ARMORED CORE LAST RAVEN ~Unsung Overture~   作:唯名瞬

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第6話「Result」

 街道を1台の四輪駆動車が駆け抜ける。クリフが運転する車だ。

 至るところに穴だらけだった道路は整備されて、路面の状態が2週間前の頃と比べて大分良くなっている。車全体を揺らすような不快な振動は殆ど無く、快適だった。

 アルバタ基地の一件からなんとか帰ってこられたが、<十字架の天使>の調査はあれから碌に進展せずにこの日を迎えた。

 映像ではっきりと捉えた姿から改めてデータベース等から探ってみたが案の定、該当機は無い。そもそもあの機体を構成するパーツ自体が正規なルートで入手して組み立てられた機体ではない可能性が落ちていたパーツからして高い。

 機体が去っていった方角にある基地や街等を割り出して調査するという手もあったが、アライアンスの勢力圏から外れたそこは様々な武装勢力によって日々勢力図が変わっていく不安定な場所。おいそれと単独で行ける様な場所ではない。

 そして、あの日以来白いACに関する情報も上がらなくなった。一定の目的を果たしたからなのだろうか、姿を見られたからなのだろうか。理由は分からない。

 クリフの上げたトピックは1週間程前に上がったそれらしい目撃情報を最後に更新されていない。

 今はムームやグリーン・ホーン等のレイヴンが率いる独立武装勢力の動向についての情報がサイト上で多くやり取りされていた。そして、特攻兵器襲来以降全く姿を見せていなかったレイヴンが駆るACの目撃情報も最近では出始めて来ている。中にはランカークラスのレイヴンの機体も存在する。

 日々拡大しつつある彼らの組織は他の勢力にとって脅威になり始めたのか、それに関連する調査依頼も段々と増えてきた。アメーバの様にくっついては離れ、大小変わるこの様相は暫く終わらないだろう。

 アルバタ基地の調査依頼をしたあの組織はどうなったのだろうか。クリフが報告書を送った後に解散したのか他の勢力に吸収されたのか、当初提示されていた報酬額の3割が振り込まれてから彼らの動向は分からなくなった。なんとなく予想は出来ていたのでそれ程腹は立たない。せめて生きていて欲しいものだとクリフはささやかに願った。

 

 クリフの視界にニュートレネシティの姿が見えてきた。腕時計を見やると時計の針は13時を少し過ぎたところだ。待ち合わせ時間は以前と同じ14時。時間にルーズだと自称するスカーフェイスの男は時間通りに来るのだろうか。

 検問所に近づくと街の入口から少し離れた所にアライアンス所属機だろう、複数の<CR-MT85>の系列機と<CR-MT83RS>の姿。更に遠くにはACと思しき影も何機か動いているのが見える。

 復興が進む傍ら、抗争は局地的に激しさを増している。何時、都市部に被害が及ぶか分からない。都市を守る戦力も必要だ。その為のACなのだろう。ACがいるだけでも頼もしさはあった。ACに対しては良い思い出は無いが、そこは認めざるを得ない。

 

 「よくまあ……」

 

「生きて帰ってこられたもんだ」と遠くに映るACの姿を見ながらクリフは小さく呟く。あの時咄嗟に動いていなければ、今ここにいる事は出来なかっただろう。アルバタ基地での戦闘の映像で一際目立ったのはACの戦闘力の高さとそれを扱うパイロットの技量によって大きく変わる戦況。改めて激しい戦闘であった事を思い知らされた。

 

 そして、自分がリサーチャーとして生きている理由も。

 

 クリフの家族は既にこの世にはいない。クリフが7歳の時に反企業体制組織が起こしたテロによって命を奪われた。テロリストが雇ったものなのか企業が雇ったものかは分からないが、確実に分かっているのはACがクリフの家族が乗っていたモノレールへ攻撃したという事だけだ。だが、そのACの正体は掴めていない。

 その後、クリフは敵討ちの為にレイヴンを目指したが、それは叶わなかった。16歳の時にレイヴンズアークが執り行うレイヴン試験で適正なしと判断されて落とされたからだ。

 それは当然だとクリフは思っている。碌な操縦レクチャーも無く、いきなりACに乗っていきなり実戦に参加。おぼつかない操縦で迂闊に敵へ接近して被弾。そこでパニックになり、そのまま作戦領域から離脱してしまったのだから。

 それっきりクリフはACに乗ることは無かった。あんな醜態を晒しているようでは一生掛かっても敵討ちなんて無理だと悟ったからだ。

 だが、クリフはリサーチャーという仕事の存在をその後すぐ知り、そこに光明を見出した。これで仇であるACと搭乗していたパイロットを知ることが出来る筈だと。まだその答えに辿り着くことは出来ないが、いつかはと思いながらこの仕事をしていたのだともう一度気付かされた。

 

 「どうかされましたか?」

 

 検問所のアライアンス兵が怪訝そうな顔でクリフを見ていた。どうやら少し呆けていた様に見えたらしい。

 

