ARMORED CORE LAST RAVEN ~Unsung Overture~ 作:唯名瞬
少なくとも歓迎はされていないだろう。
先の輸送機の護衛任務。特務部隊所属AC<エクリッシ>によって高高度を飛ぶ輸送機から叩き落とされた<ヴェスペロ>は辛うじて地上に降りることが出来た。
だが、そのままではガレージに戻ることは出来ないので着陸地点から一番近いアライアンスの基地へ一旦収容。そこで先の任務の顛末を報告することになった。
ブリーフィングルームのテーブルで目の前に座るアライアンス士官の表情は面倒事に巻き込まれたと言わんばかりに口角を下げ、双眸も左右で開きが違う。
「──確かに襲ってきたのは<トラーゲン>なのか?」
「カメラのログデータを渡す。それを見れば分かる」
「特務部隊のACはまだ分かるが、あんな旧式がまだ……信じられん」
「俺もだ……」とヴィラスは椅子に身体を預けた。あんな旧型を何処から引っ張り出してきたのか。
「……もしリターナーの黒幕が骨董趣味を持ったロマンチストたちだとしたら笑えんな」
<ヴェスペロ>のカメラログから出力した画像を見て士官が不快さを隠さない表情を浮かべた。もしかしたらリターナー独自で整備環境を持っているのではないだろうかとヴィラスは頭の中で勝手に予想付ける。
突貫的な結成ではない。高度に組織化されている。改めて厄介な相手になるかもしれないと実感した。
「……あの輸送機の行方はどうなった?」
「まだ不明だ」と士官はコップの水に口を付ける。「調査隊が信号の消失地点に向かっているところだ。この基地の部隊もそれに同行した。お陰で現在、我が基地の防衛戦力が砲台と少数のMTにガードメカしかいない」
「そうか」とヴィラスは頷く。どうりでハンガーが空になっている訳だと納得し、士官の不遜な態度の理由も理解できた。
「迎えについてだが──」とヴィラスが口にすると「──今晩は難しいだろう」と士官がすかさず口を挟む。
「輸送機も近隣の基地に置いていた機は全て出払ってしまった上に一部空域が現在閉鎖で他の輸送機も動きが制限されてしまった。部屋は用意したから手配が整うまではここで待機していてくれ」
「感謝する……」
「もてなしも碌に出来なくて、悪いな」
そう言って士官は席を立つと、ヴィラスも席を立った。今日は帰れそうにないと肩をすくめる。
宛がわれた部屋でヴィラスはベッドに腰を下ろすと、壁に背中を預ける。身体を休ませようとしても頭の中に浮かび上がるのは先の戦闘の事だけであった。
圧倒的。それが先の戦闘で受けた感触。ジェランとの差は歴然とあった。
<エクリッシ>の懐へ飛び込んだつもりであった。だが、気が付いた時には側面に回られて吹き飛ばされていた。何も反応出来ずに攻撃を受けた精神的衝撃は大きかったのは否めない。仮にあそこで踏みとどまる事が出来たとしても追撃を受けて同じ結果になっていただろう。
元々ランカークラスの実力を持っていたレイヴン。強化を受け入れたことにより操縦感覚は更に先鋭化されたのだろうか。
強化手術には興味がなかった訳ではない。受ける必要があればその選択肢もアリで、何度か考えたことはあったが、結局は出来ずにいた。
どうしても一歩踏み出すことが出来なかったのは失敗のリスクよりもそれをしなくても技量でねじ伏せるという手本的な存在がかつてヴィラスの目の前にいたからでもあった。
生き残れたから良しとしてもやはり敗北したという事実からは目を背くことは出来ない。
硬いベッド、触り心地の良くないシーツと布団。現在、世話になっているガレージで使っているモノと大差ない。それでもそこに横になれば無自覚だった疲労がベッドに身体を押し付ける。そのままヴィラスは天井を眺め続けた。
どれくらいの時間が経ったのだろうか、部屋をノックする音が聞こえる。それで自分がうたた寝していたことに気が付く。重い瞼を擦りながらドアを開けるとそこには先程ヴィラスの報告を聞いていた士官ともうひとり隣に立っている。襟章からこの基地の司令であると察した。
