ARMORED CORE LAST RAVEN ~Unsung Overture~ 作:唯名瞬
「ここに置いておいて良いのか?」
「一旦はそこでいい。──ジョーンズ、早いところ
「バーテックスが襲ってきた時にそれを入れていた端末は無くなっちまったんじゃねぇのか」
「アルトマンが自分の端末にバックアップしてある筈だ。野郎はいま休憩室で寝ているから叩き起こして調べてきてくれ」
「まずは腕部から分解するよ。記録よろしく。カメラのバッテリー、充電してあるよね?」
「分解が終わったら流用出来そうな部品のリスト纏めておいてくれ。ジャンクから持ってくるからさ」
「こいつはミラージュ製だろ。どれだけあるんだか」
「口金のサイズさえ合えばミラージュもクレストもキサラギも関係ねぇ。とりあえず引っ張ってくりゃ良いんだよ」
整備班の会話がいつも以上に行きかい、ハンガー一気に賑やかになる。ハンガーの片隅にはACのパーツが新たに置かれていた。
クリフたちが乗せられていた輸送列車の別のコンテナに入っていたのは<十字架の天使>こと<メディアートル>が使用していたパーツ一式であったが、<クランウェル>では運べない為、急遽輸送機を手配してそれでガレージまで運ぶことになった。
その際にアライアンスと少しひと悶着あったが、結局のところバルダーと呼ばれる輸送列車を何処が現在管理して動かしていたというのがアライアンスで分からなかったという事であった為、戦場での拾得物扱いでヴィラスが所有ということになった。
思わぬ収穫ではあったが、幾つかのパーツは最後に交戦した時に装備されていた試作型のため整備マニュアルはもちろん、1機分だけしか無いので壊れたら終わりだろう。現在使っているパーツが使えなくなった場合の緊急的な手段として利用することを考えている。
「新型は全部ミラージュ製だからミラージュ系のパーツである程度融通は利くかもしれないね」
<ヴェスペロ>の整備を終えて一息つくエリカがそう言ってきた。
「特にあのデカいライフル、
「それに合わせたセッティングを考える必要があるな。詳しいスペック表とかは?」
「ああ……それね。──クリフだっけ? ヴィラスが連れてきたリサーチャー。そいつが調べるって言ってきてくれたからそっちに任せてあるよ」
「そうか、じゃあ向こうで直接聞かせて貰うとするよ」
手元で開いていた自身の端末を閉じてヴィラスはキャットウォークから降りていく。パーツ置き場には興味あり気にスタークスも覗き込んでいるのが見えた。試作型とはいえ、やはり気になるのはレイヴン故の習性だろう。
「使ってみたいパーツはありそうか?」
ヴィラスが声を掛けるとスタークスは残念そうに頭を振った。
「<シュバルツナーゲル>の構成上、腕部の武器は使うにはちょっと重そうだね。ボクのスタイルには合わないかな」
「機動力は犠牲になるのか」
「それを捨ててしまうと、その機体はもう<シュバルツナーゲル>ではなくなってしまうよ。やれるとすれば火力の増強にパルスキャノンを載せる構成くらいは出来るかもしれないってとこだ。後は腕部が軽量級そうな見た目をしているが……」
「組立直しが終わったら試しに使ってみよう」
「後で使い心地を聞かせてくれよ」
手に入れた者の特権だ。好きに動かして試作パーツの感触を確かめられる。ほんの少しだけ落ち着く時間は出来たので休息の合間にやれそうだ。
「怪我の具合はどうなんだ?」
「シミュレーターである程度身体を動かせられるくらいには。それを踏まえても実戦機動では5分も耐えられそうかは微妙かな」
口角を僅かに下げてスタークスは溜息交じりに話す。
「無責任な言い方かもしれないが、焦る必要は無いと思うぞ」
「身体が鈍ってしまうからね、なるべく早く慣らしておきたいんだ。これからちょっとだけ汗を流すつもりだ」
そう言ってスタークスは愛機の方へ向かっていく。機体は既に修理は終えているので後は乗り手だけだ。少し足を引き摺って歩くスタークスの姿を見る限り実戦復帰はまだ掛かるだろうと察する。
身体を伸ばしてヴィラスもハンガーから出ることにした。まずはクリフの所に寄っていこうと考えた。事情が様々にあるが、ここに着いてから1日、まだ顔を合わせていない。それから食堂に向かおうと決めた。ルシーナが食事を作って待っているだろう。
* * *
宛がわれた部屋でクリフとKDは端末の画面と対峙していた。
こうやってゆっくりと落ち着ける場所にいると実感するのはかなり久々である気がした。
