ARMORED CORE LAST RAVEN ~Unsung Overture~ 作:唯名瞬
ガレージに降り立ったその軽量二脚型ACは文字通り傷付いた機体を引き摺らせて現れた。
応急処置なのか、機体本来のカラーであろうウィスキー色とは違って腕部と頭部は未塗装の状態であった。
「生き残りはあなただけか?」
機体から降りてきたカントリクスと名乗る女性パイロットの第一声。その声にも疲弊の色が窺えた。彼女も自分たちと同様にバーテックスとの戦闘を強いられていた事をヴィラスは察する。
「そうだ」
ヴィラスは一言返して辺りを見渡した。話を聞くことにしてもまだ完全に信用はし切っていない。万が一というのもある。それはカントリクスも察していた様で腰のホルスターから拳銃を取り出すと、ヴィラスの方へ投げた。
「私が怪しい挙動をしたと思ったら迷わずその銃で撃っても良い」
ヴィラスは拳銃を拾い上げる。弾は装填された状態。細工もされている様子はない。撃たれる覚悟を持ってここに来たという事だ。味方だと思っていいのか。
「私の居るガレージもバーテックスにやられた」
「やはりか。W13・エリアガレージだったか、そっちの状況は?」
「レイヴン、独立傭兵含めてAC乗りが6名いたが、生存は私含めて3名。戦えるのはそこから1名引いて2名。施設は半分以上使い物にならない状況だ」
自分の所と比べれば比較的マシだが、それでも壊滅的なダメージであるのは間違いない。このガレージ以外もそんな感じなのだろうかとヴィラスは気持ちが重くなった。
バーテックスが、いやジャック・Oが本気でレイヴンズアークを壊滅させようとしていたという事実。ショックはそれ程大きくはない。アンジェリカをはじめとするアークの面々の示す態度はジャック・Oが掌握する前に度々見せていた傲慢なもの。いずれはそうなるだろうという予感。
ただ、生きる為にそれに縋るしかなかった己の不甲斐なさにも腹立たしくなる。
「生き残りを探してどうするつもりだ?」
「これまで通り、レイヴン稼業を続けたい。だが、同じ事が起きればもう守り切れないだろう。そしてバーテックスはそれをしてくる可能性は今のところ大だと私は考えている。ガレージを守る為の戦力が欲しい。もしあなたが良ければこっちに来て貰いたい」
もっともな理由だとヴィラスは納得できた。
選択は幾つもある。このままアライアンスまたはバーテックスに恭順するのも良い。独立武装勢力に身に寄せるのも良い。
もしくはこのまま踏ん張ってレイヴンとして戦い抜くかだ。その為にやれる事をこのレイヴンは必死で藻掻いている。ヴィラスもその考えに賛同できた。
「見たところ、ここのガレージは完全に使え無さそうだ。こちらは辛うじて使える設備が生き残っていて、機体の整備が出来る。そちらにとっても悪い話では無い筈だ」
カントリクスの問いへの答えはほぼ決まっていた。これしかない。
「その誘い、受ける事にするよ」
ヴィラスはそう答えて拳銃をカントリクスへ返した。レイヴンとして戦い続けるにはこの選択が一番であると確信したからだ。
「……そう言ってくれると助かる。ありがとう」
カントリクスは少し和らいだ表情を見せた。ここに来るまでの緊張が解けたという感じだ。
「ただ、俺一人という訳にもいかないだろう。俺のオペレーターや整備班も連れて行けるのならそうしたい。彼らと相談をしたいが、構わないか」
「それは構わない。動ける人数は多ければ多い方がこちらとしても助かる」
「返事は早い方が良いだろう。どのくらい待ってもらえるのか?」
「すまない、私は他のガレージにもあたってみたいのでここはすぐに出る。ここを出る人員が決まったら私の端末へ連絡をしてくれ。迎えを寄こすよ」
「輸送機があるのか?」
「アークの輸送隊の基地が幾つか生きていた。どういう意図かは分からないが、バーテックスは敢えて生かしたらしいと私が雇ったリサーチャーが伝えてきてくれたよ」
それは意外なことであった。主に狙ったのは運営メンバーと所属レイヴンだけだったらしい。生き残りが報復する可能性も考慮すればこれらも襲ってもおかしくは無さそうであったが、何を考えているのか。それはジャック・Oにしか分からないだろう。
だが、それらの事を考える前に今後の事だ。早急に決めておく必要がある。
