昼、城門前の広場。
王妃は尋問の傷が治りきっておらず、声を張り上げることが難しいため、代わりにトーマスが演説をすることとなった。
事前に告知をしていたことでギャラリーは人で溢れており、あまりの多さに、城壁の上からチラ見したトーマスは緊張していた。
「け、結構多い……暴動とか起きたりしないよね?」
「まあ、そん時はそん時だろ。王妃の人気からしてまず起きないと思うけどさ」
「そんなに人気なんだね、王妃って」
「だからお前はやるべきことをやるだけさ、トム。」
「……うん、わかった。行ってくるよ」
トーマスは深呼吸をして、覚悟を決め、開いた城門をくぐって広場に出る。
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他方、シュルス帝国はソルトラ王国に対して制圧部隊を派遣、その第一の晩にソルトラ王国から老齢の使者が到着した。
使者は制圧部隊の大将、オルガスの下に招かれた。
「お前がソルトラからの使者か。それで、交渉の内容は?」
「はい、貴国との50年の不可侵を結ぶ内容でございます」
「……それを我々が呑むと思ってここまで来たのではあるまいな?」
「もし吞んでいただければ、こちらでとらえているグラニア将軍をそちらに引き渡しましょう」
「……話にならぬ。あの男は戦に敗れた、ただそれだけの話だ。……では、お前を膾切りにして、その首を送り返してやろう」
オルガスはそう言いつつ剣に手を掛けた。
「……膾切りの必要はありますまい。」
「何?」
使者は懐から液体の入った瓶を取り出し、それを飲み干す。
「ソルトラ王国、万歳!」
そう叫ぶと、間もなくえずきはじめ、10秒経たずに倒れ、しばらくは痙攣していたが、1分経つ頃にはその痙攣もなくなっていた。
そばにいた兵士が使者の容態を確かめるが、すぐに首を横に振った。
自ら死を選んだ様子を見た兵士は、死者の死も恐れない態度に動揺した。
「静まれい!老い先短い人間が死期を悟り、ここを死に場所としただけのことだ。首を送り返して我々の返事とせよ。このままソルトラに向かう!」
そう叫んだオルガスの拳は、わなわなと震えていた。
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翌朝、国境沿いの町。
来る帝国軍に備え、国民総出で防御陣地を作っていた。
王妃やトーマス、ソーマもこの町に訪れていた。
「メアリー王妃、帝国側から我が国の使者の首が届きました」
「見せて頂戴」
「はっ」
王妃の命により、兵は箱を開けた。中には使者の首が入っていた。
「……誠に大儀でありました。この方を丁重に葬ってあげなさい」
「仰せのままに」
兵士は使者の首が入った箱を、何処かへ持ち去っていった。
「アレが帝国の返事というのであれば、ソーマ。貴方に頼みごとがあります」
「……将軍の処刑人ですか」
「はい。貴方にまたこの役目を背負わせることを心苦しく思いますが、どうかお願いできますか?」
「……承りましょう。いつ頃になさいますか」
「公開処刑とするため、明日の昼を予定しております」
「かしこまりました。では、私は民の手伝いをしてまいります」
「ありがとう、ソーマ」
ソーマは王妃に一礼して、国民の手伝いに向かった。
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トーマスは防御陣地の建設現場で指示を出していた。
国民総出で建設しているからか順調に進んではいるものの、数kmにも及ぶ長さの陣地を作るのは容易なことではない。
「トム!」
様々な人に指示出しをしているトーマスのもとにソーマが駆け寄ってくる。
「ソーマ。手伝いに来てくれたの?」
「ああ、トムはしばらく休んだら?もう4時間もここにいるだろ?そろそろ休憩してもいいころだと思うぞ」
