「それでなんで私たちは牢屋に入れられてるんですか?」
ラビがジト目で私を睨む。
ここは牢屋。
コンクリ製の床に簡易ベッドが置かれてるだけの簡素なトラ箱だ。
私はベッドでコロコロしながら答えた。
「いやーごめんな?あいつの家は法律が適用されんの忘れてたわ」
「家って……ここ街じゃないすか?」
オルフェが椅子に座って監獄シチューを食べながら首をかしげる。
まあ……客観的に見たら街だね。
高層ビルが何百件と立ち並んで、周囲には農地が広がってる。
砂漠の中に現れるオアシス都市、ラスト・ベガス。
スターステイツにあった賭博都市ロスト・ベガスの模造品だ。
「家だよ。だってこの街にいる人、ほとんどロボットだもん」
「えっ!じゃああの何百人もいた警官全員ロボットですか!?」
すごかったよねカーチェイス。パレードみたいだったもん。
「たぶんね。魔力の感じからしてそう。いやーミスラすげえわ。とうとう完全自律型ロボット作っちゃったのな」
「ミスラって……『ストリングフリークス』のベースやってたあの『天秤』のミスラさんですか……?」
ラビが私の書いた本をパラパラめくってダブルピースしてるミスラの写真を見せる。
これはスロットでまれにみる大当たりしたときのやつだな……私が撮ったんだよこの写真。
「そうだよこいつだよ」
「ひえー……でもどうやって会うんですか?私たち牢屋ですけど」
「そりゃもう、私が本気で歌えばこの街くらい全部覆えるからね」
「やめましょう!もっと怒られますよ!」
ベッドの端っこですやすや寝てたアダムがパチッと目を開いた。
「誰か来る」
扉が開いて、ロボットの警官と共に鬼族の老人が入ってくる。
髪が真っ白で顔もしわしわだが、背筋や足取りはちゃんとしていた。
「面会だ」
パリッとしたスーツ姿は見覚えあるな……誰だっけ。
「お久しぶりですね、イブキ様」
「えーっと……ここまで出てるんだよ。うん。見覚えはあるんだよ。ごめんなーっ!」
老人は寂しそうに笑うと、魔法で布をバサッと出してスッと手でなでるとジャケットに仕立て直す。
「だいぶおくつろぎのお姿のようで……パリッとした衣装を仕立てましょうか?」
「あっ!お前クロトか!お針子の!ミスラのパシリの!」
「ミスラ様の『執事』クロトでございます」
年取りすぎだろ……鬼の老化速度から考えて中年くらいの年齢のはずだろコイツ。
完全に棺桶に片足突っ込んでるジジイになってるじゃん。
「おまっ……老けたなあ~!そっか。使っちゃったか『寿命』」
魔法の代償に寿命使うのもあるからな……私は踏み倒せてしまうからか、もう代償に寿命使えないんだけど。
「ええ、それだけの戦争でしたからね。あの最終戦争は」
「ごめんなぁ~、私がもうちょい頑張ってたら……」
「いいえ、あなたが国を離れて数百年。あなたが居なければ国を守れないならば、それは我々の怠慢というものです」
「そっか……ほんで出してくれるの牢屋」
クロトは警官に目くばせをすると簡単に鉄格子が開いた。
「ほんじゃ出よっか皆」
「あっはい……なんかイブキ様の知り合いというにはちゃんとしてる感じですね……」
「な、もっとこう……なあ?」
アダムまでうなずいてやんの。
「どういうイメージなんだよお前らの中の私は」
笑いながら牢屋を出ると、クロトがかつてのように私にスカジャンをかけてくれた。
「お連れの方は?」
「ああ、私が守ってたシェルターの生き残り」
「なるほど。では、ミスラ様の邸宅までご案内します」
「ミスラは?あいつ何してんの今。相変わらずパチンコ?」
クロトはいたずらっぽく薄く笑った。
「それはご自身で確認されたほうがよろしいかと」
☆
そこは聖堂のようだ。女が磔にされている。
正面の祭壇は機械だらけで、若い女の死体が埋め込まれていた。
ミスラが死体になって壁に埋め込まれてんだけどナニコレ……
「おい……ウソだろ。ウソと言ってくれよ……悪い冗談だよ、なあ……」
後ろでは『執事』クロトが沈痛な表情で淡々と告げる。
