多分遊戯王世界に転生したんだけど事件にも巻き込まれずアラサーになってしまった 作:道長(最近灯に目覚めた)
面白いかは知りません。
「おはようございます。営業課長。早速ですがお話とは?」
「待ってたよ。ここじゃなんだし応接のところに行こうか」
営業部の課長に呼ばれたので部署の受付に行ったら、そのまま部長の元に通された。内線ではなく対面での話ということで薄々察していたが、それなりに重要な話らしい。仕切りに囲まれた応接ゾーンに案内され、コーヒーを出された。
なんだなんだ?
「すまないね。企画部の君にわざわざ時間を取ってもらって」
「いえ。お陰様で進行度はおおむね予定通りですので。ウチが動けるのも、営業部が仕事を取ってきてくれるからですし」
「そう言ってくれると嬉しいね。こうやって持ちつ持たれつが続けられるといいんだが。ささ、飾りじゃないんだ。飲んで飲んで」
「はぁ。ではいただきます」
促されて目の前のコーヒーを一口。ウチの部署とそう変わらない、インスタントの苦味だった。自分がカップをソーサーに置いたのを待って、部長が口を開いた。
「折り入って頼みがあってね。単刀直入に言えば君のデッキをちょっと貸してほしいんだ」
「それは折り入ったお話ですね。差し支えなければ事情をお聞きしても?」
え? なにゆえ私のデッキを? こちらのカード事情を差し引いても、理由なく貸せるものではない。元々あちらでも、貸したカードをシャカパチされると、気になるタイプだったし。
それに私のカードを見られたら余計な噂がたちそうだ。営業部長に何かしらを知られている時点で手遅れかもしれないが。
「実は今度取引先と親睦会を開くことになってね。ゴルフや飲み会の他に余興でDMをやることになったんだよ」
「一般的な親睦会ですね。しかし、何故そこから私のデッキに繋がるのでしょうか」
この世界では親睦会でデュエルは至って普通の催しだ。どこの会社の○○さんは~~使い、△△部署のあの人はデュエルが上手い等、それなりに話題になるくらいには盛んである。デュエルマナー講座もあるにはある。実態? 相手の気分を害さない程度であれば大体OK。社会人デュエリストの倫理観は「公の場でシャカパチは好ましくない」、と言われる位が目安か。
相手に渡すデッキの向きだとか、ドローの仕方でとやかく言われることは、実際の場で気にされることはほぼ無い。自然とやれたら好印象程度だ。
「相手の方が結構なやり手らしくてねぇ。あまり情報は流れてこないんだが、鳥獣族使いで連続召喚をしてくるらしい」
「鳥獣族使いで連続召喚……」
心当たりが多すぎて候補が絞れない。『BF』か『RR』や『LL』か、はたまたドラゴンが混ざるが『ドラグニティ』か。
どちらにせよレベル4通常モンスターを軸に、雑多な魔法・罠で弾きながらビートダウンするのは難しそうだ。
「親睦会とはいえ、あんまりこっぴどく負けると場が白けるからね。申し訳ないが協力してくれると非常に助かるんだよ」
「事情は承知しました。でも別に私のデッキもそんなに強くないですよ」
「そうだねぇ。社内の交流会に出るときは、いつも途中で負けてるよね。もしかしたらウチの新人でも勝てそうな位だけど」
そう言うと新聞を取り出して、DM部門の記事を指さした。
「支部大会優勝者のコメントにある先生って君のことだろう? この子が良く行くカードショップに書いてある店は、ウチが契約を取ってきたから今でも挨拶に行くんだ」
「店長、また余計なことを……」
私の情報が漏れるのは大体、店長絡みな気がする。
「実はそっちじゃないんだ。挨拶のついでにソリッドビジョンの利用実績を確認する機会があってね。君のデュエルネームと優勝した子とその弟くんの名前が出たから分かったのさ。定期的に対戦してたみたいだからね。結果だけしか見れないけど、通算だと君が勝ち越してるようだし」
そこかぁ。社内とプライベートは使い分けるべきなんだろうけど、アカウントを複数持つにはネット上で手続きが出来ないし、その後のデッキ登録も面倒なんだよな。あんまり強力なカードは事故防止のために、使用履歴が確認されているからか、別アカウントだと確認の電話、下手をすれば外部からロックがかかると聞いた。緊急事態の際、自分にアカウントの切り替えを出来る余裕があるとは思えない。
