あれから五年。
戦争は変わった……
今やミスラの『人形』の代わりに鋼鉄の巨大騎士がガンガン出撃していく。
でも、私たちのいる首都は信じられないほど穏やかな日々が続いた。
前線では人鬼連合軍はわりと生き残ってるが、魔族はバタバタ死んでるらしい。
なんかもう明らかに未熟な兵も出てきてるとか。
知りたくねえなあ……そういうの……
……戦争は変わった。私たちにも理解できないものになった。
私は酒の量が増えたと思う。
セレナについては、なんかだんだん愛の歌が増えてきたなーおっかしいなーと思ってたら……
なんか例の洗脳人間軍団の少年となんかたびたび公の場に出てくるようになった。
お前おねショタしたんか! それとも少年が角折り名人で解らされたのか……
なんか……セレナが懐妊したという発表、そして出産から子育てまではもう目も当てられないほどのろけた歌を歌ってたねあいつ。
人間ってスゲーとアタシは改めて思った。
ていうかどんな改造すれば人間が魔族を孕ませられるんだよ。
何したんだよアイツ。どうかしてるよ。
それが終わったのも唐突だった。
なんかアイツの息子が幹部に内定、天才児だ、とか言われ始めたあたりで……
一家まるごと暗殺された、とか向こうのラジオで報じられてた。
それが昨日。
きっと勇者たちがやったんだと思う。
スターステイツは戦勝ムードで大盛り上がりだ。
まあその後のあっちの放送は大混乱で続報はないんだけど。
……いや、本当にそうか?私はふと、思いついてしまった。
息子にはおそらく補助脳が感染しないようにしたはずだろう。
つまり純粋な魔族の脳だ。
そして息子にとっては父親は人間の肉体を持っている魔族だ。
ならば……おそらくは、セレナが目にしたのは父を殺す息子。
そこに入ってくる勇者……
哀れだと思った。
けれど、人の悪意と魔族の殺戮本能を選んだアイツがまさにその悪意と本能によって滅ぶのはきっといつか起こりうる必然だったのではないか。
だって旦那と息子と三人で血の池風呂に入ってる写真とか出してたんだよアイツ。
戦場での悪逆非道も耳に入ってるしさ……人の事は言えないけどね……
ああ、悪党の最後ってこういうものかと私も覚悟して……大きくため息をついた。
ろくでもないやつだったけど、こういう死に方されるとつれえわ……
とても耐えられねえ。酒飲む。
そうだ、今日は勇者パーティーとの定期通信だ。ちょうどいいから聞いてみるか。
「……おう、調子どう?」
転移鏡に映る勇者ローランはいつものイケメンスマイルだが、くたびれた感じはある。
「ああ、大丈夫さ」
「あー……セレナ死んだんだって?やったの?」
「……そうだ」
「……息子、どうなった。っていうかさ……魔族だったんだろ」
「……ああ。お察しの通りさ」
そこにナールウェンが割って入る。
「ええいまどろっこしい!貸せ!ああその通りだ!セレナは夫ともども息子に刺されて夫は死んだ。あいつは息子を殺した後狂ったように笑って逃げ去った!これで満足か」
「……悪い。一応大統領として知っとかなきゃだしさ……」
「それより貴様、まさか例の『切り札』を盗まれてないだろうな?」
「おい、マジかよ……今確認するわ」
……盗まれてたよ。あ~!終わりだよもう!!『核』だもん。
家族失ったセレナが持ってたんだからもう終わりだよ。
そうだよ核爆弾だよ!できちゃったんだわ。
「もう使われちゃった感じ?毒は大丈夫?」
「セレナを撤退させるためにリリスが自爆したよ。あのバカ、『ここで裏切らないのが最高の裏切り』だとさ……」
「……」
「ついでに言うと、愚昧の賢者ヴァハシュは毒で死んだよ。『知恵がなければ生き残ることすらできない』とさ。破壊卿メフィウスは『最高の美の後には何も残らないものだったとは』と笑ってたよ。アダマスとの美学論争にはケリがついた。ヤツの命ごとな」
ウワ~!聞きたくもねえ!私の作った核、恐ろしすぎるだろ。
ちなみに、結局アダマスも前線に出さざるを得なかったから向こうにいる。
私が何を言うべきか考えてると、やつれた道清が咳き込みながら笑った。
「色々思う所はあるでしょうが今は報告を……もう完全に解毒はしました。あなたの作ってくれた魔力ポーションのおかげでなんとかなりましたよ」
「そっかあ……」
放射能って解毒できるもんなんだ……道清の祈祷スゲエ~。
ヴェイルの声が後ろでするな。だいぶ疲れてる声だわ。
ちなみにこの子、アダマスとデキてるんだって。
魔族嫌いのくせに絆されてやんの。
やるねえ、あいつ……そっか。うん、仕方ない。幸せになれよ……
「……けど、魔族共は変わらなかったよ。指揮官がいないからやみくもに突っ込んで死んでいくだけ」
ヴェイルはうんざりした様子だ。私ももううんざりだよ……
だろうね。魔族は変わんないだろうね。勘弁してくれ。
ヴェイルが押しのけられてまたチビエルフだよ。
「おい何を呆けている。わかっているだろう?どうする。もうアレはセレナでも作れる。ならば世界最高の魔法使いである私にももう作れるんだ。お前がやれないなら私が『やる』。私はできる。魔王領をすべて焼き払うなんてな。お前が選べ。誰がやる?」
私は深くため息をついた。
「やろう。今すぐ準備するわ」
「……ああ、終わらせよう。いつ来れる?私はすぐにでもやる気分だ」
「三日待ってくれよ……」
「腹をくくれ。早めにな」
「ああ」
マジか~……マジか……やりたくねえ……
私だって世界に火をつけたくないんだよ。
いやだって……核だよ?それも何十発だよ?さすがに私も手が震えるわ。
でもやるしかねんだ……そう信じることにして、私はもう一杯強めの酒を飲んだ。
これ飲んだら……伝声管で非常招集をかけよう。