ARMORED CORE LAST RAVEN ~Unsung Overture~   作:唯名瞬

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第66話「Path」

 道筋が分かってもそれに乗る為の方法が見出せなければ意味がない。

 シェイン・ファレムを見つけ出す。そしてジノーヴィーの端末を取り戻す。

 この目標を実現するにはまずリターナーの拠点があると思われる旧ナービス領に入ることが前提だ。しかし、その場所はリターナーだけではなく独立勢力が幾つも跋扈する地帯。安易な準備で向かえばあっさりと命を落としかねない場所。

 入念な準備が必須。クリフたち4人ではやはり厳しい。そこでケインズが傭兵のコネを使って助っ人を雇ってみると出かけて行った。

 どんな人間が来るかは分からないが、戦闘が出来ることは間違いない。戦闘力が乏しい自分たちにとって目的へ辿り着く為の必要な戦力になる。

 良いコミュニケーションが取れるかは連れてくる人物次第だろうが、そこはケインズに取り持ってもらおうとクリフは端末を触りながら考えていた。

 クリフとKDはアライアンスとバーテックスの兵力の動向を調査することにした。旧ナービス領方面に向かった兵力と交戦記録。それらを突き合わせてリターナーの拠点を探し出す。確実性はそれほど高くないが、広い領内を当ても無く探すよりも可能性は高くなる。

 

 「順調?」

 

 チトセが2人にコーヒーの入ったコップを渡してきた。

 「残念ながら」と言ってクリフはひと口啜った。代替豆特有の薄い香りはこの半年で慣れきっている。ただ、味だけは思い起こすとやはり違和感。KDも「簡単じゃないねぇ」とクリフに続いて嘆く様に言う。

 

 「時間は掛かりそうか……」

 「向こうにいるのはリターナーだけじゃねぇからな。ACがいたとか分かり易い情報が入ってくれれば良いが、今のところ手応えは無い」

 「すぐに分かるなんて思ってはいない。私もバーテックス側の動きを出来る範囲で探っておこう」

 

 その時、ドアの開く音。ケインズだろう。聞こえてきた足音は複数。もう連れてきたのかとクリフは思った。

 だが、部屋に入って来たケインズの様子でそれは違うことであり、そして状況が良くない方向に向かっている事に気が付いた。

 口を一文字に閉ざしたケインズと共に入って来たのは黒いスーツ姿の男が3人。ひとりはケインズの背中に銃を押し付けている。

 

 「すまん……」

 

 ケインズが謝罪の言葉を小さく出した。他の男たちも銃を取り出してクリフらへ銃を向けた。妙な動きをすれば即座に撃つと言わんばかりの威圧感。クリフたちは観念して大人しく抵抗をしないという素振りを出すとそのまま部屋の隅に追いやられる。

 

 「まさか生きているとは。嬉しい限りだよ、リサーチャー君」

 

 続いて部屋に入って来たのはハイブランドと思われるダークグレーのダブルスーツを着た壮年の男。その隣には長身の美女をひとり引き連れていた。

 その男の正体をクリフは知っている。レイヴンズアーク運営メンバーで最高責任者のひとり、ブライアン・ディートリヒ。テレビや軍事誌はもちろん、粗悪なタブロイド紙など様々なメディアで何度も見た顔と名前であった。

 

 「我々の大切な備品を持ち出して、挙句の果てにテロリストに奪われるという間抜けなヤツにしては悪運の強さだけはまあまああるみたいだ」

 「互いにそうじゃねぇかな? あんたらもバーテックスの襲撃の時にくたばったかと思っていたよ」

 

 皮肉な笑みを浮かべてクリフはそう返す。

 

 「私は君みたいな無為無策な人間ではない。退却する手筈はあの時既に整えてあったよ。退避する先だって用意してある」

 

 クリフの皮肉など意に介さないと言わんばかりの不遜な表情と声。その様はメディアを通して何度も見たブライアンの姿そのままであった。良い意味でも悪い意味でも裏表は無いようである。

 

 「レイヴンズアークは消滅した。せっかく生き残ったんだ、大人しく引っ込んでいれば良いのによ」

 「あまり余計なお喋りはしないでもらおうかな、リサーチャー」

 

