00 アーサー王とルフェイ
俺は女子率の低いただの工業高校に通っていた。
普通の高校生だった。成績に関しては中の下らへんだった。
しかし、何処にでもいる普通の高校生活を送っていた。
だけど、何処かで俺の人生の歯車が火花を散らし甲高い音を上げて外れたんだ。
きっとそうに違いない。
俺の人生が大きく狂いはじめた。
炎天下の町中歩いていると信号無視してトラックが歩道に突き進んできて轢かれそうになったのをかろうじて回避して俺は警察の事情聴取を簡単に受けた後、自宅に帰ろうとした時。帰ろうとした時は青かった空は既に綺麗なオレンジ色になってた。
そのオレンジ色の空を眺めながら近道に通っているビルの工事現場を通り過ぎようとするとブツッ!と何かが切れた音が俺の真上で聞こえた。
上を見上げると巨大な鉄柱が俺めがけて一直線に降ってきた。
一瞬の出来事だった。
俺は何もできないまま鉄柱と言う名の死神に命を奪われた。
鮮明に覚えてる。
自分が死ぬ瞬間までの事を。
身体を貫通する鉄柱。
身体が燃えるように熱い。
目の焦点が全く合わずぼやけて見える世界。
息苦しくなって呼吸がまともにできない。
汗と血の入り混じったなんとも言えない匂いが鼻腔を擽る。
それから、漸く近くの人の悲鳴が聞こえて瞼がゆっくりと落ちていったんだ。
そしたら……豪華絢爛な部屋の天蓋付きベッドで寝ていた。
貫かれたはずの腹部には傷は無かった。
俺は思いっきり自分の頬を殴った。
身体が痛みを感じて殴った部分が腫れ上がる。
痛い……。痛みを感じていると言うことは少なくとも夢では無い。
むしろこっちが夢だと思いたい。出来ることなら両方が夢であってほしい。
だけど、一向に夢は覚めなかった。
俺は天蓋付きベッドで大の字になってひたすら塵ひとつない天蓋を睨んでいた。
ここが何処で俺は一体何者なのか、それが知りたかった。
俺は起き上がり部屋の物を物色する。
大きな机に置いてある英語で書いてある分厚い教材、何処かのブランド物の万年筆、大きなスタンド、丈夫そうなメガネ、クローゼットの中にはブランド物の服がぎっしりと掛けてある。
そしてクローゼットの扉に備え付けられている鏡で自分の姿を直視する。
純日系だったはずの黒髪だった俺の髪の色は見事な金髪になっており目の色は碧眼に変化。おまけに睨んでいるはずなのに柔和な目つきになってしまった。
どういう事だ……。
俺は頭を抱えその場にうずくまる。
何がなんなのかさっぱり分からない。
「なんなんだよ……」
俺は蹲ったまま愚痴をこぼす。
俺が俺じゃないみたいじゃないか……。
目線がかなり低くなっている。
俺は身長185の大柄な体だったのに、今は130くらいじゃないか……。
これじゃあ、あの見た目は子供、頭脳は大人がキャッチコピーの探偵漫画の主人公じゃないか。
「はぁぁ……」
ため息をつき俺は絨毯の上で大の字になる。
「これからどうしよう……」
先ほど仕入れたい様々な情報が頭の中を駆け巡る。
頭の図書館が様々な情報をやり取りするが俺の少ない書物ではこの状況を呑み込むことは出来ないだろう。
すると、慎ましくドアがノックされる。
「………」
俺は特に反応することもなかった。
ノックしたから普通には行ってくると思っているからだ。
だが、一向に入ってくる気配はない。
先ほどからの苛立ちがここで爆発し俺はバッと跳ね起き扉を八つ当たり気味に乱暴に開ける。
ドアの前には可愛らしい少女が身をすくめて立っていた。
「……誰だよ」
怒気がこもった声に涙目になる少女ならぬ幼女。
幼女の手にはクマのぬいぐるみが握られていた。
……なんかようでもあるのか? こいつは。
「え……あ、お、お兄様が熱を出したって聞いたから……あの、これ持って来たの」
幼女が恐る恐る差し出してきたのは小さなクマのぬいぐるみ。
はっ! 俺が熱を出した?
んなもん知るか。俺は俺のことで頭が一杯なんだよ!
残念だが人違いだ。幼女。
俺は差し出されたぬいぐるみを右手ではたき落とし幼女を一睨みしたのちそのまま乱暴に扉を閉める。
「チッ……」
思わず舌打ちをする。
何してんだよ俺は。
これじゃあ完全に八つ当たりじゃないか。
扉に背中を預けて座り込む。
扉越しにあの子がすすり泣く声が俺の心に針を刺す。
「くそったれ……!」
俺は右拳を振り上げそのまま振り下ろす。
絨毯の柔らかい手触りと殴った衝撃で右拳が痛む。
あの子が一体誰なのか、そんなもの知らない。
俺とあの子は赤の他人だ!
俺は関係ない! 俺は関係ない! 俺は関係ない! 俺は関係ない! 俺は関係ない! 俺は関係ない! 俺は関係ない! 俺は関係ない! 俺は関係ない! 俺は関係ない! 俺は関係ない!
心の中でそう言い聞かせる。
だが、俺の胸の奥を鋭く突いてくるのはあの子が悲しむの表情。
心の中を突き刺し、目に、瞼に焼き付いてしまった。
俺は……あの子とは……無関係だ……。
なのに、なのに、なんであんな親近感がわいてくるんだよ!
