【試し書き】異世界半島戦記   作:神谷萌

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Chapter-06

 マルマリア駅にフェニクシア6号が進入する。

「!」

 すでに列車はだいぶ減速している。ディネルースは、車窓の横を通り過ぎる上り場内信号の信号柱を見た。

 4灯式の場内信号機の下に、見慣れた ── と言っても、当然エルフィンド国鉄で使われているキャメロット王国のものとは異なるが、とにかく腕木式信号機が設置されているのを見た。

「まだ、私達の見慣れている信号機も使っているようだな……」

「え、そうでした?」

 ディネルースは、誰にともなく呟いたが、隣りに座っていたイアヴァスリルが、問い返すような声を出した。

 ディネルースが見たのはマルマリア上り場内信号付帯の通過信号機だった。実際にはマルマリア駅を上り方面、つまりレングード方面に向かって、停車せずに通過するのは、例外的な特別運転しかあり得ないため、信号機自体は不動にはなっていないものの、事実上固定されているも当然だったため、腕木式のままになっていた。

 列車はマルマリア駅のホームに滑り込み、停車する。

『マルマリア、マルマリアです。3番線到着の列車は、特別急行フェニクシア6号、レングード中央駅行きです。補助機関車連結のため、5分ほど停車致します。本日13両での運転となっておりますが、後ろ4両は貸切となっております。後ろ4両は一般のお客様はご乗車になれませんのでご注意ください』

「補助機関車……」

 車窓の外に、駅と一体となっている機関区が見える。そこには、彼女達が思い描く “機関車” とは、まったく異なる、箱型で赤い車体の車両が停まっている。そのうちの1両が、ゆっくりと自力で走り出した。

「あれが機関車……」

 ディネルースの乗っている最後尾のキハ81形の、1両前のキハ80形の車内で、ラエルノア・ケルブリンは、そう呟いた後、デッキへ向かって歩き始めた。

 デッキでは、供食スタッフが後片付けをしていた。

「あのー、そこの、猫耳のあなた」

「はい? どうかされましたか?」

 ラエルノアが声をかけると、フィリシスの給仕がラエルノアに視線を向けた。

「その、補助機関車を連結するところを、見せてもらえたらと思うんですけど……」

 ラエルノアは、ニコニコと人懐こそうな表情を向けて、そう言う。

「えっ、それはホームに出ないと……」

「うん、だからお願いできないかしら?」

「えーっ、私は、そういうのは……」

 彼女には、そう言う権限は与えられていない。表情を引きつらせかけてそう言った。

「そこをなんとか」

「うーんと……」

 キョロキョロと車内を見回す。リナリアかカティナの姿を見つけようとしたが、b当たらない。

 2人を探していたのでは、機会を逸しそうだった。

「いいんじゃない、乗り遅れなければ」

 一緒に作業をしていた、ヴォルクスの給仕が、苦笑交じりにそう言った。

 付属編成のドアカットは行われていない。基本編成と連動して、客室扉は開いている。ということは、閉じ込めるような意図はなくて、停車駅のホームで身を伸ばすぐらいはいいのかもしれない。

「じゃ、じゃあ、乗り遅れないようにお願いしますよ」

「ありがとう」

 そう言って、フィリシスの給仕とともに、ラエルノアは、ホームへ下りた。

 斜めに見ると、停車している列車の後ろから、赤い箱型の “機関車” ──── 交流電気機関車のED71形200番代が、接近してくる。

 交流電化が始まった初期の頃の電気機関車を補助機関車用に改造したものだ。相当に旧いが、チハーキュ国鉄の交流電化が直流電化の補完目的で進んだため、チハーキュ国鉄では、交直両用のEF81形が制式化された新学暦232年以降、交流専用の電気機関車を新製していない。また、それまでに新製したより新しい交流電気機関車をこの用途に転用するとすれば、車体も切り貼りすることになる。具体的には、前面扉がなかった。

 ED71形200番代は、制御器を交換してサイリスタ連続位相制御とし、回生ブレーキの使用を可能にしている。また、気動車と協調運転が可能なようにしてあって、複数の気動車と指令線をつなぐための多数のジャンパ栓が取り付けてあり、また、キハ181系の電気連結器も備えていた。

 キハ81形のキハ181系併結対応車は、下り向き(レングードと反対向き)の車両はこの電気連結器を取り付けられている。

「あれが機関車……なんですか……」

「あ、えっと……」

 プルルルルルルル……

 ラエルノアが質問した時、ちょうど、発車ベルが鳴り始めた。

「す、すいません、とりあえず車内へ」

『3番線フェニクシア6号レングード中央駅行、発車いたします』

 給仕は、ラエルノアの手を引いて、客室扉から車内に戻る。

 プシューッという空気音がして、扉が閉まる。

 エンジンの爆音が響いてくる。

「あれ、どうしました?」

 明らかに連れ添ってデッキに立っている、ラエルノアとフィリシスの給仕を見て、通りかかったリナリアが声をかけた。

「あ、いえ、その……すみません、機関車を見たいと言われたもので」

 言い訳するように、給仕が言う。

「…………まぁ、別に犯罪者護送してるわけじゃないんで、乗り遅れないでくれれば」

 リナリアは、一瞬、唇を尖らせてから、そう言った。

「すみません……機関車と言うには、石炭を焚いている様子もないし、妙な箱型をしていて、興味深かったので……」

「ああ、そうか! 貴方がたの言う機関車って、蒸気機関車のことなんですね!?」

 給仕は、気がついて声を上げた。

「そう! 機関車って、蒸気を使うものでしょう?」

 前のめり気味のラエルノアの言葉に、リナリアと給仕は気まずそうな顔をする。

「今の我が国では……蒸気機関車はもう、文化財兼観光資材として、少数が動態保存されているだけなんですよ……」

 リナリアが言う。

「それじゃあ、この列車の動力と同じ……」

「それはさっきすれ違った、貨物列車の機関車ですね」

 ラエルノアが思いついたように言うと、リナリアが遮り気味に言った。

「今補助機関車に連結したのは、電気機関車と言いまして……えーと……あ、こっちに来てもらえます?」

 リナリアは、説明しようとして、途中で言葉を途切れさせると、ラエルノアを、列車の進行方向向かって右側の扉に近づけさせると、

「窓から、対向線の上を見てください……見えますか?」

「なにかの……ワイヤー?」

 ラエルノアがそれを視認すると、リナリアは身を戻して、説明する。

「あれは架線といって、あそこからパンタグラフという装置を介して、電気を取り入れて動力とするものでして、専用の動力車を電気機関車、気動車同様にその動力を持った旅客車を電車と言います」

「電気……この国では、様々な仕掛けを動かすのに使われているようですね……」

 ラエルノアはそう言った。エルフィンドでは電気仕掛けはせいぜい電信だった。キャメロットには電気駆動の時計があると聞いてはいた。

 だが、この国 ──── この世界では、照明や冷房をはじめとして、自分達であれば魔術、としか説明できない様々な仕掛けに、主な、もしくは補助的な力として、電気が使われている。

 電信線の必要のない通信さえも、僅かな電気で可能にしているという。その能力は、魔術通信では到底及びもしないものだ。

「そうですね、おおよそこの国、いえ、この世界ではもはや、敢えて前時代的な形態を維持している例以外、電気無しでは社会を維持できないと言っていいでしょう」

 ラエルノア達から見ても、今のところ、ダークエルフという種は、エルフィンドとこの国で大差ないように見える。魔術力、この世界では魔導力、神性、などと呼ばれる特徴を備えている点も共通している。だが、そのダークエルフのリナリアやカティナは、平然とこの世界の機械技術を利用し、その一員であることに誇らしげですらある。

 ──── 列車は40km/hほどで、カズマロウ峠の軌道を進んでいく。

 