 ブライアンは低い声で言い放つと、クリフに銃を向けた。

 

 「屈辱はいずれ晴らす。我々はこのまま終わるつもりは無い。レイヴンズアークの復興、君たちにはそのきっかけとなる第一歩を手伝ってもらう」

 「俺たちみたいな只の凡人に何させようってんだよ」

 「その凡人どもがやらかした尻拭いだ」

 

 それを聞いてクリフはその内容がどんなものであるかすぐに想像ついた。自分の表情も苦いものになっているのが自覚できる。

 

 「リターナーに盗られたジノーヴィーの端末、それを取り返せ」

 「──実は俺らもそれをしようとしていた。けど、問題があってね……何処に持っていかれたかはまだ分からない」

 「それは残念だ。だが、それは我々の方が一手先だったようだ。──旧ナービスの前線基地にある。盗んだ張本人もな」

 「シェイン……いや、シュエットだな。そこまで分かっているのか?」

 

 チトセが食い入るように尋ねた。その人物に心当たりがある。

 

 「何もリターナーにいるのが純粋な反逆者どもだけではない。アライアンスとまだ繋がっている者だっている」

 

 どうやら自分たちよりもリターナーの事情を把握しているらしい。それと同時にあの組織も一枚岩という訳ではないということが判った。

 そしてブライアンたちのバックに居る者もだ。既に端末の存在は彼らにも知られている。

 

 「アライアンスのお使いか……アーク復興って言ってもアライアンス頼りなのはおたくららしい」

 「今世界を治めているのは何処だと思っている? 結局は企業がこの世を治めなければならない。第三の選択肢? 所詮、リターナーとやらの言葉もバーテックスと変わりない夢想家どもの妄言なのだよ」

 「相当気に入らねぇみたいだな。バーテックスもリターナーも」

 「当然だ。何よりレイヴンたちが好き勝手動き回っているこの状況は許されないのだよ。ACは玩具ではない。──レイヴンなど枷が無ければただの害鳥だ」

 

 嫌悪感を剥き出した表情でブライアンは両手を大きく広げながら言葉を出した。

 要はレイヴンをもう一度自分たちの管理下に置きたいのだろうと最後の言葉で察することが出来た。だが、その為にはアライアンスへ対して相当な支援を求めなければならないのは分かった。仮に復興できたとしても、それはもう以前のレイヴンズアークではない。企業の介入が入った別組織というよりもアライアンスの私兵団に近い存在だろう。

 ブライアンはそれになる事へなんの躊躇いも無い様だ。寧ろそうしようとしている。組織の崩壊の末に秩序と組織を天秤に掛けた結果なのかもしれない。

 

 「──さて、話を戻そう。やることは簡単だ。現地に潜入し、端末を持ってきて我々に渡せ」

 

 「ただし、君一人で行ってもらう」とブライアンはクリフを指差す。

 

 「……なんだと?」

 「お仲間はこちらで預かる。当然だろう、ハッカー集団の頭にバーテックスの工作員とならず者の傭兵。──そして何の取柄もないリサーチャー。そう、君が一番抑え易くて動かし易い。安心しろ、見張りに私の部下をひとり付けさせてやる」

 

 そう言ってブライアンは黒服のひとりを顎でしゃくると小柄な黒い短髪の男が頷く。

 

 「ホンロンだ。元軍人で戦闘は出来る」

 「それは頼もしいことで」

 

 クリフはホンロンと呼ばれた男を見やる。針の様に細い目からは表情は読み取りにくいが、決して仲良くはなれないだろうと確信できた。

 

 「早速支度をして行って来てもらおう。逃げようなんて思うなよ」

 

 ホンロンに首根っこを掴まれて部屋から出されるクリフ。その視線の先には見下す様な表情で見つめるブライアンの姿があった。

 

 

 

    *     *     *

 

