変態美少女の脳内にすんでます。怨霊じゃありません   作:昇竜ケンシロウ

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何故かR18になってしまったので修正して再投稿したものになります

修正前の物は https://syosetu.org/novel/372190/ なのでこちらに興味がある方はどうぞ


誤字修正、cyan675様ありがとうございます


あ、そういや前世あったわ。(4.17修正)

 

 あ、そういや前世あったわ。

 

 

 自身を美少女(自称)から美少女(ミンチ)にしようと落下してくる鉄骨を見上げながら、雑餉(ざっしょう)りんねはそう心の中で独り言ちた。

 

 いや。

 

 正確には雑餉(ざっしょう)りんねという少女を右斜め70度くらいの地点から眺める自分は、と言うべきだろうか。

 

 前世では昭和平成と生き抜き令和の御世で生を閉じた中山と呼ばれた自分は、この大和皇国という随分と懐かしく、そして見たこともない街並みの場所で自我を取り戻した。この世界は何と言うべきだろうか。前世と似ているようで全く違う世界のようだ。例えばりんねとその上空に視線を向ける数多の通行人の中には明らかに犬のような顔だちや頭頂部に耳を生やした者、頭に角が生えた者などが含まれている。明らかに元の世界では見られない光景だろう。

 

 これは歴史にも言えることで、例えば日本史の有名どころで言うと織田信長なんかはちょんまげに狐耳という違和感しかない肖像画が残っていたりするしなんなら明智に滅ぼされずに幕府を作ってたりする。外国の歴史までは……良く分からん。りんねはその辺全然興味がないせいで自分にもそれほど知識がない。

 

 なんでりんねと自分の知識に関連性があるのかというと、簡単に言えばりんねの前世が恐らく自分で、りんねと自分は魂の部分で繋がっているのだ、と思う。生まれた瞬間から彼女がこれまでに培ってきた知識は、自分にも共有されているからそう考えている。

 

 今の今まで完全に自分の自我はりんねの意識の中に紛れていた。しかし上空から迫りくる確殺の予感(鉄骨)に気付いた瞬間、つい数十分前にピザと呼んでいる年齢のわりに発育のいい漫画みたいな縦ロール決めた同級生の胸にダイブした所から始まった走馬灯が、今生でバブバブしてた所までさかのぼりなおかつそこで止まらずに前世で死んだ所まで巻き戻ったところで冒頭の一言に繋がっている。

 

 そっかぁ。死んだか自分。

 

 死んだことに関してはその程度の感慨しか湧いてこない。前世に残してきた思いも托卵して黒人の子供を産んだくせに毎月10万も養育費をガメていく元妻と自分を心底見下していた他人のクソガキが不幸になっていればいいな、という暗い感情のみだ。翌月からの生活にせいぜい苦しんでしまえ。

 

 その光景を思い起こすとつい興奮してしまいそうになるが、今はまぁそれどころじゃない。今生のりんねからも「私ちゃん様、死にそうなんだが???」と痛烈な正論が飛んできてるしね。

 

 さて現状を整理してみよう。瞬き一つする間に死ぬかもしれない。以上。

 

 「お前ぶっ殺すぞてーか誰だよてめー」だって?

 

 君の前世だよ。何故君の頭の中に居るかは……分からない。輪廻転生って奴じゃない? りんねだけに。

 

 真面目に状況を整理しようか。突っ込んできたトラックをよけたらそいつが工事現場に突っ込んで倒壊した工事現場から鉄骨が落ちてきた。これが現在の状況を端的に並べてみたものだが、クソみたいなドミノ倒しだな?

 

 で、この状況をなんとかしないと自意識取り戻してすぐにTHEエンドな訳だが、いきなり前世なんてものに目覚めてもスーパーマンのような怪力を発揮したり変身して魔法や超能力を操れるようになるわけじゃない。

 

 死ぬ前の自分はごくごく平凡なサラリマンだったし、今生の雑餉りんねもごくごく平凡……?な美少女中学生だ。いやほんと羨ましいな。前世の自分はお世辞にも容姿に恵まれたとは言いづらかったからね。

 

 あ、そういうの今は良い? せやね。のんびりと過去の話を語らうにしてもそれは時間がある時にやるべき事柄だ。いま差し迫った命の危機をなんとかしない事には意識を取り戻して一秒もしないうちに二度目の死を迎える羽目になってしまう。

