ARMORED CORE LAST RAVEN ~Unsung Overture~   作:唯名瞬

52 / 62
第49話「Headache」

 頭痛は治まってきたが、身体のだるさや熱っぽさはまだ続いていた。

 特攻兵器の飛来によって足止めされたが、1日半掛けてクリフはようやく目的地であるジャサントシティへ到着した。

 アライアンス兵の言う通り、この街にも特攻兵器による傷痕が新たに刻まれていた。

 クリフは商業地区の一角に車を停めて降りる。ここにも特攻兵器が落ちてきたらしく、破壊された商業施設から微かに黒煙が昇っていた。

 チャイナタウンと呼ばれた区画。

 大破壊前にかつて存在した巨大国家の文化が色濃く残る場所。何百年も続いたレイヤード時代を経て、地上回帰してもそれは各都市に大小問わず存在していた。

 キサラギ領の街にも創業者のルーツである島国の文化を発祥としたものがどこかしらで必ず目にする。

 純粋な血筋を持つ者は既にいないだろう。それでもそれらの文化を脈々と受け継いでいった彼らのバイタリティ。それはある意味人間の可能性の縮図とも言えるのではないかとクリフはこの様な場所に来る度にぼんやりと思う。

 特攻兵器襲来以前、ここは路上のあちこちでチャイナタウンの住人が使うカントン語と呼ばれる独自の言葉が飛び交い、軒を連ねた屋台からは多種多様な料理の香ばしい匂いが混じった躍然たる空気が漂う場所であった。だが、それも今は深閑とした街の残骸が並ぶだけとなっていた。

 中心部から少し離れた細い路地へと入っていくと、その奥に10階建ての集合住宅が4棟並んでいた。その内の1棟にクリフは迷うことなく入る。

 照明が弱々しくまばらに点いたロビーには人影はない。エレベーターを使いたがったが、故障中の張り紙が張られており使えないようであった。クリフは溜息をひとつ吐いて階段を上ることにした。上階にはまだ住人がいるらしく話し声が微かに聞こえてくる。

 最上階に到着。このフロアの端の部屋が目的地であるエドの拠点。バッグの中に拳銃とナイフはしまっておく。

 

 『武器は絶対に出さない』

 『現金、コーム問わず前払い』

 『ノークレームノーリターン』

 

 部屋の主であるエド・ワイズが定めているここで行う商売のルールであった。

 インターホンが鳴らないので、ドアをノックしてみるも反応は無い。今度はエドの名を呼んで強めにドアを叩いてみるが、それでも反応は無い。

 どうやらいないらしい。

 「残念……」とクリフは踵を返す。

 

 「あんた、ここに何用だい」

 

 真横から女性の大声が飛び込んできた。結構な声のボリュームであった為、クリフの背筋が一瞬伸びる。

 声がした方へ振り向くとそこにはふくよかな体型をした中年の女性。その後ろには女性とは対照的な体型をした小柄な中年男性。恐らくここの住人だろう。2人とも警戒したような表情であった。女性にいたっては右手に鉄製のフライパンが握られている。

 

 「怪しいモンじゃねぇ。この部屋に住んでいる知り合いに用があって来たんだが、返事が無い。どうやら留守みたいなんだ。何処に行ったか知らねぇかな?」

 

 両手を広げて敵意が無い事をアピールしながらクリフは尋ねてみた。2人は一度顔を見合わせると男の方が「ひょろ長の男の事かぁ?」と口を開いたので「そうだ」と答えた。エド・ワイズの特徴のひとつ、長身痩躯。

 

 「何処に行ったかなんて知らんがぁ、瓦礫の片付けに顔さ出してねぇからぁ、多分昨日から戻って来てねぇ筈だぁ。一昨日、その部屋の辺りで物を動かす様なデカい音がしたよぅ。……確か夜の8時くらいじゃなかったかぁ……なぁ? 飯食ってた時によぅ、ドタドタうるせぇなぁっておめぇ言っていたろぉ」

 

 「そうだったかねぇ……」と男の問いかけに女が首を傾げながら答える。

 

 「その後、アライアンスの兵隊が武器持ってウロチョロしていてこの辺もちょっと騒々しかったから忘れちまったよ。──なんでも、この街の周辺でACを載せた輸送車がうろついていたって話でさ。そんでもって昨日の朝は特攻兵器だよ。この近所にも落ちて来たもんだからおっかなくってありゃしねぇ」

 

 身振り手振りで女がそう話す。フライパンを振り回しながらだったのでクリフは思わず後ろへ退く。

 