 車とヘリコプターを乗り継いで旧ナービス領に入る。その間ホンロンとは一切言葉を交わさなかった。

 喋る話題が無いのもあるが、敵と仲良くするつもりは無いので必要なこと以外は口を閉じておこうと決めていた。

 それよりもどうやって逃げるかの方が重要だ。端末を仮に取り戻せたとしてもアークに持っていかれる。KDたちも人質にされている。この状況を好転させる方法を今は何も思い付かない。

 暫くしてクリフたちの乗るヘリコプターが工場跡らしき場所に着陸。そこにあったのはクレスト製の軍両車両。

 どうやらこれに乗って基地まで行くようだ。ある程度の準備がされているのはアライアンスがこの蜂起を利用して何かしら企んでいるらしいとブライアンの言葉を思い出す。

 そこから更に4時間後、車はリターナーの基地に近づいてきた。その周辺で動くMTらしき機影も見える。

 どうやって入るのかと思っていたら堂々と正面ゲートを潜っていく。ただ、ゲートにいた守衛はホンロンの顔を見ても何も言わずに何かを渡して通した事からこの施設にはアークまたはアライアンスに通じている人間が何人も入り込んでいると分かった。

 

 「見ておけ」

 

 初めてホンロンが口を開いた。クリフの膝の上に──ホンロンが守衛から渡された──タブレット端末が投げられる。それを手にして画面を眺めると画面には施設の見取図が複数枚表示されていた。

 

 「この中の何処かに目標の端末が置いてある」

 「探れってことね」

 「リサーチャーなら出来るのだろ?」

 「……リサーチャーはそんな万能じゃねぇ。──少なくとも俺はな」

 

 ただ見取図だけ見せられても端末のありかなんて分かる筈もない。少なくとも人員なり物資等、何かしらの動きに関する情報が無ければ探る術も出てきやしない。

 

 「──なんだよ、あるのか」

 

 前言撤回と言わんばかりに苦笑いを浮かべるクリフ。見取図とは別にファイルがあり、そこには施設の人員に関するデータがあった。これならある程度きっかけが作れる。ただ、時間は少ないだろう。

 データを読み進めていくと、ACの出入りに関する情報もある。シェインの<ユーアンヴェール>に加えて特務部隊所属AC<ズーフェンダー>に本部所属だったACが3機。正確な数は出ていないが戦闘用MTも20機前後がこの基地に配備されているとのことらしい。

 兵力を含む人員もある程度配備されている。企業軍の小規模基地と同等くらいの大きさだ。

 

 「兵舎はここか……シェインがリターナーでどんなポジションにいるかにもよるが、普段はここにいるだろうな」

 「そいつが常に持っているとは思えん。別の場所にあるということも考えられる。簡単にいくと思っているのか」

 「そりゃそうだ。──けど、知っていそうなのはシェインだけだぜ。直接聞き出すっていうのも手じゃねぇのか?」

 「そんな事が出来るのか? 相手はレイヴンだ、交渉の出来るような人物か? そいつは」

 「直接コンタクトしたことあるんだ。出来るさ」

 

 クリフは少しだけ苛立ったように言い放つ。ホンロンの妙にネガティブな言い方が気に食わない。

 車がハンガーの横で停まる。

 

 「では、兵舎に忍び込んでシェインという女を探して聞き出すか?」

 「今すぐに端末を持っていきたいのなら、一番可能性があるのはそれだろう。時間をもう少しくれれば人員構成に建屋内の配置とかもっと詳細にして場所の絞り込みが出来るけどな。どうだい?」

 「……それは無理だ」

 

 クリフの提案に対してホンロンは目を合わさず即座に拒否の回答。

 

 「何でだ?」

 「我々はあの端末の確保を最優先としているからだ」

 

 確かにここで長々と捜査するのは出来ない。それはもっともらしい答えだが、視線を急に合わせてきたホンロンの動きから何か裏がある様だとクリフには聞こえた。

 

 「お前の言う通り、兵舎から探ってみよう。だが、15分が限界だ。ダメなら即座に別のところに移る」

 

 持っていた拳銃の状態を確認してホンロンは車から降りた。どうやら自分は丸腰で行かなければならないらしいと察したクリフは溜息を小さく吐いて車から降りる。

 

 

