国境地帯の荒野にはなんか森ができてた……
明らかに魔法で作ったものだし、なんかそこで勝手に野営してるんだよね。
兵士とかいっぱいいて、数千人はいるんじゃないかな。
まあ国境の向こう側だから文句言えないんだけど。
「ヘイ!代表者いる?私がスターステイツ大統領のイブキだ!」
『拡声』を使ってクソデカボイスを響き渡らせる。
しばらく兵士たちはざわざわしてたけど、すぐにそれっぽい一団が出てきたわ。
なんか勇者パーティーって感じ。
「初めまして。僕はローラン。ローラン・レオネル・ド・ガリエンヌ。ミッドユーロ連合のガリエンヌ王国の勇者だ」
なんか……気さくで爽やかそうなイケメンが出てきたわ。
握手しようって感じで手を出してくるから、万が一を考えつつも断れねえよ……
まあ、この無害そうな笑顔が演技なら魔族よりだますの上手いわってくらいの邪気のない笑顔だから信じるよ。
「おー、勇者って本当にいるのな。良い手してんねえ!剣か何かやってる?」
「そこはまあ、勇者だからね。ほかのみんなも挨拶するけどいいかい?」
「横にいるなんか濃い人たち?いいよ」
ローランが目くばせすると勇者パーティーらしい人らがそれぞれ挨拶を始めた。
「私は道清。清華帝国から来ました。このパーティーでは僧侶をしています。この出会いがお互いにとって有意義であることを願いますよ」
ヒョロッとした着物をきた
「……ヴェイル。お前たちに挨拶することに意味があるとは思えないけど」
なんか……魔族に村を焼かれましたよって感じの黒髪の獣人。狼の耳が頭から生えてるし、しっぽとかあるから人狼なんだろう。服装はなんか暗殺者って感じだ。
「この出会いで星が輝くといいな?ええっ?私はアカレンドール氏族のナールウェン。赤き森、最後の魔女だ」
なんかチビエルフがいるわ。そのくせおっぱい大きいからムチムチした体形してるるんだよね。っていうか殺気に満ちた魔力が本当に怖いんだけど。
「お、おう。よろしく……っていうか女性陣の当たりが強いな。まあ……魔族のしてきたことを考えたらこうやって交渉しようってだけでもメチャクチャ優しいのはわかるよ」
チビエルフがワクワクしてきたぞ!って顔でメンチ切ってくるんだけど。
明らかに戦う気なんだよなあ……勘弁してくれよ~、芸人にバトルを求めないでくれ。
「ほう?少しは人間らしいことをいうものだ。ふん、なるほどな。本当に脳を弄ったか。そこまでして人間を真似ようとは健気なものだ……チッ、残念だがこいつらは確かにある程度は交渉はできるようだ」
「サラッと魔力を読むだけでそこまでハッキリわかるの怖いんだけど」
まあ、脳も弄ったよ!というのはダイカザド地下帝国のドワーフ経由で話してはいるんだけどさあ……
明らかに今『確かめられた』感あるんだよね。
魔力を感じただけでそこまでわかるのは魔法使いとして超一流だからだろう。
っていうか魔法の撃ち合いじゃ勝てない強者オーラがする。
「……そうか。それはよかった。人間の脳、いや、人の心も持っているという話は本当だったんだね。なら、交渉ができそうだ」
勇者ローランがさりげなく姿勢を崩す。
今の今まで切りかかる前提だったってこと!?
いやまあ……人間を見かけたそばからぶっ殺してきたのは魔族だからなあ……
「そんでなんの用で来たんだよ。セレナぶっ殺すとか聞いたけど。なんかやらかしたのアイツ」
「ああ、それはね……」
ローランの話はヤバかった。
セレナは南側の人間社会にこっそり忍び込んで流言飛語で万単位の子供を誘拐。
果ては軍事基地を丸ごと離反させて連れ去ったとか……
たぶん薬も使われてるとかで、これは明らかに私への当てつけだよなあ……
魔王軍を崩壊させた手口とそっくりじゃん。
「……というわけで、僕たちは子供たちが戻らないとは思うけどそれでもセレナを倒しに行く。できれば協力できないかな?」
「ええ~……たしかに責任を感じるけどさあ、そもそもこの国、私が戦争したくなくて造ったもんなんだよね」
「そう聞いてはいるけど、本当だとは思っていなかったよ。でもそうなのか……なら、せめて僕らが魔王国に攻め入るために通行するのは許してほしい」
「許すも何も、そのつもりでステイツと魔王国の国境までは直通道路引いたよ?通れば?どうぞ。ちなみに私らの家は基本その道から離れるように作ってあるから、お互い顔合わせずに済むよ」
私が親指で指さす後ろには6車線の道路がずーっと続いてるんだよね。
一応魔王国の手前あたりまではなんとか工事したよ。
まあ……向こうから攻め入ろうとしたら迎撃できる工夫はあるんだけど。
でも通れなくはないし、家がないのも本当だ。
そこで勝手に戦争やってくれって道だから。
「……うそだ。どうせ言ってなかった事があるとか言い訳して罠にはめる気だよ。ローラン、こんなやつのいう事信じちゃいけない」
狼っ娘が敵意に満ちた顔で見てくる。
うーわ、嫌だなあこの感じ……まあ、そういわれるだけのことは我が国の全員がしてるのはそうなんだけどさ。
「迎撃しやすい道にしてるのはそうだし、こういう時のために勝手に戦ってくれって目的で人払いしてるのはそうだね」
「……絶対に罠があるよ」
「ないよ。ほんじゃ街中通る?だだっ広いからその後ろの何千人も通れはするけど。お互い嫌な気分になると思うよ。それともうちの国民虐殺していく気なら、だいぶ見通し甘いよ。魔王国にたどり着くころにはもうクタクタだろ。それで勝てんの?」
