多分遊戯王世界に転生したんだけど事件にも巻き込まれずアラサーになってしまった 作:道長(最近灯に目覚めた)
ヤミー使うとミツルギとリシド、ドラテ使うとK9、K9使うとヤミーに当たるのは仕様ですか?
「ではドローいただきまして……、あー。これはこっちスタートかな。『ドレミコード・プリモア』*1を召喚。召喚時効果でサーチしますが、何かあります?」
後攻1ターン目、盤面には『進化の繭』を装備した守備表示の『プチモス』*2と伏せが2枚、対面がしばらく考えた後、その伏せの1枚が発動する。
「……『神の宣告』*3だ。ライフを半分払い、その召喚を無効にする」
「なるほど。では召喚時効果はそもそも発動できず、フィールドで破壊された訳ではないので『プリモア』は墓地へ」
初動を潰しに来た。初見だろうに流石の嗅覚である。下手に大物まで引っ張るより、こっちの方が辛いことが多いのよね。特に展開デッキは。今回は温存していたのがあるから立て直しが可能だが。
「では自分のフィールドにモンスターがいないため『時械巫女』*4を特殊召喚します。チェーンは?」
「召喚そのものにいいぜ。だが着地時に『増殖するG』*5だ!」
神にG。強いハンドだが、それだけなら展開までいける。
「チェーン『うらら』*6で」
「ヒョッ!? 待て。ボクは実際にドローしてるわけじゃないぞ!?」
「直感的じゃないのはその通りですが、『増殖するG』は残存効果なので、逆に実際にドローするタイミングでは使えないんですよ。イメージ的にはそうですね……、1ターン限り有効な虫よけスプレーみたいな感じです。一度撒いちゃえば1ターンの間は効き目が持続すると言えばいいでしょうか。止めるためには、スプレーの散布そのものを止めなきゃいけないんです。『ドロール・ロックバード』*7も似たような感じですね。効果の適用タイミングの度にチェーンブロックを作る訳じゃないんです」
あとそれこそ『ドロール・ロックバード』の発動タイミングは、逆に『増G』の残存効果でドローした後だから余計混乱するんだけど。
ちなみにこの2枚、「うらら」は手札から捨てて発動、『ドロバ』は墓地へ送って発動だから、『うらら』は使えても『ドロバ』は使えないみたいな状況があるんだよね。紙でやる場合は要注意だったりする。
「……チェ、チェーンはない」
「では『増G』は無効に。『時械巫女』を素材に『リンクリボー』*8をリンク召喚しますが?」
「何も、ない」
「では条件を満たしたので手札より『カプシー☆ヤミー』*9を守備表示で特殊召喚。成功時『ヤミー』*10カードをサーチ。対応は?」
「ない」
「では『ヤミー☆サプライズ』*11をサーチ、処理後は?」
「ない」
「……シンクロ。『ヤミー』モンスターのシンクロ体は、リンク1モンスターをチューナーとして扱える効果外効果を持っています。出すのは『カプシー☆ヤミーウェイ』*12、横で。通るなら着地時サーチまで」
「……無しだ」
『神』系罠*13はない。ここまで来ると、あと警戒するのは『虹光の宣告者』召喚前の『ニビル』、*14伏せが『激流葬』*15のパターンか。これ、最短で『虹光』目指すルート行くべきか。『イヅナ』*16ケアは『うらら』使った時点でダメだし。『Ripper』*17が出てきても、ここから引っ掛かる効果は使わずに展開できる。仮に『アサイラム』や『ヴァイロン』*18が飛んできても、シンクロ体の分解効果を使えばリカバリー可能だ。……いや、仮に伏せが『強制解除』*19だと2面取られ得るから厳しくなるか。ただ2回の着地狩りと『押収』くらったリンク・シンクロテーマが勝てるなんて稀だし、それはしょうがな……、『スナッチー』使ってないから立て直し出来るな、これ。しかも『サプライズ』サーチ通っているから、『ヤミー』2体が並べば捌けてしまう。
「『クッキィ☆ヤミー』*20と『マシュマオ☆ヤミー』をサーチ、『マシュマオ―☆ヤミー』*21を捨てます。『ロリポー』*22効果でSS」
「通る」
「『クッキィ』SS」
「通る」
「シンクロ、『虹光の宣告者』*23。横で」