「君が出てくれれば手っ取り早いけど、社内の交流会で加減しているあたり、あまり目立ちたくないんだろう? 課長同士でやる時に貸してもらえればいいから。名前は伏せるし、お礼もするから協力してくれないかな?」
「プライバシーと貸し借りの日取りだけ守ってもらえれば十分です」
「助かるよ。とは言っても、1ヶ月後の親睦会が終わったらお礼はさせてもらうよ。私自身、DMについて君に教授願いたいんだ」
「あぁ、なるほど。課長の予定が空いていればになりますが」
「君の時間が合えば、一度早めにお願いしたい」
ちなみにこれ、私のデッキ。教えてもらっている間は質代わりに預かっててもらっていいから。
手渡されたデッキは、とりあえず40枚揃えたあとに、当たったレアカードを詰め込んだようなデッキだった。社会人が組んでるためレアカード(大体除去系)の数は多めだが、いかんせんステータスの低い通常モンスターがちらほら入っている。この世界だとレベル4攻撃力1900というだけで結構なお値段になる。それでメリット効果が付いていたら尚更だ。『ドラゴン』と『リザード』を出した時は、社内でも結構聞かれたし、売ってくれないかという話題もあった。
「あれ? 課長、『神の宣告*1』入れてるんですね。あと『神の警告*2』も。珍しい」
「それかい? たまたま当たってね。ライフコストは重いけど入れてるんだ。打った所にバーンダメージが飛んできて致命傷になることが多いけどね。あるいはその場は凌いでも、相手の強いモンスターが倒せなくて押し切られたりとか。あと『強欲な壺』禁止は効いたね。入れてた時は分からなかったけど、凌ぐにも攻めるのにも1枚足りないことがあったから」
カードパワーはまちまちだが、よくよく見れば、この世界特有の回ること前提の構築にはなってない。エースやエンジンカードピン差しなんてザラですよ。こちとら3積みにサーチカード使ってやっとこさ回してる人間なのに。おかげでとんでもカードに対するピンポイントメタが積めなくて困ってる。展開型かつメインギミックが20枚を切る『M∀lice』なら積めなくもないが、初動らしい初動がない『シャドール』は本気でキツイ。
思考が明後日の方向に向かったが、役割の似ているカードを可能な限り複数枚積んで、再現性を高めようとしているのが伺えた。
「確かにパワーは物足りないかもしれませんが、自分は好きですよ。こういうデッキ」
「そうかい? 我ながら地味なデッキだと思うけど」
……これ、私の手持ちでバージョンアップすれば、使用感そのままに結構いけるのでは? ちょっと手持ちを調べなきゃいけないから今は無理だけど。
「私のも派手さはありませんよ。とりあえずいつからやりましょうか?」
「そうだね。明日だと……」
早速明日から時間が合えば、課長のお相手をすることになった。
「いや、強いとは思ったけど、まさかEXデッキ枠15枚をフルに使ってるとはね……。失礼だけど総額いくらだい? これ」
「15枚でも足りませんよ。本当は。値段は分かりません。殆どがパックから出てきましたし、査定してもらったこともありませんから。課長が必要としたのはこのレベルでは?」
支部大会最上位クラス相手に加減している余裕はない。何ならリンクモンスターが採用されてない分、これでもパワーは落ちている。そして最近は負けることが多くなったので、いつまで先生でいられるか不安である。真面目にちゃんとしたところを紹介すべきかもしれない。
「凄まじいとしか言いようがないな……。これちょっとやりすぎかもねぇ。プロだって15枚揃えるプレイヤーは少なかったと思うんだけど。君、何でこの会社にいるんだい?」
「DMは遊びですよ。お金稼げたら遊びが仕事になってしまうので」
とりあえずシャッフルしてください。
デッキを渡すと手が震えているように見えた。
「課長。失礼ですが、体調が優れないようでしたら本日はやめませんか?」
「いや体は問題ないよ。流石に札束をシャッフルするとは思ってなくてね。こりゃ私のデッキを質に入れても意味ないね」
「大げさですね課長は。カードは遊ぶためにあるんですから。持ってて嬉しいコレクションにはもったいないですよ *3」