レイヴンズアーク残党に没収されていた武器や荷物は別のコンテナ車に入っていたため、それも取り戻す事も出来て上々である。
バーテックスの襲撃によるものだろう、部屋の壁の一部には決して小さくない穴が空いており、そこにはブルーシートが掛けられていた。隙間風が入ってくるが、この時期的には気にならない。
クリフたちはガレージに居させてもらう代わりに雑用等も手伝う事になった。ケインズはガレージの修繕作業に向かい、チトセも食堂で手伝いをしている。クリフとKDはレイヴンたちが使うACパーツの手配をそれぞれ行っていた。
だが、その合間にそれぞれの本業も忘れてはいない。KDはクリフに声を掛ける。
「ほんの極一部しか無いけどあの列車に組み込まれていたシステムのソースコードを引っ張ってこられたんだ。予想通りプログラムが見たことの無い言語で構成されていたよ」
「どっかの企業が独自開発したものだったりするのか。あの列車がアーク所有であればオリジナルのシステムを積んでいるって事もありそうだが……」
「その可能性も探ってみているけど……まぁ、150行程度しかないからどんな構文であり、モジュールがあるのかなんてちょっと時間かけてみないと分からないね。それにしても妙なものを使っているよ」
「……だが、結果的に動力車の制御をおかしくしてしまった。それにしてもそんな欠陥システムをアイツらが使うのか」
「言われて見れば確かに……」とKDは首を捻った。
「多少穴があったとはいえ、俺らなんかより資金も情報網も持っていて、色々と手段を講じてきた連中だ。あんな致命的なことを肝心なところでやらかす程流石にアホじゃねぇだろ」
「システムは彼らが用意したものでは無い……か。思い返してみればコンテナ車側は従来の車両制御システムだったね。それらを踏まえると彼らの意図していないシステムの書き換えがあったと考えておいた方がいいかもしれない」
「──書き換え……ああ……そういう事か」とクリフはひとり納得して頷いた。
「シェインと接触したんだったな、俺。それを考慮していなかった。──多分だが、リターナーが何かやらかしてくれたんだろうよ。なんかそんな気がしてきた」
余裕のある微笑を思い出す。敵の敵は味方という訳でもないし、一歩間違えれば自分たちも巻き込まれていただろうが、間接的にシェインに救われた事になるのだろう。自然と口角が上がるが、同時にクリフは一つの懸念を抱いた。
「そのプログラム……俺は口にするのがちょっと怖い気がするんだが……」
「あー……クリフの言いたいことが分かったよ。僕もたった今、ある単語が頭に浮かんだ」
クリフとKDは互いに頷くと同じタイミングで言葉が出る。
「原始言語かな」
「原始言語かも」
「あー言っちゃった」とKDは手で顔を覆いオーバーなリアクション。クリフも頬を両手で挟んでのオーバーリアクション。
ひと昔前ならば興奮を覚えていたであろう単語。今は畏れの感情が混じる。
「仮にそうだとしてもこれじゃ解析は更に困難だね。ああ……キサラギ本社サーバへの侵入が失敗していなければと今更ながらに後悔してきたよ。向こうはそういう技術を既に使いだしているんだ。対抗策を見いだせたかもしれないのに……」
「だが、完璧に使いこなしているとは限らねぇ。……意外と落とし穴があるかもしれんぞ」
その言葉にはクリフの願望が半分程含まれていた。彼らを抑えるには少しでも隙があって欲しい。
ただ、使いこなせなければ制御出来ない力に呑み込まれるという事でもある。
部屋に重苦しい沈黙が流れる。想像しうるこの先の未来にポジティブなビジョンが思い浮かばなかったからだ。
「──ふたりしてなに葬式帰りみたいなツラをしているんだ」
いつの間にか開いていたドア。クリフたちの横でチトセが立っていた。
「この世界の未来を憂いていたんだ。どう頑張っても明るいものは見えてこないねぇ」
クリフが肩をすくめながらそう言うとチトセは手に持っていた手提げ袋をクリフたちの前に掲げる。
「腹が減っているとポジティブな考えは浮かんでこないぞ」
袋の中にはランチョンミートのサンドイッチと野菜スープが入ったパック。
「そういえばここに来るまで殆ど飲まず食わずだったな……」
意識し出すと急に空腹感というものが襲って来る。クリフはそれを受け取り、KDと分け合うと即座に口にした。
サンドイッチを齧ると口の中に胡椒と共に塩辛い味が広がる。スープも同様であったが、程よくゆで上がったレタスとジャガイモが丁度良い。
サンドイッチ2つをあっさりと食べ切り、スープも飲み干すと最後に代替豆のコーヒーで胃に全て流し込んで一息つく。腹が満たされると自然と気持ちが落ち着いてきた。
