多分遊戯王世界に転生したんだけど事件にも巻き込まれずアラサーになってしまった 作:道長(最近灯に目覚めた)
今回よりアンチ・ヘイトのタグを付けさせていただきました。理由は読んでいただければ分かると思います。
「おいベクター! こんなの聞いてねえぞ!?」
「だから余計なことすんじゃねえって言っただろうが!」
虚ろな目でターゲットだった男が、ギラグとベクターに対してデュエルディスクを構えている。
『RUM‐バリアンズ・フォース』でギラグはナンバーズを集めるように洗脳しようとしたが、どうも半端にかかってしまったようで、オーバーハンドレッドナンバーズを持っている自分を対象と認識してしまっているようだ。
いきなりデュエルを挑まれたため、ギラグは咄嗟に応じたが、先攻1ターン目に『終末の騎士』が出てきたと思ったら、1ターンの間に3回融合召喚してきた。何が起きているかは分からなかった、エラーは起きていないため、間違ってはいないのだろう。
異常を察したベクターがすぐに加勢したが、『エルシャドール・ミドラーシュ』*1の召喚制限により頼みの綱のオーバーハンドレッドナンバーズが出せなかったあげく、モンスターを除去され、後続もバトルフェイズの融合という意味不明な動きで根こそぎ刈られるという事態に。2人とも「インチキ効果もいい加減にしやがれ!」と叫んだ。
改めて盤面を確認する。ベクターとギラグの場には何もなく、相手の場には『エルシャドール・ミドラーシュ』と『エルシャドール・メシャフレール』*2、それに『影霊翼騎ウェンディクルフ』*3。魔法・罠ゾーンには永続魔法『凍てし心が写す神影』*4と『影衣の偽典』、伏せてある『神の写し身との接触』*5。最後に手札は4枚で、『シャドール・リザード』は確定。
ぶっちゃけ二人がかりでもひっくり返すのは不可能に近かった。なんで破壊耐性持ってんの、『ミドラーシュ』。
「ギラグゥ! お前なんでオレに前もって連絡を寄こさなかったぁ! 報連相はどうした報・連・相は! 組織の基本だろうが!」
「KCに潜入するから余計な連絡するなって言ったのはお前だろ!? 一応相談しようとしたら毎晩スゲエ顔して酒飲んでるしよ!」
「ぐっ……。それは悪かった」
上司に誘われて初めて酒を飲んだ日から、ベクターは晩酌を楽しむようになった。別に酒を美味いと思って飲んだわけではないし、バリアンである彼は中ジョッキ程度のビールのアルコールで酔っぱらう程やわではない。ただアルコールの齎す高揚感というか浮遊感が嫌いではなかった。
部屋に泊まった際見えた、保管されているナンバーズは気になるが、情報が集まりやすい今のポジションを捨てる気は無いので、回収するのは最後と決めている。同僚のイクスも動揺していたが、こっちと上司に実害を出さない限り干渉する気は無い。いたずらに社内の警戒を煽るような行動は、今後に差し支える。何より彼は仕事が出来るし。
翌朝上司の作る朝食に舌鼓を打ちつつも、「仕事終わった後に作るのは面倒くさいな」と思った彼は、夕方スーパーで適当な総菜とアルコール類を買って拠点に戻った。
その日生まれて初めて、ベクターは何も考えずに安らかな眠りにつけた。ナンバーズを集めろという抽象的な指示を出して、自分は何もせずふんぞり返っている
次の日から業務用ウイスキーと炭酸水、冷凍の枝豆とタコ焼き、加えて豆腐と柿ピーが常備されるようになった。塩辛の味はまだわかっていない。あと野菜は嫌いだったが、ネギとショウガとミョウガだけは買うようになった。そして免罪符のトマトジュース。
「あとドルベには一度確認を取ったぞ!? オレは!」
「ハァ!?」
ドルベ無能。ベクターは見切りをつけた。
「あんのプリケツゥ……、一応代理でリーダーやってんなら、その辺の連絡は仕事だろうが! アイツ『バリアンの白き盾』じゃなくてただの『面白き盾』じゃねえか。いやアレを『面白い』で片づけたら、笑いを仕事にしている芸人さんに失礼だよなぁ……!」
ベクターには最近趣味が出来た。酒を飲みながらY〇utubeでお笑い芸人の動画を適当に垂れ流すことである。バリアン七皇の中で一番お笑いに厳しい自信があった。サイコロ3つで笑いを取れる芸人*6という存在に、ほんの少しだけ敬意を抱く位には。
薄々気付いていたがKCと比較して、自分の本来の職場(バリアン七皇)がいかに劣悪かを自覚してしまったのである。
最初は自分をまんまと採用した社長を踏まえて、高を括ってKCに入社したが、それはすぐに間違いだと気づかされた。
みんな、準備の大切さを、分かってる!
