目覚めたら、亡国の王子でした   作:チョモン=ブランマ

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第5話:Mutiny

「え、しばらく来れない?」

「そう、しばらく王都へ出稼ぎに行くことになったんだ」

 

トーマスはソーマとエイミーにそう説明した。

 

「出稼ぎ、ってなんのですか?」

「王都で何か工事をやるみたいでね。重労働みたいだから、力自慢を集めてるみたいで、志願したのさ」

「いつ頃帰ってくるんだい?」

「それはちょっとわからない。割と規模の大きい工事みたいだから」

 

トーマスはエイミーの方を見る。エイミーは寂しそうな顔をしている。

 

「大丈夫。仕事が終わったら、ここに帰ってくるさ」

「ええ……」

「ソーマも、また手合わせしような」

「あ、ああ」

「あと、アンナをよろしく」

「……うん」

 

ソーマの歯切れの悪い返事は続く。

 

「どうした?ソーマ。どこか調子でも悪いのか?」

「……」

「心配するな。しばらく会えなくなるだけだから」

「……ああ、そうだな」

「そろそろ時間だ。じゃあ、行ってくるよ」

「うん、行ってらっしゃい」

 

トーマスは2人と別れ、馬車の待つ自身の家に向かった。

 

家につき、馬車の近くにはロバートが立っていた。

 

「お別れは済ませましたか?」

「うん」

「ここには帰ってこれないかもしれませんぞ」

「……大丈夫。絶対生きて、ここに帰ってくる」

「……わかりました。では、行きましょう」

 

ロバートとトーマスは馬車に乗り、中に乗っていたジェフが合図を出すと、馬車は動き出した。

馬車は村を出て、王都に向かう。

 

--------

 

「……王子、そろそろ着きますぞ」

「んん……」

 

トーマスはロバートに起こされた。

馬車はすでに王都に入っているようで、建物が立ち並ぶ。

 

「10年ぶりだな、ここに来るのは」

「明日、王都の周りを見て侵入ルートを確認する。王子も偵察がてら見に行くか」

「わかった」

 

馬車が目的の場所につき、トーマスはジェフの家に入った。

 

「10年経ったのに内装は全然変わってないんだね」

「あー……まあな。あ、そうだ」

「どうしたの?」

「多分、明日辺りにお前さんの妹もここに来るぞ」

「妹?」

「そうだ。あれ、聞いたことなかったか?」

「いえ、10年前にロバートから妹がいることを聞かされてはいたけど、誰なのかまでは……」

「ほーん。じゃあ明日会ってのお楽しみ、ってわけだ」

 

ジェフはそう言いつつにやけた顔をしている。

 

「ジェフさんは知ってるの?」

「いんや、妹を担当しているのはまた別の人だからな。王子の担当が俺ってだけだ」

「ふーん」

「まあ、今日は寝ておきな。明日から忙しくなるからよ」

「うん、お休み、ジェフ」

 

トーマスはそう言って2階に駆け上がった。

 

「……10年経っても場所って覚えてるもんなんだな」

 

--------

 

次の日、トーマスはジェフに連れられ、城の周りを回っている。

そのまま1周するのは城兵に怪しまれるため、数回に分けて城に近づき、偵察していった。

城は城壁によって囲まれており、さらにその周りは水の貯めてある堀があった。

道中、ジェフの倉庫にも行き、そこで城への抜け道を紹介してもらった。

 

「場所は覚えたね?」

「うん。それで、この抜け道はどこへつながってるの?」

「食糧庫だ。食糧庫は中から開けられる構造になっている。家に帰ったら城の図面を見せるから、今はここに抜け道があることを覚えてもらえればいい」

「わかった」

「そうだ。これを持っておけ」

 

ジェフはトーマスに包みを手渡した。

 

「これは?」

「ナイフ。護身用だ。これからはこういうことも想定しなければならない。わかるね?」

「でも僕は……」

「人を殺したことがない。そうだろうな。でも、あんたは、大切な誰かを守るために、ここに来たはずだ」

「誰か……」

「そうだ。居るんだろ?」

 

トーマスはそれを聞いて頷き、包みを握りしめる。

 

「わかった。持っておくよ。」

「よし、じゃあ、偵察の続きだ」

 

トーマスとジェフは、一通り城の周りを見た後、家に帰った。

 

「ジェフさん、お待ちしておりました」

「お、もう来てたのか」

「はい。先ほどここに到着しました」

 

家に帰ると、女性がジェフの家の中で待っていた。

 

「その子が、トーマス王子ね?」

「そうだ。そっちの方は連れてきたんだよな?」

「ええ。今は2階にいらっしゃいます」

「そうか。王子も気になるだろ。会いに行こうか」

「うん」

 

トーマスとジェフは2階に上がり、トーマスの部屋とは向かいの部屋のドアをノックした。

 

「入ってよろしいですぞ」

 

向こうからロバートの声がした。

 

「お邪魔します」

 

トーマスはドアを開ける。

部屋の中にはロバートと、もう1人がいた。

そしてその1人の容姿に、トーマスは見覚えがある。

 

「君ってもしかして……」

「貴方は……」

 

「「教会でよく出会った」」

 

トーマスはロバートの方を見る。

 

「はい、王子が教会でよく話しているシスター、彼女がアンナ姫でございます」

「……なんでそれをもっと早く言わなかったの?」

「あなた方が兄妹と知ってからの対応に違いが出るからを恐れたためであります。やはり家族であるということは、それだけで家族に対する対応が変わってしまうことでして」

「あの、トーマスお兄様」

 

トーマスがロバートを問い詰めていると、アンナがトーマスに声をかけてきた。

 

「ん?お兄様?」

「はい、あなたが私のお兄様とお聞きしました。もう呼んでしまってますが、これからあなたのことを『お兄様』と呼ばせていただきますね」

「え、あー……う、うん……」

「よかった。では、これからよろしくお願いします、お兄様」

 

(『お兄様』……慣れるまで時間がかかりそうだ)

 

「では、私はジェフ殿と作戦を練ってまいります。王子は姫と色々話すことがおありでしょう。しばらく休んでいなされ」

「……わかった。またあとで」

「では、失礼いたします」

 

そういってロバートは部屋から出て行った。

 

「ねえお兄様」

「ん?ああ、何だい?」

「お兄様って、どこに住んでらっしゃったのですか?」

「どこって言っても、普通の家だよ。井戸から続く大通りを少し歩いたとこさ。教会からはそう遠くない」

「そうでしたのね」

「まさか教会のシスターだったアンナが、僕の妹だとは思いもしなかったよ」

 

それを聞いたアンナは、若干暗い顔をする。

 

「シスターになれば、連れていかれる可能性は低くなるということらしいのです」

「そうか……やっぱりその対策なんだね」

「それに、私の住んでいた教会は、王室の人とつながりがあるみたいで、その縁もあるみたいです」

「へえ、王室とねえ……」

「お兄様、立ったままもお辛いでしょうから、座って話しませんか?」

「あ、ああ……」

 

トーマスは近くにあった椅子に座り、アンナと対面する。

 

「教会での生活は辛くないのかい?」

「最初は大変でした。でも、同じ教会でお努めされている方たちに助けられて、私もいろいろなことができるようになって。今度は誰かを助けられるようになりたいと思います」

「いい子なんだね」

「ありがとう、お兄様」

 

アンナの屈託のない笑顔を見て、トーマスもまた微笑む。

 

「そういえば、ソーマのことなんだけど」

「ソーマさんがどうかされました?」

「あいつってどのくらいの頻度で教会にお祈りしてるんだい?」

「ソーマさんなら、毎日朝に教会でお祈りされますよ」

「え、毎日?」

「はい。毎日、お祈りをささげられて……信心深い方なんでしょうね」

 

(ただ単に奥手なだけじゃないかなあとは思うけど、言うのがはばかられるな……)

ふと、トーマスは外に耳を傾けてみる。

何か夜にしては人が騒いでるような声が聞こえてくる。

 

「お兄様、どうされました?」

「外が騒がしいな。ちょっと見てくる。」

「私も行きます、お兄様」

 

トーマスは立ち上がり、1階に降りる。

1階には誰もいなかった。

 

「あれ、どこ行ったんだろう?」

「誰もいませんね」

 

トーマスが玄関を出ると、人々が大通りに向かっていくのが見えた。

トーマスは大通りに向かう。アンナもトーマスについていく。

 

トーマスが大通りにつくと、城の方が明るくなっているのが見えた。

もうすでに時間は夜暗く、それでこの明かりは尋常ではない。

明らかに、燃えていた。

 

「何で城が……!?」

「お兄様、これは何ですの?」

「わからない……でも、あの城の中にはーー」

「お母様がいる……」

 

トーマスは思わず城に向けて走り出した。

後ろでアンナがトーマスを呼びかける声がしたが、トーマスには届かなかった。

 

トーマスはジェフに教わった、抜け道のあるジェフの倉庫に入った。

そこから抜け道をくぐっていく。

 

(あの人が本当に僕の母さんなのかわからない。でも、あの火は明らかに危険が迫っている。早く行かないと!)

 

抜け道は終わり、薄暗い場所に出る。どうやら食糧庫のようだ。

トーマスは食糧庫のドアに耳をつける。

少しの沈黙、誰もいないことを確認すると、ゆっくりと扉を開け、左右を見る。

誰もいないことを確認したトーマスは廊下に出たところで、あることに気づいた。

 

(しまった、まだ城の図面を見ていない。どこにいるんだ?)

 

トーマスは廊下を出て右に進むと、突き当りから左に、上につながる階段を発見した。

トーマスは上を確認する。上の階からは足音がいくつも聞こえてきた。

 

(どうしよう……何とかしてやり過ごす方法は……)

 

その時だった。

 

「きゃああああああああ!!」

 

女性の叫び声が聞こえてきた。

トーマスが来た道を戻ると、食糧庫前に軽装の兵士と倒れた人、そして腰を抜かした人がいた。

 

トーマスのいる位置から倒れている人がだれかはわからなかったが、腰を抜かした人がアンナだというのはすぐに確認できた。

 

「ああ……やめてください……」

「こいつは殺すには惜しいな。立て、一緒に来るんだ」

 

兵士がアンナに右手を伸ばす。するとその手にナイフが突き刺さった。

 

「痛ぇ!!」

 

兵士がナイフの北方向を向くと、トーマスが猛スピードで突進してく来た。

武器を構えようとするも間に合わず、トーマスは兵士に蹴りを入れた。

 

「うわあああああああ!!」

 

兵士は倒れ、トーマスは馬乗りになる。

そして、トーマスは。兵士の右手に刺さったナイフを引き抜き、首の部分にナイフを突き刺す。

次に胸部分を、何度も何度も何度も突き刺した。すでに兵士は抵抗する力も残っていなかったが、それでもトーマスは刺すことをやめなかった。

 

「お兄様、もうやめて!」

 

アンナは恐慌状態に陥ったトーマスが見ていられなかったのか、トーマスの後ろに覆いかぶさった。そこでようやくトーマスは我に返る。

トーマスは自身の両手を見る。両手には、敵兵士の返り血、そして胸元にも、その返り血が至る所についていた。

 

「あ……ああ……」

 

トーマスは、自身が何をやってしまったのか、初めて認識した。

吐き気が出てきたが、何とかしてそれを抑え込む。

 

「お兄様……」

 

トーマスはアンナの方を見て、そして倒れた人の方を見る。

 

「ロバート……?」

 

トーマスは、その倒れている人がロバートだと認識するのは、3秒ほどかかった。

 

「ねえ、ロバート……何してるの……起きてよ……目を覚ましてよ……」

「誰かいたぞ!!」

 

トーマスが叫んだ方を向く。

階段のある方とは逆の方から軽装の兵士が3人、向かってくる。

トーマスは構えようとするが、先ほどのショックが尾を引いているのか、足が震えている。

 

(僕が、僕がアンナを守らなきゃ……ロバートは動けない……僕がーー)

 

その時だった。

トーマスの隣を光の弾が抜けていく。

光の弾は兵士の方へ向かっていきーー爆発を起こした。

 

ドオオオオオォォォン……

 

トーマスは呆気にとられ、後ろを振り向くと、アンナがワンド型の杖を、さっきまで敵兵士のいた方向に向けていた。

 

「アンナ……今のは……?」

「これで私も、お兄様と一緒ね」

 

アンナは笑顔で、トーマスにそう言った。

それを見たトーマスは、さっきまでの震えが収まっていることを実感した。

 

(アンナは、多分僕に落ち着かせてほしかったから、僕と同じく人を殺した。アンナは、ここに来たからには誰かを殺すのだろうと覚悟していた)

 

「何だ今の音は!?」

 

今度は階段の方から軽装の兵士が2人やってきた。

 

(だったら僕が……)

 

トーマスは近くの兵士の屍から剣を取り、構える。

 

(僕が覚悟を決めないで、どうするんだ……!)

 

今度は先ほどのような震えがない。

兵士が剣を抜き、トーマスの方へ突進してくる。

トーマスは左手でナイフを投げ、その刃は片方の兵士の顔に直撃した。

もう一人の兵士は剣を振り下ろす。トーマスはそれを剣で払い、続けざまに剣を振り下ろし、兵士の腕を切り離した。

 

「ぐああああああっ!!」

 

そしてすかさず、保護されていない首を斬りつける。

兵士は力尽き、倒れ伏す。

 

「はぁ……はぁ……」

「お兄様、大丈夫ですか?」

「ああ、問題ない」

 

トーマスはアンナの方を見て微笑む。

 

「ありがとう、アンナ。僕を勇気づけさせてくれて」

 

それを聞いたアンナはまた笑顔を見せる。

 

「ところで、さっきの光の弾は何なの?」

「あ、さっきのですか?どうやら私には魔法の素質があるみたいで」

「魔法?」

「はい。素質だけではうまく使えないみたいなんですけど、教わって、練習することで使えるようになるみたいです」

「へえ……それであの威力」

「今のはこの小さい杖なのでそれほど力は出ないんですが、」

 

あれで力が抑えられていることを聞いて、本来の力がどうなるのか、トーマスは想像するだけで総毛立った。

ふと、トーマスは目線を下に向ける。

やはり動かないロバートの姿がそこにあった。

 

「ごめんなさい、ロバート。僕が勝手に行ったりしなければ……」

「お兄様……」

「ロバート……もし生きてたら、戻れって言うんだろうな……でも、僕はどうしても母さんに会いたいんだ。ごめん、でも僕は行くよ」

 

トーマスは階段のある方に目をやり、アンナの方を見る。

 

「さあ、行きましょう、お兄様」

「うん、行こう」

 

トーマスは敵兵士の顔に刺さったナイフを抜き、盾を奪い、アンナとともに階段に向かった。

 

(それにしても,城の兵士が軽装ばかりだ。もしかして突然のことで準備ができなかった?)

 

2人は螺旋階段を駆け上がっていくが、その上には兵士が複数待ち構えていた。

トーマスはなかなか上に上がれず攻めあぐねていたが

 

「お兄様、伏せて!」

 

トーマスがとっさに避けると、すぐ後ろにいたアンナが光の弾を放つ。

光の弾は兵士に直撃し、大爆発を起こした。周囲の兵士は、みな吹き飛ばされていた。

 

「さあ、行きましょう、お兄様」

 

(ひえー……)

 

1階に上がったトーマスは周りを確認する。

城内は兵士同士が戦っており、その混乱でトーマスまでには手が回りきっていなかった。

 

「行くなら今しかない。ついてきて」

 

アンナは頷き、トーマスの後をついていった。

トーマスは城の反対側に階段を見つけ、登っていく。

上にはまた兵士が待ち構えていたが、先ほどの階段と同じ方法で突破した。

2階。周囲に兵士がいないことを確認したトーマスは、大きな扉を見つける。

 

(もしかしてここに母さんが?)

 

部屋に向かっていくトーマスだったが、突如、その部屋のドアがゆっくりと開いていく。

トーマスはアンナを制止し、剣を構える。

大きなドアは開き切り、部屋から一人の男がゆっくりと廊下に出てきた。

 

「……え?」

 

トーマスとアンナは呆気にとられる。

トーマスの目の前にいたのは、ソーマだった。

ソーマは銀色に輝く大きな槌を持ち、トーマスの目の前に立っていた。




ここまで読んでくれて、ありがとうございます!
戦闘描写に力を入れてみましたが、どうだったでしょうか?
次回はタイマンになると思われるので、一層力が入ることになる、と思います!
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