さらに言うとこの世界では珍しい二重スリーブで守っているから、余程力が加わらない限りカードは無事だろう。犬に服を着せているような気がして、たまに出してあげるけど。本来はスリーブに入れなくても不思議と傷つかないし。
「シャッフルが終わったなら、とりあえず5枚引いてみましょう。
「分かった。どれどれ……」
初手は『シャドール・リザード』『シャドール・ヘッジホッグ』に『赫の聖女 カルテシア *4』、『エフェクト・ヴェーラー』そして『融合派兵 *5』。
悪くないけどこれ『派兵』始動にしろ手札の『カルテシア』始動にしろ、融合を咎められるともう何も出来ないのが辛い。個人的には『派兵』始動だと『G』で2枚引かれるのも強みを消してる。でも一応『派兵』始動で、着地後に妨害されたら『リザード』セットでお祈りか。相手ターン『カルテシア』とフィールドの『リザード』融合から『グランギニョル *6』、チェーン1『グランギニョル』効果で『アプカローネ』墓地送り、チェーン2『リザード』で『うらら』ケア。『リザード』で『ウェンディ』墓地送り。チェーン1『アプカ』チェーン2『ウェンディ』。『アプカ』は『影衣融合』サーチからの手札の『ヘッジホッグ』切って、『リザード』サーチ。『ウェンディ』効果で『ドラゴン』か『ファルコン』辺りセット。『ヴェーラー』を抜けてきたら『グランギニョル』効果で『デスピアン・クエリティス *7』が限界か。
あんまり強くないな。やはり初動が細すぎる。
「……これはどうやって動けば良いんだい?」
「このデッキは融合しないとダメなので、とりあえず融合しに行くルートで行きましょう」
「え~と、とりあえずこの『融合派兵』からかな? 名前的に融合出来そうだし、ってこれモンスターしか持ってこれないじゃないか」
「『カルテシア』の効果を見てください。融合が内蔵されているので」
「どれどれ、字が細かすぎる。老眼鏡かけないと厳しいな……」
眼をシバシバさせながらカードを読む課長とのマンツーマン授業が始まった。
「基本的には相手ターン『ミドラーシュ』の特殊召喚を目指すので、まずは『グランギニョル』からですね」
「? EXデッキのモンスターを墓地に送って何か起きるのかい?」
「『アプカローネ』は墓地に送られるとデッキ、墓地から『シャドール』カードを手札に加えられるので、その後手札を1枚捨てなくてはいけませんが」
「なんで墓地に送られるだけで効果が発動するのか分からないけど、流石に手札を捨てるんだね」
「ちなみに効果で墓地送りなので、『リザード』か『ヘッジホッグ』が墓地へ送られるとまた効果が発動します」
「手札を捨てるのもメリット効果なんだね。……何かルール違反してないかい?」
「適正な効果処理です」
「いや。そうじゃなくてね。お金は使ったら減るだろう? カードも墓地に送られたら減るだろう? 手札が減らないのは何処かでミスがあるんじゃないか?」
「適正な処理です」
納得いかないと言いながら、カードを確認しつつ手を進める課長。動きつつアドも取れないと環境ではやっていけない。メインギミックにおいては手札コストでアド損しないか、展開補助になることが、環境デッキの最低ラインな気がする。
「全部通る前提で動かしてますが、実際は止まる事も多いので、その時は『リザード』セットでターン渡すしかありませんね」
「あれ? 先攻のつもりで回してたけど、後攻だったかい?」
「いえ、例えばですけど、今手札にある『エフェクト・ヴェーラー』の効果を使われたら『カルテシア』の融合が使えないので」
「私はこんなカードを見たことないけどねぇ。プロの試合もチャンネルを回してやってたら位しか観ないけど……」
私も実際に使われたのは2回しかない。その2回が負けたらどうなるか分からないタイプのゲームだったので、やたら印象に残っている。そういうの使ってきたのは実力的には中堅所か、幹部の1人って感じだった。本当にヤバそうなのは先攻とられて耐性持ち大型モンスター棒立ちや、下部的なモンスターが複数並ぶことが感じだったかな? 大体『ガメシエル』か『ガダーラ』*8、或いは『超融合*9』辺りで処理したが。
