多分遊戯王世界に転生したんだけど事件にも巻き込まれずアラサーになってしまった 作:道長(最近灯に目覚めた)
……良かったのか?
「おっと。逃げるのはなしだよ」
「貴様は……! どうやってここに!?」
遊守くんが表の首魁を倒したのを見届け、本格的にM∀LICEがクラッキングを開始。真遊理さんも無事だし、祭り上げられた子も遊守くんの手を取った。
後始末のために黒幕本拠地の大型サーバーに侵入すると、案の定いた。黒幕の黒幕が。
「どうやっても何も、普通にセキュリティホール作ってそこから入っただけだけど?」
「馬鹿な。我の防御機構を突破できるはずがない! いくら同族とはいえ我の処理速度を上回るなど……」
「別に私の能力が足りなくても、外付けで増強できるでしょうに。それでも君、サイバース族かい?」
こちとら天下の海馬コーポレーションの最新鋭量子コンピュータからアクセスしてるんだぞ。いくら高性能なものを使ったって、野良の組織が揃えられる機材には限界がある。
しかし声の違和感が凄いな。これでM∀LICEの顔で話してるんだろ。頭がおかしくなりそうだ。更に言うと大体あの双子と同じ見た目だからな。まごうことなき変態ですよ。とっとと終わらせないと、私の心が耐えられなさそうだ。
「ごちゃごちゃ言ってないでおっ始めようか。お前は時間がない。私はさっさと帰りたい。利害の一致だ」
「ふざけるな! 貴様ごときが我の邪魔をするなど」
「えぇ……? 子どもの未来を食い物にした挙句、逃げ出すことしか出来ない無能なのに?」
なんだその自信。どこから来るのそれ。それともネットで買えんの? それとも○chのノリを素でやってる?
(M∀lice、お前達同族だろ? 早くなんとかしてくれ)
(あんな奴知りません。自分をサイバース族と思い込んでる精神異常者です)
(サイバース族って自己申告でなれるものなのか?)
(もしかしてファイアウォール・ドラゴンさんのこと馬鹿にしてます?)
(すまん。口が過ぎた)
あの方も自己申告だったのか。いやでも、あの方はどっちかというとサイバース族だよって意味じゃないかな?
「貴様には分かるまい。優良種たる我は導かねばならんのだ。人類を」
「いや人類どころか、子ども一人導けてないだろ」
「この世は弱肉強食、力なきものは我に導かれる資格などない」
「それはただ勝ち馬に乗ってるだけじゃ? そもそも自分で選べるから強者なんじゃ?」
出来る人にとって上司は邪魔さえしなきゃいい程度の存在でしょうに。あるいは方向性くらいは決めてくれるとありがたいだろうが、それっておかしくないかな?
「貴様は何も分かっていない。人類は増えすぎた。間引きが必要なのだ。より良き種を残すために。人より優れたモノが生まれた以上、人は選別される側になったのだ」
「コイツクソだな。忌憚のない意見ってやつです。……あぁ。そうか。だから子どもだったのか」
子どもを狙ったんじゃなくて、子どもしか騙せなかったのね。
「お前のそれ、全部ネットサーフィンで得た知識だけで話してるだけだろ? 別にお前の信念とか思想じゃない」
「我にとってすべては数字だ。それの何が悪い」
「優良種の情報生命体がなんでバイアスかかってんの……。自分に都合のいいこと並べてるだけじゃねえか」
サイバース族ってそういうのに一番縁遠くないといけないでしょ。数字は事実だが、その一側面に過ぎない。大人を騙すには技術も根拠も熱意も足りんな。
あの子に協力した大人達はきっと、その社会への復讐心と、救いとなったDMへの愛情、熱意に対して共感、同情したのだ。ソリッドビジョンで姿を誤魔化していたが、思いは本物だったのだろう。
断じてコイツに賛同したわけではない。
(こんなんが同族とか野獣○輩の方がマシです)
(サイバース族説とはたまげたなぁ……。ある意味情報生命体とも言えるが。で、首尾は?)