ベクターは策略家で卑怯な手すら躊躇なく使うが、それには綿密な準備が必要である。それは本来の任務であるナンバーズ回収にも発揮されているが、彼は基本他の七皇と組むことはない。本当は組織立った方が効率がいいのに。何故か? その理由は七皇結成最初期の時代まで遡る。
バリアン七皇としてナンバーズを集めることなった時の初会議、ベクターは自分が思い付く限りの方法をレジュメにまとめて七皇と
それをナッシュは資料をパラパラ捲ると。
「邪魔くさい」
「ナッシュの言うとおりね」
そう言ってナッシュとメラグがレジュメをゴミ箱に投げ捨てた。それを見てドルベ以外の七皇が次々とゴミ箱に突っ込む。
初会議が終わった後、ベクターは黙ってそれをゴミ箱にぶち込んだ。
その時ベクターのナッシュへのムカつきポイントが1溜まった。あと9999万9999ポイント溜まったら絶対〇すと誓った。
本当に溜まるとは思ってなかった。
少なくともKCの会議はちゃんと会議だった。議題に対して各々準備して、多方面の最大公約数を目指す。資料1つ出さず口論になり、最後は結局脳筋プランになる七皇会議よか、ずっとマシである。大組織故に派閥はあるが、人物の好悪が判断の基準になるのは比較的最後だ。気に入らないという理由で自分の案を突っぱねる同僚より、遥かに建設的である。
小学生の学級会かよ。あるいは東◯オリンピック*7。
起案文書を添削されたのは初めてだった。七皇と
報酬はやりがいだった。
KCはちゃんと給料を払ってくれるし、初給料日に上司は奢りで飲みに連れて行ってくれた。
飲み屋でトイレに入った時、頬には一筋の涙が伝っていた。
また、こんなこともあった。
「ちょっと出張行かなきゃいけないから、出張申請書を書こうか。旅費出して貰わないと」
「旅費……? なんですかそれ」
KCで初めて出張申請書を書いた。仕事で外出しなくてはいけない時は、移動費の一部を会社が負担してくれるので、その資料を精査するものという説明を受けた。泊まらなくてはいけない時は、最低限だが宿泊費も出ると聞いて衝撃を受けた。
バリアン七皇には宿泊費はおろか旅費は出ない。全部自腹だ。こちらの金銭を得るのは苦労した。最初こそ違法な手段を使ったが、あんまりやると足が付くので、KCに入社するまでは真っ当にバイトで稼いだ。
この頃になると、「封印されし
KCは週休二日制である。休みに出社すれば残業代が出るし、やりすぎると上司からストップがかかる。
「あのね。君が働き過ぎると私の管理能力不足って判断されるの。休めるなら休みなさい。あと何かあったら時間を気にせず連絡すること。それが上司の仕事なんだから気にするな。一応、君たちより給料もらってるんだから」
その日は酒に頼らず、朝までスヤスヤ眠った。曇天にも関わらず爽やかな気分で朝を迎えた。
バリアン七皇に休みはない。計画を練るために資料を漁る時間は、何故か休み扱いらしい。おかげでムカつく同僚からは、たまにしか働かない怠け者扱いだった。
バリアン七皇は職業とか会社じゃなくて、ボランティアとか町内会の類なのだと理解した。
誰も入らねえよ。こんな町内会。
まとめるとベクターこと真月零は今の生活が気に入っていた。それを他ならぬ本来の職場の同僚にぶち壊されようとしていた。
(こんの馬鹿ギラグがぁ……! いや。うちの上司は失敗しても行動を起こしたこと自体は責めなかったな……。一緒に頭下げるとは言ってくれたが)
こっちが心配になるくらい能天気な所がある上司が、「動かない手足より、動く手足の方が余程使い道があるでしょ? あとは動作を覚えてくれればいいんだから」と言っていたことをベクターは思い出していた。
ギラグはあくまで指示を実行しようとしただけ。要は頑張って動いた手足である。責任を取るべきは、そんな動きを許す曖昧な指示を出した頭脳部分。つまり
「絶っ対ぇに許さねえ。
