変態美少女の脳内にすんでます。怨霊じゃありません 作:昇竜ケンシロウ
「なぁ、りんね。お前、私たちになにか隠してる事ないか? 放課後とか」
「ななななななんもないないったらない」
「分かりやすすぎて逆に心配なくなってきたんだけど」
姫子ちゃんと一花ちゃんの問いかけにりんねは挙動不審の極みのようなムーブで返答する。りんねの脳内辞書には腹芸という言葉は乗っていない。まぁ乗ってない単語は他にも山ほどあるのだが。
しかし流石は幼馴染というべきか。まだ行動を開始してから1月ほどなのにもう二人はりんねの行動に不信感を覚えているようだ。長年の付き合いによる信頼のようなものが彼女たちとりんねには芽生えているのだろうか。
「ここ最近、女子運動部からのぞき被害の報告が入ってこなくなったもん。明らかにおかしいよ」
「お前、まさか他所に迷惑かけてるんじゃないだろうな? この学校の外でやらかしてるなら、もう私らは知らんぞ?」
完全にマイナス方面での信頼が抜群だったようだ。いや、まぁりんねの行動を予測しているという点ではかなりいい線をいっているため、本当に彼女たちはりんねの事を良く理解しているんだけども。
りんねに罪状を吐かせるため、二人掛かりでりんねのほっぺたを引き延ばす中学生二人を眺めながらそう考えていると、りんねからのヘルプがテレパシー?で流れてくる。
もちろん秒で断った。彼女たちの予想はけっこういい線行ってるが、それが他人に迷惑をかけている、という結論に達したのは明らかにりんねのこれまでの所業が原因だ。その分の罰は受けておくべきだろう。
まぁ、とはいえ。仮に現状を詳しく語ったとしても、常識的な考え方を持つ幼馴染二人を納得させられるかは甚だ疑問である。
なにせ――
「はーいいらはいいらはい! 帝王閣ラインと南神ライン予想展開もバッチリ抑えてあるよぉ!」
「お、りんねちゃん今日は立っとるんか!」
「りんねちゃーん、一日くれー!」
「はいよ。1000円ねー」
「あんがと。今日も勝ってくるわ」
「りんねちゃん、こっちもくれ!」
「一日分で頼む!」
普通、1月ほど付き合いが悪くなった幼馴染が競輪場で場立ち予想屋になってるなんて思わんだろうしな。
りんねは小汚い格好の中年男から小銭を受け取り、代わりに段ボール箱の中に入れていた紙を手渡す。それには太刀川競輪場で行われる全レースの展開予想が書かれている。
所謂予想屋という商売だ。自分にはチートともいえる目があるためそんな知識がなくてもほとんど100%の確率で当てられるが、普通の客は競馬新聞等で前のレース情報等を見比べて予想を組み立てて車券を購入する。競馬や競輪、競艇といった公営ギャンブルは完全な運否天賦というわけではなく、ある程度の知識があれば的中率を引き上げることが出来る。
予想屋というのはその知識の面を補強するために存在すると思っても良い。地域に根差し、毎回のように開催されるレースの情報を蓄積し、それを元に予想を組み立てると当然、そこらの客が頭で組み立てるよりも根拠もあり確度も高い予想になる。彼らはそれを売って生計を立てているのだ。
インターネットがまだまだ未発達なこの世界ではデータを蓄積する事すらも全てが手作業になる。当然、知識というのは貴重で価値の高いものになってくる。
価値が高いということは、売れるということだ。しかも原価は紙とペンとコピー代くらい。売らない手はないだろう。
まぁ当初は普通に客として競輪を使って金儲けをする予定だった。なのに何故そんな状況から予想屋なんてものをやってるかというと、大体りんねのやらかしが原因である。
初めて太刀川競輪場で万車券を当てた際。野茂さんがあまりにも喜ぶので調子に乗ったりんねが次のレースの予想を口にしたのだ。自信満々に。
それを聞いていた酔狂なお客さんの一人が、これまた酔狂にもその予想通りに車券を買い、1000円を8万円に変えた辺りで流れが一気に変わった。
次のレースも、その次のレースも。りんねはかなりの高確率でレースを的中させ続けた。
後はもう、以下の通りである。
「おおお! りんねちゃんありがとう! 20倍的中だよ! 流石は天才予想屋!」
「たりめーだっつの! 私ちゃん様の予想やぞ???」
「うっそやろ全然人気なかったのに!? 俺、切っちゃってたよ……」
「ばかだなぁ。りんねちゃんの予想は8割近く当たるのに」
天才だなんだと囃し立てられてりんねが体をのけ反らせて高笑いを始める。りんねが太刀川競輪場で場立ち予想を始めてから1月。学校があるため土日にしか来れないが、非常に高い的中率の予想を立てる事からもうすでに一種の名物として扱われ始めている。なにせりんねが場立ち予想をする際には、長蛇の列が出来るほどの人気っぷりだ。