「……わかった。じゃあソーマは代わりに指示出しお願い。何かあったら僕に聞いて」
「わかった。ゆっくり休んでけ」
トーマスは仕事をソーマに任せ、休憩所に向かった。
途中で建設中の事故に対する治療所が見えたので、暇潰しついでで様子を見ることにした。
王子が直々に面会することで士気を高めるためでもあった。
トーマスが治療所のドアを開け塔としたその時、向こう側にいる誰かがドアを開けてきた。
「え、エイミー……?」
「トム……どうしてここに?」
「これはこれは、王子ではありませんか」
治療所のスタッフがトーマスに声をかけてきた。
「おう、じ?」
「ああ、貴方はご存じないみたいですね。彼こそがこのソルトラ王国の――」
「ちょっと待った!」
スタッフがぺらぺらとしゃべりそうになるところをトーマスが制止した。
「ちょっとこの子を借りてもいいかな?僕の方から直々に説明するから」
「ああ……そうでしたか。それでは、2人ともごゆっくり~」
そういって治療所のスタッフは作業に戻った。
トーマスが安堵の域をついていると、エイミーはジト目でトーマスを見てきた。
「それで、どういうことなのかしら?」
トーマスは観念して、エイミーに正体を明かすことになるのだった。
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休憩所にたどり着いたトーマスとエイミーは、椅子に腰かけた。
周囲には仮眠を取る人、遊ぶ人、軽食を取る人など様々な人がいた。
「へー……つまり貴方はこの国の王子になるはずだった人で、ソーマ君はとある貴族の息子さんで貴方を見張っていた。そしてあのシスターも実はあなたの妹で、貴方はつい先日将軍を倒し、王国を取り戻した。それで今は帝国に対抗しようと陣地を作ってる、ということね」
「そういうことになるね。君はどうしてここに来たの?」
「私の親がここで手伝いをするって言うから、ついてきたのよ」
「エイミーの親も着てたんだ」
「ええ。グラニア将軍が倒されたことを聞いて、小躍りしてたわ」
「そう、なんだ」
「聞いたわ、貴方が将軍を倒したって。子供のころからずっとソーマ君と手合わせしてた成果が出たってことかしら」
「ハハハ……かもしれないね」
エイミーはトーマスにリンゴを差し出す。
「これ、家から持ってきたの。よかったら食べて」
「ああ、ありがとう、エイミー」
トーマスは礼を言ってリンゴを貰い、噛り付く
「それで、これからどうするの?」
「将軍は倒したけれど、すぐに帝国の軍勢が押し寄せてくる。その軍勢からここを守り通さなきゃならない」
「一生懸命作ってるみたいだけど、間に合うの?」
「今ここに向かっている部隊さえどうにかできれば、大丈夫だと思う。」
「その先遣隊はどうするの?」
「僕とソーマが前衛で対処する」
その言葉を聞いて、エイミーは驚かずにいられなかった。
「2人だけで立ち向かうの!?」
「ああ。偵察によれば、部隊は200人規模という話があった。200人と言っても全員が馬に乗ってやってくるわけじゃない。軽装兵は僕たちの敵ではないし、重装兵もソーマと僕ならなんとかなる」
「でも、貴方の身に何かあったら……」
「さっき言ったでしょ?この戦争が終わったら、僕は王子ではなくなるって。だから、僕の生死は大きな問題じゃない」
「貴方を待ってる人のことは、大した問題じゃないの!?」
エイミーは立ち上がり、怒鳴った。
その大声は周囲を驚かせ、それに気づいたエイミーは「あっ」と声を出しそうになった。
「……絶対に生きて帰ってきて。でないと私、貴方を許さないから」
エイミーはそう呟いて休憩所を去る。その直後、トーマスはあることを思い出した。
(そうだ……僕は村を出るとき、戻ってくると約束したじゃないか!)