俺とあの子はあかの他人なのに! なんでここまで親近感がわくんだよ!
「ちくしょう……」
目から流れてくる大量の涙。
どんな感情の涙なのか、分かんねぇや。
俺は壁に飾ってある一枚の写真が目に映る。
涙でぼやけて見えるので涙をぬぐい、写真を凝視する。
この写真はおそらくこの一家の集合写真だろう。
人物の上に丁寧に名前まで書いてある。
俺と同じ容姿をした人間の名前まで書いてある。
後ろに居る2人は確実にこいつらの両親だろうな。
本命であるこいつの名前は……アーサー・ペンドラゴン。と明記されている。
アーサー……?
おい、どこのRPGゲームのパクリだよ。
つか名前がアーサーとか残念すぎるだろ。
他人事ではあるがな。
その隣にクマのぬいぐるみを抱きしめている幼女が写っている。
名前は……ルフェイ・ペンドラゴン。
はぁ……なぜこの一家は揃いも揃って残念な名前なんだ?
俺は頭を掻きながら考えても答えが出る訳もなく俺はブランド物である椅子に座り万年筆でペン回しを始める。
俺は考え事をするときよくペンを回す癖がある。
テスト中なんかもペンを回してばっかいると先生に怒られることがよくあった。
だが、今回は特に考えることも泣くただ普通にペンを回しているだけである。
ペンを回していても未だにさきほどの幼女の悲しむ表情が蘇る。
集中力が途切れペンを回す手が一瞬止まりそれに伴ってペンもバランスを崩して机に落ちる。
「………」
俺は無言で立ち上がり扉に耳を当て廊下の様子を音で伺う。
聞こえてくるのはあの子のすすり泣く声。
「まだいたのかよ……」
俺はドアノブを握る。
だが、捻らない。
俺が躊躇しているのだ。このドアノブをひねることを。
さっき冷たく当たったばっかなのに、ここで急に優しく対応してもあの子は逆に怖がるかもしれない。
でも、ここでドアを開けなかったら……なんか、重大なミスになりそう気がする。
人間の持つ直感ってやつがそう告げる。
俺はドアノブを捻りドアを開ける。
この部屋の隣の壁にクマのぬいぐるみを抱き蹲って泣いている幼女……ルフェイに話しかける。
「ルフェイ」
ビク! と身体を震えさせる。
ゆっくりと面を上げ此方に顔を向ける。
俺はそっぽを向いて頭を掻きながら言う。
「さっきは……兄ちゃんが悪かった。ごめん」
目線だけルフェイに向けるとまた泣き始めた。
……面倒だな。
俺はルフェイに近付いて腰を落としルフェイと同じ目線になる。
「ルフェイ。部屋に入れよ。心配すんな、痛い事なんてしない」
と言うがルフェイを首を左右に振ってそれを拒む。
やっぱり、ファーストコンタクトのあれが痛かったな。
俺はポケットから先ほどの万年筆を取りだす。
そしてルフェイに言い聞かせる。
「いいか、ルフェイ。よーくみてろよ」
そういった後に俺の数少ない特技ペン回しを披露する。
そして一通りペン回しの技をしてルフェイの表情を伺うと、ルフェイはもう泣いていなかった。
それどころか俺に拍手を送ってくれた。
第一印象はかなり悪いと思って溝を埋めるのに時間がかかるかと思ったけど、そこは子供。直ぐに打ち解けた。
俺は腕を一杯に広げルフェイに言う。
「ルフェイ。暇つぶししようぜ。暇つぶし」
「暇潰し?」
可愛らしく首を傾げるルフェイに俺は再びペンを回しながら言う。
「単純に遊ぶんだよ。何をするでもないし、好きなことをするだけだ。ルフェイ、お前は何がしたい?」
俺はルフェイに遊ぶ事を持ち掛けなにがしたいかを尋ねる。
「オセロ!」
それに笑顔で応じるルフェイ。
やっぱり、子供だなぁ。そこらへん。
俺とルフェイは部屋に入っていろんなことをした。
ルフェイのリクエストであるオセロから始めて、次にチェスをした。○×ゲームをした。部屋でかくれんぼをした。簡単なボードゲームをした。部屋にあった紙を使って鶴の折り方を教えて千羽鶴まで作った。指スマなんてもんもした。絵本を読んだ。
とにかく。思いつくことを飽きるまでした。
そして、俺が知っている昔話を聞いている途中から眠くなったのかルフェイがウトウトしてきたのでベッドで寝ることを促し、毛布をかけて寝させた。
ルフェイが寝たのを確認すると俺は先ほどの写真の前に立つ。
「アーサー・ペンドラゴン。これからは、俺がアーサー・ペンドラゴンだ。過去の事は振り返らないことにした。だから……」
俺は写真を額縁から抜き取りビリビリに破り捨てた。
俺はもう、あの時の高校生じゃあない。
今はもう。アーサー・ペンドラゴンであのルフェイの兄貴なんだからよ。
この物語の先にあるのはなんなのだろうか?
これは聖王剣・コールブランドの所有者アーサー・ペンドラゴンに憑依した高校生の儚い夢と愛する者のために生き散っていく元高校生の苦悩と葛藤の物語。
アーサー