「チトセさんが作ったのかい?」
「今あるもので作っただけでこれしかないが、もう少しすれば食糧も補給できるらしい」
「まあ、そこはしょうがねぇよ。食えるだけでも十分有難いってモンだ。それに明るい希望が見えた」
「何だ?」とチトセが首を傾げた。
「人並みに料理が出来そうだったんだな、と」
指で輪っかを作って、良いという事をクリフは示すが、チトセは「どういう意味だ……」と言って少々渋い表情を浮かべる。
「まあ、チトセさんってちょいとガサツなところがあるから食堂の手伝いなんて大丈夫かなぁ……てね」
直後にクリフの頭頂部にチトセの拳が振り下ろされる。大き目な打撃音。
「殴るぞ」
「……もう殴っている……」
「まあ、それは余計なひと言だったな」
いつの間にかケインズも部屋に入って来ていた。右手にはサンドイッチを持って頬張っているが、何故か左手は頭をさすっている。
「ふたりとも一字一句同じこと言いやがって……」
どうやらケインズも同様の事を口走って殴られたらしい。渋い表情を浮かべたチトセがクリフたちを見やる。
「そうしょげないで、ギャップがあるってことだからそれはそれで良いんじゃないか」
KDが微妙なフォローを入れるが、それでもチトセの渋い表情は戻らない。
「ま、こんなやり取りが出来るって事は元気な証拠だ。みんな生きていて良かったよ」
頭をさすりながらクリフはしみじみとその言葉を口にする。それは正直な今の気持ちでもある。
ひとつ選択を違えれば誰かがもしくは全員があの列車で死んでいたのかもしれない。コンテナ車へ飛び移った時に味わったあの浮遊感を一生忘れることは無いだろう。
生と死の境界線で反復横跳びしているようなものだ。恐らく今が人生で一番、ある意味で生を謳歌していると言い切れる。そういう考えが頭に過ぎったクリフの顔に思わず笑みが零れた。
「端末はこの手に戻ってきた。ひとまずの目的は達成出来たよ」
「──だが、シェインの居場所はどうなったのか、ね」
クリフの安堵した声にチトセの声が割り込む。
「そうだな」とクリフは肩をすくめた。これも目的のひとつである。
「俺が連れていかれたのは旧ナービスの基地だが、アライアンスの攻撃があった。アライアンスからは攻撃に成功したっていう発表がでているからやられていなければシェインは多分別の拠点に逃げたと思う」
「そう簡単に彼女がやられるわけがない」とチトセが呟く。
「俺もそう思う」とクリフも頷く。
単なる直感でしかないが、それは合っている筈だとシェインが別れ際に見せた余裕のある笑みには妙な説得力があったからだ。
「だが、ちょいと引っ掛かったところもあるんだ。絶妙なタイミングでアライアンスが来やがった。──シェインもそして俺と一緒にいた……名前忘れた。──そいつも知っている様だったよ」
「リターナーとやらも内情はそんなに一枚岩って訳でも無さそうか」
「中にいたのは元アライアンスの兵だけじゃねぇ、旧企業軍の兵に加えて金で雇われたであろうチンピラらしき連中もいた。そいつらが馬鹿正直にリターナーの理念とやらを信じているとは到底思えないよ」
「ある意味そこらの独立勢力とは性質が変わらないな」
「そんな集団が旧世代の遺産を握っているって結構怖い事だよねぇ……」
「使役するのは上の連中だろうけど、それでも危うさがあるのは否めないのも確かだ」
そう言ってクリフはカップに残ったコーヒーを飲み干すと、ここに来た時に出した考えを口にする。
「暫くはこのガレージで世話になろうと思っている。ここならば道具や武器の調達も比較的容易だし、いざとなりゃレイヴンに守って貰える。丁度、顔見知りがいるしな。そして何よりここはレイヴンがいる場所だからリターナーの情報を取り易いだろう」
「それが良いと思うわ。あちこち動き回ってねぐらを探すなんかよりも負担が大幅に少なくなる」
大いに賛成だと言わんばかりにチトセが勢いつけてベッドに座り込む。ケインズもそれに同意するように頷いてその隣に座った。
「レイヴンがリターナーと交戦する可能性もある。逆にそこから得た情報を基にいい情報を売って金も稼げるかもしれないのもデカい。活動資金は正直欲しいところだ」
正直、今のクリフたちに長距離移動を続けられる体力も資金も殆ど残っていない。アライアンスやバーテックスなどからの干渉を防ぐ意味でもここが現在のところ一番安全でもあるとクリフは考えている。