 兵舎には何事もなく入ることが出来た。

 途中何人かとすれ違うも、何か言われることは無いのはリターナーの構成員がアライアンスだけではなく独立組織の人間も含まれているからだろうとクリフは考えた。制服姿のアライアンス隊員もいれば、ラフな服装をした者もいるせいで自分の様な侵入者が紛れているとは一見では見分けがつきにくい。挙動さえ気を付ければ即座にバレることは無い筈だと安心する。

 クリフはとりあえず兵舎に戻って来た隊員という振る舞いで中を見ることにした。

 やはりアライアンスと独立組織の人間の質は違う。通路や踊り場でたむろして下らない話で盛り上がっている者たちへ制服姿の者が嫌悪感を隠さない表情でそれらから目を逸らしている。

 末端はやはりこんなものだろう。そこはバーテックスと変わりない。だが、彼らは真っ先に捨て駒にされるのだろうとも察してしまう。

 部屋のネームプレートをひとつずつ見ながら兵舎の1階部分を回っていくが、シェインのものは今のところ見当たらない。

 2階へ向かう。途中、兵士のひとりから「ヤク、持っていない?」と絡まれるが、適当にあしらって逃げる。

 後はここだけ。隠しているのかもしれないが、やはりなかった。

 

 「やはり分からねぇか」

 「時間だ。他を当たるしかないな」

 

 後からついてきたホンロンが周りを見渡しながらそう言うと、階段を指差した。約束の15分になったという事だ。

 

 「他ねぇ……ここみたいにおいそれとは入れるかは分からねぇぞ」

 「それなら、やりようはある」と言ってホンロンは懐を叩いた。実力行使という事らしいが、あまり賢くは無い。ホンロンの態度にクリフはこの程度しか考えられないのかと落胆する。

 

 「──どこか見た様な身綺麗さの無い風体。あなたね、クリフ」

 

 その時、背後からよく知った女性の声。クリフは思わず背中が真っ直ぐになる。──青いパイロットスーツに身を包んだシェインの姿がそこにあった。

 一気に渦巻く安堵と怒りの感情。自然とクリフの表情が複雑に歪む。それでも爆発しそうになる感情をなんとか堪えてクリフは正面からシェインを見据えた。

 

 「会いたかったぜ、シェイン。ちゃんと生き残ったぞ。──俺だけじゃない。皆、生きている」

 「まさかこんなところまで来るなんてね。あなた、リサーチャーなんかよりも潜入工作員の方が素質あるんじゃないの?」

 「リサーチャーで食えなくなったら考えるよ」

 

 自分の姿を見ても大して驚く様子もなく、寧ろ余裕のある表情を見せたシェインに対してクリフは皮肉を込めた笑みを浮かべるしかなかった。同時に時間は掛けられないと判断する。

 

 「単刀直入に聞くぜ。あの端末は何処にある?」

 「司令室の小部屋に置いてあるわよ。それがどうかしたの?」

 

 あっさりとそう返された。一瞬だけ気が抜けかけたが、それならそうと言うべき事を言う。

 

 「返してもらうぞ」

 「あなたが持つ意味があるの?」

 

 その言葉にクリフは自分の目元がひくついたのを自覚。聞きたくないが、それは言われるであろう言葉であった。

 

 「……依頼があって託されたものだ」

 「その段階は既に終わっている。それに──」

 「終わっていねぇよ」

 

 シェインの否定する言葉を遮る。ダラダラと言い合うつもりはなかった。

 

 「関わってしまった以上、そいつの後始末を付けるのも俺の役目だ」

 「自分がそんな大層な存在だと思い込んでいるのね。一端のリサーチャーなのに」

 「生き残るためには踏ん張らなきゃならねぇ時もある。それにお前さんにやられっぱなしっていうのも癪なんだよ」

 「せめて武器くらいは構えて凄んでみなさい。丸腰では単なると強がりに聞こえる」

 

 取れるものなら取って見ろという事なのか、シェインは相変わらず余裕のある表情。

 

 「くどいぞ」とホンロン。「場所が分かったんだ、さっさと案内して──」

 

 そう言って懐から銃を取り出した瞬間、控えめな銃声が2発。それと共にホンロンが倒れる。

 