 

 だから、そうだね。見上げるりんねの視線と自分の視線が同じ方向を向く。恐らくは数トンはあろうかという鉄骨の姿を視界に収めると、その鉄骨から湧き出るように空箇条書きの文字が空中に現れる。自分たちの運命を決める、文字の羅列だ。

 

 なんだこれは、だとか。そういった怪しむ考えもない事もないのだけど、これを見た瞬間に自分の中に直感めいた感覚が走った。

 

 この通りに動けば命が繋がる、正解への道筋。答えが書き込まれた文字の羅列を自分は目にしている。

 

 

 左斜め一歩後ろに下がろうか。

 

「左ぃ!?」

 

 

 自分の思考と一緒にりんねの体が左斜め一歩後ろに後ずさる。反応が良い。今生のりんねは前世の自分と違って運動神経にも恵まれているのだ。身体能力や容姿は肉体に依存するものとはいえここまで差があると嫉妬も湧いてこないね。

 

 りんねが動くのとほぼ時間差なく、なびく黒髪を巻き込んで目の前の、先ほどまでりんねが立っていた場所に鉄骨が突き刺さる。重厚な鉄がぐわぁんと大きな音をたて、同時にりんねの体を地震のような揺れが襲う。

 

 だが、大丈夫。

 

 何故ならこの場所に被害が及ばないのは、もうわかってる。この場所は安全地帯だ。それはもう、先ほど目で見て見てわかっているのだから。鉄骨の周辺に箇条書きされた文字の羅列が教えてくれたのだ。どういう風にどこに落ちて、どう鉄骨が倒れるのかを。

 

 体を動かす事に集中しているりんねの代わりに、気休めの言葉を口にする。あ、口にすると言っても空気を揺らして言葉を誰かに届けているってわけじゃあない。自分の思考はりんねと直結しているため、どちらかというと頭で考えて頭の中で呟いていると言うべきだろうかね。

 

 天然物の並列思考ってわけだ。やったねりんね! 二人分の思考回路が手に入ったぞ! 

 

 問題は自分もりんねも余り頭の周りがよろしくないという所かな。天はりんねに二物を与えたけど流石に明晰な頭脳までは与えてくれなかったようだ。三人じゃなくて二人でも文殊様の知恵はお借り出来るんだろうか。

 

 

「……あれ、生きてる? 私ちゃん様生き残った?」

 

 

 そうだね。君の目の前でごうんごうん跳ねてる鉄骨がまた上空に戻って降ってきたりしなければ危機は去ったと言えるだろう。

 

 目の前で二度、三度と地面の上を跳ねた鉄骨を眺めながら、口の中でもごもごとりんねがそう呟くのでそう返事を返しておく。

 

 そんなやり取りを交わしていると、キャアァァと絹を裂くような女の悲鳴が聞こえてくる。この惨状を見ていた誰か一般女子が、惨劇が起きたと一拍遅れて悲鳴を上げたのだろう。まぁ、惨劇と言っても良いだろうな。

 

 感覚を共有しているせいで自分にも股間の辺りの生暖かさは伝わってくる。生の実感で緩んでしまったのかな。大きい方じゃなくてよかったと前向きに捉えるべきだろう。

 

 

「しね!」

 

 

 端的にどうも。

 

 

 

「なぁ、自分よぅ」

 

 

 特に異常なしという診断を受けたため、りんねは迎えに来た叔母に伴われて自宅へ帰ってきた。仕事がまだあるから、と心配そうに出かけていく叔母を見送り、玄関のカギをかけた後。さて、と自分が先ほどの話の続きを促そうとしたりんねが先に声をかけてくる。

 

 別に頭で呼びかければ良いのに、と思ったがどうにもやりづらいという意識がりんねにはあるらしい。

 

 

「その独り言っぽいのが延々頭になだれ込んでくるのがいい加減辛いからなんとかならん?」

 

 

 ああ。確かにそうだ。互いに思考が理解できるという事は自分の独り言をりんねは聞き続けていることになるわけだ。りんねはほぼ考える事を口に出しているから思い当たらなかったが、誰かが延々と耳元で呟き続けていることになるわけだから、確かにそれは辛いだろう。

 

