呪殺連鎖①
宿儺との激闘を終えてなお、虎杖悠仁の戦いは続いていた。今度は特級呪霊の討伐依頼——それも、乙骨憂太から直々に要請されたものだ。
撤退した二級術師たちの報告によると、相手の呪霊は特異な生得領域を持ち、配下の呪霊たちと“コロニー”を形成しているという。数が多く、一般人を襲う頻度も高いため、被害は深刻だった。
虎杖は呪いの気配を追い、市街地の外れまでたどり着いた。
この街では“呪殺連鎖”と呼ばれる不可解な事件が相次いでおり、行方不明者が後を絶たない。どうやら、人間を養分にして分裂・増殖する性質を持った呪霊らしい。
(乙骨先輩が俺を選んだ理由もわかるな……これは確かに、ただの呪霊じゃねえ)
視線の先には、ふわふわと漂う奇妙な存在がいた。まるで綿にヒゲを生やしたような外見で、見た目は可愛らしいが、そこから発せられる呪力は紛れもなく邪悪だった。
(綿ヒゲの呪霊……ってとこか)
虎杖の存在に気づいたのか、綿ヒゲの呪霊がハサミのような凶器を伸ばしてきた。ひょいとそれをかわし、軽く蹴り飛ばす。すると、呪霊は霧散した。
「弱えな……でも、呪力の気配は全然衰えてねえ。やっぱ、使いっ走りってやつか」
数の力——それこそがこの呪霊群の脅威だった。囲まれれば二級術師でも持たないというのは、報告の通りだろう。虎杖はスマホを取り出し、通信を開く。
「伏黒、今から特級呪霊の生得領域に入る。補助監督は避難済み。この呪霊、常に領域から雑魚を飛ばしまくってやがる。隠蔽結界を張ってるから、帳も必要ねえ」
『了解した。乙骨先輩が憂慮するだけはあるな。……お前のことだ、心配はしてないが気を抜くなよ。特級は特級だ』
「わかってる。……ここで終わらせる」
虎杖は眼前を飛ぶ蝶型の呪霊を拳で払い落とし、覚悟を決めた。そして、一歩を踏み出す。そこはーーとある別世界において“魔女の結界”と呼ばれるーー異界、生得領域だった。
世界が変わる。
一気に高まる呪力の密度。虎杖は本能的に構える。
周囲に広がるのは、まるで子供の落書きのような異様な風景。不気味で、薄気味悪い。
「メルヘンホラーってとこか。最悪な趣味してんな……」
次々と現れる綿ヒゲと蝶型の呪霊たちを、虎杖は容赦なく薙ぎ払う。伏魔御厨子による術式『捌』が雑魚どもを簡単に両断する。
まるでモーセが海を割るように、呪霊の群れを突き進んでいく。そして、目の前に“いかにも”といった感じの扉が現れた。
「ボス部屋ってか……ほんと調子狂うな」
だが、漂う呪力の気配は紛れもなく本物。虎杖は扉を押し開けた。
視界に広がった光景に、彼は思わず目を疑う。
「……は? セーラームーンか? いや、古すぎるか……」
黄色いロリータ服を纏った少女が、薔薇の頭を持つ呪霊と交戦していた。華麗で、力強い。後ろには非術師らしき少女が二人。守りながら戦うその余裕——ただ者ではなかった。
(なんだあの子……構築術式か? リボンから銃……って、呪力の持続が異常だ。どういう仕組みだ……)
虎杖が思考を巡らせていたその瞬間、呪霊の蔓が少女の足を絡め取る。しなるそれが壁へと向かい——
非術師の少女たちの悲鳴が響く前に、虎杖はすでに動いていた。
拳に呪力を込め、蔓を打ち抜く。粉々に砕けたそれを見て、少女はすぐに体勢を立て直した。
(助けなんて必要なさそうだったけど……間に合って良かった)
「おねーさん! 俺が手を出さなくても勝てたかもしれねーけど、こっちはこっちで討伐依頼受けてんだ! 雑魚の掃除と後ろの子らは任せてくれ! トドメは任せる!」
少女は何も言わずに、巨大な大砲のような武器を生成する。虎杖はその動きに、迷いのなさと覚悟を見た。
(あれが……切り札か)
呪霊の群れを一掃しながら虎杖は後方を守り、砲撃の瞬間を静かに見届ける。
轟音と共に放たれた一撃が、薔薇の呪霊を粉砕したのだった。