「フロメラス提督」

「はい?」

 リナリアがデッキで話し込んでいるのを見て、そこから後ろ2両の客室の様子を見に来たカティナを、ディネルースが呼び止めた。

「この列車の、車両設備を他にも見せてもらえないだろうか? この国の文化を知る材料にしたい」

 ディネルースにそう言われて、カティナは、一旦視線を上に向けて、少し考える。

「…………ぞろぞろと何人も連れて行くことはできないわよ?」

 カティナがそう言うと、それは承知している、というように、ディネルースは頷いた。

「イアヴァスリルとリア、この2人だけ連れていきたいのだが……」

「…………ま、その程度なら、いいか」

「感謝する」

 カティナの答えに、ディネルースが礼を言ってから、その名前の挙がった2人を加えて、列車の前方へ向かって移動し始め ──── ようとして、

「ああ、アンダリエル族長」

 と、カティナが思い出したように言う。

「その短刀は座席においていってください……この国では、日常から大振りな刀剣類を振り回す必要はないし、法に抵触するわ」

 そう言われたディネルースは、渋い顔をしたものの、結局はこの背後の腰元に釣っていた短剣を座席に置き、4人は出発した。

「あれ、カティナ大将、どちらへ?」

 最後尾から2両目の客室内で、ラエルノアとの会話を終えたリナリアが、その姿に気がついて声を掛ける。

「アンダリエル族長が、車内設備を見たいと言うので、案内してきます」

「んー……レングードに着くまでには戻ってきてくださいよ」

「それはもちろん」

 そうと言い合って、リナリアとすれ違う。

 基本編成と増結編成の境まで来て、簡易仕切りを開いて、基本編成のキハ181形側に入る。

 床下からのエンジン音が、硬いもののように感じられる。

「座席は同型のようですが……」

「だいぶ印象が異なるな」

 イアヴァスリルが囁くと、ディネルースが同意の声を出した。

「まぁ、設計年次が異なるから……」

 カティナは、苦笑交じりに言う。

 4人が通路を前方向に向かって歩いていると、

「なんだか時代がかった服だな、大戦前みたいだ」

「撮影かイベントでもあるのかな?」

 と、乗客が囁きあっているのが聞こえてきた。

「どうやら、我々は結構目立っているようですよ……」

 リアが、前を行く2人に小さく声をかける。

「ダークエルフ自体に奇異や蔑みの目はないようだが……」

 ディネルースが呟く。

 乗客を見渡しても、装飾がシンプルで、衛生的なように見える衣服が、一般的であるように見えた。

 ディネルース達の感覚だと、海軍提督と言うには簡素に見えるカティナの軍装が、一般の乗客と比べると物々しく見えるぐらいだ。

 キハ181形、それから中間車キハ180形を3両くぐり抜けると、編成のど真ン中にまたキハ181形が挟まっていて、機械室の間をくぐり抜ける。

 気動車は照明や空調などの電源もディーゼルエンジンで発電している。キハ181系の電源エンジンは運転台付のキハ181形に積んでいるが、1台が5両分なので、9両編成で前後1両ずつだと、1台がダウンすると空調が止まる車両が発生する。なので予備として1両中間に挟んでいるわけだ。

 そして ────

「ここが食堂車になるわ」

 チハーキュ国鉄食堂車、伝統のセルフサービススタイルの車内。

 手書きの伝票は姿を消し、POS端末に姿を変えている。調理機器では電熱機器の他に、マイクロウェーブ利用の電子レンジが追加されている。

「列車の中に食堂があると……」

 その車内に入って、ディネルース達3人は、キョロキョロと室内を、カウンターからテーブル席、天井から床まで見渡している。

 星欧大陸世界で食堂車は、その下地があった大陸国家センチュリースターは戦乱を伴って南北に分断されてしまい、キャメロットで産声を上げたばかりだった。ディネルース達はそこまでは知らなかった。

 利用者に提供される食事を見る。メニューは相変わらず軽食メイン。大戦頃にはなかったハンバーガー類が追加されている。チハーキュ名物の鳥かつ定食も健在だ。

 ── この車両も自走しているのか!?