 しかし、だ。自分とりんねはそれこそ根っこの部分から繋がっているわけで言ってみれば自分の思考はりんねの思考であると同義だ。そうなると考えるというのを放棄するのは知的生物として――

 

 

「あ、OFFできたわ」

 

――出来るんかい。

 

 

 やったぜ、と右手の指を弾いて呟くりんねの思考が、確かに読めなくなった。あ、いや、読める。読めるんだが意識しないと分からないというべきか。これはあれだな。今までパッシブだったのがアクティブになった的な奴だろうか。ふふっ、横文字を使ってしまった。これでりんねに知的部分をアピールできるかな。

 

 やっぱりね、大人たるもの子供に知的な部分をアッピルして尊敬のまなざしで見られるのを夢見てしまうものなんだ。何故か自分が養育費を払わされていた赤の他人のクソガキは自分が視界に入ると反射的に唾を吐くようになってたから、可愛らしい反応に飢えてるってのもある。

 

 

「あ、すげぇ頭の中がいきなり静かになったら今度はキーンって耳鳴りがきた。ままええわ本題に入るか」

 

――すっごい静かな時にいきなり来るよね、キーンって。

 

「どうせ聞こえるなら美少女の喘ぎ声が聞こえてほしいよね」

 

――それで本題だけど、まずは現状把握だよね。りんねはどこまで理解できてる? 自分は自意識を取り戻せた以上の事は分からない。

 

 

 りんねの口から洩れる戯言は脇に蹴り飛ばして、話を先に進めよう。

 

 

「まず、ええとなんだ。頭の中でワンワン騒いでるお前さんが私ちゃん様の前世だと言いたいのは理解した」

 

――言いたいんじゃなくて事実なんだけど

 

「私ちゃん様の前世はクレオパトラか楊貴妃みたいな歴史に残る美女だと思ったんだけどなぁ。まぁ私ちゃん様のリビドーは女じゃ生まれないか……」

 

――君の性欲を自分に擦り付けるのは止めてよね? いくらなんでもそんな業を背負わされる人生は送っていなかったよ

 

「で、私ちゃん様の前世だというお前さんはなんで私ちゃん様の頭の中でわんわん騒いでるんだ?」

 

――さっきも言ったけど自分がなんなのか。なんでここに居るのかは分からない

 

――ただ、一つだけ言えることは君の前世が自分だという事と、君と自分は魂の部分で繋がっている。だから自分が話しかける言葉は君にしか聞こえていないし君が口に出さない言葉も自分は受け取ることが出来る。さっきまでと違って、今は伝えたい事だけが伝わる感じだけどね?

 

 

 僕がそう応えると、りんねは「そか」とだけ呟いて、はぁ、と深いため息をつく。まぁ、ショックだろうな。いきなり頭の中に自分のようなおっさんが住み着いていると言われたんだ。りんねだって年頃の女の子だし、拒否感も凄いだろう。

 

 とはいえ現状はどうしようもない。なにせ自分とりんねは本当に根っこの部分で繋がっているからだ。

 

 等と意識を思考に回していると、台所に入ったりんねが食卓に置いてあった食塩を手に取り、自身の頭にかけ始めた。

 

 

――なにをしているんだい?

 

 

 いきなりの奇行にそう尋ねると、至極真面目な表情のままりんねは虚空に向かって口を開く。

 

 

「ア〇シオで成仏させれっかなぁって」

 

――ア〇シオじゃ無理じゃないかなぁ

 

 

 そこはせめて神社で売ってる清めの塩とか使おうよ。高い? まぁ学生には手が出んよね。

 

 

 

 

「無理だったあぁ!」

 

――無理だったねぇ

 

 

 食卓塩を丸々頭にぶっかけてみたがなんの成果も得られませんでした。あ、いや。キッチンの床がばら撒かれた塩で酷い事になってるのと目とか粘膜に塩が入ってりんねの顔が酷い事になってるくらいの成果はあったか。

 

 ア〇シオでは流石に除霊は出来なかったらしい。注意深く見たら一応塩成分が多少の魔除け効果は持っているみたいだったけどね。つまり自分は怨霊とかそういうのとは違うって事でファイナ〇アンサーだ。

 

 あ、ファイナル〇ンサーは通じないか。ついつい古い言葉が出てくるのは年を取った証みたいで嫌だね。もう年を取らないんだけど。

 

 

――ほら、一先ずお風呂にはいりなさい。粗相した部分もちゃんと洗うんだよ

 

「お前、お前ぇ! マジでそのノンデリ発言止めろよなぁ!? 世の中には触れちゃいけないマナーってもんがあんだろぅが!」

 

――いや、教室でクラスメイトの衆目の中幼馴染の胸を揉みしだいた君が言う言葉じゃないよね?

