吹き飛び、爆散。

 残りの機体も後ろから来た<ズレリヤヌアル>と6機の<CR-MT85BP>によってすぐさま沈黙させられる。

 

 『こんな旧式が……』

 「だが、稼働できる状態だ」

 

 <カイノス/E02>の残骸を見下ろし、ジェランは呟く。この機体は50年以上前に製造は終了して、現行で動く機体は既に残されていない筈。それにもかかわらず、これらの機体はしっかりと整備が施された状態であろう動きを見せて<エクリッシ>に襲い掛かってきた。それが出来る設備もこの中にあるのだろうか。

 

 「これが俺たちの相手らしい」

 

 正面からまた敵機が迫って来る。反応も増えた。今度は<カイノス/E02>だけではない。<ギボンMS-HA>に<フォイヤーベルク>もいるという。いずれも旧式のMT。

 

 「ここは博物館なのか?」

 

 口元を歪めてジェランはフットペダルを強く踏み込んだ。それに続き、<ズレリヤヌアル>と6機のMTも続く。

 

 

 敵戦力との交戦を経て、ジェランの隊は中央ブロックに辿り着いた。

 <エクリッシ>と<ズレリヤヌアル>の損傷はそれ程大きくはない。ただ、2機のMTが作戦続行不能な損傷を負ったため、既に撤退していた。

 中央ブロックへ向かう道中、ジェランたちが交戦したのはいずれも旧式のMTばかりで現行機は全くいなかった。どうやらこの施設を管理している者は相当な懐古趣味を持っているらしい。

 中央ブロックに聳え立つタワーの足元にはゲート。ジェランの隊より先に到着した特務部隊所属レイヴン、ヴィルヘルムの隊がこれを発見。先行して中に入っていった。

 

 『各隊の任務を更新します。ジェラン隊はこれよりゲート内に侵入、ヴィルヘルム隊の援護をお願いします。シグリッド隊及びコーカサス隊は順次、ゲート周辺の警戒を行ってください』

 「了解だ」

 

 <エクリッシ>をゲートに近づけると、ゲートが開かれる。地下へと下る通路が姿を見せた。

 

 「各機、先行したヴィルヘルム隊が対処しているとはいえ、周囲には警戒して進め」

 

 <エクリッシ>を先頭にジェランの隊は地下へと機体を進めさせた。

 通路は思っていたよりも幅が広く、照明が明るい。通路の所々には自動砲台や旧式MTの残骸。

 

 「ヴィルヘルム、こちらジェラン。状況は?」

 『現在、隊長の隊より2,800メートル先行。その先にリフトあり。現在降下中』

 「こちらもすぐに行く」

 『了解。現在の深度は地下350メー……これ……さき……──』

 

 ヴィルヘルムの声がノイズで掻き消される。通信が不安定になり、ジェランが呼びかけるも応答が無い。そのまま通信が途切れた。

 

 「ゲイル中尉、ヴィルヘルム隊のマップデータをこちらにも共有出来る状態にしてくれ」

 

 ジェランはオペレーターにそう呼び掛けると、直ぐに機体のマップ情報が切り替わる。マップの形状から通路は次第に緩やかな螺旋状となって下っていく様だ。そのまま一本道となっており、迷うことは無い。

 ヴィルヘルム隊に問題が起きない事を祈り、ジェランの隊は速度を上げてリフトの方まで向かう。

 

 

 リフトまで辿り着くと、既にリフトは戻って来ていた。ジェランの隊はそれに乗り、<エクリッシ>が壁面のパネルに触れるとリフトが起動。下層へと降りていく。

 降下する途中、オペレーターが通信を試みているが、ヴィルヘルム隊との通信がまだ回復していない。リフトの降下速度はそれ程速くはなく、それが焦燥感に駆られ、不安が込み上がってくる。

 

 「各機、機体のチェックは済ませてあるな?」

 

 アルマンディンをはじめとする隊員から大丈夫だという旨の返答がくる。それでもジェランは何故か込み上がってくる不安を抑えることが出来なかった。

 