ベクターはこのデュエルが終わったら海馬瀬人に知っていることを全て話して、
が、これだけ怒りに燃えていても状況が絶望的なのは変わっていない。負けたらナンバーズの所有権が奪われるし、半端なRUMの力がどのように働くかは未知数だ。バリアン七皇を辞める気であるベクターにとって、ナンバーズの喪失は大したことがないように思えるが、クソ上司から与えられているオーバーハンドレッドナンバーズ*8を失ったら、自分自身がどうなるか分からない。それにKCとの交渉材料にも使えるし。ギラグは言わずもがな。ミイラ取りがミイラになるわけにはいかない。
「おいギラグ! 『ミドラーシュ』だけでもなんとかなんねえのか!?」
「お前こそ手はねえのか! 破壊耐性持たれちゃ俺の『ハンド』*9モンスターは文字通り手の出しようがグエっ」
「うん?」
いよいよ追い詰められた。その時、空から女の子が降ってきた。ギラグの上に
中学生か高校生か、パジャマ姿にデュエルディスクという謎のスタイルの子が、ギラグのうつ伏せの背中の上で尻餅を着いていた。
「イタタタタタ……。ホント『サンドリヨン』さんって凄いのかそうじゃないのか分かんないなぁ……。あっ、ごめんなさい!」
最初こそ尾てい骨の辺りを押さえていたが、下敷きになっている人間を見てすぐに飛び退いて、ペコペコ頭を下げ始めた。完全に乾ききっていない髪が揺れて、シャンプーの匂いが漂ってくる。同じ女でもメラグとはエライ違いだなとベクターは思った。
潰される形になったためせき込みながらではあるが、大事は無いようですぐに立ち上がる。
「うぐぐ……俺は大丈夫だが、嬢ちゃんは一体……」
「実はおじさんを助けに……って、おじさん!?」
驚愕に大きな目を更に大きくさせた。
ベクターは反応と発言ですぐに、上司の知り合いということに気が付いた。
「ごめんなさい! ボクの知り合いのコイツが馬鹿なことをしたせいで、あの人があんな状態になってしまったんだ!」
「えぇっ!? ……あれ? 『ミドラーシュ』さん?」
ベクターは真月のキャラで助けを求めることにした。
(おい! ベクター)
(うるせえ! 元はと言えばテメエの行動が招いた結果だろうが! 命が助かる可能性があるだけマシだと思え!)
声を潜めて文句を言うギラグを黙らせつつ、少女の様子を伺う。何やら上司に向かって話しかけているように見える。
「本当はその気になれば催眠が解けるんだけど、『サンドリヨン』さんを通して逆探知をしてた? 不自然にならないようにデュエルに勝って催眠を解いて欲しい? それをおじさんは知って……知らない? 今なら意識がないからあんなことやこんなことが出来る? ヤ、ヤリませんよ! そんなこと!」
「あのーお嬢さん?」
「ご、ごめんなさい。とりあえずデュエルをヤレばいいんですか!?」
「え、えぇ。そんなところです」
何かやけに呑み込みが早いなとか、「すれば」じゃなくて「やれば」と言うあたりに別なニュアンスを感じつつも、深くはツッコまずにベクターは頷いた。スルースキルの大切さはクソみたいな元職場で嫌というほど身に染みている。
結局スルー出来なくてヤッちゃったけど。
「じゃ、じゃあ乱入します。ペナルティで2000ダメージ、っ」
カードによるダメージではないため、大した痛みではない。が、ソリッドビジョンでは本来感じるはずのない、直接的な痛みが彼女を襲ったはずだ。
だと言うのに少女は、軽く顔をしかめるだけで動揺もせず、すぐに初期手札5枚を引いた。
(コイツ、意外と慣れてんのか……? って、どっかで見たことある顔だと思ったら)
「では5枚に加えて、1ドロー。うん。乱入用に入れておいた捲り札がきてくれてる……。スタンバイフェイズには特になさそう……ですね。メインフェイズ」
顔にそぐわない肝の据わりぶりと、どこかで見たことがあるその顔に、記憶をたどったベクターは、すぐに目の前の少女が何者であるかにアタリを付けた。