これで『イヅナ』を出しても、『ルプス』墓地送りが出来ない。素引きから『ティ・フォン』*24出されても展開の段階では引っ掛からないし。
「通る。大した展開力だが攻撃力は低いな。このままじゃ突破出来ないぜ?」
「そうですね。なのでもうちょい展開しますね」
これ、いつも迷うのだが『ブリキの軍奏』*25を使う展開は、先に使わず展開できる手札の時どうするべきなのか。いや『スプライト・エルフ』の有無で変わるだろうから、何とも言えないが。
「『サプライズ』発動。通るなら墓地から『マシュマオ』蘇生」
「……もう召喚反応系のカードはない。あと効果無効系もな」
「分かりました。では蘇生した『マシュマオ』効果。墓地の『サプライズ』回収。『マシュマオ』素材にリンク1。『ヤミー☆スナッチ―』*26をリンク召喚、SS時効果で『ヤミー』フィールド魔法を表側で置きます。『ヤミーズメント☆ミニヨン』*27を持ってきます。効果はフィールドにリンク1モンスターがいる場合墓地から『ヤミー』モンスターを蘇生する効果、そしてフィールドの『ヤミー』モンスターの攻撃力を『ヤミー』モンスターの数×500アップさせる効果を持ちます」
「500アップ? 強いが元々の攻撃力が低いからバランスは取れている……のか?」
「どうでしょう? では『ミニヨン』効果で『クッキィ』蘇生。再びシンクロ、『ロリポー☆ヤミーウェイ』*28。効果で効果無効の状態で『ヤミー』モンスターを2体蘇生します。出すのは『クッキィ』と『マシュマオ』。バトルフェイズに入ります』
「……入って良いぜ」
一瞬手元を確認した。『超融合』だとちょっと嫌だが……。初手『強欲で貪欲な壺』*29は強い。この世界の上澄みプレイヤーはハイランダー構築でも平気で使った挙句、普通に回るからマジでデメリットが無くなってる。
「では『マシュマオ』で攻撃」
「それぞれの打点は?」
「高い順に2700、2500、2300ですね」
「トラップカード発動! 『聖なるバリアー・ミラーフォース』*30! お前の攻撃表示のモンスター全て破壊だ! ヒョーヒョヒョヒョヒョ!」
「チェーンで『虹光の宣告者』をリリースして無効にして破壊で」
「ヒョッ?」
伏せられていたカードが捲られる。無効には出来るんだが……、パッと見綺麗に躱してるかもしれないけど、実は結構怪しいんだよな。これ。
「何もなければ『進化の繭』装備の『プチモス』は墜ちますが?」
「何もないが……待て待て、嘘だろ? これライフロス無しでもワンキルじゃないか!?」
「じゃあ続けて『クッキィ』で攻撃」
「ヒョー!?」
『神の宣告』のコストで残りライフが2000なので、『クッキィ』1回で削り落とされる。
……これライフ8000のゲームで『ヤミー』展開だけだと普通に凌がれる可能性あるんだよな。そう考えると『ミラーフォース』の役割デカいな。
「ちなみに耐えられて他に全体除去を手札に抱えられていると、返しの妨害が破壊耐性持たせた*31『スプライト・エルフ』*32と『サプライズ』くらいしか残らないんですよね。魔法・罠には干渉しにくいデッキなので。あと面を揃える必要があるデッキに対しては強い妨害があるんですが、対融合はそれこそ『虹光の宣告者』くらいしか刺さるのが無いので捲られやすいんですよ」
「全体除去なら『ブラック・ホール』*33くらいはあるが……」
次のトップを捲る。
「『インセクト女王』*34か。仮に引いたとしても、その後追撃する手段がこちらに無いからどっちにしろ厳しいな。そっちはリカバリー出来るんだろ?」
「そうですね。残った盤面だけでもエンドフェイズ『サプライズ』からの蘇生で立て直しは可能でしょう。展開次第ですがEXデッキに『スナッチ―』いますし」
相手は苦々し気に『マシュマオ』と『ミニヨン』を見ると、ため息を1つ。盤面に何か残るとリカバリー可能だからしょうがない。何故か2種のフィールド魔法が、墓地効果で墓地と除外ゾーンから『ヤミー』2枚をデッキに戻しつつ自身をデッキに戻すから、リソースが循環するんだよね。このデッキ。いや。なんで除外ゾーンから帰って来るの?
