グレートジャーニー   作:照喜名 是空

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出征式②

舞台の上に駆け上がった私はアダマスに指示をする。

 

「イシュトアン様に指揮してもらえ。後は任せるわ」

「お前は?」

「ミスラ!ユノ!やろう。対バンだ!」

ミスラとユノが慌てて飛んでついてくる。

アダマスは私の護衛をイシュトアン様に命じられたらしい。

 

「いつもだけどいきなりすぎるじゃない?」

「あはは、今日は気合入れていかなきゃですね……」

「おうよ、いきなりで全力だ。派手な開幕にする」

「わかったわ!」

 

ミスラたちは私の後ろでベースとドラムをセットし始め、アダマスは私を守る位置につく。

アダマスをここにつけとくのは惜しい気がするが、護衛つけとかないとそれはそれでセレナに殺されるし。

私は『拡声』を使ってセレナに声をかける。

 

「ヘイ!セレナ!久しぶりだな呼んでねえよ帰れ!」

「久しぶりねイブキ。いえ『怪物の王』と呼ぶべきかしら?化物共が人間と練り歩いている。おぞましいわね」

 

空中で数百の軍勢を後ろに引き連れて、ますます邪悪な覇気が出てる気がする。

いや、明らかに魔力が多いわ。

それにしてもみんなが鬼になったことを擦ってくるじゃん?

 

「頭の調子はいいみたいだな、お前がやったんだろ」

「でもあなたもいずれそうしたでしょう?そこにあなたの言う『選択の余地』はあるのかしら?共存、平和、愛と友情。すばらしいわね。……それは本当に『彼らの選択』なのかしら?あなたが作った『理想の共存』は、ただの『管理』なのよ。それってロックなのかしら?自由なのかしら?」

 

痛い所突いてくるじゃん?でも私がそのことについて考えてないと思ったか!

 

「魔王様の忠犬は言うことが違うね。ロックの本質は『それ』だよ。魅せられた奴の負けなんだよ!」

 

私はギターを軽く鳴らす。ここからの一手もミスできない戦いのゴングのように。

 

「なら、始めましょうか。作られた怪物と、自然の獣。どちらが正しいか」

 

セレナも真っ白い羽ギターもって答えるように鳴らした。

私の黒に炎模様のギターに対抗してんだろうね。良い音してんじゃねえか……

だが先手はもらった!

 

『夜明けを目指し進め、立ち止まるな!

どれだけ傷が増えても、行けるところまで行く!

自由をこの手に!私が覇者となる!その旗を掲げよ!

自分を偽って信念を捨てるくらいなら、死んだ方がマシだ!』

 

自分で歌っといてなんだけど覇者、か……

私の意思で戦争やるんだからこのくらい言わなきゃダメだろう。

歌に乗るように皆が攻撃を始める。

ナールウェンの魔法やローランの剣はもちろん、イシュトアン様やらバーゲンティの自動砲台やらが火を噴く。

遠目からでもいい連携に見えた。さあ、相手のターンだ。

 

『反逆者共よ頭を下げろ! 言え! 誰が魔王かを!

言え! 誰のおかげで生きていられるのかを!

人間共よ、獣の美しさを理解するか? 血濡れの牙の美しさを!』

 

おっと、ゴリゴリに正統派なゴシックメタルをぶつけてくるじゃん?

普通にうまいんだわ。飲まれそうな空気を私が立て直す。

魔族も、鬼も、人も今は戦争の熱狂に完全に飲まれていた。

これ私たちが30秒くらいでそうしちゃったからな。

責任を感じるぜ……だからこそ腕がなる!

 

『鉄槌を下せ!正義執行!問答無用!

俺たちは戦わずに滅ぶ気はない!

自由か死か。どちらかしか選ばない!』

 

こっちも演奏のパワーじゃ負けてない。骨太なスラッシュメタルでお返しする。

ここで間奏か……さあどう出る?

 

「うふふ、私の新しいバンドメンバーを紹介するわ……裏切りの魔女リリム!」

「はぁーい。人間側に寝返るなんて、あんたたち中々クールじゃない?でも私のベースもなかなかクールよ?」

「ミスラ!やり返せ!」

「えっ私?え~?でもリリム、あなたは前々から気に入らなかったのよね」

 

紫髪に褐色肌のなんかワルそうな女がねっとりとベースを演奏する。

お返しにミスラが演奏をするが、うーん、壮麗さに呑まれてんな。

なんか怪しいメロディで人間側の雑兵が数十人発狂してる。

それをミスラの錬金で作った『人形』が抑えていた。

 

「破壊卿メフィウス!」

「これはこれは、お初にお目にかかります。いいですねえ、ライブ。この生命の儚い美しさ……今すぐにでも壊したい!」

 

爆破魔法でドラムを奏でやがる。人体が血しぶきになるからこっちが冷めるんだよね。

 

「う~ん、美しい……やはり生命は爆発です。爆発する瞬間にこそ破壊の美がある……」

「ユノ!お前のドラムを見せてやれ!」

「はい!」

 

ユノが全く同じ爆破魔法で人鬼連合軍の進む先を広げてやる。

もちろん、魔族を爆破してだ。

その上で普通のドラムでメフィスの爆破ドラムを完全にコピーしながらもよりパワフルな演奏にして返す。

 

「私だってやればできるんです!」

「おお、いいですねえ。美しい!さあ、盛り上がってきましたよ、愚昧の賢者、ヴァハシュ様?」

「うるさいぞ、メフィウス。フン……イシュトアン、貴様はそっちについたか……お似合いだな。児戯だぞ」

 

