「とりま、そういうわけでさ……まず国境線にいる人間の軍隊には絶対ちょっかいかけるなよ。ただでさえ我が国って印象最悪だからさ。そもそもあいつら敵に回したくねえんだ」
そこで進行役としてイシュトアン様が話をまとめる。
「ふむ……そこで我らが決めるべきは人間にどれほど手助けすべきかだな?勝手に戦わせておけばよいか、それともこの機会に恩を売っておくべきか」
国会の議場は今はクソデカいドームっていうかサーカスのテントみたいなところに椅子と机を並べて、ビュッフェバイキング形式で食事をそこかしこに置いてる形式だ。
みんながうまそうに晩餐会してるついでに会議する風景は私も心が和むよ……
「ウス、そうです。私個人としては人間に手を貸したほうが後々いいだろうなってのはわかる。でも国のために死んで来いとはあんま言いたくない。みんなが戦うのあまりにも嫌だったら人間はほっとくよ」
議場がざわざわと会話に満ちる。いいぞ~、そうやってちゃんと考えてくれ。
私の一声で全部決まるのは正直しんどいんだわ。
「アダマスだ。発言いいだろうか?」
「聞くよ」
「軍務としては問題ない。兵も十分に休めたはずだし、むしろここで魔王軍と一戦構えるべきだという声もある。個人的には人間の最精鋭という人々に興味が尽きない」
あー、そういえばこいつ人間の心マニアだったな。
「わかった……軍はやる気なんだな。じゃあほかに意見あるやつ」
「バアルですゥ。食糧庁としては人間相手の食事を研究したいので賛成ですねえ。軍事糧食の開発はやって損はありませんし……予算もまだあるので。何より、人間の皆さんにも私の料理を食べていただきたい!」
「そっかぁ……おまえもやる気かぁ……」
「魔法省技術局としても賛成だねえ!今こそ武器や道具を輸出するときだと思う!」
「国土省としても賛成だ。せっかく作った魔王領行き進軍道路なのだから」
なんか……そんな感じでみんな人間に興味津々だった……
魔王軍と戦って死ぬかもってリスクはどうでもいいらしい。
なんでだろうなあ。たぶん殺人衝動を抜いたら残ったのが人間を模倣したいという欲求や、人間に対する好奇心がめちゃくちゃ出てきたっていうか……
人間にかかわったら絶対めんどくせえよ……とは思うけど、私自身もそろそろ新しい刺激が欲しいなとはまあ思ってたし。
「わかった……じゃ、やろっか。人間に協力して魔王軍と戦争。っつーかセレナぶっ殺し作戦」
万雷の拍手で決まっちまったよ……まあ、国民がやる気ならまあいっか……絶対めんどくさいことになると思うんだけどなあ。
「じゃあ立法しちゃうわね。わかってると思うけど、法で決まったことだから物理的に破れないわよ。いいわね?」
結局、その日のうちにミスラにより『人類国家支援法』ってのができて、ステイツの住民全員が自己防衛以外で人間を殺すのが禁止にされて、ミスラの魔法により物理的に人間に攻め入ることができなくなった。
もちろん、人間側が裏切って鬼を殺しにかかった場合は『法律の例外、免責事項』として反撃はできるんだけど。
いいのかなあ……魔王倒すまでの時限立法ではあるんだけどさ。
☆
それで次の日に人間たちのキャンプに結果報告に行った。
「なんか……思ったより乗り気だったわマイ国民」
「だろうなあ!お前らが半年もおとなしくできるわけがないんだ。血が騒ぐのも無理がないだろうよ」
チビエルフが煽ってきやがるよ……
その後ろで狼娘が中指立ててる。
「っていうか殺人衝動から殺を抜いたら人間に対しての好奇心が残った感じだからそろそろめっちゃモノを売りに来ると思うけど大丈夫?ムカついて手が出ない?」
「それは保証できんなあ。貴様らの態度しだいだ」
ここで勇者のローランがまたイケメンスマイルで出てくる。
「いいや、保証する。何ならミスラによる契約を結んでもいい。お互い剣を取らず共存できるならそれが何よりだ」
この勇者、すんげえ人間ができてるじゃん……?まぶしいよ。
「そうであってほしいけどさあ……喧嘩の一つや二つは絶対起きるよ?まあ……お互い抑えておこうな……」
「もちろん。それでいつ頃出発できそうだい?」
「あさってな。明後日に出征式っていうか出征祭りをそこの道で大々的にやるわ。ぼちぼち兵も集まってくるだろうし……そっちも芸人とか連れてきてるだろ。派手にやってくれ」
私は魔王領行きの幹線道路を指さす。
もうすでに結構な数の露天商が店出し始めてるんだよな……数百はいるんだよ。
鬼にとっての出店は金を稼ぐよりも自分の研究成果の発表会みたいな側面が強いからさ……
「へえ、じゃあそこの店も、もう僕らが使っていいのかい?」
「いいよ。でも毒は盛るなって一筆書かせたけど、人間が食っていいものか実際私らにはわかんねえからそこは自分の責任で食ってくれ」
「ははは。それは怖いな。まあ気を付けて食べるし、そこの周知は徹底させてから兵に許可を出すよ」
「たのむわ」
言うが早いか、ローランは『拡声』で兵に指示を出し始めている。
なんか、喧嘩絶対にするなよとか、鬼用の食べ物ばかりだから食あたりに気をつけろよとか。
終わるまで酒飲んで待ってたら、横に勇者パーティーのやつらが腰を下ろし始めた。
嫌だな~!またネチネチ言われるよ。
「聞いたぞ、出征式か……そこで私が一つ二つ出し物をするがかまわんな?」
いきなり何言ってんだコイツ。タバコぷかぷか吸いやがって。
「かまうよ。せめて何するか言ってくれよ」
「何、大したことじゃない。そうだなあ……最強と名高いアダマスと一手組み手がしたい。なあに心配するな。ちゃんと手加減はするさ。私はな。それとお前はたしか歌を歌う芸人だったな?エルフの歌というものを見せてやる。お前のいう所の対バンというやつさ。いいだろう?」
こ、この女……!めんどくせえ~!
アダマスと手合わせって絶妙にこっちが気を使うやつじゃん。
その上で断りにくいのを選んできやがる。
「それはアダマスの返事聞いてからな」
「ならお前が対バンを受けるかどうかは今すぐ答えが出るな?出征式だぞ?国の代表が歌わずして送り出すのかお前は?」
こっ、コイツ……こっちが本命か~!私に恥をかかせようって腹じゃないのこれ?
とはいえ舐められたもんだなあオイ!
年食っただけのエルフの余技で勝てると思われている……!
その上で受けざるを得ない方向にもっていかれてる……!
「あんた本当に嫌な女だな……」
「おやぁ?自信がないのか?」
「ほらまたそういう言い方になるじゃん……?やるよやりますよ!で、ノーギャラ?そっちが言い出した話だよね?じゃあタダではやれねえなあ。お礼がいるだろ。お礼が」
これはうまい返しじゃねえか?タダじゃ起きねえぞ私は。
「ハッ、少しはウィットのある会話ができるじゃないか」
こんな嫌味の応酬がウィットある会話なエルフ基準はおかしいよ!?
マーニーが言ってたのはマジだったんだな。
エルフは息を吸うように嫌味を言うって。
「ふーむ、そうだな……これはどうだ?『魔力の糸』空間に魔力で作った糸を張り巡らせるだけの魔法だが、これが案外いい音が出る。それにこれもつけよう。『振動』の魔法だ。空気を振動させるだけの魔法だが……それはすなわち好きな音が出せるということだ。音は空気の振動だからな。どうだ?」
私の目の前でナールウェンは魔力糸と振動の実演をして、魔力からその使用法が書かれた魔導書を作り出す。
くそっ、めちゃくちゃ気になる……スゲー面白そうな楽器じゃん……
「しゃあねえなあ、やるよ!やりゃあいいんだろうがチビロリババアが!」
「お前私をチビの上にババアといったか?」
うわあ急にキレるな!?
「事実じゃん。その上で言われても仕方ないくらいカスみたいな態度してたじゃん」
私とロリババアはメンチを切りあう。この会話どこに着地すればいいんだよ!
誰か教えてくれよ~!
「あ?」
「はぁ?」
うおっ!後ろから殺気!
くそっ、気がついたら狼娘が後ろから首筋にナイフを当ててきてるよ……
あとちょいで刺さるような距離まで近づけるなって!