「……チッ」
狼娘が舌打ちして黙り込んだ。嫌われてるなあ……まあ、魔族はそうやって和平したそばから裏切ってぶっ殺すとか、持ち芸かよってくらいに毎回のように命乞いの後に後ろから刺すとかやってたらしいからそりゃ信用されないのはわかるよ。
「まあまあ、とりあえずお互いに干渉しないだけでもありがたいことです。そちらの政治体制はわかりませんが、とりあえずほかの方々にも最低限お互いに不干渉でいること、できれば協力してほしい事を伝えて、そちらでしばらく協議できませんか?」
龍人の道清が柔和な笑みを浮かべて宥める。
こいつも魔族に身内殺されてるだろうに、それでも理性的に話してくれるから懐深いよね。
「あー、そうだね。お互い話し合う時間はいるわ……ほんじゃあ、そっちはしばらくこの国境線でキャンプしてるってことでいいの?飯とか支援とかいる?そのくらいは出すけど」
チビエルフが鼻で笑いやがった。
「ハンッ、この森を見ればわかるだろう?これだけの土地があれば私と道清の魔法で兵を養うに足る食料を作れる。貴様ら魔族の施しは受けん」
「あー、鬼族ね。私たちは鬼って自称することにしたから。実際もう別物の種族なのはアンタならわかるだろ。まあいらないっつーならそれでいいけど」
チビエルフが嫌そうな顔でうなずいた。
「人間の脳に、さらにもう一つ脳があるな。おまけにその脳を作る魔法は母子感染する……なるほど強引だが自力で進化したと言わざるを得ないな。人間の心を模す第二の脳は理解できる、だがその第三の脳はなんだ?」
うん、あれから補助脳用のナノマシンをアップデートしたんだよね。
人間の脳を模倣するのに加えて、もともとの魔族脳と人間脳のバランスを取ったり、必要以上にトラウマやストレスで苦しまないようなリミッターをつけた。
「あー、もともとの魔族脳とのバランスを取ったり、必要以上の苦痛を感じないようにするリミッターだね。だって意味ないじゃん、自殺するような苦しみとか、痛みでショック死しますとか。危機を知らせるための信号であるはずの痛覚とかが逆に自分の体を破壊するとか無駄で有害な仕組みが私は大嫌いなんだよ。だからちゃんと作り直した」
「……傲慢だな。自然の仕組みを弄るとは。おぞましいよ。鬼とやらは皆そうなのか?」
まあ……まともな側はそう思うだろうよ。現に後ろの兵士や勇者たちも消極的に同意してる感じだしな。
でもまっとうに生まれられなかった側からするとな。
「いや、私だけだと思うよ。その上でみんなは私が言うならって感じで信じてくれただけだよ」
「……そうか。哀れなことだな」
さらっと私と国民をディスってくるじゃん?
「どうせ憐れむなら、殺人種族に生まれちゃったことに同情してくれよ。私だって好き好んでアンタラみたいなおっかねえ種族を敵に回したくなかったし、自力で脳を弄るしかなかったのは正直キツかったんだよ、おわかり?」
「……確かに、そうするしかなかったのは理解しよう。まあそれはいい。だが、ならば我々に協力したほうが後々で得になるのも理解しろ」
チビエルフのナールウェンはそのへんの岩に腰を下ろして「錬金」で煙管とタバコの葉を作って魔法で火をつけ始める。
うーわ、すんげえ煙だすのな。
しゃあねえから私も魔法で紙巻タバコ作って吸い始めた。
もうめんどくせえから素面で話すのやめたよ。長くなりそうだもん。
「スパーッ……後々の利益ね。要はアレか?ここでアンタらに味方して旗色明らかにしとけば印象良くなりますよ~って話?」
「ほかにどう聞こえる?」
当たりが強いよ~。めんどくせえなあもう。
「ほんでマイ国民に死んで来いと命令しろと」
「それが君主の仕事だ。違うか?」
「確かにそうだけどさあ……こっちにもメリットがあるのは理解したよ。でもそれ、私の一存では決めたくないんだよね」
「お前が責任を取るべき事だろう。それにお前がそう言えば従わせることはできる。違うか?」
なんでこっちの事情そこまで読んでるんだよ。アレか。この人もイシュトアン様と同じ異端枠か。
「そーだけどさあ……こっちにも腹をくくる時間をくれよ。結論はそうでも、ある程度こっちでも話し合いとかすり合わせとかいるわけ。最低でも1週間は欲しいね」
「ローラン、そういう事だそうだ。少しだけなら待ってやってもいいと私は思う」
決定権はリーダーに譲る。ちゃんとしてらあ……なんかこう、『大人』やってる感じだね。私よりチビのくせにさ……まあエルフって長生きだからね。年の功なんだろ。
「そうだね。とりあえず今はそっちでこの話を持ち帰って検討してほしい。1週間後に答えを聞かせてくれればそれでいいよ」
「わーったよ……でもこっちも通常業務も回しながらあんたらの話をするのをわかってくれ。すでに手間暇かかってんだよ。いきなり押しかけてさあ……いや、やるよ?そりゃあもちろんちゃんと話まとめるけどさあ……」
「うん、そっちに手間をかけさせてるのは悪いとは思う。でも……鬼というのがそういう気遣いが無駄にならない種族であることが僕はうれしい」
邪気のないイケメンスマイルでそういわれるとさあ……
こっちもある程度気前よくしなきゃバカみたいになるじゃん……
「わーった、わーった……まあ期待しないで待っててくれ」
「頼むよ」
まあそんな感じで人類と鬼のファーストコンタクトは友好的に終わった。
その日のうちに議会を招集してとりあえず話し合うことにした。