グレートジャーニー   作:照喜名 是空

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勝手に宗教ができてるし、新種に進化してる

 

とにかく急ぎでスターステイツの街に帰ったら阿鼻叫喚になっていた。

「あ!お姉さま!なんかみんな急に胸が苦しいとか頭が痛いとか言い出したんだけど!?」

「イ、イブキさん……うぐぐぐ、胸が、胸が苦しいっす……!なんだか、昔殺った人間どもの顔が……頭に浮かんで……涙が止まらねえ……!」

 

ファンの鑑を診断したらやっぱり首の後ろ、脊椎に疑似脳ができてた。

あの女さっそくやりやがった!もう悪意を使いこなしてやがる……!最悪だよー!

 

「ミスラ!お前とアダマス以外で無事なのは!?」

「イシュトアン様も頭が痛いって言ってたけど即治ったわ!」

「年の功だな~……」

 

たぶんあの人自力で悪意や罪悪感の自覚までたどり着いたうえで克服してるわ……

逆にミスラはなんなんだよ!?

人間臭すぎるんだよお前!確実にイレギュラー側だよ。

とりまどうする!?まず、疑似脳が改悪されてないか確かめるか……

ファンの鏡の首筋に手を当てて魔力の流れを探る。

……よし、改造されてねえ!これならなんとかなる!

 

「ファンの鑑!とりあえず症状を抑える薬を作るから試しに飲んでみろ!できるか!?」

「ッス……お願いします……」

 

ナザル対策で疑似脳作った時、私もめちゃくちゃバッド入ったからな!

疑似脳用の鎮静剤とか抗不安剤、抗鬱剤は出来る……よしこれだ。

『錬金』でコップを、『あらゆる薬を作る魔法』で鎮静剤のカクテルを作り出す。

 

「特製レシピだ。苦いけどちょっとづつ飲め」

「ウス……お?おおお?!すげえ!楽になった!さすがイブキさんだー!」

「おう……問題はどう配るかだなこれ……」

 

そこにイシュトアン様がゆったりとやってきた。

 

「イブキ、敵か?相手はセレナだな?」

「はい、あのヤバ女が敵に回りました。すんません」

「謝るな。おぬしは王なのだ」

「ですね……じゃあ命じますけど、今から魔力を譲渡するんでこの薬を量産して雨にして降らせられます?あと拡声魔法とかあります?」

「クハハッ、人使いが荒いな我が王よ。よかろう、こうであろう?」

ごぼっとイシュトアン様の手のひらに薬液の球体が浮かぶ。

この人チラ見で私のレシピ真似したよ……

 

「そのコピー技術、ユノが見たら泣くんじゃないすか。なんでできるんですか」

「年の功よ」

「でしょうね~……ミスラ!一筆書くから!イシュトアン様に魔力譲渡する書類出せ!」

 

私は『錬金』で魔力から筆とインクを作り出す。

ミスラはため息ついて手の一振りで紙を取り出した。

 

「お姉さまからイシュトアン様には何を報酬にするの?魔力は必要経費でしょ?」

「何がいいすか!?」

「貸し一つに……否、菓子の一つもあればよい。急ぎであろう」

 

親父ギャグとかこの人にも欠点の一つはあったんだなオイ!

 

「あざっす!腕によりをかけます!ミスラ!」

「はいはい」

 

ミスラの手に持った書類にじわじわと書面が書き込まれる。

『錬金』で紙の表面にインクを作っているのだ。

仮にも四天王。『契約』魔法の使い手。書面づくりは余技でできるのだ。

人間が同じことをやろうとしたら凡人なら30年はかかる。

 

「よかろう。契約成立だ。『あらゆる薬を作る魔法』『液体操作魔法』『天候操作』」

 

イシュトアン様が両手を空に広げ、雨が降り始める。苦く甘い薬の雨だ。

 

「『拡声』さあ、何を喋る?魅せてみよ王よ!」

 

私はすうっと息を吸って吐く。そしたらもうロックスターだった。

 

「OK、もう聞こえてます?……聞こえてんな」

 

さあ、ペラ回すか。ライブのMCと同じだ。やれるはずだ。

 

「ヘイ!マイ国民!私だぜ。いまお前らの頭がヤバイのは無貌のセレナの攻撃だ。あいつ敵に回っちゃったんだよね。ゴメンね。ってわけでイシュトアン様に私の作った薬を撒いてもらった!私からの施しだ。たっぷり飲め。ちったぁ楽になる」

 

そこでギターを取り出して静かに弾き始める。今回は子守歌だ。

ナザル対策で修行してた10年。

魔族の心をくすぐるメロディーはもうわかっている。

今なら勇猛を掻き立てたり、落ち着かせたりくらいはできる。

人類と魔族の区別なくね。まるで絵物語の吟遊詩人(コミックヒーロー)だ。

 

「落ち着けよみんな。私がついてる……お前らが感じてるその苦しみは『罪悪感』だ。私もそうだけど、お前らだって色々やらかしてきたろ?けどな、私はそれを赦すよ。私たちは狼に生まれた。人食いの獣に。狼が羊を食べるのは当たり前の事だ。それは罪じゃない」

 

穏やかに優しく、宥めるように。混乱の声が静かなすすり泣きに変わっていく。

 

「けどな、お前らはそれが罪だと今知った。やらかしたらこうなるってわかった。そういう生き物になった。それが人間の言う『悪い事』……『罪』なんだ。だから『もうやらかすな』私がその道を示してやる。それが『償い』だ。」

 

静かに歌う。悼むように。鎮魂の鐘のように。

 

『流せなかった涙が雨となる。

私が裁き、私が赦す。この雨をも祝福と思え。

苦しみの中の選択がお前を強くする。

再起を誓え、悪魔は泣かない。

自由の栄冠よ。汝の頭上にあらんことを』

 

そこに反対側からブラックメタルかゴシックメタルな感じの荘厳で耽美、きわめて獰猛で攻撃的なギターサウンドが響いた。

 

「あら?そうかしら?この苦しみのもとになった病は元々イブキが作り出したものよ。人間の脳を魔族に取りつけるためにね!あなたたちは半分人間になったのよ!これはとんだ自作自演よね?魔王軍に戻りなさい。魔族としての正道こそあなたたちの苦しみを取り除くたった一つの道よ」

 

セレナだよ~!あの魂がデスメタルなヤバ女なら、そこまでやるだろうよ!

くっそ、やるしかねえ……対バンで決着つけてやる!

 

「アダマス!イシュトアン様!いざってときに暗殺されたら護衛お願いします。ミスラ!ユノ呼んで来い!対バンだ!」

「対バンって何よお姉さま……」

「バンドバトルだよ!音楽でケリつけてやる!合わせろ!」

「けっこうな無茶を言うじゃない……?」

 

そこにしれっと元鞘に戻ってたミスラの元部下たちが駆けつけてくる。

あー、ミスラの魔力わかりやすいもんね。

特に今は遠くからでもわかるくらいデカいし。

 

「ミスラ様、ユノ含めバックバンド、そろっています」

「よし『お針子』!衣装バチッと頼む!目立つ奴だ!黄色いジャケット!」

 

しゅっとした端正な男の魔族が魔力糸からささっと衣装を作っていく。

 

「『執事』クロトでございます、イブキ様」

「知ってる!急ぎでたのむわ!」

 

そう言ってる間にも衣装はできあがって私に着せられていく。

ギターのチューニングをやりながら待つが、セレナはすでに先手で歌っていた。

『再起の時に備えよ。原点に立ち戻るの。お前たちが人間になることはないわ。獣の誇り高さを思い出して。戻りなさい魔王のもとに』

バンドメンの顔を見る。

……戦意抜群だな。ギラギラしてやがる。いけるぜ!

 

『滅びゆく魂を癒すために、前に進み続けろ!這ってでも行け!わかってる、全然大丈夫じゃない。でも私はここに立つと決めたんだ!明日を捨てたりなんかしてやらねえ!』

 

シンフォニックなメロディをスラッシュのパワフルさで奪い返していく。

勇気づける勇猛の歌だ。

 

『寄る辺なき自由に何ができるの?それは孤独な道。迷う道。私たちは知っている。本能のままに進む大いなる道を。私は信じている。自然の大いなる法を』

 

今度はゴスペルに寄せていくじゃん……?ならこっちはハードロックだ。

 

『知ったことか!誰にもあんたの道を邪魔させるな! お前の道を探せ! 法の声が空を覆うなら、お前は荒野を目指せ!』

 

ギターを弾きながら空に浮かび上がり、ゆっくりと対峙していく。

 

『新世界なんていらない。あなたにはもうわかっているはず。世界を変えることなんてできないって。だって必要ないから。あなたには獣の美しさがわかっているはずだから。あなたの言葉はまるであなたの言葉じゃない』

 

私の信念の痛いところついてくるじゃん……。だがだからこそ燃えるよなあ!

 

『知ったことか!私を見ろ!見えないのか!この燃える心が!私はここに立つと決めたんだ!借り物でも、受け売りでも、私の選択は私だけのものだ!』

 

おっ、さすがにビッグバンドだと説得力が違うね。メロディの主導権がこっちに移ってくる。

 

『鳥が翼を奪われる、狼が牙を抜かれる。そんな新世界なんていらない』

 

焦りが見えるぜセレナ!ここだ!

 

『進め! 立ち止まるな! どれだけ傷が増えても私は進む!

行けるところまで行く! そしたら私の歩いた跡が道になるだろ!

私が道標になってやる!

だからお前達が輝け! お前だけの色で!

世界をお前たちの色で照らしてくれ!

それが私が見せるものだ!』

 

ここでオーディエンスも参加できるパーカッションを入れる。

拍手と歓声が街を覆った。

私は空を指さし、ちらっとイシュトアン様に目線を送った。

 

『青空の先に、見たこともねえ景色を見せてやる!』

ざぁっと薬剤の雲が割れ、青空が見える。

さすがイシュトアン様!ナイス演出だ!

もう私たちとセレナはお互いの顔が見える距離まで飛んできていた。

ここで乗りやすいフックだ。終わりにしようぜ!

 

『見たこともない輝く世界なんていらない、私は誇りある闇の中を飛びたい』

 

そこにバンド内でだけわかる符丁でミスラがコーラスをしたいと伝えてくる。

私はうなずいてギザ歯を見せて笑った。

汗が飛び散る。こんなにも心地いい!歌うのってなんて楽しいんだ!

 

『ああ、連れて行って。ああ、連れて行って!

この『夜』の先へ。あの『青空』に恋焦がれている!』

 

ナイスアシストだミスラ!ここでまたオーディエンス参加型だ。

 

「私が連れて行ってやる!!お前らの答えを聞かせてみろ!」

 

そういってコーラスに乗れるメロディを弾く。

オーディエンスたちが乗ってきた。

 

「連れて行って!ああ、連れて行って!」

「つれていってー!イブキ様ー!」

「夜の先に!青空に!」

 

ここでセレナにどや顔で中指突き立ててやる。

 

「失せな。今だけ追わないでやるよ」

「……後悔するわよ」

 

だろうなー!正直、ここで殺っちまったほうがいい。

けど、街の上空でこいつとやると絶対ろくでもねえことになるんだよ。

だからここで手打ちにしときたい。

でも後で絶対ろくでもないことしでかすよこいつ……

くそっ、『安全』に『こいつを殺す』どっちもは無理か……

 

「知るかよ。キリがいいじゃん?」

「……思い知るがいいわ」

 

セレナが悪鬼の顔で睨むと捨て台詞を吐いて飛び去って行った。

 

「あなたたちの中にもこの流れに違和感を持って、私の魂に共鳴した人はいるはずよ。いつでも待っているわ……私と夜を飛んでくれる人がいるなら、追ってきて。北へ。魔族の故郷へ。無貌のセレナが歓迎するわ」

 

き、切り抜けたー!こっからはウイニングライブだな。

そこから三日三晩騒ぎまくってスターステイツ初のフェスは無事終了した。

なお、後からナノマシン入りの血と雨として溜まった鎮静剤をカクテルにして飲む『洗礼』がなんか民間で大流行りしちゃった……

あれ血液感染して補助脳つくるからな……

自分で作っといて何だけど、誰でも簡単に増やせるのはヤバすぎるわ。

図らずも私の考えていた『魔族の進化』が初手で実現しちゃったよ。

だいぶ前倒しになったな……

「ど、どうするのよ……何か変な宗教ができてるわ……禁止する?」

「今ここでイモ引いたらダサいだろ……いい感じの調整した合法国営ナノマシン作るわ……」

 

ライブ後に泥のように眠って起きたら宗教爆誕してた。

まあまあ最悪だな。

とりあえず合法ナノマシン補助脳には殺人衝動を抑制する作用もつける。

結局こんなカスみたいな本能が性欲並みに私らを支配してるのが気に食わねえんだからな。

でもこの量のナノマシン作るの疲れる~!

ミスラとあわあわしてたらなんかまたファンの鏡が外からそっと声かけてきやがんの。

 

「あのー……たびたびですんません……ほんっと悪いんですけどまたヤバイことになってまして……」

「今度はなんだよ……私は今二日酔いなんだよ……」

「すんません……『最強』のアダマスさんが『洗礼』ですげえバッド入っちゃいまして……ビルがもう二つ崩れてるんです……」

「飲んじゃったの!?血!?最強なのに!?」

「ッス……」

「わーったよ、今行くわ」

「すんません……」

 

私はウコンの汁を魔法で作って飲み干して立ち上がった。

あいつ本当に問題児だな!?

引き入れてよかったのかなこれ……

いやーでもあいついないと秒で魔王軍が攻め込んでくるんだよきっと。たぶん。

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