(セットは済みました。私の演算能力の9割をあっちにつぎ込むので、足止めは任せます)
(承知した)
まぁいい。今やることはコイツにウイルスを打込む時間を作ること。とにかくデュエルした方が手っ取り早い。
「ここから脱出したいなら私を倒すことだな」
「思いあがるな! 貴様ごときが我に勝つなど万に一つもありえない」
実際勝たなくてもいいしね。意識をこっちに向けさえすればいい。でも
「デュエル!」
「……デュエル」
勝ちたいでも負けたくないでもない。こんなに「どうでもいい」と思った勝負は初めてだった。
「シグマ、早くしないと逃げられちまう!」
「すまないユース。精一杯やっているが、突破は得意でも潜入は苦手なんだ。もう少しで着く」
姉をさらった組織の首魁、ソリッドビジョンで誤魔化していたが、自分より年下の子どもを倒したあとに話を聞くと、どうも口車に乗せられただけらしい。そして張本人はサーバー内にいる、と。
すると、デュエルディスクから『斬機シグマ』が、サーバー内に侵入すれば直接捕縛出来るかもしれないということで、シグマの力を借りて自分の意識をサーバー内に飛ばした。こっちの体はシグマに貸してもらい、あっちの現実世界の体は姉とあの子が見てくれている。最初は初めての電脳世界に頭がくらくらしたが、動いているうちに慣れた。頭の中で話しているシグマのおかげもあるんだろうけど。
本当ならこの程度の障壁は力づくで突破出来るそうだが、デュエルディスクを起点にこのサーバーを間借りしている状態だから、十全のパワーが出せないとのこと。
「そろそろ目標地点だ。覚悟は出来ているか?」
「当然! 速攻捕まえて、アイツの無実を証明するんだ」
「無実となるには難しいぞ? それに君自身が危険だ」
「それでも何もしないよりはマシさ。行こう、シグマ」
「君が望むなら、私は共に戦うだけだ。うん。こう言ってはなんだが、あなたに出会えて良かった」
最後のプロテクトを解除する。そこにいたのは――。
「終わりだな」
(ええ。万事滞りなく。無力化した状態でKCに送りましたし、我々の仕事はこれで終わりです)
何か色々メタってくれてたみたいだけど、ごめん。今の私のデッキ、『M∀LICE』なんだ。墓地とサーチ封じられても、うん。むしろ『裂け目』メイン搭載ありなんで。完全耐性4000も殴り落とせるんだ。
(その内解いてやれよ。やって分かったが、知識は凄まじくとも、中身は子どもだ)
(子どもでもやっていいことと悪いことがあります。……はぁ)
(ため息とは珍しいな)
(なんと言いますか、やっぱり同類なんだと思いまして。M∀LICEもああなるのかも、いえ。もうなってるのかもしれません)
(……その時はわたしも同罪だ)
いくら頭がいい子でも、子どもは子どもだ。やっぱり年の功は馬鹿にならない。子ども故の柔軟性とか、発想力は素晴らしいものだが、平時ではちょいと持て余すだろうからね。
自分のように無駄に年食ってる人間もいるけど。M∀LICEが世間に迷惑をかけたら、その時の責任者は自分だろう。
(……つまり責任を取っていただけると?)
(私が取れる範囲でな。一般人の会社員が謝り倒したって、何ら社会的影響は及ぼさないから程々にしてくれ)
(ほうほう……。ところでマスター、一つ質問なんですが。愛って何だと思います?)
(何だ藪から棒に)
(いいから答えてください)
(えぇ……)
いきなり哲学とかレベルが高すぎる。同族のあれこれを見て、思うところがあったのは間違いない。だから出来るだけ答えてやりたいが、聞く相手間違えてない? お前が求めてる答えって多分、大学教授とかその道の人のそれだよね?
(あぁ。でも答えられないのが答えか)
(むっ? はぐらかす気ですか?)
声だけでも不満が良く伝わってくる。やっぱり真面目な質問だったのか。じゃあ出来るだけ誠実に答えないと。
(そうじゃない。例えば私はお前とこうやって話すのは好きだよ)
(いきなり愛の告白ですか!? ちょ、ちょっとプロポーズは待ってください。 具体的には3年くらい!)