「いや、何でもない。暑さで少しボケっとしちまっただけさ」

 

 クリフは手を挙げて愛想笑いで返すと車を動かした。

 

 

 街の中に入ると2週間前とは違う様子を見せていた。廃墟となっていた区間が整備されて、幾つもの仮設住居が組まれており、作業用の重機やMTの姿が目立つ。思っていた以上の速いペースで都市部の復旧は進んでいるようだった。

 車は旧工業地区に入り、待ち合わせの場所であるビルの前に着いた。そこには軍用車両が1台停まっているのが見えた。時計の針は13時40分を指している。ディーネル中佐は既に到着しているようだった。軍の車両の後ろに駐車してクリフはビルの入り口に向かう。手には書類袋とジュラルミンのケース。

 ビルのエントランスホール奥の階段前には以前、ディーネル中佐の護衛に付いていた迷彩服の男が2人、銃を構えて立っていた。彼らはクリフの姿を見やると「中佐は5階でお待ちしております」と言って道を空けてクリフを通すと、再び階段の前に立ち、不動の姿勢に戻る。クリフは中佐の待つ5階まで階段で上がった。

 

 「今日は早いじゃねぇか」

 

 クリフはオフィス跡に入るとディーネル中佐に声を掛けた。中佐は折り畳み式の小さな椅子に腰かけて手帳を読んでいる。中佐が気を遣ってくれたのだろう。中佐の向かいにも同じ椅子がもう1つあり、同様に折り畳み式のテーブルも置かれていた。

 

 「ああ、今日は早めに来させていただいたよ。また君を待たせてしまっては失礼だからね」

 

 読んでいた手帳を懐のポケットに仕舞い込み、ディーネル中佐は言った。クリフは中佐に促されて椅子に座る。

 

 「では、結果はどうだったかな? 聞かせてもらおう」

 「説明するよりも見てもらった方が早いか。俺はびっくりしたが、中佐、あんたもびっくりすると思うぜ」

 

 ディーネル中佐の問いにクリフはジェラルミンのケースから端末を出す。先日、中佐から借りたものだ。

 端末に映像が再生される。ディーネル中佐は目を細めた。

 

 「これは……アルバタ基地か」

 「たまたま野暮用があってね。そこら辺うろついていたら撮れた」

 「偵察ポッドを使っての野暮用か……」

 「今回はそこを突っ込まないでくれ。仕事柄、俺もいろいろとあるんだよ」

 

 ディーネル中佐の声が少し低くなる。基地を撮られている事は中佐にとっては愉快ではないだろう。クリフは少し顔を引きつらせながらも笑って流そうと努めた。

 ディーネル中佐は小さく溜息を吐くと、端末に目を向けた。まだどうなるかは分からないとはいえ、クリフは内心ホッとする。

 

 「相手側の技量の低さに救われているが、我が方のパイロットの動きは良くないな」

 「あそこに居たのは新米パイロットだけだろ? 動きが皆ぎこちないからすぐ判るぜ」

 「アルバタ基地の兵員配備状況からしてそうだろう。確かにこうしてじっくり見てみると動きの一つ一つが固いな。操縦慣れしていない。ACに乗ってそれ程経っていない様に見える。訓練生を使ったか」

 

 映像を見ながらディーネル中佐は「ふむ」と頷く。

 

 「やはりレイヴンの存在は大きい」

 

  <スカルスカーレット>と<キャットフィッシュ>が映された場面を見てディーネル中佐の表情が少し険しくなる。顎に手を当て、2機のACの軌跡をなぞる様に視線を動かしていた。

 

「彼らではあの2機には敵わない。動きに雲泥の差がある」

「まあ、現役バリバリのレイヴンとじゃあな……新米パイロットが敵う相手じゃねぇよ。ましてやランカーなんて……。まぁいいや、そろそろ本命である<十字架の天使>のご登場だ」

 

 白いACが画面上に現れる。ディーネル中佐は双眸を再び細めた。初めて見る長時間戦闘だろう。元レイヴンだったという彼が<十字架の天使>の戦闘を見てどういう見解を出すかクリフは内心興味が湧いた。中佐は画面をじっと見据え、<十字架の天使>の軌道を追っていた。

 

 「これ程までに強いとはな。想像以上だ」

 

 映像を見終えて、ディーネル中佐は端末から目を上げて言った。

 

 「こんなもん撮れると思わなかったよ。まさか噂の<十字架の天使>を生で拝めるなんてな」

 「この映像は貴重な情報になる。情報部もこれで動かせるだろう」

 「中佐は何者だと思うんだい?」

 「これからじっくりと見てみなければ分からないが、並みのパイロットではないのは解るよ。オーバードブースト、レーザーライフル、レーザーブレードとエネルギー消費がいずれも激しい挙動を上手く管理している。それに敵の攻撃の意図を読み取ってからの反撃に移るまでの対応が速い」

 