「すぐに知らせる。早めに迎えを出す様に伝えて欲しい」
「分かった。では今度はガレージで会おう」
そう言ってカントリクスは愛機である<ブリランテ>に乗り込んで去っていく。
それを見届けてヴィラスは皆の下へ向かうことにした。
「私は大丈夫よ。ヴィラスに付いていく」
ブロック食を飲み込んだルシーナはヴィラスの問いかけに対して即答してくれた。
ようやくありつけた食事。怪我人の手当てに瓦礫の撤去と慣れない作業で疲弊しきってもルシーナははっきりと伝えてくれた。
その言葉にヴィラスは安堵とは別の気持ちも混ざっていた。
ここで降りるという言葉が出てきて欲しかったという気持ち。
その言葉が出てきても引き留めるつもりは無かった。この半年間、当たり前の様にあったものがたった数日で崩れ去り、アークという後ろ盾が無くなった今、先の事など不透明。自分はまだしも、ルシーナを巻き込んでしまうという後ろめたさ。死地へ共に行く事になるのかもしれない。
居るべき場所は自分の傍では無く、生存しているかもしれない姉や家族の方が良い選択な筈だとシェルターに避難している間ずっと抱きしめていたであろうテディベアを見てそう感じられた。
共に戦ってくれた者の喪失。かつて何度も味わってきたあの空虚感。
それをルシーナにも与えてしまうかもしれないという畏れが降りて欲しいという気持ちとなってヴィラスの胸の中に渦巻いていた。
だからこそヴィラスはもう一度問いかけてみることにした。
「この先、何が起きるか分からない。十分では無かったが、アークからの支援も当然無くなる。確実に言えるのはこれまで通りの様な事はもう出来ない。負荷もこれまで以上になるだろう。つまり、新しい場所が最期の場所になり得る可能性の方が高いという事だ。それはルシーナだけじゃない。俺にも当てはまる事だ」
自分自身どういう心境でこの言葉を出しているのかヴィラスにも分からなくなり始めていた。ルシーナの意思確認なのか降りろと暗に言いたいのか。ただ、ルシーナの眼をしっかりと見据える事が出来なかったのは確かである。
ルシーナはヴィラスの言葉に時折頷きながら黙って聞いていた。そして全てを話した後、少しの沈黙を置いてゆっくりと口を開く。
「ヴィラスのパートナーは私だけしか務まらない。そうでしょう?」
以前、逃げた方が良いという忠告を断った時と同じ芯の通ったルシーナの強い声。
「あなたと戦い続ける。それが私の信念であり、あなたが生きて帰ってくる事をこれからもサポートし続けるのが私の理想なの」
信念、理想。
ヴィラスが最も嫌う言葉。だが、ルシーナはそれを自分たちに向けて使ってくれていた。正しい意味で。
そうだった、とヴィラスは思い直す。レイヴンとして戦い抜く為に必要な信頼できるパートナー。それがルシーナであったということ。
弱気になり過ぎていた。喪ったのは自分だけは無い筈なのに勝手に抱え込んでしまっていた。
ルシーナはしっかりと現実を受け入れている。強い女性だとヴィラスはあらためて気づかされた。彼女も戦士であった。
「ルシーナがいてくれるのはありがたい。これからもオペレートを頼むよ」
ルシーナの覚悟をしっかりと受け止める。自分が今出来る事はそれだとヴィラスはルシーナの眼を真っ直ぐ見据える事がようやく出来た。
話し合いの結果、エリカをはじめとするアントニーの整備班の大半に加えてウィルソンの班の一部、そしてオペレーターのクレア・カーソンもW13・エリアガレージに行くという事が決まった。それ以外は市井に戻るかアライアンスもしくはバーテックスなどに居場所を求める事になる。
特に紛糾は無かった。各人がそれぞれ決めた事。やることが決まればその実行も早かった。
新天地に向かう側は<ヴェスペロ>の整備。それ以外は辛うじて動かせそうだった輸送ヘリの整備だ。
この日をもってこのS24エリア・ACガレージにいた者たちは解散することになった。別れに特別な感傷は起きなかったが、自然と皆が握手とハグで互いの行く末を祈り合った。
翌朝、迎えの輸送機が到着。ヴィラスは組み直した<ヴェスペロ>のコクピットに収まり、輸送機の着陸を見届ける。
