変態美少女の脳内にすんでます。怨霊じゃありません 作:昇竜ケンシロウ
「うん、似合ってんじゃねーの?」
「そ、そうかな?」
散髪をしてさっぱりとした犬耳頭をかきながら、野茂さんがはにかむように笑う。彼は先日まで着ていたボロボロのシャツとジーンズ姿ではなく、古びているがちゃんと洗濯された清潔感のある黒いジャージを着けている。りんねの父親が残していったジャージの為少しサイズに違和感があるが、ぱっと見だとホームレスには全く見えない姿だ。
あの後は大変だった。言葉にするともうそれしか出てこないくらいに大変だった。なにせ目の前でいきなり空中に向かって喧嘩し始める少女だ。普通なら生暖かい目で見ながら遠ざける一択だろう。
だが、目の前の犬耳は違った。自身も全く余裕のないホームレスなのになけなしの小銭でココアを買って「話、聴こうか」とか下心抜きで言える男前だ。もうこの時点で自分の評価はうなぎ上りである。
目的を達成する為に適当に扱おうとか思っててごめんなさい。出来る限り野茂さんが社会復帰できるように頑張ります。
「本当にありがとう。着る物どころか銭湯代まで」
「お気になさらず。今日でその分も回収できる筈ですから」
「ん……分かった。でも、本当にそんな上手い話があるのかい?」
りんねの口を借りて自分が応えると、野茂さんは半信半疑な様子でそう尋ねてくる。彼には今日、かなり確度の高い金策がありそれを手伝ってほしいと伝えてあるのだ。
「ある。あやめが言うんだから間違いないって。それに仮に上手くいかなくてもおっさんはただで飯食えて風呂入って服も手に入ったんだから大損だろ?」
「それを言うなら大儲け、じゃないかな。え、あってるよね?」
「当たってますよ」
りんねの言い間違いを野茂さんが訂正し、それを自分が肯定する。良く分からない構図になっているが、これは先日のりんねとの口喧嘩が原因で芽生えた新能力によるものだ。
なんと自分、りんねの口を借りて喋ることが出来るのである。
新能力というよりは出来ることに気付いたというべきだろうが、外部に対する発信能力を手にしたというのは非常に大きな進歩である。景気づけに新能力と称しても罰は当たらないだろう。
まぁ、お陰で目の前にいる犬耳の青年には自分の存在がバレてしまったのだが。りんねもご丁寧に自分の名前を言っちゃうし自分もついりんねの名前を言っちゃうもんだから。いや、非常に大きな失態だった。おかげで野茂さんはりんねの事を重度の精神病を患い多重人格を発症した少女だと思っている。前世だ云々は流石に表に出せないから、一番説得力のある説明がそれしか思いつかなかったのだ。
「まぁ、百聞は一見に如かず。行きましょうか」
彼には自分の事をりんねを助けるためについ先日目覚めた姉の人格だと説明してある。りんねは平常で言動がぶっ飛んでるから、野茂さんはその点は疑わずに信じてくれた。
だが、相談ベースで話を聞いてくれている彼をこちらの目的通りに転がすには、それだけでは足りない。若いのに大変だね、で話が終わっては意味がない。
そのため、自分はりんねと自分の身の上話の際、最後に彼の興味をひかなければいけなかった。興味を引き、それが自分にとって利益があるという事を予感させなければいけなかった。自分たちについてきてくれるよう眼を眩ませなければいけなかった。
ホームレスである野茂さんにとっての利益とはなにか。飯も風呂も衣服もそれはそうなんだが、それだけじゃあ大の大人の眼を眩ませるのは難しい。
金だ。
直球に、ダイレクトに野茂さんが最も困窮している部分を刺す。これこそが今求められる最適解だ。
故にそれを分かりやすく示す方法が必要で、幸いなことに自分にはそれが可能な下地。チートとしか言いようのない眼が備わっている。
だったらやる事は一つ。
「第1レースは13-4ー7の3連単を100円で買ってください。これ、入場料の50円です」
ギャンブルである。
「わ、わかった。本当に大丈夫なんだね? これ、全然人気がないっぽいけど」
「もちろん100%ではありませんが99%くらいはイケると思います。予算はまだありますから、気負わないでいいですよ」
「いや気負えよ。私ちゃん様のお小遣いやぞ???」
電車で太刀川駅に到着し、駅から出ている無料バスにのって公営ギャンブル太刀川競輪場へ。入るだけなら自分たちにも出来るが車券を買うのは大人でなければできないから自分たちだけでは出来ない金策だ。
先日、野茂さんと遭遇してココア缶を奢ってもらった折に自分は野茂さんにぼかした真実を伝えた。多重人格の事ではなく、自分の持つ能力の事だ。
自分は非常に観察眼に優れており、一目見ただけでその人の体調や凡その身体能力まで見極められるのだ、と。
野茂さんは自分の言葉を、最初は冗談だと思って笑っていた。だが例えば、とその公園に居た他のホームレスの持病やらを言い当てると、自分の言葉に真剣に向き合うようになってくれた。百聞は一見に如かず。どんなオカルトチックなことでも実際に目の当たりにすれば人はそれを信じるのだ。
それが多少ズレた程度に真実味があればなお。
「あ、あやめちゃん! 本当に、本当に当たったよ!」
流れ込むようにゴールしていく競輪選手の姿に、野茂さんが上ずった声で叫ぶ。3連単18330円。彼はいま、100円がそれに化けたのを目撃した。
百聞は一見に如かず。
自分が話したぼかした真実がいま、彼にとってのリアルになったのだ。
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