 ディネルースは、床下から確かに響いてくるディーゼルエンジンの音と振動を感じ、ギョッと驚いたような表情になった。

 チハーキュ国鉄キハ181系は、30l級180°V型12気筒の()()()()()()()()()()()()()()()ディーゼルターボエンジン、DML30HS系を2等車・3等車に搭載するが、食堂車キシ181形は、水タンクと自車用電源エンジン搭載のため、その片バンク型の横置直列6気筒エンジンであるDMF15HS系を走行用エンジンとして搭載する。電源エンジンとしてはレイアナー重工業の汎用エンジンである、水平対向4気筒ユニフロー掃気式2ストロークディーゼルのRUD42が使われていた。

 カウンターの壁に、長方形の窓の中に緩い弧を描くメーターが掲げられている。リアがそれに気づいて、視線を向けた。

 ── もしかして……速度計?

 急勾配を越えている今は、45km/hあたりを指しているが、メーターそのものは、 “120” の文字があって、その先125km/h辺りまで刻まれている。

「何か、御用がお有りでしょうか……」

 ディネルース達がカウンターの傍でキョロキョロとしていたからか、引率役をしていたカティナに、カウンターの販売係が声をかけてきた。

「え、ああすみません。見学目的なもので、特に注文はなくて……」

「……んー、そうですか」

 カティナが謝罪を混ぜつつ答えると、販売係のヴォルクス女性は、一度キョトン、とした様子でディネルース達を見た後、そう言って苦笑した。

 

「さて……」

 利用客に失礼なほどジロジロと視線を向けてしまった後、食堂車を一旦通り抜けて、その前側の車両へ移る。

「設備とは言っても、後は2等車だけになるのだけれど……」

 カティナが苦笑しながら言う。

「本来は2等車券買ってる人達の場所だから、あからさまな事がないようにね」

「あ、ああ……先程は失礼した」

 カティナの言葉に、ディネルースが少しきまり悪そうに言ってから、カティナが客室の扉を開く。

「…………なるほど……」

 まず、床に視線を向けた。素材こそ変わらないものの、3等車が濃いベージュ単色なのに対し、2等車の床は、一見、絨毯が敷いているかのような模様入りになっている。

 座席は、3等車が青をベースにちょっとした柄が入っているモケットを張っているのに対し、落ち着いた緑色のものになっている。

 座席は通路を挟んで、片側が1列、もう片側が2列になる2+1配置になっている。前後方向の間隔も、乗客が着席している席を見ると、3等車より広いのが見て取れた。具体的な数字で言うと、3等車の985mm(新製時の910mmから拡大)に対し、2等車は1,160mmだ。

 2等車の座席は、元々は左右2列ずつだったが、座席の幅を広げるため、新幹線用R31形座席に交換して、2+1配置になった。

「改めて驚くほどではないが、3等車に対する2等車として、充分な質感を確保してあるようだな……」

 ────その時。

「ええっ!?」

「おっ」

 リアがひときわ大きく声を出したが、ディネルース達だけではなく、乗客の何人かも声を出した。

 進行方向左手、西側の窓から、幻想的な紫の光が射し込んでくる。

 時刻は、間もなく日没を迎えようとしているところだった。

「この現象は……?」

「ああ」

 ディネルースが、窓の外で放射状に広がるオーロラのような光に目を釘付けにされながら、問いかける声を出すと、カティナは、どうということもないように、微笑して言う。

「大気に二重恒星の光が干渉して、発光現象のように見える事があるのよ。光が大気を長く通過してくる日没間際に起こることが多いわ」

「でも、乗客の中からも驚いた声が出たけど……」

「ああ、それはね」

 リアが疑問を口にすると、カティナより先に、傍らの座席に座っていたヴォルクスの婦人が、人の良さそうな表情でリアに声をかけてくる。

「常に……毎日見られるものじゃないんですよ。起きるには条件があるし、同じ日にどこでも起きるものでもないから、いつも情報を追っている人以外は……ね……」

「なるほど」

 イアヴァスリルが、顎をつまむ仕種をしながらそう言った。

 