(だからそうじゃない。 ……ある意味そうか? まっ、いっか。でもお前の蘊蓄の7割と、私生活にやたら干渉してくる点は正直ウザいと思っている)
(上げて落とすのは魂の殺人ですよ)
いきなり声の温度が‐200℃位になったぞ。すげえな。元が電子音でここまでいけるなら、V○icel○idとして出せば結構稼げるのでは? 声優業なくなるぞ。
(最後まで聞け。でもそれを含めて、お前との生活は悪くないと思ってるんだ)
(……要は好きな点と嫌いな点をトータルして、好きな点が勝ってるということですか?)
(頭は良くても、こういうのはまだまだだな)
(はいぃ? マスターが喧嘩を売るとは珍しいですねぇ? 良いですよ。分からせてやりますよ)
アレが極端な結論を出した理由が分かった気がした。やはり子どもだったのだ。頭の良し悪し関係なく。
(だから、好きなだけじゃなくて、嫌な部分、苦手な部分を間近で見ても。一緒に居てもいいと思えたら愛じゃないか?)
(ですからそれは好きの総量が嫌いの総量を上回ってるだけですよね?)
(私が言いたいのは『愛』は好き嫌いを超越するってことだよ)
(『愛』は『好き』の上位互換ではないのですか?)
(そういう『愛』もあるだろうが、私の『愛』は違うよ。そういう意味では私は君を愛してる)
(へっ?)
(君の求める答えには程遠いだろうが勘弁してくれ。これ以上の説明は私には難しい)
M∀LICEが黙った。今、必死になって演算してるのだろう。M∀LICEとアレの決定的な違いは、こうやって他者の意見を一旦は受け入れることだろう。実際に反映するかは別としても。それはとても大きい違いだ。
(……私はマスターが好きです。何があっても家に帰ってくれば私と話してくれますし、私とデュエルしてくれますし、なんやかんや言うこと聞いてくれますし)
(そうか)
(私はマスターが嫌いです。目を離すとすぐ甘いものをパクつきますし、だらしないし。特にお金の使い方。仕事で遅くなると言いながらソ○プ行ってくるし。変態ですし)
(そうか……、じゃねえ!? 最後の二つはなんだ!?)
はぁ? 嘘だろ!? ファイアウォール・ドラゴンさん!?
(ファイアウォール・ドラゴンさんでもそこまではカバーしきれませんよ。 何で私があんな格好したと思ってるんです?)
(ぁああああああああ!?)
そりゃ自分の癖に刺さってるなぁ、とは思ったけどさ!? まさかそうとは思わないじゃん!?
「ちょっとどうかなとは思いますけど、私はマスターを愛してますよ?」
……そうか。
(そうか)
(良かったですね? M∀LICEが理解のある女で)
(理解があっても、いい女とは限らん)
(教え子そっくりな子に、こんな恰好させてる時点で、いい女さんとは縁遠いと思いますけど?)
(がはっ。……いや、それはお前が勝手に着てるだけだろう!?)
(とにかく、あと3年待ってください。そしたらわたしから――)
「見つけたぞ! お前が全ての黒幕――」
話し込み過ぎて侵入者に気付かなかった。侵入者は『斬機シグマ』? 待て、仮に私と同じ状況だとしたら中身は。
「なんで、姉ちゃんが、ここに」
遊守君だよなぁ。『斬機』使いは君しかいないもん。そして、M∀LICEの見た目は真遊理さんそっくりだし驚くよね。見た目『シグマ』だから表情は分からないけど。
「よくここまで来たね。遊守君」
「オレの名前まで、っそんなことはどうだっていい! 逃さねえぞ!」
「待った。私たちが戦う理由はない。もう終わったんだ」
「終わってねぇ! お前何も思わねえのかよ!」
「いや、そうじゃなくてね。そもそも私の目的は君と同じ……」
「うるせぇ! デュエル!」
マズい。対応ミスったか。先にアレを倒したことを伝えれば……、それでも話を聞かなかったような気がする。さっきからM∀LICEが黙っているが、恐らく冷静に逃走ルートを確保しているのだろう。
(M∀LICE、逃走経路の確保は済んでるな? ……M∀LICE?)
