グレートジャーニー   作:照喜名 是空

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おいでよ。バンブーエルフの竹林

「じゃあこれにサインして。文字が読めないなら読み上げるわ。あと謝って」

「嫌じゃあ~!殺せ~!」

 

ミスラが読み上げる契約書は一か月の停戦協定だった。

これが結ばれたらお互いに物理的に攻撃できない。

正直、いきなり喧嘩売ってきた奴にかなり良心的だと思うよ。

まあ、仮にこれ以上街を壊したらその分が魔力で容赦なく請求される一文も挟まってたけど。

 

「あなたを殺しても私に何の得もないじゃない。だからサインして。あと謝って」

「嫌じゃあ~!恥ずかしうて死にたい~!」

 

なんか……あんまり目の前で死ぬ死ぬ言われたら腹立ってきたな。

 

「お前いい加減にしろよ~?死んで借りを踏み倒そうなんて神が許しても私が許さねえからな?」

「な、何をする!?」

 

私が笑顔で顔をメンチ切ってやったらビビってて草なんだ。

そんなひでえ顔してた?

 

「歌だよ。歌手が何するかってそれしかないだろ。私の『本気』を見せてやるよ」

 

私は錬金でギターを出して思いっきり罪悪感を込めて歌う。

こいつにだけ音が届くように操作して。

 

『雪の朝も、日照りの昼も、花は咲きます。その中に私はいるから。だから泣かないで』

 

お前がどこに行こうと、お前の罪からは逃げられない。

 

『そんな顔しないで。あなたはいつだって俺らの輝く星でした。だから、もう一度だけ飛んで』

 

これは私の罪、私の業。そうだ、私が殺した。ママも、みんなも。

私は私のやったことから逃げられないし、逃げる気もない。

 

「こ、心が……潰れるっ……!」

「まだやるか!?反省したか!?」

「した!謝る!ご、ごめんなさい!」

「よし!ミスラ、どうする?」

 

ミスラがすげえ心配そうな顔で私を見てくるんだけど。

ちょっと音漏れてた?ごめんね?

 

「あ~……まあいいじゃない。じゃあサインして」

「う~!」

「もう一曲いっとく?」

「書くでごじゃる……」

 

カグヤが書いてる間に私はラビとオルフェを手招きした。

 

「ヘイ!それじゃ今からこいつの家行こうぜ!どうせ見学する予定だったじゃん!」

「ええ……今からですかぁ?」

 

ラビが露骨に嫌そうな顔してる。

オルフェはミリスと手錠をかけられた三下共を連れてきた。

竹林にこわごわって感じだなオルフェは。

 

「俺けっこう疲れたんすけど……」

「はい栄養剤。もうひと頑張りいこうよ」

 

瓶入りの栄養剤を錬金して投げて渡す。

 

「これ本当に大丈夫なやつっすか!?」

「全部合法だよ。すぐに影響はないから」

「すぐじゃなきゃ影響あるんすか」

「毎日飲むもんじゃないね」

 

オルフェは胡散臭そうに瓶を開けて飲んでいた。目がパチッとする。元気出たろ~?

 

「案外おいしいし、スゲエ効く!こわい!」

「死にゃしないから安心して?じゃあ行こうか!お前の家!」

 

サインし終えたカグヤは嫌そうな顔だ。まあそうだろうね。

 

「我の意思は……?」

「負けた側が言える義理か?もう一曲いく?そもそも聞いてる相手が嫌がる曲歌うの私も普通に嫌だからな?逆にすげえよお前。私にここまでさせるの何人もいねえよ」

「うう~っ……もてなしは期待するでない」

「酒あればいいよ。ってわけでミスラ!アダムの世話たのむわ!二、三日で戻ってくるから!」

 

ミスラはため息をついてしぶしぶって顔でうなずいた。

 

「普通に今のお姉さまが心配じゃない……明後日までに帰ってくるのね?」

「ああ、約束するよ。世話かけるなあ」

「ええ、約束よ。あの子はまあ……なんとかしとくわ」

「たのむわ」

 