頭部の<CR-H97XS-EYE>はそのままにコアは<C01-GAEA>、腕部は<CR-A69S>、脚部はタンク型の<CR-LT71>にフレーム構成を変更。崩壊したパーツ保管庫から使えそうなパーツを引っ張り出しての寄せ集めなのでバランスは正直言って良いとは言えない。それでも整備班が必死で組んでくれた機体だ。
輸送機のハッチが開く。カーゴへ向こうで修理させる為のパーツが運ばれた後、ルシーナたちが乗り込む。全員が乗り込むのを確認出来たら最後にヴィラスと<ヴェスペロ>が乗り込む手筈となっていた。
『こちらもそろそろ離陸する。元気でな、みんな!』
ガレージへ向かわない方を選んだ者たちの輸送ヘリ2機が揃って離陸を開始する。これで本当のお別れだ。
その時、レーダーに反応。こちらに向かって来る。レーダー上の輝点は10。熱源の大きさからしてMTだろうと予想した。
「フランコ、ダニーロ。離陸は待て」
識別はレッド。敵だ。ヴィラスはヘリの離陸を止めさせる。
こんな時に、と思うが、寧ろこんな時だからだろう。アークのガレージが襲われたという話は既に広まっていた。恨みを買った武装勢力なんていくらでもいる。恐らくそのひとつが好機とばかりにやってきたのだろう。
「ここでやらせるわけにはいかないな」
ヴィラスはフットペダルを踏み抜いて<ヴェスペロ>を動かす。久々に動かすタンク型脚部の操縦感覚はまだ慣れないが、それを愚痴る暇はない。
敵機視認。<CR-MT85>が5機に<MT08M-OSTRICH>が5機。機体状況は<ヴェスペロ>とさほど変わらない。
<ヴェスペロ>の右腕に持たせたレーザーライフル<CR-WR98L>を発射。レーザーの直撃を受けたMTが破壊される。
『レイヴンめ……』
『そろそろくたばっても良い頃だろ!』
『……仲間の……仇だ』
オープン回線に入ってきた怨嗟の籠った声。どこの所属かなんていうのは分からないが、レイヴンであれば誰でも良かったかもしれない。とにかく恨みをぶつけたいという執念が込められている。
7発撃ったところで使用限界のアラート。今度は背部のチェインガン<CR-WB69CG>を発射。あっけなくMTの集団は全滅。最早どこの誰であるかはヴィラスにとってどうでも良くなっていた。ただ、自分たちの新たな出発を邪魔されたくなかったという思いだけ。
敵機撃破を確認した輸送ヘリはそれぞれ離陸して去っていく。この選択が彼らにとって良い選択であることをヴィラスは祈り、<ヴェスペロ>と共に輸送機へ乗り込んだ。
輸送機が離陸するのを振動で感じ取る。
約半年間居たガレージが離れていくと共に込み上げてくる寂しさ。
それでもまだ戦う事は出来る。それはヴィラスにとっての救いであり、希望であった。
信念、理想。
嫌いな言葉であったが、それはもしかしたら変えられるかもしれない。
昼前にW13・エリアガレージに到着。パーツと機体を降ろしてヴィラスはコクピットから顔を出した。
想像以上の被害。カントリクスの言う通り、ガレージとしての機能が辛うじて残っているだけで、他はヴィラスの居たガレージと同様の被害であった。
これで本当にやっていけるのだろうかという不安が過ぎる。それでも今は鬱屈した気分を少しでも和らげたい。ヴィラスはハッチを開けたまま<ヴェスペロ>を格納庫へと向かわせた。
半壊した格納庫は屋根が吹き飛んでおり、実質、露天駐機だ。雨天時に備えて防水シートを用意しなければならないなと考えながらヴィラスは機体から降りる。
「生き残っていたか。ヴィラス」
機体から降りると外から男の声。ダークグリーンのパイロットスーツを身にまとったソフトモヒカンの男。
「あんたもか、レソナトル」
ヴィラスが知っている人物であった。特攻兵器襲来以前、ヴィラスと同様にミラージュ領のアリーナに所属していたレイヴン。搭乗機は重装備を想定したフレーム構成の逆関節型AC<ヘルクレース>。アリーナでの対戦経験もあり、そこでは1勝2敗とヴィラスが負け越している。
見知った顔がいるだけでもヴィラスにとってそれは安堵する事ができた。
更にもうひとり。中性的な声も出入り口から響いてきた。
「君も生き残っているとはね。ボクとしては嬉しいよ、ヴィラス」
スタークスの姿もあった。だが、両腕はギブスで固定されており、右脚も引き摺っている。その姿は痛々しかった。