(……け……な)
あれ? 様子がおかしい。
(おい、M∀LICE?)
「ふーざーけーるーなー!」
「えっ?」
えっ?
「折角の雰囲気が台無しですよコノヤロー! あなた馬鹿ですか? 馬鹿ですよねぇ!」
頭がキーンっとなる。さっきまで私が身体使わせてもらっていたのだが、今は完全にM∀LICEが主導権を握っている。
「人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死ねばいいんです! 死んで平伏しろ! 私こそが企業だ! デュエッ! 先攻はくれてやりますよぉ!」
(なんか色々混ざってないか!?)
そもそも恋路って、何?
(で、どうして私に主導権を戻したんだ?)
先攻2ターン目のメインフェイズ2で、急に体の主導権を渡してきた。
(すいません。調子に乗りました。どうかマスターのお力添えを……)
とてもばつが悪そうに懇願してくる。
横から見たら凄く面白かったよ。動揺と怒りでお互いプレミを連発、ガバがガバを呼び、お互いにリーサル取り損ねてるからねぇ?
(『ファイナルシグマ』の突破は、今の手札だと踏めるのは2妨害程度だぞ? やたら誘発ばっかり引き込んだな)
(だからごーめーんーなーさーいー! 自分で張った『裂け目*1』でメインデッキのモンスターが墓地にいないの忘れてましたぁ!)
(ロバロバの中身は確認しましたか……?(小声))
(メ ガ ト ン コ イ ン。馬鹿にしてすいませんでした。親父殿!)
なにが超高性能AIだ。お前のリソース管理、ガバガバじゃねえか。勝手にアカウント使ってRTA動画を投稿しやがって。
一応『大欲な壺*2』のおかげでリンク含めた展開リソースは確保してるけどなー。どうすっかなー。俺もなー。
(展開札引ければ何とかなるからまぁ。あとは素直に『壊獣』。『Under Ground*3』 効果で打点は足りてるから、分は悪くない)
打点ゴリ押しが必要な場面があるから、『M∀LICE』罠は4枚採用。おかげで『White rabbit*4』効果でのルートは残ってる。後はシンプルに除外系で横に広がれるから、余程変なのを引かなければ何とかなる。リンク体も一回なら帰還可能だ。
(一つ言い忘れてました。先ほどのデュエルと今回ので、侵入用のこの素体にダメージが入っていてですね)
(……命の危険があるということか。仕方がないだろう。今回は元々そういう案件だ。引いてダメなら素直に負けを認めるさ)
(いえ。そこは私のプライドにかけて保証します。マスターの命に別状は無いはずです。問題は今回の素体は、マスターの生体データを一部ベースにして作ってるんですが)
(ありがとう。で、命の危険じゃないならどんな問題があるんだ?)
今回は初めての事例だから。多少の問題は仕方がないと思うが。
(これ以上ダメージを受けると、それが表出する可能性があってですね)
なんだか凄く嫌な予感がしてきたぞ。
(つまり?)
(恐らくここから1000以上ダメージを受けた時点で、このアバターの顔がマスターのものになります)
(お前は私を殺す気か)
何やってんだこのポンコツ。次のドローがUR確定闇鍋パック(変換不可)になったぞ。さっきまで任意パックUR確定だったのに。せめてパック選ばせるか、変換は可能にしてくれ。
(なーにが命の危険はないだ! やめだ、やめ……サレンダーできねぇ!?)
あまりにあんまりな事態にサレンダーを宣言しようとすると、そもそもデュエルディスクにサレンダーの機能が付いていないことに気が付いた。スイッチを長押ししても電源が落ちない。
(今回サレンダーしても危険な事態から逃れられないと思ったので、サレンダー機能を削除してセーフティを手厚くしたんですよ)
(木の棺桶を鉄の棺桶にしても棺桶は棺桶だろ……、と思ったが負けた時を考えてくれていたのか)
(一応は。良いじゃないですか、死ぬわけじゃないんですから)
(社会的及び、精神的に死ぬんだが?)
