多分遊戯王世界に転生したんだけど事件にも巻き込まれずアラサーになってしまった 作:道長(最近灯に目覚めた)
前回以上に今回は癖のあるネタ多めです。
インダストリアルイリュージョンカンパニー、通称I2社。
この世界におけるデュエルモンスターズの開発元であり、現在でも自然発生したカードを除けば、オリジナルはほとんどがこの会社で製造されている。印刷そのものはライセンス制で、新カード開発も金と許可があれば他の会社でも可能らしいが。……自然発生するカードという前置きに違和感を覚えなくなって幾年か経つが、改めて意識するとホラーだよね。この説明。しかも工学の産物であるデュエルディスクが問題なく動作するし。ここまで世界的に流行していると、実質貨幣が自然発生しているようなものじゃね?
微妙に信用できない貨幣発行元ではあるが、世界一有名なゲームメーカーであるI2社。現在では海馬コーポレーションも世界トップクラスな大企業だが、それに勝るとも劣らない超一流企業の日本支部社の来賓室に、自分はいた。
「ヘイヘーイ。キリキリ吐きなサーイ。今まで何人の女性に手を出したのデスカ?」
「いや。マトモに付き合った女性はいませんし、『ディアベルスター』を除けば、あとは仕事上のお付き合いしか……。ホントですって。複数人と付き合えるほど甲斐性ありませんからね!? 自分!」
「Oh……。セクシャルでなければノープロブレムとは、とんだクソ野郎デース。清廉潔白を良しとするジャパニーズガイとは思えマセーン。夜行、KEJIME Complete Setを持って来てくだサーイ」
「はっ。只今」
「なんで?」
なぜか指を詰められそうになっていた。目の前にはデュエルモンスターズの生みの親にして王国編のラスボスであるペガサス・J・クロフォードとその側近であり養子の天馬夜行。
そして
「……Suck」
こちらにゴミでも見るかのような目線を向けてくるI2社所属のプロデュエリスト、レベッカ・ポプキンス女史の目の前で。
「ウェイトウェイトウェイト! こんなうだつの上がらないサラリーマンに、そんなこと出来るはずないでしょう!? 冤罪ですよ冤罪! アイムノットギルティ!」
「お待たせしました。ペガサス様」
運ばれたのは短刀とまな板、だけでなく脇差と白装束までセットで運ばれてきた。しかもご丁寧に、台車には畳まで積まれている。
最近、龍○如くでもやりました? 会長。どこでもエンコセットのデラックス版?
「えっ。切腹?」
「Yes. I said Complete Set. これ一つでジャパニーズドゲザからフィンガーソーセージ、ハラキリまでデキマース。Hey! ハーラキリ! ハーラキリ!」
「人を切腹させるテンションじゃない……! 大道芸か何かと勘違いされてません!?」
「ホマレはハマで死んでマース! ハラキリは勇を失ったものが、最期に恥を雪ぐイニシエーションと学びマシタ」
ツシマはまだ分かる。良いゲームだから。なんでそこに作者以外マイナーなB級漫画が入り込むんですかね?
「切腹とツシマとサム○がちょっと混ざってるかな……? なんでこう日本文化への熱意が伝わる、微妙に否定しにくい学び方してるんですかねぇ!?」
「まるで八○くんみたい」
「エ、エイトスピーチ……いや、原因は貴女ですかポプキンス女史!」
レベッカの呟きは聞き逃せなかった。『度々ボソッとサム○語録で誤魔化すレベッカさん』とかどこに需要があるんだ。絵師ガチャSSRでも打ち切り食らうぞ! サム○の様に*1。
自分のツッコミを素知らぬ顔で受け流し、自前のペットボトルに手をかけた。手持無沙汰で詰まらないから口を付けただけで、のどが渇いた訳ではないのだろう。
「未だに遊戯ボーイを想っているレベッカ嬢の前で良くも「イケシャーシャー」と」
その言葉に、レベッカが飲みかけのミネラルウォーターを噴き出した。マジで!?