「大丈夫なのか? 怪我が前よりも酷くなっているが……」
「まあね……」と少しバツの悪そうな声を出したスタークス。ヴィラスはその理由を察する。
「怪我が完治していないのに無茶をするからだ」
レソナトルが溜息交じりに頭を振ってスタークスを見つめた。「やはりか……」とヴィラスも嘆息。
先日、<プロトエグゾス>の亡霊機と交戦した際に負傷しているのは知っていたが、それに構わず出撃したらしい。
「ミューズとルー・スターを相手にすればね……ランカークラスはやはり手強いよ。それに加えて多数のMT。6機で向かったのにこんな状態にされたんだ」
スタークスは溜息交じりで小さくそう漏らした。このガレージにもランカークラスが来たという事。そして彼らによって壊滅的なダメージを受けたことを知る。
だが、ここで疑問が浮かぶ。高い実力を持つレイヴンをこんな鉄砲玉に近い形でガレージを襲撃させたのは一体どういうつもりなのか。ランカークラスのレイヴンの喪失はバーテックスにとっては大きな痛手になる筈だ。
アライアンス打倒という目的から逸れてでもこのタイミングでやる理由。バーテックスには何か別の目論見があったのかは分からないが、ジャック・Oはこの状況をどう捉えているのだろうか。
「ギリギリ守り切れたのは良かったが、代償は大きかった。<シュバルツナーゲル>は大破して、ボクはこの有様。暫くは動けないね……」
ギブスで固められた両腕を交互に振りながらスタークスは沈んだ声。当然だが、彼女は戦線離脱。ガレージの防衛という意味では痛手だろう。
「カントリクスが今、生き残りとコンタクトを取っているが、上手く立ち回れるかは来てくれる戦力次第だろうな。アイツが戻ってくるまではここで待機していてくれ」
「そうしよう」
ヴィラスがそう言うと、格納庫にパーツを載せたトレーラーが整備班と共に入ってきた。十分に出来ていなかった<ヴェスペロ>の整備をここで行う。格納庫内が一気に騒がしくなってきた。ヴィラスも整備も手伝うつもりでいる。
「さっさと降ろして始めようか。ウィルソン、そのライフルは手前に置いておいて。コアは内装系と一緒に奥へ並べてね」
「おめぇ、何指図してんだ。俺、班長だぞ?! チーフ! リーダー! 分かる?!」
エリカのハツラツした声とウィルソンの面食らったような声。それにつられて周りの整備班の笑い声。
「ボクも手伝おうか」
スタークスもつられて小さく笑い声をあげるが、「お前は休んでいてくれ」とレソナトルの呆れた様な声。
「良い整備士たちに恵まれたんだね」
慌ただしく動き出す整備班を見ながらスタークスがヴィラスの肩を叩いた。表情は無いが、安堵した声。
「典型的な賭け事と酒が好きな連中さ。でも、腕は良い」
「来てくれてホッとしている」とレソナトル。「正直、今は一人で守っている状況で心細かった」
「後は機体を万全にするだけだ」
「タンク型か。この間は二脚でその前は四脚。コロコロと変わるね」
「今使えるのがそれしか無い。久々に使うからシミュレーションで慣らしてはおこうと思う」
ヴィラスがレイヴンになりたての頃だった。機体のコンセプトを試行錯誤している際にタンク型での重装甲高火力構成。レイヴンの間では所謂”ガチタン”と呼ばれる構成も考えたこともあった。
だが、それらを構成させるには当時のヴィラスの懐事情には厳しく、なにより自身が目標とするスタイルとはかけ離れてしまうこともあり、脚部だけ購入して数回動かした後に売り払ってしまったという過去がある。
限られた状況ではあるが、やれる事を最大限にするしかない。ある意味ではこれを生き残る為の技術を高める好機だとポジティブに捉えるべきか。
「機体整備が終わったら俺もガレージの防衛につくよ」
「カントリクスが戻ってくるまで敵が来ない事を祈るが、なるべく早めに頼む」
それはヴィラスも同じ思いであった。何もせずに終わってしまうなんてことは避けたいが、それは向こう次第だろう。
「ヴィラス」とルシーナが格納庫に入ってきた。手にはバスケット。
「これ、持ってきておいたから」
「ルシーナ……」
バスケットからヴィラスの端末。自分の身に危険が及ぶかもしれないのにあの状況でシェルターに避難する前に持ってきてくれていた。
「どうしようか考えていたのに……これは大助かりだ。ありがとう」