(この女……、去年ユース大会を制した姉弟の片割れじゃねえか)
「でも、流石にバックまで固められた『シャドール』相手に、これだけで捲るのは確実じゃないなぁ……。せめてお二人が、1枚でも無効系を握っていたら。えと……ワタシは日乃森真遊理です。あの、お二人のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「あ、ああ。ギラグだ」
「真月零って言います。 よろしくね。真遊理ちゃん」
ベクターとしても自信がある、人好きのする笑顔をしたつもりだが、さっと目を逸らされた。いきなりちゃん付けは馴れ馴れし過ぎたのかもしれない。
「え、えーと、お二人とも『ミドラーシュ』をどうにかする手段が無い感じですか?」
「ちょっと破壊耐性がな……」
「うーん。特殊召喚1回が厳し過ぎてー」
「……手札の枚数的に、オジサンに誘発を打たれた気配が無いんですよね……。その上で捲り札なし。う、うーん……。もしかしたこれ、足並みを揃えるよりワタシ一人で動いた方が強いかな…… 」
明らかに困っている。何ならペナルティダメージの時よりも。そしてその顔をベクターは見たことがある。上司が微妙に扱いにくい社員の企画書に目を通している時と同じ顔だった。
中高生にそういう顔をされるのは、正直ムカついたが、言葉を選ぼうとしているあたり、あのクソアマよりずっとマシだと思った。何なら申し訳なさすらある。
「……動けるだけワタシが動きますので、フォローお願いします……!」
「やれるのか!? 嬢ちゃん」
「お任せしますね。真遊理さん」
「は、はい」
高校生とは言えユーストップクラスのプレイヤーだ。ギラグは心配げに伺っているが、ベクターはお手並み拝見とばかりに動きを注視する。
「とりあえず『ハーピィの羽根帚』*10。チェーンはありますか?」
「「えっ」」
ベクターとギラグ、2人と素で驚愕した。とりあえずで打つカードではない。とりあえず入れたいカードではあるが、まずとりあえず手に入るカードでもない。なんならバリアン七皇は誰も持ってないはずだった。
2人が困惑している中、上司は虚ろな目でありながら、何かを考えているようだった。洗脳中は複雑な思考は出来ないはずと、違和感を感じつつも成り行きを見守る。
「ン……チェーンは、ナイ」
「分かりました。これ、正気なら融合体が追加されてた可能性があるんですよね……。なら『羽根箒』にチェーンして速攻魔法『禁じられた一滴』*11を発動。コストはフィールドの『羽箒』と手札の『カース・オブ・ディアベル』*12。チェーンは?」
「っ……なイ」
「こちらもチェーンありません。チェーンを解決します。『一滴』は『ミドラーシュ』と『ウェンディクルフ』の効果を無効にし、攻撃力を半分に。『羽根箒』でバックを全て破壊」
『ミドラーシュ』と『ウェンディクルフ』が膝を付いた。どうやら2体とも効果を無効化されたらしい。
何が起こっているのか分からないが、どうやらロックが解かれたようだ。ギラグが歓声を上げる。
「おぉ! よくやった嬢ちゃん! あとはオレ達に任せな!」
「待ってください。まずは手札から墓地に送られた『カース・オブ・ディアベル』の効果処理を行います。『ディアベル』魔法・罠をサーチしますが?」
「まだあんのか!?」
「……手札よリ『灰流うらら』*13ヲ発どウ。サーチを無効に。チェーンはあルか、イ?」
「……ありません。これで保険のルートが取れなくなっちゃった……」
表情を見るに、まだ何かあるらしい。ベクターから見れば魔法罠は無いし、墓地のカードも今は何もしないものばかりに思える。だから素直に聞くことにした。
「このまま押し切れそうに見えますが、まだ何かあるんですか? 真遊理さん」