 

「そこに胸があるからいけない。そこに、胸があるから、いけない」

 

――なんでそのセリフをそんなに誇らしげに繰り返して言えるのかな??? 大事なことだと思ってる???

 

 

 両手をワキワキと動かしながらりんねは誇らしげな表情を浮かべる。この国の倫理教育はどうなってるんだろう。いや、教育を受けてもコレの可能性があるか。彼女が義務教育の敗北例なのかもしれない。

 

 塩まみれの体を洗い流すため風呂に入り、キッチンを雑巾がけした後。りんねはパンツに肌着のシャツというラフな格好でリビングのソファに腰掛けた。

 

 雑餉(ざっしょう)家のリビングはソファに背の低いテーブル、それにTVらしき箱型の代物がデン!とリビングの3分の一くらいを占めている。デカすぎてどうやってこの部屋に入れたのか分からないくらいの大きさだ。

 

 いやマジでデカいなこれ。まさかこれがこの世界のTVなのか? テーブルの上に置かれていたリモコンらしきものを手に取り、りんねがボタンを押すと部屋の3分の一くらいのデカい箱が光を放ち、先がとがった肩当を付けた40台くらいの女性が明日の天気について語り始める。

 

 これTVだったわ。

 

 

「さっきの質問の続きだけど。お前、鉄骨が降ってきたときどこに落ちるか分かってたよな? もしかして未来が見えてたとかそういう能力がある怨霊なのか、お前」

 

 

 リモコンの音量ボタンを操作し、音量を最大へ。まるで身近にオーケストラが居るかのような迫力ある天気予報を耳にしながら、りんねが口の中をもごもご動かす。間違ってもこれなら他者に会話が聞こえることはないだろう。

 

 あれ、もしかしたらりんねって自分の予想より頭が良いのだろうか。彼女が生きてきた記憶を共有というか勝手に見ていた自分としては雑餉(ざっしょう)りんねという少女は顔と運動神経がやたらと良い脳みそまっぴんくな女の子ってイメージなんだが。

 

 まま、そこは良いか。頭がまっピンクで悪いより頭がまっピンクでも良い方が何倍もマシだろう。多分。

 

 

――少し説明しづらいんだが

 

 

 そう前置きを置いて、自分はりんねに自身の視界とそこから読み取れる情報を口にした。

 

 この世界は前世で言う所の90年代から2000年代日本に近いようで、当然のようにネットは一般的ではないしウィキという単語も存在しない。

 

 だから一番それに近いだろう百科事典を例えに、りんねがイメージしやすいように噛み砕いて説明をする。クリックしたら用語のページが開いて、なんて説明出来たら非常に楽なんだけどね。

 

 例え話としてあのデカい箱についてをりんねに語る。あれを読もうと思ったら最初にTVと書いてある。マジか、と考えながらテレビという総称の下に続く型番を読み、更に深く情報を読みほどき搬入時に販売店の田吾作(53)がぎっくり腰を患った話をりんねに伝えると、彼女はうむ、とソファにのけぞる様に座りながら一つ頷きを返した。

 

 

「あーなるほど。あーわかった完ぺきに理解したわ」

 

――うん、全然分かんなかったって事だね。まぁ、あれだ。なにか調べたいことがあったらちょっと大変だけど大体なんでも調べられる、って覚えておけばいいんじゃないかな?

 

「なるほど! じゃあ近所で露出プレイしてる欲求不満な痴女と出会えるスポットを探してくれ」

 

――出会ってどうするんだい?