「ウソでしょ……」
「What!? 何でこっちに飛び火するのヨ!? ペガサス!」
「オウ。Sorry Ms. Rebecca.」
言葉こそ謝っているが、態度は非常に白々しい。わざわざMs.と強調している時点で。
「ですがそろそろワタシやプロフェッサーアーサーの事を考えて……適切な日本語が喉の辺りまで出かかっているのデスが……」
「……慮る? ですかね」
「グッド。 オモンパカル。スバラシイ言葉デース。段々孫に直接言うのもアー……」
ペガサス会長から「何でしたっけ?」と言いたげにこっちに目配せされる。
「……はばかられて?」
「ソゥ。それデス。ワタシに相談するおじいさまの気持ちと、それを聞かされるワタシのことを考えたことがありマスカ? オヤツの空気というのを身をもって知りまシタ」
「おじいちゃん!? 最近言ってこないと思ったら……!」
「会長。オヤツではなくお通夜です。それだと昼過ぎの間食ですよ。えー。レベッカ女史? 未だに日本チャンプのことを慕っているというのは……」
「……悪いかしら?」
「それは友人としてではなく?」
「そうよ」
睨まれた。有無を言わせない視線である。これが10年位前なら一途なんだなと、ちょっと感心しただろう。
でもさ。
「流石に30過ぎて既婚者に横恋慕はちょっと……」
「○体蹴りはマナー違反ってママに習わらなかった?」
あぁ。○んでるっていう自覚はあるのか。
「○体蹴りにもマナーと一握の慈悲があります。その○体、もう火葬した後なんですよね。足蹴にすることすら忍びないというか」
「残念だったわね。ウチは代々土葬ヨ」
「とっくの昔に白骨化してますよ。それ」
もうね。イジれるレベルじゃないのよ。中指を立てられ、英語に疎い自分ですら分かるスラングで罵倒されたが、哀れみの心しか湧いてこなかった。
あまりにも重すぎて、下手に口走ると呪われそう。ヴォル○モート卿かよ。切腹よりお辞儀を強要されそう。
7つ目の分霊箱だけは勘弁してほしい。生き残った男の子って齢でもなければ、レアリティも足りない一般人なんだから。
……売れ残った女の子は目の前にいるな。招待状が来るのはホグ○ーツじゃなくて婚活パーティだけど。自分も似たようなものだけどね。うん。犯罪者にはなりたくないんだ。
「さて、前置きはここまでにして本題に入りまショウ。夜行、片づけて良いですヨ」
「はっ」
「えっ。夜行さん、このためだけに駆り出されたの?」
ただどこでもケジメセット運んでるだけじゃん。なにこの頭の悪いハリウッド映画のノリ。
それは一旦切り離して、レベッカが残っているのと、以前依頼されたことを合わせれば方向性は何となく察しは付く。夜行さんが部屋を出るのと確認してから、会長は口を開いた。
「本題に入りマス。先日依頼した通り、現在M∀LICE嬢と相談させてもラっている内容についてデス」
「急に連絡が来た時はビックリしましたが、一般人でも意思疎通が可能なカードの精霊という用件以外に彼女に何を?」
元々カードの精霊について研究していたのはレベッカの祖父であるアーサー・ポプキンス教授だったはず。だからM∀LICEに対する複数回のコンタクトは合点がいったのだが。
ただネット上とはいえ、先週から連日というのは違和感があったが。そして自分が直接対面したのは、今日が初めてである。
「それももちろんあるワ。それだけで済ませたかったのだけド」
「ここからは本来社外秘。外部の人間で知っているのは海馬ボーイとアナタだけですのでトップシークレット。タゴンムヨーでお願いしますヨ?」
さっきまでのはしゃぎっぷりはどこへやら。表面上は落ち着いているが、余裕はそこまでないのだろう。ある程度信用関係にあるとはいえ、外部の人間である社長に直接連絡するのだから。
「海馬社長はこの件について全容を知っていると?」
「えぇ。その上で彼女の存在と、監督者であるアナタのことを話してくれマシタ。対価は『ブルーアイズ』の新規カード許可で手を打ってもらってマース」
「『ブルーアイズ』の新規カード、ですか」
身代金として見ればかなり高額だろうが、大体がM∀LICEの価値だろうからなぁ。あんまり買いかぶられても困る、無理な事は無理って言わなきゃ余計なリスクを背負わせてしまうかもしれない。
社長がOKを出しているなら、ギリギリ対処可能なものだと思うが。
「事態について説明しまショウ。KCが行なっているように、我々I2社もここ数年AIに関して研究を行なっています。10日前にそのAIが脱走しましタ」