 「ACって……戦闘でもあったのかよ」

 「ゲート付近でいつもうろついている俺のダチが銃声っぽいのを聞いたっていうけど、まあ分かんねぇ。とにかく物騒だぁ。昨日今日でここから逃げるヤツもいるっていうし、そいつも逃げたんじゃねぇかぁ」

 

 頭を掻きながら男が答えた。少し出っ張った前歯が特徴的な顔つき。よく見ればなかなか愛嬌があるなとクリフはふと思った。

 

 「そうかい、じゃあ出直すとするよ。謝謝」

 

 クリフは礼を言うと、2人は同じ部屋へと戻っていく。どうやら夫婦らしい。

 ただ、今はエドがいない事、そして行方も分からない事が分かった。今のままでは情報不足で何も掴むことが出来ない。胸ポケットから煙草を取り出して火を灯す。

 

 「何処へ行ったのやら……」

 

 ACを載せた輸送車の話は初耳だ。その前に起こしたと思われるエドの行動と何か関係があるのか。そして特攻兵器。

 2人の話を聞いた限り、部屋の中をひっくり返して何かやっていたようだが、それが何であるのか。

 クリフはふと、エドの部屋のドアノブに手を掛けて回して引いてみるとドアが開いた。思わず「おっ」と声が出る。エドは鍵を掛けずに出て行っていた。

 どうすべきか迷ったが、クリフは部屋の中に入ることにする。廊下には紙の資料が散らばっていた。

 何度か入った事はあるので部屋の構成は知っている。廊下を少し進んだ右手の部屋が仕事部屋。入ってみるとそこにも大量に積まれた資料。端末は持って行ってしまったのか、それは無い。

 棚の一角が綺麗に消えているのはそこの資料も持って出て行ったという事だろう。時系列で整理していたのですぐにナービス領の紛争関連であることは分かった。

 とはいえ慌てていたらしく、幾つか落としていった資料もある。

 

 「拾いモンには福がある……だったか。ちょいと漁らせてもらうぜ」

 

 クリフはそれらを拾い集めてみる事にした。アルバに関連する情報があれば嬉しい限りだ。

 掻き集めた資料をキッチンに持ち込むとクリフはテーブルに腰かける。棚に目をやるとコーヒー豆があることに気が付き、それに手を取って湯を沸かす準備を始めた。

 

 「当たりがあれば良いが……」

 

 勝手に拝借したコーヒーカップに口を付けながら資料を1枚ずつじっくりと眺める。中身はチャイナタウンの屋台が如く多種多様。アークから手に入れたと思われる任務報告書。とある新興企業幹部の動向についての調査結果。さらには新型バズーカの市場流通開始による同カテゴリーパーツの販売傾向予測なんていうのもある。

 流石は「何でも屋」エド・ワイズ。様々な情報が種類問わず豊富だ。興味はそそられる。必要とする者がいれば、すぐに飛びつく代物であっただろう。

 だが、本命はアルバの情報。コーヒーを啜りながら資料を読み進めていく。

 2杯目のコーヒーに口を付けた時、1枚の資料に目が留まる。

 キサラギの技術者が纏めた試作AC<RUSYANA>の挙動改善案。性能テストの為に実施する模擬戦に向けて調整するべきデータが細かく書かれている。先に行われた模擬戦では手酷くやられたらしい。

 そしてその模擬戦の相手としてレイヴンを雇ったが、それを受けたのはアルバ。次もアルバにテストの相手をさせたいと書かれていた。

 キサラギの技術者からすれば良い戦闘機動のサンプルにはなった様だ。四脚型にした<ティシュトリヤ>が装備する高火力兵器によって碌な反撃もできずに大破させられたらしく、機動性と主武装の火力に関しては細かい調整が必要だという旨の記述がある。

 アルバに関する情報はこれだけしかない。資料を持っていかれたせいもあるが、空振りである。

 

 「まぁ、しゃあねぇか」

 

 エド・ワイズがいるかも分からなかったが、自分が来る直前まで何かしらのアクションを起こしていたという事はまだ生きている。それが分かっただけでも収穫だとポジティブに捉えておく。

 それでも、もう少し手ごたえが欲しい。ナービス領の紛争直近の資料くらいは残されていないか仕事部屋に戻って見てみる事にした。

 しかし、出るのは溜息だけ。この辺も持っていかれている様だ。何がしたくて資料を抱えて飛び出していったのだろうか。常人とは少し違う視線もエドは持っている様だが、その行動を予測する力はクリフには無かった。

 ふと足元を見てみると、棚の間に挟まっていた資料を見つけてそれを引っ張り出してみる。

 内容は紛争が本格化しだした頃に作成された資料。企業とレイヴンズアーク、そして独立傭兵によるACパイロットの動向予想図。クリフもある程度は知っていたが、この資料は結構細かいところまで記されている。

 あの紛争において勝敗を大きく左右するのはやはり戦場の華と呼べるAC。レイヴンを含めたACパイロットも同様。彼らがどの陣営を重視して動くのか。

 ジノーヴィーに関してはやはりクレストで動く事を前提とした動きではある。トップランカーや腕利きの独立傭兵も企業側からのアプローチが多くあり、いかに有力なACパイロットを手元に置けるかで各勢力の動きが大きく分かれる。

 エヴァンジェに対しては三大企業が専属パイロットとして迎い入れたかったらしく、それぞれ好待遇なオファーを裏で出していたらしい。結局はミラージュに移ったが、その頃は既に大勢が決まりかけていた。

 ナービスが崩壊しても企業間の争いは終わらない。そう予測し、今後の事も備えて各勢力は様々なAC乗りに対して色々と働きかけており、既に専属契約が決まった者もいた。三大企業だけではない。ナービスの様な新興企業にも戦力としてACパイロットを置こうとしている動きが見受けられる。

 資料を読み進めていく。ひとつの記述にクリフの視線が固まった。

 ナービスの専属予定となっているACパイロットの記述がある。パイロット名は”フォルセティ”。

 初めて目にする名前だ。だが、その所属元はレイヴンズアークとなっている。すなわちフォルセティという名のACパイロットはレイヴンだ。

 

 「初めからナービスの駒として動くパイロットって事か……こんなものも用意をしていたのか」

 

 レイヴンズアークはその存在を黙認するどころか協力する素振りも見せている事が示唆されている。目的は恐らく新資源だろうと予想できた。

 新人なのか、独立傭兵でもクリフが知っている限りその名は聞いたことは無い。自分の端末で探ってみるがやはりヒットしない。

 このフォルセティというレイヴンのパーソナルデータが一切ない。搭乗機体も<メディアートル>という名前だけで詳しい構成は記載されていない。

 だが、エンブレムだけはクリフがよく知っているモノであった。

 「大剣を振りかざす十字架を背負った天使」のエンブレム。

 

 「──なんでコイツがこんなところで……!」

 

 <十字架の天使>のエンブレムがここでお目に掛かるとは、と思わずクリフの目が見開く。<メディアートル>が<十字架の天使>本来の名でフォルセティというレイヴンがそのパイロットなのか。

 アークとナービスが裏で手を組んで何しようとしていた。その企みのひとつが<十字架の天使>であった。それだけは分かった。

 他に関連する資料は無いか棚をひっくり返して漁ってみるが、他には見当たらない。

 既に陽は傾き、空がいつの間にか藍色に染まっていた。昼前に入った筈だが、資料探しに没頭し過ぎた様だ。

 これ以上は出てこないだろう。結構のところ全ての棚と部屋中に散らばっていた資料を残らず漁っては見たものの、有力そうな情報は出てこなかった。

 後はエドが戻ってくるのを待つか、ジノーヴィーの端末をもっと深く覗いてみるくらいだろう。早いのは後者だ。

 即決であった。クリフはキッチンに戻ると、すっかり冷めきっていたコーヒーを飲み干して財布から100ドル札を6枚、20ドル札を2枚、10ドル札を3枚、1ドル札2枚に25セント硬貨1枚取り出してテーブルの上にメモと一緒に置いておく。

 

 『情報提供料 670ドル コーヒー代 2ドル25セント支払いする──クリフ・オーランド』

 

 タダで持っていくなんてことはしない。今払える金額でしっかりと払う。同業者から情報を直接的に得る時のリサーチャー同士による暗黙のマナーであった。

 キサラギの報告書とACパイロット動向予想図をバッグに詰め込んでクリフは部屋を出る事にした。次に向かう先はKDの拠点。そこでジノーヴィーの端末をじっくりと解析してもっと情報を掻き集めたい。足早にアパートを出て、自分の車へと向かう。

 新たに出てきた<十字架の天使>に関連しそうな情報。ヴィラスたちに報告できる情報もナービス絡みであれば、もしかしたらその中に含まれているかもしれない。急がなければとクリフの気持ちが逸る。

 車のドアに手を掛けた瞬間、後頭部に金属の感触。僅かに押し込まれたそれは銃口だと察することが出来た。

 抵抗は出来ない。そもそもこの状況から脱することが出来るアクションヒーローの様な体術を身につけている訳でもないし、仮にそんな真似をすれば、その瞬間にどうなるかは簡単に予想できる。だからクリフは大人しく両手を上げて抵抗しないという意思を見せた。