 「嫌な感じだ」

 

 思わずそんな言葉が小さく漏れた。ジェランが戦場でそう感じた時はほぼ決まって好ましくない事態が起こる。

 依頼内容と違う敵戦力が現れた時も、想定以上の増援が現れた時も、味方機が突如銃口を向けて来た時もそれらが起きる直前、言葉には言い表せない感触を覚える。今回もそれに近いものがパイロットスーツ越しに自分を包んでいる。ジェランにはそう感じられた。

 それでもこれまで生きてこられたのはそれを感じた瞬間、身構えておくことを心掛けているからだ。撤退ルートの確認に僚機との距離を置くことなど、その直感に従って最低限の行動を取っておく。それである程度上手くいっていた。

 機体のチェックは終えている。残りの弾薬に機体損傷度、防御スクリーンの損耗率はまだ戦闘継続するには許容範囲内に収まっている。

 降下が完了。目の前に現れたゲートが自動で開かれる。その先も同じ通路。

 

 『……──ちら、ヴィルヘルム。聞こえるか』

 

 ヴィルヘルムからであった。通信が回復した。だがその声は緊迫している。

 

 『現在、正体不明機と交戦中。MTが全滅。後は俺とグラートだけだ。抑えきれん!』

 「待っていろ、すぐに行く。──アルマンディン、先行するぞ。お前たちは後から頼む」

 

 <エクリッシ>と<ズレリヤヌアル>はオーバードブーストを起動。MTと合わせたスピードでは間に合わないだろうという判断であった。

 暫く機体を進めると、閉ざされたゲート。それを壁面のパネルで操作して開けると、天井の高い開けた空間。そしてそこに轟く爆発音。

 当たって欲しくない予感はどうも当たる。「やはりか」とジェランは舌打ちをした。

 モニター正面に逆関節型AC、ヴィルヘルムの乗機<ズーフェンダー>の姿。損傷は酷く、各部装甲が吹き飛び、頭部と右腕が失われた状態であった。そして部屋の至る所にMTの残骸。シグナルは<ズーフェンダー>のみだ。モニターの奥には炎と黒煙を噴き上げて突っ伏すように倒れている中量二脚型ACは隊員であるグラートの機体。

 そしてそのグラート機を見下ろすように立っていたのは頭頂部から伸びるブレード状のアンテナが特徴的な白い機体。シルエットは重量二脚型ACに似ているが、サイズが標準的なACより一回り大きく、分厚い。そして何よりもジェランの目に付いたのは肥大化した左右非対称の両腕で構えられた大型のライフルと思しき武器。

 ロックオン警告。白い機体はグラート機の残骸を踏み砕いて前進すると、左背部からキャノンを展開して発射。巨大な火球、グレネード。<エクリッシ>、サイドステップで咄嗟に回避してブースト機動で射程外に逃れる。

 

 「ヴィルヘルム、動けるか?」

 <ズーフェンダー>の前に機体を立たせてジェランはヴィルヘルムに呼びかけた。

 

 『ジェネレータが損傷して戦闘は難しいが、最低限の動きは出来る』

 「了解だ。下がってくれ。アルマンディン、ヴィルヘルムの後退を援護しろ、俺がアイツの相手をする」

 

 続けて飛来してきたミサイルをデコイで逸らしてジェランはトリガーを引く。右腕のバズーカを発射。だが、白い機体は鈍重そうな見た目に反して機敏な動きを見せて回避。死角に回られるとグレネードを撃たれる。

 

 「グッ……!」

 

 被弾の衝撃で動きが止めてしまった。その瞬間、ミサイルが飛んで来たのが見えた。オーバードブーストで射程外に逃れる。

 