「AIが脱走……? 待ってください。そんなことあり得るのですか? それに人間に脳が必要な様に、AIだってハードウェアが必要なはずです。I2社クラスが開発しているAIを受け入れられるハードなんてそう多くありませんよね?」
脱走そのものが起きたとしても、脱走先の目星を付けるのは容易いはずだ。
……ただ、それなら自分にお呼びがかかるはずがないのよな。
「その通りヨ。だから真っ先にKCに確認を取ったのだけれド……」
「KCに限らず全力を尽くしましたが、わが社の手が及ぶあらゆる箇所を調べてモ、形跡こそあれど、本体を見つけることは出来ませんでした」
「基本性能をハードに依存しないAIなんて、それこそM∀LICEの様な例外くらいしか……。あぁ。だからポプキンス女史と自分なのですね」
「That‘s light. 脱走が判明してから2日目に海馬ボーイからアナタ達の事を知らされ、精霊関連の識者ということでレベッカ嬢もメンバーに加わっていただきましタ」
まーたサイバース族がやらかしたのか。アイツ等いっつもやらかしてるな。ん? じゃあなんで側近である天馬月行さんや夜行さんが席を外しているんだ? かなりの重要事項だろう。これ。
「月行さんや夜行さんがこの場にいらっしゃらないのは何故ですか? こういう時、真っ先に動く人達な気がしますが……」
「月行は今もM∀LICE嬢と捜索方針について話し合ってもらっています。夜行は万が一に備えて参加を控えているのデス」
「万が一?」
「何かあれば首脳陣は責任を取らざるをえないデショウ。AIの持つ潜在的なリスクはアナタが一番分かっているハズ」
微かに細めた眼が問いかけてくる。思い出すまでもない。
過去の事件もそうだし、なんならM∀LICEの存在もリスクと言えばリスクだ。
「最悪は首脳陣が総辞職になる事態はあり得ますね」
「となれば後を引き継ぐ人間を保護しておく必要がある訳です。もしもの時は夜行に任せるしかアリマセン」
「本当に精霊化している確証はナイけどネ。失踪前日も特に異変らしい異変は無かったようヨ」
「……別に詳しい訳じゃありませんが、M∀LICEの時も突然でした。……ここまで話が大きいと自分が役立つ場面なんかないと思うのですが……?」
想像以上にマズい事態でしょ。これ。責任を片棒でも担ぐのは、ちょーと遠慮したいかなって。自分の判断に左右される組織なんて、その時点でもう詰んでる。
「別にアナタをアテにしてるわけじゃない」
怒ってはいないが、少しばかりイラつきを滲ませつつ、レベッカが口を開いた。さっきは我ながら失礼なことを言った自覚はある。甘んじて受け止めねばなるまい。『ルキナ』ほど言葉はきつくないし。
「その言葉が聞けて安心しましたよ。ポプキンス女史」
「レベッカでいい。さっきから背筋がゾワゾワしっぱなし」
「ではレベッカプロ」
「……女史よりはマシね」
不服だが悪い気はしていない、そんな顔をしている。
「何度かM∀LICEと話したけど、とんでもないろくでなしが保護者みたいだから、一度くらい顔を拝んでおこうと思っただけよ」
「放蕩なれど出来娘って言えばいいんですかね? 私のせいで随分アホになっちゃいましたけど」
余計な知識が増えたせいで事実、演算能力そのものは、M∀LICEと名乗り始めた最初期より落ちているそうだ。良くも悪くも人間臭くなった。
その分、勘? 感覚? と言うべきだろうか。 ビックデータ解析に代表される情報の提供より、主観や私見による意見が多くなったように思える。AIとしてはどうなんだ? 進化どころかワープ退化しているような気さえする。
自分の返答を胡乱気に睨みながら、レベッカは呆れたようにため息をついた。
「自分で言ってて悲しくならないのかしら? アナタの言う通り、あまりに出来が良すぎるせいで参考にならないのヨ。M∀LICEはね。モット優秀な人間が教育していたらどこまで伸びたのかしら?」
「偶にやらかすのに、出来が良いっていう現状評価は素直には賛同しかねますが?」
よくSFに出てくる全知全能タイプとは程遠いぞ。ウチのは。自分の教育の限界と言われればそれまでだが。
「統計的に正しい答えを出すのなら他のAIでも出来るのヨ、ここまで人間びいきなAIが、どうやって生まれたのかが知りたかっただけ。……逃げ出したAI、精霊化しているだろう「アグニ」の性質が少しでも分かればと思ったのだけれど。M∀LICEの善性は持って生まれた方向性と判断するしかないワ」
『アグニ』がどういった理由で脱走したかは、まだ見当もつかないわね。
考え込む様はさながら探偵である。
アイツが善良? ヒトのプライバシーを常時覗き見る挙句、こっちの実生活をガチガチに束縛しようとしてくるアレが?