 

「え……その状況で一発ヤる以外に選択肢が!?」

 

――気軽に自分の性別を無視しないでほしいんだけど??? あ、いや。同性同士でもまああるのか……というかだね。だいたいなんでも調べられるって聞いてなんでそんな童貞臭いもの聞きたがるんだよ

 

「どどどどどど童貞ちゃうわ!!! この私ちゃん様はもう毎日とっかえひっかえのやりまくりモテまくりで幼馴染の巨乳と虚乳両脇に侍らせて札束の風呂で乾杯とか毎日してっから!」

 

――耳障りのいい童貞詠唱ありがとう。というかそれだよそれ。

 

「それ? ああ、巨乳はピザで虚乳はチビの事でな、どっちも私ちゃん様の次くらいに面が良いから私ちゃん様がハーレムを築いた暁には」

 

――妄想じゃなくて、札束。お金だ。この力をうまく使えば、大金を稼ぐことだって簡単に出来るはずだよ

 

「あー。金かぁ」

 

 

 そうりんねに伝えて、暗澹たる気持ちを心の中でかみ殺す。りんねは自分の言葉に眉を寄せて考えるそぶりを見せた。

 

 金は大事だ。前世においての40年、自分は金に悩まされない日が無かったと言っても過言ではなかっただろう。金があっても幸せにならないとどこぞの歌手が歌っていたが、金がなければそもそも生きる事すら出来ないのだ。

 

 もしも前世でこの力があれば。今生で意識を取り戻してから、ずっと頭の片隅でその言葉がくすぶり続けている。

 

 

「お前、金が稼ぎたいのか?」

 

 

 だから、りんねのその問いにとっさに応えることが出来なかったのかもしれない。

 

 りんねは自分に問いかけた後、そのまま答えを待つように沈黙している。

 

 金を稼ぎたいけれど、それが自分のやりたい事なのか。決して間違ってはいないが、それだけではないというのが本音だ。前世で苦労した自身の記憶が、自分の行動を縛ろうとしている。

 

 そうだ。結局のところ自分は、別に金銭が稼ぎたいわけじゃない。それはあくまでも手段であって目的ではないのだ。

 

 金銭があればしなくてもいい苦労をしないですむ。あくせくとただ生きるためだけに生きる事を強いられなくて済む。余裕をもって生きることが出来る。その考えが、体を失った現在にまで引っ張られている。

 

 結局のところ、だ。

 

 

――自分は、幸せを謳歌したい。かな

 

「ほーん。どんな?」

 

 

 最大限に、最大級に幸福を噛みしめたい。人であるならば自分の幸福を実現しようとするのは当然の事かもしれないが、肉体を持ち、奴隷のような生き方をしていた頃にはついぞ思考にも上らなかった考えだ。

 

 

――他人の指先で、気まぐれにめちゃくちゃにされるだけの人生だったんだ。自分の生涯は。

 

 

 生まれた瞬間から、死ぬ瞬間まで。それこそたまさか入ったラーメン屋が非常に旨かった、くらいが自分の幸福の最大値だったかもしれない。自分の意思で手に入れた、唯一の幸せがそれだけだったかもしれない。

 

 

――だから、今度は。もし機会があるならば、自分が他人の人生を左右できるような……そんな存在になれれば、もしかしたら自分の幸せを感じられるかもしれないって、思ってる

 

 

 他者の指先で動く人生に自分の幸福は存在しなかった。なら、他者を指先で動かす人生ならばもしかしたら、自分は幸せを感じ取れるのではないだろうか。

 

 分からない。けれど、ぜひ試してみたい。

 

 

「悪っる! やっぱ怨霊だろお前」

 

 

 怨霊じゃないです。検索機能っぽいのもついてるし検索エンジンとか、脳内AIって感じじゃないかな。あ、この世界にAI概念あるんだろうか。

 

 

「だが、まぁ、分かった。正直頭の中に怨霊が住み着くなんて冗談じゃねぇしいつか絶対に祓ってやるけど、役に立ちそうだから今は生かしておいてやろう! 共感できる部分もあるしな」

 

――ア〇シオで諦めてほしかったんだけどね。共感できる部分って、例えばどの辺が?

 

「私は両脇に侍らせた巨乳と虚乳を指先一つでめちゃくちゃにしたい。お前は他人の人生を指先一つでめちゃくちゃにしたい。そこに違いはないだろ」

 

――大分違うんじゃないかな???