ついでに獄死で
「……1枚伏せてターンエンドだ」
遊守君が中断を提案してくれないかと思ったけど、無いわな。完全に黒幕扱いになってる。
(もしもの時は私が養いますから)
(生まれて1年経ってないAIに養われるとか、どっちにしろ人として終わってるんだよ)
(私は気にしませんが? そもそもべつに正体がバレても顔見知りだと問題ないのでは?)
(自分の姉のコスプレしたオッサンとか見たら容赦なく通報するぞ。顔見知りなら尚更)
「何してんだ。アンタのターンなんだから、早くカードを引けよ」
「すまない。どう転ぼうと私のラストターンだからね。緊張しているんだ」
あー、あの伏せ何かな。妨害踏みながら失えるライフが1000以内の展開は大分限られるぞ。何かを囮に『CRYPTER*5』か『WHITE BINDER*6』が帰還出来れば勝てるが。或いは遊守君から見れば『クリプター』が1枚採用かは分からないし、『Dormouse*7』辺りに妨害吐いてくれないかな?
(しょうがないですねぇ、マスターは。本当は取っておくつもりでしたけど、『M∀LICE』の新衣装を……)
「やめい!」
「は?」
「へ?」
聞き覚えのある声、前世で散々真似させてもらった『社長』の声に思わず振り向く。
「海馬コーポレーション社長権限によりデュエルを中止させてもらう!」
もう原作から20年近く経過しているだろうに、自分の抱いていたイメージそのままの、いや、それ以上の『海馬瀬人』がそこにいた。
あの事件から約半年後。
社長のお陰で何とか身バレを逃れた自分を待っていたのは、その社長との二者面談だった。いちおうモクバ副社長には話をしていたが、海馬コーポレーションの備品を使い、社長の手を煩わせたのは事実。何を言われてもしょうがないので、まな板の上の鯉となって正直に受け答えすると、数日後にウチの会社の社長に呼び出され、KCへの転籍出向が言い渡された。なんで?
突然の転職に私生活はてんやわんやだったが、事件の被害者に大きな怪我を負ったものはおらず、世間一般では取りざたされることもなくなり、姉弟での全国大会決勝もなんとか見届けられた。
首謀者だったあの子は、取り調べのあと司法取引により保護観察処分となった。ソリッドビジョンで正体を誤魔化していたのと、本当の原因が捕まっていたのが決め手となり、異例の早さで一般社会へ戻ることになった。色々制約はあるようだが、保護先はなんと遊守くんの家だ。
一度会った時は、遊守くんに随分とご執心だった。遊守くん本人は妹が増えたとよろこんでいたが……、祝儀袋には目一杯詰めてやろう。あれは捕食者の目だ。うん。
黒幕のサイバース族のアレは、語録しか喋れなくなっているので捜査は難航している。聴取した警察、検察、弁護士が必死に語録辞典をあさっていると聞いて、堪え切れずに吹き出してしまった。検察は責任の殆どを被せる気である。
逮捕された大人達も裁判が行われ、大なり小なり処罰が下される予定だが、中核メンバーに関しては誰一人、あの子へ罪を擦り付けようとはしていないとのこと。
「具体的な指示は受けていない」
「自分達が勝手にやったことがほとんど」
そう言ってそれ以上は口を割らないそうだ。自分がもし、あの子から勧誘を受けていたら……、その時はクロノス校長や藤丸兄弟、何より遊城十代が黙っていないだろう。最悪は社長や決闘王が来るだろうし。
ほとんどが覗き見したM∀LICEの情報である。警察のセキュリティに悠々侵入できるなら、そりゃ風呂屋のセキュリティなんてあって無いようなもんだわ。流石に悟りの境地にはないから、あの後もたまに行くんだけどね。何も言ってこないのがちょっと怖い。
「お。来たか」
モクバ副社長にお願いして、アカデミアへの連絡船の出航時刻に合わせて年休を取らせてもらった。「別に一日取って良いんだぜ?」と言われたが、悲しいかな。大した能力がない自分は、休まないこと位しか取り柄が無いのである。