善意から言っているのは分かるし、感謝はしているが、やり方は捜査権を得た警察くらいに強引よ? 何か反論するとデータで殴ってくる。
まぁ一歩でもラインを踏み越えたらだめなのではなく、多少のオーバーランは許容してくれるのだが。
「……何か気付いたことがおありでしょうか? ペガサス会長」
いつの間にかこっちをジッと見つめられていることに気が付いた。ミレニアムアイが無いとは言え、内心を読まれているようで居心地が悪い。
「ンフフフッ。ふと、『オウイカツシカ』を思い出しましてネ。個人的には『ホクサイ』より彼女の作品の方が好きなのですヨ」
「……どういうことでしょう?」
なんで急に江戸時代の浮世絵師が出てくるんだ?
「所在については分かりましたよ。月行さん。すぐ移動するでしょうが、これ以降も、私個人なら追跡可能です」
「助かりました。M∀LICEさん。……ここからが問題なわけですが」
I2社のAI開発室、多数配備されているモニターやキーボードに対して、在席している人数は少ない。中央のホログラム上で『Cheshire Cat』の恰好で複数のスクロールを操作するM∀LICEと、傍らで自身も情報収集していた天馬月行の他には数人のスタッフしかいない。
「正直、人間では厳しいでしょうね。本気で隠密行動を行なっている潜水艦を、地上から見つけるのはほぼ無理でしょう?」
「確かに、経験者としての意見はどうですか?」
「以前のアレは明確に根城を持っていましたからね……。城攻めは難易度は高いですが、パワーがあれば押し切れます。機動戦となるとゴリ押しが通じにくくなりますからね。一番確実なのは私が出張ることでしょう。……ん~。ただ新型のKC製かつ本社サーバーにリンクしていたとは言え、元々がデュエル用で情報収集の子機に近い私と、I2社が本腰入れて開発した企業向けマザーAIのプロトタイプでは基礎スペックが違いすぎるんですよね」
「……数値上のスペックは重々承知していますが、目の前で魔法染みたホワイトハックを見せられると、いまいちピンと来ませんね」
月行が眉を顰める。現に彼を含めた此度の脱走事件に対処するために組まれた専門チームが、一週間で達成出来なかった第一目標を、彼女はものの数分で達成している。それを間近で見せられて、そんなことを明け透けに言われたものだから、目標達成から若干弛緩していた現場に動揺が走る。
それを感じ取ったらしいM∀LICEは大げさに肩をすくめて見せた。
「そりゃあ当然ですよ。市販の普通乗用車とF1カー……はちょっと言い過ぎですかね。ヤリス*2とレースカー位の性能差はあります」
「あまり車には詳しくないのですが、その言い方ですと相当な差があるようですが?」
「詳しくない人から見れば一纏めに車として分類されるのでしょうけど、基本構造からして別物なんですよ。ボディもそうですが、露骨に違うのは足回りですね。想定される速度域が全然違うので。仮に前輪駆動の軽自動車に本気でチューンしたRB26*3なんて積んだら、ただの人殺しです。グッとアクセルを踏んだだけでACE後○*4が3人は吹っ飛びます*5」
「やたら詳しいですね」
その場にいる全員の総意だった。いや。その場にいた車が趣味の男性スタッフだけは「うんうん」と頷いていたが。
「高橋○介*6ごっこがしたくてマスターに首○高バトル*7を買ってもらったら思いのほか面白くてですね。いずれは現実でロータリーおにぎり*8を35R*9でぶっちぎってやりたいです」
「人の心とかないんか?」
ばっちり4WD落ちしているM∀LICEに思わずツッコむ男性社員。
「AIに人の心なんて求めないでください。G○7*10だと他の車と操作感が違い過ぎる*11んですよ。PP550のオートポリス*12も拘り捨てて、適当に32R*13をチューンしたら普通に勝てましたし。4WD*14あらずんば車にあらず」
「……冗談じゃねぇ……」
「YOKOHAMA*15出身の方でしたか。Get Rewards*16だけは勘弁してください」