 ディーネル中佐は映像を<十字架の天使>が<キャットフィッシュ>にレーザーブレードを切りつける場面に巻き戻して見る。その双眸は相変わらず細い。

 

 「レイヴンの可能性は高いが、まだ断定は出来ない」

 「旧企業軍のパイロットの可能性もあるよな。心当たりありそうかい?」

 「いや、無いな。もしかしたら旧キサラギが作り上げたACの操縦が出来る人造人間かもしれんぞ」

 「──…………ハァ!?」

 

 ディーネル中佐の出した唐突な言葉にクリフは驚きの声を上げる。なかなか突拍子な発言だったからだ。

 

 「都市伝説だろそれ? あんたがそんなジョークを飛ばすとは思わなかったぜ」

 「火の無いところには煙は立たない」

 

 ディーネル中佐はそう言い切る。その目と口調はクリフを笑わそうという意図は見受けられなかった。

 

 「あそこの技術者連中が研究をしていた話は聞く。その為の施設を建造していてもおかしくはないだろう。それ位の実行力があるのが彼らだ。可能性は無いとは限らんよ」

 

 その話はかなり有名な話だ。バイオ系の分野では三大企業の中で最も突出しているキサラギ社がその技術力を駆使した兵器を開発していて、その中のひとつに人造人間が造られているというもの。派生した話では体長50メートルを超えた二足歩行の怪獣だの、人間をゾンビ化させるウィルスだのと色々あるが、どれも与太話でしかない。

 だが、実際に虫類をベースにした生体兵器がレイヤードの時代から研究、開発されており、実際に稼働していた事。そしてナービス領内の紛争時にも後継の生体兵器が投入されていた事はアングラでは有名な話だ。無論それは一般に公表されていない。ディーネル中佐もそれは知っているだろう。だが、人造人間となると話はかなり飛躍している。

 

 「人造人間が操るAC……か。中々面白れぇ想像するな。中佐」

 「こんな状況だ。何が来ても驚くことはあるまい。ま、それは今後明らかにしていくとしよう」

 

 落ち着いた口調で話すディーネル中佐にクリフは思わず苦笑いしながら頭を掻く。そういった類の話は興味無さそうだったイメージがあった中佐の意外な一面が見えた気がしたからだ。中佐はそんなクリフを見て少し口元を緩めていた。

 

 「そうだ。あの白いACの呼称が決まったよ。アライアンス内では<UNE-009>のコードネームで今後呼ぶ事になる」

 「味気ない名前だ。<十字架の天使>はボツになったのか」

 「あまり好評では無かったよ。特に前線にいる士官からは仰々しい名前を付けるなとね。結局アライアンスに於ける命名規則に則り、所属不明機に付けるコードネームとなった。当然といえば当然だがね」

 「割と気に入っていたんだけどね。まあ、気持ちは分からなくもねぇな」

 

 前線にいる兵士からすれば二つ名を持つ敵の存在というのは戦意に影響を及ぼす場合もある。そう考えれば仕方がない。

 クリフは小さく肩をすくめると、書類袋をディーネル中佐に渡す。中佐はそれを受け取ると中から書類を取り出した。十数枚の報告書と提供された画像から推測した幾つかの機体構成予想図。そしてクリフがカメラに収めた<十字架の天使>の姿と製造番号が消えた<WH04HL-KRSW>の写真。

 

 「この写真は……フム……製造番号が消されたパーツ……やはりというべきか、簡単に正体は掴ませてはくれないか。アルバタ基地に落ちていた機体の残骸は全て回収した筈だが、この報告は無かったな。見落としていた」

 

 <WH04HL-KRSW>の残骸の写真を手に取り、ディーネル中佐は少し顔をしかめた。

 

 「綺麗に消えちまっている。まるでハナから刻印なんかしていなかったって位にな。仮に他のパーツが落ちていたとしても多分同じだろうよ。俺個人の意見だが、コイツは只のACなんかじゃねぇ。動かしているパイロットも同様だ」

 「単独行動のレイヴンという線は無くなってきたな。バックには何かいるかもしれんという事か」

 「アライアンス、武装組織関係なく襲っているから反アライアンスとかそういった思想は恐らく持って無さそうだが、心当たりはどうよ? 中佐。腕利きのパイロットと高級パーツを装備した機体だ。俺はそれなりの資金と設備は持っている連中だと思うぜ」

 

 大分短くなった煙草を口にしてクリフはディーネル中佐の顔を覗き込んだ。

 

 「君の意見を参考にするのであれば、恐らく企業軍の残党と技術者辺りかな」

 「なるほどね、割とそれに近い可能性はあるわな」

 「彼らも企業の意向に黙って従っていたわけじゃない。私が居たクレストがいい例だ。ナービス領での紛争で本社と支社の軋轢が激しく、末期は我々でもコントロールが出来なくなっていた。特攻兵器襲来後、消息を絶った企業軍の部隊や技術者は大勢いる。彼らが全て死んだとは思えん。もしかしたら徒党を組んで裏で動いている可能性は否定出来ない」

