ノルンエースは眩しくて   作:kanaumi

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モブウマ娘→ノルンエースで視点移動します。


ノルンエースが眩しくて

 

 アタシの地元には強いウマ娘が2人いる。1人はフジマサマーチ、幼少期から走っている姿しか見たことの無い彼女はその姿の通り強く速かった。地元のレースで彼女に勝てる同期はまずいなかった程だ。そして、もう1人はノルンエース、フジマサマーチと同じ強いウマ娘なのだが彼女が走り込んでいる姿を最近は見ていない。だが、彼女はそれでも速く、アタシは彼女よりも先着した事は無い。これでも2人に及ばないだけで、アタシだって速いと周りから評価される側のウマ娘である。けど、あの2人がいる時点でアタシはレースに出るのが嫌だった。お母さんの進めで入ったクラブも最初は楽しかった。しかし、実力を理解しだしてからは行く回数も減ってしまった。そこも彼女達との差と呼べるのだろう。その差にアタシと同じ様に諦めているウマ娘はいっぱいいた。そうして走る事に消極的になっていたアタシは、同じ境遇のウマ娘と良く遊ぶようになった。

 

 放課後には集まってカラオケやゲームセンターに出かける日々だ。楽しかった、確かに楽しかった。日が沈むまで遊ぶ間は、考える事を忘れる事が出来るのだから。不思議な事にそうやって遊んでいるとアタシの周りも変わっていく様で、それまで一緒にクラブで走っていた子達は離れ、学校内でレース成績の悪かった子がアタシの周りに集まるようになった。それに廊下を歩く際に向けられる視線が変わった事にも気付いた。それまでは視線を向けられて挨拶されるか気にされないかだったのに今は奇異の目を向けられている。アタシ自身は何も変わっていないのに何でだろう?……それを理解出来たのはずっと先だった。

 

 周りの変化は学校だけじゃ無くて家もだった。クラブを辞めてからお母さんの対応が冷たくなった。ご飯も用意はしてくれるけど、毎朝起こしてくれていたのに起こしてくれなくなった。理由を聞いてもいい加減起きれる様になりなさいと冷たくあしらわれてしまった。朝が弱いアタシには辛い事だった。お父さんは単身赴任で中央トレセン学園でトレーナーをしている。忙しいみたいでなかなか帰って来なくて、少し寂しく感じている。…そういえば、最近アタシから連絡取ってないや。クラブを辞めた事の報告が怖くて出来ていなかった。昔はお父さんに走り見てもらって、お父さんにトレーナーをして貰って中央で走るなんて思ってた。けど、フジマサマーチやノルンエースにも勝てない自分が中央なんて夢のまた夢だろうなぁ。

 

 

 

 今日も今日とて遊び周った帰り道を、逆走していた。アタシは久しぶりに河川敷を走っていた。クラブにいた頃とは比べ物にならない程遅く重い脚を動かして走っていた。…別に走りたいと思っての事じゃない。ただ、学校に忘れ物をしただけだ。けど、自身に当たる風の気持ちよさは久しぶりでも良いものだった。

 

 忘れた物は明日提出の課題プリント。走る事は辞めても、アタシは学生、勉強を疎かにする事は叱られる事と認識していた。だから、日の沈んだ学校に忍び込んで回収に来ているのだ。よく開けっ放しとなっている女子トイレの窓から侵入したアタシはあっさりと脱出するのだった。成果に喜びつつ来た道を戻る。

 

 河川敷には時間に問わず何かの集いが行われる。おじいさん達のゲートゴルフに小学生位のサッカーやテニスの集まりなんかがだ。でも、今日は珍しく違うようだ。遠くの環境音しか聞こえない静かな河川敷、そんな珍しい中を1人走るアタシ。…最近感傷に浸りたがるのは何でだろうか?日常の広い空間にただ1人、周りの影響で見始めたラノベかなんかであった気がする。確か、続きは──

 

「……ねぇ、そこで突っ立てるの邪魔なんだけど?」 

 

 ──運命の人との出会い?だっけ。

 夕焼け小焼けの河川敷にアタシはそこに一番星みたいな光を見つけた。

「ちょっと、聞いてんの?…はぁ、聞いてないわね。……げ、時間ヤバッ」

 

 そう言って、アタシの横を駆けていった。再び静かになった河川敷でアタシはもう見えない背中を見続けていた。あのラノベは男子生徒とウマ娘の物語だった。乙女な友人が強く勧めるそれにアタシも柄にも無くときめいた物だ。それと今を勝手に照らし合わせる。…心臓がドキドキする。……もう一度。………おお、ドキドキだ。このドキドキが、これが恋か。そうか、アタシは彼女、ノルンエース、さんに恋をしたのか。うん、なにかストンと落ちてきた。いやー、読んでた時はまっさかーと信じて無かったけど、実感すると違うんだなー。………明日からどうしようか?ノルンエースさんとはクラスが違うから座学は大丈夫だけど、体育は合同で行う形式だ。まずいかもしれない、明日丁度体育あるじゃん!直視出来るかな?…てか、さっき大分失礼したかな?謝ったほうが良いかな?どうすれば良いの!?