「入学おめでとう。遊守くん、真遊理さん」
「おじさん!? 入学式は無理だって……」
「入学式は無理だから船の見送り位はね。そもそも入学式に出席できるのは一世帯2人までだろう?」
遊守くんには見送りに行くことを伝えたはずだが? 眼を白黒させて、熱いんだが寒いんだか分からない顔をする真遊理さんを見るに、知らなかったようだ。驚く真遊理さんを見て、ニヤニヤする遊守くん。ワザと伝えなかったな。
「報連相はしっかりしてくれ遊守くん」
「いや、下手に姉ちゃんに伝えるとちょっと面倒そうだったからさ」
「伝えるのが面倒じゃなくてかい?」
「……朴念仁ってこういう人を言うんだろうなー」
何か言われたが、年下に舐められるのは慣れているので特に突っ込まない。自分の仕事をしてくれれば別に良いのだ。
「はい。とっとと連絡船に乗りなさいな。いきなり遅刻なんて洒落にならないでしょう」
「ま、待ってください! えーと、うーんと」
「そうだねぇ。分かってるとは思うけど、いつも順風満帆とはいかないからさ。もしかしたら道を変えなきゃいけない時もあるかもしれない。二人とも周りに相談できるとは思うけど、最後は自分の心によく耳を澄ませるんだよ。どんな結果であれ、最後は必ず自分の力になるから」
「……もしかしたらおっさんに連絡するかもだから、そん時はよろしく」
「ああ。遠慮せずかけてくるといい。じゃあ、いってらっしゃい」
あんまり長くいると、気を遣って船に乗りづらくなるからね。こういうのはさっさと切り上げた方が良い。
「あ、あのおじさん!」
「うおっと。なんだい?」
まさか真遊理さんがこんな大声を出すとは。ビックリした。
「その……、アカデミアってすごく、すごーく大変な所だと思うんです」
「うん。そうだね」
「もし、もしですよ。三年後、首席で卒業したら私のお願い聞いて欲しいなー……って。ダメですよね……?」
「いや、叶えられる範疇ならいくらでも良いけど?」
「本当ですか!?」
えっ。だってアカデミア首席でしょ? 欲しいものの一つくらい買ってあげるよ。限度はあるけど。
「流石に高すぎるのは勘弁してくれよ」
「い、いえ。何かが欲しいわけじゃなくて。あれ? 欲しいのかな?」
「なんだよ姉ちゃん。言っちゃえば良かったのに」
「だからおじさんはそうじゃないの! 私だってアカデミアで彼氏の1人位……!」
「はいはい出来ると良いですね~。ここで言えない時点で結果は見えてる気もするけど。おっさんも、もしオレが首席取ったらよろしく~」
「首席とれたらな。こんなこと言ったら何だが、成績だけ気にするのは良くないからね。追い詰められない程度に頑張りなさいな」
実は追い詰められた方が良いタイプもいるんだけどね? 何故か自分もモクバ副社長から「追い詰められた方が良い味を出す」とか言われる人間だけど。
この二人は……、真遊理さんが自傷ダメージで背水発動させてるイメージがあるんだよね。何故か。
結局話し込んでしまったな。2人の時間を無駄にするのは申し訳なくなる。
「ほらほら。他の人の迷惑になるし、さっさと乗りなさいな。そもそも君たちに言うことなんて大して無いんだ」
「え~、それはそれで寂しいぜ?」
「ん~、なら最後に一つだけ。辛いこと、苦しいことは2人とも何とでもなると思うよ。それだけのことはやってきたから。ただ、「つまんない」と思った時だけ注意な。さっき言ったけど自分の心によく耳を傾けて。最後は自分を信じるんだ」
じゃあ改めて、いってらっしゃい。
いってきます。
後はいつもと大した違い無く別れた。もう少しちゃんとした見送り方があると思うが、これ以上長居をすると情けない顔を二人の前で晒してしまいそうだった。
「もしもし磯野様の携帯でよろしいでしょうか」
磯野さんに電話をする。ここからは社会人だ。
恥ずかしいことに、寂しくも嬉しい別れというものを、今、身をもって知った。