 「調べてみる価値はありそうだな」

 「まずは情報部に調べさせてみよう。必要であれば君にも動いてもらうかもしれん」

 「そん時は良い額の報酬でよろしく頼むぜ、中佐」

 

 ディーネル中佐は傷だらけの手に報告書を持ち、そこに綴られた文書を瞳で追う。

 

 「あの機体の仕業ではないものもあったか」

 「ここ最近勢力を伸ばしている連中もいる。今後はこいつ等の動向にも注意しないとな。割と厄介な相手だと思うぜ。レイヴンが中心の勢力だ。騙りかもしれねぇが、ランカーACの目撃情報だって多くなってきた。対策は練っておかないとまずいと思うぜ」

 「その為に複数の基地の増強を進めていたのだがね。アルバタ基地もそのひとつだった」

 「もう使い物にならないだろ。あの基地」

 「あの日、アルバタ基地を含め4ヶ所の前線基地への攻撃があったが、最も被害が大きかったのはこの基地だった。あの後、アルバタ基地へ実際に行って見させてもらったが、被害状況を見た限りでは再建には少なくとも1年以上は掛かる見込みだ。正直使い物にならない。残りの基地も1ヶ所は直ぐに奪還できたが、残り2ヶ所は武装組織に未だ占拠されている状態だ。はっきり言って大敗といってもいい。西部方面軍の展開は……まあ君は察しているな」

 「ズタボロもいいとこだな。損失した戦力の補充を考えると頭が痛くなるねぇ」

 「戦術部隊がグリーン・ホーンの居た本隊を叩いてくれなければ基地があと1つ、2つやられていてもおかしくは無かった。そうなれば中央深くやられて本部近くまで押し寄せられていたかもしれん。それだけに戦術部隊とこちらで何人か雇ったレイヴンの動きは称賛に値するよ。惜しむべきはグリーン・ホーン本人を取り逃がしてしまった事だな」

 「本隊をボロボロにされたにも関わらず、次の日には部隊を再編して攻撃を再開。そのバイタリティーだけは尊敬できるぜ、あのレイヴン。俺のところに入っている情報だと、グリーン・ホーンのとこもあの戦闘で組織のナンバー2と3が共にやられてブレーンがいなくなっちまったみたいだな。他の組織から引き抜きを計っているみたいだけど、そう上手くいっていないみたいだ。一部施設の奪取には成功しているし、少しの間は大人しくなるとは思う」

 「向こうも手痛くやられているからな。彼らの脅威度は少しだけ低くなる。それが多少の慰めにはなるよ。彼らが立て直しを図る前に基地の奪還の準備をせねばならない」

 

 そう言って深々と嘆息したディーネル中佐は2枚の写真に目を見やる。

 

 「それにしてもこの近距離でよく撮れたものだ。わが軍の情報部エージェントでもこうも上手くはいかないだろう」

 「ああ、これで一生分の運を使い切っちまった気分だ。こんな事、二度と起きねぇって確信できる」

 

 クリフは胸ポケットから取り出した煙草に火を点けた。吐き出した紫煙がオフィス跡の天井に舞い上がる。

 

 「だが、私の期待以上の結果を持ってきてくれたよ。よくやってくれた。クリフ」

 

 厳しそうな表情から一変して口元を緩めたディーネル中佐は椅子から立ち上がって、傷だらけの手をクリフに差し出した。

 

 「そりゃ、良かった。で、どうするんだい? <十字架の天使>いや<UNE-009>の調査は? 続けるつもりかい」

 

 クリフも立ち上がり、その傷だらけの手を握る。

 

 「思っていた以上の成果だ。私としては十分だよ」

 「この依頼は一旦終了にするってことでいいんだな?」

 「そうしよう。この依頼自体、君にはかなり手間を掛けさせてしまったからな。後は我々の方でやらせてもおう」

 

 それを聞いてクリフは小さく溜息を吐く。それは厄介な依頼からはひとまず解放されるという安堵のものだった。

 

 「では報酬の方だが、最初提示した通り、20,000ドル満額でしっかり払うとしよう」

 「ありがたいぜ、中佐。体張った甲斐があったよ」

 

 報酬は満額。それに加えて調査の終了と聞いてクリフの表情は明るくなる。

 

 「しかし、ランカーレイヴン2人が戦死か。敵対勢力に属していたとはいえ、惜しいものがある」

 「元レイヴンである中佐としちゃ思うものはやっぱりあるのかい?」

 「難しい質問だな。アライアンスの士官という立場としては厄介な敵がいなくなったという安心感はあるが、彼らのような実力者が戦力になってくれればという気持ちもある。本部部隊の戦力では戦術部隊と肩を並べようとするにはまだ不足感は否めない。本部部隊にもレイヴンは必要だ」

 「本部部隊のレイヴンか。良さそうな奴はいるのか?」

 

