目覚めたら、亡国の王子でした   作:チョモン=ブランマ

2 / 14
第2話:Relationship

「いっ!つー……」

「傷が浅かったからよかったものの、王子に何かあったら大変という言葉では済まされませぬ。人を助けたいという気持ちは承知しておりますが、もう少し自分の身のことも考えてくだされ」

「ごめん、ロバート」

 

トーマスは怪我の治療を受けていた。

家にあった酒を消毒用のアルコールとして使い、布にしみこませて患部にあてた。

あまりの痛みにトーマスは飛び上がりそうになる。

ある程度消毒を済ませると、布で患部を軽く巻き付けた。

 

「しばらくは、こうしておくことですな」

「うん、ありがとう」

トーマスがふと、窓を見た。もう日が暮れて、間もなく夜になるころだ。

 

「もう日が暮れます。王子は今日のところは安静にして、明日、水を持つのを手伝ってくれるかしら?」

「うん、やってみるよ」

「では、おやすみなさい」

「おやすみ、エヴァ」

 

エヴァはトーマスの部屋から出て行った。

 

「そういえばあの女の子の怪我は?」

「ああ、あの子でしたら、単に膝を堅いものか何かで擦ってしまった傷です。気にすることはございませぬ」

「そうなんだね。よかった……」

 

しばらくの沈黙の後、トーマスは口を開く。

 

「ロバート、明日あの子のお見舞いに行ってもいいかな?」

「お見舞い、ですか。私共は止めはしませぬが、身分を明かさないよう十分注意してくだされ」

「うん、わかったよ」

「もう夜になります。私めもこれにて失礼します。おやすみなさい、王子」

「うん、おやすみ、ロバート」

 

ロバートが部屋から出ていき、部屋にトーマスだけとなった。

部屋は真っ暗に近く、光源である蝋燭の光も心もとない。

 

(中世の夜って本当に暗いんだな。寝ること以外何もできそうにないや)

 

そしてトーマスは眠りについた。

 

--------

 

 

コンコン

 

翌日明け方、トーマスのいる家のドアをノックする子供がいた。

家の扉があ開き、エヴァが出てきた。

 

「どなた様ですか?……ああ、貴方は昨日トーマスと一緒にいた坊や」

「おはようございます。トムはどうしてますか?」

「トム…トーマスのこと?まだ寝てるけど、何か用なのかしら?」

「今日、助けた女の子のお見舞いに行こう、とトムに言われまして」

「あら、そんな約束を…起こしに行きましょうか?」

「そこまでされる必要はありません。しばらくそこら辺を散歩してます」

「あら、いいのよ?起きるまでここにいても」

「いえ、ご迷惑をかけるわけには…」

「おはよう、エヴァ」

 

エヴァが後ろを振り返ると、トーマスがそこにいた。

 

「あ、ソーマ。おはよう」

「おはよう、トム。」

「もう来てくれたんだね。ちょっと待ってて」

 

トーマスは上の階に行き、急いで身支度を整える。

トーマスの部屋にエヴァが何かを持ってきた。

 

「トーマス王子、こちらを持っていってください」

 

トーマスはエヴァの手に持っているものを見る。

いくらかのベリー、薬草が籠に入っている。

 

「昨日、女の子が落とした籠とその中身です。今日持っていくつもりでしたが、王子があの子の家に行くのでしたら、これを王子に託します。さすがに全てを拾いきることはできませんでしたが」

「ううん、十分だよ。ありがとう、エヴァ」

 

トーマスは籠を手に取り、外に向かう。

 

「行ってきます、エヴァ」

「行ってらっしゃい」

 

トーマスはソーマと合流し、女の子の家に向かう。

 

「そういえばあの子の家ってわかるの?」

「あの子は薬草を調合する家の子だからすぐわかるよ」

「じゃあ道案内お願いできるかな?」

「任せて」

 

トーマスはソーマについていきながら周りを見る。

鶏が甲高く鳴いており、飼い主は卵がないか探している。

ソーマが口を開く。

 

「今日の鶏の調子はどうです?」

「ちょっと最近出の悪いのがいてねえ…あと2,3日出なかったら肉にしようかと考えてるとこ」

「産んでくれるといいですね」

 

養鶏場のほかには畑も見える。

畑は昨日と同じく農夫が収穫をしていた。

隣には果樹園があり、そこでは別の農夫がリンゴの摘果をしていた。

 

「おや、ソーマじゃないか。どこに行くんだい?」

「この子がお見舞いに行きたいっていうからその付き添いです」

「ほう、お見舞いか。どれ、これもいくつか持っていきなさい」

「いいんですか?」

「出来はあまりよくないが、それほどまずくはない。腹の足しにでもするといい」

「ありがとうございます、いただきます」

 

ソーマは摘果されたリンゴを3個貰い、トーマスのかごに入れた。

トーマスはあらためて感謝を伝え、女の子の家に向かった。

 

「あとどれくらいで着くの?」

「もう、すぐそこだよ。そこの曲がり角を曲がれば」

 

言われた通り曲がり角を曲がると、家の横に何かしらの草が栽培されていた。

 

「ここ?」

「そう、ここ。ほら、ノックしな」

「あ……うん」

 

トーマスは言われるとおりにドアをノックした。

 

コンコン

 

10秒ほど待つと、ドアが開き、中から大人の女性が出てきた。

 

「どちら様でしょうか?」

「あ、えーと……」

「娘さんのお見舞いに来ました。娘さんの状態は大丈夫ですか?」

 

トーマスが言いよどんでいると、ソーマがすぐに用件を伝えた。

女性はトーマスの怪我をした左腕を見て感づく。

 

「まあ、もしかしてあの時の2人?」

「あ、はい、そうです」

「あの子のお見舞いね。さあ、上がって」

「え、あ、はい。お邪魔します……」

 

トーマスは緊張しつつも家に入った。

ソーマもトーマスに続けて入る。

家具はトーマスの家のものとほとんど変わらないが、薬草の調合を生業の一つとしているからなのか、植物を挿している花瓶が多めだった。

 

「エイミー、あなたにお見舞いのお客様よ」

 

女性が2会階に向けて呼びかける。

 

「待ってて、ママ」

 

という声が聞こえ、しばらくすると、2階から昨日獣に襲われた女の子が降りてきた。

 

「あら?あなたたちは……」

「おはようございます、エ、エイミー、さん?」

「はい、エイミーです。そういえば、昨日はお二人の名前を聞かないまま別れてしまいましたね」

「そうだね。僕はソーマ。こっちは……」

 

ソーマはトーマスの方を見る。さっきから緊張しっぱなしというのがバレバレであった。

 

「トム、自己紹介」

 

ソーマはトーマスを肘で小突く。

 

「えっ?あ、トム、です。昨日の怪我は大丈夫、でしたか?」

 

トーマスは口を開くが、緊張のせいか喋りがたどたどしい。

ソーマは呆れたように軽くため息をつく。

 

「ええ、転んですりむいただけよ。歩くことに問題はないわ。」

「そう、なんだ。よかった」

「トム、ソーマ、エイミー。そこのテーブルを使っていいわよ」

 

エイミーの母はテーブルの席に着くよう呼びかけると、トーマスの持っている籠に目を付けた。

 

「トム、でいいのよね。その籠は?」

「え、ああ。昨日エイミーさんが落とした籠を回収してくれたみたいで、そのリンゴは近所のおじさんからもらったものです。」

「あら、持ってきてくれたのね。ありがとう。リンゴは切って貴方たちにあげるわね」

「え、あ、ありがとうございます。いただきます」

 

エイミーの母はトムから籠を貰い、リンゴを取り出して台所へ向かう。

トム、ソーマ、エイミーの3人はテーブルの席に着く、

エイミーはトムの向かい、ソーマはトムの隣にいる。

 

「改めて、昨日は本当にありがとうございました。貴方たちのおかげで、無事に帰ってくることができました」

 

エイミーはぺこりとお辞儀をし、トーマスの怪我をした腕を見た。

 

「トム、でしたね。左腕の怪我は大丈夫なんですか?」

「あ、うん。傷は浅いから今はこうしてる」

「本当にごめんなさい。私の不注意でこのようなことになってしまって……」

「不注意?木の実を取ってくるだけならあいつのな縄張りから離れてるはずだけど……」

「薬草も最近不足気味だったので、それも採りたかったんです。でもそれにはもう少し奥に入らないといけなくて……」

「それで、見つかってしまったんだね」

「はい……」

 