「これは例外中の例外ですからね。これに張り合うように調整する必要はないと思いますが……」
「これが基準になるとプロリーグを再編するしかなくなるな。……海馬のヤツが推薦するだけのことはある。で、お前ならこのデッキをどう改良する?」
「羽蛾プロのご期待に応えられるか分かりませんが、少しは案を考えてきました」
現役プロデュエリスト、『インセクター羽蛾』がこちらを値踏みするように、でもどこか諦めたような目を向け、自分に問いかけてくる。
事の発端は先週の電話からだった。
「えっ? いい加減『グレートモス』*35をデッキから抜きたいって? あぁ、新手の詐欺か勧誘ですか。お断りします」
業務中に電話がかかってきたと思ったら世界一有名な蟲野郎だった。間に内線を回す受付の人はいたけど。電話口から「ヒョーヒョヒョヒョヒョッ」とか言ってそうな声を聞いたら誰だって驚く。そして『グレートモス』を抜きたいなんて言い出したら、間違いなく偽物だろう。
「違う! ボクは本物のインセクター羽蛾だ!」
「いやだってあの蟲や……羽蛾プロが魂のカードを抜くわけないじゃないですか」
いかん。前世で見たMAD動画のせいで思わず蟲野郎と言おうとしてしまった。ニ〇厨なのがバレる。
「今、蟲野郎って言おうとしなかったかお前?」
「羽蛾プロにそんなこと……。すいません。今朝のニュースのコメント欄を見てたらつい」
それにこっちの世界でもみんな、となりの蟲野郎と言わんばかりに蟲野郎って書き込むものだから、脳内のラベルが『インセクター羽蛾』=『蟲野郎』と貼り付けられてしまっている。そもそも自分にあの『インセクター羽蛾』と直接話す機会があるとは思わないじゃん。
何故か決闘王が自宅の警備してくれていたのはビビったけどな! お礼にちょっとしたお菓子と、使えそうなところを贈ったが、あれで良かったのだろうか。
「あのコメントを書いたのはお前か? お前なのか?」
「非礼はお詫びいたします。弁明させていただきますと、眺めていただけですよ。試合内容も見ずにコメントなんて出来ませんし。更に言うとサイドデッキや2枚積み、1枚積み次第で判断が変わるゲームもありますから。今週のデッキ構築が完全公開されていない以上、批判のしようがないんですよね」
「……そうか。早とちりしてすまない。これでおあいこだな」
プロリーグはエンタメの都合上、デッキの完全公開は1週間遅れになる、運営側は基本のメインデッキEXデッキ、そして当日入れ替可能な自由枠であるサイドデッキを把握しており、申請されていないカードを使用した場合、その試合は敗北となる。ちなみに罰則対象になるのは使用なので、デッキに入れるだけなら不問の場合が多い。これは昔、城之内プロがKCグランプリのリーグ戦でやらかしたことが原因だったりする。相手がピーピング効果のカードを使い、何故か伏せられていないそれを見て、実際に伏せられているカードを過剰に警戒してしまった結果、キルを取り切れずに噛み合ってしまったのだ。試合後に城之内プロがルール違反で失格したが、対戦相手の遊城十代が「でも皆面白かっただろう?」という一言で不問となった。普通ならただのアド損だからね。あんまり続くようならともかく、ミスは誰でもある。興行としても即失格は可能な限り避けたい。その辺りは暗黙の了解だろう。
