グレートジャーニー   作:照喜名 是空

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魔王②

私はすべての魔力を使って『振動』の魔法で音を奏でる。

ギターをリードにまずは半径五キロ。地平線までの掌握にコンマ二秒。

そこから可能な限り広げていく。

どこまでも広がれ! この星を食らいつくすほどに!

 

「ほう、勇ましい曲じゃのう。それで、どうする?」

 

この新しい『楽器』の演奏はすでに慣れている。五年あったからな。

今ならバックバンドなしで音楽でだいたいの生き物は感動死させられる。

だが、こいつには、この星の意思には効かないだろう。精神性が違いすぎる。

 

「こうするんだよ!」

 

この場の全軍一人一人に私の耳打ちが響く。

 

『道清、今のうちにステイツと連絡を取れ。できるだけ多くステイツのやつらをこの場に連れてこい!』

『ナールウェン、あんたもこれできるだろ。指揮をたのむ』

『ローラン、その聖剣、女神からのプレゼントだろ。何か仕込まれてるぞ』

『アダマス、ローランに剣を作って渡せ』

『ヴェイル、この戦いを始めた最初のヤツに怒りをぶつけろ!』

 

そしてナールウェンにより精密に組まれたそれぞれの攻撃が魔王に殺到する。

空間を切断する勇者の剣が。原子単位で分解する魔法が、時間のゆがみが。

ありとあらゆる物理攻撃が何百発も『試行』される。

 

「だめだつまらん。物理攻撃が効かんぞ」

 

ナールウェンがしれっと言いやがる。神に対して平然と撃てるのは頼もしいね。

 

「母より生まれたものが母に効く道理がないからのう。ならば、そろそろゆくぞ?」

 

魔王が足を振り上げ、地面にたたきつける。それだけで地面が立ってられないほどに揺れた。

鬼は全員とっさに飛んだが、人間たちのほとんどが一瞬バランスを崩す。

 

「そうれっ!」

 

うおっ、すげえ竜巻……それぞれが防御結界を使ったりで空中の死のミキサーを耐え忍ぶ。

地面の人間たちには猛烈な雨による洪水。さらにたたきつけるような吹雪まで降ってくる!

 

「誰一人逃がさんぞ。この手を離れるくらいなら食ろうてやる」

 

今度は重力魔法でたたきつけられた! とんでもない重さだよ。

さらに水面に落ちたら落ちたで殺人ピラニアが食ってくる! 空には人食いイナゴだ!

 

「アダマス!」

「ああ、問題ない」

 

だが、早い段階でアダマスが全軍を『硬化』させ、攻撃が止むと同時に『硬化』を解除する。

そして戦線にそれぞれ復帰を始める。五年間戦い抜いたやつらだ。面構えが違う。

そこにようやっとスターステイツからの援軍が到着したが……

 

「これは……」

 

イシュトアン様は黙り。

 

「あわわわ、とんでもないことになってるじゃない……」

 

ミスラは震え。

 

「これが……魔王様……こんな。こんなことって」

 

ユノは恐怖にすくんでいた。

私? 私自身はこの状況で演奏するので精いっぱいだ。今やめればみんなパニックになるだろう。

それでも人間たち生きてるし、鬼たちは魔法使いまくってイナゴやピラニアに対処してる。

秒で荒れた天候が元に戻っていく。でもここからどうする!?

 

「はーっはっはっは!これがこの星の意思じゃ!この母はこの星すべてを操る権利がある!この星すべてが母なのじゃから!」

 

くそっ、どうする……それでも、それでも私の心はまだあきらめていない。

何か、何か手はねえのか!

 

「お前たちは所詮、母にすがる子に過ぎん!母なくして、何もできぬのじゃ!おぬしらの母にすがる祈りがここまで母を強くしたのじゃ!」

「うるせえ……うるせえよ!じゃあ私を操ってみせろ!やるか?やったらあんたは口じゃ勝てないってことでいいか?!」

 

ほとんど強がりだ。これで操られたら負けだ。

魔王が何か言いかけた瞬間、道清が立ち上がった。

 

「……女神様。あなたからいただいた聖典にはこうあります。『すべての生き物には生きるためにあがく権利と義務がある』と。そしてあなたは今……実際に私たちを直接あやつれなかった。そして私たちの祈りがあなたの力になるならば……」

 

道清……おまえ、お前も女神に反撃してくれんのかよ。

僧侶のくせしてよ……マジかよ、かなりうれしい。

勇気が湧いてくる。最後まで立ち向かおうって気がムクムクわいてくるぜ!

鬼も人も魔法使いまくって吹雪が止んできた!よし!