まぁ、大体11~12レースある中の7から8を的中させてるからな。真剣勝負でやってきてる客からしたら大層ありがたい存在だろう。
といっても実を言うとわざと的中率を下げているんだがね。
というのも。
「りんねちゃん、お疲れ様! 今日はありがとうねぇ」
「ん、木村のとっつぁん。良いって事よ」
「しっかし、本当に穴開けるレースの見極めが凄いねぇ。おかげで今日の祝儀は期待できるよ」
次のレースが始まり、お客さんが周りから離れたタイミングでりんねが立っている屋台の持ち主――木村という狸型の獣人が話しかけてくる。含むような物言いなのは、万が一にも客に聴かれたくないからだろう。
彼は一応、りんねの予想屋としての師匠、という事になっている。というのも競輪場等の予想屋は認可制になっており、認可のない人間は予想屋をやることが出来ないのだ。つまり予想屋というのは非常に狭い世界の商売なのだ。
そんな世界を非認可のよそ者が荒らしてしまうとどうなるかなんてまぁ考えなくても分かるだろう。逆に言うと、筋を通せば狭い世界な分、やりやすい所もある。故に、最初の予想を連発で的中させた際、一番最初に苦言を言いに来た木村氏を抱き込んだのだ。認可されている予想屋の弟子であれば、これは身内。師匠の監修の元で予想を出すのも許される。
そして、その上で彼と他の予想屋には利益を分配するように努めている。
彼は今日のレース予想で、りんねが外したレースを的中させている。これはりんねがこっそりと木村さんにレースの顛末を教えた結果だ。鉄板とも呼べる本命が飛んだ形になるため、大荒れも大荒れになったレースだ。そのレースを的中させたお客さんはさぞかし大儲けし、帰り際に予想屋さんにご祝儀を置いていってくれる可能性が高いだろう。
りんねのやらかしのせいで当初の予定は大きく変更せざるを得なくなった。当初は野茂さんに車券を購入してもらい、こっそりと散発的に大儲けをしていくつもりだったのだが、予想外に注目度を集めてしまったのでそれは断念。しょうがないのでプランBの発動だ。
「で、5レースはうちの兄貴に頼んでるけど。1本で良いの?」
「うんうん、もちろん。お兄さんにはいつもお世話になって。これ、このとーりって伝えてくれるかい?」
「なぁに良いって事よ。たすけあいでしょたすけあい」
主も悪よのう、お代官様こそ、と言いそうな悪い表情で人の悪い笑顔を浮かべるりんねと予想屋さん。つまりは、まぁ。あれだ。この競輪場内のほぼ半数近い客がりんねの予想を買っているわけで、当然りんねの予想は人気になり、当たったときの配当も少なくなっていく。
ということは逆に言うと、りんねが予想を外した時。そのレースの配当は高くなっているという事だ。当然そのレースの車券は黒子役に徹してくれている野茂さんが購入している。
そしてここに他の予想屋さんを絡める事がちょっとした処世術を絡めていく。他の予想屋さんから見るとりんねは非常に厄介な商売敵である。なにせ的中率が違うのだ。お客は皆そっちを選ぶに決まっており、結果として彼らの予想は売れなくなってしまう。
そうなると彼らも生活がかかっている。人の米びつに手を出す奴がどう思われるかなんてのはどんな世界でも同じことだろう。たとえ木村さんの弟子であろうとも独り勝ちは妬まれる。
だがこの高い的中率を相手も認識している事は大きなアドバンテージでもある。他の予想屋がこちらを睨む原因は直球に不利益を与えてくる相手だからだ。もしその相手が、彼らにも利益をもたらしてくるとしたら話は大きく変わってくる。
それが先ほど口にした、利益の分配だ。おいしいレースの当たりを譲ってくれたり、ルール上予想屋である自分たちでは購入できない美味しい車券を代理購入してくれたりもする。不利益を覆して余りある利益を与えてくる相手だった場合、それを人はどう思うのか、という事だ。
「りんねちゃんは本当に優しい子だなぁ。これでスケベな所がなきゃぁ孫娘の遊び相手になってほしいんだが」
「おいバカふっざけんなよ爺さん! 私ちゃん様に、孫を、紹介しろよ!!!」
その結果がこの光景である。これはりんねのキャラクターのお陰もあるかもしれない。ここまでおバカだと見ている方が微笑ましくなってしまうのだろう。自分じゃあどうしてもやり取りに毒が出てしまう事もあるから、野茂さん以外の相手にはあやめの事は伝えていない。伝えてもなんら得がないからね。
あとりんね、その爺さんには孫娘なんて居ないよ。からかわれてるから止まっとけって。
よろしければお気に入りと評価お願いします