グレートジャーニー   作:照喜名 是空

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ラストライブ前夜

魔王討伐から数日たって私は目を覚ました。

体やら脳には異常がないらしい。洗脳もない。

ただ……髪が真っ白になっただけで、むしろ体は調子いい。

ナールウェンやイシュトアン様が解析したら、長寿の加護に近いらしい。

鬼にはもともと寿命はほぼない不老種族だけど、これで病死もなくなった。

……下手したら、不死身にもなってるかもしれない。

 

結局、結論としては『死なずにこの後を見ろ』という事だろう。鬱だぁ~……!

ミスラは『お姉さまはもう休んでちょうだい……!私たちがなんとかやってみるから』だって。成長を感じるね……

 

でも政治的にはそらもうややこしかったよ。

でも結局イシュトアン様が『イブキ、おぬしが世界中でライブをするのが一番の外交では?』って言われてまあその通りだなと思ったし、周りもやろうやろうってんで、ワールドツアーで異種族共存と世界平和をこう……訴える感じでライブしまくったよ。

 

まあ、楽しい旅だった。

色んな事があった。良いことも悪いことも。

今となっては良い思い出だ。

世界は広いね。特に東大陸の秋津国はママの故郷のニホンにすごく近かったし。

 

ステイツに帰ってきて首都ガッデムの歓楽街をこっそり見に行ったらすげえ面白くなってたし。

いや自分でつくっといて何だけど楽しすぎる街だわ。

ストリートファイトが推奨されてる時点でもうおかしな街だってわかるよね?

まあ殺戮本能のガス抜きのための街だからね多少はね。

ちなみに創作物や音楽、風俗と言った快楽目的の物はもうおかしなレベルだった。

アキバ魔法街とかナールウェンを連れて行っちゃダメなヤツだったし。

魔力浴温泉とか、ディスコとか。

ごますりカフェとかかなり笑えた。

ほら私ら元々人間を油断させて取り入って欺く生き物じゃん。

だから油断させるための行為が楽しいわけよ。

じゃあそれを平和的にやるとしたら?そう接待です。

私らは接待を受けるほうじゃなくってする方が楽しいのだ。

こう、店に入ったらやたら威厳のあるキャストが居てさ。

『さあ、持て成すが良い』ってドンと構えてくれるわけよ。

ほんで客がめちゃくちゃ媚を売ってごますりする。

するとキャストが『ほう、なかなか良い趣向だ。気に入ったぞお主の名は?』とか応じてくれるのよ。

人間からすれば変だろうけど、これメチャクチャ気持ちいいんだよね……

身を持ち崩すヤツが一杯出てるので、課金額に天井をつける法律つくっといた。

でも視察に行ったらマスコミにすっぱ抜かれてさ。

 

「本能に逆らうロックの姿勢はどこにいったんですか?」

 

とかアホな事言うから酒瓶で小突いちゃったね。

 

「あのさぁ~、私が人食いみたいな本能を嫌うのはそれが宿主である私にとってデメリットしかねえのに私を支配しようとするからだよ。とくにデメリットなくってコントロールできるもんなら娯楽の一つとして私の脳みそに居場所くらいつくってやるってだけだ。私が私の体の絶対君主であるのが大事なんであって、身の程をわきまえてる本能なら許すよ」

 

自分の中で数百回考えた議論だからいちいち言うのめんどくさいんだよね。思わず早口になっちゃったよ。

 

「そもそも私が禁欲主義者のアホに見えるのか?」

 

ウォッカがぶ飲みしながら言ったらなんか納得されたわ。

まあそれでも鬼って厚かましいからぐだぐだ言うんだよね。

恐怖も鈍いし、自分の中で正論だと思ったら何でも言う種族だから。

私もそうだけど。

結局私がイラついて暴れて、表通りまでぶん投げてやった。

いいパンチしてやがったよあいつも。

もちろんこれは合法だ。ストリートファイトOKの街だから。

まあ私が酒飲んで店を半壊させるのはいつものことなんで結果としてニュースにはならなかったからいいか……

 

飲みなおしでほかの店探したら、なんかサキュバスみたいな進化したやつもいたよ。スンごいね、プロのテクニックって……

この街、ミッドユーロの真人間を連れてきたら3日でダメになるわ。

 

だけどやっぱり気づいたのはステイツの音楽レベルメチャクチャ高くなってる……

私では思いつかなかったような斬新で良い音楽で溢れていたよ。

どこも面白い良い国になったと思う。

 

けれど、ときどきあの核の炎が頭をよぎる。

私は何億人を殺したのだろう。これでいいのだろうか?

教えてくれママ……そんな日は、酒が不味い。

 

 

あと遠征軍の帰還もあったね。

これは問題山積でさ……まず魔族の捕虜を取っちゃってた。

ほら、魔族は鬼の血で簡単に鬼族にできるじゃん?

むこうにもセレナがそれをわざと広めてて……わりと簡単に投降してきてさ。

その上そいつらセレナが使ってた『人の子を孕める魔法』を習得してて……

 

この流れは絶対に混血ができる流れじゃん。

実際、新しく鬼になったやつらと人類の兵士たちがデキてんだ。

 

ある日街を歩いてたら帰還した人間の兵士と女の鬼が家族つくってて……

なんか……子供ができてた……

『パパ~!』って笑顔で人間の元兵士に駆け寄る角付きの子供。

幸せそうに笑う人間の父親……これは引き離せねえわ……

絶っ対めんどくさいことになるよ~!オイまじかよ~!

 

その子供三歳になったら独り立ちするけどいいのそれ!?