トーマスはあの時の約束をすっかり忘れていたことを思い出し、頭を抱える。
(……エイミーは『生きて帰ってこないと許さない』と言っていた。ならば、僕のやるべきことは……)
「……生き残る、必ず!」
トーマスはそう呟き、拳を握りしめた。
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翌日の昼、将軍グラニアの公開処刑の刻。
抑圧を敷いてきた将軍の処刑とあって城門前の広場には人だかりができていた。
将軍拘束された状態で広場に引き出され、それを見た観衆から歓声が沸いた。
「この者、シュルス帝国の将軍グラニアは、王妃との条約を反故にし、数多くの国民を攫い、甚振り、我々ソルトラ国民の尊厳を傷つけた。その罪は重く、この度、この者を斬首刑に処することとする!」
またも沸く歓声。ソーマは大斧を持ち、グラニアのもとに歩みを進める。
「何か、言い残すことはあるか?」
「2つ……1つは頼み事だ」
「頼み事とは?」
「私に4人の子供がいるのは、君も知っているだろう。あの子たちは、どうか国に返してあげてほしい。そして『もうここに来るべきではない』と言ってくれ」
「……もう一つは?」
「トーマス王子、だったか。彼は強い。きっと素晴らしい師匠が付いていたのだろう」
「……それ、僕だよ」
「ほう、では、彼は素晴らしい友人を持ったのだな」
「……」
ソーマは何も言わなくなったグラニアに対し、大斧を振りかぶる。
そして、大斧は振り下され、グラニアの首をたやすく切断した。
グラニアの首はゴトリと落ち、群衆から拍手が相次いだ。
そして歓声が収まろうとしたとき、トーマスは叫んだ。
「次はこの国に攻めてくる軍勢、その総大将の首である!」
トーマスがそう叫ぶと、群衆は再び歓声を上げた。
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ソルトラ制圧遠征部隊
「お、オルガス大将!」
「何かあったのかね?」
「子供たち4人がグラニア将軍の子と称して、箱を持ってやってきましたが、どうしますか?」
「グラニアの?箱の中身はなんだ?」
「検めてみます」
兵士は子供たちのいる方に向かう。
しばしの静寂、そして――
「た、た、大将!首です!」
「何、首だと!?誰のだ!」
「おそらく、グラニア将軍のものかと」
「グラニアの首を、その子供に運ばせたというのか!」
「そういうことになりますかと……」
「……弔い合戦などと言う気はない。だが、子に親の首を運ばせる残酷な国は生かしてはおけん。リュドラ!」
「はっ、オルガス大将」
リュドラと呼ばれる男がオルガスの前に現れる。
「この部隊はお前に任せる。私はさらなる援軍を呼びに、本国へと掛け合うこととする」
「承知しました」
「本国にさらなる援軍を要請せよ!ソルトラ王国を根絶やしにしてやる!」
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2日後、国境付近
制圧部隊が林道を抜け、視界が開けた先には、ソルトラ王国の防御陣地、そしてその前に2人が立っていた。トーマスとソーマである。
トーマスは腕につける盾と鞘に剣、背中に矢を装備しており、弓は下端が地面に突き刺さるようになっている。
一方のソーマは左手に、先端が鉄球になっている鎖を撒きつけ、右手には戦槌が握られている。
200人の兵士の前に、わずか2人しかいないことに兵士は呆れ、笑い声が相次いだ。
「おい、そこの2人!まさか2人で俺たちに立ち向かおうって話じゃないよな?」
それを聞いたトーマスは一笑に付し、叫ぶ。
「そうだと言ったらどうすんだ?」
「じゃあお望み通りやってやるよ!リュドラ様!ご命令を!」
「……軽装歩兵、突撃せよ!」
リュドラの命令を聞いた兵士は一斉に2人に向かって突進してきた。
「来たね……行くよ、ソーマ!」
「ああ!」
トーマスは弓を持ち、矢で次々敵を射倒していく。ソーマは敵歩兵に向かって助走をつけ、鉄球を勢いよく前に飛ばした、鉄球は敵兵を5人くらいか巻き込んで吹き飛んでいく。
ある程度の距離まで近づかれたトーマスは弓を突き刺し、剣を抜いて敵歩兵に向けて走っていった。敵兵が斬りかかってくるも、トーマスはそれより速く横薙ぎで斬り伏せ、次に右前からやってくる敵兵には足に蹴りを入れてこかす。正面から斬りかかる敵は左ストレートで顔面を殴り倒し、時には敵兵に掴みかかって勢いそのまま投げ飛ばした。
ソーマは鉄球のついた鎖を引き戻し、もう片方の手にある戦槌で敵歩兵をなぎ倒す。何とか近寄れた敵兵が斬りかかるも、鎖を短く持つことで取り回しをよくした鉄球にぶつけられ、倒される。
(あの速さは、力は一体なんだ……!ここまでは想定していない!)
