ルディとミニーと一緒に校外を走っていた時の事だ。
オグリが中央に移籍して行った後のあーしらは、東海ダービーで惜しくも負けてしまったマーチを含めて、4人で練習する事もあった。けど今日は予定が合わなかった。
今走っている道はウマ娘専用レーンも無い山道で、車も走っていない寂れた道だ。
なんでこの道を走っているのかを言えば、ルディが突発的に行こうと言って来たからだった。
街灯は疎らで夜になれば暗く見え難い箇所が出来そうであり、何か陰鬱な雰囲気を感じて少し不気味だった。
それでも3人であれば怖くないと走っていた。そっこーで裏切られたが。3人で喋りながら走っていて、先頭は適度に交代制で走っていた。それで、あーしが何度目かの先頭の時に不思議と空っ風に吹かれた。ふっと後ろを振り向くと、さっきまでいたはずの2人がいなくなっていた。
慌てて止まったあーしは、慌て辺りを見渡した。でも、2人姿は無かった。
更に、あーしは周りの景色がおかしい事に気が付いた。さっきまでは寂れた山道であったのに、今は薄気味悪い木々に囲まれていた。
「……なんか、寒い?」
季節感にそぐわない肌寒さにノルンエースは、両腕を組んでこすり合わせた。摩擦の熱で微かな暖を摂る。ノルンエースに冷たい風が流れていた。
なんでこうなったのか、ノルンエースの頭には疑問が尽きない。ただ、言える事があるならば、このままだと凍え死ぬ事であった。
ノルンエースとしても、それは是が非でも避けるべきである。とは言っても解決の糸口は全く無く、無駄に彷徨う可能性も捨てきれない。
「…やっぱり寒い、けどあーしがここでくたばったら……。出口がきっと有るはず…はず」
そう言って、あーしはあーしを奮い立たす。
口にはしないけど少し怖い。ここを出る為に、気合を入れよう。人さし指と小指を立て、チェ、いや違う。メガネを、かけて無かったわ…。……絶対変な空気のせいだ。
「あ、そうだ、ウマホ!──圏外…」
ダメだった、連絡できればこんな状況も直ぐに解決だってのに。…待つのは性に合わない。なら、やっぱり行くべきだろう。けど、走るのは辞めておきましょう、流石に薄気味悪い所で走れば危ないわね。
そう言って歩き始めたあーしだけど、景色が変わんないし、何処を歩いているのやら。
足元の小枝を踏み、パキッと音が響く。響いた音が乱反射して帰って来た。
その時だった、帰って来た音から違和感を見つけた。一方向だけ音が帰って来なかったのだ。
…何か有る、あーしの直感が働く。
落ち着く為に一度深呼吸、深呼吸、深呼吸。
「……(ゴクッ)」
よし、行こう。
ノルンエースが進んだ先では、日の差し込んでいる開けた一面の芝だった。芝に脚を踏み入れる。そこで、ノルンエースは芝の感触が放置されていた物では無く、レース場や学園の手を入れている芝だと確信した。
だが、何故こんな奥地にこんな芝が有るのだろうか、ノルンエースはそれが分からなくて首を傾げていた。
進む前に感じていた不安はこの不思議な光景で行方不明になってしまった。何となしに芝の中央に足を進めた。ノルンエースは、キラリと白く光る石を見つけた。ノルンエースが拾い上げると、白く光っていた石から揺れる焔が見えた。
「眩し、何、石から?」
眩しいこれを見ていると何故かボーとする。けど、あーしは石から目を離す事が出来なかった。段々と意識が落ちていくのを感じた。段々と段々と。
「………う、ううん?眩しっ!?」
ノルンエースが目を覚ますと、そこにはいつか見た中央のコースが広がっていた。ノルンエースの鼻腔を刺激する匂いはいつか興奮の中、家族と見に行ったレース場でコースから漂って来た匂いだ。ノルンエースの頭は混乱していた。状況を整理出来ていなかった。何故なら、ノルンエースが気が付いた場所はスターティングゲートの中だったからだ。
そして、混乱の中のノルンエースを待たずにスターティングゲートは開かれた。瞬間、感じた事のない重力と見紛う圧を感じた。圧を受け、思わず足が止まりかけた。だが、ノルンエースのウマ娘としての矜持か、止まりかけた足を再度動かした。ノルンエースの前を走る8つの背中を追いかける。その服は勝負服の様に派手で華やかで強い存在感を放っていた。赤、白、黒、青、緑、青、紫、黒、目に映るその色はノルンエースの前から瞬く間に消えていった。コーナーだ。いつものノルンエースであったのならここで足を緩めていたかもしれない。力の差は明白であり、今から本気で追いつこうと走ってもかすりもしないだろう。だが、不思議と力が湧いて来ていた。
そして、後ろからノルンエースを押す謎の力によってノルンエースは再びカラフルの色を見つけた。追いつく事は出来ない、しかし、見失う事もない。そんな不思議レースをノルンエースは走っていた。最後方を走るノルンエースは第3コーナーから足に力を入れて前に出る。勝てるか分からないレースでセオリー通りに待ってられない。ノルンエースの足はそれに応える様にギアを上げた。絶望的だった差も可能性を感じなくもない差に詰めていた。走る、走る、第4コーナーを越えて最後のストレートを8つの背中が前を行く。そして、ノルンエースからは先頭が誰だったかはうかがえない。しかし、ノルンエースが最後である事は明確だった。前に遅れてゴール板を駆け抜けた。駆け抜けたノルンエースは膝を付いて倒れた。荒い息を吐きながらノルンエースは背中に目を向ける。汗で歪んだ視界で見つめるも、そこには何も無かった。そして、いつの間にかレース場もあの薄気味悪い森も無くっていた。あるのは森の空き地にある木の椅子だけだった。
二転三転した状況をいまだに理解出来ていないノルンエースだったが、疲労心労で疲れたからか木の椅子に座る。心地よい冷たい風がノルンエースの汗を含んだ髪を揺らす。あれは何だったのか、夢だったのか、ノルンエースの頭はフル回転していた。そんなノルンエースの胸元には白い石が揺れていた。