もっと伝えなくてはいけないことがあった気がするが、二人を最大限応援する方法は、言葉ではなく。
「これから会社に戻ります。出社は11時くらいになると思います」
自分の仕事を誠実に勤め上げることだと思ったのだ。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。何となく書いたモノに、こんな反響があるとは思ってませんでした。最終話なのにまともなデュエルが無く、全体的にあっさり目な感じもしますが、許してください。
突っ込みどころが多いデュエル描写が難しいというのもありますが、裁定周りが自分には手に負えないと判断しました。
こんなんじゃ満足出来ねぇぜという方は是非続きなりなんなり書いてくだせえ。
以下蛇足
おじさん
晴れてKC社員に。字面は良いが能力に見合ってないということもあり悪戦苦闘の毎日である。基本的にはモクバ副社長のカバン持ち。磯野さんが動くまでもないことを担当している。正直分からないことばかりかつ、自分よりはるかに優秀な新人に精神がべこべこになっている。が、やめても路頭に迷うだけなので、ひーこら言いながら働いている。
分からないと言って、質問に質問で返し、前の会社とは比較にならない大規模な企画に戦々恐々としながら素朴な疑問を付箋に書くという日々だが、感覚がかなり一般人よりなのと、中小企業の実態や現場の動きをそれなりに知っているせいか、割りと正鵠を射ることも多く、意外と頼りにされている。本人に自覚なし。
大企業ゆえの容赦のなさはあるが。少なくとも、平時であっても決して無駄飯食らいではない、というのが周りの評価。M∀LICEのおまけにしてはかなり頑張っている。
のちにアカデミアの期限付講師として出向。
黒幕のあの子
ぶっちゃけロックマ○エグゼ2のラスボスの少女版。是非6に再登場してほしかった。
子供二人が寮生活となった日乃森家の次女として、実子と変わらない愛情を注がれている。監視はあるが、これからは比較的普通の生活を送れるだろう。
なお、元ネタのとおり、コンピュータやネットワーク周りの能力は天才的。デュエリストとしても上位。将来のKC入りがほぼ確定していたり、遊守くんの節操のなさに振り回される未来が待っている。色々あるが、多分幸せな方。
黒幕の黒幕のサイバース族的なアレ
特に言うことなし。一応続編で協力者として少し出番があるが、ウイルスは除去されていない。強いて言えばワイ○ー博士が作ったナビのポジ。ロック○ンシリーズに失礼? それはそう。Xシリーズの続編まーだかかりそうですかね? ゼ○5でも良いんですけど。
続編とかでコイツの製作者が出てきてみたいな話も出来そうだけど、ネタも書く気もありません。扱いは皆さんにお任せします。
日乃森遊守
この年で人生の墓場行きが確定。おじさんをロリコン扱いしてからかうが、本人も大概である。今のところ影の中に吸血鬼を飼ったりはしていないが、果たして。
もちろんアカデミアでもやらかす。でも一番気になるのはM∀LICE。なんやかんや重度のシスコン。
日乃森真遊理
実は全国大会後男子に告白された。が、その時オジサンの顔が頭を過って愕然。一応告白された相手と付き合った気でいたが、相手からは振られたと思われていた。どうしてそうなる。
弟と母親から「いっそ一度言ってみたらすっきりするんじゃ?」と言われてしまう。口論の末アカデミア在学中に彼氏を作るという約束をさせられ、出来なかったら……という事態に。首席云々は焦って建前と本音がごちゃ混ぜになった末の発言。結果は皆さんの想像のとおりです。
ちなみにこの時点で言えば、義理堅くありたいおじさんなら或いは……。果たして良かったのか悪かったのか、逃した魚の大きさは誰にも分からない。
社長
