変態美少女の脳内にすんでます。怨霊じゃありません   作:昇竜ケンシロウ

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人を不幸にする時が、一番楽しそうだもん

「はい、これで契約完了。2年間よろしくお願いします」

 

「は、はい! あの、それで」

 

「ええ。保証会社をかませない代わりに2年分一括でお支払いしますよ。もちろん敷金礼金は2か月分マシで」

 

 

 野茂さん名義の印鑑を契約書に押し、これにて東京郊外にある2階建て一軒家の賃貸契約は完了となる。つい最近までホームレスだった野茂さんの信用を考えるとこのレベルの物件は中々難しいと思ったのだが、そこはやはり現金。現金が全てを解決する。

 

 家主である見た目幼女は判子を押された契約書を大事そうに封筒にしまった後、さっそく契約の履行を求めてくる。つまり、現金の確認だ。

 

 野茂さんは自分が何を言うでもなく家主の様子に手持ちカバンから大きな封筒を幾つか取り出した。総額191万9千円。大きな金額だがこの規模の一軒家を24か月使えると考えると安い金額だ。なにせ敷金礼金を含めても月7万円弱で借りれる計算だからな。

 

 本来ならば月10万くらいが相場の物件をなぜ安く借りれたのかというと、色々なめぐりあわせと目の前に座る幼女さん、つまり家主側が金に困っているというシンプルな理由があった。

 

 彼女の名前は鳥谷かな。鳥の特徴を持った鳥人の少女で、今回借り受けた物件の家主の娘さんだ。初対面の際、りんねが「倍払う! 倍! だから、ね?」といやらしい笑顔を浮かべるくらいには可憐な見た目の人で見た目は10歳くらいに見えるのだが、これで高校生らしい。鳥人はそういう見た目の種族なんだそうな。

 

 野茂さんがとっさにりんねの口を塞いでくれて助かった。流石に倍額となると他を探した方が良いからね。

 

 

「本当に助かりました。前の住人が会社が潰れたとかで田舎に帰ってしまって。家を維持をしようにもお父さんが……」

 

「事故でしばらく動けないんでしょ。ガールズの立花御姉様から紹介された時に聞いたけど、3か月は入院する上に現役復帰も難しいんだって?」

 

「……はい。傷害保険でお父さんの入院費はなんとかなったんですが、それ以外の生活費は貯金を切り崩すしか……収入はこの家の家賃くらいしか当てがなくて、お母さんは自分が働きに出るって言ってるんですがずっと専業主婦だったから、上手くいかないみたいで」

 

 

 りんねの言葉に鳥谷さんは暗い表情のまま顔を伏せる。彼女の父親は太刀川競輪をメインバンクにしている競輪選手で、つい先日競技中の事故に巻き込まれて重体を負ってしまったという。選手生命も危ぶまれており、今後を考えると少しでも手元に現金が欲しい。手っ取り早く手元にお金を得る方法は手持ちの財産で最も価値がある持ち家をどうにかする事だったが、売りに出すにしても折り悪く不動産不況が叫ばれる状況だ。

 

 どのくらいで売れるかも、いつ頃売れるかも、そもそも売れるかも分からない。ないない尽くしの状況で、だったらせめて賃借人を、と借り手を探しても見つからない。

 

 その状況を見かねた仲間の競輪選手が最近はぶりが良いように見える予想屋の木村さんに声をかけて、それが更にりんねとそのバックに居ると思われる野茂さんに声をかける切っ掛けとなったわけだ。世の中、どういう縁が繋がるのか分からんもんだね。

 

 しかし……いいね、うん。実にいい。

 

 他人の不幸を喜んでいるわけではないが、この状況は凄く良い。

 

 

「なんか悪い事考えてんのか?」

 

――いやぁ、みんなで幸せになれる方法を考えているだけだよ

 

 

 口の中だけでもごもごと尋ねてくるりんねに、本心からそう返事をする。

 

 例えば。そう、例えばの話だ。

 

 家族の大黒柱が折れかけている鳥谷家は、その問題を解決できなければ遠からず崩壊する可能性がある。もちろん、父親の体調が戻ったり母親が仕事を見つけたりできれば良いのだが、そうならない可能性も十分考えられる。