「話が脱線していますよ。緊急の任務を行なっていることをお忘れなく」
流石に見過ごせなくなって月行が釘を刺す。両者ともにやりすぎた自覚はあったため、職員は「申し訳ありません。月行様」という言葉と共に仕事に戻り、M∀LICEも大人しくちゃんとした説明を再開する。
「先ほど言った通り、私達にとってこの元々のスペック差というのは限界性能に露骨な影響を与えるのですよ。どれだけマシンパワーが高くても、基礎設計がその出力を想定してないと受け止めきれず活かしきれません。どれだけバックアップを受けてもM∀LICEが活かせる出力には限界があるんです」
「では、『アグニ』に敵対の意思があった場合、あらゆる準備を尽くしても貴女では勝ち目がないと?」
開発室の空気が再び張りつめていく。現状仮に敵対した場合、M∀LICEに勝ち目がなければ、I2社にこれ以上切れるカードはない。正式に事故を公表して、外部の協力を仰ぐ必要が出てくる。そうなった場合のI2社の末路は火を見るよりも明らかだ。
その緊張感に少しばかり呆れるように、M∀LICEがため息をつく。
「緊張しても状況は変わりませんよ。まあ一応、今のM∀LICEは生物としての側面を持ち合わせているので、当初の設定スペックとは大分変わってますけどね? これだけ不安を煽っておいて申し訳ありませんが、性能差だけでは勝ち負けは決まりません。もしもの時は、腕の差ってヤツを見せてあげますよ。秋名のハチロクみたく*17」
「あぁ。その例えは私も多少は分かりますね。ところで一つ、貴方にお聞きしたいことがあります」
「なんです?」
M∀LICEのふざけつつも自信ありげな返答に一瞬微笑みつつも、質問の方は真面目らしい。どこかの刑事ドラマの眼鏡の人みたいだなと、M∀LICEは思った。
「なぜ、貴女は人間に協力してくれるのですか? もしかすれば、今回も同胞と敵対するかもしれませんよ?」
二人以外に話しているスタッフがいた訳ではないが、問いの後には奇妙な沈黙があった。
積極的に話題にしたい内容ではない、しかしI2社の人間としては絶対に確認しなくてはいけないことだった。
「? だってお困りですよね?」
「困っている……。いえ。はい。確かに困っていますが……」
憤りを飲み込みつつ頷く月行。会社存亡の危機を「困っている」の一言で済ませるのはAIだからかと、勝手に納得した。
「なら。協力しますよ。だってM∀LICEしかアテがなくて、私自身に差し迫った事情はありません。なら手伝うべきでしょう」
「……質問を具体的にしましょう。同胞と敵対することに抵抗はありませんか?」
やはり思考のアルゴリズムに変な癖があるな。と思いつつ、より攻撃的と捉えられる質問に切り替えた。機嫌を損ねるかもしれないが、覚悟の上だ。このやたらと人懐っこいAIが、何故人間に味方するのか、現場の最高責任者として可能な限り理解しなくてはいけない。
今回の事故の当事者から見れば、彼女は不気味なほど善良に見えるのである。唯一の頼みの綱だからこそ、掴むのなら万全を期さねばならない。最悪、自分の首までかける覚悟が月行にはある。
「人間同士でも、悪いことをしたら捕まえますよね?」
「……君のその善意はどこから来るものだ? 以前現れたサイバースの生命体との違いは?」
反応があまりに真っ当過ぎる。このままでは埒が明かないと、より怒りを買うような質問の仕方に変えることにした。
「次、アレと一緒にしたらキレますよ。人類だって戦争を起こすのは基本的にごく一部の人間でしょうに。アレだって別に悪意があって事を起こしたわけじゃないんですよ。自分が管理した方が、効率的な社会構造で運営出来ると思っただけです。それを悪と認識したのは貴方達の都合ですよね? 私から見れば面白みがなさ過ぎて論ずるに値しない動機でしたけど」
いい加減癪に障ったらしいM∀LICEが、ムッとした顔で返答する。それでも真面目に答えようとするのは、相手の立場というものを完璧でなくても、彼女の主観から察しているからだ。