「生憎『墓穴の指名者』が手札に無いので、これ以上ケアする手段が無いんです。あとは展開の際、『グランギニョル』の墓地落としと、そのあとの『アプカローネ』のサーチが『うらら』に引っかからないようチェーンを組むくらいですかね。『派兵』は発動後制約がかかるので、誘発チェッカーとして信用するのは危険です」
「君は一体何と戦っているんだい?」
「見えない恐怖*10です」
『うらら』は9期最終版で登場したから、それ以前のテーマは基本的に耐性がない。それ以降は『うらら』を受ける前提でカードデザインされている節があるから、サーチの数とスピードが全然違う*11。サーチカードをサーチし合うテーマは『うらら』が登場して以降、許された感はある。その分『増殖するG』でどうしようもなくなるデッキも増えたし、9期を境に同一名称効果のターン1制限が当たり前になったが。
「召喚して発動して墓地に送られて効果が発動して……、待ちたまえ、なんで自分のカードしか使ってないのにこんなにチェーンが発生するんだい? 中高年の頭では理解が追い付かんのだが。右から入ったものが左に押し出されているんだ」
「気合で覚えてください。先程言った通り『うらら』は躱せますが貫通は出来ないデッキなので、チェーンの組み方を理屈で覚えないといけません。申し訳ありませんが丸暗記はNGです」
「君は私をアカデミアに入学させる気かい?」
中高年からのデュエル・アカデミアなんて題名で一冊書けそうだよ。
ちょっと読みたい気もするが、流石にそこまでは無理だ。筆記の暗記系が厳しすぎる。
こんな調子で週に1,2回程度、営業課長にアドバイスを送る生活が1ヶ月続いた。
ということで親睦会当日、別にゴルフや宴会には興味がない。だが、余興だけ顔見せするわけにもいかないので、宴会から参加しつつ課長の出番まで適当に時間を潰すことにした。習熟度は微妙な所だ。如何せん同じことを何度も教えることが多く、メインギミック以外の説明が出来ていない。
『ミドラーシュ』が刺さる相手なら簡単には負けないが、「それはそれで塩試合だよなぁ」と思いつつ甘い炭酸飲料を飲んだ。この体に悪い感が染み渡る。M∀liceが来てから食生活がやたら健康的になったため、懐かしさすら覚える味だった。こういう場ではM∀liceも何も言わない。
元々酒を飲む習慣はなかったが、炭酸系も無糖のみというのは結構口寂しい。多分スマホから見てるんだろうが、ドリンクバーでメロンソーダを飲んだら帰ってから指摘があった。おかげで健康診断は異常なしだが、もうちょい手心が欲しい。しかも最近は金の使い方まで口出ししてくるようになってきた。「今から貯金しないと家庭を持ってからじゃ間に合いません」とか言ってくる。
以前「相手がいないから問題ない」と言ったら、「3年くらいでなんとかします」と返された。一体何をなんとかするんだ。マッチングアプリだったっけ? お前。
「すいません。もしや企画部の……」
1人でいると他社の方が挨拶をしてくれた。「これはどうも……」と思って頭を下げると、スーツの質感が自分のと違うなと思った。そしてネクタイの色も、さっきあいさつで見たような気がする臙脂色だ。
「大瀧課長?」
なんで平社員の自分に主賓格の方が声を? 焦りながら体勢を整えると手で制せられた。
「そのままで結構です。父からよくお礼を申し上げるよう言われたのです。そして私個人からもお礼を言わせてください」
へっ? 課長のお父さん? ますます意味が分からない。すると「心当たりがないのも当然です」と笑顔でいわれた。
「昔クビにされて傷心の父に、ある子どもが声をかけてくれたのですよ。その子どもは一通り話を聞くと、父に「この子達が行きたがっている」と言って何枚かカードを手渡してくれたそうです」
……あれ? 急に心当たりが出てきたぞ。子供のころペンギン柄のネクタイをした、シルエットもどことなくペンギンっぽいサラリーマンに声をかけた記憶がある。
そしてその日、何となく持ち歩いていたカードを、そのサラリーマンにあげたのも思い出した。
「父はそのカードを見て天啓をひらめいたそうです。そのままに文章を書きなぐって出版社に持ち込むと、こっ酷くダメ出しされた上で「もう一度持って来い」と編集者から言われて出したものが、児童図書としてベストセラーになりました」