 <エクリッシ>が距離を離した直後にゲート付近まで<ズーフェンダー>と共に下がっていた<ズレリヤヌアル>が右背部のグレネードキャノンを発射。

 命中はしなかったものの、白い機体が一瞬だけどちらを狙うかを迷う動きを見せる。ジェランはその隙を逃さない。ブースターを全開にしてバズーカの射程距離に収めて発射。バズーカ弾が白い機体の胴体付近に命中。だが、命中時に響いた甲高い音は敵機に大きなダメージを与えたという手応えは感じられなかった。防御スクリーンが展開されている。そしてそれは恐らく一般的なACとは出力も違う。生半可な攻撃では効果が無いだろう。

 遅れてMTが到着。ジェランは彼らを戦闘に加えさせず、<ズーフェンダー>を引っ張って後退しろという命令を出した。白い機体とこちらのMTでは戦闘力の差が大きく開き過ぎて勝ち目が低いという判断であった。

 ヴィルヘルムが後退したことでカバーの必要が無くなったアルマンディンも<ズレリヤヌアル>を白い機体へと向けると、両腕のレーザーライフルを発射。白い機体が防御スクリーンで弾かせながら急後退。

 壁の付近まで後退した白い機体は姿勢を落とすと、両腕で構えているライフルを発射。青白い光芒が何発も放たれる。

 プラズマであった。初速の速さに対応が遅れた<ズレリヤヌアル>は連続して被弾。左腕が吹き飛ばされ、コア装甲にも損傷。

 だが、紙一重で跳躍してプラズマを躱した<エクリッシ>はオーバードブーストを起動。狙うは側面。途中、ミサイルが直撃するも、重装甲を活かしてそれに耐えるという選択をした。

 

 「見切れた……!」

 

 プラズマが放たれる寸前、銃口の動きがジェランには見えた。強化された視覚によってそれが可能になっている。集中すれば、もっと細かく見られるというイメージが湧く。

 白い機体の背後へと回り込み、<エクリッシ>はバズーカを構えると同時に白い機体は反転。左腕のレーザーブレードを発振させると、独特の音と共に展開された青い光刃がバズーカの砲身を切り裂いた。

 <エクリッシ>は咄嗟にバズーカを手放すとバックステップ。左腕のグレネードライフルを発射。白い機体の胴体を捉えた。火球が大きく咲くが、まだ効果的なダメージを与えられたとは言えない。

 次はどう出る? とジェランは白い機体の挙動を見ながらコントロールスティックを撫でる様に動かす。機体各部の関節の僅かな動きすらも見逃さない。それが今は出来る。

 白い機体が後退する素振りが見えた。そしてキャノンが動く。グレネードライフルはまだ装填で撃てない。ジェランはフットペダルを踏み込み、ブースターを全開にして右の肩口からタックルを敢行。金属と防御スクリーンが激突する音が激しく響き渡る。

 質量の差では白い機体の方に分があるが、押し合いをする気はジェランには無かった。機体を揺らがせればいい。狙い通り、白い機体が傾ぐ。

 バックステップしながら左背部のレーザーキャノン<YWB35L-GERYON3>を展開して連続発射。防御スクリーンが展開されているとはいえ、高出力レーザーを連続で受ければ流石に重装甲でも損傷が出る。細かい装甲片が飛び散るのが見え、ジェランは手応えをようやく感じることが出来た。

 『援護します』とアルマンディンが<ズレリヤヌアル>のオーバードブーストを起動させながらレーザーライフルを放って白い機体の動きを引き付ける。

 レーザーキャノンは残り2発。しっかりと仕留める必要がある。ジェランはメイン武装を3連想ミサイル<CR-WB75MT>に切り替えて発射。3発同時に放たれたミサイルが白い機体の胴体に命中。体勢が崩れる。

 だが、白い機体はブースターを全開にして体勢を無理矢理修正させると、プラズマライフルを振り回して連射。至近距離でのプラズマは避け切れない。防御スクリーンを突き破って<エクリッシ>の装甲が吹き飛ぶ。

 

 「ッ……!」

 

