広場で起きた暴動、その様子を遠くから見ていた人物がいた。
「ついに始まったか……狼煙を上げよ!」
その言葉とともに、建物から煙が上がる。
その建物を中心に煙の立つ箇所は広がりを見せており、ソルトラ王国だった土地全土に広がっていく。
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(なんだ?何が起こっている!?)
トーマスは目の前の光景に目を疑った。さっきまで兵士の処刑を行っていたソーマが、急に帝国の兵を次々となぎ倒しているのだ。
「あいつ、いったい何やってるんだ!?」
「わからない、でも今は王妃を!」
ジェフとトーマスは王妃のもとにたどり着く。
ソーマも2人に気づいたのか、駆け寄ってくる。
トーマスは剣を構えると、ソーマは足を止め、2人に向かってぶ。
「早く王妃を連れて逃げるんだ!」
「……どういうつもりだ、ソーマ!」
「おそらく城の内部でも反乱がおきている。でも長くは保てない。しばらくしたら城壁から弓を射かけてくるだろうから、その前に2人は王妃を連れて逃げろ!」
「おい、王子、どうするんだ?」
「ジェフは早く王妃を連れで逃げて。あとは僕に任せて」
「でも王子は――」
「早く!」
「……わかった。死ぬなよ!」
ジェフは王妃を抱え壇上から立ち去っていく。
ジェフだけ逃げていくのを目の当たりにして、ソーマは驚く。
「何をしている?トムも早く逃げるんだ!」
「……いや、君も来るんだ」
「なんだって?」
「僕らに対して殺意がないのはわかった。そして君から聞きたいことは山ほどある。だから、一緒に来い」
「……じゃあその前にここら辺の敵を片付けよう」
「わかった」
2人は各々、敵兵士を倒しにかかった。
トーマスは暴徒と化した民衆の対処で忙しい軽装兵の脚を斬り、倒れたところで首を斬りつけ、とどめを刺す。これで1人、また1人と仕留め続けていた。
ソーマは大斧で敵兵士をなぎ倒し、鞭を持った大男に向かっていった。大男もソーマの裏切りに気づいたのか、鞭をソーマに向けて振るう。鞭はソーマの大斧を絡めとる。大男はソーマから大斧を奪おうと力を込めて引っ張る。
しかし、大斧は一向にソーマの手から離れない。逆にソーマがその鞭を掴むと、一気に引っ張った。すると大男は鞭ごとソーマの方に引っ張られる。ソーマは向かってくる大男を左足で蹴り飛ばす。
大男は壇上の大きい柱にぶつかり、柱にひびが入る。大男はすぐに体勢を立て直そうとするが、間髪入れずにソーマは大斧を投げる。大斧の刃は見事に大男の頭に命中し、大男はそのまま壇上に倒れ伏した。
ソーマが城壁の方を見ると、城兵が城壁の上に集まりつつあるのが見えた。
「トム!もう城壁から矢が飛んでくるぞ。僕らも逃げよう!」
「わかった!みんな逃げろ!城壁から矢が飛んでくるぞ!」
それを聞いた民衆は、蜘蛛の子を散らすように逃げ始める。
直後、城壁から矢が放たれる。
矢の一部は民衆に、命中し、一人、また一人と倒れていく。
トーマスは申し訳なさそうな顔をしながら振り返るも、すぐに前を向き、広場から逃げ出した。
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「エレン!いるか!?」
家のドアをトーマスが勢いよく開け、メアリーを抱えたジェフが入ってくる。
「ジェフ、その方はもしかして――」
「今すぐ治療だ!アンナも手伝って!」
「わかりました!」
「ソーマ、君はこっちだ」
「トム?」
「色々と聞きたいことがある」
トムは窓のない部屋にトーマスを入れ、そして自身もその部屋に入った。
「まず僕は状況が追い付いてない。君が僕らを裏切ったと思ったら、今度は向こうを裏切った。一体どういうことなんだ?」
ソーマはそれを聞いて俯く。
「……そうだな。まずはそこから説明しておくべきだろう」
そしてソーマは改めて王子の方を向いた。
「僕の名前はソーマ・ロレンス。かつてのソルトラ王国における貴族、ロレンス家の三男だ」
「ロレンス家?」
「ああ。僕の父、ウィリアム公はアルバート王と従兄弟の関係でね。でも僕の父は君の父ではなく母、つまり王妃に忠誠を誓っていた」
「母さんに?それは一体どうして……」
「君の父と母の馴れ初めの話は聞いたかな?」
「確か、狩りの時に偶然とは聞いたけど……」
「その時に僕の父もいたんだよ。同じ狩り仲間でね。そして君の父ともども、メアリー、のちの王妃に一目惚れをした」
「君の……父さんも?」
「そう。でも父がメアリーと結ばれることはかなわなかった。君の父が先に目をつけていたからね」
「そう、なんだ……」