 

 

 

 結局、良案は浮かばなかった。アタシはアドリブの苦手と言われたウマ娘だからシミュレーションして置きたかった。それが叶わなかったから大ピンチである。でも、良案は浮かばなかったけど、ラノベはアタシに教えてくれた。手紙を書いて、相手に渡す。やる事は単純でも効果的だって書いてあった。恋愛のレの字も知らないアタシにはそれしか現状頼れる物がなかった。だから、アタシは目覚ましを3つ用意して早朝に学校へ行って、昨日したためた手紙をノルンエースさんの机に仕込む事を決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 成功だ。目覚まし時計に起こされたアタシは周りも寝ている早朝にいつもの女子トイレから学校に侵入し、ノルンエースさんの机に手紙を置くこと成功した。後はノルンエースさんがどんな反応をしてくれるかだけど、違うクラスだし恥ずかしいから祈るのみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ──パキッ──

 

 

 

 

 

 

 失敗した。ノルンエースさんの机に入れた手紙に放課後校舎裏に来て貰う旨を書いていない。これじゃあ、意味不明な手紙になっちゃうよ。どうしよう、机に入れた事で安心しちゃって自分の机で寝ちゃったからもう他の生徒が来てるよ。今から行っても他の生徒に見られるし、最悪本人とかち合ッちゃう!!あ~、なんでこんなミスしちゃうんだよ~!どうしようもなくなったアタシはその日の授業に何一つ集中出来ず、放課後を迎えていた。意気消沈なアタシはトボトボと校門へ歩ていた。下手したらレースで負けた時以上に落ち込んでいるかもしれない。どうしよう、明日再挑戦する勇気無いよ…。そんなアタシに近づく3つの影。

 

「お、見つけたぞノルン!あいつだ、あいつ!」

「あ?見つけたって何をだ?」

「ほら、ノルンの机に入ってたやーつ!」

「……ああ、あれね。名前も何も無くて困った奴」

「そうそう、で、アタシの独自の情報網で見つけたのさ!」

「そんなの持ってたのかよお前…」

「まあ、それは良いけど、あいつなんだ?」

「…良いか?」

「おう、朝早くに来て置いてったみたいだ」

「ふーん(ニヤリ)」

「うわー、わっるい顔」

「…こっちに飛び火させんなよ?」

「…大丈夫、大丈夫、ちょっと弄るだけだから」

「ほんとかなぁ」

「ほんとかねぇ」

 

 

 トボトボと歩くアタシ、夕陽が背に有るのか伸びる影、耳までたれて頭部が寂しい。一度の失敗でクヨクヨするなと周りは言いそうだけど、アタシにとってはこれが始めてじゃない。アタシが何かに熱中する度にどうしようもない事が起こる。その度にアタシは逃げた。今度こそはと言う気持ちはアタシにはもうない。…はぁ、明日からどうしよう。ぐるぐると思考が頭を回るも纏まらず四散して行く。というか多分体調も悪い。ドキドキでろくに眠れていないからだろうか?良く目覚ましで起きれた物だけど、アタシにしては真剣だったからかな?

 

 変わらずトボトボ歩くアタシはふと、後ろに気配を感じて振り返る。しかし、そこには誰もいなかった。不思議だったが落ち込んだアタシは深くは考えなかった。そして、視線を正面に戻したアタシは目の前に現れた3人組を見た。…3人組?いつの間に?てか、ノルンエースさん!?……きゅぅ。

 

「あ、ちょっなんで倒れんだ!?」

「あらら、これは予想外」

「…っち、ノルン、どうするよ」

「…運ぶしかないでしょ、流石にほおって置くのは気分が悪いから」

「なんだ、なんかするんじゃ無かったのか?」

「……萎えた」

「そうか、そうか、ニシシ、なら変わりに落書きしてやるか」

「いや、運べよ」

「ルディ、そっち持って。ミニー、公園まで行くわよ」

「ああ」

「はいはい」

 

 真っ暗闇で4足の化け物に追いかけられたアタシは飛び上がった。…あれ、ここどこ?……確か、3人組が現れて、真っ暗闇に放り出されて、4足の化け物に追いかけられて、捕まりそうになって……夢?…夢かぁ、良かったぁ。

「…ああ、起きたか。たく、いきなり倒れやがってびっくりしたじゃねーか」

「ニシシ、ルディがあんなに慌てるなんてね~?」

「普通に嘘つくな!」

 …どういう状況ですか?説明はありますか?

「あんた達何やってんの?」

「ミニーが嘘つくからだろ」

「ニシシ、なんの事やら」

 …え、ノルンエースさん!なんで!?

