モンスターハンター 【古の栄光(Ancient Glory)】   作:大葉AzZ

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禁足地調査を任ぜられたハンター達は、砂上船で東へと向かっていた。
その途中モンスターの大群から逃げる少女を発見する。




禁足地へ

 

 

 岩に乗り上げた船底からの軽い衝撃で、ふと目が覚めた。

どうやら知らぬ間に眠ってしまっていたようだ。

仲間が掛けてくれたであろうブランケットを、身を起こしつつ捲り取る。

 

 

「起きたか、おはよう」

 

 

 鮮やかな赤毛に常人よりも恵まれた高い身長、鍛え抜かれた筋肉が一番の自慢だと豪語している快活な男『レオン・アルドール』が起き抜けに話しかけてきた。

手振りだけで挨拶を返すと、ゆったりとした動きで寝台から這い出る。

そしてレオンの座るテーブル席の向かいに座った。

 

 

「今は大体昼前ごろ、って時間かな。 まだ辺り一面、相も変わらず砂だらけ、ってもんだぜ」

 

 

 まだこの航海が続くなら、もう少し寝ていても良かったか? と、考えていたのが表情に出ていたのをレオンに指摘されたのは『グレイ・ヴォーク』。

凍える程に鋭い銀色の髪と口よりも多くを語る冷めた眼差し、何よりも人形と見紛う程の整った顔立ちが特徴的な彼は、もう一人の仲間の姿が無い事に気付く。

 

 

「眠り姫は未だベッドの中さ。夢の世界からまだ帰って来そうにないな」

 

 

 彼女の寝起きは大変よろしくない事を知っているグレイが苦笑していると、ボトル入りの飲み水を差し出される。

手に取ったタイミングでコツン、とレオンがボトルを軽く当ててくると、ほぼ同時に水を

(あお)った。

 

 

「風に当たりに行こう。付き合えよ」

 

 

 特に拒否する理由も無く、グレイは後を追うように席を立つ。

 

 船室から甲板へと足を進めると、頭上から照り付ける陽光が二人の網膜を軽く()いた。

掌でかろうじて周囲が見えるほどの視界を確保しつつ、甲板でせわしなく働き続ける船員達の中に見知った顔を見付けた。

 

 

「お~い!」

 

「こちらです」

 

 

 途中で同乗している他の調査隊員とも軽く挨拶を交わしつつ、二人を呼ぶ者たちの元へ。

待っていたのは、二人の女性と少年、そしてオトモアイルーだ。

 

 鼈甲(べっこう)柄の眼鏡を掛け、赤いコートを着た聡明そうな女性は『アルマ』。

この“鳥の隊”お付きの編纂者で学術院所属でもある彼女は、文化人類学を専攻しているものの、考古学にも造詣が深いらしく、今回の禁足地調査のお供にお気に入りの()()を持ち込んでいる、との噂だ。

知識の深さもさながら、頼りになる人物の一人だ。

 

 長い金髪を青いヘアバンドで留め、赤いショート丈のジャケットを羽織ったヘソ出しルックの陽気な女性は『ジェマ』。

こちらも“鳥の隊”お付きの加工屋で、常に首元には仕事用のゴーグル、腰には道具の入った鞄とイャンクックのぬいぐるみを提げている。

過去にとある旅団の一員として各地を飛び回った経験もあるらしく、鍛冶や加工の腕が立つ、信頼できる人物だ。

 

 その傍らで不安そうな面持ちでグレイとレオンを覗き見ているのが『ナタ』少年。

色黒な肌に、頬に出来た傷痕が少し痛々しい。

『禁足地調査隊』が結成されるきっかけになった人物で、彼が禁足地にて保護された事で全ては始まった。

『守人の一族』を名乗る彼を故郷に帰し、『白の孤影』と呼ぶモンスターに襲われた彼の一族を救助するのも調査隊の使命の一つだ。

 

 重い足取りで船首に向かうナタを心配そうに見つめるのはオトモアイルーの『アイレ』。

ギルド支給の調査隊専用防具に身を包み、アイルーには珍しくとても流暢な人語を話すことが出来る。

パーティを組んでいる“鳥の隊”ハンターの一員なのではなく、編纂者アルマとナタ少年の護衛役としてギルドから遣わされている。

一応、オトモアイルーとしては名の通っている方らしい。

 