ぜったい面倒くさいことになるよ~!目に見えてるよ~!

 

そう、しかも人類の帰還兵が帰らねえんだ。鬼と家族になっちゃったから。

その件に関しては勇者たちがすんごい頭下げていくつかこっちに有利な政治的取引まで出してきてきたからさ……容認せざるを得ないんだ。

 

「どうすんだよローラン!鬼と人の家族ってすんげえ面倒くさいことになるぞ!?三年で独り立ちする種族だぞ私ら!?ていうか乱婚制だぞ!?無理だわ!」

「すまない……本当にその件はすまない。けれど、皆には希望が必要なんだ。たとえ三年間だったとしても、完全に縁が切れるわけじゃないんだろ?」

「それでお前らは割り切れるのかって話だよ。つーか帰ってくれ頼むから」

 

ある日の戦勝記念公園でベンチに座りながらの会話だよ。

すんげえだだっ広くておしゃれな公園造ったんだよね。

ファミリーだらけだよ。人間と鬼の。

 

「それでもその三年間の美しい思い出が彼らには必要なんだ。……生きるためにね。金銭的にはこちらである程度の援助は取り付けるから」

「金の問題じゃねえんだよ~!単一民族国家に移民が来るリスクをご存じでないのかよ?!」

「……わかってる。この通りだ」

 

勇者様が公園で土下座しようとするなよ!勘弁してくれよ!

混血と移民は絶対にややこしいことになるって……

私の当初のデザインからずれるから、制度的に想定してねえんだそんなん。

問題が出ないはずがないんだ。

 

「それはずりいよ……わかった、わかった!なんとかするわ。けど言っておくぞ。セレナは間違いなくこうなることを狙って捕虜を取らせたし、混血させる魔法を広めたんだろうよ」

「……そうだろうね」

 

勇者の疲れ切った笑みは、実に説得力があった。

本当に悪意のある罠だらけだったらしいからね前線。

私は屋台で売られてた焼き菓子を口に放り込む。

 

「あいつすげえよ。最後まで悪意たっぷりだよ」

 

私は、ふと想像する。もしセレナが今も生きてたらどうなってるか。

間違いなく『思い出の中に生きる人』になってそうだな……

寂しい田舎の隠れ家で思い出のレコードを聴いたり写真を見たり。

『三人分』の食事を作ってはほとんど食べずに捨てたりしてそう。

それは、私が作った罪だ。私の選択が生み出した結果だ。

あいつが、このファミリーだらけの光景を見て何を思うか。

想像もしたくねえ。

 

死んでてくれ頼むから~!

 

 

まあ、そんな日々も今日で終わりだ。

これが終わればバンドは解散して……長期休養に入る。

大統領もイシュトアン様に任せた。

楽屋でギターのチューニングしてたらバアルが入ってきた。

ほら、食料大臣の。料理人のあいつだ。

 

「いやはや、すごいですねぇ。ラストライブですって?長い戦い、お疲れ様でした。あなたの始めた物語はエキサイティングで……なにより楽しかった。最後の晩餐というわけではありませんが、現役最後の朝にふさわしい一品をお持ちしましたよ」

 

なんだよ、こいつ今から退職しますって顔じゃん。

いいなあ~!私も自由になりたいよ。

 

「お前も店たたむ感じ?美食の旅とかするの?」

 

戦争中に大臣やりながらレストランやってたんだぜこいつ。どうかしてるよ。

 

「えぇ、えぇ。私の役目は終わりました。私が本当に作りたかったのは、勝つための料理ではなく、笑顔を作る料理ですから」

 

こいつの料理、私の回復ポーションと合わせるとえげつない回復効果あったからね。おかげで士気も維持できた。

 

「……お前がうらやましいよ。私も本当ならそういうポジションになるつもりだったんだけどな。でもまあ、私の始めた物語だからさ。最後まで踊り切るしかねえんだ」

「えぇ、えぇ。ならばあなたは『主人公』ですから。でもねぇ、私は『観客』として十分楽しませてもらいましたよ。これはそのお礼です」

 

皿に乗っかった蓋を開けると、そこにあったのはシジミの味噌汁。

でも、これは……ママの味を完全に再現してるように思う。

 

「……ママの味だ」

「私はね、生きるということは思い出を積み重ねることだとあなたの歌に教えていただきました。だからこそ、思い出の味をあなたにお出しすべきと思ったんですよ」

「泣かせることするじゃんかよ……おい、くそっ……泣けるなあ……なんで涙がどんどん出てくるんだよ……」

 

ダメだ、涙が止まんないよ……!ママ~!ママの顔が思い浮かんで何も考えられねえ……!

お椀が震えちゃうじゃん……

 

「……あなたの始めた物語、実に美味でした。敬意を表します。その涙は真に尊いものです。何を恥じることがあるでしょうか。人は真に美しいものの前には言葉を無くすのですよ」

「くっそ……うめえよこれ。本当に……おいしかったんだ……!」

 

舌が肥えた後でも……やっぱ美味しいじゃねえか、ママの味噌汁……!

ママ、私はこれでよかったのかな。ママのおかげでここまでこれた。

あの世があるなら、ママはこれで笑ってくれてるかな……?

わかんねえよ。でも、あの味噌汁はおいしかったんだ……

それでいいんだ。きっと。

 

「では、しばしのお暇を。少し美食の旅に出ようと思います。あなたが音楽で世界を変えたように、私も『次の味』を探しに行きますよ」

 

控室には、私のぐすぐす鳴く声と、去っていくバアルの足音だけがあった。

 

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