グレートジャーニー   作:照喜名 是空

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第一部エピローグ

ん……ここは……?

港町、かな。潮風が吹いて、私は港の一角にあるカフェに据わってた。

あれぇ? 夢だったのかな。

 

「おつかれ、イブキちゃん」

 

目の前にいるのは二度と会えないはずの顔。

いや、ここならばそれにふさわしいのかな。

 

「ママ……?」

「やーよく頑張ったねえ。ママびっくりしたよー」

 

私は何もかも放り捨ててママの懐に飛び込んだ。

 

「ママァ! わたしがんばったよぉぉぉ! あいたかったあああ!! うわーん!」

 

ママは私の頭を優しく撫でてくれた。

私はしばらくびーびー泣いてたとおもう。

 

「立派なロックンローラーになったねえ。私が立派に思うくらい、君はやり遂げたんだよー」

「うええええん! いっぱいがんばったよぉぉぉぉ!」

「よしよしー、がんばったねえ。おつかれさま」

「わたし! ママにひどいことして! でもいっぱいはなしたいことあってぇ!」

「うんうん、ゆっくりで大丈夫だから」

「うわーん!」

 

ママは私が落ち着くまで優しく背中を撫でてくれていた。

それから、私はママといっぱい話をした。

ママは笑ってうんうん、と聞いてくれた。うれしかった。

それで一通り話すと、ママは鬼殺しを一口飲んでこう言った。

 

「いやー、イブキちゃんが色んな人にお世話になって、友達もいっぱいできてママ安心だなー」

「そうかな……」

「今ならあっちに戻れるよー。私といくならこっちの船ね」

 

ママが指さした戻りの船の向こうからミスラやユノ、アダマスにファンの鑑の声。

あっちでは救命措置されてる感じだろうか?

 

「え、戻れるの……?」

「今ならねー。ゆっくり考えなよ」

「ママ、鬼殺しもらえる?」

「いいよ」

 

私はママから鬼殺しを一パックわけてもらうと一口飲んだ。

 

「ママ、私は……」

 

ママは、私の答えを聞いていつものように困ったような顔で笑った。

 

 

戦争終結から数十年後、人類世界は繁栄を謳歌していた。

これはミッドユーロの田舎で、今や猟師の亜種扱いになった冒険者たちの会話だ。

 

「お前、ヤマダイブキって知ってるか?」

 

中年の魔法使いは助手席の若い戦士に尋ねた。

青空の下で揺れる魔鉱車の運転中の話である。

 

「もう随分前に死んだ伝説的な吟遊詩人だろ?」

「お前、俺が昔イブキに出会ったって言ったら信じるか?」

「いやあ……あんたは信じるけど、その人は絶対昔の人の名前を騙る怪しい人だよ……」

「それでも、ひと夏ルート61号線にあの人は確かにいたんだ。それに、ヤマダイブキの名を名乗ってヤマダイブキみたいな言動をする人がいたなら、それはもうイブキの精神は生きてるんだ」

 

中年の冒険者はミラーで後部座席のギターを見た。

黒地に炎模様のSGタイプ。今やよくある「イブキモデル」だ。

 

「それがそのギターなの?」

「ああ。お前がベースやってくれればバンドが組めるな。ダチがドラムをやってるからな」

「いやだよぉ……」

 

若い戦士は目をしょぼしょぼさせて嫌がった。

 

「昔、あの人は言ったんだ。『これは私の命よりも大切なものだけど、少年にあげるよ』って」

「悪い大人だぁ……」

「それからこうも言った『乗りたい風に乗れないのはノロマっていうんだよ少年。人生は短いんだ。今を生きろ』ってな」

「あー……それであんなにあっさりパーティーに入ってくれたのか」

「まあな。二度もノロマになりたくなかったんだ」

 

中年男は車についた大容量レコードを起動させる。

イブキたちの曲が、すこしざらついて流れた。

それは夏の空に実にふさわしかった。

 

「……古いけど、良い曲だな」

「そうだろ? 最高だよ」

 

曲名は『この手にある未来。それは迷うことができる自由』。

軽快なギターの音と共に懐かしい、古臭いロックの音が田舎道に響いた。

音楽は、今日も鳴っている。

 

この冒険者たちは、のちに伝説と呼ばれるがそれはまた別のお話。

 

それから百年の後。

 

「これがこのギターにまつわる私の知るすべて。長い昔話だったでしょ?」

「いえ、貴重なお話でした。ミスラCEO」

 

ミスラは壁に飾られた傷だらけの黒い炎模様のギターをそっと撫でて微笑んだ。

インタビュアーはメモを取る手を止めて、ふたたび尋ねた。

 

「あなたがイブキやセレナの理想を体現したものだと私は感じました。それについてはどう思われますか?」

「え?なにそれ。知らないわ……どういうこと?」

「え?それはですね……」

 

インタビュアーの若い鬼族は背筋を正し、敬意をこめて言った。

 

「彼女たちは、それぞれが理想とする『人間らしい自由』や『獣としてただ在ること』を追い求めました。しかし、結果としてその理想をもっとも自然な形で体現していたのは、あなたではないかと……」

 

ミスラはしばらくぽかんとして白い天井材のマーブル模様を見た。

たしかに、私はちょっと人間臭いかもしれない。

意識してなかったから、ごく自然にやってたかも。

理解が追いつき、驚いた表情をして、うへえ、と溜息を吐くと。

 

「え?あれ?あ~……まあ、うん、そうなるわね。でも別にそんな気はなかったのよ。私はただ、普通にゲームがあったりどこでもコーラくらいは飲める世界がよかっただけよ。あなたもそうでしょ?今日からキャラメルフラペチーノすら飲めませ~んなんて嫌でしょ?」

「え、ええ……それは、まあ……」

 

歴史は、それを望んだ者にではなく、意図しない者の手で形を成す。

 

ミスラは少しだけ誇らしげに窓の外を見た。

そこには星のようにキラキラと立ち並ぶ摩天楼、ガッデムの夜景。

 

——だが、その窓ガラスに映った自分の顔を、ミスラはほんの一瞬だけ見つめた。

……イブキなら、どう言ったかしら?

いいえ、何も問題はない。何も変わらない。そのはず。

彼女にはまだ休養が必要なのだから。私たちが頑張らないと。

イブキが不死になり、今も生きているのは絶対に漏らしてはいけない秘密だから。

夜景は、ただ美しく輝き続けていた——。

 

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