キーボードを鳴らすなんか汚いおっさん。

哲学者風っていうのか、ローブを着てる。

それだけで魔族軍が統制を取り戻し、魔法を撃ち始める。

 

「ヴァハシュ、やはりおぬしはそちらについたか。……是非もあるまいよ。砕け散るがよい。壊せ、『国崩し』!」

 

イシュトアン様が魔方陣を筒状に多重展開して砲身を作る。

これがピースメーカーをイシュトアン様用にカスタマイズした荷電粒子魔法だ。

ごん太ビームが魔族共を焼き払う。

そこにできた隙にナールウェンがすかさず魔法を撃ってアシストしていく。

うわー、まるで花火パーティーだよ。まぶしすぎる。

 

「……おぞましきは、やはり知恵……」

 

それでもヴァハシュの防御魔法でわりと防げてるのがすごいね。

くそっ、セレナが先に歌を続けやがった。

 

『魅入られし愚かな民よ、悠久のこの身は忘れない。

愚かな人の歴史を。命の善悪を語る傲慢を。

濁ったその目を焼いてやる。

荒ぶる炎で、死の風で、残酷な幻想はお前たちを滅ぼす』

 

人間たちがひるんでいやがる。疑心を植え付ける退廃的な歌だ。

ええい、しかたねえな。

 

『人よ共に行こう、我ら違う夢を見て同じ空を仰ぐ!

掲げよ、胸の誇りを。それだけが我らをつなぐ鎖。

無限に繰り返す痛みから、物語を取り戻せ!』

 

ここ一拍置いて、まだ見ぬ魔王に向けて魔王領の方に指をさす。

 

『最初に物語を始めた魔王(ヤツ)を覚えているだろう?怒りをたたきつけろ、すべてはその時のために!』

 

こっちの軍は統制を取り戻して、怒りに狂奔したように鬼気迫る突撃を始める。

こっわ……勇者とかあそこまですごい斬撃だせるの?

目の前に道ができてるじゃん。

鬼軍は鬼軍で『ピースメーカー』の一斉掃射でまさに鉄の雨って感じだし……

 

『ならばさあ踊りましょう。

これは昔からの物語、いつでも変わらない、終わりなき歌劇!

さあ、首を並べよ。

剛毅なる聖剣、堅信の証、世界樹の杖、闇夜の刃。どれも届かない』

 

名指しで勇者パーティーをディスってきやがる。

くそ~、こっちの勢いが鈍るな。やっぱ。

 

『夜明けをねじ伏せよ!この劇を終わらせるならすべてを許さない』

魔族軍、もう二桁くらいだけどまだまだ元気いっぱいに突っ込んでくるじゃん……?

うわー、血がたぎる戦いだけど被害ハンパねえよ。

ここでもう一つ『拡声』の魔法がナールウェンの方から鳴った。

 

「貸せ、選手交代だ。出征式で歌う約束だろう」

「今!?そりゃ歌えるんだろうけどさ!」

「エルフの本気の音楽というものを見せてやる。……『天上の音楽を奏でる魔法』」

 

道清の結界に守られたナールウェンは杖をなでると、それが一瞬にして曲がってハープに変わる。

 

「さあ、魅せてやる」

 

天上というか、あの世でなってるような音楽だと思う。

余りの壮大さに宇宙が見える。

 

ママの言ってた昔話でしか知らないキンキラの大仏が見える。

そこはきっと南の国だ。美しい熱帯の花と微笑む女よりも女らしい美少年たち。

ああ、これがタイランドってところかあ……

 

こんなにも壮大で、神秘的で、宇宙のように大きいのにあまりにも優しい声だ。

これが、母の愛……? いやこれおばあちゃんが孫を膝枕するやつだ。

アタシは釈迦の手のひらの上というものを初めて体験した……

 

「では、私が貴様らクソガキに喝を入れてやろう。準備はいいか?準備は良いか!」

『戦いに備えよ!!』

 

シャウト、なのだろうか……? あまりにも美しく激しいシャウトだ。

それは火山の噴火の如き怒り。けれど、一つも悪意がない。純粋な戦意。

 

『ともに大地と一つになれ!ここは我らの守る地!』

 

なんか人間側からウォークライが返ってくる。

 

『今こそ我ら奮い立つとき!』

 

なんだろうこれ、たぶんエルフの伝統的な戦歌だよね。

シンプルなのに、すごい原始的な血の高まりを感じる。

 

『そうだ我らエルフ!我ら心あるもの!我らが今から天にささげるものがある!!』

 

ナールウェンはハープを杖に戻して地面にどすんどすん突いて高く掲げた。

 

『奴らの首だ!!』

『ウオオオーッ!』

 

なんか……あっというまに人間たちが正気に戻って……いや、さらに狂奔して魔族を血祭りにあげ始める。

 

「あら……どうやらそろそろお終いみたいね。それじゃあ……ごきげんよう。またすぐに会えるわね?」

「うるせえ帰れ!」

 

ウッソだろおい……セレナは幻影だった。

奴のバンドメンバーは転移魔法で帰ってる。

これ、私もこれを解析して幻影を中継して毎回対バンしなきゃいけない感じか?

マジかよ~……!勘弁してくれよ!

 

私はこれから先の戦いの激しさを覚悟した。

けれど、現実はそんなものを飲み込むような巨大な流れに飲み込まれつつあった。

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