「諦めた父は、別の貴族の娘と結婚して、僕が生まれた。父は、愛することができないのなら、せめて忠誠を誓うのは王ではなく王妃にすると決めていたんだ。」
トーマスはもはや言葉も発せられず、黙ってソーマの話を聞いていた。
「そして、戦争が起きた。シュルス帝国は強く、戦力の足りないソルトラ王国はジリジリと追い詰められていった。そんな時だ。僕の父は王妃に呼ばれ、そして言ったんだ。『王国を裏切れ』って」
「なっ……母さんが!?」
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ソルトラ王国、降伏の30日前――
「王国を裏切れ、と?気は確かですか!?」
「ええ。このまま戦い続けても、いずれ我が国はシュルス帝国に押しつぶされるのみ。であるのなら、私の身柄を取引として使い、民の安全を保障してもらうのです。」
「しかし、帝国が本当に保障してくれるとは限りますまい。」
「……おそらく、守られないでしょう。ですが、それによってたまった民の怒りを、帝国にぶつけることができるのなら……」
「メアリー王妃、貴女は何をお考えで?」
「……もはやこの国は、騎士と貴族だけでは守れない。民が一丸となり、帝国に立ち向かう必要があるのです」
「……そのために、私が国を裏切るのですか」
「つらい立場になることは、承知しています。ですが、降伏後に事を進めるためにも、ここで全員、倒されるわけにはいかないのです。」
「……王国を裏切る私が、他にやるべきことは?」
「貴方には私の子供2人をかくまってもらうことになります。どこかの村で、帝国に気づかれないように」
「その子供は、どうするおつもりで?」
「……あの子たちには平穏な暮らしをしてほしい……ですが、帝国の占領下におかれては、それができるかも怪しいでしょう。もしあの子たちが力を欲したとき、貴方はそれを手伝ってほしいのです」
「それは、ソルトラ王国の王子としてですか?それとも、1人の人間としてですか?」
「……1人の人間として。あの子たちには、あの子たちの人生があります。あの子たちの望むままに、歩ませてあげたいのです」
「……わかりました。仰せのままにいたしましょう。しかし、王妃。なぜ、私めにこのようなことを?」
「……私があの人に見初められたあの日、貴方もあの場にいましたね?あの時のあなたは、あの人と同じ目をしていたのです」
「……っ!」
「ですが貴方は身を引いた。貴方があの人と何があったのかはわかりません。ですが貴方のあの時の目は今になっても変わっていない。私はその目を信じてみることにします。」
「……王妃に見透かされてしまうとは、お恥ずかしい限りです。承知いたしました。であれば、この大役、私めが引き受けましょう」
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「そして僕の父は王国を裏切る傍ら、君とその妹をあの村に送り込み、僕も監視の役目としてそこに送られたってこと」
「その話は信じていいのかい?」
「王妃が目覚めたら、そのことを話してみるといい」
「……わかった。でもそれがわかるまで、この部屋にいてもらう。いいね?」
「ああ、わかったよ」
ソーマの返事を聞くと、トーマスはその場で胡坐をかき、ソーマを見張った。
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「王子!」
外が暗くなり、夜になった頃、ジェフが急ぎ足でトーマスのもとにやってきた。
「ジェフ。どうしたんだい?」
「王妃が目を覚ましたぞ!」
「な……っ!?」
トーマスは飛び上がるように立ち上がった。
トーマスはメアリーのところへ行こうとするも、ソーマを放ってはおけないとソーマを一瞥する。
「こいつは俺が見ている。王子は早く王妃のところへ」
「……わかった」
トーマスは一目散にメアリーのもとに向かった。
メアリーは確かに目覚め、上半身を起こしていた。のすぐそばにはアンナが泣きながら抱き着いていた。
「母……さん?」
トーマスは改めてメアリーの顔を見る。メアリーの顔は、現実世界のトーマスの母親とそっくりであった。
メアリーはトーマスに気づいたのか、トーマスの方を向いて微笑む。
「会いたかったわ……トーマス!」
「母さん!」
メアリーの声を聞いたトーマスは感極まり、メアリーの方に駆け寄って、そしてアンナともども、メアリーに寄り添って泣いた。
トーマスの目の前にいる女性が、本当に現実世界における、死に別れたトーマスの母親なのかは、その母と同じ姿と声を聞いたトーマスにとっては、些細なことだった。
「トーマス、今までずっとつらい日々を送ってきたでしょうね……不甲斐ない王妃でごめんなさい……」
「いいんだ、母さんが生きていてくれるなら、僕は……それでいい」
「アンナ、貴方にもたくさん迷惑が掛かってしまったわ。本当にごめんなさい」
「大丈夫よお母様。私の周りの人は、みんな暖かく私を迎え入れてくれたから、寂しくはなかったわ。でも、こうしてお母様と話せることが一番うれしいの」
「アンナ……!」
「お母様……っ!」
アンナはまた涙を流し、メアリーに抱き着いた。
「アンナ、アンナ。お母さんはけが人」
「あ……ごめんなさい、お母様……」
「ふふふ……大丈夫よ。今はこの痛みでさえ、うれしく思うわ」
「メアリー王妃、食事をお持ちしました」
エレンが食事を持ってメアリーのもとにやってきた。
「ありがとうございます。ところで……あの鞭打ち刑からどれくらい経ちました?」
「およそ半日、というところです」
「半日……あと3日もすれば、帝国から援軍がやってきます。それまでに城を制圧しなければ……」
「母さん……ソーマのことなんだけど……」
それを聞いたメアリーはトーマスの方を向く。
「トーマス……ソーマ君から話を聞いたのね?」
トーマスは頷く。
「ええ、ソーマ君の一族は、確かに私の言う通りに王国を裏切ったわ。すべてはこの時のために……トーマス。兵士を手にかけてしまったソーマ君をどうか許してあげて」
「母さん……僕、ソーマのところに行ってくる」
「ええ、行ってらっしゃい」
トーマスはソーマのいる部屋に向かった。
部屋に入ると、ジェフがソーマをきちんと見張っていた。
「どうだった?きちんと話せたか?」
「うん、まだあちこち痛むみたいだけど、いろいろ話してきた。見張りしてくれてありがとう。あとは大丈夫」
「そうか。じゃあ今度は俺が行ってくる」
「うん、行ってらっしゃい」
トーマスは部屋を出ていくジェフを見送り、そしてソーマの方を向く。
「母さんが目を覚ましたよ。君の言ってること、本当だった」
「そうか……王妃がお目覚めに……」
「母さんが言うには、3日もすれば、帝国から援軍が駆けつけてくるから、それまでに城を制圧しなければならないんだって」
「そうだね。事を起こした以上、のんびりとしていられない」
「ねえ、ソーマ……」
トーマスはソーマに近づき、真剣な表情で見る。
「あの時、王妃の兵士を処刑したのは、誰かの命令だったの?」
「アレは王妃の指名だよ」
「え……?」
「反乱がおこる前、捉えられた兵士が処刑されることを見越して、僕に処刑をするよう言われたのさ」
「なんで、母さんは、君に頼んだの……?」
「斬首刑ってね、あまりうまくいかないことの方が多いんだ。もし失敗すると、処刑される人は余計苦しむことになる。帝国側はそれを知っているのか、わざと苦しめるよう斬首することもあったんだ。でも僕には力があることを知っていた王妃は、力任せに首を落とせることを期待して、僕に頼んだんだ。アレは、王妃なりの慈悲でもあったんだ」
「そう……なのか……」
「……それでも、味方を手にかけるのは、勇気が必要だった。僕の力は、いずれ人を殺すことに利用されることになるだろうことは、わかっていた。でも、まさか最初に殺すのが敵ではなく味方なんて、思いもしてなかった」
「ソーマ君……」
「1人目を手にかけたとき、僕はついにやってしまったんだと思った。それも味方を。2人目をやるのは、正直、すごく嫌だった。でも、僕が拒めば、この兵士は間違いなく別の処刑人によって苦しみ悶えて死んでしまう。だから、やらなきゃいけなかった」
それを聞いたトーマスは、胡坐をかいてソーマと対面する。
「……僕も、初めて『人を殺した』と思ったときは、吐きそうになった。でも、やらなきゃ、アンナは連れ去られてた。落ち着いてる暇もないまま、敵の兵士が来たんだ。そしたら、今度はアンナが、その兵士を魔法で吹き飛ばしたんだ。それでアンナは言ったんだ。『これで私も、お兄様と一緒ね』って。……妹が覚悟を見せたのなら、僕も覚悟を見せなきゃならないって、そう思ったんだ。」
「トム……」
トーマスはソーマに手を差し伸べる。
「ソーマ、一緒に戦おう。一緒に、帝国を追い出そう」
それを聞いたソーマは驚きの表情を見せながらも、差し伸べた手を握る。
「……ああ、行こう。ともに!」
2人の間で、固い握手が交わされた。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
この物語自体は、毎週投稿で7月6日に最終回を迎える予定です。
短い物語ですが、最後まで読んでいただければありがたいです!