 

「いい場所があったらベースキャンプを作るって。 腕が鳴るぅ!」

 

「全てはそこからですね」

 

 

 二人の言葉に応えるように「うっし、がんばろう!」とレオンがはしゃぐ中、グレイはナタの背中を見つめていた。

同じようにジェマもナタを見遣りながら、「見つかるといいけど」と呟く。

 

 ナタが救助されてから既に数年経っている。

一族が生き残っている可能性は低い。

それでも、ナタは少しの希望を胸に、この砂上船に乗り込んだのだ。

 

 そんなナタの視界に、異変が飛び込んでくる。

気付くと同時に、船員の怒号が甲板に響き渡った。

 

 

「見ろ!」

 

「取り舵!!」

 

 

 砂上船の右前方に、激しく巻き上げられた砂煙が見える。

遠目から見て細長く、鈍色(にびいろ)の鉱石のような甲殻に覆われたモンスターが()()()確認された。

どうやら長い胴体を捻るように回転させることで、砂中を掘り進むように泳いでいるらしい。

 

 

「すごい数……」

 

「極度の興奮……何かを追っている?」

 

 

 進路を左に逸らした影響で、揺れる船体に足を取られながらも注視しているアルマは呟く。

 

 同時に、他の調査隊に所属しているであろう青年の編纂者が興味深げに言葉を漏らしながら、観察を続けていた。

 

 それらの群れの進み行くその鼻先には、また別の影が。

鳥竜種特有の鳥足に、飛ぶにはいささか不自由な程に小ぶりな翼脚、緑色の鱗と羽毛を併せ持った見たことのないモンスターが、砂埃にまみれつつも懸命に、全速力で駆けていた。

その背には小さな子供らしき姿も見え、必死に振り落とされまいとしがみ付いている。

 

 一一緊急事態だ。

 

 甲板にいた誰もが、理解した。

 

 

「近寄れッ!」

 

 

 ベテランの風格を醸し出す女性ハンターが操舵手に指示を飛ばすも、「あんなのに突っ込めるか!」と反対の意見が返される。

苦虫を嚙み潰したような表情で何か手立てはないものかと辺りを見回すも、良い案は浮かばなかったようだ。

 

 

「追いつけないよ!」

 

「どうしろっての?」

 

 

 アイレとジェマが諦めにも近い弱音を吐くも、アルマは“あるもの”に気付いていた。

 

 

「あの、何かが……」

 

 

 暴れ狂う群れと砂上船の間に、追われている鳥竜種と同種の別個体が走っている。

どうやら、仲間を追いかけているらしい。

 

 

「あれで近付こう!」

 

 

 同様に気付いたレオンは、「できるのですか?」と心配するアルマをよそに、行動に起こす為の位置取りを見計らっていた。

 

 

「やってみるさ」

 

「ボクも行く!」

 

 

 アイレが同行の意を示した。

身軽さを活かして、レオンを手助けしてくれるようだ。

 

 気を利かせた操舵手が僅かに船体を近寄らせると、(ふち)に手を掛けるようにして身を乗り出したレオンは、機会を窺っていた。

そして少しだけ距離が縮んだ一瞬を見極め、力一杯跳び付いた。

 

 何とか胴体を打ち付けるようにして着地一一もとい跳び乗ったあと、体勢を整えてから手綱を握る。

暴れる鳥竜種を落ち着かせながら、砂上船に近付けると今度はアイレが跳んできたので上手くキャッチした。

 

 

「いくぞ!」

 

 

 レオンは改めて目標を見据え、アイレを背後に座らせた後、握った手綱で加速指示を出す。

そうして一組のハンターが砂上船を離れていく中、甲板も慌ただしくなりはじめた。

 

 

「これ以上は無理だ! 乗り上げちまう!」

 

「前方に岩礁地帯! 減速して迂回しろ!」

 

「減速、取り舵! 振り落とされるなよ!」

 

 

 減速とは言葉ばかりで、追い風に押される勢いのままに群れから離れていく。

甲板では引力に逆らって怒声を張る者、引力に負けて悲鳴を上げる者。

 

 多少の物資が零れ落ちても、人々は落ちることなく乗せたまま、砂上船は岩礁の陰に隠れるようにして姿を消した一一。

 

 

 

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