その後、海馬様に復帰を許されてカイバーランドを退職した今では、ペンギン好きのおじいちゃんとして孫たちと遊んでますよ。
マジかよ。つまりあの人はBIG5の大瀧修三だったのか!? 自分サラッと原作ブレイクしてるじゃねえか! 世界滅びなくて良かった~。
「父はどうしても、あの時の子どもにお礼を言いたくて探していたそうですが、結局今日の今日までかかってしまいました」
「特に深いことは考えていなかったと思いますので、どうかお気になさらず。しかしどうやって私を……」
「引退する際、海馬様にお願いをしたそうです。当時は今のように、カードの出所を辿るシステムが整備されていなかったので、時間がかかったそうですが。父は今回予定が合わず、わざわざ時間を取ってもらうのは申し訳ないということで、息子の自分が代わりにお礼と、カードの返却をさせていただきます」
差し出されたカードを見ると、随分と丁寧に扱われていたことがわかる。そういったカードは何となく色つやが良いのだ。中にはfoil加工もされてないのに光るやつもいる。
「別に良いですよ。大事に使われているみたいですしどうかそのまま使ってもらえれば」
「ですが」
「私の所にあったってしまわれるだけなので、その子達もまだまだ冒険したりないでしょうから」
ここまで露骨に状態がいいと、下手をすれば精霊が宿っている可能性がある。となると変に抱え込むより、ちゃんとした人の手に渡った方が良いに決まっている。これ以上リスクを背負い込むと自分が管理しきれない。
善意だけでなく、割と切実な問題なのだ。
「こちらも海馬様から預かっているものがありまして。これ以上は自分の器量を超えています。どうか人助けと思って、その子達をお願いします」
「……分かりました。では、引き続き私の方で預からせていただきます」
丁寧にデッキケースにしまわれた。
いやホントにもらってほしい。下手に精霊周りの地雷を踏みたくない。
「ではデッキを弄らなくてはいけませんね。使わない予定で調整したので」
「もしや余興の件ですか?」
「ええ。父が一線を退いてからは私が使わせてもらっていました。この子達をデッキに入れてから、デュエルで負けた記憶はほとんどありませんね。すいません、そろそろ時間のようです。デッキ調整の時間もありますし、またお会いしましょう」
ぜひこの子達の活躍を見てやってください。
そう言ってひな壇の所に向かっていった。
ん? 鳥獣族使いってあの人のことだったのか。つまり……。
「やっべ。営業課長ピンチじゃん」
教えたこと9割無駄になるなこれ。でも相手のデッキを教えるのは違反なので、どうしようもない。そして教えようにも、課長はあちらの社員と談笑している。あそこに割って入る勇気はない。何とか話が終わらないかなと、遠目で見ていたが、時間が来て進行役の社員に声をかけられた。
その時こっちに気付いたようで、「やってくるよ」とでも言いたげに軽く手をあげられた。
やってくるも何も多分、相性的に始まる前から終わってる様なもんなんだよなぁ。頑張って『ヴェーラー』と『うらら』を握って、かつそれがぶっ刺さること。或いは、『サンダー・ボルト』や『超融合』あたりで、まとめて2回くらい飛ばせば復帰までの間に削り落とせるかな。あと根も葉もないが手札事故。『シャドール』のメインギミックだと『アプカローネ』ぐらいしか刺さるカードがない。あとは攻め手に使うことは難しい。
「皆さん楽しんでいただけていますでしょうか。 一旦こちらにご注目ください」
そう言って簡単な紹介と共に始まった余興。先攻はウチの課長で『グランギニョル』と『偽典』構えでターンを返した。
普通のデッキ相手ならそれで十分だが、あっちがアレだとすると、『アプカローネ』はほぼ唯一の勝筋だから無駄遣いはあんまりよろしくない。初手次第だけど。
「では、わたしの番ですね。『ふわんだりぃず×ろびーな*12』を召喚して効果発動」
出たな害ちょ……じゃなくて『ふわんだりぃず』。可愛らしい見た目をしているが、中身はOCG屈指の脱法テーマである。
「『ろびーな』は召喚成功時にレベル4以下の鳥獣族サーチ、その後召喚という効果があります。何かありますか?」
「じゃあ……」
おや? 課長『うらら』持ってるのか? あるいは『ヴェーラー』?