「ミスラ様は五十年ほど前にご自身をこの都市のサーバーそのものとされたのです」
「ふざけんなよ!!……ふざっけんなよ……」
気が付けばへたり込んでガン!ガン!と床を拳で打ち付けていた。
床にぽたりぽたりと涙がこぼれる。
鼻水まで出てくるし、言葉にできない感情で床を爪でえぐる。
「お前はそんな自分から死ぬタイプのキャラじゃないだろ……ふざけんなよオイ……」
後ろでキチキチとコードや歯車、基盤といった部品が組みあがるような音がしている。
何かラビたちが話しているけど、わからない。
「あれは」
「あの、あれ……」
アダムとラビが何か言いそうになって、クロトはしっ、と指を唇に立てて黙っているようにサインをして、かすかに笑った。
「なんでこうなるんだよぉ……もううんざりだ……!」
「あの、ねえ。ねえ」
肩を突かれて見上げた先には気まずそうな笑顔のミスラがいた。
手には『ドッキリ大成功』というプラカード。
「なんだよ……ちょっと一人にしてくれよミスラ……ミスラ!?ウソだろ!?」
「ど、ドッキリ大成功よ!はい笑顔笑顔!そもそも何一つウソ言ってないでしょ!?」
「オメーふざけんなよ!?びっくりさせやがってコラァ~!!」
たぶん私の顔はぐっちゃぐちゃの笑顔になってたと思う。
マジで死んだかと思っただろ!!
「ふっざけんなよ!?私は、私はさぁ……マジでさあ......!うわぁあ~ん!」
「こんなに驚かれるとかびっくりじゃない……」
三十分くらい泣いちゃったよ……
その間ミスラはずっと私の頭をなでていた。
懐かしかったな……
☆
まあそれから落ち着いた後、高層ビルの最上階展望レストランで私たちは飯を食ってた。
クロトがワイングラスに酒を注ぐ。
「前菜の焼きカプレーゼでございます。アペリティフはイブキ様には手前味噌ですが、ボゥニャック産の八百年物の赤ワインを」
「うめえ~!やっぱこれだよー。懐かしいなあ」
このワイン、安物だけどなんか美味かったんだよ。八百年熟成するとめちゃくちゃおいしくなるなあ。
「えっと、あの……結局どういうことなんです?ミスラ様は生きてるんですか?死んでるんですか?」
「どうもこうもないわよ。私は自分自身の肉体をサーバーに、精神を情報にしたのよ。あとはこの街のインフラでアバターとなる人形を作ればいいだけ」
「それって、機械の体になった……みたいなことなんすかね?」
「そうよ。この街そのものが一つの機械で私自身なの」
「お前思い切ったことしたなあ~」
私もたいがい人のこと言えない自己改造してるけど、とうとうコイツまで生身の体捨てちゃったか……
「まあ、私も思うところがあったってことよ」
「そっか、そうだな……」
しばらくしんみり料理を突きながらミスラはラビたち三人をフォークで指さした。お行儀悪いぞ。
「それよりそこの若い子たちは、えーっと、シェルターの生き残りだったわね。どうするのこれから先」
「それはその……ほかに人の住んでる街があればそこで働いてお世話になろうと思ってたんですが……」
「ロボットばっかりの街じゃな……俺たち住めるんですか?食事とか毎回こうやってもらうのも悪いし」
まあロボットの街と考えたら飯食えるの?って問題はあるよね。
「別にいいわよ?生身の人はまだ数百人くらいいるし。種の保全から考えてもあなたたちを養うのは損じゃないわ」
「そっか……それじゃここで世話になっちゃう?」
私が三人に尋ねると、ラビとオルフェは困惑の表情だ。
「あの、ほかの街はどうなってるんですか?というかあるんスか?」
「あ~、まあ気になるわよね……清華のほうはナールウェンがバンブーエルフを作ってるし、その上の北極圏はなんか……よくわからないやつらがいるわよ」
「ちょっと待ってバンブーエルフってなに」
「何って……黄金樹の代わりに竹から生まれて、タケノコから笹までパンダみたいにバリバリ食べて、竹で家から弓まで全部作るそういうエルフよ。ものすごく狂暴なの」
ちょっとエルフの既成概念壊れるな……何やってんのナールウェン!?