「……残り手札は3枚。『G』*14は殴って落とせばいいので、まだいいんです。特殊召喚に『ファイメナ』*15の融合効果を当てられると、このターンで勝てなくなります。今だとケアする手段が『墓穴の指名者』*16か、『ヴェーラー』*17までケアすると『ディアベル』モンスターの素引きくらいしかないんですが……」
なにそれ知らない。ベクターは融合召喚の後の話は耳に入ってこなかった。
オレの上司、強すぎない? えっ、実は一人でバリアン七皇、何とか出来たりしない? 下手すれば
「オイオイ! まだ出てくるのかよ。あのインチキカード! そういやさっき『リザード』が手札に入ってたな」
「……可能性がある、だけです。特殊召喚1回で2300打点が出たりは……、む、難しそうですね。分かりました。うぅ。『ドロール&ロックバード』*18と同時にケアできるルートが無い……」
Jkから諦めたような目を向けられ、ギラグは「うぐ」と呻いていたがベクターは気にも留めていなかった。
だって、こんな人間世界のリーマンに負ける自分達が、バリアン七皇名乗るって馬鹿みたいじゃないですか。自分なんか張り切っちゃったけど。
貴様―ッ、バリアン七皇を愚弄するか―っ! という声がどこからか聞こえてきた気がした。
ベクターが現実逃避している間に真遊理という少女は方針を決めたようだ。
「『ドロバ』の方が採用優先順位は低い、はず。だから一番詰みにくいルートは……、『シルヴィ』*19を通常召喚。『白き森』魔法・罠のサーチは?」
「……通ル、ヨ」
「……これが通る。なら『ヴェーラー』は無いかな?」と呟くが、この意味を理解できる者はこの場にいない。唯一分かっているはずの人間は洗脳中だし。
「なら、『白き森のいいつたえ』*20をサーチ、……サーチ後も無いみたいですね。なら『いいつたえ』を発動。デッキから『白き森』と名の付くモンスターを手札に加えます。手札に加えるのは『白魔女ディアベルゼ』*21。手札の『白き森のわざわいなり』*22を墓地に送って『ディアベルゼ』を特殊召喚しますが……?」
「……通る……ダ」
「『G』もない……! なら着地後、チェーン1『わざわいなり』、チェーン2『ディアベルゼ』効果。デッキから『微睡みの財宝 モーリアン』*23を墓地へ。『わざわいなり』が墓地からフィールドにセットされます。」
「……あぁ。通るよ」
「墓地の『モーリアン』を自身の効果でフィールドにセット。セットされている『わざわいなり』を墓地に送って『白き森の魔女 リゼット』*24を特殊召喚。特殊召喚しつつデッキより『白き森の聖従 リゼット』*25をサーチ」
「なぁベクター。俺たちがやってたのはソリティアだったか?」
「……少なくとも、オレに他人のソリティアを眺める趣味はなかったな」
再起動したベクターがギラグの疑問に答えた。よどみない手付きでまだモンスターは召喚されている。シンクロ召喚って何? あと魔法カードだけで融合していた気がする。デュエルディスクがエラーを出していないのならルール違反は無いのだろう。あとでルール読み直そう。そして『うんたらかんたらルシエラーゴ』が出たあたりで、ギラグが何かを思い出したかのように、手のひらを叩いた。
「……思い出した」
「何をだ」
「誰かに似てると思ったんだよ。あの子。RTA投稿者のゆっくりM∀LICEに似てるんだよ」
「あぁ? なんだそりゃ」
スマホの画面を開くギラグ、デュエルの参加者とは思えない行為である。すると生首のデフォルメされたキャラ、キャラ弁ならぬキャラ饅頭みたいな画像を見せてきた。
若干ゴテゴテしてるし、髪は全然違うが言われてみれば似てなくもない。
「いや。デフォルメされてるから判別付かねえだろ」
「これだけだと分かんねえけど、この人たま~にやたら出来の良い自作3Dモデルの動画上げるんだよ。こっちも見てみろ」
「どれどれ……似てるな」