 新しい煙草に火を灯し、天井に向けて紫煙を吐き出すとクリフはディーネル中佐の方を見やる。何気なく言っているが、アライアンス内の部隊編成の事情も色々と探っておこうという意図もあった。

 

 「……検討中とだけ言っておこうか。レイヴンもここ数ヶ月の戦闘でだいぶ淘汰されてきている。だからといって誰でも良いとはいくまい。それならば私でも出来るぞ」

 

 ディーネル中佐は苦笑いに似た表情を浮かべた。彼がこうした表情を見せたので少し驚く。さっきの人造人間の発言といい、堅物だと思っていた彼がこんな顔を見せてくれるのはある意味新鮮だった。思わず笑いが込み上げてきそうになるが、何とか堪えてそれを誤魔化すように紫煙を吐き出した。

 

 「だからこそ<十字架の天使>をどうにかしなければならない。誰が乗っているのだろうな。早く明らかにしてみたいものだ」

 「あんたが言った人造人間が本当に乗っていたらどうするんだよ」

 「それは面白いな。人間ではないものと交渉のテーブルに着く……か。色々と聞けそうだ。創造主はキサラギか? それとも厭世的なマッドサイエンティストか?」

 

 クリフは先程とは一転していぶかしげに目を細めてディーネル中佐の顔を見た。中佐は本気で考えているのか、自分の意図を汲み取ってわざとこんな発言をしているのか、今は全く読めない。だが、この様子をみると中佐なら仮に人造人間相手を相手にしても平然と会話していてもおかしくはない気がしてきた。

 

 「……しかし、グリーン・ホーンも中々大胆なことをやりやがる。こんな大攻勢、そう簡単にやれるもんじゃねぇな」

 「だろうな。レイヴンとしての経歴はそれ程長くはなく、総合ランクも中位クラスだったレイヴンにしては思い切った行動だろう」

 

 中佐は小さく頷く。

 

 「俺の予想だが」とクリフは咥えていた煙草を吐き捨てる。「裏で手を引いているのが居そうだ。それも割と大きめの情報網を持っている。あの襲撃、アルバタ基地がしっかり増強されている事を把握しての襲撃だった」

 「そこは私も同感だよ。確かにグリーン・ホーンの組織は拡大し、影響力も大きくなり始めているが、今回の一連の襲撃はいち組織が動かす行動にしては不自然な部分はある。襲撃自体は彼が首謀者だが、それをセッティングした者が別にいる気はしていた」

 

 ディーネル中佐の少し緩んだ顔がまた引き締まり、床に置いてあった鞄からタブレット端末を取り出してクリフに見せた。

 

 「まだ見せるべきか迷っていたが、やはり見せるとしよう。ランカーACの目撃情報が増えたことも関係しているかもしれん。非常に面白いものが写っている。君はどう思うかね?」

 

 タブレットの画面に表示されていたのは1機のACのシルエットが渓谷を飛び越えようとしている写真。それを見てクリフは「ほう……」と静かに驚嘆の声を漏らした。

 

 そのシルエットは重量二脚型のACで右腕には<WH04HL-KRSW>を、両肩には<CR-WBW94M2>と思しき装備をしている。機体構成は少々変わってはいるが、不鮮明な画像でもハッキリと映える銀と空色のカラーリングは間違いなくあのレイヴンのACであろう事は予想が付く。

 

 「……<フォックスアイ>──こいつはジャック・Oか」

 

 クリフの言葉に中佐は「そうだ」と頷く。特攻兵器襲来以降、消息が不明だったレイヴンズアークの主宰が駆るAC<フォックスアイ>。

 

 「あの襲撃があった日、武装組織の勢力圏付近で偵察任務に就いていたMT部隊が撮影したものだ。別の地点ではこんなものも撮れた」

 

 次に表示されたのは地上をブースターで移動している茶系統のカラーリングがされた軽量二脚型のACと鮮やかな紫色の逆関節型のAC。この2機もクリフは当然知っている。元ランカーレイヴンの”鳥大老”が駆る<エイミングホーク>と”ライウン”の<ストラックサンダー>だ。彼らもジャック・O同様に特攻兵器襲来以降、消息が不明だったレイヴンだ。

 

 「ランカーレイヴンが3人。それもトップクラスの連中。今まで生きているかもわからなかったのに、同日に動き出しているっていうのは出来過ぎだな」

 「写真は無いが、<ウコンゴ・ワ・ペポ>と<テルプシコレ>の姿も確認されたという情報も入っている」

 「そいつらも上位ランクの奴だったな。こいつらまさか……?」

 「彼らを騙った者の可能性はあるかもしれんが、恐らく本物だろう。そして彼らはひとつの組織を築いている」

 

 中佐は頬の古傷を撫でながらクリフの言葉に僅かに頷いて答えた。

 