 

 

 鼻を膨らませてそのシーンを妄想するりんねに努めて冷静にそう答えを返すも、りんねの脳には届かなかったようだ。コンビニでビニールに包まれたエロ本の隙間から内部を見ようとしている中学男子並みの集中力である。

 

 これは妄想から戻ってくるまで時間がかかるかな、と思っていたらりんねは「あ」と呟き、唐突に虚空に向かって視線を向け。

 

 

「いつまでも名前がないの面倒だし、お前の名前はあやめな」

 

 

 と口にした。

 

 

――いきなりどうしたんだいその名前。自分には中山権左衛門って前世の名前があるんだけど

 

「それこそ前世の名前だろ? これ死産になった双子の姉ちゃんの名前なんだけどお前、生まれた瞬間から私と一緒に居たって言ってたよな。もしかしたら姉ちゃんとして生まれる予定だったかもしれないじゃん」

 

――……ええと

 

 

 りんねの言葉に返事が出来ず、言葉を濁す。

 

 予想以上に重い、とか。ヘビーすぎるだろ、と口にするのは簡単だ。けれど、そんな茶化した返答を返すにはりんねの声音は真摯にすぎた。

 

 なんと言葉を返そうか。言いよどんでいると、りんねが再び口を開く。

 

 

「もしくは随分と悪い事考えてるみたいだし悪に女であくめ――」

 

――あやめでお願いします

 

 

 りんねの言葉を遮ってそう思念を飛ばす。

 

 その名前で今生ずっと呼ばれ続けるくらいならもう一度死んだ方が万倍マシだよ。

 

 

「あやめ。か。うん、あやめね……ヨシ」

 

――なにがヨシだ言ってみろ

 

「双子って事は完ぺき美少女天使である私ちゃん様に似てるかそっくりって事だろ。私ちゃん様は私ちゃん様にも欲情できるんだよ」

 

 

 真面目な顔でりんねはそう妄言を宣った。なんだこいつ無敵の生命体すぎないか?

 

 

「ま、私ちゃん様が暇だったらあやめの願いも叶えてやるとして。また一人私ちゃん様のハーレム要員が増えたし、これは我が野望の達成も見えたかなぁ!」

 

――自分はハーレムに入った覚えもなければ君の野望も知らないんだけど

 

「全裸美女で満たされたスタジアムでもみくちゃにされながら大和皇国の国家を歌いたいんだよね」

 

――国辱だから止めた方が良いよ???

 

 

 スタジアムって事は数万人規模って事だろうか。数万人規模の全裸の痴女で満たされたスタジアムなんて歴史に残るわいせつ物陳列罪適用ケースだしある意味見てみたい気もするがまぁ実現できるわけはない。

 

 ない、はずなんだが……本当にやってしまいそうな、そういう凄みがこの雑餉(ざっしょう)りんねという少女にはある。

 

 この娘の、エロに対する情熱と行動力は本物だ。本物のバカエロ変態バカ娘なのだ。雑餉(ざっしょう)りんねという生き物は。

 

 

「いやそうだな。金儲け、いいじゃん。スタジアム貸し切るにも100億くらい必要だしなぁ!」

 

――だから国辱だから止めた方が良いって。わいせつ物陳列罪適用ケースから内乱罪にワープ進化してるじゃん。というか流石に100億はいらないんじゃないかなぁ

 

「あやめって可能性が出てきたんだ。この好機を活かさない手はない!」

 

――あ、駄目だこれ聞いてない

 

 

 りんねはそこまでを口にしたあと、ぐっと右手を地震の胸の前で握り締め、そして大きく振り上げる。

 

「私ちゃん様はここに! 雑餉(ざっしょう)りんねえち♡えちハーレム計画の発動を宣言する!」

 

 

 真にクソの極みのような宣言を声高に叫んだあと、オーケストラ音量の天気予報が流れる中りんねは大きくのけぞって高笑いをし、のけぞり過ぎてわき腹がつったらしく身もだえし始める。

 

 そんなりんねの姿を眺めながら、自分は視線を窓の外の青空へと向ける。

 

 今生の自分の役割って、もしかしてこのバカエロ変態バカ娘を制御することなんだろうか。

 

 そうだとしたら神様、仏様、閻魔様。

 

 自分、チェンジいいっすか?




出来る限り毎日投稿できるよう頑張ります。気に言って頂けた方は執筆の原動力になるのでお気に入りと評価をよろしくお願いします。
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