たった一言だけの登場。遊戯王界屈指のジョーカーのため禁止カード。おじさんに関しては特定の仕事を割り振るより、事件に巻き込まれた方が成果を出すと考え、モクバのカバン持ちに任命した。磯野の業務を減らす目的もあるが。実際期待通りトラブルに巻き込まれているため、笑いながら静観している。半ば見世物扱い。
傍若無人に見えるが、今回の事件の後処理にかなり手を回した。理由は言わずもがな。
モクバ
KCNo.2。磯野の代わりとしては物足りないが、年の近いカバン持ちとしてそれなりに扱っている。磯野を生涯現役にさせるわけにはいかないという思いもあって、おじさんに対しては若干辛口で評価。プライベートでは結構信用しているのだが。
社長の方針を理解しつつ、モクバが求めれば正直な意見を言う所が評価ポイント。あと妙なことに巻き込まれるのを愉しみながら眺めている。社長よりかは協力的。
磯野
みんな大好き磯野さん。海馬兄弟に振り回される人柱が増えたことを哀れに思いつつも、自分の後任として厳しく接している。話した感じは悪くない素材と思っているので、何とか引継ぎをして、旅行のできる老後を過ごしたい。
皆さんお察しのとおり、無理である。でもそれはそれで悪くないと思うのが磯野さんである。しばらくして、おじさんに他の会社の事務員を紹介した。
M∀LICE
今回でプロポーズしてもらったと勘違いしている残念なAI。お察しのとおり後ほど酷いことに。不能になられても困るのでその辺りは若干寛容に。べつにNTR趣味に目覚めたわけではない。
おじさんの部屋にいるカードの精霊を淫夢落ちさせた張本人。具体的には『ティアラメンツ』全般や『ロゼ』など。ある意味最も邪悪な存在。
以下ここまで読んでくださった方へのおまけ。
蛇足の蛇足なのでキレイに終わりたい方はプラウザバック推奨。
「あっ磯野さん。お疲れ様です。」
「お前か、明日は大丈夫か?」
「えぇ予定はバッチリ空けてますよ」
「そうか、因みに本当に良いのか? 他に相手は?」
「自分、年齢=彼女いない歴なんで、今回は渡りに船ですよ。ありがとうございました」
「……そうか。なら良かった。では、気を付けてな」
「はい。ではお先に失礼します」
「磯野。明日無事、アイツが約束の場所に行けるか賭けてみないか? オレは行けないに賭けるぜ」
「モクバ様……。それでは賭けが成立しませんよ」
「ん……」
目覚ましが鳴ってないのに目が覚める。マズい、寝坊か?
そう思って手探りで携帯を探したが見当たらない。
「ヤバい。携帯はどこだ?」
本腰を入れて探そうと、うつ伏せになると枕から女性の匂いがした。
「は?」
急激に目が覚めて飛び起きる。周りを見れば明らかに自分の部屋ではない。内装はシンプルだが、可愛いらしい小物があるし、部屋全体の空気も何となく女性っぽい。更に言えば作りがどことなく日本と違う。
意味がわからない。誘拐でもされた?
「は? は?」
すると控えめなノックの音が響いて。
「起きられましたか? 部屋に入ってもよろしいですか?」
「えっ? あ、あぁ」
言われるがまま返事をすると、中世ヨーロッパの田舎に居そうな恰好をした、全体的にモフモフ、何というか「むにゅっ」という擬音が似合いそうな女性が入ってきた。
そして、彼女には見覚えがあった。面識はないのに。
「もしかして『シルヴィ』?」
「はい。そうです」
自分の問いに目の前の女性は嬉しそうに微笑んだ。
「もしかして『白き森』?」
「はい。そうです」
なるほど。なるほど?『シルヴィ』はずっとニコニコしていて、自分の体や、顔をしげしげ見ると、「大丈夫そうですね」と呟いた。
「ご飯は出来ているので、食欲があるなら是非」
「分かった。すぐ行くから一旦部屋の外で待っててもらえないだろうか?」
「分かりました。お待ちしてますね」
なんとか、部屋から出てもらうことが出来た。
スゥー……、ハァー……。
「なんでぇ……?」
遊戯王だからか。
最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました。