久々に若い子と話せるせいで、夜明け前から飯作っちまったよ。
丸太づくりの広めのバンガローに似合うクロックムッシュだ。
ハムとチーズから作ったんだぜ?まあパンは魔法でなんとかしたけど。
「あれ……イブキさん、ですか……?」
兎耳の女の子が出てきた。目の周りが赤くて昨日は泣いたんだろうなとわかる。
でもまあ、表情はわりとしっかりしてるからなんとかなるだろ。
「いやー、人に料理作るの久しぶりだからさ。つい調子に乗っちゃってな。ババアは朝が早いんだよ」
「……私と同じくらいの見た目じゃないですか。不老不死って本当だったんですね」
見た目は人間換算で17、8くらいから止まってるからなあ。
チビなのも相まって、よけい子供に見えるらしいわ。
「……残念ながらな。私が山田イブキだよ。お前は?」
「天戯ラヴィニアです。ラビでいいです。角付きの赤い髪のほうが田村オルフェ。金髪の小さい子はアダムって呼んでます」
「そっか、よろしくな」
「はい……それで」
そこに赤髪の青年と金髪の少年が起きてきた。
「うおっすげっ!なにこれフルコース?」
「胃に負担がかかる」
まあ……木のテーブルの上にぷかぷか浮かぶ星空色のドリンクとか、皿の上で動くスライム状のなんかとかの中に普通の料理も入ってる感じだからな。
バアルの料理魔法も覚えたんだよ。あいつもいいやつだったな……
「そこはお前らアレだよ。私は薬学の専門家だからな。それに……私の国には料理魔法の使い手だっていたんだ。医食同源だよ。胃腸を癒す薬膳料理だ」
ラビはため息をついてさっそく椅子に座った。オルフェとアダムがそれに続く。
「じゃあこれ食べてもおなかは荒れないんですね?」
「そうだよ。まずはドリンクからいきなー」
私も椅子に座って、ちょいと手を動かすと一瞬で三人の前にコップが『錬金』され、そこに渦巻き銀河みたいになってるドリンクがすうっと入る。
「なんですこれ……」
「『夜明けの一杯』って名前だったかな。飯食ってなくて荒れた胃にいいやつだよ。ぐっと飲みなー」
バアルとかクロトが私が朝までのんでたら良く作ってくれたんだよねこれ。
ラビはためらっていたが、オルフェは我慢できなかったようにコップをつかんで一気に飲み干した。
「お、うめえ!すげえこれ味がどんどん変わってく!なんか……なんかうまく言えねえけどいろんな味がする!」
しぶしぶといった感じでラビとアダムが飲み始める。
「色も変わってる……赤みたいな黄色みたいな……」
「興味深い。体も楽になってきた」
私は窓の外を親指で指した。ちょうど、夜明けの空だ。
シェルターのある谷間に日が差し込む。群青から緑、赤、そして青に。
「窓見てみ。夜明けの空ってそんな色だよ」
「これが、空……本当に、外に出たんですね私たち」
「そうだよ。まあ食いな。それでだいぶ腹が治ったはずだから。何から食ってもいいよ」
ぱあっと三人の顔が明るくなった気がする。アダムは無表情のままだが。
「これ、どうやって食えばいいの……?」
オルフェがオムレツ色のスライムを前にナイフを危なっかしく構える。
「普通にこうやってフォークで切り分けられるよ」
「なんか……肉っぽいのになった……このサクサクした茶色いのとか、赤いの何?」
怖がってるのか驚いてるのかわかんねえなこれ。
でもいいリアクションだよオルフェ。
「肉はステーキで、サクサクしたのはカツ。赤いのはマグロのヅケだねー」
「まったく知らない料理だ……でもなんかおいしいよ」
そっか……シェルターの中そういう感じかあ……ごめんなあ……
「私はこのなんか豪華なパンで良いです」
「クロックムッシュだぞ」
クロックムッシュで豪華って基準かあ……そうかあ……
「へー……おいしいですね……本当においしい……ファナト、さんにも……」
やっぱ引きずるよな……でもマジで手遅れだったんだって!