ここに着いて宛がわれた部屋に入った直後、全員が死んだようにほぼ1日眠っていたのだからやはり疲労は限界まで達していたのだろうし、そしてああいう目に遭うリスクはもう負いたくないとう気持ちも強くなる。
「──話がちょいと逸れたな。まあ、シェインが逃げた先はナービス領内のどこかだろうが、アライアンスの動きを追えば分かるかもしれない」
「何か確証があるのかい?」
「確証とは言えんが、さっきアライアンスが絶妙なタイミングで来たって言ったろ? それに対してシェインもアークのヤツも来る時間も把握していた様だったよ。それを踏まえるとアライアンスとリターナーの双方に情報を売っているヤツがいる気がした」
「確かにやっていそうな気はするよね」
「アライアンスにあえて残って情報流しているヤツ。リターナーに潜り込んで情報流しているヤツ。互いにやる事はやっていると思う」
それは少ない時間での滞在で得られた感触と直感であった。
「多少勘頼りになってしまうが、アライアンスがナービス領に進攻するのならばレイヴンにも依頼をする筈だし、リターナーも何かしらの動きは今後も見せると思う。各作戦ポイントとそこで動いているACの情報。それらを掛け合わせられれば奴さんの居場所は自ずと掴める。──だからここにいるレイヴンはじめガレージの人間とのコミュニケーションは大事にしてくれよ」
「それは承知だ」
「そうね」
ケインズとチトセが両手を挙げて応える。暫くはここで寝食をする場所となるのだ。ビジターという意味でも相応の振る舞いは必要であるのはここにいる全員が理解している。
ドアからノックする音。同じ間隔で3回。
「どうぞ」とクリフが応えるとドアが開きヴィラスが姿を見せる。ヴィラスはクリフたちの姿を一通り見やると軽く頭を下げた。
「別に取り込み中ってわけじゃない。入って大丈夫だ」
そう言ってクリフは招き入れるとヴィラスは「失礼する」と言って部屋に入る。
「うちの整備士から聞いたよ。例の試作パーツのスペック表は手に入ったか確認したくて」
「ああ、そうだった」とクリフは口元を緩めて机の上に置いていた紙を渡す。
「背部のパルスキャノンは試作の初期段階のモノだから多少の違いはあるかもしれんが、大幅な仕様変更は無かったのでスペックは概ねコイツ通りだろう」
「参考にさせてもらう、ありがとう」と受け取った紙を少しの間ヴィラスは眺める。
「あとは実際に載せてどれだけ差異があるかどうかだろう」
「良い意味でそれがある事を期待しようぜ」
あのパーツ類がこのレイヴンにとって良い結果に繋がってくれればいいとクリフはヴィラスの僅かに口角が上がっている口元を見てそう願う。新しいパーツに対する感情が明るいものであるのはすぐに察することが出来た。
「そういえばいつまでここに居るんだ?」
「それを話していたところさ。暫くは雑用係としてここに居るから何でも申し付けてくれ」
「リサーチャーとしても接することもか?」
その言葉を聞いてクリフはニヤリと笑い、頷いた。
「金は払って貰うけどそいつはお安い御用だ。互いに得られるモノは貰っておこうぜ。勿論、俺たちが居られるかはそちらの裁量に任せるが」
「ガレージにいる人間は歓迎しているよ。現状のところ、人手はあればある方が良いから余程の事が無い限りは追い出さない」
「お前さんからそう言ってもらえると安心するよ。ホントに丁度そういった事も話していたからな」
「ここでのルールはもう覚えたか?」
「ああ、揉め事は起こさない。冷蔵庫の中の私物には名前を書いておく。シャワーはひとりにつき1分まで、だろ」
「貯水タンクがもう1基直れば1分半に伸びるらしいが、それでいい。よろしく頼む」
「そりゃ、良い事だ」
自然とクリフとヴィラスは握手をしていた。それは互いにあらためて協力関係を築こうと考えた結果の動きであった。
幾つもの死線を潜り抜けてきたからこそ目の前にいる人物が敵か味方か、そしてその存在が自分にとって損失か利得かの区別がヴィラスもクリフも出来るようになってきていた。──それをこのふたりが自覚できるようになるのはまだ先となる。
「専属契約すればお前さんが請けた依頼のアフターレポートとかも出せるがどうする? お前さんが貰う報酬の1割がこっちに入ればいい。それで俺らは食える」
「考えてみるよ。そういったことは一度もやったことないからな」
「実は俺も初めてだ」
両手を振ってクリフは笑って応えた。それを見てヴィラスは肩をすくめて溜息。だが、問題ないという具合に微笑が零れている。
ここでなら目的を果たせるだろうという自信がここに居る全員が確信した瞬間であった。