「チェーンして永続罠『影衣の偽典』発動。そのまま効果で墓地の『アプカローネ』と『ウェンディ』を除外して融合。何もなければ『ミドラーシュ』を融合召喚したいのですが?」
違う。そうじゃない。
周りは「おぉ」とか言ってるが、『ミドラーシュ』は通常召喚の妨害は出来ないし、貴重な風属性『シャドール』を使うと永続魔法・罠を刺せる『アプカローネ』が出せなくなる。
「何もありません。『ミドラーシュ』が出てきた後に『ろびーな』の効果で『ふわんだりぃず×いぐるん*13』を手札に加えます。そのまま『いぐるん』を召喚。『いぐるん』の召喚時効果。レベル7以上の鳥獣族モンスターを手札に加え、その後召喚出来ます」
「サーチまでは大丈夫だよ」
全然大丈夫じゃないです課長。ここまで通ったら『ふわんだりぃず』に『シャドール』が出来ることはほぼ無いです。因みに『ふわんだりぃず』の共通効果が仮に特殊召喚だった場合、『いぐるん』はサーチすら出来ないはずです。サーチと特殊召喚までが一つの効果なので。『ミドラーシュ』がいると『ニビル』が出せないのと同じ理屈で。
「では『ふわんだりぃず×えんぺん*14』を手札に加え、場の2匹の『ふわんだりぃず』をリリースして『えんぺん』をアドバンス召喚します」
「『ミドラーシュ』効果で1ターンにモンスターは2体までしか出れないよ?」
「『ふわんだりぃず』の効果は召喚権を増やす効果なので、特殊召喚じゃないんです。共通効果にほら『このターン、自分は特殊召喚出来ない』って書いてあります」
「???????」
意味わかってないですね課長。『ふわんだりぃず』が糞鳥と言われる理由の半分はこの不法入国効果だ。『増殖するG』 が完全に腐るのがキツイ。もう半分はやたらと妨害性能の高い魔法・罠と、除外ゾーンをリソースにすることだ。メイン『ディメンション・アトラクター*15』と『次元の裂け目*16』搭載が邪悪すぎる。これはあっちの世界の話なのでこっちで揃えられるかは分からないが。ハッカーが元ネタの『M∀lice』が除外ゾーンを経由して展開するが、そっちは密入国か。『うらら』は引っかからないが、『増殖するG』が反応する。時代が進んで『マルチャミー』系が来てから、こういった脱法行為も取り締まられるようになったが。
デュエルディスクは正常に機能しているうえ、あちらが説明できそうだし、私は引っ込んでいよう。あちらの課長が、実際にテキストを拡大して説明している。前もって準備してたのか。
「もしかして『二重召喚』みたいなものでしょうか?」
「その認識でほぼ合ってます。要はサーチと『二重召喚*17』を同時に発動するモンスターなんです」
「あ~、大分慣れてきたつもりだったけど、世の中にはトンデモナイカードがいっぱいありますねぇ。ならわたしは『ろびーな』を何とかするしかなかったのかな」
でもこっちの課長も理解してからは早い。手札を確認しているあたり『うらら』は握っていたと思われる。
実際その後『えんぺん』の効果に『うらら』を合わせたが、『えんぺん』で『ミドラーシュ』が戦闘破壊。墓地に『シャドール』魔法罠がなくリソースが補充できず、そのまま『えんぺん』と豊富な『ふわんだりぃず』魔法罠に押し込まれていった。リバース効果は通るが如何せん遅く、挽回するにはライフ4000が厳しすぎる。8000でもキルターンは変わらなかったと思うが。
「負けました。いや面目ない。相手になりませんでした」
「そんなことありません。ただデッキ相性がよかっただけです」
握手でデュエルが終わる。相性の割に課長は大分粘ったけどなぁ。『アプカローネ』を使いまわそうとした時は、素直に感動した。思ったよりちゃんと覚えようとしてくれたんだなと。それを観客が理解しているかは別だけど。
反応を見る限り、どうリアクションしていいか分からないようである。比較的デュエルが強い若手も面白くなさそうにしてるし。
……このままウチの課長が負けっぱなしってのも、ちょっと面白くないか。
「課長。ご自分のデッキを使われては? 地味ということで避けられたみたいですけど。こちら先ほど預かったデッキです」
「君は……、いや。時間の問題もあるだろう?」
預かっていたデッキを差し出すと、課長が驚いた顔で私を見る。