 損傷のアラート音が鳴り響き、アラートランプがコクピットを赤く照らす。かなり強引な攻撃をしてきた。この動きにかつて似た様な攻撃を受けた気がする。それが何であるか今は思い出せない。

 

 『隊長、右へステップしてください』

 

 シグリッドの声。ジェランは言われるままにコントロールスティックを傾けた直後、白い機体の頭部に青いレーザーが貫いた。<ブリュンヒルド>のEN型スナイパーライフル<YHW30RS-SKOLL>によるもの。

 頭部を失い、動きが止まった白い機体へ<ズレリヤヌアル>はグレネードを、<エクリッシ>はレーザーキャノンを放つ。機体が大きく吹き飛ばされたところへ<ブリュンヒルド>がスナイパーライフルを放ち、それがジェネレータを貫いたのか、大きな火球が白い機体の胴体から咲き、爆散する。

 

 『敵機撃破確認しました。作戦は完了です』

 

 オペレーターからの通信。部屋の奥にもゲートがあるが、どうやらここまでの様だ。

 

 「了解だ、ゲイル中尉。これより帰還する」

 

 システムが通常モードに切り替わった。これで任務は完了。

 白い機体の残骸。<エクリッシ>の頭部コンピュータが今頃になって識別が完了したことを告げて来た。

 

 <I-C003-IN>

 

 それがあの機体の名前らしい。ただ、あの機体も先刻交戦した<レッドバタフライ>や褐色の機体と同様の機体であるという感触はジェランにはあった。それについても後々分かる筈だ。

 

 「アルマンディン、無事だな」

 『ええ、機体はかなりやられましたが、身体の方は問題ありません』

 

 アルマンディンの状態を聞いてジェランは一安心した。ふと、先刻の戦闘で機体を大きく損傷させたミニオーグの事が思い浮かぶ。大きな負傷をしていなければいいがと少し心配になった。彼も貴重な戦力だ。ここでの離脱は特務部隊にとって痛手となる。

 

 「シグリッド、助かった。感謝するぞ」

 

 シグリッドに対して素直な気持ちの言葉が出る。あの攻撃が無かったら、こちらが致命傷を負っていた可能性があった。

 

 『私の方にも援護の命令が入ったので来たまでです』

 

 淡々と答えるシグリッド。「──ですが」と続いて言葉を出した。

 

 『隊長の言う通り、これらの兵器に対してしっかりと向き合う。それが出来るか確認したかった』

 「どうだったか?」

 『どこまで冷静に対処できるか。それ次第だと思います。旧世代の兵器だからと言って過剰に恐れればその瞬間に喰われる。それがはっきりと分かりました』

 

 短いコンタクトではあった筈だが、シグリッドなりに実感は出来たという事だろう。ジェランは「それで良い」と返す。

 ジェランたちが地上へ戻り、外に出ると1機の輸送機が着陸していた。後部ハッチから出て来たのは薄い青と灰色のカラーリングの逆関節型AC。その後ろに2機の<RUSYANA>。

 

 「<ブレインウォッシュ>か」

 

 トップランカーの機体がここに来たのかとジェランは少し驚く。どうやら最奥への侵入は彼らがやるらしい。

 

 『彼の為の露払いなのですか。この任務は』

 

 シグリッドの不愉快そうな声が聞こえてくる。あれだけ苦労して進んだ内部へ今度は何も苦労せずに雇われであろうレイヴンが入っていくのは気に食わないのだろう。

 

 「そう言うな。俺たちは当初の予定通りに任務を遂行した。帰還するぞ」

 

 トップランカーであるDr.?であれば何が来ても対処は出来る筈だろう。後の事は報告で聞けばいい。既に待機をしていた迎えの輸送機へとジェランは機体を動かした。

 

 

    *     *     *

 