……思考が逸れた。メインデッキとEXデッキは1シーズンに2度しか変えられないが、サイドデッキは1週間に1度入れ替えられる。だから完全公開が1週間毎になる。その辺りのやり取りを含めて楽しむのがプロリーグなのだが、そこまで把握して見ている観戦者は少ない。かく言う私もそこまで真面目には見ていないのだが。今回は実際にコメントしてないし、元からコメントする習慣もない。信憑性を持たせるために適当なことを言ったのだが、羽蛾プロは存外真面目に受けとめたようだ。
「お〇J民も、お前位内容を見てくれた上で批判するなら納得するんだがな」
「お〇J民に何を求めてるんですか……。いや。プロですよね? あんな書き込みを見ても調子を落とすだけですよ?」
羽蛾プロ大はお〇Jでも人気だけどさ。おもちゃにされる位には。えっ。仮にも原作キャラだよ? 見てる見てないで言えば見てそうだけどさ、『インセクター羽蛾』。でもプロが見てるって嫌だわ。
「ボクはお〇j民の熱い掌返しを何より楽しみにしてるんだ!」
「えぇ……。こんな渇いた叫び聞きたくなかったんですけど」
くじけそうな胸にトドメを刺してきた。
あそこはサヨナラホームラン打った翌日に戦犯スレが立つレベルで乾いてるけどさ。そうじゃないだろ。 モーター式の手首に何を期待しているの? パチンコのレバーの方がまだ期待値高くない?
「君に首位打者のランキング*36に名前を混ぜられた挙句、『羽蛾銀行』、『日乃森姉弟相手に33‐4食らいそう』とか書かれる人間の気持ちが分かるかい!?」
「同情はしますが……。ただ、なぜ自分に電話かけてきてるんですか? デッキの悩みなら同僚、精神的なものならカウンセラーにすべきでしょう。そもそもどうやって私の部署を?」
プロとの接点はカイザー亮ぐらいしかないが、藤丸と羽蛾の絡みなんてそれこそ試合でしか見たことないぞ? 実は仲が良かったりするのだろうか。
「……おいおい。プロリーグ最大のスポンサーはどこだと思ってるんだ?」
「それはKCですが。羽蛾プロと社長の繋がりが、いまいちピンと来なくてですね」
「ふん」と、不承不承と言わんばかりに鼻を鳴らすのが受話器から聞こえた。
「ボクだって本当は頼りたくなかったさ。けど今の成績はヒールとして失格さ。ヒールっていうのはただ嫌なヤツってだけじゃダメなんだよ。それなりに強くないと倒されがいが無いからな。今は面白がって話題になってるけど、その内飽きられるに決まってる」
とてもじゃないがあの蟲野郎とは思えない発言が聞こえた。
えっ。やっぱり偽物では?
自分の動揺が伝わったのか、ため息の後に羽蛾プロが言葉を続けた。
「意外か?」
「それは、まぁ。羽蛾プロってほら、インタビューでも煽りが上手いじゃないですか」
リーグ発足当時は一般戦を高勝率で終え、ビックマウスかまして肝心のトーナメントで負けるというのが冬の風物詩として有名だったんだが。リーグ戦のタイトルは持っていても、トーナメントタイトルは持っていなかったはず。
「流石に長くこの役回りをやっていれば、自分の立ち位置くらい分かるさ。今更変えられる訳でもないし、このキャラのおかげで食ってこられたからな」
「……さすがプロですね。で、何故自分に連絡を? 私は一般人ですが」
「海馬のヤツに頼るのは心底嫌だったが、背に腹は代えられなくてな。頭下げたらこの番号とお前のことを教えられたんだよ」
「何やってんですか社長~。これも業務に含まれるんですか?」
絶対面白がって自分に押し付けたでしょ、あの人。
「海馬はムカつくが、実力は確かだ。頼むぜ?」
「……分かりました。力は尽くしますが、ご期待に応えられるかは分かりませんよ。空いている時間を教えていただけますか? 羽蛾プロ」
