祈りの名を、いつか呪いが覆うとしても   作:名もなきうちは

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まどドラの勢いだけで書いた。大変すぎて後悔しかない。



呪殺連鎖②

 濃密だった呪力の気配が消えると同時に、世界から音が抜け落ちたような静けさが訪れた。

 

 さっきまで空間を満たしていた緊張が、まるで溶けていくように薄れていく。

 

「……終わったか」

 

 虎杖悠仁は、呟くように言葉を漏らしながら拳を解いた。

 

 爆発の名残が焦げついた地面に、戦いの凄惨さが残っている。けれどその中心にいた少女——黄色を基調とした豪奢な衣装を身に纏う彼女は、整った姿勢のままリボンを巻き直していた。

 

(やっぱすげーな。普通、非術師を守りながらじゃあんな動きできねぇよ)

 

 戦いの最中、虎杖は見ていた。あの少女は一切の無駄なく、守るべき相手を常に背後に置いていた。動線、牽制、間合い……全部が計算された動きだった。

 

 術式の種類こそ見たことのないものだったが、戦い慣れているのは間違いない。

 

 虎杖が一歩近づくと、彼女がこちらを見た。

 

「……あなた、何者なの?」

 

 落ち着いた声だった。礼儀正しさの中に、戦士としての眼差しがあった。

 

「俺は虎杖悠仁。呪術高専ってとこで、呪術師やってる」

 

「呪術……師?」

 

 微かに眉が動く。認識されてないな、と虎杖はすぐに理解した。

 

「さっきの戦い、あんたが片付けたの見てた。あんな強いの、俺でもキツいって思ったよ。しかもあの子たちを守りながらだろ? すげーよ、ほんと」

 

「ありがとう。でも……あなたが来てくれなかったら、危なかったわ」

 

 そう言って、少女は後方を振り返る。虎杖もそちらを見ると、同じ制服を着た二人の少女がこちらを見つめていた。怯えの色は残るが、意識ははっきりしている。

 

 一人はピンク色の髪を左右に結んだツインテールで、小柄な印象。もう一人は青髪のボブカットで、髪を二つに分けた前髪が印象的だった。彼女の方が、身体に入った力が強く、身構えも自然と前に出ている。

 

(たぶん、非術師。呪力の気配は感じない……でも、あの子が守ってたってことは、それだけの理由があるんだろ)

 

 そのときだった。青髪の少女が一歩、前に出た。小さな身体が震えているのが分かる。それでも、虎杖と黄色の少女の間に立つようにして、はっきりとした声を出した。

 

「あのっ……!」

 

 ぎこちないながらも、言葉に気持ちがこもっていた。

 

「さっきは……本当に助けてくれて、ありがとうございました。私たち、何も分からなくて……でも、どうしてこんなことが起きたのか、ちゃんと知りたいんです」

 

 彼女の後ろで、ピンク髪の少女が戸惑ったように口を開きかけたが、それより先に青髪の子がまっすぐ虎杖を見た。

 

「私は美樹さやか。こっちは鹿目まどか。まどかを巻き込むようなことになってるなら……私は、ちゃんと向き合いたい」

 

 虎杖はその言葉を聞き、少しだけ目を見開いた。

 

「……そっか。そっちも、“誰かを守る側”なんだな」

 

 言いながら、虎杖は静かにうなずいた。

 

「オレたちは、“呪術師”。呪いってやつと戦ってる。さっきのも、たぶん……そういう系統の何かだったと思う」

 

「呪い……?」

 

「見えねぇし、知らなきゃ触れられもしない。だけど、確かにそこにいて、人を傷つける。……そういう存在だ」

 

 そして虎杖は、黄色の少女へと視線を戻した。

 

「でも、おねーさんの使ってたアレ……拡張術式か? 一体あんた、何者なんだ?」

 

 少女は一瞬だけ目を伏せ、そして穏やかに口を開いた。

 

「私は……“魔法少女”巴マミ。誰かを守るために、戦っているの」

 

(……魔法少女、だって?)

 

 虎杖の認識では、それは空想上の存在だった。だからこそ虎杖は問い返す。

 

「お、お姉さん……。魔法少女って……真面目に答えてくんないかな」

 

「……貴方こそ、真面目に答えたらどうなの? 呪術師なんて私は知らない」

 

 虎杖は違和感を覚えた。虎杖悠仁は呪術の世界でも知られつつある名だった。マミと呼ばれた少女ならば、間違いなく一級呪術師に匹敵する。

 

 そんな彼女が虎杖の名を知らないのは何らかの齟齬があるとしか思えなかった。

 

 虎杖がまどかとさやかに言葉を返し終えた直後だった。

 

 ふと、背筋にざらつくような感覚が走る。

 

 誰かに、見られている——そんな気配。

 この場にいる三人以外にも……何かが居るのか。

 

(……気のせいか?)

 

 ゆっくりと振り返るが、そこに誰の姿もない。瓦礫の崩れた空間、壁に張りついたような影がかすかに揺れているだけ。

 

 だが、確かにあった。視線のようなものが。しかも……とても冷たいものだった。

 

(警戒されてる……? でも、誰にだ?)

 

 呪霊の気配ではない。だが、かといって無害とも思えない。敵意とまではいかないが、少なくとも“接触を避けようとする意思”がそこにはあった。

 

 虎杖が眉をひそめたとき、その気配は風に紛れるように掻き消えた。

 

「……どうかしたの?」

 

 リボンの少女——巴マミが、すぐに問いかけてきた。だがその表情には、彼女自身も何かに気づいているような鋭さがあった。

 

 虎杖は軽く首を横に振る。

 

「いや、なんでもない。気のせいだったかも」

 

「そう……」

 

 短く返すその声の奥に、わずかな緊張が滲む。

 彼女は一歩だけ周囲を見渡し、何気ないようにリボンの端を指先で弄んだ。それは先ほどまでの戦いでも見せなかった、さりげない警戒の仕草だった。

 

(この人も……誰かに気づいてる?)

 

 互いの間に落ちる沈黙。剣呑とまではいかないが、良いとは言い難い雰囲気。

 虎杖が言葉に迷った瞬間。

 

 未知の存在に、視線が横へと流れる。ピンク色のツインテールの少女——鹿目まどかが、胸にナニカを抱えていた。

 

「……それ、何だ?」

 

 抱えられているのは、白くて小さな生き物だった。兎でも猫でもない。耳のような長い飾りと、つるりとした毛並み。ぬいぐるみのような輪郭に見えるが、その瞳には赤い光が宿っている。

 

 怪我をしているのか、四肢はぐったりとしている。けれど、まどかの腕の中で、虎杖の顔をじっと見上げていた。

 

(……ぬいぐるみじゃない。あの目……ちょっと不気味だな)

 

 視線が交わる。まるで測るように、値踏みをするように。

 

「ああ……この子は、えっと……」

 

 まどかが何かを言いかけたところで、マミがすっと視線を戻した。

 

「いまは、話さなくていいわ。まずは、あなたたちの安全を確保するのが先」

 

 その声には優しさと同時に、どこか“他者を寄せつけない温度”が混じっていた。

 

 そんな二人のやり取りを他所目に、何者かが崩壊しつつある結界の外郭を隠れ蓑にして消えていった。

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