 デブリーフィングを終えて自室へと戻るミニオーグの足取りは重かった。

 途中、医務室に向かったが怪我は特にない。それでも足が重いのは肉体的なモノではない。

 自分自身へ対する惨めな思い。帰還時に機体から降りた時に整備士たちから。そしてデブリーフィング時の担当士官からの視線が冷たく突き刺してきている様に感じた。

 力量不足だというのか。本来参加する筈だった作戦から外されて向かった別任務。そこで実力を見せてやろうと息巻いていたが、結果は僚機が全滅。結局はジェランたちに救われるような形で撤退。それが腹立たしくて許せなかった。

 そして何よりも許せなかったのはヴィラスというレイヴンに何もかも越されていたという事であった。あのレイヴンは自分が撤退した後もジェランたちと残って戦闘を継続していた。

 力の差を見せつけられたという認めたくない現実。自分も新型に換えてから何度もシミュレータで機体の感触を掴んでは実戦に赴いていた。結果に繋がっていないのは分かっているが、あのレイヴンと比べて自分には何が足りないというのか。

 自室に戻ると、端末に通信が入っている。今は眠りたいという気持ちが強かったが、ミニオーグは机に向かい、通信を繋げた。

 

 『御苦労だった。ミニオーグ』

 

 聞き慣れない声。そして無機質さを感じさせる声。ミニオーグは一瞬、機械音声かと思ったが、画面に表示された自分もよく知るパーソナルエンブレムはそうではないと告げていた。

 

 「Dr.?……」

 『初めまして、だったか。君の事はある程度知っている。理由は私がアライアンスと協力体制を取ると契約しているからだ。特務部隊もその中に含まれていてね、所属ACパイロットの情報もある程度閲覧する権限が与えられている』

 「俺に何の用で……?」

 

 率直に聞いてみる。いきなり来たトップランカーからの通信。何かあるとミニオーグは訝しんだ。

 

 『力を貸そうと思っている』

 

 率直な質問に率直な答えが返ってきた。

 力。とてもシンプルだ。

 

 『先程の旧ナービス社研究施設での戦闘記録は見させてもらった。正直、君の実力はこの部隊に必要なレベルに到底足りていない』

 

 その言葉にミニオーグの拳が固くなる。まさかトップランカーから直々に「お前は弱い」と言われるとは思わなかった。否定が出来ないのも事実であり、言い返そうにもトップランカー相手にそれが出来る丹力は今の状況では無かった。

 そんな弱い自分に力を貸す。憐れんでいるのか。惨めさが更に大きくなる。

 

 『だが、ディーネル大佐は君を必要な戦力だと見做している。協力体制を取っている私としてはそれに応えたいと思い、君に声を掛けた』

 「何をしろ……というんだ」

 『君次第だ。選択肢を与える。窓の外を見て欲しい』

 

 その言葉に従い、ミニオーグは窓のブラインドを上げると、そこには部隊章などが一切示されていない輸送機が1機、滑走路で待機しているのが見えた。ここに戻ってきた時には無かったのは知っている。

 

 『──見たかな?』

 「あの輸送機は?」

 『もし力を手にしたいというのなら、君の機体と共にあれに乗れ。準備をして待っている』

 

 この基地から離れて行動しろという事か。急な展開にミニオーグは戸惑う。

 

 『このまま意思表示が無い。もしくは拒否をするのであれば、この機は5分後に発つ。ひとつ言っておくとすれば、これから手にする力、使いこなせばあのレイヴン位なら超えられる。それは保証しよう』

 

 ヴィラスの事だろう。ジェランを退けた実績を持つレイヴン。その実力は目の前で見させてもらった。

 ミニオーグは画面をじっと見つめ続ける。画面には相変わらずDr.?のエンブレムが表示され続けている。「電子空間に浮かぶホログラム状の手」。これを手に取れと招いている様にも見えた。

 

 「……準備をする。待っていろ」

 『よろしい』

 

 力というものがどういった代物かは分からない。ただ、あんな惨めな思いが続くのであれば手に取ってみるのは悪くない。

 使えるものは何でも利用してやる。いつか自分本来の力が発揮できる筈だ。それを確信へと変える為にミニオーグは部屋から足早に格納庫へと向かった。

 

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