そんなんで相談を受けているのが今の状況である。なんやかんやプロということで持っているカード1枚の質は高めだ。先攻さえ取れれば、遊戯王OCGでも1ターンは凌げるようなバックは揃えられる。それでもキツイものはキツイわけで。
「これからも『究極完全態グレートモス』、使う気あります?」
「……使うさ。ただ意味合いとしては切り札というより、ファンサービスの部類になってるのも事実だ」
羽化することなく戦闘破壊された『プチモス』を見つめる羽蛾プロ。OCG効果ではなくアニメ効果なのもあって、昔はこれを巡る攻防が結構な見どころだったのだが、除去がある程度出回っている現在では出る前に、あるいは出てもすぐ除去されるカードになってしまっている。ステータスはそれなりのため、除去を吐かせるという役割と考えれば悪くないのだが、『プチモス』と『進化の繭』で既に2枚使う以上、除去された時点でアド損、しかもデッキ内の進化先が腐るというオマケつきである。更に言うと装備カード扱いの『進化の繭』のせいで魔法罠除去にも引っかかるという。
「多分羽蛾プロ、もっと強いカード持ってらっしゃいますよね? 少なくとも昆虫族関連は」
「そうだな。これを入れるなら『ベアグラム』*37を入れた方が強いだろうし、なんなら『完全態グレートモス』*38を主軸にした方が、良く回るんだろう」
「採用されている理由があると」
「……プロ歴は長いからな。一応いるんだよ。ボクのファンが。まぁ無邪気な子供も偶にいるが、多いのは当時を懐かしむオッサンと」
自嘲気味に笑いながらスマフォ触りだし画面を見せてくる。
「ネットでボクをおもちゃにして、きゃっきゃっ言っている。クズどもさ」
「……間違いなく一番のファンでしょうね。なんなら自分も『究極完全態グレートモス』が出て勝ったとなれば、嬉しい側の人間ですよ」
開かれているのは例のネット掲示板、そこの羽蛾プロ関連のスレには相変わらず罵詈雑言が書きなぐられていた。「時代遅れ」、「プロデュエリスト羽蛾、没落貴族と対談する」、「【悲報】インセクター羽蛾、行方不明」等々、好き勝手に煽っている。
そう言えばM∀LICEもスレ立てていたな。あとで覗いたら全然伸びずに落ちてたけど。何というか。最近、思考がニートのそれに近づいている気がするのは気のせいだろうか。基本寝る必要が無いから、暇な時間が多いのが原因か?
「人のことを大喜利のお題とでも思っているような奴等だが、同時に同類として一番応援してもらってるんだよ。ボクはクズ達の代表だからクズのまま勝たなきゃいけないんだ。パワーカードだけを使って勝ったとしても、こいつ等は喜ばない」
「……流石プロ、ですね」
「一番は調子こいてる上位ランカーがボクに負けてリズムを崩した挙句、スランプになるのが楽しいだけだけどな!」
「今までの感動を台無しにしてきましたね」
「ヒョーヒョヒョヒョヒョ! ボクがそんな殊勝な人間だと思ったかい? なら随分おめでたい頭をしてるね!」
見たことがあるゲスイ笑顔で言い放つ。人間としてはクズなのは間違いないのだろうが、変な所で意地がある。自尊心が高いだけと言えばそれまでだが、思ったより理解できるものだった。
ずっと前世のイメージに引っ張られて、案だけ出して退散しようと思っていたのだが、今のインセクター羽蛾を見るともう少しだけ応援したくなっている自分がいる。
……クソ害悪カードだけど最後に出てくるのが『グレートモス』なら許される、か?
「……羽蛾プロ」
「なんだ?」
一応持ってきておいたストレージを取り出す。確か、あえて永続系の方にまとめていたはずだが……あった。
「『魔鍾洞』*39ってカード、ご存知です?