それにさ、もう死なせてやれよ……あいつの人生も過酷だったからさ……
ほぼ私のせいなんだけど。
「ごめんな」
私はやっぱり、ママみたいな困った笑顔になってたと思う。
「そんな、そんな顔されたら何も言えないじゃないですか……」
オルフェが『生ハムの木』をわざと元気にモリモリ食べる。
「食おうぜ。ファナトさんだって、俺たちに生きろって言ってくれたんだから」
「はい……」
アダムは無言で料理を観察しながら食ってるわ。子供には楽しんでもらえたようでよかったよ。
「……後でさ、お墓作りたいんですよ。ファナトさんの。手伝って、くれますか?イブキさん」
オルフェが私をしっかり見て話す。良い目だ。芯があるねこいつは。
「それいつ言おうかと思ってたからちょうどよかったよ」
「そう、ですね……」
お通夜だよ空気が!しょうがねえわ……私の責任だからな。
☆
ファナトの遺体は土に深い穴掘っておろした。
そこに『花を生やす魔法』で近くの地面に無数の花を咲かせる。
ユノ……お前の魔法、役に立ってるよ……
「花をたむけてやってくれ……私は別に手向けるもんがある」
みんな無言で花を摘んでいく。
私は錬金で昔の衣装を作ってきなおして、髪をツインテールにまとめて。
ギターを。ママからもらったあのギターを作り出す。
「見てるか……お前のために、もう一曲作ったよ……聞いてくれ。私の、一番の!ファンの鑑!」
最初は静かなピアノの旋律から。これは振動魔法の応用だ。
天国に語り掛けるように。
『かけがえのない人が、歯が欠けるように減っていく。信じられないほど早く』
階段を一歩一歩進むようにギターが太い音を奏でる。
『お前じゃなかったらよかった、なんていうつもりはないけど』
力強く、天に届くように。流せない涙のように。
『お前が居ねえってわかってるのに、お前ならどうしたかなって、もう思ってる』
オルフェもラビも花を取り落として、大泣きに泣いてる。
それでいいんだ。お別れくらい思い切り泣いてやれ。
『お前の記憶を、私が未来に連れていく。だから、別れは言わねえ。お前は、私の胸の中にいる。皆の中にも』
おっかしいなあ……まだちょっと視界がにじむよ。おいファンの鑑ハンカチある?……いねえんだったよ。
『信じてくれ。お前の遺志は私が引き継ぐから。私たちは続いていく。続いていくんだ!』
最後は派手なギターリフで終わりだ。
景気良く、送り出せならいいんだけど。
二人ともびーびー泣いてるし、アダムもうつむいている。
私はしばらく気分が落ち着くバラードを奏でる。
二人とも、だいぶ落ち着いたようだ。
感情を操作できるって嫌だね……
「お花、入れましょう。全部」
「……そうだな」
私も一緒に花を手向けて、ゆっくりと穴を崩し、埋めていく。
そして、土魔法でクソデカい墓標を立ててやった。
『ファナト ヤマダイブキの第一のファン 希望を託し ここに眠る』
墓標にはそれだけ。
『葬儀』が終わり、ラビは私をまっすぐに見た。
「イブキさん。どうして……どうしてこれだけのことができるのに、ファナトさんを助けられなかったんですか……?」
来たよ~!でも絶対言われることだからな。今の方がいいわ。
「魔法でも、なんでもはできねえんだよ……!それに、無理やり生かすってメチャクチャきついんだよ……私も、あいつも、それを選ばなかった」
「それでも!生きててほしかった!私は!生きててほしかったんです……!」
「ごめんな、助けられなくて。それが全部なんだわ……そのことで責めるのはしゃあねえよ。それでも、私はあいつからお前らを頼まれたんだ」
私はなんとか言葉を絞り出す。
「お前が私を恨むのはいいけど、それでも生きてくれ……!それがあいつの遺志だからさ」
「……わかり、ました。なんとか……なんとか納得します」
「……ああ」
これでなんとかファナトへの『別れ』はすんだ。