「レイヴン、出撃を依頼したい」
開口一番に基地司令はそう言うと、士官がタブレット端末を見せてきた。
「つい先程、この基地へ接近する複数の機影をレーダーで捉えた。接近してくる方角から当基地所属機ではないのは判明している。レイヴンにはその対応をしてもらいたい。敵対勢力の場合は迎撃をしてくれ。既に本部には正式な依頼をしても良いと許可は取ってある。報酬は特急料金を含めて108,000コームを前払いで支払わせてもらう」
「機影の数は?」
「6から10機程だと聞いている。機種は不明だが、移動スピードからMTだと我々は予想している」
「狙いはこの基地なのか……」
既に眠気などは吹き飛んでいた。ヴィラスはタブレット端末を食い入るように見つめる。
「前線には近い基地だ。バーテックスかその関連組織の可能性はあるな。もしくは君が逃した連中か。可動機が足りない状況でのタイミングで参るよ」
「だが、俺のACは損傷して動かせない。それに武装も全て投棄してしまっている」
「今、整備班に修理をさせているところだ。修理費はこちらで持つ。武器も少ししかないが、この基地に残っているのを使ってくれ」
「──分かった、すぐに準備を進める」
士官と共にヴィラスは<ヴェスペロ>が置かれたハンガーに向かった。
「一応は間に合ったか」
基地の外で待機する<ヴェスペロ>。そのコクピットの中でヴィラスは機体のチェックを行う。
フレーム構成パーツで損傷している箇所は予備の装甲板で応急処置。武器も基地に置いてあったものを買い取って使用することにした。
「なんとか動かせるな」
ただ、リミッター解除による無茶をさせた反動は大きく、ジェネレータの出力が少し落ちている。それでもこの基地の整備班は短い時間で稼働できる状態までに仕上げてくれた。
『所属不明機の反応は依然、こちらに向かっているわ。敵勢力だと分かり次第、攻撃して』
「数は?」
『数は10のまま。ただ、増援の可能性はあると思った方が良いかもしれない』
「来ない事を祈るよ」
ヴィラスは苦笑いを浮かべて機体チェックが終わった事を確認した。ジェネレータ出力以外は今のところ大きな問題は無い。
『レイヴン』と基地司令から通信。
『こちらの砲台を起動した。援護射撃は任せてくれ。ただ、射線には十分に気を付けろ』
「そちらの管制室の技量を信じるよ」
援護が得られるのは機体が完調でない状態としてありがたい事である。それ以外の戦力は<CR-MT77M>と<CR-MT77RO>が2機ずつの計4機。だが、この機体に乗っているのは訓練生のパイロット。基地内に万が一侵入された場合の最後の防衛線だ。
レーダーディスプレイ上に輝点が表示された。識別は依然としてレッド。
「接近する」
フットペダルを踏み抜いて<ヴェスペロ>を前進。ブースターの吹き上がりの感触に若干の違和感。不調ではないが、ブースターも相当無茶をさせた結果でもあった。
機影が見えた。全機MTの様だが、シルエットには見覚えのない機体。2機種いる。
<ヴェスペロ>の頭部コンピュータが機体照合。その結果にヴィラスの双眸が細くなった。
「<スクータムD>に<エピオルニス>……!」
それはレイヤード時代に運用されていた旧式の機体。だが、しっかりと稼働出来る状態であろう動き。
複数の<エピオルニス>が両腕のガトリングガンを発射。その射線から逃れようとブースト機動した<ヴェスペロ>へ<スクータムD>が次々とバズーカを放ってきた。バズーカ弾が何発も機体脇を掠めていく。先制攻撃された。
「こいつら……」
何も言わずに攻撃を仕掛けてきた。状況から敵のであることは明確となり、そして完全に稼働出来る状態の旧型機。ヴィラスはその正体も察することが出来た。
「リターナーか」
先の戦闘と同じ。何故こんな旧式がという疑問はこの際後回しだ。
<ヴェスペロ>は反転。右腕に持ったバズーカ<CR-WR81B2>を構えて発射。バズーカ弾が1機の<エピオルニス>の胴体を撃ち抜く。性能面の向上があったかは知らないが、装甲はおそらく既存のMTと変わりないだろうとヴィラスは判断した。
小さくバックステップして距離を取り、更にもう一発。2機目の<エピオルニス>を撃破。
自機側面に<スクータムD>が回り込んできた。リロードが間に合わない、ヴィラスは右背部のロケットランチャー<CR-WB76RP2>に切り替えて発射。だが、ロケット弾は<スクータムD>の左腕に持つシールドによって阻まれる。その背後から2機の<スクータムD>がバズーカを構えて接近してきていた。
距離が近い。<ヴェスペロ>はフロントステップ。そのまま左腕のレーザーブレード<WL01LB-ELF>を展開して敵機の頭上から斬りつける。
頭部を切られて動きが止まった<スクータムD>を踏みつけて飛び越えると、背後にいた<スクータムD>の右側面へ回り込んで至近距離からロケット弾を撃ち込んだ。
残骸となった<スクータムD>を蹴飛ばすと、もう一機へレーザーブレードで斬撃。光刃がシールドごと腕部を切り裂き、がら空きになった胴体へバズーカ弾。MTの胴体に風穴が空く。
無人機かどうかはまだ判っていないが、動きはそれ程熟練されているとは思えなかった。数の差は動きで抑えられる。
『ヴィラス、やはり増援が来たわ。数は1。熱源の大きさからACと断定、気を付けて』
「了解」とヴィラスは応えて更に<エピオルニス>を撃破。基地に近づけさせる前に決着を付けたいと考える。
レーダーディスプレイ上に輝点が1つ増える。そしてそのスピードは速い。
モニター上にもその姿を捉えて頭部カメラがそこへ自動でズームさせる。そこには暗赤色のタンク型ACがオーバードブーストで接近してくるのが見えた。左肩には「古樽に絡みつく2匹の蛇」のエンブレム。
「見たことない形だが……」
エンブレムを照合させるとレイヴンのアルマンディンの乗機<ズレリヤヌアル>だと頭部コンピュータが伝えてきた。このレイヴンは特務部隊所属だというのは既に情報として入っている。
『AC……いないと聞いていたが、事前情報と違うな』
オープン回線に若い男の声が入り込んできた。アルマンディンだろう。
『既に数機やられているとは……』
<ズレリヤヌアル>は<ヴェスペロ>の射程に入らないギリギリのところで旋回を始める。同時にMTも動きを僅かに緩めながら後退していく。
『データ収集の予定が少々変わってしまったが、まあいい』
データ、あのMTの事を言っているのか。これも何かのテストらしい。
『ACが1機いるだけで変わりは無い──』
後退していくと思われたMTが<ヴェスペロ>の囲むような動きを見せ始める。意図はもう分かった。ヴィラスはコントロールスティックを強く握り、身構える。
『──ついでに片付けさせてもらうとしよう』
その声と共に敵ACとMTが一気に距離を詰めてきた。ヴィラスはバックステップで距離を取ることを選択。
敵機の数はMT4機にACが1機。MTは動きからしてどうやら無人機だったらしい。
MTから一斉に火線が走る。ブースターを吹かしてそれを躱そうとした瞬間、衝撃とダメージ警告音。レーザーによるものだ。死角に回り込んでいた<ズレリヤヌアル>からの攻撃。両腕にはレーザーライフル。
やはり最大の脅威は<ズレリヤヌアル>だ。OB搭載型コア<C04-ATLAS>に新型のホバータイプのタンク脚部で構成された機動力のある機体。
『そのエンブレム、隊長の言っていたレイヴン……ヴィラスだったかな』
オープン回線からアルマンディンの声。どうやら知られているらしいが、それには答えない。
『私は運が良い』
敢えて聞こえるように言っているのだろう。随分と余裕のあるヤツだとヴィラスは視界に捉えながら発射タイミングを窺う。
ロックオンアラート。囲まれた状況ではやはり先手を打たれる。先程と同じように<エピオルニス>がガトリングで仕掛けた後に<スクータムD>がバズーカを放つ。それをブースト機動で躱そうとすると、モニターの端から火球が迫ってくるのが見えた。
躱しきれない。コア左側面に衝撃。<ズレリヤヌアル>の右背部に装備されたグレネードランチャーからだ。
動きを止めてしまった。その瞬間、MTが一斉に基地の方へ向かっていく。
『こういう時にこそ点数は稼いでおかなければな』
向こうにいるのは未熟なパイロットの乗ったMTしかいない。火力の差でも不利。
<ヴェスペロ>が即座にオーバードブーストを起動。MTの前に回り込もうとするが、ジェネレータの不調の影響かエネルギーの消費がいつもよりも早く、早々に切らなければならなかった。
ブーストに充てる残量も少ない。後ろから迫ってくる<ズレリヤヌアル>への対応を優先にするか選択を迫られる。
その時、基地の方から火球が何発も飛んでくるのが見えた。基地に設置されている砲台からだ。<ズレリヤヌアル>とMTはそれを受けて回避行動に入った。僅かであるが、これでエネルギー回復の猶予が出来る。
『砲台……あるのは知っていたが、やはり面倒だな』
砲台からの攻撃で<エピオルニス>が1機撃破されるとMTの陣形が崩れた。それを見逃さない。ヴィラスは<ヴェスペロ>を大きくジャンプさせると動きの鈍いもう一機の<エピオルニス>へバズーカを放ち、撃破。
攻撃態勢を整えようとした2機の<スクータムD>へ砲台からのグレネード弾。直撃こそはしなかったが、近くで炸裂して体勢が崩れた機体へブーストで一気に距離を詰めてレーザーブレードで斬撃。
距離を取ろうとした最後の1機に砲台からの一発が直撃。装甲板と装備が吹き飛んだ敵機へもレーザーブレードでとどめを刺した。これで残りは<ズレリヤヌアル>だけ。
『全滅……流石にレイヴン相手ではまだ力不足であったか』
撃破されるのは想定内だったのだろう。僚機がやられてもアルマンディンはさほど気にした様子を見せず、そのまま機体を突進させるような動きを見せた。
『データは取れたので良しとするしかない。だが、手ぶらで帰るのは私としてはよろしくない。──お前を討ち取らせてもらう』
レーザーが交互に飛んでくる。ブースト機動で回避しながらバズーカで反撃。機動力があるとはいえ、ホバータンクと軽量二脚型では差がある。捕捉するには苦労しない。バズーカ弾が<アルマンディン>の防御スクリーンに激突する音が響く。
『腕は悪くないな、隊長の評価通りか』
まだ余裕のある声。<ズレリヤヌアル>がオーバードブーストを起動。コア<C04-ATLAS>の巡航型高出力ブースターによって<ヴェスペロ>の背後へ回ろうとしていた。
ヴィラスはその動きを読んでいた。立ち回り方はそれ程上手いという訳では無さそうだと敵機の動きで察した。ブースト機動で回り込みを阻止しようとする。
その時、機体の異変に気が付く。先程よりもエネルギー消費が早くなっていた。出力が更に落ちている。機動力に支障が出るのは時間の問題だろう。
フットペダルを踏む力を緩めて消費を抑えてみる事を考えてみたが、その分スピードは落ちる。それでも機動力に関してはアドバンテージがまだある筈だと思っている。
<ヴェスペロ>はサイドステップを混じらせて細かく機動。<ズレリヤヌアル>の旋回速度はそれ程速いわけではない。その隙を突いてバズーカで追撃。だが、アルマンディンもそれは分かっているらしくオーバードブーストを含めた動きで射程から逃れる。
『せっかく時代の担い手になれる場所に辿り着いたんだ──』
<ズレリヤヌアル>が側面に回り込んできた。ロックオンアラートが再び鳴る。
『──少しでも箔を付けておかなければな』
ヴィラスはフットペダルを踏み、ブースターを吹かして機体をジャンプさせると足元で火球が咲いた。敵機へ向きを変えるとグレネードランチャーが向けられている。
インサイドトリガーを引いてECMメーカーを射出する。アラートが一瞬解除されるが、<ズレリヤヌアル>の左背部に装備されたレーダーによって対処されたのか再びアラートの表示と警告音。
グレネード弾が飛んでくる。スライド機動でそれを回避するとECMメーカーをもう一基射出。流石に今度は対処に時間が掛かる。<ズレリヤヌアル>の動きに一瞬躊躇した動き。だが、エネルギーゲージはすぐレッドゾーン近くに達してしまい、敵機の射程圏内から逃れられない。回復された一瞬を突いて撃ってきたレーザーがコア左脇に直撃。
ダメージはまだ許容範囲内。一瞬だけ視界が遮られても反射的にトリガーを引く。バズーカ弾が<ズレリヤヌアル>の脚部に命中。一際大きな音を立てて脚部から煙が上がるのが見えた。
戦術コンピュータが敵機の脚部に大きな損傷が確認されたというメッセージを伝えてきた。ホバー機構が損傷したらしい。<ズレリヤヌアル>の動きも目に見えて鈍化している。
更にもう一基ECMメーカーを射出しながら後方へ回り込むと、ロケット弾を発射。敵機のレーダーに直撃。
<ズレリヤヌアル>がオーバードブーストを起動。基地へ目掛けて向かっていく。
<ヴェスペロ>もブーストで追撃。だが、ブースターのひと吹きでもエネルギーゲージの消費が激しく、追いつくのが難しい。
<ズレリヤヌアル>が基地へグレネード弾を放つのが見える。外壁と砲台の1基に直撃。このままでは基地に侵入されてしまう。チャージングを覚悟してオーバードブーストを使うかヴィラスは迷った。
砲台から<ズレリヤヌアル>に向けて一斉にグレネード弾が発射される。その内の一発が命中、動きが止まった。
その瞬間を逃さない。<ヴェスペロ>は前方へ大きく跳躍させながらブースト機動で追いつくと、その勢いのまま蹴りを入れると背部のグレネードランチャーを破壊。
体勢を崩した<ズレリヤヌアル>の肩を掴む。ホバーの推進力が落ちた<ズレリヤヌアル>の動きは簡単に止められた。
『うおぁっ……!』
<ヴェスペロ>は至近距離からバズーカ弾を発射。防御スクリーンの干渉を破って<ズレリヤヌアル>のコアの装甲が大きく捲れ上がる。更にもう一発撃ち込んだ。着弾の衝撃が装甲越しに響く。
その攻撃によって<ズレリヤヌアル>のコア及びインナーパーツに損傷が出た様だ。動きが更に大きく鈍り出す。
『この!』
肩を掴んでいたマニピュレータの力が弱まった瞬間、<ズレリヤヌアル>はオーバードブーストで逃げようとするが、ジェネレータに損傷を負った状態での起動は無理があり、すぐに止まる。
チャージングを起こしていた。ヴィラスは弾切れになったバズーカを投棄させるとロケット弾を撃ち込む。動きの止まった機体には何の苦も無く当てられる。
『……ダメージが中枢まで……!』
先程まであった余裕はもう無い。右腕、頭部と吹き飛ばされて崩壊していく機体の中でアルマンディンが悲鳴を上げる。
それでも機体を動かそうとアルマンディンは藻掻いていた。背部のロケットランチャーも弾切れになり。ヴィラスはそれもパージ。後はレーザーブレードのみ。
<ズレリヤヌアル>は残された左腕のレーザーライフルを向けるが、先に<ヴェスペロ>がレーザーブレードを展開する方が早かった。赤い光刃が<ズレリヤヌアル>のコアをライフルごと薙いだ。
『これは……想定……外……っ……──』
アルマンディンの断末魔。コアごとジェネレータが斬られ、そこから爆発が起こり<ズレリヤヌアル>は爆散した。敵機撃破。
『周辺及び後続の機影はなし。オールクリア。敵勢力の全滅を確認。任務完了よ』
ルシーナからの通信を聞いてようやく落ち着ける。頭部コンピュータがシステムを通常モードへ戻ったことを伝えてきた。
気が付けばジェネレータの出力が半分近くまで低下していた。ギリギリのところてあったと実感する。砲台の援護が無ければ戦闘時間が伸びて更に難しい対応を強いられていただろう。
『よくやってくれた、レイヴン』
基地司令からだ。その声には安堵の色が窺えた。