「!」

 すでに日も暮れた中、フェニクシア6号は近郊電車とすれ違う。

 山間部の多少開けた平地に野菜畑を中心に農地や牧場が周囲に存在する中を、線路が北から徐々に北西に向きを変えつつ、伸びていっている。その上を、レングード中央駅へ向かって疾走しているところだった。

 すれ違った電車は、白地に水色の帯を入れた塗装で、前面に「新快速」と書かれた大型ヘッドサインを掲げた、交直流電車415系5000番代の12両編成だった。元々100km/hだった営業最高速度を110km/hに向上するため、制御器を旧型の特急型電車の廃車発生品である抑速ブレーキ・自動ノッチ戻し機構付きのものに交換し、ブレーキや台車を改造した車両だ。

「結構頻繁にすれ違いますね……」

「ああ……」

 自席に戻っていたイアヴァスリルが言うと、同じく隣席のディネルースが同意の声を出した。

 先程、フェリクシア6号は、コラベルン市へ向かう支線の起点駅に停車したところだった。すでに15分ヘッドダイヤ圏に入っている。チハーキュでは都市近郊圏の外側寄りのものだが、ディネルース達にとってそれは、信じられないような頻発ダイヤだった。

「また…………!」

 今度は新鋭の521系で12両編成を組んだ下り電車とすれ違う。

 一旦、車窓の光景が、耕作地帯から都市の光景に変わる。

 鉄道駅に近づくと、人口15~40万程度の衛星都市の、住宅街、商業街を通過する。車窓には街の灯りが飛び込んでくる。

「“小さな衛星都市” がこの規模……それに、電気の照明をこんなに()けて……」

 ちょっとした繁華街が、ディネルース達にはとてもきらびやかなものに見えた。

「あと30分ほどで到着します。手荷物とかまとめておいてください。お手洗いに行きたい方は済ませて置いてください」

 最後尾の車両の客室にリナリアが入ってきて、そう伝える。

「…………?」

 リナリアの言ったある言葉に、後ろに回転させてディネルースと向かい合って座っていた、リアが怪訝そうな表情で小首を傾げた。

 列車が、体感できる程の左カーブに差し掛かる。

「え! ええ!?」

 何となく、イアヴァスリルが列車の向かう先を見ると、そこに、無数の光が密集しているのが見えた。

「ね、姉さま」

「ああ……」

 ディネルースも、息を呑むような詰まった声を出した。

 列車は中央大盆地へ向かって、緩い坂を下っている。

「あれじゃ、御伽噺の “不夜城” じゃないか ──── !」

 すでに、レングード都市圏の直流電化区間だった。線路は上下それぞれに、急行線、緩行線のある複々線区間になる。

 外側の緩行線を同じ方向へ向かう、207系通勤形電車の各駅停車を追い抜いていく。

 列車が通過していく外は、いつしか、まるで光に囲まれているかのように、ディネルース達には感じられ、彼女達の誰も彼もが呆然としたように車窓の外の光景を見ていた。

 向かって右側から、スラブ軌道のスターリー・レングード線高規格線が接近してくる。

 下り線2本を挟んで、流線型をした681系特急型電車15両の、スターリー発レングード中央行、特急『ラスティナ』30号と並走する。と言っても、最高速度160km/hのラスティナは、徐々にフェリクシアを追い抜いていく。

 ググッ……

 徐々にだが、身体には明らかに感じられる程度の減速を始める。

『長らくご乗車ありがとうございました。間もなく、終点、レングード中央駅に到着いたします。お降りのお客様は、お忘れ物のなきよう、今一度お手回り品の確認をお願いいたします。本日はチハーキュ帝国国有鉄道をご利用いただき、誠にありがとうございました』

 レングード中央駅、優等列車ホームには、群青の車体の客車のカークヴィレ行寝台特急『ジュレイヴ』3号、クリームに、窓の周囲や車体の裾を濃紺に塗った寝台電車のスターリー行夜行急行『ハラクノクス』が入線している。

 ジュレイヴ3号のホームを挟んで向かいに、停止制動をかけながら、フェリクシア6号が滑り込んできた。

 時計は22時ちょうどを指すところだった。

 

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