しばらくして
家に帰るとパソコンにプロトーナメントのLIVE映像が映っていた。
「あっ。マスター、おかえりなさい」
M∀LICEが画面内に現れて迎えてくれた。今日の恰好は『March Hare』。比較的ポジティブな時の恰好だ。
どうもプロの試合を見ていたらしい。編集作業やゲームをしていない時は、大抵はRTA動画とかクソゲー実況、あとパック開封動画流しているのに。
「珍しいな。お前がプロの試合を見るなんて」
「それが蟲野郎ことインセクター羽蛾が変なカードを使っているってネットで話題になってまして。昨年のグランドチャンピオン相手に『究極完全態グレートモス』召喚まで漕ぎつけたということで、実況板は大盛り上がりですよ」
たれ耳の片方をピコッと、先っぽだけ持ち上げながら、画面を拡大する。
「あれ、マスターがあげたものですよね?」
「そうだな。早速活躍しているようで何よりだ」
「……活躍はしてますが……」
M∀LICEが何か言いたげなジト目を向けてきた。
まぁ。気持ちのいいカードではないな。
「あれ、やり過ぎじゃありません?」
「フィニッシャーが『究極完全態グレートモス』ならみんな笑顔になれるだろう?」
「M∀LICEはネットのおもちゃ程度にしか認識してませんが、マネモブ*40……じゃなくて長年のファンからしてみれば、「蟲野郎がトーナメントでチャンピオンに勝つのは解釈違い」っていう声が多いですよ」
「厄介ファン多すぎでしょ羽蛾プロ……。そんなにチャンピオンの旗色は悪いのか?」
「かなり悪いですね。タイヤの熱ダレか?*41」
「……お前はCPUの熱ダレ起こしてるけどな? タイヤの熱ダレで笑うAIとか絶対退化してるだろ」
「リ〇ちゃん人形の家系図に詳しい*42中年男性に言われたくありません」
「それを言われると何も言い返せなくなるな……」
リ〇ちゃんのお父さんとお母さんの名前なんてあの動画で初めて知ったわ。しかもお父さんが婿養子とか。だって謎の吸引力があるんだもの、あの動画。
M∀LICEが実況画面を振り返る。また試合が動いたらしい。
「あっ。折角出した『ブラック・マジシャン』、手札に戻されちゃいましたよ?」
「どれどれ……」
ミュートにしていたスピーカーをONにすると両者の声が聞こえてきた。
「やるね羽蛾クン! まさかそんなカードを持っていたなんて!」
「ヒョーヒョヒョヒョヒョ! お前がチャンピオンになってからトーナメントでは一度も勝ててなかったが、それも今日で最後だ! 今年のグランドチャンピオンは、このボクだ!」
あのムカつく笑顔で煽り立てる羽蛾プロ。一方チャンピオンは微笑みながらも冷静だった。
M∀LICEが画面を指さしつつ、「みてみて!」と言わんばかりに手足をばたつかせてこっちを見てくる。こういうのを見ると知能と情緒ってまた別物なのだと思う。
「ほらほら! ピンチですよ。ピンチ! ……やけに落ち着いてません? マスター」
「なんというか。お約束ってやつだ」
「お約束?」
「あぁ」
特大のフラグ立てにいったな。素で言っているのか、計算しているのか分からないが。勘だけど素だと思う。色々経験はしたことはあったんだろうけど、性根の部分は結局あの蟲野郎だし。
だからこそ変な所で愛されているのだろう。
「お前の場にはトークンが4体、モンスター効果はまず使えない! 有効な回答である『ブラック・ホール』はさっき潰した。さぁ、どうやって突破するんだ~?」
「うん。正直一人じゃ厳しいよ」
「ならサレンダーかぁ? ヒョーヒョヒョヒョヒョ!」
「だからボクも友人達の力を借りるよ!」
「ヒョッ?」
「速攻魔法! 『黒魔導のカーテン』*43!」
どこからともなく「ロッ〇リア~♪」の音楽が聞こえた気がした。
「お互いのデッキ、手札から闇属性・魔法使い族モンスターをフィールドに特殊召喚するよ! 羽蛾クンは何を出す?」
「……ぐっ。ボクは出さない」
「なら、ボクは手札から『ブラック・マジシャン』*44を特殊召喚! 更に『黒魔導のカーテン』で『ブラック・マジシャン』か『ブラック・マジシャン・ガール』を特殊召喚したプレイヤーは『ブラック・マジシャン』の名前が記されたカードを手札に加えることが出来るんだ! ボクはデッキから『黒・魔・導』*45を手札に加える」
「『黒・魔・導』!? マズい……!」
「そして『ブラック・マジシャン』が場にいるからそのまま使わせてもらうよ。『黒・魔・導』!」
一瞬画面が真っ黒になったと思ったら、羽蛾プロのフィールドが『究極完全態グレートモス』を残して更地になっていた。
「まだだ……! 『ブラック・マジシャン』じゃ『究極完全態グレートモス』の攻撃力には届かない!」
「うん。だからここからは友達の力を借りるよ。『ブラック・マジシャン』とトークン2体を使ってリンク召喚! リンク3、『神聖魔皇后 セレーネ』*46!」
「リンク召喚だって……! いつの間にそんなカードを……、」
あ。私がお礼であげたカードだ。でも実戦で使うのは初めてじゃないか?