エイミーは叱られた子供のようにしょげている。

 

「まあ、トムが気をそらしたおかげで無事に帰ってこれた。それでいいじゃん」

「え、でも僕はあのモンスターに何もできなかったし……」

「注意を向けるだけの勇気も立派なもんじゃん」

「え。う、うん……」

 

会話が途切れ、少しの間、沈黙が続く。

 

「リンゴ剥いたわよ。……あら、静かね?」

 

エイミーの母がカットリンゴを3人に渡した。

リンゴを食べつつ、ソーマがしゃべりだす。

 

「そういえば、この真ん中にある花は何なんだい?」

 

確かにテーブルの真ん中には花があった。

独特な香りのする花が、何本か生けられていた。

 

「それですか?その花は最近見つけて、どうやら虫を遠ざけるみたいです」

「へえ。どこに生えてるの?」

「薬草を採る場所よりもっと奥です。でもその分危険なので、あまり立ち入れません」

「ふーん……」

 

その後も3人で会話が続いた。

ソーマはトーマスがあまりしゃべらないことを心配に思いつつも、たまにトーマスに話を振るなどしてトーマスに喋らせていた。

 

--------

 

リンゴを食べ終わり、トーマスとソーマは帰ることにした。

 

「今日は2人ともありがとうございました。また来てくれると嬉しいです」

「うん、また会おう。な、トム」

「うん、じゃあね」

 

2人は帰路につく。エイミーは2人が曲がり角を曲がるまで手を振り続けていた。

 

「トム、今日はどうしたんだ?緊張しっぱなしだし、喋りもたどたどしかった」

「そ、そうだね……」

「……もしかして、あの子に気がある?」

「!?」

 

トーマスはソーマの方に素早く顔を向ける。

 

「その反応は図星だね。隠す必要はないよ。誰にも言わない」

 

ソーマの言葉を聞いてトーマスは、しばらくの沈黙ののち、口を開いた。

 

「確かにあの子、エイミーが気になってる。でもそれだけじゃない。僕一人じゃあの子を守れなかった。僕はあの子になんて顔をすればいいのかわからない」

「トム……」

 

ソーマは神妙な顔つきでトーマスを見る。

 

「君のことを信頼してないわけじゃない。でも、僕の手であの子を守ってあげってあげたいんだ」

「……」

「だからソーマ君、僕を鍛えてくれないか?」

「鍛える?」

「あの時の身のこなしや戦い方、明らかに慣れてる人の動きだよ。だから、教えてほしいんだ」

 

ソーマは少し考えたようなそぶりを見せ、口を開く。

 

「間違いなくたくさんケガするけど、それでもいいの?」

「うん、お願い」

 

トーマスは即答した。その真剣な表情を見て、ソーマはにやりと笑う。

 

「わかった。待ち合わせ場所はどこがいい?」

「わかりやすい場所なら井戸がいいと思う」

「井戸だね。準備ができたら、そこに行こう」

「うん、じゃあ、またあとで」

 

トーマスはソーマと別れ、駆け足で自宅に戻った。

エヴァは昼食の支度をしている最中だった。

 

「トーマス王子、お帰りなさい。あの子、喜んでくれたかしら?」

「ただいま。うん、喜んでくれたよ」

 

それを聞くとエヴァはにこりと笑って、昼食の支度に戻った。

トーマスが2階に登ると、ロバートが2階廊下にいた。

 

「おお、お帰りなさいませトーマス王子。何やらお急ぎのようですが」

「ただいま、ロバート。ソーマ君と待ち合わせすることになって」

「ほう、ソーマ君……昨日、王子と一緒にいた男の子のことですな?」

「そうだよ」

 

それを聞いたロバートはにこやかな顔で喜ぶ。

 

「それはいいことでござりますな」

「あ、そうだ。ロバート、大事な話なんだけど……」

「何でござりましょうか、王子」

「そのソーマに鍛えてもらうことにしたんだ」

 