機体のアセンブルがこれである程度スムーズにできる。あると無いとでは大違いだ。持ってこられたパーツを照らし合わせて出来るだけのセッティングを考えておかなければならない。
端末の電源を入れる。ネットワークが接続されると1件のメッセージ。
ジャック・Oからであった。これは生き残った全てのレイヴンへ充てているらしい。
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From:ジャック・O
To:ヴィラス
Subject:全てのレイヴンへ
斯くて箱舟は崩壊し、枷は外れた。
レイヴンズアークの役目は終わり、レイヴンは自由に舞う。
これが本来あるべき我々の姿であった。
何者にも囚われない。
空無き世界から侵さざる領域を超え、その意思で全てを変えてきた。
企業主義体制の終焉は次の闘争へといざない、その果てに最後の死に場所がある。
そして、そこへ到達する資格があるのは強者のみ。
我々が求めるのは頂点者の称号に相応しい者だ。
新たなる時代の幕開は近い。
君たちが最善の選択をすることを私は願う。
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ジャック・Oの意志表明でもあり、レイヴンたちへ戦いを促している。そうヴィラスは受け取った。
要はこう言っているのだ。「レイヴンらしく、しがらみ無くもっと戦え」、と。
アークに所属していたレイヴンをこれ以上どうするかは考えていないらしい。どの勢力に付こうが、生き残ればいいという事か。バーテックスの理念とは少し離れている気がするが、レイヴンの本質だけはジャック・Oも尊重している。ヴィラスには何故かそう思えた。
空に茜色が混じり出した頃、<ブリランテ>が山吹色の中量二脚型ACと共に<クランウェル>に懸架されて帰還した。
山吹色のACはレヒト・リンクスの<ワイルドトロンぺ>。その機体は両腕が吹き飛ばされ、各部の損傷も決して軽微では無かった。
「……生きた心地がしなかった」
機体から降りてきたレヒト・リンクスは愛機を一瞥して小さくそう漏らした。
「生き残ったのはあんただけなのか?」とヴィラス。「他のレイヴンは……」
「ひとりいたが、降りてしまった。これ以上は戦えないと言ってな。ついでに俺のオペレーターもだ」
吐き捨てる様に言い放ち、機体と共に格納庫へと向かっていく。疲労の色が見える背中は非情な現実を辛うじて受け止めるので精一杯の様に見えた。生き残れても、共にいた者の喪失。
「結局、呼び寄せられたのはあなた含めて2名。ジャック・Oのメッセージを読む限り、二度目の攻撃は無いと思いたいが……」
「互いに情報は共有しておかなければ手遅れになるな」
「他のガレージと通信が繋がった」とレソナトルが格納庫からやってくる。「2つ程だが、レイヴンに独立傭兵が少数生きている」
微笑を浮かべているレソナトル。希望が見出せたというように。
「バーテックスに仕返ししてやるという訳では無いが、生き残った以上、俺たちの意地は見せないとな」
「そう言う事だね」とスタークスも同様に明るい声を掛けてきた。
「” Mr.big”と連絡が付いたからパーツある程度揃えられるだろう。ついでにここの補修をする充てもだ」
「彼も生きていたのか……」
ヴィラスもMr.bigという名のレイヴンは知っていた。どちらかというと武器商人としての顔の方が印象深い。
「まあ、今は本業の方に戻っているけど。この時程役に立つ存在はいないよ」
これで今の状況からは脱することは出来るだろう。後は自分次第だ。
そして味方を活かす。利用するのではなく、活かすだ。互いに生存出来る可能性を高められ、認識し辛くなった敵味方の区別もはっきりと出来る。
ヴィラスの無意識下で能動的な考え方を自然と起こしていた。良い方向へと向かわせるには自分一人でどうにかするなんて言ってはいられないという危機感。
残っていた宿舎からはヴィラスに呼びかける声。ルシーナだ。食事の準備が出来たという事だ。
これからの事。先の見通しは今の空模様の様には澄んでいない。
それでもこの抗争から生き残るという意志は以前よりも強くヴィラスの胸の奥に刻みついていた。