 

「もしも、我々のすべてがあなたを拒絶すれば……あなたの力をある程度そげるのでは?」

 

真っ先にヴェイルが魔王にナイフを突きつけた。村を焼かれた女だ。さすがだよ。

 

「私は……私はあなたを許さない!魔王!私の村を焼いたあなたを……!」

 

ヴェイルの殺気を込めた目に、魔王は困ったように笑った。

 

「はーっはっはっは! 何を言うかと思えば……この場のすべてが心から母を拒否したとて、そんなものは大海の一滴にすぎん」

「なら、鬼を含めた『人類』全員での多数決投票ならば、どうであろうな?」

 

イシュトアン様がぽつりと言った。その上でイシュトアンさまとナールウェンが目くばせしあって一瞬ですさまじい術式をくみ上げる。

それはただただ広く……この星すべてを覆いつくすだけの術式。

それ自体は空っぽで、ほかの術式を広げるだけのもの。

私はそこに『拡声』を重ねる。

 

『あー……みんな、聞こえるか。私は鬼の大統領……スターステイツのイブキだ。今、目の前に魔王がいる』

 

そこにナールウェンが『翻訳』を重ねる。

 

『いま私たちは魔王と戦っている。応援してくれ。頼む』

 

声が……声援が聞こえる。これ双方向なの!? すごくない?

さて、じゃあいっちょやりますか。全世界が相手の晴れ舞台だ。

 

『ありがとう。けどバッドニュースが一つ。魔王は、女神様だった。全部、自作自演だったんだよ! 全部女神の暇つぶしだ! 私たちがこれまでした戦争の、何万年の戦争の全部が! このアホ女の娯楽だった! それだけのためだけに私たちは死んでいった!』

 

魔王はまだ余裕のほほえみのままだ。その顔青ざめさせてやるぜ。

 

『けど、今……私たちは選択できる。女神に力を与えてるのは私たちの祈りだ。なら……女神を拒否すれば、魔王を殺せる! 今……そういう術式を作ってる』

 

ここで一息吸って、すべての願いを込めて叫ぶ。

 

『だから、女神にリコール要求だ! この私、スターステイツ大統領山田イブキが宣言する!』

 

もう一声!

 

『選べ! 女神のおもちゃとして生きるか、神を殺して自由になるか! 二つに一つだ! ……清き一票を』

 

鬼側からは大歓声が聞こえるが、人間側の声は困惑と祈りだ。

誰かの発した『女神様、どういうことですか……?』という声に同じような疑問の声、『本当なんですか……?』という声が重なり、嘆きになる。

 

「だとさ、答えてやれよ! 女神さんよぉ!」

 

今度こそ女神は呵々大笑した。

 

「はーっはっはっは!何を言うかと思えば……何度も言わせるでない。ここはすべての生命が輝くための試練の場じゃよ?母は心から人の子らを愛しておる!そのために試練を与えるのじゃよ。むろん、魔族も人が輝くための駒じゃった。じゃがな、母は魔族が己の意思で人になってうれしかった!試練に挑む者、鬼になって感動した! そしてその愛はおぬしら人の子らにも等しく注がれているのじゃよ?」

 

オーディエンスはドン引きだよ。舞台の上では私に分があったようだな!

人間の嘆き、鬼の怒りが壮大な怨嗟となって女神を襲った。

だが、それでもヤツは笑顔だ。むしろ心地よさそうですらある。

 

「んん~何度目のネタバレじゃったか。何度聞いても怨嗟の声は輝いておるのう!」

「見ろ!これが女神の正体だ!さあ、どうする?」

 

だんだんと怨嗟の声が私の名を呼ぶ声に上書きされていく。いいぞ……

 

「た、大変なことになったじゃない……でも誰がやるの? 投票なんて」

 

ミスラが他人事のように言った。

おいマジかこいつ。お前の契約魔法の応用じゃなきゃできねえだろそんなん。

 

「お前だよ!お前がやるんだよ!」

 

私は上空からミスラを指さす。おー、慌ててるね。

 

「なんですって!? わ、私が?!」

「この場でそんな大規模な契約魔法をできるのはお前しかいねえんだよ!」

「でも『契約』は秩序を守る魔法で……!」

 

だろうな!お前お人よしだもん!でも今は納得してくれよ!そもそもこの戦争自体が反逆なんだよ思い出してくれ!

 

「ならばその法を敷くのは社会との契約であろう。今回はあちらに瑕疵(ミス)がある。我が国の法は契約制だ。おぬしはあやつと契約(サイン)を交わしたのか?」

 

ナイス!イシュトアン様がフォローしてくれたよ。

ミスラは手を打ってなんか納得してた。

ここだ!畳みかけろ!絶対に選挙を成立させる!

 

「それとも何か?自信ないのか?女神様よお!さんざん大口叩いて宗教始めておいて信任されるか自信がないのか!?逃げんのか!」

「よかろう。ならばこれで負ければ相応のものを払ってもらうぞ?」

 

誰にものを言ってやがる。私はロックンローラーだぞ。

ノーフューチャーなんだよお前のせいでな!

