そろそろ時間だ。前座の子の演奏が終わる。
うん、やっぱ二十年くらい文化が進んでるわ。私の音楽はもうちょっと古い。
実際観客の客層もすごく若い子は少ないし。
私の音楽もとうとう懐メロかぁ……引退には丁度良かったのかも。
「やーみんなー。帰ってきたぞステイツー!! お待たせ-!」
ワアアア、と歓声が響く。それが収まるのを待ってから私はMCを開始した。
「いやあ……いきなりキツいこと言うけど、私が最初に今のステイツだった場所に来たとき、なんだここつまんねえ殺伐とした街だなって思ったよ。でも……ここに来るまでのツアーで解った。お前ら、私の言ったとおり色んな光が溢れる輝くようなおもしれー街にしてくれたんだな。よく頑張ったよ。ありがとう。本当にうれしい」
ここで私は心から笑えた。皆に誇れる、とびっきりの笑顔を。
「お前らはもう大丈夫だ! 私が消えたとしても、歌は響き続ける! ストリングフリークスは今日で解散だけど……伝説のラストライブにしような!」
割れんばかりの歓声に、最前列に居た獣人が耳を塞いだ。
あー、ヴェイルか。おなか大きくなってるね。お前もかよ!
「じゃあ一曲目! これが私の道の始まりだ! 『黄金体験』!」
最初にあの奇跡のライブの曲を演奏する。
うん、盛り上がってるけどあの時ほどじゃない。
まあそりゃあ初見とヘビロテ曲じゃあこんなもんかもだけど。
「これが私の足跡だ! 『ロックの経典』!」
ヤバ女との協奏曲からレスバ曲の中でえりすぐりのを。
うん、盛り上がってる盛り上がってる。
けど……いつものって感じだ。
「こないだ私は自分の罪を数えてみた…公式記録だけで三六六件、満額で食らったら懲役二百八十年だってさ!私の年と同じじゃん!個人的なやらかしふくめるともうねえ!」
どっと笑いが起こる。これもいつものだ。
「だからさ、これも償いだと思ってしばらくは隠居するよ。私は自分の罪を数えた。さあ、お前の罪を数えろ。私が赦してやる!」
私は観客を指さした手をくるっと返す。
「さーこれで最後だ!『世に完璧な者はあらじ』私はもう、大丈夫だから!」
プログラムは順調に進行して最後の曲までやりきった。
ミスラとユノが息を弾ませながら笑う。やりきったな。私達。
「アンコール! アンコール!」
その時、私の頭にちょっとした思いつきが芽生えてしまった。
今この瞬間に死んだらすごいロックじゃない? と
でも今死ぬのはさすがに無責任だしなあ……
「アンコールは、そうだな……『滅びに抗うすべての魂の歌』!みんなで歌おう!」
魔王戦の曲がアンコールにはふさわしいだろ。
曲が終わり、大歓声と共に、最前列のファンが乗り込んでくる。
なんだ。ファンの鑑か。
私は抱きとめてやろうと腕を広げるが……
「イブキさん! そいつは……!」
おい、なんで最前列警備員にファンの鑑がいる。じゃあこいつは……?
ライブTシャツ「rock never dead」の文字が「rock now die」に書き換わる。
偽装魔法が解けて、その下にある顔は満面の笑みのセレナだった。
鮮やかな水色の髪は真っ黒になってたけど、わかる。ヤツだ。
お前かぁ~! あ~……まあ、ならしゃあねえわ。
泣きはらしたような目元ですごい安らかな笑顔するじゃん……
必要な言葉は短かった。
「死んでくれる?」
私は引き続き腕を大きく広げて笑った。
「やれよ」
魔弾の音。
「ありがとう」
あー……これは心臓イッたね。力入んないわ。私はゆっくり後ろに倒れ……
目をつむる寸前に見えたのは、母親の手を握る幼子みたいに柔らかな笑顔で自分のこめかみに手を伸ばすセレナ。
「ぱん」
お前が地獄への道連れかあ……っていうか私死ねたんだ。まーわるくない、や……