なんか……めちゃくちゃ心配されてる。まあメンタルがなー。

でもこういうのって先延ばしにしても意味ねえし。

 

 

そういうわけでカグヤたちの前線基地のクソデカい竹林に来た。

竹が杉くらいぶっといし、そこら中に竹のツリーハウスがある。

ツリーハウス同士は竹の足場でつながってて……うーん面白いね。

 

「じゃあまあ、酒だして!飲もう!腹を割って話そう!」

「人の家でくつろぎすぎじゃないですかあ!?」

「案外涼しくて居心地良いっスけど、空気がそんなんじゃないっすよ!」

 

足元はタタミっぽい竹マットだし、壁も竹籠なんだよね。

お酌させてる幹部っぽいバンブーエルフは浅黒い肌に目元口元に赤の化粧してる。ダークエルフっぽい。

まあアオザイみたいなゆったりした着物着てるけど。

やっぱ清華っぽい文化圏なんだね。

何があったんだよナールウェンに。なんで清華にハマってんだよ。

 

「当たり前アル!このバカが突っ走ったせいであっという間に戦争終わったアル!」

「我は恥ずかしい……!」

 

お前は態度以前に服装から考え直せ。お前だけじゃんほぼ全裸は。

 

「まあ呑めって!はいこれ我が国のお酒。鬼殺しver.8.5!大丈夫!これは混ぜ物なくって安全なやつだから」

「うーん、仕方ないアル……モッハイパーヨー!」

「おっ、南国の乾杯じゃん。はいカンパーイ。いけるじゃん!うまいじゃん竹酒!」

 

なんか、竹の中に木の実をぶち込んで発酵させてるんだよねこれ。

さっぱりした味わいに竹の香り、そんでもって以外に度数高いわ。

 

「キッツい酒アル~……」

「いいだろ?これがあっという間にキマるから酒カスにはいいんだ。はいモッチャム・ファンチャム!コンサイヴェ!」

「なんで私たちの言葉知ってるアルか……」

「だって世界中の酒場でのんだから。それはそれとして、この竹のお酒うまいね」

 

竹筒を切って飲むのも風情あっていいよ。

 

「あの……そういう勧め方ってよくないとおもうんすけど……」

 

オルフェがたしなめてくる。

まあ……ステイツみたいな絡み方したらダメだな、と思いなおした。

仮にも敵国だし……

 

「あ~うん。ごめん。じゃあ話そっか。あとなんかツマミもってきて」

「だからなんで人の家でそんなにくつろげるんですかぁ……」

 

お行儀良くしてもなんも面白くねえからだよ。

そういうラビはちまちま木の実食べてる。

最近の若い子はお行儀良いなあ。

本当にいい子たちなので、なんとか住む場所を見つけてあげたい……

 

「アイアイ、お客人にタケノコもってくるアル!」

「タケノコの刺身かあ……渋いの持ってくるね」

「お客人はバンブーエルフじゃないアルからね。竹はくえないアル?」

 

そういうと黒い肌のバンブーエルフ……

えーっとシュエンて名前のやつだ。

シュエンは懐から指くらいの太さの竹を取り出して生でバキバキ食う。

バンブーエルフって私と同じくらいギザ歯だな全員……

 

「ね?お客人には無理アル」

「そういわれると食いたくなるよね。鬼を舐めるなよ」

「やめましょう!やめましょうよイブキさん!そんなことで張り合っても仕方ないじゃないですか!」

 

ラビが止めてくるけど、シュエンから受け取った竹はもう食っちまった。

なんていうのかな、香料?味噌?みたいなんが塗ってあって案外おいしかったよ。

魔族だった鬼は、人食いだからな。

竹ってちょうど人骨くらいの硬さなんだよ。

嫌なこと思い出したな……

 

「おー、食えるアルね。じゃあそっちの若そうなのも……」

「無理です!この人は私たちの所で一番おかしな人なんですよ!」

「ハッハッハ!じゃあおこちゃまはタケノコくうアル」

「納得いかないですけど、はい……」

 

タケノコ以外のツマミは焼きキノコとイノシシ肉か。

うーん、素朴な味だね。良く言って素材の味だ。

まあ、おいしいけど。じゃあまあ場もあったまってきたし……

 