「だろ?」
確かに髪形以外の顔の造形が酷似していた。音楽のリズムに合わせて跳んだり跳ねたりしている。ウサ耳とマッチしたダンスである。踊っている途中に服装が変わる。今度はネコ耳に変わった。素人のベクターが見ても、凄さが分かるくらいモデルの動きは良かった。指先はおろか、髪の動きまで見事に再現されている。まるで生きている人間がそこにいるようだ。
ただ服装の癖がスゴイ。製作者の趣味がにじみ出てくるようだった。男として嫌いではないけど。
「これ大丈夫なのか? 肖像権とか」
「この人自体はY〇utubeで活動してないからな。RTAの方の切り抜きは上がってるけど、3Dの方はすぐに消されるんだよ。だからマイナーサイトにある本家のチャンネルじゃないと見れねえんだ。あそこはエロとかシモネタ周りに寛容だし、通報がなければ基本放置だろうから。今更ニ〇ニ〇*26のアカウント作る羽目になるとは思わなかったぜ。そもそもオレ達はこうやって生で見比べてるから結びつくけどよ?」
「……髪色が全然違うし、本人の雰囲気とは真逆だな」
見比べれば見比べるほど本人そっくりだが、同時に本人とは思えない。仕草とか表情とか、あと一番は衣装。
「オレはWhite Rabbit派だけど、ベクターはどうなんだよ?」
「知るか」
「いや、いいじゃねえか。好み位教えろよ」
「……Dormouse」
「オレもそことの二強なんだよ! 天才だよな、この衣装。誰が考えたか知らねえけど、相当な猛者だと見たぜコイツは……」
ちなみにベクターはWhite Binder との二強だった。3位にCheshire Cat。*27
「そろそろ終わるか……?」
見れば大型モンスターが横並びしている。しかも見るからに切り札級。しかもエクストラモンスターゾーン何ていうよく分からないモンスターゾーンを使ってるし。ドン引きしてしまった自分を奮い立たせ、ベクターは気合で笑顔を作る
「あの、一旦展開が終わりました。あとは除去して攻撃するだけです」
「壮観ですねー。ちなみに今どんな感じですか?」
「万能無効2回と対象を取る破壊1回。あとライフを半分払ってフリーチェーンでの破壊後EXデッキのチューナーを特殊召喚する効果、相手の効果に反応してEXデッキのチューナーを特殊召喚する効果ですね。一応罠でデッキから『白き森』モンスターをリクルートしつつシンクロ召喚するカードもあります」
ベクターは努めて笑顔を作ろうとしたが、自分の表情が変わらないことに気が付いた。
彼は笑っていたのではなく、顔が引き攣っていただけだった。
「ここから『メシャフレール』含めて退かします。まず、『断罪のディアベルスター』*28の効果を発動。ライフを半分払って『ウェンディクルフ』を破壊、通ればその後EXデッキの『白き森の幻妖』を特殊召喚……」
「なぁギラグ」
「どうしたベクター」
人間界に来たばかりの頃、マンガ喫茶で読んだドラゴ〇ボールのヤ〇チャってこういう気持ちだったんだろうなと、ベクターは思った。
「退職代行ってバリアン世界でもやってくれると思うか?」
「出来たら俺のも一緒に頼む」
はぁ~。と同時にため息をついた。
「「もうムリ」」
「ん?」
目覚ましが鳴っていないのに目が覚める。一瞬あの時のことを思い出して身構えるが、布団から自分の使っている洗剤の匂いがした。そして妙に頭が重いし、身体も怠い。
体調不良で早めに目が覚めただけかと、携帯を取るために身体を仰向けからうつ伏せにしようとすると、視界の端に出した記憶が無い、もう一組の布団があることに気が付いた。
「え? あー」
『ディアベルスター』が来てたのか? と思い、一応確認しようと寝ぼけ眼を向けると
「zzz……」
真遊理さんがスヤスヤ寝ていた。右肩を下にして、口の端から一筋の光るものを垂らしながら、安らかな表情で。
世界が止まった。
えっ。私ヤった?