 

 「久しぶりだな。クリフ・”クソったれ”・オーランド」

 

 後ろから聞こえてきたのは殺意を滲ませた男の声。そしてドアウィンドウの反射から見えたその姿は忘れもしない髭面の男の姿。

 今最も会いたくない人物と出くわしてしまった事にクリフは意外と冷静に受け止められた。そんな事よりも少しだけぶり返してきた頭痛の方が気になってしまっていたからだ。

 

 

    *     *     *

 

 先日の戦闘から少しばかり姿形を変えた<ヴェスペロ>。

 それを眺めながらヴィラスは一息ついた。シミュレーションプログラムは何度やっても飽きることは無い。

 出撃が出来ないのはあまりにも暇を持て余してしまうが、何もせずに部屋に居続けるのもそれは違う気がする。どんな時であろうとも何時でも動けるようにしておくというのがヴィラスの考えであった。

 ルシーナの方でもアークと連絡を取って今回ヴィラスたちに取られた処置についての回答を求めているが、まだアークからは回答は来ていなかった。

 アークは何かしらのアクションはしてくるのは間違いないがその動きはまだ見られない。この状況はまだ1日半と経っていないが、不気味さがある。

 任務の割り当てこそは無いが、機体が取り上げられるなんていう事はまだ無かった。それ位の事はアークはやってきそうではあった。もしくは保安部がガレージに乗り込んでヴィラスたちを拘束しに来てもおかしくはない。

 仮にそうなった時、自分はどういった行動を取る? 

 逃げるが一番の優先事項だろう。──どのようにして? 

 <ヴェスペロ>に乗ってだろう。──それは誰と? 

 ──自分ひとりだけになる。

 他は抱えられない。

 いつか自分の頭の中で過ぎったこの場所を捨てるという考え。それをする時が近づいてきたのだとヴィラスは覚悟をした。アントニーをはじめとする話し相手になっていた整備班。そして半年近くオペレーターとして共に戦ってきてくれたルシーナとも。

 ──何処へ行く? 

 そんな言葉が今度は自然と出てきた。答えは出てこない。ひとつ大事な事柄だった。居場所を作り直さなければならないという大事なモノだ。

 胸の認識票をグッと握りしめる。それで答えが出てくることは無い。

 生き残る為。

 この言葉が胸の奥にある限り、そしてレイヴンである以上、非情に徹しなければならない。

 だが、覚悟が揺れている様なそんな気がする。自分の居場所を見つけられた安堵感がその決心を鈍らせているのか。

 自分にとって正しい選択肢。それを物言わぬ愛機と会話をしても答えはまだ出てこない。

 

 「……どうにかしなければな」

 

 整備ブースからACが1機、待機ベースへと上がっていく。これから出撃なのだろう。機体が壊れてとか自身が負傷しての出撃停止ではない。自然と焦燥感がヴィラスの胸に湧き上がってくる。

 一度、部屋に戻って心を落ち着かせよう。そう考えてヴィラスはガレージを後にした。

 場所を変えたからと言って気分が大きく変わるわけでもなかった。慣れ親しんだ固いベッドで横になってもやはり気持ちは落ち着かない。

 冷蔵庫から水を取り出して、それを舐める様に飲みながら胸に掛けていた2つの認識票を外して眺めた。

 最後の出撃の際に渡されたものであった。傷だらけのプレートにはそれぞれ「ステルーモ」「タキージョ」という名前が刻まれている。かつて共に戦った者の名。

 2人ともこれが本当の名ではない。組織から与えられたコードネームで行動していた。

 ステルーモの本当の名は「フィーネ」。そして自分の姉でもある。

 フィーネはパイロットとして非凡の才能を持っていた。組織の創設者のひとりで、かつてはレイヴンであったという父の才能を継いでいると組織の古株から言われており、それは後ろから見ていたヴィラスもそう感じ取ることが出来た。純白の軽量二脚型AC<シリウーソ>を駆り、参加した全ての作戦において成功を収めた組織のエース。

 タキージョも同様であった。組織にいつの間にか加入をしていたが、瞬く間に頭角を現してACを任せてもらえる立場となる。任務毎に構成を変えて柔軟に戦えるパイロット。フィーネと共にエースとして戦っていた男。口数は少なかったが、まるで自分を弟の様に面倒を見てくれていたのをヴィラスは覚えている。