「それマジでナールウェンが作ったの?」
「マジらしいわよ。なんか……エルフには野生と闘争心が足りなかったとか言ってたわ」
「それで竹バリバリ食う方向に行くわけ?」
「私に言われても知らないわよ。ただあの人的にはそうだったんでしょうね」
「どうなってんだよあのバトルジャンキーロリババア……ほんじゃ、よくわからないやつらって?」
ミスラは魔法でさっと写真を紙ごと生成すると、投げてよこした。
うーわ何このグロい生物。
「ナニコレ。なんか……グロいな……植物と菌類が生き物の体にくっついてる……?冬虫夏草の一種か?」
「いいえ、それは融合してるの。それで一つの生き物として成立してるのよ。何かわからないけど、生態系ごと『融合』を特徴にした生き物たちが南下してくるのよ。鳥とかに交じって」
「なんかこう、融合しては離れて、どんどん好き勝手に変異しながら一つの生き物として生き続ける、みたいな生態系自体が侵攻してきてんのか……」
ほかの資料も見るけど、北の大地からなんかキモい生き物がどんどん来てるじゃん。
バンブーエルフがこのへんに現れてきてるのもそいつらから逃げてきたのか?
「とりあえずこのゴンドワナ大陸での情勢はそんなものね……ステイツの方はわからないわ」
秋津国のある東方ゴンドワナ大陸もステイツのある西方ローラシア大陸もひょうたん型というか真ん中くびれた砂時計みたいな形なんだよね。
ほんでその間にも大陸あって、この星の陸地ってサイコロの五みたいな形なんだわ。
「そっか……どうする?バンブーエルフの方も見てみる?」
「えっ!?この話の流れでバンブーエルフを見に行くんですかぁ!?」
ラビが驚いてる。まあ、普通に敵だからな今の所。
「見に行くだけならタダだろ。案外居心地良いかもだし。まあ最悪私がぶちのめすから」
「いや……俺は良いっス……」
「気にはなりますけど、ミスラさんに悪いですし……」
「私?私は良いわよ。別に二、三人増えようが減ろうがどっちでもいいし。それにお姉さまはそのうちまたふらっと帰ってくるでしょ」
信頼されている……まあ、たしかにそうだな。
「うーん、まあ。そうだな。そのうちまた帰ってくるけど」
どうしたもんかな~と考えてたら、ここで警報が鳴った。
クロトが静かに言う。
「ちょうど、今バンブーエルフの軍団がやってくるそうです。試しに見に行かれては?」
「そうね、ちょうどいいわ。お姉さま、なんとかいい感じに共存できるように交渉してきてくれない?あいつら理詰めじゃ話にならないのよ。いつもみたいに歌とペラ回しで何とかしてちょうだいよ」
マジか~……まあ、やるだけやってみようかな。どんなやつらか気になるし。
「ほんじゃとりあえず見にいこっか」
「マジすか!?今から戦うの!?」
「ほらまあ、せっかく訓練したんだしさ。ヤバそうならこの子ら守ってやってよミスラ」
「ええ、さすがに死なれたら寝覚めが悪いしね。いってらっしゃい」
まあ……そういうことになった。