 「自分の意思で来たわけでもないのによく言うわね」

 

 シェインの左手にはいつの間にか拳銃が握られていた。

 

 「まあ、いいでしょう。もう取るべきデータは大抵取った」

 

 シェインはクリフの横を通り過ぎる。

 

 「──ついてこないの?」

 「なっ……」

 

 突然の事で呆気に取られて動けなくなったクリフにシェインは声を掛けた。

 

 「どうする気だ?」

 「案内してあげるわよ」シェインは倒れているホンロンの懐から携帯端末を奪い取る。「端末を返してもらいたいんでしょ」

 

 その言葉にクリフは黙って従うしかなかった。腕と足から大量の血を流して呻くホンロンを尻目にシェインの後を歩く。

 

 「殺しはしない、今はね。後で色々と聞かせて貰うから」

 

 ホンロンのことは気にする必要ないと言わんばかりに飄々とシェインは言い放つ。同情心は全く湧いてこないが、この後の処遇は碌なことにならないだろうなとクリフは思った。

 シェインと共に別の建屋に移る。その最奥の部屋、司令室だと言っていた場所である。

 司令室には何人か兵がいるが、少し慌ただしい雰囲気で特にこちらを気にするような素振りは見せてこない。そんな余裕が無いともいえるが、妙な胸騒ぎを覚えた。

 司令室の奥にはシェインの言った通り、小部屋があった。その中に入る。

 

 「はいどうぞ」

 

 シェインはあっさりとジノーヴィーの端末をクリフに差し出す。だが、それを取ろうとしたらヒョイと上に揚げられる。

 

 「でも、タダでは返せない」

 「だろうな。条件は?」

 

 意地悪そうな表情を浮かべたシェインに対してクリフも負けじと強気な笑みを浮かべて返す。

 

 「ジノーヴィーが何故この端末内に新資源の情報を抱えたままにしていたか。──その理由」

 「そりゃぁジノーヴィーの立場的に得られてもおかしくはない」

 「幾つかの情報はこの端末でしか得られなかった」

 「何だって?!」

 

 その事実にクリフは驚きの声を上げるしかなかった。それらの情報はクレストやナービスと共有されていたと思っていたからだ。

 

 「ちょっと考えてみれば結構おかしなことよね。確かにジノーヴィーはトップランカーであり、クレスト社のエース。でも、あくまでも彼はいちレイヴンであり、いちパイロットに過ぎない。そんな彼が単独で新資源の情報を握っているのよ」

 

 確かにそうだとクリフは唸った。そんな情報をどのようにしてジノーヴィーは手に入れたのだろうか。何か独自の調査網を持っていた等考えられるが、それにしても何故持ったままにしていたのかという疑問も浮かび出てくる。

 ジノーヴィーは本当に何者だろうか。レイヴンとして範疇を超えた何かを持っていた。そんな気がしてきた。

 それを探った先に何が見えるだろうか。自分にそんなものを扱いきれるのか、とクリフは逡巡するが、出すべき言葉は決まっている。

 

 「やってみようじゃねぇか」

 「そう言ってくれると思った」

 シェインが口角を上げて掲げていた端末を下ろした。

 

 「それを知ってどうしようってんだ?」

 「我々もまだ知らない新資源の情報を得るヒントが見つかるかもしれない」

 

 そう簡単にいくとは思えないとクリフは内心思ったが、どう転ぶのかも分からない。

 それでもやらなければならない。クリフは端末をひったくるように取った。

 

 「期限とかは決めているのか」

 「10日後くらいには何かしらの進捗を聞かせて欲しいかな」

 「ああ、そうさせてもらう」

 

 司令室に戻ると相変わらず室内は慌ただしく動いており、クリフの方に目を向ける者はいなかった。思っていたよりも余裕はなさそうだとクリフは横目で見ながら通り過ぎていく。

 

 「──チトセは大丈夫だった?」

 

 背中を向けたままシェインが聞いてきた。

 

 「暫くは撃たれた左腕は激しく動かせなさそうだけど、元気だぜ。お前さんに一発返さねぇと気が済まないって言っていたぞ」

 「それは楽しみね。彼女って割と感情の起伏が激しい方なのよ。どんな言葉をぶつけてくれるのかしら」

 