「じゃあ腹割って話そう。……なんで攻めてきたの?」

「いやだって死合いしたいアルし。おなじ村同士で殺し合いは嫌アルし」

「あーうん、それで人ん家に攻めてくるわけな。血に飢えてるなー!」

「力を!見せたいネ!あと普通に機械文明はキモいアル」

 

あー、エルフ原理主義か。

エルフの中のガチの人って鉄とか工業製品嫌がるんだよね。

だいぶ偏った教育してるなナールウェン。

 

「あー……機械と街が森を壊すんだー的なやつ?言うよねエルフは」

「私たち、歴史から学んだネ。やっぱり軟弱な機械と街はよくないアル!あと街を放置してたら森が壊れるアル!」

 

これもよく聞いたなあ……これはこれでバカじゃねえの?と思うけど。

 

「一応聞くけど里山じゃダメなの」

「さと…やま?」

 

知らない感じかー!じゃあ付け入るスキはあるな。

 

「いや、なんていうかこう……街と森の境目に人がある程度手入れする森を作るんだよ。人の手が入ることで木も元気に育つし、だから動物も街まで降りてこない。森が豊かになるから。知らない?」

「ムーム……知らないアルね。でもウソある!そういううまい話は絶対ウソある!」

 

まあその警戒心は正しいよ。人間は結局何も管理できなかったからな。

管理体制を作るのはできるけど、社会自体を何世紀も維持できねえんだ。

ちゃんとした人が管理してるうちはうまく行くんだけどね。

 

「まあ……管理してるやつがサボったら終わるけど……でもミスラはどうせあと千年以上生きる感じだし、あいつは絶対に契約守るよ。私と違って」

「うーん……まあ、考えてはおくアル」

「いやマジだよ。鬼とか魔族にとって、魔法は生きがいで、あいつの魔法は契約だから。契約自体が好きなんだよあいつ。だからあいつは自分の約束は絶対守る。私らにとって自分の魔法に背くのは生き恥だからね」

 

私が音楽を悪用してるのはアレだ。音楽は人を喜ばすものだと思うけど、魔法は基本は人を殺す武器だからだ。

音楽魔法は多面性があるんだよ。面倒なことに。だからブレるんだよねいろいろ。

自己嫌悪してしまう~!

 

「音楽で人を惑わすのは正しい在り方ネ?」

「音楽は人を喜ばすものであるべきだけど、実際問題としてバトルソングに使われるし、そもそも魔法は武器だからな」

「なら契約だって人を騙すものネ!信じられないアル!」

「お前らが言ってあいつが納得したならあいつは約束守るよ。そういうやつだ。それともあいつをマジにさせて竹全部枯らす?」

 

空気冷えちゃった。

 

「話変えよっか。まあそこはミスラと交渉してくれよ。あのアレ……なんかぐちゃぐちゃなキメラ生物、アレ何?」

「あー……アレね。アレは『花の民』言ってたね。強くてキモい連中よ。私たちは、アレから母様を逃がすためにもこの国は確保したいのネ」

「別にお前らが隣で勝手に住む分にはミスラもなんも言わねえよ。たぶん。攻め込むなって言うんだよ」

「えー、でも挨拶としてまず戦うのは大事アルし」

「それで負けてちゃ世話ないねー」

「調子に乗ってるアルぅ~……」

 

まあそんなこんなで言うべきことは言って宴たけなわですし……って感じで泊まる?帰る?って話になった。

 

「あー……ぶぶづけアル」

「だからなんでそんな混ぜこぜにこのへんの文化しってんだよ!あ~、どうする?帰る?」

「帰りましょうよ!よくわかりました……正直ここで生きていける気がしないです。機械都市がどれだけいい所かわかりました……」

「もう眠いっす……アダムも気になるし帰ろうよぉ……」

 

そういうことになった。

そうか、お前らにも帰るべき家になったんだなミスラの家は……

ちなみに、帰り際に振りかえると塩撒かれてた。

だからなんで知ってんだよ!

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