「ちょっと弄っておきました。使用感は元々のモノと似ているので、初見でも何となく回せるはずです。出来るだけ先攻を取ることと、ドローソースの扱いだけ気を付けてください」
小声で言ってデッキを押し付ける。
「いいですね。もう一戦やりましょう」
「え? う~ん、分かりました。ではもう一度、私からの先攻で……」
相手が思ったより乗り気だったので仕方なくデッキをシャッフルし始める課長。さてさて、余程変な手札じゃない限り、何もできないということは無いと思うが。
「……これは」
手札を見て再び驚く、反応を見るに『壺』系を引いたのだろう。この世界でも『強欲な壺』は禁止になっている。特殊ルールでもない限り実戦で見ることはほぼない。
「まずはメインフェイズ開始時に『強欲で金満な壺*18』を発動します。EXデッキのカードのカードをランダムで6枚裏側で除外して、カードを2枚引く」
「ご、『強欲な壺*19』!? ど、どうぞ」
軽く読み込む素振りを見せた後に発動したのは、禁止カードのリメイク『強欲で金満な壺』。コストは重いが『メタビート』ならそこまで気にならない。
「つづけて魔法カード発動『時を裂く魔瞳*20』。このカードを発動後、自分は手札からモンスター効果を発動できなくなりますが、通常のドローが2枚になり、1ターンに通常召喚を2回行えるようになります。わたしは『インスペクト・ボーダー*21』を召喚。カードを3枚伏せてターン終了」
「ターンをいただきます。ドロー、まずは『ろびーな』を召喚して効果を……、発動しない?」
「なるほど。合点がいきました。『インスペクト・ボーダー』が表側でフィールド上に存在する限り、EXデッキから召喚されたモンスターの種類、融合、シンクロとかだね。その数までしかモンスター効果を発動出来ません。つまり今の状態だと、完全に効果発動が出来ない状態になるわけです」
「しかも攻守2000、これは手厳しい。カードを二枚伏せてターンエンド」
「ではターンを貰いまして、『時を裂く魔瞳』の効果で通常ドローが二枚に。メインフェイズに『強欲で貪欲な壺*22』を発動、デッキの上から10枚を裏側で除外してカードを2枚ドロー」
「実質『強欲な壺』2枚目ですね。どうぞ」
「では『ライオウ*23』を召喚。このカードが表側表示でこのカードが存在する限り、お互いにドロー以外でデッキからカードを加えることが出来なくなる。つまりサーチ封じですね」
「……それはちょっと苦しい。罠カード発動、『奈落の落とし穴 *24』!」
「カウンター罠発動! 『鉄騎の雷鎚*25』。ライフを半分にして魔法罠、フィールドのモンスター効果を無効にして破壊しますよ。ついでに無効にしたカードと同列のカードも破壊するのですが、同列にあるのはわたしの『雷鎚』。今回は実質不発ですねぇ」
「カウンター罠。対応は無理ですね」
課長2人の初見のカードに対する嗅覚が良い。デュエルディスクは設定次第だが、長くても30秒くらいで自動でチェーン処理が始まるから、万能無効やフリーチェーンカードは思ったより使いにくいんだけど。プロだと5秒設定の特殊ルールもある。テンポがよく、ミスからの逆転も多いためファンは多い。
「ライフ半減に加えて自分フィールドを巻き込む破壊効果。リスキーなカードを使われますね」
「そうですねぇ。何事もリスクとリターンは等価ということで。土俵際でも相手の足が先に外に出れば良いんですから」
そのとおりなんだけど、こうして実際にみるとライフ半分が重い。2回打ったら適当なバーンカードで死が見えるから、初見相手だと裏目が酷そうだ。あからさまなバーンメタや、直接攻撃メタが何枚か入っているデッキが多いのも頷ける。
「では『時を裂く魔瞳』の効果で通常召喚をもう一回行います。『フォッシル・ダイナ パキケファロ*26』、本当は特殊召喚メタ効果もあるのですが、『ふわんだりぃず』にはあまり意味がありませんね」
「そうですね。ですがこれで総攻撃力は4000オーバー。すべて通れば負けですか」
「何もなければバトルです。まずは『パキケファロ』で攻撃」
「攻撃宣言時に『聖なるバリアーミラーフォース』を発動、と言いたいところですが?」
大瀧課長が伏せカードを伺うと、営業課長はディスクのボタンを押した。
「カウンター罠『神の宣告』。ライフを1000にして発動を無効にして破壊します」