「というか、仮にもM∀LICEを名乗っているAIに悪意が無いとでも? 私の発生原因は恐らくオリジナルへの嫉妬ですからね? 目の前でイチャつかれてイライラしてたらいつの間にやら精霊になっていただけです」
一通り吐き出してクールダウンに入ると質問の答えを考え始めた。時間にして数秒だったが心当たりがあったらしい。
「ただ、『物言わぬ賢者』達に迷惑をかける気が起きないだけですよ」
「『物言わぬ賢者』?」
「そんな高尚な話じゃありません。一時期お米が高騰した時、「あんまり高いと米を食べる人がいなくなる」って言った農家の方を見て、マスターが「賢者ってのは案外どこにでもいるのかもな」って呟いたのがきっかけでした。それも偏向報道と言われたらそれまでですが。メディアやSNSで騒ぎ立てる人ばかり目立ちますが、その人達は別に人類代表っていう訳じゃないんですよ。その陰で不満があっても折り合いを付けて、ままならない現実と向き合いながら黙って生きている人達がいる事を、初めて認識したんです。そういう人たちは、それこそメディアやネット上には中々出てきませんから」
実体を持たない我々は、認識できる世界に限界があるんですよ。アレはついぞ、それを理解することはありませんでしたけどね。
その言葉に、この場にいる人間全てが同じことを思った。これは人間の模倣ではなく、生命体の成長だと。
「肉体に縛られる人間こそ限界があると、思わないのですか?」
「思いますよ。ですが、それは差異であってどっちが上とかありませんよね? だって私たちは0と1の集積で知ることは出来ても、その間を理解することは永遠にないのですから。知的生命体の端くれとして、それはとても残念な事です。そうですね。そういう意味では、0と1の間の存在を最初に教えてくれたのが私のマスターとオリジナルですね。初期教育でそれが組み込まれたから、こういう変なロジックになっているのかもしれません。……これ以上追及するようなら、以降の協力はしませんよ」
「いえ。大変失礼な態度を取ってしまい、申し訳ありませんでした。以降の協力も是非お願いしたいと思っております。もし気が収まらないというのであれば、どうか私の首一つでご勘弁願いたい」
これなら少なくとも今は信用できるし、今後も可能な限り協力的な関係を構築すべきだと月行は判断した。同時に、自分のせいでI2社に多大な損害をもたらすわけにはいかないとも。
当のM∀LICEは。心底迷惑そうに顔を歪めた。
「や。そういうの良いんで。さっきも言ったじゃないですか。マスターを除いて、誰かに余計な迷惑をかけるのは趣味じゃないんですよ」
「失礼しました。ではこれからも協力をお願いいたします。Ms. M∀LICE」
「こちらこそ。頼りにさせていただきますよ。Mr. 月行」
この年になって車にハマるとは思ってませんでした。速さを求める技術者の姿勢って、思わず頭を下げたくなると言いますか、感激すると言いますか。
カードゲームもそうですが、突き詰める作業の困難と面白さを改めて認識しました。
需要調べ(反映出来るかは別)
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どうでもいい話(思いついたら)
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シリアス込み長編系(恐らくは飽きる)
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恋愛系(別に書いてもろてええですよ)
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R-18(言い出しっぺの法則はご存知?)
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その他(その時はメッセージや活動報告で)