「…あんたもなんか返事しな?無口なのか呆けてるのか分かんないけどさぁ」

「…あ、えと、この状況の説明なんかは、貰えます、でしょうか…?」

「あぁ?そりゃお前が倒れたからだろうが」

「ニシシ、アタシ達も脅かす気だったけどな」

「…あんたが倒れてあーしらが運んだ、それだけ」

「運んだ、……あ、公園」

「今気づいたのかよ…」

「お前、結構抜けてるだろ?」

「…そう、でしょうか?」

「そうだな、そこ反応が最たる例だぜまったく」

 

 呆れた様な表情で、頭をかくルディレモーノにミニーザレディが煽り、ルディレモーノは声を荒げる。再び置いていかれたアタシは直視出来ないノルンエースさんに体を向ける。そして、後悔した。

 

「…あんたでしょ、これをあーしの机に置いていったの」

 ノルンエースさんがそう言って、掲げたのはまさしくアタシが書いた手紙だった。名前は書いていないけどなんでバレたのだろうか?

 

「名前も書いていないし、文章も意味わかんない部分もあった、これはなんなの?」

「え、あっと、その」

「早く、あーしも暇じゃないんだけど?」

「はい!ノルンエースさんにアタシの気持ちを伝えたくて書きました!けど、色々と書き忘れて…」

「ふーん、気持ちねぇ。…これにあーしのパシリになっても良いって書いてあるけど」

「は?流石に嘘だろ」

「ほら」

 ノルンエースさんが掲げて見せるそれには確かに書いて有る。興奮と衝動で書き殴った汚い字でだ。

 

「……お前、マジか?」

「おーおー、なんでこれ書いて場所とか書き忘れんだ?」

「その、ノルンエースさんのお役に立てるのならパシリでもなんだってやろうと思って」

「…ノルン、こいつに何やったんだ?」

「…知らないし、あったの昨日が始めてでしょ」

「えっと、昔、レースで一緒でした」

「…だとさ」

「覚えてない」

「う、そんな気はしてました」

「てか、それを手紙に書くのはどうなんだ?」

「……その、衝動と、言いますか…」

「いや、どんだけ強いんだよ、その衝動」

「…で、アンタはあーしのパシリになりたいんだ」

「はい!!」

「おい、本当に衝動か?素じゃねーか?」

「ニシシ、なんか面白いなこいつ」

「…アンタ、名前は?」

「アタシは──」

 

 

 アタシは走るのを諦めていた。けど、再び走り出した。理由は、諦めた一因だったけど、無理やり尻を叩かれてアタシは再び走り出した。周りはパシリと難色を示すけど、アタシは好きな人の近くにいれるのが嬉しかった。おかしいかもしれない、けど、アタシは今とっても充実していた。だから、それが良い。

 

 

 

 

 

 

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 あいつがあーしらのパシリになって数年が経った。途中、トレセン学園入学があったけど、その時にあいつが後輩だった事が判明して少し驚いた。とは言っても休みの日にはあいつがこっちに来ていたからあんまり離れていなかった。オグリが中央に行く時には一緒に涙を流してたとルディ達に揶揄われてしまった。

「アンタ達…、練習、またサボってんじゃないわよ!」

「トレーナーじゃん、何やってんの?」

「何もじゃないわよ!真面目にやりなさいよ、アンタ達は休憩が多いのよ!」

「…うっさいなぁ、アンタのメニュー通りにやってるっていうのにガミガミ言うのやめてくれる?」

「…あー、ツカレタナー」

「うぐっ、そ、そうだけど、あからさまに休憩が多いなら注意したくなるでしょ!?」

「休憩取るのは大事でしょ、こっちが自発的に取ってるんだから感謝しな?」

「ダナー」

「そうね、それは感謝しな……いや、自発的ってアンタ達は意味合い違うでしょ!」

「まあ、どうだって良いことね。それよりも後で1人ここにくるから書類用意しといてよ」

「はい!?そんな急に言う事!?誰が来んのよ!?」

「………あーしの下僕?」

「ニシシ、かわいい犬だなー」

「あいつが否定しねーから、どんどん身分が落ちていくなー」

「……………あー!あの子かー!!」

「うるせぇ!」

「そう言う事だから、すぐ来るしやっといて」

「アンタ達、アタシ、トレーナーなんだけど?」

「あ?そうだろ、当たり前の事を聞くなよ」

「なら、もう少し敬いなさいよ!」

「それ、自分で言うのやめな?惨めなだけだから」

「うっさい!」

 

「……お、来たぞ」

 外に耳を向けたら、バタバタと走って来る音が響いて来た。どんどん近づく音は扉の前で止まった。その後を予想できて耳に手を当てる。

「おはようございます!やっと来ました!」

「うるさっ!!」

「────おお、来たな。…迷わなかったか?」

「はい!フジマサマーチさんに聞きました!」

「おー迷ったな」

「着いたのならどうでも良い事よ、ジュースは?」

「バッチリです!トレーナーさんもどうぞ!」

「え、ありがと」

「…飲んだら行けよ」

「……わかってるわよ」

 こうして、あーしらのチームに下僕(ペット)が加入したのだった。

 

 

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