「リュドラ様、軽装歩兵では全く歯が立ちません!」
「重装歩兵を投入する!行け!」
続いて鎧を体の大部分に纏った重装歩兵が2人に向かって歩を進めていく。
「トーマス、こいつらは頼んだ!」
「頼んだよ、ソーマ!」
ソーマは重装兵20人ほどに向かって突進し、戦槌で横薙ぎにした。
戦槌は何人かの鎧を大きく歪ませ、その勢いそのまま1mほど飛んでいった。
重装歩兵はソーマに攻撃しようとするが、ソーマは速度の差を生かし、一撃離脱戦法で次々と倒していく。
一方のトーマスも、軽装歩兵をあと10人ほどまでに減らしていった。
「重装兵でも歯が立たないとは……」
「騎馬隊!突撃せよ!」
10数人ほどの騎馬隊が、トーマスに向かって突撃してくる。
トーマスは弓のあるところまで走り、手に取る。そして再び矢を放ち、騎馬兵の馬の眉間に次々命中させていく。「将を射んとする者はまず馬を射よ」。その言葉通り、馬を射られた騎馬兵は次々と落馬していく。
あっという間に5騎しか残ってない騎馬兵は、トーマスに襲い掛かるも、トーマスは軽装歩兵の持っていた剣を使い、次々と馬の脚に向かって投げる。剣に足を傷つけられた馬は倒れ、またしても騎馬兵が落馬する。あっという間に騎馬兵は1騎を残して全滅してしまった。起き上がる騎馬兵もいたが、馬のいない状態だとただの歩兵であり、間もなくトーマスによって切り伏せられた。
「弓兵を出せ!あいつらに矢の雨を降らせろ!」
60人ほどの弓兵が矢をつがえている様子を見たトーマスは、ソーマにアイコンタクトをとる。ソーマが頷くと、近くにあった軽装歩兵の脚を掴み、振り回す。それと同時に突如、防御陣地の方から光が出始めた。
トーマスは迫ってきた最後の敵兵を切り倒した直後、弓兵から一斉に矢が放たれる。
それと同時に防御陣地の方から光が球となって発射され、直後にソーマが振り回した敵兵を上に投げ飛ばす。トーマスは急いで倒れた馬の近くに隠れ、ソーマは倒れた重装歩兵を上方に対する盾にする。
悲鳴を上げながら投げ飛ばされる敵兵、やがてそれは発射された光の弾にぶつかる。
閃光、そして大爆発。アンナの放った最大の魔法は、歩兵とぶつかったことで炸裂した。この強い爆風により、矢の方向は逆を向いてしまう。そしてその屋は弓兵側に落ち、何人かの弓兵がそれにあたって倒れた。
この光景を見た帝国側の兵は完全に士気を喪失し、逃げ出す兵士が続々と現れてしまった。こうなってはリュドラには、もはや退却する以外できることはなくなってしまった。
「くそっ、まさかたった2人にここまでやられるとは……」
リュドラも退却し、最後の兵が森の向こうに消えていく様子をトーマスは確認した。
「敵は退却した!これで陣地完成までの時間稼ぎはできたぞ!」
トーマスがそう叫ぶと、防御陣地側の方から歓声が聞こえてきた。
「だが敵はもっと大軍を引き連れて、再びここにやってくるだろう!それこそが決戦である。あなた方ソルトラの民が自由になるまで、あと少しだ!私とともに戦おう!」
防御陣地側からはトーマスとソーマを讃える声がしばらく止まなかった。
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「オルガス大将!」
「どうした?」
「リュドラ指揮下の部隊が弓兵を残して全滅、敗走してきました!」
「何?奴らはもう防御を整えていたのか?」
「いえ、それがたった2人に部隊を壊滅させられたとのことでして……」
「2人だと?そんな馬鹿な話があるか!」
「おそらく、グラニア将軍を倒したあの2人のことかと思います……」
「……本国から増援を呼んで正解だったな。いくら2人が凄まじく強いとはいえ、この軍勢は支えきれまい。さて。向こうの防御陣地とやらは如何ほどか……」
オルガス率いる5千ほどの軍勢が、ソルトラ王国を再び制圧せんと、歩みを進めていた。
第10話を読んでいただき、ありがとうございます!
勘のいい人ならおそらく5話時点で何かに気づくはずです。
その種明かしは、この物語が終わった後に書きたいと思います。
ではまた次回!