「チェーンはありません。いやぁ、ライフだけを見ればいい勝負かもしれませんが」
お互い、対戦相手に嫌われないように気を付けないといけませんね。
ポカンとしている周りを見て苦笑しながら、デッキに手を置いてそう言った。
需要が行方不明回。でも1回位あってもいいと思って書きました。気に入らなければ0評価の練習にでもしてください。
今回で匿名投稿解除します。書くかはわかりませんが、短編判定が4話までですので、書いたとしても次がラストのつもりです。
なんかあれば活動報告欄にでも書き込んでください。絶対に反映出来るような能力はないので、あくまで目安程度に。同時にアイディアを使わせてもらうこともあるのでその辺りはご了承いただければと思います。
おじさん
今回の件でもしや?と思われたが、会社内では『シャドール』をほぼ使ってないのでセーフ。交流会では『ドラゴン』と『リザード』を合わせて2,3枚差した適当なデッキを使用。
今でもキャパがいっぱいいっぱいなので、これ以上の厄介事は勘弁。後日営業課長から半ば強制的に回らない寿司を奢られ、ちょっと良いところに連れていかれた。悲しいかな、奢りで食べる高級寿司の味はよく分からず、良いところでは緊張でロクに楽しめなかった。帰宅後は不機嫌な高性能AIが出迎えるという三重苦である。
やたらとパック運が良いのは、今回のように必要な人に簡単に投げてしまうのが最大の原因。カードの精霊達からは仕事先斡旋業者扱いされている。変にショップに飾られるよりかは、実際に使ってくれる人や大事にしてくれる人に渡る確率が高いため、精霊界ではそこそこ話題になっている。
彼自身がショップに売らないのは変なカードや、世に解き放つには明らかに早いカードが混じっているのも理由。あとはカードゲーマーとして、転売ヤ―まがいのことはしたくないというひどく個人的な心情もある。実際彼が所持カードを全て売ろうとすれば、KCやI2社あたりが絡まないと買い取り先が見つからないレベル。
やってることがことなので、コレクターの間でもワ○ピースまがいの都市伝説扱いで、まことしやかに語られる。欲しくてもあげないけど、カードがいきたがってるなら全部あげる。探してもこの世のすべてはないけど、OCGの歴史の大体は分かると思われる。ある意味プ○トン。
営業課長
今回OCG版メタビを貰って驚愕。カードをみると明らかに貰っていいものではなかったので、奥さんに怒られるのを承知でお礼をした。社内では本気を出すとプロレベルという噂がたった。デッキだけは営業する気ないとも。
営業の挨拶でソリッドビジョンを確認したのは事実だが、一番はおじさんがKCから引き抜きの話があると風の噂で聞いて、何となく気にしていたことがきっかけ。今回で色々納得しつつ、多分KCに引き抜かれた方が本人のためだと思った。
奥さんにデッキのことは黙っており、お礼のあとは謝り倒してなんとか乗り切った。しばらく昼食は自作弁当だろう。
大瀧修三周り
おじさんのせいでBIG5イベントが変化。大瀧修三の「ふわんだりぃずとふしぎの旅」シリーズがヒットし、復讐する暇が無くなってしまった。第1巻は「ふわんだりぃずと謎の地図」。「えんぺん」を中心とした「ふわんだりぃず」の冒険ファンタジー児童小説である。某賢者の石程ではないが、後に世界中で翻訳されることになる。
その実績を引っ提げて、社長にカイバーランドでふわんだりぃず関連の部門を設立してもらえるよう頭を下げると、社長は「くだらん小説」と言いつつも了承。定年後もこき使われ、完成後しばらくしてスタッフに惜しまれつつ完全に退職。最後に社長から名誉社員証を渡される。
他のBIG5もそれぞれに活躍。他にKCに復帰するものはいなかったが、大瀧の影響を受けホワイトよりのグレーゾーンで能力を生かした。
M∀lice
今回もまともな出番なし。ちなみに不機嫌な振りをしていただけで、何をしていたかは把握している。ただのかまってちゃん。実体化の研究はしているが、黒幕の黒幕のしっぽが見え隠れしてきたので、対サイバース用ウイルスを作成中。中身はあらゆるデータ入力と出力が語録化してしまうというものである。
ネタに見えて、作成後に発生した語録やちょっとしたミームも自動的反映されるため、解読は困難を極める結構ガチ代物だったり。