思考停止した自分を現実に呼び戻すように携帯が鳴る。目覚まし時計ではなく、副社長からの電話だった。
「よう。体調はどうだ?」
「おはようございます。副社長。寝起きの声ですいません。正直芳しくないのですが……」
「そうか。実はお前、昨日の帰り道に襲われたんだよ」
「はいぃ?」
とりあえず寝ている真遊理さんを起こさないように移動しつつ、副社長の説明を聞く。玄関には『ディアベルスター』がいた。副社長の話と照らし合わせるに、彼女のおかげで助かったのだろう。
適当に謝るハンドサインを出す。『ディアベルスター』は気にするなと言わんばかりに手を振った。
「日乃森真遊理に感謝しろよ? 彼女のおかげで助かったんだからな」
「えっ。本当ですか?」
「本当だ」
彼女が自分の部屋にいる理由に合点がいった。細かいことはカードの精霊も絡んでいるのだろうが、いつもの遊戯王的な展開があったのだろう。今度お礼をしなくては。
隣で寝ているのを見た時は、寿命が縮むかと思ったけど。
「つーことで今日、出社したら報告書な。デュエルディスクにデータが残っているだろうし、お前の見解も踏まえて報告しろ」
「いや。流石に今日は休みたいんですが……」
会社に行けなくもない体調だが、正直ゆうきゅう取りたい。だっていっつも余ってんだもん。こういう許されそうなときに休ませてくださいよ。
「そうか。いいぞ」
「ありがとうございます」
あっさり受け付けられた。いくら人使いが荒いからって、そこまではね?
「ところでお前が未成年を部屋に連れ込んだっていう情報が入ってるんだよ」
「はいぃ!?」
えっ。それ言っちゃいますか!?
「最近コンプラコンプラってうるさいだろ? ウチとしてもそういった事態が起きたら、今日の役員会で話し合わないといけないなーって。本人がいない以上状況証拠で説明するしかないよな?」
「いや。今回に関しては不可抗力ですよ! 意識なかったんですから!」
「つまり酩酊状態で部屋に連れ込んだと」
「受け取り方に悪意しか感じない!」
えっ。私の人生詰んだ!? 記憶にない一夜の過ちで!? *29
「分かりました。分かりましたよ! 今から会社行きますから! 弁明の機会をください!」
「いや。いつもどおりでいいぞー。早く来られても色々困るから。自分を助けた子くらい見送ってから来い」
そう言って電話は切られてしまった。朝の静かなキッチンでは『ディアベルスター』の押し殺した笑い声しか聞こえない。
一番悪いのはバリアン七皇だよな! 私、悪くないよな!? 危機意識が足りなさすぎる? だって部下だよ! 信用しなくてどうするんだ。その理屈ならそもそも採用した社長が……。
「そう言えばドン・サウザンドってこういうの含めて、自分の復活のために布石打ってたよな……」
この状況もドン・サウザンドが意図して仕組んだ可能性が高い。
つまり。
「絶対に許さねえぞ。ドン・サウザンド……!」
後半どころか公判にならない? 色々本来の設定とか時間軸をメチャクチャにしてすいません。
ちゃんとムカつきポイントを数えるベクターを想像して、ふと明智◯秀を思い出してしまったんですよね。中間管理職の悲哀的な。あんまりにもアレなので色々覚悟はしてます。お気軽に評価、感想どうぞ。
以下いつもの駄文
おっさん
出社してすぐにKC傘下の病院に連行されて、精密検査を受けさせられた。一連の流れで副社長なりの配慮だったんだなということを理解し、きちんとお礼と報告を行なった。
それはそうと、副社長に弱みを握られているのは事実なので、KCへの社畜度がアップ。そしてドン・サウザンドへの復讐を誓った。
だが一番傷ついたのは、磯野さんからお歳暮のお返しでコ〇ドームを送られたこと。
「えっ。磯野さんの中で自分どういうキャラになってるの……」
日乃森真遊理
『サンドリヨン』から情報を聞き助けに来た。気を失ったおっさんを『ディアベルスター』と二人で抱えてアパートまで送ることに。『ディアベルスター』が合鍵を持っていることを不思議に思いつつ、精霊だらけのオッサンの部屋で一晩を過ごす。