 「……まあ、表立った行動を見せていないからすると、まだ隠密行動のつもりなのだろうが、これから君も私も忙しくなると思うよ。敵は増える一方だ」

 「もっと復興をアピールしてやれよ。少しは溜飲を下げてくれるかもしれないぜ」

 「治安維持も立派な復興アピールさ。……他の事に関しては満足にやっているかと聞かれると即答に困ってしまうがね」

 

 そう言ってディーネル中佐は腕時計を見やると「少し雑談し過ぎたな」と呟き、下にいる護衛の2人を呼び出した。引き上げるつもりだ。

 

 「<十字架の天使>に関して再び調査を行う必要があれば、是非とも君に任せたい」

 「俺としちゃ関わるのはもう勘弁してもらいたいよ。あの日は帰り道にも苦労したんだからな」

 「君は<十字架の天使>と相対して生きて帰ってきた人物だからな。私個人としては情報部にいて欲しい人材だよ」

 「さっきも言った通り、運が良かっただけさ。それに、俺はフリーだからこうしてやっていけているんだ。組織に納まるつもりは全然無いぜ」

 「それは残念だ」とディーネル中佐はかぶりを振るとクリフをジッと睨みつけた。「ただ、前線の各基地には警備体制を見直すように打診せねばな。偵察用ポッドを基地周辺に飛ばされているような緩い警備はもうさせることは無いだろう」

 

 明らかな警告だった。今回は大目に見てもらえそうだが、恐らく次は無いだろう。今度似た様な依頼が来た場合は別の方法を考えなければならないなとクリフはおどけた表情で誤魔化しながらオフィス跡から去るディーネル中佐を見送った。

 

 オフィス跡内に独り残ったクリフは窓辺に腰掛けた。外からはどこかで遊んでいるのか、子供の声が遠くに聞こえてくる。再び紫煙を吐き出し、薄汚れた天井を見上げながらあの白いACの姿を思い出す。

 あの映像は帰ってきてから何度も見てみたが、結局誰が操縦しているのか判明することは出来無かった。ディーネル中佐の言う通り、動きに無駄が無く、容赦ない攻撃。元アークのランカーACを2機同時に相手しても退く事無く叩きのめしてしまったあのACの搭乗者は只者ではない事は容易に分かる。

 最初はレイヴンズアークで最強と言われていたジノーヴィーではと疑った。戦い方が一番近いと感じたからである。しかし彼はクレスト社と深い関わりがあったレイヴン。そして映像に映された機体のコアはクレスト社製ではあるが、それ以外の部位はミラージュ社製。武器も同様である。ナービス領の紛争末期にクレスト本社と確執があったとは言え、長年使い慣れたクレスト製のパーツを切り捨てて他社のパーツをいきなり使い出すような人間ではない。彼のパートナーとも呼べる”赤い星”こと”アグラーヤ”も同様だ。ディーネル中佐の言っていた人造人間も有り得なくはないなと一瞬思いそうになってしまった。

 しかし、レイヴンズアーク所属レイヴンだけでもまだ所在不明のレイヴンは数多く居る。その中でもランクこそは低いとは言え任務遂行率の高いレイヴンも居るのは確かだ。アークから離反して行方不明となっている”野良レイヴン”も多数居る。そういったレイヴンの大半は死亡扱いされているが、確定しているわけではない。

 少し時間を掛けて調べれば色々と出てきそうな気もしないでもないが、これ以上はアライアンス軍情報部の仕事だ。いずれはあの機体も公表されて、懸賞金が掛けられることだろう。あれだけの事をしでかしているのだからリム・ファイアーまでとはいかなくてもジナイーダに次ぐ高さになる可能性はある。各武装組織からもマークされるのも時間の問題だろうなとクリフは思った。

 

 「まあ、精々頑張って正体を探ってくれよ」

 

 そう独り呟いてフィルター付近まで短くなった煙草を吐き捨てて靴で揉み消すと、ジャケットの胸ポケットから煙草の箱を取り出して中身を見る。箱の中の煙草は残り4本。煙草はこのご時世、手に入れるのも難しくなってきた。自宅に置いてある在庫も心許ない事を思い出して火を点けるのをやめた。大事にしておきたい。

 

 ビルから出たクリフは身体を大きく伸ばした。初夏の暑い日差しがクリフの肌を強く刺すがそれが今は心地良い。妙な依頼が一段落したという達成感と解放感がようやく湧き上がってくる。暫くは依頼を受けなくても十分な生活が出来る報酬を受け取るが、途切れることのない依頼をこれからも捌かなければならないだろう。

 

 「たまには冷えたビールの一杯くらいは飲みたいぜ……」

 

 酒も同様だった。今は手に入れることが非常に困難な代物。かつては仕事が一段落した後の楽しみだったものに思いを馳せながら車に乗り込もうとした時、クリフの持つ携帯端末から電子音が鳴る。

 調査依頼のメールかとクリフは端末のメールソフトを立ち上げた。新着が1件入っている。そして送信元のアイコンは翼を広げた鴉を象ったエンブレム。見覚えがあった。

 

 送信者の名前は”バーテックス”。

 

 「これはこの間の……襲撃側の連中か」

 

 メールを見たクリフの目が思わず細くなる。「取引」というタイトルに本文はニュートレネシティ内の住所と待ち合わせ時間だけが記されている。それは今日の日付で指定されていた。

 

 (見られているな……)

 

 待ち合わせの指定時間は16時30分。現在の時刻は丁度、16時になったところだった。ご丁寧にクリフがビルに入っていく瞬間の写真も添えられている。明らかにクリフがこの街にいる事が分かっていて出したものだ。広い情報網を持った組織なのか、他の武装組織とは違う雰囲気を醸し出していた。

 クリフは辺りを見渡すが、相変わらず子供の声が遠くに聞こえてくるだけで人影は見えない。

 あまりにも短い内容であるが、バーテックスと名乗る組織が何を求めているかクリフは分かった気がした。<十字架の天使>だろう。あの白いACについて彼らも知りたい事があるからコンタクトを取ってきたのだ。襲撃側から何かしらのコンタクトを取って来るかもしれないと予想はしていたものの、かなり早い段階で接触を図ってきた事にクリフは驚いた。

 

 「まったく、どうやって知ったんだか……」

 

 ここまで知られれば逃げる事は難しいだろう。クリフは観念したかのように苦笑いを浮かべながら車に乗り込んだ。

 

 

 クリフが運転する車は再整備されている街の中心部に進む。人の行き来が激しく、道路も同様に工事関係だろうかOAEの車両や資材を乗せたトラックが走行している。その傍らには仮設住居が立ち並び、街の形として成り立ち始めていた。

 メールに記載された住所に辿り着く。ここも仮設住居が建てられる予定の場所だろう。簡易式の事務所とその周りには建築資材が至る所に置かれている。クリフは工事関係者の車の横に自分の車を停めて降りた。現場は作業員の声と重機の音が引っ切り無しに聞こえてきて騒がしい。クリフは周りを見渡す。どこかにいる筈だが、それらしい人影はまだ見えない。

 

 「クリフ・オーランドね?」

 

 クリフの背後から突然、女性の声が飛んできた。工事の音に気を取られていたせいで、全く意識外の所から声が来たのでクリフは思わず背筋が伸びた。

 振り向いた先にはスーツ姿の女性がひとり立っている。艶を帯びた黒のセミロングの髪にクリフより少し小さめな体格で、年齢はクリフと同じくらいの印象だった。ダークブルーの瞳が際立つ目鼻立ち整った顔をしており、なかなか美人だなと思いつつもクリフは顔に下心を出さないように冷静を装った。

 

 「違いますっていっても通用しねぇだろ。バーテックスの姉ちゃん?」

 「シェイン・ファレム。バーテックスのエージェントをやらせてもらっている者よ」

 

 シェインと名乗る女性は少し笑みを浮かべながら右手をクリフに差し出した。

 

 「あんたみたいなのが武装組織のエージェントとはねぇ。リサーチャーだったのかい? この界隈にはそこそこの年数居ると自負しているが、見ない顔だな」

 

 クリフは差し出された彼女の右手を見ると、自身も右手を出して彼女の手を少し強めに握り返す。

 

 「……いえ、元は民間の調査会社に所属よ。まあ、似た様な事はやっていたけど、あなたみたいに荒事な方面には関わっていなかった」

 「そうかい。そんな綺麗な方面でお仕事をされていた方がバーテックスなんていうゴロツキ集団にいるのはびっくりだよ」

 「生きる為。私にとってはこの選択がベストだっただけよ」

 

 クリフが握った手を離すとシェインは静かに言い放つ。それを見て、なかなか肝が据わっているなとクリフは思った。待遇面でいえばアライアンス軍の情報部辺りに居た方が良さそうだが、敢えて構成員の大半がパイロット崩れや傭兵といった荒くれ者が多いであろう武装組織に入ったのだ。それでいてエージェントという職務。相当な覚悟が無ければやれる事ではない。

 

 「挨拶はこれくらいにしてビジネスの話でもしましょうか」

 

 シェインはクリフを手招くと自身が乗ってきた車にクリフを乗せた。車には誰も乗っておらず、二人きりだ。

 

 「俺が今日、ここに来るってよくわかったな」

 「あなたの顔、自分が思っている以上に割れているのよ。それにこの街には我々の組織に協力している人間は何人もいる。あなたが来た事を知るくらいはそんなに苦労するものでも無いの」

 「有名人になったもんだね。俺も」

 

 シェインの言葉にクリフは苦笑いを浮かべて頭を掻いた。ニュートレネシティでの行動はバーテックスという組織には筒抜けであった。恐らくここだけではなく他の街にもこういった協力者がいるのだろう。今後は身の回りも一層用心深くしなければならない。

 

 「取引内容はアライアンスのアルバタ基地を攻撃した所属不明ACについての情報」

 

 「やはりな」とクリフは心の中で呟いた。予想通り、バーテックスも<十字架の天使>についての情報を欲している。雇い入れたであろうレイヴン。それもランカークラスのレイヴンをやられているのだから情報を欲しているのは当然の事だろう。将来の戦力としてか、または抹殺対象としてかはともかく、バーテックスを束ねている者もこのACには興味を抱いているのかもしれない。

 

 「俺が体張って手に入れたもんだぜ。タダじゃあやらねぇぞ」

 「もちろん、それ相応の額は出すわ。アルバタ基地にあなたが行っていた事も調査済。あそこであなたが見たものはとても価値あるものよ」

 「アライアンスからの依頼でね。あちらもその所属不明機にはかなり興味をお持ちだったよ。アライアンスはドルで20,000の報酬を出してくれた。あんたらはどうだい?」

 「同額以上を希望のようね。モノは?」

 「そりゃ当然。だが、モノは残念ながら今は持っていない。今日持ってきたのはアライアンスの士官に渡した分しかなくてね。オリジナルは俺のねぐらにある」

 「わかった。この後送金する額を決めたら連絡する。そうしたらアライアンスの士官に渡したものと同様の物をこちらに送ってもらえるかしら? コームかドル、支払い方法に希望はある?」

 「情報の引き渡しは了解だ。支払いはおたくらが払いやすい方でいいぜ。入金が確認出来たらちゃんと送らせてもらうよ」

 

 クリフは手で「OK」のサインを出して笑って答えた。それを見たシェインは満足げに小さく嘆息した。

 

 「いいのかい? この情報だっていずれはアライアンスが公表するかもしれないんだ。そんな急かして取るもんじゃないと思うんだが?」

 

 クリフはシートに身体を預けながらシェインに聞いた。アライアンスがここまでの調査をするのだから今後はこの機体も公になるとクリフは考えていたのだからバーテックス側のアクションは少し意外なものに感じていた。

 

 「そうとも限らない。現在だってアライアンスはアルバタ基地の一件については武装勢力の攻撃としか伝えていない。所属不明機については全く触れていなかった」

 

 シェインの答えにクリフは「なるほどね」と、小さく呟いた。

 アライアンスはあの後、アルバタ基地を含む4つの基地が攻撃を受けたことを発表していたが、どれもグリーン・ホーンの組織と連合を組んだ組織による攻撃だと断定していた。アルバタ基地を攻撃した所属不明機については一切触れていない。あの混乱状況からそこまで気が回っていない可能性もあるが、少し不自然な気もする。

 

 「アルバタ基地を攻撃した日、我々バーテックスは他の基地の攻撃を行ったけど実質失敗したのはアルバタ基地だけ。私たちの組織が雇ったレイヴンからアライアンス所属でもない機体が現れたという情報は受けていたの。結局、そのレイヴンもやられてしまったけど」

 

 パーシガー888とサバスの事だ。彼らの駆るACが葬られていく様をクリフはモニター越しに見ていたから分かる。

 

 「所属不明機にあんたの所の兵隊がやられているからバーテックスでも独自にその正体を知りたかったってとこか」

 「それはある。それ以外に色々と上は考えているらしいけど、私がこれからどう動くか、あなたがくれる情報が足掛かりになる」

 

 クリフの問いに涼しげな表情で答えたシェインはバーテックスに報告の連絡をしているのだろう、手元に持っていた携帯端末を操作した。

 

 「取引は成立ね」

 

 シェインは再び右手を差し出した。今度は右手を軽く握り返す。

 

 「ああ、ドルでもコームでもいいからちゃんと金払ってくれよ」

 「そこは信用してもらってもいいわ。ありがとう。クリフ」

 「これは興味本位で聞くんだが、あんたらの組織……バーテックス。レイヴンを雇う位のデカさらしいけど、何をやろうっていうんだ?」

 「……それはすぐに分かる。機は熟した。そう言っておきましょう」

 

 シェインは微笑を浮かべながらそう言って工事現場から離れていく。

 これから自分に払う金額の調整を組織の人間とするのだろうとクリフは見送りながら思った。バーテックスから支払われる金額を合わせれば、中古の作業用MT1機くらいは買う事が出来る程の金が手に入る。喜ばしい事だが、厄介そうな相手をしてしまったなとクリフは複雑な気持ちになる。

 機は熟した。その言葉はどうやらバーテックスという組織は相当な根回しもしている様だが、何をしでかしてくるのか。クリフは小さくなる車の姿を見ながら、またリサーチャーのコミュニティが騒がしくなるだろうなと予感する。

 そして<UNE-009>こと<十字架の天使>だ。リサーチャーとしての直感というわけではないが、自分が望まなくともこの<十字架の天使>とまた関わるのだろうなとふと考えてしまった。

 

 夕焼けの空に月がうっすらと見えている。それをぼんやりと見つめながらクリフは煙草に火を点ける。節約するつもりだったが、今はこうして吸わないと胸の内から湧き上がる不安を紛らわすことが出来なかった。

 

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