 笑みを含めた言葉であった。それはどこか懐かしむかのようでもある。

 

 「……お前さんなりの気遣いだったのかな」

 「言っている意味が分からない」

 

 即座に返ってきた言葉にクリフは口角を上げる。どうせ真意なんて覗かせる気が無い予想できた答えであったからだ。シェインも傭兵の武器をしっかりと持っている。

 

 「連れの男の身柄はこちらで預かっておくわ。まあ、大体の見当はついているけど、逃げるのならさっさと逃げた方が良いわよ」

 「そうしたいけどねぇ……ちょっと身動きが取れん」

 「悪いけど、それは自分でどうにかしてね」

 「お前さんにそこまで助けてもらえるなんて思っちゃいねぇよ。それだったら──」

 

 その時、基地全体に警報音が鳴り響く。窓の外では装甲車やMTが慌ただしく動いている様子が見えた。

 

 「どうやら来たみたいね」

 「何だ?」

 「アライアンスがこちらに向かって来るって情報が前から入ってきていたの。まあ、準備はしてあったから我々としても歓迎はしてあげないとね」

 

 クリフはそれを聞いて、これが急かした理由かとホンロンの態度を思い出す。どこまで関与していたかは知らないが、下手をすれば端末ごと自分たちが攻撃に巻き込まれる可能性だってあったのだ。

 

 「面白いよね、こんな状況になっても戦う事がやめられないなんて。余程闘争というものに餓えているということなのかしら、人間っていうのは」

 

 「だから管理が必要」と小さく口にしながらシェインは基地の外で上がる火柱を見つめていた。

 

 「早く逃げた方が良いんじゃないの? 私が迎撃に出るからすぐに終わるでしょうけど」

 

 そう言ってシェインはクリフへ携帯端末を投げ渡す。ホンロンが持っていたモノだ。

 

 「自信満々に言うねぇ」

 「死ぬつもりなんて全くないからよ。あなたこそ、ちゃんと生き抜いてみなさい。折角拾った命なんだから」

 

 手を軽く振りながらシェインは「チトセとケインズによろしく伝えておいて」と言ってハンガーの方へ向かっていく。まるで軽く運動をしてくるというようなノリであった。

 それをただ見送るしかなかったクリフであったが、遠くで聞こえてくる衝撃音で我に返ると急ぎ足で建屋から出る事にした。

 車に戻る頃には戦闘の音が更に激しさを増していた。あの中にシェインことシュエットの<ユーアンヴェール>も今頃混ざっている筈だ。

 キーは刺さったままだ。結果としてこれで逃げられるが、すぐにでも逃げられる様にホンロンがそうしていたのはホンロン自身も捨て駒にされるという事を悟っていたからだろう。

 そこでクリフはこの依頼の意味を知る。ジノーヴィーの端末はこのまま残っていようが、消されようがブライアンにとってはどちらでも良かったという事だ。消えてしまってもバーテックスともかく、リターナーに対しては多少となりともダメージは与えられると考えていたのだろう。あればそれはそれで良くて、中にある新資源の情報をアライアンスに売り渡す。

 だからこそ尚更せっかく取り戻した端末を彼らの手には渡せない。

 さてどうするべきかとクリフは改めて考え直す。端末を確保するだけではなく、KDたちと共に逃げなければならない。

 端末を持ち出せたら行くべき場所がある筈。それは何処か。

 携帯端末を操作すると端末入手後の行き先が示された指示書がある。座標の位置からそこは各企業が共同で運営する貨物ターミナル。使用する列車なのか”バルダー”という名前も記載されていた。

 

 「まずはそこに行くしかねぇか」

 

 衝撃音が遠くで再び響く。そして頭上で轟音。

 フロントガラス越しから見上げると青い逆関節型AC<ユーアンヴェール>が飛び去っていくのが見えた。

 選択肢は少ない。だが、それは道筋が分かり切っているという事だ。迷ってしまうことは無い。

 クリフはイグニッションキーを回すと、アクセルペダルを強く踏み抜いた。

 

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