 そしてフィーネとタキージョは互いに近い歳だったらしく、自然と男女の関係になっていたと二人の間柄を見て若いヴィラスは察していた。

 フィーネとタキージョがいればどうにかなるという盲信に近い信頼をしていた。だが、三大企業による包囲網は次第に強くなり、そして企業による連合軍での掃討作戦。これが致命的であったとヴィラスは思っている。

 企業軍の戦力だけではない。レイヴンをはじめとするACパイロットによる戦力も絶え間なく投入され続けられれば後ろ盾など無いも同然であった組織などすぐに疲弊する。反企業体制組織がひとつ、またひとつと壊滅していき、残されたのはヴィラスのいたノーバ・ホリゾントと少数の武装組織であった。

 まともな援護も得られない。有力なパイロットが次々と喪われるとすぐに組織は窮地へと追い込まれる。

 そうなればもう負け戦の連続だ。拠点を捨て、反撃にもなっていない乏しい攻撃を散発的にやっては逃げるしかなくなる。当然、士気なんて下がる一方だ。

 それでも父は2人を使って士気の維持をしようともがいていた。それがヴィラスには痛々しく見えてしょうがなかった。

 その2人でも抑えきれない圧倒的な戦力差はヴィラスも痛感していたし、父をはじめとする首脳陣も分かっていた筈だが、それから目を逸らすように戦う事を残された兵に向かってノーバ・ホリゾントが掲げている理想と信念を振り上げながら説いていた。

 それを取り合う様な者はやがていなくなり、結局、全ての部隊が離散。父もその最中に討たれたと聞く。

 そしてフィーネとタキージョも残党掃討として追跡してきた連合軍からヴィラスたちを逃がす為に殿を務めてそのまま消息を断った。

 後にフィーネの<シリウーソ>は撃破されたという発表がされたのを知ったが、タキージョがどうなったかまでは分からない。だが、生きている可能性は状況からして望みは少ない。

 これで自分の居場所は完全に失ったとヴィラスは絶望した。全てを失ったと分かったあの日だ。

 残されたのはもう動くことが出来ない自分のMTと最後の出撃前に後で返してくれと2人から手渡された認識票。恐らくフィーネもタキージョもその時に自分の行く末を悟っていたのだろう。

 認識票を握り締める。これから自分の行く先を決めなければならない。

 清々しいくらいに晴れた空だった。そしてそれを横切って飛んでいく1羽の鴉。

 すぐに答えが出てきた。

 ──レイヴンになる。

 他人に振り回されて利用される生き方を否定する為にもしぶとく、もがいて生き続ける。それが向こう側に行ってしまった者たちに対する己の証明。

 自分が持っているモノは操縦技術だけ。それひとつで生き残るにはレイヴンとなって企業主義社会と正面から向き合っていくしかない。

 そこでもう一度やり直す。そうヴィラスはあの時に誓った。

 その誓いは今も揺らがずにいられるのか? 

 何が正解で何が間違いか。誰が味方で誰が敵か。

 戦う事を奪われた時。いや、特攻兵器の襲来によって再び失われた時にそれは揺らいでいた。揺らぎが大きくなっているという事が正しい認識であった。

 この状況は何時まで続くかは分からないが、こちらから動き出すのも手段としてアリなのかもしれない。

 そう考えていた時、内線が鳴る。ヴィラスは受話器を取ると、ルシーナからであった。

 

 『アークから今回の任務割り当て制限についての解除通知がたった今来たわ』

 

 まさかの事態であった。このまま生殺しの状態が続くのかもしれないと思っていた矢先に制限の解除。嬉しさよりも疑問が先に浮かぶ。ルシーナも少し安堵したような声であるが、続けての言葉には緊張した声に変っていた。

 

 『通知が来た直後にアークから1件依頼が出ているの。多分これはヴィラスのみに充てられた依頼よ』

 

 ちょうどその時、ヴィラスの端末から新規依頼を伝える通知音。ヴィラスは端末を取り、ブリーフィングシステムを立ち上げた。

 依頼名は「施設侵入」。アークからの直接依頼である。内容はある新興企業が遺した施設に侵入。その最奥部にあるホストコンピュータからデータ取得するというものだ。戦力は不明だが、ガードメカは配備されている可能性があるとだけ記されている。

 

 『罠かもしれない。私としては行って欲しくないというのが本音よ……』

 「だが、この依頼を受けなければアークはまた制限を掛けてくるだろう」

 

 ある意味ではアークへ対する忠誠を確かめられているのかもしれない。だが、再び戦場に立つには今はこの依頼を受けるしか他は無い。

 

 「それに──」

 

 ヴィラスは窓の方に目を向ける。外からローター音。<クランウェル>が降下してくるのが見える。

 

 「──拒否することはもう出来ない様だ」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。