 

 だからこそ目の前の見た目幼女は必死になって伝手をたどり、大分不利な契約を結んででも即金を欲したのだ。なにか問題が起きた時、現金が手元にあるのとないのとではまるで結果が違うからね。

 

 そして、ある程度の余裕を今回手に入れた。そうすると、こう思う訳だ。「今回は助かった。けれど余裕があるうちになんとか算段をつけないと」とね。

 

 追い込まれた人間は、非常に視野が狭くなる。自分には良く分かる。経験したことがあるからね。一度死んでみれば「ああ、なんであの時ああしなかったんだ」なんて事柄がいくつも頭をよぎってくるんだ。これが後悔って奴なんだろうね。

 

 自分の話は良い。過ぎ去った過去の事より今は、未来の話だ。

 

 目の前の鳥谷さん、そしてその家族は追い詰められている。今は現金という多少の余裕があるし、そもそも父親が競輪選手であるため多少の蓄えはあるだろうが、未来の展望が開けていない状況だ。

 

 彼らにとってのベストは父親が復職する事。つまり、怪我の後遺症もなく選手として復帰する事が最も望ましい未来だ。次点としては復職できなくても先行きに不安を感じない程度の仕事にありつく、という所か。

 

 そして最も望ましくない未来は、父親も復帰できず母親も職を見つけられず、このまま2年が過ぎても家の売り先が決まらず野茂さんも家を引き上げて、と収入が完全に0となる未来だろう。恐らく、鳥谷家の人間の頭には常にこの未来の影がちらついているだろうな。

 

 生活保護を受けるだとかそういったモノは恐らく視界にも入っていないだろう。ご両親にもそれまで踏ん張ってきたプライドがあるだろうし、そもそも選択肢にも入っていないかもしれない。視野が狭くなるというのはそういうものだ。

 

 そしてそんな状況だからこそ、自分にも欲が出てくる。

 

 

――この状況。上手く生かせば野茂さんのように鳥谷さんたちを取り込めるんじゃないかな?

 

「ほーん?」

 

 

 鴨が葱を背負って来るどころではない。特に労せず生殺与奪の権利を握れそうな状況に、自分の心が湧きたってくるのを感じる。

 

 人の人生を。

 

 誰かの生きる道を自分の思い描く方向へ弄れるという確信が、自分の魂を揺さぶっているのだ。

 

 

「随分とまぁ、楽しそうじゃん?」

 

――そんなことはないさ

 

「いんや、楽しそうだぜ。普段のちみちみした金稼ぎの時とは全然違う」

 

 

 鳥谷さんとのやり取りを野茂さんに任せて、りんねは口をもごもごとさせながら外へ出る。

 

 

「やっぱさ。あやめは怨霊だよ。人を不幸にする時が、一番楽しそうだもん」

 

――いや、自分は別に鳥谷さんたちを不幸にする気は一ミリもないよ?

 

 

 失礼すぎるりんねの言葉に反論するも、りんねは「はいはい」と取り合わない。なんてひどい侮辱だ、訴訟も辞さない。自分はただ、彼らを使って新興宗教でも立ち上げられないかと画策しているだけなのに。

 

 

「ま、それがお前のしたい事ならさ。私ちゃん様の目的に沿う間は祓わずに使ってやるよ」

 

――はは。ア〇シオは意味ないよ?

 

悪女(あくめ)ちゃん」

 

――なんだてめぇ、ぶっとばすぞ?

 

 

 余りにも不名誉な呼び名に心の中で手袋を投げ付ける。

 

 神様、仏様、閻魔様。

 

 今生の自分の役割はこのこのバカエロ変態バカ娘を真っ当な人間の道に引き戻す事なのですね。

 

 よござんしょ。承りました。

 

 精一杯務めさせていただきますよ。

 

 それこそ、来世になるまでね。




同じ世界観で別の話が書きたくなったのでこの話はここで閉じさせていただきます。
近日中に「変身ヒーロー鈴木一郎は本物(ヒーロー)になれない」というタイトルでまた連載してると思いますので、そちらも読んでいただけると幸いです。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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