ロバートは一転して真剣な顔になる。

 

「それは……この国のことを案じてですかな?」

「ううん。守りたい人がいるんだ」

「守りたい人……あのけがをした女の子のことですかな?」

 

そのことを聞いてトーマスはギクリとくる。

 

「……なんでわかったの?」

「ほっほっほ。この私めもまだまだボケには程遠いですぞ」

 

そういってロバートは自信ありげな表情を見せる。が、直後に暗い表情になる。

 

「ですが王子、そう簡単にはいかないことがありましてですな……」

「え?それってどういうーー」

その時だった。

 

「視察隊がきたぞーーーーっ!!」

 

外から大声がした。

 

「来てしもうたか……ある意味ではちょうどいい機会ですな」

「ちょうどいいって何か?」

「王子、何があっても飛び出さず、声も出さないと約束してくれますかな?」

 

トーマスはよくわからないような表情を浮かべるが、首を縦に振った。

 

「ではこちらへ」

 

ロバートはトーマスの部屋の窓に誘う。

トーマスは言われるがまま、部屋の窓から視察隊を眺めた。

 

視察隊の格好は胴や肘などを保護した軽装兵で構成されている。

到着した途端、村中の家から人が出てきた。

視察隊はそれを見て回り、やがてそのうちの1人はある女性に注目する。

女性を一通り見た後、視察隊で何やら話し込んでいる。

場所が遠いため、トーマスは何を言ってるのかあまり聞き取れない。

やがて視察隊の1人が、女性の両親にち近づく。

そして金貨らしきらしきものを何枚か放り投げ、女性を連れて行こうとした。

 

「なっ!?」

 

トーマスは声を上げそうになったが、先ほどのロバートの約束を思い出し、何とか押しとどめた。

連れ去られそうになる女性は両親をはじめ周りを見るが、誰も女性のことを助けようとはしない。

それを見た女性は絶望したのか、抵抗する気力を失ったらしく、そのまま荷馬車に連れていかれる。

女性を積み込むと、馬車は発進して村を出ていく。視察隊もそれについていくように村を出た。

 

「ロバート、今のは何だい?」

「はい、2年に1回、王都の方から視察隊が訪れるのです。そして視察隊は村の中にいる女性から気に入った人を1人選び、その親に金貨を放り投げたうえで連れ去るのです」

「それをなんでみんな黙って見たままなんだ?」

「抵抗したら殴られ蹴られは当たり前、運が悪ければ連れていかれて処刑、見せしめに痛めつけた遺体を晒されるのです」

 

トーマスは帝国のあまりの所業に言葉を失った。

 

「ですが、あと10年。あと10年もすれば反撃の準備が整います。王子、それまでどうか何卒、何卒我慢してくだされ。王子のその守る力は、この国を救う力にもなるのです」

 

それを聞いたトーマスは我に返る。

あの子を守るには、力が必要だ。そのためには、時間を少しも無駄にしていられないと。

ロバートは続けてこう言った。

 

「近いうちに王子を王都へ連れていくための準備をしております。王子も王都がどんな場所か気になりましょう。それに、もし運が良ければ王妃、王子の母上を見ることも叶いましょう」

「僕の、母さん?」

「はい、物心のつかないうちに離れてしまいましたから、どのようなお顔か覚えていらっしゃらないでしょう」

「僕の、母さんは……」

「行ってみませぬか?王都へ」

 

トーマスは少し考え、首を縦に振った。

 

「……わかった。行ってみよう」

「準備できたらまたお声を掛けまする。それまで王子はあの子と遊んで……いや、鍛えてもらうとよいでしょう」

「ロバート……」

「お荷物はこちらでお持ちします。王子はお友達のところへ行ってくだされ」

「ありがとう。行ってくるよ」

 

トーマスは荷物をロバートに預け、玄関に向かう。

 

「じゃあ、行ってくるよ」

「お気をつけて」

 

トーマスはソーマのもとへ向かう。

エイミーを守るため、そしてシュルス帝国を打ち倒し、ソルトラ王国を取り戻すために。




ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
お話自体はもうプロット段階では完結させており、あとは物語を書くだけとなっております。
毎週1話と遅めのペースではありますが、どうぞよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。