『敵ACは特務部隊所属機のようだったな。──パイロットは殺したか』
「銃口を向けてきた以上、攻撃する」
『それは正しい判断だ』と基地司令。『こちらから投降を促していないし、そういう指示も出していないから別に咎めんよ。ただ、こちらとしては自ら投降してくれた方が後々楽だったとは思っている』
「確かに連中の詳しい組織構成は不明な部分はまだある。情報を引き出させる為に加減できるところはあったかもしれない」
最後に行った攻撃。武器だけを潰せば良かったかもしれなかったと少しばかり後悔する。
『まあいい、この手の連中には主要メンバーの何人かを初手でしっかりと殺してビビらせた方が効果的だって事もある。向こうのリアクションが楽しみだ』
それも組織壊滅させる手段の一つだ。ヴィラスは痛感している。
ふと、以前受けた任務でエヴァンジェに言われたことを思い出した。──殲滅だけなら任せられる。そんな言葉を投げかけていた。その意味が今になってようやく分かってきた。器用さが足りていないという事だ。
レイヴンに課せられる任務は多種多様。そしてACの動かし方も同様。自分の場合、立ち回りが似たり寄ったりである。そこにジェランに敗れた原因があると感じた。
ACの万能さをもっと活かせば任務中の立ち回りをもっと変えられる筈だ。それが出来る様になれば生き残る為の術はもっと増やせる。もう、あんな目には遭わない。そうヴィラスは誓う。
『レイヴン、また敵勢力が来る可能性は否めない。空域の閉鎖解除まではまだ時間は掛かる見込みだ。機体の修理費は全てこちらで負担するので引き続き当基地で待機をお願いしたい』
基地司令から追加の依頼だ。帰れる見込みはまだ無さそうであった。だが、機体の修理費用は全てアライアンス持ちとなってくれるのはありがたい事である。
「了解した。──ルシーナ、暫くはこちらに残ることになる」
『ええ、たった今、こちらにも正式な依頼が来たわ。こちらで承諾の手続きをしておくので待機して。お疲れ様、ヴィラス。少しでも身体は休めておいて』
「……早く帰りたいよ」
思わずそんな言葉が零れる。戻れる場所があるからこそ出てくる言葉であった。
『もうしばらくの辛抱よ。久々にパンや野菜などが来るって話をカントリクスから聞いたから楽しみに待っていて』
その言葉は励みになる。最近はブロック食ばかりで碌な食事が摂れていない。久々にまともな食事、ルシーナの作ったものが食べられるということだ。
ならばもう少しこの基地での缶詰めも耐えてみようと気持ちに切り替わり、ヴィラスは<ヴェスペロ>を基地の方へ向けた。
<ヴェスペロ>の修理が終わり、格納庫の前で待機させる。
先程は応急処置で動かしたせいもあり、時間が経つにつれて機体の挙動が不安定になっていたが、しっかりと修理されて動きも戻っている。これなら敵機が来ても万全な状態で対応できるだろう。
コクピットの中でヴィラスは食事を摂っていた。基地から支給された保存食のパン。硬めで齧るのに少し難儀するが、ほんのりと蜂蜜の風味がして微かに甘い。中々美味いなとそれを代替豆のコーヒーで流し込んだ。
短い食事が済み、シートに身体を預ける。レーダー上に機影などは確認されず、静かだ。やる事が無いのは身体を休められるという意味では良い事ではある。
先の戦闘、アルマンディンが放った言葉をふと思い出した。
──時代の担い手。
以前も同じ言葉を聞いた。バーテックスがガレージに襲撃してきた時にクイン・クラフティーも口にしていた。そんな言葉が複数のそれも別々の組織にいるレイヴンの口から出てくるとは思わなかった。
その言葉がリターナー全体の意思か、アルマンディン個人が抱いている思想かまでは分からない。ただ、ヴィラスにはそこが妙に引っ掛かった。
レイヴンは基本、特定の権力には付かない事でその存在意義が成り立っているというのが前提である。その前提を無視して自らが権力側に立つ。それはレイヴンの否定なのではないのか?