「お前、お師匠をバカにしたのか」
「馬鹿にしてるのは全方位だけど?っていうか言葉で言われてナイフ抜くって言い返せませんってのと同じじゃない?」
うわっ、なんかチビエルフがすげえ威圧感出してる。
「ヴェイル」
「お師匠、でも」
「かまわん。この調子に乗った若造にお灸をすえるなら私自身がやる」
「はい……」
しっぽ丸くなっちゃった。ざまあ。ナイフはもうしまわれて狼娘は私を睨みながらしょぼんとしてる。
「そういうお叱りは家でやってくれよ。曲がりなりにもホストの私の前でやらないでくれよ」
「ふん、そもそも今すぐに殺されてないだけ礼を払っていると思え」
本当にやるときはやる感じなのがこええよこのロリババア。
「わかった、悪かったよ、口が過ぎたわ……」
「許そう。私は寛大だからな。それはそれとして報酬として申し分ないだろう?」
「いい音なりそうなオモチャだなって思ったよ。だからやるよ。アダマスの方にも前向きに言ってみるわ」
「ハッ、そうだろうとも。結局の所、お前らは魔法というオモチャを手放せないガキだ。だが……それでも思慮というものが備わったのは認めるよ」
「それも魔力読まれた感じ?」
チビエルフはタバコの煙を吐き出して笑う。
「年の功さ」
「すげえどや顔なのがムカつくね」
ウザがらみされて嫌だな~って思ってたら道清とローランが済まなさそうに割って入ってきた。
「ナールウェン、そのあたりにしてくれないか?魔族……いや、鬼族に思う所があるのはわかるけど、彼らは今のところ親切にしてくれているよ」
「甘い意見だな。魔族というのは親切にしているときに突然殺しに来る。そういう生き物だ。こいつらがそうではなくなったのは理解するが、本質的に猫かぶりがうまい種族なのは変わらないぞ」
よく分析してるよ……魔族はそういう生き物だ。
フレンドリーにやってきて油断したところを殺す生態だからね。
なんか、突然スイッチが入るというか、思考が本能にゆがめられる感じで、熊とか虎に近い精神を持っている。そういう理性が殺人衝動に負ける存在だった。
まあそういう肉食獣の本能は私が消してやったんだけど。
「猫かぶりが好きな種族なのは否定しないよ。それは正しいね。でも今はそれでうまく行ってたらわざわざそれを台無しにしないだけの理性はあるんだよ」
「ああ、さっきからのやりとりでだいたいわかった」
ナーウルェンがこっちを見てニヤニヤしていうのを聞いて、ローランがリラックスしたように笑った。
「そうか。ナールウェンがそういうならそうなんだろうな。安心したよ。イブキもすまない。ナールウェンは言い方がキツイだけで、決して横暴ってわけじゃない。たぶんだけど、君たちのこともそれなりに気にかけているよ」
「フン、わかったようなことを言う」
道清が柔和な笑みで援護射撃する。
「すいませんね。何分、ナールウェンもヴェイルも魔族によって村を焼かれているものでして……」
「道清……」
「おや、そのくらいはコイツも解っていると思うがな」
「ですが二人とも。少なくともこのイブキさんは貴女たちの村を焼いた本人ではありません。それだけはただの事実です」
あー、やっぱ村焼かれ勢か。文字通り魔族に親でも殺されてる類いの。
だろうと思ったよ……
「ああまあ、そんなこったろうと思うし実際過去の罪は消えないとも思うよ。でも、何もお互い滅ぶまで殺しあわなくてもいいんじゃねえの、とは思う」
道清がうなずいてる。ローランは微笑んでいるし、女二人は嫌そうな顔してるな。
けど、ナールウェンは仕方ないって顔だ。
ヴェイルはマジで嫌そうだな……
「今は共通の敵がいるんだから、せめて見て見ぬふりとかできない?だから、ローランの協力しようって話自体はちょっとうれしかったよ」
酒のみたいな。こんな面倒な話は嫌なんだよ。
酒作ったわ。コップに入れて飲んでこ……
「ああ、僕もそうできたらいいと思う。お互いに憎しみはなかなか消えないだろう。でも、剣を取らずに済む未来を探したい。そこでは一致できると思うな」
「そっか。まあ、時間が解決してくれるしかないんじゃない?」
「そうだね、今回の作戦がそれを早められたらいいと思うよ」
あー、こいつらなりに大義はちゃんとあるんだな。
てっきり政治的なおかざり勇者かと思えばちゃんとしてるじゃん。
「……ところで、両替ってできるかい?金貨とかしかないんだ」
「物々交換か、魔力で支払ってね。ミスラ札を魔力で買うのはできるから。ちなみにレートは千ミスラで良い飯が一食分くらい買えて、そんでもってそれはバレットの魔法百発分くらいね。お金足りそう?」
「足りるよね?ナールウェン、道清」
ローランは申し訳なさそうに二人を見る。これはわざとチャラけてるな。
気遣いができる勇者だ……
「私を誰だと思っている。その基準で言えば私は二十億ミスラは軽く出せるし、なくとも兵を養わせるだけの魔法はある」
「私は五億ミスラほどですね。十分でしょう」
私でも手持ちは十億くらいだから、やっぱ本当に強いんだなこのチビエルフ。
まあ魔法は量だけじゃないけど、それに見合うだけの技もありそうだし。
個人で国家予算規模の魔力持ってるの怖すぎだろ。
「じゃあまあ、後は楽しんでね……」
「おい待て。出征式の後はどうせ暇だろう。その後で親睦でも深めるためにゲームでもしながら飲み会をしようじゃないか。お前のオトモダチも呼んでこい」
「あんた本当にめんどくさい女だよ」
最後の最後までウザがらみしてきやがる~!
こっちがボッチ種族なのを見切って予定を入れてきやがる……!
断ったらそれはそれでごねる姿勢だしさあ。
さっさと戦場に行ってくれねえかなあ~!