 

「うるせえ! 命もかけずに戦争やれっか! 私の命を賭けてやる! 契約成立だ!」

「え?えっ?!け、契約が本当に成立しちゃったじゃない……なら、やるしかないじゃんね!やってやるわよ!」

 

ナールウェンが成立させた全世界中継の魔法にミスラの『契約』が乗っていく。

ミスラは珍しくキリッとした顔でそれを制御する。

なんか……月よりでけえ幻影の天秤が空に見えるよ。

片方に女神のシンボルの羽、片方に私のシンボルらしくギターのピックが乗っけられている。

 

「じゃ、待ってても暇だろ? 一曲いこうか」

「なっ、なんじゃと!?」

 

私はこんな時のため、魔王と戦う時に戦意高揚させるための歌を作っていた。

それは、反攻の歌。あらゆる生物が滅びに対して抗ってやろうという勇気の歌。

あらゆる人々に伝えるために歌詞はない。けども、だからこそ雄弁に伝わる。

 

『抗おうぜ』

 

このたった一つのメッセージが。

 

「うわっ……すごい勢いで天秤が傾いていくわ」

 

ミスラが呆然と言った。

 

「女神様……人生で初めて、あなた以外に祈ります」

 

勇者が静かに祈り、私の歌にハミングで加わった。

 

「私だって……私だってできることがあります!」

 

ユノがドラムをたたき始め、ミスラも慌ててベースで加わり始める。

いいね、スリーピースバンドだ。最初を思い出すよ。

 

「祈りか……これが、力になるのならば俺は初めて祈ろう。お前の道に立ちふさがるすべてを壊せるように」

 

アダマスも祈りに加わる。

 

「女神様……あなたを信じていました。けれど、すいません。私は試練ばかりの世界よりも、もう少し自由な世界がいいらしいです」

 

道清がハミングに加わる。

女神は笑顔から目をむいて驚愕の顔になった。

 

「な!な!インチキじゃ!こんなのインチキじゃーっ!」

「ならあんたもやればいいじゃん? やれるもんならな」

 

一瞬、歌が途切れるタイミングで思い切り煽ってやった。

 

「ふざけるな!母は、神は敬われ、歌をささげられるものじゃぞ!」

「だってよ!子守歌も歌えねえ奴が母を気取るんじゃねえよ!見たか!これがこいつだ!こんなヤツなんだよ!」

 

ここでガクン! と天秤が傾く。

魔王の体から力が抜けたらしく、膝をつく。

 

「馬鹿な!こんなバカなことがあるわけがない!」

 

ぶるぶる震えてやがんの。ざまあ!ざまあこの野郎!!

数百年の怒りがすっきりしたぜ!

 

「そうか……そうか。ならば……」

 

そして、見上げた顔は……恐ろしい笑顔だった。化物の顔だよ。

 

「……ならば、お前には義務がある。これが母がお前に与える試練じゃ!」

「ま、待ちなさい! まだ投票途中よ!?」

 

ミスラが叫ぶが、知ったことじゃねえ。いいさ、食らってやる!

これでこいつから世界を奪えるんならな!

魔王が私にとびかかり、アイアンクローしてきやがる。

頭が、いってえー!!くそっ、第四補助脳起動!

洗脳か? なんだ? 何をする気だ?

 

「お前が成した事が何を生むのか……お前は見届けねばならん。お前は生きよ」

 

ぞっとするほど平坦な声だった。

 

「ひえっ……投票中での攻撃は『契約違犯』よね?!あわわわ、すごい魔力が私に来るんだけど」

 

どうやら『契約』の魔法は今の攻撃を『違反』と見なしたようで魔王からすごい勢いでミスラに魔力が徴収されている。

私はさっきの攻撃で、魔王はミスラからの徴収で、ダブルノックダウンだ。

誰か、味方に引きずられて離されてる感触。この感じは……アダマスか。

 

「逃げるぞイブキ。ナールウェン!今だ!何か封印を!何かあるはずだ!」

「あっ……投票結果、出たわよ。うぐっ!?うえええ……!魔力が多すぎる……! た、たすけて」

 

ミスラが吐いてる。そうだ、今なら、今なら神を殺せる。演奏を……!

ユノが、継いでくれてらあ……

 

「貸せ! その受け取った魔力を私に『融資』しろ! できるはずだ!」

「スターステイツ宰相としてイブキの代わりにワシが裁可する。特別臨時予算としてその魔力をナールウェンに貸す!緊急事態法4条1項だ!やれ!ナールウェン!」

 

イシュトアン様とナールウェンの声がする。魔力が……とんでもない魔力が集まってきてる!

 

「ぐっ……!星の意思よ……我らが大地、我らが母よ。あなたを封印する!!」

「ははは、はははは……エルフの娘よ。お前が母と言うてくれるとはな……くく、くくく……」

 

ナールウェンのなんかすごい詠唱でどんどん魔王の自由が失われていく。

たぶん精神に干渉する封印魔法だ。ものすごく意識の速さを遅くするとか、永遠に近く眠らせるとかそういう多重封印魔法……

無数の鎖にまかれていく魔王は、私の目を見ていた。

 

「くくく……よかろう、今ひと時は子の挑戦を認めようではないか。だがのう、我が娘よ……お前は知るじゃろう」

 

まるでマグマみたいな目だ。

 

「痛み無くして生命は輝かんという絶対の事実を!」

 

地獄みたいな声だ。

 

「その時、お前たちは母の試練を思い出すのじゃ……」

 

私は、それにこたえる気力はなく、それでも目の前でぐるぐる巻きにされていく魔王に中指を立てて意識を失った。

 

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