精霊たちが明らかに出歯亀根性丸出しだったため、隣に布団を敷いても何もせず寝るだけにした。無論緊張しっぱなしだったので、寝るに寝れず本編最後のような醜態を晒すことになる羽目に。起きた時に飛び出た「責任取ってください!」の一言が後々波乱を引き起こす。
ベクターとギラグ
どちらも七皇を脱退して、洗いざらい話してKCの職員に。オッサンにより色々パーツを渡され、ベクターは最終的に『巳剣』、ギラグは『HAT』を経て純『蟲惑魔』となった。自分のデッキから愛着のあるカードが抜けていく様に悲しみを覚えつつ、最終的に「別に七皇じゃないからいっか」とエンジョイ勢に。
ちなみにベクターは意外と引きずっていたが、ギラグの方は『HAT』から最後の『ハンド』抜けたあたりで色々吹っ切れた。
モクバ副社長
なんやかんやおっさんのことをそれなりに気に入っており、調査という目的もあるがすぐに専門の医療スタッフを手配した。それはそうとイジるネタが増えたことを楽しんでいる。真面目に精霊界に行ってもらった方が、おっさんにとって都合が良いと考え始めた。半分は面白そうだからだけど。
磯野さん
イジる位には認めている。ただ真面目にそろそろ取り返しのつかないことになるんじゃないかと心配もしている。
M∀LICE
じつは裏で『サンドリヨン』に救援要請を出したり、同時刻におっさんの部屋に侵入してきたパラドックスを足止めして、決闘王到着までの時間を稼いだMVP。おっさんを囮に使うような事態になってしまったことに憤りを感じつつも、半端に対処すると被害者が増えるだけと判断して飲み込んだ。
パラドックスに対して時計〇のマリアみたいなことを言ったり、おっさんを催眠したバリアンズフォースの解析をしたりといつもの調子の部分は山ほどあるが。
ニ〇ニ〇動画に対して愛憎入り混じった複雑な感情を抱いている。そして自分が苦行のごときじゅ◯べぇウォークをしつつクリアし、1週間かけて編集した20分RTAより、自分が踊って1時間で編集した5分の動画の方が人気が出ていて困惑している。しかも勝手に転載するし。何でホ◯動画があがってる限界集落的な動画サイトの方が治安が良いんだよ。五十歩百歩だけど。
勝手にアップする奴には適当にランサムウェアを送り込んでいるので転載対策もバッチリ。初犯は素直に返すが、3回目はDドライブをぶちまけるようにしている。
サンドリヨン
真遊理を転送したり、バリアン世界の存在を逆探知したりと準MVPの活躍。周りの男と、母親の顛末から「恋愛とか正気の沙汰じゃない」というのが信条だったが、遊守くんに見事陥落。おねショタってレベルじゃねーぞ。平時は遊守くんをからかう大人の女だが、経験値が皆無なのでいざという時になると、適当に誤魔化す。
ちなみに酒が入った遊守君の曝露で一番ダメージを負ったのは彼女。 3カ月ほど真面目に仕事をするという怪現象が起きた。もし捨てられたら、マスターの座を降りて世捨て人になるくらいの勢い。
だからマスター権限とコネで、法律を変える必要があったんですね。
おっさんとはロリコン、ショタコンと挨拶を交わす程度に仲がいい。
パラドックス
上司の部屋に泊まった際、虫干しされていた『コズミック・ブレイザー・ドラゴン』らしきカードを発見。確認のために侵入したら、パソコンが勝手に起動し「家探しとは感心しませんね」と言われる恐怖体験を経て、社長から依頼を受けた決闘王に襲撃されるというデストラップを踏んで一旦拘束。
諸々の事情を話しあった上で、とりあえずKCに協力することにした。
後にアストラルとの邂逅と、アストラル世界の顛末を知り、完全な協力者になる。
ドン・サウザンド
「えっ。我知らない」
もうちょいベクターのことを労わっていれば、後の『クシャトリラ』と『ティアラメンツ』の襲撃はなかったんじゃないかな?
バリアン七皇
いまは5人の七皇。
需要調べ(反映出来るかは別)
-
どうでもいい話(思いついたら)
-
シリアス込み長編系(恐らくは飽きる)
-
恋愛系(別に書いてもろてええですよ)
-
R-18(言い出しっぺの法則はご存知?)
-
その他(その時はメッセージや活動報告で)