それとも自分の価値観は既に遅れたものになりつつあるのか。レイヴンという存在価値がヴィラスの中で少し揺らいでいた。
それでもしがらみなど無く動くことが出来るのはレイヴンしかないとヴィラスは信じている。理想も信念も持たずにただ戦って今日を生き抜く事だけを考えればいい。
ある意味では特定勢力に居付くことに対する抵抗感からくる考えでもあった。自分の信じていたものに裏切られたという経験。レイヴンであればそんな事が無くなるという思い。だが、それも仲介組織であったレイヴンズアークによって打ち砕かれ、バーテックスによって居場所を失う。
「結構疲れるものだな」
中身を飲み干した紙コップを折りたたんで物入れに入れると、ヴィラスはコクピットの天井を仰いだ。
身体を休めた筈なのにまだ癒えていない様に感じる。肉体的なモノではなく、それは無意識に蓄積され続けていた精神的な疲労。経験したことの無いプレッシャーによるもの。
悪い事ではない。それが自身の生存本能を刺激させ、畏れを知る。戦場に向かう感情が以前と変わった。
ただ戦うだけの日々を送るのではなく、守るべき場所と人が出来た事による責任感。戦う事に意味をもたらせる。
あのガレージの襲撃はヴィラスの心境を大きく変化させていた。
夜は更に更けていき、頭上を照らす月の輝きが増してきた頃であった。通信が入る。基地司令からだ。
『レイヴン、緊急で申し訳ないが、また出撃を依頼したい』
「また敵機か?」
今のところ<ヴェスペロ>のレーダーには何も引っ掛かっていない。
『いや、違う。依頼内容は捜索任務と言ったところだな』
司令がそう言うと、モニター上にマップが表示された。
『既に聞いていると思うが、先の輸送機襲撃で輸送機の信号が消失した地点へ当基地の所属部隊と共に向かった調査隊からの音信が30分程前から途絶した。状況からして敵勢力と接触した可能性が高く、場合によっては救出が必要となる。そこで今最も早く動けるのが君だという事でそこへ向かってもらいたい』
「……これは断れない。受けさせてもらう」
『報酬は前払いで87,000コーム支払う。迎えの輸送機が約10分後に到着だ。すぐに準備を進めてくれ』
「了解」とヴィラスが答えたと同時に通信がルシーナの方に切り替わる。
『依頼受諾の処理はこちらで完了させたわ。──まだ帰れなさそうね……』
「仕方が無い。でも、またアイツらと遭遇する可能性はある。やり返せるチャンスだと受け取っておくよ」
この任務も輸送機を守り切っていれば起きなかった。自分のミスは自分自身で取り戻す。
「変えられる装備があれば変えておこう。準備する」
状況次第ではジェランと再び交戦する事だってあり得る。その時、どこまで自分が冷静でいられるか。
ヴィラスは一度、<ヴェスペロ>を格納庫に戻す。まだ残されている武装で使えそうなものがあれば使わせてもらおうと考えた。