「あれ、マスターがお礼で贈ったカードですよね?」
「そうだな。使ってくれたみたいだな。『滅びの黒魔術師』*47持ってないのか……?」
「……DM界の死の商人みたいなことしてませんか? マスター」
「……そんな気もするが、精霊達に暴れられてもしょうがないだろう?」
「それは……、確かに今も画面をガン見してる子がいますけど」
「マジか。良さそうな人探すからよく言い含めておいてくれ」
リシドさんの様に。一応結婚祝い品を送ったら引き出物の箱の中に「タケステ」と書かれた意味不明な紙片があったが、多分ただのゴミだろう。
そんなことより、これ以上話すと精霊にせっつかれそうなので、画面に集中することにした。余計なことが起きないように今日は早めに寝よう。
「更に『マジシャンズ・ロッド』*48を召喚! 効果で『ブラック・マジシャン』の名前が記されたカードをサーチ! 手札に加えるのは『ティマイオスの眼光』*49!」
「「あっ(察し)」」
M∀LICEと自分の声が重なった。確かにキル取りにいくならこっちの方が確実か。
「フィールド・墓地から『ブラック・マジシャン』をデッキに戻して『ブラック・マジシャン』1体のみで融合召喚! ただし、この効果で融合召喚したモンスターは次のエンドフェイズに除外される」
「モンスター1体で融合召喚だって!?」
狼狽する羽蛾プロをスルーしてアイツは現れた。
現代遊戯王だとそこまででもないけど、割りとトラウマなんだよね。アレ。本体は『リリーサー』*50素材の『クラウソラス』*51だが。
「使わせてもらうよ。城之内くん! 『超魔導竜騎士 ドラグーン・オブ・レッドアイズ』*52! 『ドラグーン』の効果発動。融合素材にした通常モンスターの数まで、フィールドのモンスター1体を破壊し、その元々の攻撃力分のダメージを相手プレイヤーに与える! 対象はもちろん、『究極完全態グレートモス』!」
「破壊に加えてバーンダメージ!? インチキ効果もいい加減にし、ぐあぁぁぁ……!」
「『究極完全態グレートモス』、撃破! このバーンダメージ、自作TRPGシナリオの雑なラスボスの難易度上げみたいだよね。本当にペガサスさんがデザインしたのかな……?でも『魔鍾洞』も大概だからいっか。バトル! 『ドラグーン』でダイレクトアタック――」
「マスター」
「なんだ?」
画面では羽蛾プロが見事なやられっぷりを披露した。前振りを含めて、まるでオペラ見ているようだった。変なファンが付くのも納得である。
「かわいそうはかわいいってこういうことですか?」
「多分違うと思うが、ファンにでもなったか?」
「はい。親父殿のガバに近い、あぁ。なるほど。これがお約束、いわゆる様式美とか伝統芸能と言われるものなのですね」
……あれ? もしかして私、またM∀LICEのことアホにした?
最近タイヤの熱ダレで笑ってしまう病気を罹患しました。誰か良い薬を教えてください。
少なくとも4月末までは投稿出来ないと思います。
ライバルでグラマス当たったら勢いで投稿するかもしれないんで応援してください。
需要調べ(反映出来るかは別)
-
どうでもいい話(思いついたら)
-
シリアス込み長編系(恐らくは飽きる)
-
恋愛系(別に書いてもろてええですよ)
-
R-18(言い出しっぺの法則はご存知?)
-
その他(その時はメッセージや活動報告で)